時代が変化しても、新人育成の難しさは変わりません。技術が発展し、教育に役立つツールが次々と開発されるなか、いまもなお多くの研修者・教育担当者・管理職者が新入社員の育成に苦戦しています。
新人教育を効率よく、かつ効果的に行うには「計画」が必須。そこで必要となるのが、新人教育カリキュラムです。
本記事では、新人教育カリキュラムの作成方法や作り方のポイントなどについて解説しています。職種別の作成例もご紹介していますので、ぜひお役立てください。
効果的・効率的な新人教育に必要なカリキュラム。具体的にどのようなメリットがあるのか、なぜ作成すべきなのか、以下の4つの理由について詳しく見ていきましょう。
新人教育にて教えることは数多くあります。計画を立てずに行うと、教え漏れが発生する可能性が高いです。
よって、カリキュラムを作成し、教える内容を整理しておく必要があります。「いつ」「何を」「どのような順番で」教えるか把握したうえで新人教育に挑むことにより、教え漏れを防止できます。
またカリキュラムを作成すると、教育内容が可視化され、情報共有がスムーズになります。教育担当者、講師が複数人いる場合でも、全員が内容を把握し、漏れなく教えられるのです。
さらに、教えられる側である新入社員も、自分がこれから「何をどのように教えられるか」を把握できます。社員に安心感を与え、スムーズかつ充実した教育を実現できるでしょう。
新人研修の改善点を探るには、何をどのように教えたのか、内容を明確にする必要があります。カリキュラムは、その振り返りのツールとしても役に立ちます。
育成手法や研修期間など、新人教育の実態が明確になるため、問題点を分析しやすくなります。可視化することにより、客観的な判断ができるのです。
また、客観的な視点を持つことで、新人教育の全体像を把握できます。企業が求める人材が育つ内容か、ビジョンから逸れていないかなど、方向性を見つめ直すことができます。
新人教育に対し、研修担当者や教育担当者の評価は主観的になりやすいため、冷静な分析を可能にするカリキュラムが必要なのです。
「新入社員を指導する時間がない」「教育担当者の負担が大きい」これらは、新人研修における代表的な課題です。その原因として、本部と現場の連携が弱いことが挙げられます。
本部での新人研修後、現場に丸投げする教育システムは、現場に大きな負担をかけます。配属先で教えなくてはならないことが多すぎて、通常業務との両立が難しくなるのです。
新人教育カリキュラムは、そのような問題の解決策としても有効です。新人研修で教えるべき内容を整理し、配属前に十分な教育を行うことで、現場での指導の負担を軽減できます。
そして、配属後のカリキュラムも組むことにより、現場の教育担当者の悩みを解消できます。On the Job Training(以下OJT)で教える内容、教育のプロセスなどを提示することで、指導に迷う時間を短縮できるでしょう。
新人教育カリキュラムは、組織の状況や、指導内容に合わせて設計するものです。この工程なしで新人教育を行うと、失敗するリスクが高まります。どれほど効果的と謳われる教育手法でも、組織に適していなければ、十分な効果を得られません。
自社に必要な教育内容と、適切な育成手法を見極め、カリキュラムを組む。この行動自体が、研修効果の向上へとつながります。
新人教育・研修のカリキュラムには、さまざまな内容があります。業種、職種によって異なりますが、ビジネスマナーや企業理念といった基本的な知識は、共通して取り上げられる内容です。
ここでは、主なカリキュラムの内容として7つのテーマをご紹介します。専門的な内容に関しては、後の「新人教育カリキュラムの作成例」をご参照ください。
業界問わず、どの企業でもビジネスマナーについて教えます。言葉遣いや挨拶、報告・連絡・相談の重要性と方法などは、すべての社会人が身につけておくべき基本知識です。
特に、卒業直後の新人は社会人としての振る舞いを知らないことが多いです。既存社員と良い関係を結ぶため、顧客や取引先とのトラブルを避けるため、「知っているだろう」と油断せず教育する必要があるでしょう。
研修後、スムーズに業務に取り掛かれるよう、業務内容や取り組み方についても指導が必要です。知識を身につけていない状態でいきなり配属されると、新人は困窮します。現場の負担が増えるうえ、トラブルが発生する可能性も考えられます。
円滑に業務に取り組めるようにするには、Off the Job Training(以下Off-JT)やeラーニングなどで事前に知識を習得し、OJTで実際に行動しながら学ぶ流れが望ましいです。
ただし、業務内容・取り組み方に関する学習はボリュームが大きくなりやすいため、新人教育でどこまで教えるか、カリキュラム作成時に整理しておく必要があります。
新入社員には、社会人としての心構えも身につけてもらう必要があります。企業に所属する人間として「どうあるべきか」理解してもらうことで、責任感が生まれます。社内外の人との関わり方や、仕事に対する姿勢にも影響を与えます。
また、社会人としてのマインドを持つことは、仕事に「やりがい」を見出すことにもつながります。企業にとっても、本人にとっても必要なことなので、新人研修にて教えるべきでしょう。
抽象的な内容になりやすいため、考え方や行動の具体的な例を挙げて説明することが大切です。
