企業の収益性は人材によって支えられています。ですから人材育成は本来、企業経営においてもっとも戦略的に考えるべき項目のひとつです。しかし経費削減を推進するとき、人材育成に関するコストはしばしば削られる候補にあがってしまいます。では育成の質を下げずに効果的なコストダウンを図るには、どのような方法があるのでしょうか。
本記事では投資効果に着目した人材育成計画の策定と、育成効果を計る指標としてROIを用いるメリット、効果的なコスト削減について解説します。
人材育成に関するコストを考えるとき、育成費用を「経費」ととらえるか「投資」ととらえるかで扱い方が変わってきます。人事マネジメントに注力する企業ほど人材育成を「投資」ととらえていますが、この2つの考え方にはどのような違いがあるでしょうか。
人材育成コストを経費ととらえた場合、削減すべき対象として「少なければ少ないほどよい」という思考に陥りがちです。育成費用削減を推進した結果、教育の質が低下することになりかねません。教育の質が低下して有望な社員が育たなくなることは、長期的な企業経営にとってマイナスになってしまいます。人材育成を経費ととらえることには落とし穴があるということです。
それに対し、投資とは将来利益を得るために資金を投じることです。新しいスタッフを教育して将来的に企業へ「リターン」をもたらす人材へと成長させることが、投資としての人材育成といえます。「リターン」は売上や利益といった数字だけでなく、スキル、ナレッジ(知見や知恵)、リーダーシップなど、企業にとって価値のあるものも含まれます。損をしようとして投資する組織はありませんので、人材育成を投資ととらえる場合は必ずリターンを回収することが目的となります。そして投資した分を回収するためには、計画の内容と進捗や成否を計測する指標が必要です。
つまり人材育成を投資ととらえるか経費ととらえるかの違いは、「投資を回収する目的」と「計画」そして「指標」があるかどうか、といえます。そして、この人材育成計画の成否を計測する指標にはROIが適しています。
ROIとはReturn on Investmentの略であり、利益を投下資本で割ることで算出されます。
【ROIの計算式】
ROI=利益÷投資資本×100
ROIは一般的に「投資対効果」「費用対効果」「投資収益率」と呼ばれる指標で、%の単位で表します。利益を投じた資金で割り、100%を超えていれば「儲け」がでたということで投資は成功、100%を下回れば失敗となります。
ROIを計測するためには、前述したように「投下資本」と「利益」を算出する必要があります。投下資本は研修費用や育成にかかった人件費、教材費、講師のアウトソーシング費用などで割り出すことができますが、利益は計測が難しい項目です。なぜなら売上などの数字だけが企業にとっての利益とは限らないためです。個人が得た知識やスキル、仕事に対する姿勢、視野の広がりなども、広い意味でいえば「利益」といえます。
ROIの計画を作るとき、担当者は広義の利益を定量化し、できるだけ数値に置き換えることが重要です。たとえば訪問件数やプレゼン回数、モチベーション指数や満足度などを目標数値に取り入れることで、見えにくい事項を計測することができます。
企業がROIを人材育成計画に用いる際に得られるメリットは、大きく分けて3つあります。
経営陣からすると、人事や教育を担当する部署の評価は基準が少なく頭を悩ませるポイントです。しかし人材育成に目標数値が設けられていれば進捗率や達成率によって評価しやすくなります。
企業にとって望ましい人材とは、必要なスキルやノウハウを持っている人材といえます。これらの能力を目標として設定することで新人スタッフの能力が均質化されるため、効率的な育成が可能になるのです。
目標数値と現状が見える化されることで、人材育成計画の進捗を把握できます。誰がどれだけの成果をあげているのかが分かれば、育成手段の改善案も生まれやすくなります。
人材育成における「投下資本」を見直すこともROIの数値向上につながります。冒頭に述べたような単純な経費削減ではなく、あくまでも非効率的な投資を減らすことが重要です。では人材育成における投下資本を効果的に削減するためには、具体的にどのような項目を見直すべきなのでしょうか。
ひとつの場所に社員を集めておこなう集合研修は、実施場所のレンタル費用や移動、宿泊費用、教える側の人件費など多くの経費がかかります。集合研修を廃止して代替となるクラウドサービスやオンライン会議を利用することで、コストダウンを図れる可能性があります。
覚えるべき業務に関するワークフローや見本の動画を作成し、マニュアルとして活用することで大きなコスト削減につなげた企業もあります。動画は直感的に理解しやすく、また一度作成してしまえばたくさんの従業員に対する教科書として利用できるため実用的です。動画マニュアル作成サービスのshouinは、従業員ごとの動画閲覧状況を確認できるため進捗管理にも適しています。
質の高い企業経営のためにも、人材育成コストは経費ではなく投資ととらえるべきです。人材育成という目に見えにくいリターンも、投資効果を示すROI(投資収益率)によって見える化できます。
ROIを人材育成の計画・管理に用いる場合は、目標を明確にして可能な限り数値に置き換えることが重要です。そうすれば、人事・教育部門の評価基準ができる、スキルの均質化が図れる、進捗管理が容易になるといったメリットが得られるでしょう。
また、効率的な人材育成にはコスト削減も必要です。集合研修の廃止や動画マニュアルの活用など、削減効果の大きいものから改善していってください。この機会に投資としての人材育成を考えてみてはいかがでしょうか。