業務の効率化、属人化の防止に欠かせない業務マニュアル。
人手不足のときこそマニュアルを活用したいところですが、日々業務に追われ、なかなかマニュアルの作成に時間を割けないのが実情です。
そこで注目を集めているのが「AI」の活用です。構成や文章の作成、動画の文字起こしなどをAIに任せることで、マニュアル作成の効率が格段にアップします。
本記事では、そんなAIを活用したマニュアルの作成方法について詳しく解説しています。AIにタスクを振るコツや注意点、無料で使えるツールなどもご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
AIの活用は、マニュアル作成にかかる時間とコストの削減につながります。とはいえ、具体的に何がどのように便利になるのか、いまいちイメージが湧かないという人も多いのではないでしょうか。
まずは「AIでマニュアルを作成する」とはどういうことなのか明らかにしていきましょう。
「生成AI」が誕生してから、AIの活躍の場は一気に広まりました。人間の言葉を理解する「自然言語処理」により、IT知識がない人でもAIを気軽に利用できるようになったのです。
コードや画像、動画の生成、データ分析、音声認識……と生成AIは実に多才。マニュアル作成で苦戦しがちな説明文の作成、図形の作成も自動で行ってくれます。
アウトラインのアイデアを提案するよう指示すれば、いちから構成を考える必要がなくなります。文字起こし、翻訳機能を使って動画マニュアルの作成を効率化することもできます。
また、既存マニュアルの分析、改善点の提示を頼むことも可能です。このように、AIができることは幅広く、マニュアル作成の効率化に大いに役立つでしょう。
マニュアル作成の効率化、標準化、クオリティの向上と、AIにはさまざまな良い効果が期待されます。具体的にどのようなメリットがあるのか、以下の3点について解説していきます。
AI活用における最大のメリットは、作業の自動化による時間短縮。人間が行うのは「指示出し」「チェック」「修正」だけで、間の作業はAIが行ってくれます。構成や文章、図の作成に長時間悩む必要がなくなるのです。
浮いた時間は、マニュアルが効果的に使われているか検証したり、従業員をサポートしたりする時間へと有効活用できます。より価値ある作業に時間をかけられることから、業務全体の生産性向上が期待できると言えます。
人の手でマニュアルを作成すると、どうしてもクオリティに差が出るものです。ルールや基準を設定しても、細かい部分まですべて統一するのは難しいでしょう。
一方、AIにはそのようなブレや認識のズレがありません。指示さえ統一すれば、作成者が誰であっても同じクオリティでマニュアルを作ることができるのです。
マニュアルを標準化するための研修を実施する必要もありません。作成者を育成する時間が短縮され、スピーディーにマニュアル作成に取り掛かることができます。作成、運用、改善のサイクルが早まることは、激動の時代と呼ばれる現代において大きなメリットと言えるでしょう。
全体のクオリティだけでなく、細かい用語やフォーマットの揺れも統一できます。人間が行うと細かなズレが生じるものですが、AIなら指示方法さえ統一すれば、すべてのマニュアルで揃えられます。
全社でマニュアルが統一されると、見た目が整うのはもちろん「読みやすさ」「わかりやすさ」もアップします。部署・部門を超えて誰でも理解しやすくなり、情報共有や人事異動の際の引継ぎが円滑化されるでしょう。
コンピューターの力を借りずに人間がマニュアルを作成する場合、ヒューマンエラーの発生は避けられないものです。その点、AIはミスをしません。言葉遣いや漢字のミスがなくなり、何度もチェックする時間も手間も省けます。
そのメリットを活かし、人が作成した文章や図をAIにチェックさせる、なんて使い方もできます。効率よく、ハイクオリティなマニュアルへと仕上げられるでしょう。
情報が古いマニュアルは”良いマニュアル”とは言えません。業務のクオリティが下がり、ときにはトラブルを招くことさえあります。
しかし、最新の情報を常に追い続け、マニュアルに反映させ続けることは簡単ではありません。そこでAIを導入することにより、新しい情報を入手しつつ作成するといったことが可能になります。AIが検索して情報を提供してくれるので、検索および情報整理の手間が省けるのです。
