多くの企業で、効率化や生産性向上を目指して検討される「仕組み化」。
ところが、実際に仕組み化をしようとしても、「仕組み化って具体的に何をすればいいの?」「仕組み化でどんなメリットがあるの?」などと、多くの疑問が浮かんでくるかと思います。
そこでこの記事では、ビジネスにおける仕組み化について、その定義から具体的な方法、メリット、注意点までくわしく解説していきます。成功事例も交えながら、イメージしやすく説明していきますので、ぜひ最後までお読みください。
ビジネスの世界で「仕組み化」という言葉をよく耳にしますが、具体的にどういう意味なのでしょうか?まずは、仕組み化の定義や重要性について整理していきましょう。
仕組み化とは、簡単に言えば「属人的にならずに、誰もが業務を進められる方法を構築すること」です。つまり、業務プロセスを標準化し、人に依存しない形で業務を進められるような状態にすることを指します。
たとえば、新入社員教育を例に考えてみましょう。従来は先輩社員が新人に口頭で指導していたものを、詳細なマニュアルやeラーニングシステムを準備して指導したとします。これは、立派な仕組み化の一例といえるでしょう。
このように、人の経験や勘に頼らず、誰でも同じように業務を遂行できるような状態にするのが、仕組み化の本質と言えます。
ビジネスでの仕組み化は、企業の持続的成長と競争力強化において重要な意味を持ちます。たとえば、仕組み化で効率的な業務プロセスが構築されれば、時間とリソースの無駄を削減し、生産性を大幅に向上させてくれるでしょう。
また、業務の標準化によりサービスの品質が安定化されることで、顧客満足度の向上も期待できます。加えて、仕組み化された業務はスケールアップがしやすくなり、新規事業や拠点展開を行う場合にも活用できるでしょう。
このように、仕組み化は企業の持続的成長と競争力強化という側面から重要な役割を担っているのです。次の章では、仕組み化の具体的なメリットについて、くわしく解説します。
ビジネスにおける仕組み化は、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、仕組み化によって得られるメリットについて、大きく4つに分けてご紹介いたします。
仕組み化の最も大きなメリットは、業務効率化と生産性の向上です。具体的には下記のような効果が期待できるでしょう。
作業時間の短縮 |
標準化された手順により、作業にかかる時間を削減できる。 |
ミスの減少 |
チェックリストやツールの導入により、ヒューマンエラーが減少する。これにより、修正作業にかかる時間の削減も期待できる。 |
リソースの最適化 |
業務の可視化を通してリソースの無駄を減らし、重要な業務に集中できるようになる。 |
このように、仕組み化は作業時間の削減とリソースの有効活用を促進し、結果として企業全体の生産性を大きく向上させる効果があります。
属人化リスクの軽減も、仕組み化のメリットの一つです。属人化とは、業務が特定の個人の能力や経験に依存している状態を指しますが、この属人化した状態では下記のようなリスクを背負っていることになります。そのため、会社としては属人化のリスクを回避するような立ち回りが求められるでしょう。
この点、日頃からマニュアル整備などといった仕組み化を進めておくことで、業務担当者がいなくなった場合でも業務を滞りなく進められる体制を整えることができます。このように、仕組み化は属人化リスクの軽減につながるのです。
提供する商品やサービスの品質安定化とミスの削減も、仕組み化のメリットです。
具体的には、「標準作業手順書(SOP)の作成」で人の経験に依存しない仕組みづくりや、「自動化ツールの導入」でヒューマンエラーを防ぐ仕組みづくりなどが挙げられます。
たとえば、多店舗経営の飲食店チェーンにおいて調理プロセスを標準化したうえで品質管理システムを導入すれば、どの店舗でも同じ味と品質の料理を提供できるようになります。これにより、顧客は安心して任意の店舗を利用でき、ブランドへの信頼感も高まるでしょう。
このように、仕組み化による品質の安定化とミス削減は、顧客満足度の向上やブランド価値の向上にもつながる大きなメリットだといえます。
仕組み化のメリットとして、ビジネスのスケールアップと成長の促進もあります。
たとえば、ある小売チェーンが、店舗レイアウトから従業員教育、在庫管理まで、すべての標準化(仕組み化)に成功したとします。するとこの結果、新店舗の出店期間を従来の半分まで短縮できるようになりました。これは、仕組み化がもたらしたビジネスのスケールアップといえるでしょう。
このように、仕組み化は時にビジネスの拡大と成長を加速させる強力なツールとなるのです。
ビジネスの仕組み化は、そう簡単に実現できるものではありません。しかし、適切なステップを踏むことで、着実に進めることができるものでもあります。そこでここからは、仕組み化を成功させるための4つのステップについて解説していきます。
仕組み化の第一歩は、現状の業務プロセスの「可視化と分析」です。具体的には、下記のような方法で進めていきます。
なお、このステップは次のステップで適切な解決策を見つけ出すために必要な作業になりますので、丁寧に進めてください。
このように、業務フローや作業時間を可視化することで業務の無駄を洗い出したり、ヒアリングやデータ分析によって具体的な改善案を見つけ出していきましょう。意外にも「複数の部署で同じような作業を重複して行っていた」等、さまざまな発見があることと思います。
なお、業務フローの図式化については下記の記事でくわしく解説しています。無料でダウンロードいただける「フローチャートテンプレート」もご用意しておりますので、ぜひご覧ください。
■参考記事はこちら
フローチャートでよく使用される記号とは?意味や使い方を徹底解説!
