リモートワークの導入率増加に伴い、広く普及したeラーニング。人材育成の効率化に役立つとして、いま多くの企業が社員研修に活用しています。
今回は、そんなeラーニング研修について詳しく解説します。近年のトレンドやシステムの選び方、運用のコツなど幅広くご紹介していますので、eラーニングの導入を検討されている方はぜひお役立てください。
社員研修は、組織内の「人材育成」を目的に実施されますが、スキルやノウハウの習得に限りません。主に、以下のような目的があります。
社員研修では、日常では得られない情報を得ることができます。ほかの研修参加者の発言やディスカッションを通して、普段抱えている悩み・課題を解決する糸口が見つかるケースも珍しくありません。普段関わらない社員と関わり、情報交換できるのは、研修を実施する大きなメリットです。
こういったコミュニケーションの場があることで、社員のチームワーク向上も見込めます。複数の部署の社員が参加する研修であれば、部署の垣根を超えた人間関係の構築も可能です。最終的に、企業の団結力強化につながるでしょう。
また、研修は社員が自身を振り返る機会でもあります。日常業務から離れることで、改めて自分を客観視できるのです。課題や強みを再認識することによる、さらなる成長も期待できます。
企業の成長に欠かせない「従業員の成長」という重大な役割を担っていることから、社員研修の実施はすべての企業において必要不可欠なのです。
近年の社員研修は、大きく分けて「集合研修」「オンライン研修」「eラーニング」の3種類。なかでも注目を浴びているのがeラーニングです。
eラーニングを用いた社員研修は、動画やテキストなどのデジタルコンテンツを配信し、デジタルデバイスを使って社員に学んでもらうスタイルのことをいいます。新人向けの基礎知識、スキルアップ、コンプライアンスなど、取り扱うテーマはさまざまです。
eラーニングのみで実施するときもあれば、集合研修やオンライン研修と組み合わせて行う場合もあります。例えば店舗型ビジネスでは、eラーニングで業務知識を習得させ、その後OJTを行う、といった流れです。
eラーニングについて、詳しくは以下の記事にて解説しています。
■参考記事はこちら
eラーニングとは?メリット・デメリットから企業研修での効果的な活用方法までわかりやすく解説!
デジタル技術の発展とともに、eラーニングも日々進化し続けています。それだけでなく、活用方法にも変化が訪れています。
現在のeラーニングはどのような状況なのか、そして今後どのように活用されていくのか動向を見ていきましょう。
引用:「中小企業における人材育成とオンライン研修に関する調査報告書」eラーニング戦略研究所
eラーニング戦略研究所が2021年に調査を行ったところ、eラーニングを導入していると答えた企業の割合は約34%となりました。「未導入/非検討」の企業が約38%占めているものの、検討中の企業を含め、半数以上がeラーニング導入に対し前向きなようです。
引用:「eラーニング市場に関する調査を実施(2023年)」株式会社矢野経済研究所
また、株式会社矢野経済研究所は、2023年4月eラーニング市場に関する調査報告を行いました。その調査結果を見てみると、2019年時点で約680億円だった「BtoB(法人向け)」のeラーニング市場規模が、2022年には約1,075億円にまで拡大していることがわかります。
このことから、eラーニングを導入する企業、eラーニングにコストをかける企業は着実に増えているといえます。
引用:「中小企業における人材育成とオンライン研修に関する調査報告書」eラーニング戦略研究所
業種別に見てみると、eラーニングの導入は、特に製造業や医療福祉業で進んでいることがわかります。卸小売業やサービス業では比較的少ないですが、導入検討中と答えた企業もいるため、今後は増えていくと予想されるでしょう。
新型コロナウイルス発生時、感染予防のため多くの企業が集合研修の実施を控えました。その影響で一気に広まったeラーニングですが、世の中が落ち着いた今も継続して利用されています。
その理由として、eラーニングに対しポジティブな意見を持つ企業が多いことが挙げられます。
引用:「国内企業360社対象 eラーニングに関する実施状況調査」株式会社日本能率協会マネジメントセンター
上記調査にて、eラーニングを導入するメリットとして最も多かった回答は、「多数の社員の同時教育が可能である」ことでした。eラーニングは、教育時間および指導者の確保に悩む企業の助け舟となっているようです。
そのほか、手軽さやコストパフォーマンスの良さなども、eラーニングに対する前向きな意見として挙げられています。
引用:「中小企業における人材育成とオンライン研修に関する調査報告書」eラーニング戦略研究所