近年は、ちょっとした不祥事でも大きなトラブルへと発展するリスクがあります。社員がコンプライアンス違反行為をした際は、本人だけでなく、企業全体で責任を負う事態になりかねません。社会的な信用を失い、倒産に追い込まれるケースも考えられます。
よって、コンプライアンスについても新人教育で教えるべきでしょう。
どのような行動がコンプライアンス違反となるのか、具体例を挙げて知識を身につけてもらう必要があります。そして、違反するとどのようなトラブルを招くのか、リスクについて説明し、重要性を理解してもらうことが大切です。
業務の生産性を上げるには、円滑なコミュニケーションが欠かせません。
良好なコミュニケーションは、チームワーク力向上につながります。そのほか、人間関係の構築、企業に対する社員のエンゲージメント向上、離職防止と多くの良い効果を生むため、コミュニケーションの取り方についても新人教育で教える必要があるでしょう。
わかりやすい伝え方、聞き方などの基本的な知識に加え、状況に合わせた適切なコミュニケーションの取り方についても説明が必要です。リモートワーク時のやりとり、違う部署との連絡手段、店舗と本部の情報共有方法など、職場の環境や働き方に合わせて指導を変えましょう。
最近では、どのような仕事でもインターネットを使うことが当たり前です。そのため、情報セキュリティに関する内容も、新人研修にて取り上げるべきと考えられます。
セキュリティ意識、セキュリティリテラシーなど、重要性とリスクを理解するための研修が必要です。SNSの間違った使い方により、大きなトラブルへと発展することもあるので、SNSの正しい使い方と禁止行為についても説明する必要があるでしょう。
新人教育の目標は、新入社員に企業の一員となってもらうことです。そのためには、企業理念を理解してもらう必要があります。
企業のゴールや方針のほか、企業ルールについても解説が必要です。ルールを知らないことでミスをしたり、既存社員とトラブルになったりする可能性があるため、企業理念と同様、入社研修で説明することが大切です。
新人教育では、つい技術的なことばかりに指導が集中しやすいです。しかし、企業理念はすべての業務の基盤となります。同じゴールに向かう仲間として迎え入れるべく、本格的に業務に取り掛かる前にきちんと理解してもらいましょう。
新人教育カリキュラムの必要性と内容について確認したところで、次に作り方について解説していきます。プロセスに決まりはないですが、以下のような流れで作成するとスムーズです。詳しく見ていきましょう。
新入社員、現場、企業。全員にメリットをもたらすことが、新人教育の理想です。
そのため、まずは組織のニーズをチェックする必要があります。どのような新人教育が求められているか、どのような効果が期待されているか調査することで、企業に適したカリキュラムを設計できます。
これらを調査・分析し、新人教育の方向性を定めます。
次に、いつまでに何を身につけるのか、どのような姿に成長させたいかを具体的に決めます。調査・分析の結果をもとに目標を設定するのがポイントです。
特に、現場のニーズとは徹底的に擦り合わせておきたいところ。配属先で求められるレベルよりも低い目標を設定してしまった場合、現場の負担が増えるからです。
とはいえ、新入社員が短期間で習得できるスキル・知識には限度があるため、研修ではどの程度まで教えるのか、配属先では何を教育すべきなのか、情報共有と話し合いを行うことが大切です。
目標が決まったら、具体的にどのような内容をカリキュラムに組み込むかを考えます。「目標を達成するには、どのスキル・知識を身につけるべきか」を考えることで、内容を絞り込めます。
新人教育で教える内容は、企業や職種によって異なります。内容に迷った際は、自社で新人研修を受けたことのある先輩社員にヒアリングを行うのもひとつの手です。
研修後、新入社員が業務に取り組む姿をイメージし、自社に適したカリキュラムを組みましょう。
次に「どのように教えるか」を決めます。新人研修の代表的な手法は、以下の3つです。
教育内容それぞれに適した手法を選ぶことが大切です。そのためには、「どのような学習方法が最も効率よく、効果的に学べるか」を見極める必要があります。
例として、以下のような学習方法が挙げられます。
企業理念や業務知識について学ぶ際は、座学が適しています。接客スキルを身につけさせたい場合は、ロールプレイが適切でしょう。
そして、これらの学習方法を実施できる研修手法を選びます。例えば、グループワークやロールプレイは、Off-JTにて実施可能です。採用したい学習手法を選ぶことにより、適切な研修手法を見つけることができます。
新人研修の日程は企業から指定されていることも多いですが、場合によっては調整が必要です。
「決められた日程では十分な教育ができない」ということであれば、経営陣と交渉する必要があります。それでも無理な場合は、新人研修後・配属後にカリキュラムをまわすなどの工夫が必要です。
期間を決める際は、具体的な日程も決めておきましょう。集合研修のための会場を確保できなくなる恐れがあるため、早めに決めることが大切です。
次に、研修をどのように実施するかを決めます。具体的には、以下のような選択肢があります。