可視化と分析が完了したら、次は業務プロセスの標準化を行います。標準化とは「誰が業務を行っても同じ品質の成果を出せるように、業務プロセスを組織的に最適化すること」です。具体的には下記のポイントを参考に進めてください。
これらのポイントをもとに標準化を進めることで、業務の効率化と品質の安定化が実現することでしょう。たとえば「各工場で異なっていた製造プロセスの標準化を実現した結果、品質のばらつきが減少し、生産効率が20%向上した」などといった成果が得られるかもしれません。
なお、標準化のより具体的な進め方としては下記の記事を参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
h業務標準化とは?実施するメリット・デメリット、進め方を解説
標準化された業務プロセスを従業員に伝達し、定着させるために不可欠なのが「マニュアル化」です。標準化された業務プロセスを誰もが理解し実行できるように、文書化を目指していきましょう。
マニュアル化で最も気を付けたいのは「活用してもらえるマニュアル作りをすること」です。どれだけ丁寧に作成しても、活用してもらえなければ意味をなしません。そのため、上記のポイントを参考に効果的なマニュアル作りを心がけていきましょう。
とくに、飲食チェーン店での調理プロセスなどは、動画を活用した視覚的なマニュアル作成が有効でしょう。一方で、全体の流れや仕組みを伝えたい場面では、フローチャートや図解の活用がおすすめです。
なお、マニュアル作成の具体的なステップについては、下記の記事でくわしく解説しています。無料でダウンロードいただける「マニュアルテンプレート」もご用意しておりますので、ぜひご覧ください。
■参考記事はこちら
業務マニュアルとは?作成するメリット、目的や効果、おすすめツールなどをわかりやすくご紹介!(無料テンプレート付き)
最後のステップでは、マニュアル化された業務プロセスをさらに効率化するために、システム化・自動化を行います。これにより、人的ミスを減らし、業務の速度と正確性を高めることができるでしょう。下記のポイントを参考に進めてください。
システム化・自動化の例としては、たとえば物流会社において配送ルートの最適化にAIを活用したり、製造業においてIoTセンサーを活用して設備の稼働状況をリアルタイムで監視することなどが挙げられます。
このように、上記のポイントをもとにシステム化・自動化を進めることで、仕組み化の実現に大きく近づけることでしょう。ただし、導入にはコストが必要なことも多いため、費用対効果を十分に検討する必要があります。
ビジネスの仕組み化には、適した業務タイプというものがあります。業務全般が仕組み化に向いているわけではありません。そこでここからは、仕組み化に適したビジネス領域と業務タイプについて解説していきます。
ルーチンワークなどの日常的に繰り返し行われる単純な業務は、仕組み化に適した業務といえます。手順が明確でイレギュラーが起こりにくいため、標準化がしやすいのです。
たとえば、請求書処理の仕組み化としては、OCR技術を活用して請求書の情報を自動で読み取り、会計システムに連携させるといった方法が考えられます。また、ルーチンワークを仕組み化することにより、業務の効率化はもちろんのこと、ヒューマンエラー削減の効果も期待できるでしょう。
一定の判断が必要ではあるものの、その判断基準を明確にできる業務(パターン化ができる業務)は、仕組み化に適していると考えられます。完全な自動化は難しいものの、意思決定のプロセスを標準化することで効率化が期待できるでしょう。
たとえば、カスタマーサポートを例に挙げて考えてみます。よくある質問とその回答をデータベース化したうえでAIチャットボットを導入することで、問い合わせ対応の一部を自動化することができるでしょう。
残念ながら、クリエイティブ業務などの創造性が求められる業務は、なかなか仕組み化が難しい領域です。なぜなら、これらの業務は状況に応じて柔軟な対応が求められるため、プロセスを標準化するのが極めて難しいからです。また、クリエイティブに関する基準を文書化するハードルが高いことも、仕組み化が難しい理由の一つとなっています。