一方で、eラーニングに対する否定的な意見が存在するのも事実です。上記調査結果を見てみると、費用や使用感に対し不安を抱く企業が多いことがわかります。
どの研修形態にも、メリット・デメリットがあるもの。eラーニングをポジティブにとらえる企業と、ネガティブにとらえる企業、両方存在するのは当然ともいえます。
しかし、最近はこのような悩み・不安を解消するようなサービスも開発されています。そのため、今後eラーニングに対し肯定的な意見を持つ企業が増える可能性は、十分にあるといえるでしょう。
また、最近は定額制の「サブスクリプション型」も注目を浴びています。月に一度、もしくは年に一度料金を支払い、サービスを利用するというものです。なかには、作成済みのコンテンツを無制限で閲覧・利用できるといったサービスを提供する企業もあります。
eラーニングの活用方法として、新たに「マイクロラーニング」と呼ばれる手法も誕生しました。5~10分ほどの短い時間で、スマートフォンやタブレットを使って学習するものです。隙間時間で手軽に学べる、頻繁にコンテンツをアップデートできるなどのメリットがあります。
さらに、対面研修での電子マニュアルとしてeラーニングを活用するといった方法も。以前は、eラーニングは「集合研修の代わり」という立ち位置が一般的でしたが、近年はeラーニングとほかの研修形態との境界線が薄れつつあるようです。
2022年10月、「Kenneth Research」は世界のオンライン教育市場の見通しに関する調査レポートを発表しました。そのレポートでは、2019年から2027年にかけて、オンライン教育市場の成長率は12.68%を記録すると予想されています。
引用:「ポストコロナ時代の企業研修に関する調査報告書 ~社員側・企業側から見た課題と今後求められる研修のあり方~」eラーニング戦略研究所
また、eラーニング戦略研究所が行った調査によると、ハイブリッドラーニングを継続したいと考えている企業の割合は96.9%。多くの企業が、今後もオンラインを活用した研修を実施していきたいと考えているようです。
ただし、「ハイブリッドラーニングを継続するがやや集合の比率を高める」という答えが33.3%を占めています。「ややオンラインの比率を高める」という回答の割合を上回る結果に。
このことを踏まえると、社員研修をすべてeラーニングで行う、といった極端な変化は起こりにくいと考えられます。今後もeラーニング研修は、ほかの研修手法と組み合わせる形で活用されていくでしょう。
そして、企業は「誰に」「何を」「どのような方法で」教育していくのかを適切に見極め、研修手法をうまく使い分けることが求められていくでしょう。
eラーニングを自社に導入すべきか判断するには、メリットを理解しておく必要があります。以下の5つのメリットについて詳しく見ていきましょう。
引用:「中小企業における人材育成とオンライン研修に関する調査報告書」eラーニング戦略研究所
上記のグラフにもあるように、社員教育の属人化は、多くの企業にとっての課題です。教える内容や教育の質にバラツキがあると、社員の成長に差がついてしまいます。
eラーニング研修は、教育内容を統一できるのがメリット。アルバイト社員や派遣社員を含めた全社員に向けて、全国どこでも同じ質、同じ内容の教育を受けさせることができます。
コンプライアンス研修など、すべての社員に同じ知識を身につけてもらいたいとき、特に役立つでしょう。
先ほどの「eラーニング戦略研究所」の調査結果にも表れているように、「忙しくて教育に手が回らない」と悩む企業が少なくありません。eラーニングは、その問題を解決するのにも有効です。
eラーニングは、学習コンテンツを配信するだけで、大人数をいっぺんに教育できます。グループ会社も含めた全社員を対象に教育することも可能です。何度も研修会場を確保したり、教材を用意したりといった準備も不要で、研修担当者の負担を軽減できます。
またOJTのように、教育担当者が指導時間に縛られることもありません。eラーニングシステムを使って復習できるため、指導者が何度も教え直すことも不要です。
教育担当者の確保が難しい職場では、特にeラーニング研修が重宝するでしょう。
eラーニングは、集合研修やOJTの予習・復習にも活用できます。事前に知識を身につけた状態で研修に参加できるため、内容が理解しやすくなります。そして、参加後もeラーニングで振り返りを行うことで、学んだことへの理解がさらに深まります。
知識が定着するまで繰り返し学習できるため、学習効果の向上が期待できるのです。また、自分のペースで学べることから、よくある「研修についていけない」という悩みの解消にもつながるでしょう。
大人数に向けて情報を発信できるeラーニングは、研修会場のレンタル料や、教材の印刷費などのコストがかかりません。参加者の移動費や宿泊費も不要です。