情報の検索・反映の時間が短縮されれば、マニュアル更新に対するハードルが下がります。精度の高い「実用的」なマニュアルへとブラッシュアップできるでしょう。
AIを使う場合でも、マニュアル作成の大まかな流れは変わりません。しかし「指示出し」や「チェック・修正」といった特有の工程もあります。
どのようなステップで進めれば良いか、基本の流れを確認しておきましょう。
AIを使わず作成する場合と同様、まずはマニュアルの「目的」を明確にします。
AIは、あくまで作業をサポートするツールであり、何を作成したいのか決めるのは人間です。AIに何をさせたいのか的確に指示を出すためにも、目的を明確にしておく必要があります。
目的以外にもテーマの決定やスケジュールの設定、作成推進チームの発足など、マニュアル作成に必要な準備を整えておきます。計画性が重要なのは、AIなしで作成するときと変わりありません。
次に、マニュアルの内容を決めるための調査を行います。従業員が日々行っている作業の取り組み方や、抱えている悩み、問題を探ることはAIにはできません。
作業の手順や注意点、コツ、発生している問題点などを調査し、マニュアルに記載する内容を決めましょう。また、どのような形式のマニュアルが活用しやすいか、従業員にヒアリングしておくと良いでしょう。
AIは、ツールによってできることが異なります。作成するマニュアルの目的や形式に合わせてツールを選びましょう。
1つのツールを使うのか、複数のツールを使うのか。それとも、AIが導入されたマニュアル作成ツールを使うのか。どのツールをどのように使うのか。機能性、操作性、費用を比較しながら選びましょう。
いよいよAIの登場です。AIにやって欲しいこと、作って欲しいものを説明し、指示を出します。この指示を「プロンプト」と言います。
何を、何のために、誰に向けて、どのように作って欲しいのかなどを「明確」に示すことが重要です。のちに解説する「AIに指示するプロンプト作成のコツ」を参考に、的確なプロンプトを作成しましょう。
AIは多才ですが、完ぺきではありません。文字の入力ミスはないにしても、言葉の選び方や内容など、求めるものとは異なる形で仕上がることがあります。
そのため、必ずチェックを行います。
などを確認し、必要に応じて調整しましょう。
AIの活用に興味はあるものの、具体的に何がどう効率化されるのか、何をすれば良いのかイメージが湧かず、なかなか踏み切れないという方も多いでしょう。
そこで、ここからは代表的な活用例とその手順について解説していきます。
動画マニュアルを作成する際、AIを活用することで文字起こしやテロップ作成の作業を効率化できます。代表的なツールは「Whisper」「Notta」などです。
ツールを利用できる環境を整えたのち、音声・映像ファイルをアップロードするだけで自動で文字起こししてくれます。音声を聞きながら文字を入力し、聞き逃したらもう一度聞き直し、再び入力……というような作業をすべてAIが引き受けてくれます。
出力された文章をAIツール「ChatGPT」に要約するよう指示すれば、簡潔でわかりやすい文章へと変換してくれます。動画マニュアルの作成、作り直しの効率化に役立つでしょう。
AIは、スライドやテキストも作成できます。代表的なツールは「Canva AI」です。自動生成されたテンプレートからレイアウトを選び、画像やテキストを追加・編集するだけで、整った印象のスライド形式マニュアルを作成できます。「マジック作文」機能を使えば、文章作成の自動化も可能です。
「Gamma」も同じく、スライド作成の効率化に役立つツール。テキストの入力やファイルのインポート、スライド枚数の指定など細かい設定を終えたら、あとは文章やデザインを調整するだけでスライドを簡単に作成できます。こちらにもテンプレートが用意されており、デザインに悩む時間を短縮できます。
内容は決まっているが書き方がわからない、どのようなマニュアルを作りたいかイメージが湧かないといったときに便利です。
マニュアル作成で意外と時間がかかるのが、文章の作成です。人に説明するのが苦手、文章が思いつかないと悩む人も少なくありません。
「ChatGPT」や「Claude」などのツールを使えば、そのような悩みを解決できます。サイトやアプリにアクセスし、指示を出すと自動で文章を作成してくれます。あとは出力された文章をチェックし、修正するだけで完成です。