店舗型ビジネスなど、集合研修が難しい場合はオンラインで行うのもひとつの手です。また、研修で使うコンテンツを作成する時間がない場合は、外部に委託する方法もあります。
ただし「オンラインではロールプレイができない」「外注した研修内容が自社に適していない」など、それぞれの方法にはデメリットもあります。どの内容を、どのように運営するのが適切か見極めましょう。
目標、内容、手法が決まったら、いよいよ作成の段階に入ります。
新人教育カリキュラムは、新入社員や現場の社員、教育担当者、管理者、経営陣と多くの人々が閲覧する可能性があります。そのため、「見やすさ」と「共有しやすさ」を意識して作成することが大切です。
表などにまとめると、視覚的にわかりやすくなります。またオンラインで作成しておくと、完成後に修正した際、スムーズに共有できて便利です。
活用シーンをイメージしながら作成しましょう。
新人教育は、研修を実施すれば終わりというものではありません。研修の振り返りを行い、改善点をその後の育成に活かすことが大切です。
よって、研修後どのようにサポートするか、予めフォローアップについて考えておく必要があります。「誰が」「いつ」振り返りを行うのか、集合研修が必要か、オンラインで実施すべきかなど手法とタイミングを設定しておきましょう。
新入社員研修カリキュラムを作成する際、いくつか注意すべき点があります。以下の4つのポイントを意識し、より効果的な新人教育の実現を目指しましょう。
新入社員が学ばなければならない情報量は膨大です。現場の負担を減らしたい気持ちもあり、つい内容を盛り込みすぎてしまう可能性があります。
短期間で多くのことを学ばせようとすると、学習への理解は浅くなるものです。必要な知識・スキルが十分に身につかず、配属先でミスやトラブルが起きるといったことになりかねません。
よって、情報量が多くなりすぎないよう、研修で教える内容に優先順位をつける必要があります。
目標をいくつかの段階に分け、「研修後の姿」をイメージすることで、期間中に教えるべき内容が定まります。優先順位が低い内容は、研修期間後のカリキュラムに組み込むことにより、詰め込みすぎを防止できるでしょう。
新人教育は、新入社員にとってわかりやすく、必要な知識が身につくものであることが重要です。そのためカリキュラムを作成する際は、新入社員の立場に立って考えることが大切です。
新入社員の視点を持つには、先輩社員へのヒアリングが効果的です。1年前、半年前に新人教育を受けた社員にアンケートをとり、意見を乞いましょう。
さらに、研修期間中も新入社員とコミュニケーションをとることで、リアルタイムでフィードバックを受けることができます。意見を可能な限りカリキュラムに反映し、より新人にとって効果的な教育を目指しましょう。
新入社員研修を充実させるためには、入念な準備が必要です。内容によりますが、例えば以下のような人材・環境を用意する必要があります。
環境を無視してカリキュラムを組むと、新人教育が失敗する可能性が高くなります。そのため、育成方法を選ぶ際は、実施可能かシミュレーションを行うことが大切です。準備が間に合わない場合は、別の育成手法を選びましょう。
新人教育終了後は「カリキュラム」に対する振り返りも必要です。
などをチェックしましょう。研修参加者からフィードバックをもらったり、スキル・知識の習得度テストを実施したりすることで確認できます。
定量的なデータと、参加者のリアルな意見を組み合わせることで、カリキュラムの正確なフィードバックを得られます。そこで得た改善点を次回に活かせば、より効果的な新人教育カリキュラムの完成へと近づくでしょう。
新人教育カリキュラムの作成を任された際、どのように作ればよいか迷うこともあるでしょう。そこでここからは、いくつか作成例をご紹介します。
職種別にご用意しましたので、教育内容に近いものをぜひ参考にしてみてください。
営業職は、配属前に企業理念やビジネスマナーなどの基礎知識と、業務で必要となるスキルを身につけます。そして、配属後はメンター制度を採用しつつ、より実用的な知識・スキルを身につける、といった流れのカリキュラムを組むところが多いようです。
集合研修を行い、集中的に知識を身につける期間を設けることで、スムーズにOJTへと移行できるでしょう。
4月 |
5月 |
6月 |
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指導内容 ・ スキル |
・企業理念 ・ビジネスマナー ・社会人としてのマインド ・ビジネス文書 ・仕事の基礎 |
・スピーチスキル ・コミュニケーションスキル ・ロジカルシンキング ・Microsoft Officeスキル ・ハラスメント |
サブ担当として先輩社員のもとで、営業の基礎を学ぶ ・営業基礎 ・商品知識 ・マーケティング ・経理 |
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研修 |
本社にて集合研修 |
・配属後OJT ・フォローアップ研修 |
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育成手法 |
・座学 ・ケーススタディ ・グループワーク |
メンター制度 |
・座学 ・グループワーク |