また、教育担当者の労働コスト削減も期待できます。初期費用やサービス利用料などはかかりますが、総合的に見ると、ほかの研修形態よりも安く済む可能性があります。
学習の進捗管理ができるのも、デジタルツールを使うメリットといえます。誰が何をどこまで学んだのかをデータ化し、管理することで、計画的な人材育成が可能になるのです。学習の質が標準化できるので現場の生産性も高まります。
また、社員も自分の能力が可視化されることで、強みと弱みが明確になり、モチベーションがアップします。このように、eラーニング研修は企業と社員の双方にメリットをもたらすのです。
利用するサービスや状況によって順番が前後する場合もありますが、eラーニングの導入は、一般的に以下のような流れで行われます。詳しく見ていきましょう。
eラーニングの導入が、必ずしも自社にとって有効とは限りません。社員に学ばせたい内容や、企業の状況に適していなければ、コストが無駄になってしまいます。
そのため、はじめにニーズ分析を行うことが大切です。
などを調査し、eラーニングが本当に自社に適しているか判断しましょう。
どの手法においても共通していえることですが、「目的・目標の明確化」はeラーニング研修を実施するうえで重要です。なぜeラーニングが必要で、どのように活用するのかを明確にすることで、選ぶべきサービスや研修内容が定まります。
また、経営陣と交渉する際にも、明確な目的・目標が必要です。eラーニング導入に受諾してもらい、予算を確保するため、ハッキリと決めておきましょう。
次に、いつからいつまでに導入準備を行うのか決めます。導入計画は、サービスを選定するうえでも重要です。
例えば、準備期間に余裕がある場合は、自社で教材を作成するタイプのeラーニングサービスを選ぶことができます。反対に、スピーディーに運用を始めたいなら、教材を作成する必要のないサービスを選ぶべきでしょう。
このように、利用するサービスの選択肢が変わってくるので、予め計画を練っておくことが大切です。
eラーニング研修を行う際は、Learning Management System(以下LMS)と呼ばれるサービスを利用するのが一般的です。
LMSには、大きく分けて2種類あります。1つは、自社内にサーバーを構築する「オンプレミス型」です。初期費用が高額になりやすいなどのデメリットはありますが、システムやコンテンツをカスタマイズしやすいのが魅力です。
もう1つは、サービス提供会社のサーバーを利用する「クラウド型」です。システムやコンテンツのカスタマイズが難しい半面、比較的低コスト、かつスピーディーにeラーニングを導入できます。
のちに解説する「eラーニング研修システムの選定ポイント」も参考に、自社に適したサービスを選びましょう。
自社で教材を作成するタイプのサービスを選んだ際は、ここで教材の準備を行います。例えば、動画コンテンツを配信する場合、動画撮影および編集が必要です。
コンテンツを作成する時間・スキルがない場合は、オーダーメイドしたり、コンテンツを購入したりする方法もあります。いずれの方法でも教材の準備には時間がかかるため、期間を長めに確保しておくと良いでしょう。
準備が整ったら試験運用を行います。その後、改善・修正を行い、本格的に運用を開始します。
運用スタート後も、何かとエラーが起きるものです。その際は、研修担当者が対処を行うため、担当者はデジタル知識・スキルを身につけておくべきでしょう。
ITスキルに長けた社員がいない場合は、eラーニング運用・導入のサポートを行っているサービス会社を利用するのもひとつの手です。
eラーニングを導入したものの、うまく活用できず悩む企業が少なくありません。具体的にどのような問題が起こるのでしょうか。よくある課題を把握し、対策を立てておきましょう。
eラーニング研修で注意したいのは、モチベーションの持続が難しい点です。集合研修の場合、講師や受講生が目の前にいるので、一定のモチベーションを保ったまま研修が受けられます。
しかしeラーニング研修の場合、「注意をする人が誰もいない」ということで気がゆるみやすいです。その結果、内容を理解せず受講報告のみ行う社員や、受講しない社員が出てくる可能性があります。
よって、モチベーションを維持する工夫が必要です。例として、以下のような対策が挙げられます。
アウトプットする機会を設けることが、受講者のモチベーションを維持するコツです。
集合研修の多くは、研修後にフォローアップが行われます。一方、eラーニング研修は社員が自分のペースで受講することから、研修が「投げっぱなし」になりやすいという課題があります。
どれほどわかりやすく有益なカリキュラムを用意しても、不明点・疑問点は出てくるもの。そのため、eラーニングでもフォローアップは必要です。