例えば「〇〇の使い方を3つのステップで説明して」と指示すれば、それに従った手順書の構成を考えてくれます。言い回しに納得できないときは、追加で「いくつか例を挙げて」と指示することで、複数の例を提案してくれます。
また、こちらが作成した文章のチェック・修正を頼むことも可能です。既存のマニュアルを改善したい場合にも役立つでしょう。
AIで思い通りのマニュアルを作成するには「指示出し」が重要です。指示が曖昧だとAIが混乱し、こちらの意図とは異なる回答が返ってくる可能性があります。手直しに時間がかかり、かえって効率が悪くなるでしょう。
では、どのように指示を出せば良いのでしょうか。プロンプト作成のコツを3つご紹介します。
曖昧なプロンプトは、AIからの曖昧な回答を招きます。希望通りに仕事をしてもらうためには、具体的に、明確に、そして意図を込めて指示を出すことが大切です。
では、どのように指示すれば良いのでしょうか。レジ業務マニュアルを例に挙げてみましょう。
ポイントは「ゴール」と「ターゲット」を明確にすることです。何のためのマニュアルなのか、誰が使う物なのかを提示することで、AIがこちらの要望に答えやすくなります。反対に、ゴールとターゲットが不明確だと曖昧な答えしか返って来なくなるため、注意しましょう。
プロンプトの出し方がわからないときは、AIに尋ねてみるのも良い方法です。「このようなマニュアルを作成したいが、どのような情報が必要か?」と質問すると、AIが欲しい情報を教えてくれます。AIの質問に沿って必要な条件を追加していくことで、精度の高いプロンプトを作成できるでしょう。
複数のマニュアルを作成する際は、表現・語調・形式を統一するのがおすすめです。AIにルールを提示することで、統一感のあるマニュアルを作成できます。作成担当者が変わっても、クオリティを維持できるのがメリットです。
では、例を見てみましょう。
ルールを提示する際も、具体的に、明確に書くことが大切です。また、書き方の「例」を挙げると、AIがこちらの意図を汲み取りやすくなります。
そして、的確なプロンプトを作成するには、作りたいマニュアルの「理想像」を明確にしておくことが大切です。何をルールとするのか、マニュアル作成メンバーで事前に話し合っておきましょう。
一度のプロンプトで完璧なマニュアルができあがることは、ほぼありません。指示を出し、回答をチェックして、また修正の指示を出す……この繰り返しがAIをうまく活用するコツです。
AIに修正指示を出す際は、以下のポイントを意識します。
1度に複数の指示を出すと、AIが混乱してしまいます。「〜と、〜と、〜を修正して」といっぺんに修正を求めるのではなく、1つずつ指示するようにしましょう。
こちらの意図がうまく伝わっていないとき、思い通りの回答が得られなかったときは、複数の例を挙げるよう指示するのもひとつの手です。このように繰り返しAIと認識を擦り合わせながら、目標とするマニュアルへと近づけていきましょう。
AIは、マニュアル作成の効率化に有効な便利なツールです。しかし、リスクもあります。
AIを効果的に活用するため、注意すべきポイントも抑えておきましょう。
AIの検索機能は、年々精度が上がっていると言われています。しかし、すべての情報が正しいとは限りません。間違った情報が紛れ込んでいることも多々あります。
そのため、AIの情報をそのままマニュアルに記載するのは危険だと考えられます。間違った知識が社内で広まる恐れがあるからです。
AIには構造の作成や情報の整理、書き方の統一を任せて、内容は従業員が考えるなど、使い方に注意しましょう。AIの提案が本当に正しいか見極めること、見極める力を育てることが大切です。
AIを利用すると、情報が外部に洩れる恐れがあります。入力した情報がAIの学習に活用され、見知らぬ人への回答として使われる……なんてことがあるのです。
そのため、入力する情報には注意が必要です。特に、従業員の名前や顧客データなどが外部に洩れた場合、個人情報保護法に触れる恐れがあります。社外秘の情報や個人情報は入力しない、セキュリティ対策のあるツールを使う、ローカル環境で使えるAIツールを使うなど、データとツールの扱いに注意しましょう。
手軽で便利なAIを使い始めると、ついすべてを任せたくなるものです。しかし、AIに頼りきりになると、思考力が弱まってしまいます。困ったら「AIに考えてもらえば良い」と、自分で考える習慣が薄れてしまうのです。