ただし、これらの業務でも、部分的に仕組み化をすることは可能です。たとえば、アイデア出しのプロセスを標準化したり、マーケティング戦略やデザイン制作のアイデア出しに生成AIを活用したりすることで、クリエイティブ業務の効率を高めることができるでしょう。
仕組み化のステップや業務タイプの適正を理解したところで、ここからは実際に仕組み化を成功させるためのポイントについて見ていきましょう。大きく3つのポイントに整理してご紹介いたします。
仕組み化を成功させるためには、従業員の理解と協力が不可欠です。トップダウンで押し付けるのではなく、関係者全員が一体となって、自分事として取り組める環境づくりがカギとなるでしょう。
また、従業員の理解と協力を仰ぐ具体的な方法としては、表彰制度(改善提案制度を設け、毎月のベストアイデアを表彰する制度)を設けるといった方法が効果的です。従業員から吸い上げた意見を形にしていくことで、自然と理解と協力が得られやすい一方、表彰制度によって従業員のモチベーションを刺激できるのもメリットです。
実際に、赤字38億円からのV字回復を実現させた無印良品では、「WH運動(ダブルハーフ運動)」と呼ばれる業務効率化を目指す制度が取り入れられており、成果を出せた部門は「松井賞」「ホームラン賞」などで表彰されるそうです。
■参考:松井忠三(2013)『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』角川書店
仕組み化を一度に全ての業務に導入しようとすると、当然ながら混乱を招くリスクがあります。実際に使ってみると「一部の業務に自動化が対応していなかった」「エラーが多く、対応に時間を取られた」などと、予期せぬ問題は付き物です。このような場合にも、スケールを小さく始めることで混乱を最小限に抑えられ、調整もしやすくなるでしょう。
まずは一部の部門や業務で試験的に導入し、効果を検証する
導入後の課題や改善点を積極的に収集し、改善する
比較的取り組みやすい業務から始め、成功体験を積み重ねながら展開していく
前述したように、仕組み化を進めるうえで不可欠なのが、業務の「マニュアル化」です。とはいえ、マニュアルを作る専門家ではない限り、見やすく使いやすいマニュアルをどのように作ればよいのか、分からない方もいらっしゃると思います。また、「時間がない」「人が足りない」といった事情を抱えていることもあるでしょう。
そこでお勧めしたいのが、ツール(サービス)を活用したマニュアル作りです。近年では、マニュアル作成に特化したさまざまなツールがあり、業務の洗い出しからマニュアルの作成・共有まで一貫したサポートを依頼することも可能です。ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
なお、マニュアルを内製化する際は、ぜひ弊社が独自に作成した「マニュアルテンプレート」をご活用ください。以下のリンクから無料でダウンロードいただけます。
仕組み化には多くのメリットがありますが、同時にデメリットや注意すべき点も存在します。そこでここからは、仕組み化を進める上で認識しておくべき、3つの課題についてくわしく解説します。
仕組み化の目的は効率化ですが、過度な標準化は従業員のモチベーション低下を招く恐れがあります。業務が細かく規定され個人の裁量や創意工夫の余地がなくなると、仕事へのやりがいを感じにくくなってしまうのです。
そのため、仕組み化を進める際には、多少の裁量を認める部分を設けながら進めるとよいでしょう。適度な標準化と創意工夫のバランスを取ることが大切です。
仕組み化によって業務プロセスが固定化されると、環境の変化に合わせた臨機応変な対応がしにくくなるリスクがあります。
実際にコロナウイルスが蔓延した頃、リモートワークへの適応が急務とされるなかで、業務の進め方に苦労した方も少なくないことでしょう。当時は決裁を一つ取るだけでも、「社内のネットワークにアクセスができないから業務を進められない」「業務を進めるには必ず出社する必要がある」などの事態に陥っている会社があちこちに見受けられました。