具体的には、進捗管理機能や理解度テスト機能などを使い、不明点がないか確認する方法が挙げられます。また、受講者の上司による観察やヒアリングも有効です。研修内容を業務に活かせるよう、eラーニングでもサポートを欠かさないようにしましょう。
オンライン研修やeラーニング研修を導入した企業のなかには、オフラインに戻したいという考えを示す企業もいます。その理由に、コミュニケーション不足が挙げられます。
このことから、eラーニング研修を行う際は、コミュニケーションを減らさない工夫が必要と考えられます。具体的な対策例として、以下のような取り組みが挙げられます。
コミュニケーション不足は、企業のチームワークおよび生産性低下を招きます。人間関係を構築できないことから、社員がeラーニングに対し不満を抱く可能性もあるため、会話する機会を積極的に設けましょう。
eラーニング研修システムを選ぶ際は、価格のほか、以下の3点を意識するのがポイントです。導入時・運用時のことをイメージしながら、受講者にとっても管理者にとっても使いやすいサービスを選びましょう。
操作が複雑なeラーニングは、社員に嫌がられる可能性があります。うまく使いこなせず、内容を理解できないといったことにもなりかねません。そのため、eラーニング研修システムを選ぶ際は「わかりやすさ」が重要です。
デジタルデバイスの扱いに慣れていない人でも操作できるものを選ぶと、社員に使ってもらいやすくなります。視覚的なわかりやすさはもちろん、「少しの操作で目的のコンテンツにたどり着ける」といったシンプルさも大切です。
また、管理者側が操作する部分も単純なものだとベスト。エラー発生時や、コンテンツを登録・アップデートするときなど、管理者がシステムを扱うシーンも多いからです。できれば、特別なスキルがなくても使えるものを選びましょう。
最近では、さまざまな内容のeラーニングシステムサービスが提供されています。選ぶ際は、「自社の目的を果たせるサービスか」を見極めることが大切です。
例えば、社員の成長のバラツキを防止したいのであれば、学習進捗管理機能が備わったものを選ぶべきでしょう。複雑な内容の知識を習得させたい場合は、チェックテスト機能があると便利です。
また、受講者の勤務先と本社が離れている場合は、チャット機能付きのサービスを選ぶと、コミュニケーション不足を防止できます。「便利さ」のみを優先するのではなく、自社の目的に合うか確認しながら選びましょう。
eラーニング導入時、特に躓きやすいのが教材作成です。スキルと経験がないと、なかなかスムーズに作成することができません。時間がかかるばかりか、コンテンツの完成度も下がってしまいます。
そのため、サービスを選ぶ際は「教材を作成する必要があるか」も確認することが大切です。コンテンツを作成できる社員がいない場合は、教材が用意されているサービスを選びましょう。
また、外部企業に発注したり、カスタマイズ可能な教材を購入したりする方法もあります。予算・期間を考慮しながら選びましょう。
eラーニング導入にかかる費用・時間を無駄にしないためには、以下の3点を意識するのがポイントです。詳しく見ていきましょう。
わかりやすいeラーニングシステムを選んだとしても、社員が使いこなせないことはよくあります。その対策として、eラーニングに関する研修・説明会の実施がおすすめです。
などを説明することで、効果的に使ってもらいやすくなります。その場で質疑応答も行うと、受講者はより安心して利用できるでしょう。
いつでも好きなタイミングで学べるのが、eラーニング研修の魅力。しかし、受講者のペースに任せきりにしてしまうと、社員の成長に差が出ます。
その解決策として、育成ロードマップの作成が挙げられます。「いつまでに何を習得し、どこまで成長する予定なのか」という道筋を示すことで、計画的な成長を促す狙いです。
育成ロードマップを作成したら、必ず本人と目標を共有します。そうすることで、eラーニング学習の遅れを防止できるほか、モチベーション維持にもつながるでしょう。
自社に適したeラーニングシステムを選んでも、企業の状況が変われば合わなくなることもあります。そのため、定期的にチェックおよび改善することが大切です。
特に、社員の入れ替わりがあったときや、人材育成方針が変わったときは、見直しが必須です。必要な知識・スキルがきちんと身につく研修かどうか、チェックしましょう。
組織内の人材育成、社員教育、社員研修は、オンラインで受けられる「最新の研修サービス」を利用しましょう。eラーニング研修であれば時間もコストも削減できるうえ、学習の理解度も深く「組織の生産性向上」が大いに期待できます!
eラーニングをうまく活用し、より効果的・効率的な社員研修の実現を目指しましょう。