また、AIの提案からは社内にはない発想・情報が得られる一方で、独自性が失われるというデメリットもあります。AIの提案ばかり信じて、従業員のリアルな声を聞き逃してしまうといったリスクも考えられます。
大切なのは「AIを使うこと」ではなく、マニュアルを作成して「業務の生産性を高めること」「組織及び従業員を成長させること」です。AIはあくまでひとつの”手段”であるということを理解し、本来の目的を見失わないようにしましょう。
AIの導入に費用をかけられない、有効活用できるか不安、といった際に便利なのが無料のAIツールです。
具体的にどのようなツールがマニュアル作成に役立つのか、いくつか例をご紹介します。
オープンソース型ツールとは、ソフトウェアのコードの閲覧・使用・編集・再配布が許可されているツールのこと。自由にカスタマイズして使用できる反面、IT知識がないとうまく活用できないというデメリットがあります。
マニュアル作成に役立つオープンソース型のAIツールには、「Tesseract OCR」「Flowise AI」の2つが例として挙げられます。
「Tesseract OCR」は、Google主導で開発されたAIツール。紙の文書をデジタル化したり、テキストを抽出したりといったことが可能です。既存の紙製のマニュアルをデジタル化、アップデートしたい場合などに便利です。
「Flowise AI」も、同じく文書の読み込みができるツール。長い文章を分割する機能も搭載されており、こちらも既存マニュアルのブラッシュアップに役立ちます。また、ドラッグアンドドロップで直感的に操作できることから、プログラミングの経験が浅い人でも比較的扱いやすいと言われています。
ツールにどのような機能が備わっているかわからない、活用方法が定まっていないというときは、無料プランがあるAIサービスを使うのがおすすめです。必要だと感じたときに有料プランに切り替えれば良いため、費用が無駄にならずに済みます。
マニュアル作成に有効な無料AIツールには「Canva AI」「Notion AI」などがあります。
「Canva AI」は、スライドや図形の作成を得意とするツール。テンプレートの種類が豊富で、マニュアルのレイアウトに悩んだ際に便利です。「マジック作文」機能で文章作成を自動化することも可能なので、手軽にスライド形式のマニュアルを作成したいというときは活用してみましょう。
「Notion AI」は、クラウド型オールインワンアプリ「Notion」に搭載されている機能。テキストの作成や編集、要約、アウトラインの提案が可能なAIツールです。「Notion」を使ってマニュアルを作り、文章の作成・リライトなど一部の作業をAIに任せる、といった柔軟性のある使い方ができます。
ちょっとしたタスクをAIに任せたいというときに便利なのが、ブラウザで完結するタイプのAIツール。利用するハードルが低く、スピーディーなので、試しにAIを使ってみたいという方にもおすすめです。
代表的なのは「ChatGPT」と「Google Gemini」です。ビジネス以外で使われることも多く、従業員が気軽に触れられるAIツールだと言えます。
「ChatGPT」はOpen AI社が開発したAIツール。Webサイトにアクセスして指示を出すだけで、自動でアウトラインや文章、図などを作成してくれます。「ひとまず構成だけすぐに作って欲しい」「良い言い回しが思いつかないから、アイデアを出して欲しい」というような”スポット利用”に向いています。
「Google Gemini」は、テキスト作成や要約、翻訳などを自動で行ってくれるAIツール。動画や画像を認識する機能もあり、アップロードされた動画から自動でマニュアルを作成するといったことも可能です。また「Google Workspace」と連携して使えるので、「Google Workspace」を利用している職場では特に活用しやすいでしょう。
業務マニュアルは「作成すること」がゴールではありません。定期的に見直し、改善を繰り返すことで、本当の”実用的なマニュアル”が完成します。
AIの活用は、そのようなアップデートの負担をも軽減する有効な手段です。人手不足、業務効率低下、生産性低下のループから抜け出す第一歩として、AIを使ったマニュアル作成にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。