ウイルスのパンデミックは少し極端な例かもしれませんが、この他にも消費者の行動変化(SNSの普及など)や政治的変化、気候変動なども環境変化に含まれます。近年著しい、AIやIoTの普及もこの限りです。環境変化への適応力を保ちつつ仕組み化のメリットを享受するためにも、定期的な仕組みの見直しを行っていくとよいでしょう。
仕組み化には、場合によっては相当な投資が必要になることがあります。
分かりやすいところで言うと、システム開発やツールの導入などによる金銭的コストが考えられます。一方で、仕組み化を進めるうえでは、そのプロジェクトの進行を担う従業員の作業時間はもちろんのこと、仕組み化を受け入れ順応していく従業員の作業時間も必要以上にかかってしまうことでしょう。このように、仕組み化においては金銭的コストだけでなく、人的コストにも目を向けていく必要があります。
そのため仕組み化を行う際は、長期的なメリットと初期投資のバランスを十分に検討しながら、段階的に進めていくとよいでしょう。コストの問題は避けて通れませんが、適切に仕組み化を進めることで、最終的にはコスト削減や生産性向上といった形で投資が回収できるはずです。
それでは最後に、仕組み化に成功をした4社の企業実例を見ながら、仕組み化に対する具体的なイメージを膨らませていきましょう。
新入社員研修のフルリモート化を通じて、効果的な人材育成の仕組み化に成功したのは、紳士服・婦人服および雑貨等のセレクトショップを展開する「ユナイテッドアローズ」。
同社では、新入社員に対する課題として「研修のリモート化」をはじめ、「研修でのアウトプット強化」や「早期育成」を抱えていました。そこで、これらの対応策としてeラーニングツール「shouin+」の導入を決定し、インプットとアウトプットを統合した包括的な研修システムの構築を進めました。
具体的な内容としては、動画コンテンツによる業務知識のインプットに加えて、実務を行う様子を動画投稿し遠隔でロールプレイングを行うといった実践的なアウトプットをあわせて実施するようにしました。するとこの結果、下記のような成果が得られたのです。
世界的なファストフード・チェーンであるマクドナルド。創業当初から「品質」「サービス」「清潔さ」「価値」という4つの基本理念を掲げているマクドナルドですが、これらを実現させるための仕組み化は世界的にも注目されています。
このようにマクドナルドは、徹底した仕組み化によって、大規模なチェーン展開と品質の一貫性を両立しています。
シンプルで機能的な商品で知られる日本の国民的ブランド「無印良品」には、2,000ページにも及ぶ「MUJIGRAM(ムジグラム)」と呼ばれるマニュアルが存在します。そしてこのマニュアルこそが仕組み化の完成形であり、無印良品で培われてきたノウハウが蓄積されているのです。
そんな無印良品の「マニュアルづくりにおけるポイント」をいくつかご紹介しましょう。
このように無印良品では、洗練されたマニュアルが基盤となって会社が支えられているのですね。小売業では積極的に取り入れていきたい事例です。
トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」は、製造業における仕組み化の代表的な成功例として世界的に知られています。効率性と品質の向上を同時に実現するこの生産方式について、簡単にご紹介いたします。
このようにトヨタは、仕組み化を通じて常に合理性を追い求めながら成長を続けているのです。製造現場ではこのトヨタの思想から学び、仕組み化を進めていきたいところですね。
ビジネスの仕組み化は、企業の持続的な成長と競争力強化のために不可欠な取り組みです。しかしながら、仕組み化には課題やリスクも付きまとうため、慎重に検討しながら進めていきましょう。
また、今後はAIやIoTの発展により、仕組み化の幅はさらに広がっていくことと予想されます。これらの新技術をうまく活用しつつ、人間の創造性や柔軟性を活かす領域を見極めながら共存していくことが、仕組み化のカギとなるでしょう。
本記事では、仕組み化の定義から具体的な方法、そのメリットと注意点までくわしく解説いたしました。貴社の仕組み化にご活用いただければ幸いです。