技術職も他の職種と同様、はじめに企業理念や社会人としてのマインドなどの基礎的な知識を身につけます。その後、IT知識・スキルを習得したり、実用的な技術を磨く演習などを行ったりする期間を設けるのが一般的です。
配属前のスケジュールに余裕を持たせることで、十分な知識・技術を身につけることができるでしょう。
4月 |
5月 |
6月 |
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指導内容 ・ スキル |
・企業理念 ・ビジネスマナー ・社会人としてのマインド ・ビジネス文書 ・仕事の基礎 |
・ITリテラシー ・業務知識 ・タイムマネジメント ・プログラミング ・提案プロセス ・新技術 |
メンターの指導のもと、業務経験を通じて知識・スキルを習得する |
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研修 |
本社にて集合研修 |
・本社にて集合研修 ・外部セミナー参加 |
・配属後OJT ・フォローアップ研修 |
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育成手法 |
・座学 ・ケーススタディ ・グループワーク |
・演習 ・座学 |
メンター制度 |
・座学 ・上司との1on1ミーティング |
接客を伴う販売職は、基礎知識のほか接客マナー、接客スキルなどを新人研修にて学びます。実際の業務をイメージしやすくするため、ロールプレイなどを含めた集合研修を実施すると良いでしょう。
身につけるべき知識・スキルの量が多い場合は、OJT開始後も学べるカリキュラムを用意するのがおすすめです。オンライン研修、eラーニングを取り入れることで、場所や時間に縛られることなく継続的な学習を実現できます。
指導内容 ・ スキル |
研修 |
育成手法 |
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1日目 |
・企業理念 ・ビジネスマナー ・社会人としてのマインド |
・本社にて集合研修 ・外部講師による集合研修 |
座学 |
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2日目 |
・身だしなみ ・接客マナー ・接客用語 ・接客スキル |
・座学 ・ロールプレイ ・グループディスカッション |
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3日目 |
・コミュニケーションスキル ・商品知識 ・数値管理 ・業務の流れ |
・座学 ・ロールプレイ ・グループディスカッション |
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配属後~ |
・接客スキル ・業務知識 →接客の流れ、レジ会計、清掃業務、バックヤード業務、開店・閉店作業 など |
OJT |
・メンター制度 ・eラーニング |
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配属 3カ月後 |
3カ月間の振り返り |
集合研修 |
・グループディスカッション ・ロールプレイ |
生産技術職は、工場で実際の業務を見学しながら知識を習得するのが特徴です。危険が伴う業務を含む場合、労働災害発生防止のため、安全に関するカリキュラムも新人研修に組む必要があるでしょう。
専門知識を習得させる際は、外部講師に頼るのもひとつの手です。オンラインセミナーを活用することで、移動時間のムダを削減しつつ、学習を進めることができます。
指導内容 ・ スキル |
研修 |
育成手法 |
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1日目 |
・企業理念 ・ビジネスマナー ・社会人としてのマインド ・安全衛生に関する知識 ・製造工程 |
・集合研修 ・工場見学 |
・座学 ・見学 |
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2日目 ~ 3日目 |
・生産管理 ・製造工程 ・物流フロー ・商品知識 ・加工工程と技術 |
・集合研修 ・オンラインセミナー ・工場見学 |
・座学 ・見学 |
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4日目 |
・生産管理 ・加工工程と技術 |
・工場見学 |
・見学 |
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5日目 |
・研修のまとめ、振り返り ・質疑応答 |
・集合研修 ・オンラインセミナー |
・座学 ・グループディスカッション |
オンライン研修、eラーニング、研修管理システム……と、最近では新人教育に役立つツールが次々と開発されています。しかし、どれほど便利なツールでも、計画を立てて活用しなければ機能しません。
資源を有効活用するためにも、研修期間の長さに関係なく、カリキュラムを作成することが大切です。「いつ」「どこで」「何を」「どのように」教えるのが最適かを考え、研修者と企業、双方にメリットをもたらす新人教育を実現しましょう。