社会人基礎力とは、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」といった、私たちが職場や地域社会で活躍し続ける上で必要な能力のことで、経済産業省によって提唱されました。成果を上げるためには、「基礎学力」「専門知識」に加え、それらをうまく活用していくための「社会人基礎力」を意識的に育成していくことが重要です。
社会人基礎力は、どの企業でも重要とされている社会人が身につけておくべき基本的な能力やスキルです。しかし、人事や管理部門の方や管理職の方の中には、新入社員に対して社会人基礎力をつけて欲しいが、どのような研修をすればわからないというお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
今回は、社会人基礎力を構成する要素や、鍛える方法などを解説します。また、能力を診断するチェックシートや鍛え方も紹介しますので、従業員の能力開発に活用してください。
「社会人基礎力」は2006年に経済産業省が提唱した概念で、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」と定義されています。具体的には、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と、それらを構成する12の能力要素から成り立っています。
その後、2018年に『人生100年時代』や『第四次産業革命』などの言葉で表されるような社会状況の変化に沿って改訂されました。従来の「社会人基礎力」に加えて「個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力」の視点を取り込んだ形です。具体的には、継続的に自分を見つめ直しながら「どのように活躍するか・どのように学ぶか・何を学ぶか」の3つの視点で捉えていく必要性について言及されています。
社会人基礎力は、新入社員への研修で取り入れられるだけのものではありません。終身雇用制の崩壊や少子高齢化による慢性的な人材不足、さらには人生100年時代へ長寿化したことで、この30年かけて日本のキャリアモデルは大きく変容しました。新卒で入社した企業で定年まで働き、定年後は余生をゆっくりと過ごすという人生設計は一昔前のモデルとなりました。
現代では転職が一般化しており、人材の流動性が高まっています。このような流れの中で、新しく組織に入社する人にとって自分の能力を発揮していくためには、社会人基礎力を欠かすことができません。また、人材を受け入れる側にとっても重要な能力です。
■参考記事はこちら
「社会人基礎力とは?働く上で必要な基礎的な能力と具体例、高めるポイントを解説」
社会人基礎力を把握しておくメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
社会人基礎力は業界や職種、また年齢を問わず、働く人すべてに共通して求められる力です。どのような仕事であっても、他者と関わることなく進めていくことはできません。このため社会人基礎力が身についていない人は、どんなに学力や知識があって優秀だったとしても仕事をスムーズに進めることは難しいといえます。
社会人基礎力を身につけられれば、従業員それぞれのスキルアップが図れます。スキルアップすることで仕事の幅が拡大し、主体的にキャリア形成を行うこともできます。この従業員のスキルアップは、会社に帰属するものではなく、個人に帰属するため、ポータブルな能力として転職したとしても次の仕事で役立てられます。
また、社会人基礎力を身につけると、コミュニケーション能力もアップし、チームや組織で業務活動する力もアップします。また、時代の変化も大きい今、社会人基礎力は、継続的に学び続けることが重要です。
文部科学省は、継続的に学び続ける「リカレント教育」を推進しており、国家として社会人基礎力の向上を目指し、支援策を打ち出しています。
社会人基礎力を高め、「どう活躍するか」を主体的に考えることで、自らのキャリアを切り拓きやすくなります。前に踏み出す力にある3つの能力要素「主体性」「働きかけ力」「実行力」は、まさに自分ごととしてキャリアを捉え行動していく上で活きる能力でしょう。
社会人基礎力を身につけると、スキルや能力が備わっている人材であると組織から認知されます。また、チームのメンバーや企業から求められる存在となり、転職を考える際にも企業から求められる人材になり、結果的に自分の目指すキャリア形成を実現しやすくなります。
企業は、主体的に考え行動できる「自律型人材」を求めています。人事担当者としても、人材の考えや行動を観察し、主体性を持って行動を起こし、企業の成果につながりやすい人材かどうかを重要視しています。
そのため、社会人基礎力を身につけて自律型人材へと成長することができれば、多くの人や組織・企業から求められ、自分が進みたい道を拓いていくことができます。
IT革命や働き方改革など、激しく変化する時代において、仕事を行っているとさまざまなイレギュラーに遭遇します。そんなこれまでの事例になかったような出来事に遭遇した際でも、高い社会人基礎力を身につけていると落ち着いて対応していくことができます。
どんな不測の事態であっても、しっかりと考え行動することで答えが見えてきます。12要素からなる社会人基礎力を身につけていれば、柔軟な対応が可能です。
たとえば、予想外の出来事が発生したときには「情況把握力」を活かして、いま置かれた状況を認識し、次に「課題を発見する」し、そして「その課題を解決するためのプロセスを考え抜く」、さらに「課題解決のための計画を立て、実行する」という順に沿って考えていけば、未知の出来事にでも対応できます。
このように社会人基礎力を身につけることで、想定外の出来事に慌ててしまわずに、臨機応変な対応ができるようになるのです。社会人の基礎力は、変化の激しい時代では必須の能力です。
個人としても社会人基礎力は臨機応変に対応できるようになりますが、組織の視点でみても、予測不能な現代において、変化を当然の事象と捉えて柔軟に対応できる従業員がいれば、新たなビジネスにも対応しやすい組織になるでしょう。
社会人基礎力を診断するには、無償のチェックシートを使う、あるいは有料の診断サービスを活用するなどがあります。それぞれのサービスについて紹介します。
社会人基礎力を鍛えるためには、まずは、自分を知ることから始めましょう。
社会人基礎力の診断方法は、無料で行う自己診断テストから、企業が有償で提供している診断テストまで、様々あります。
無料で利用できるチェックシートには、経済産業省と厚生労働省が配布している2つが有名です。
これからインターンシップに参加する学生を想定して作成されたシートですが、その内容は、社会人が自分自身の働き方を振り返ることで「社会人基礎力」を自分でチェック、見直すシートとしても活用できます。
このワークシートは社会人基礎力をセルフチェックできる、誰でも使える汎用的なワークシートです。セルフチェックに向き合うことで自分自身の基礎力を見直すきっかけになることでしょう。
有料診断テストのよいところは、自己評価だけではなく、全国平均や他者評価との比較ができるところです。多面的な評価によってさまざまな視点からフィードバックが得られます。
マイナビが提供する自己分析ツールです。自分の強みや弱みを理解し、最適なキャリアを設計するための支援を目的としています。マイナビのサイトに会員登録すると、ツールが利用できます。
この社会人基礎力診断(Web-ST)は、社会人基礎力を診断するために日本経営協会が独自に開発したアセスメントツールで、【自己診断版】と【過去結果比較版】があります。いずれも、受講者が自分の「強み」と「弱み」に気づき、今後の自己開発やキャリア形成に役立てることができます。
『社会人基礎力』の「3つの能力(アクション・シンキング・チームワーク)」と、それを構成する「12の能力要素」を本人及び上司(育成担当者)の双方の目線で診断します。
比較グラフやチャートに落とし込むことで、若手の能力を可視化することができます。資料ダウンロード/お問い合わせから申込みます。
経済産業省が配布しているのが「社会人基礎力自己点検シート」です。ここではシートの使い方や記入例について説明します。
経済産業省が作成した『社会人基礎力自己診断シート』のWordファイルも無料で手に入れることができます。
このシートはインターンシップ前にあなたの社会人基礎力、強みと課題を自己点検するためのものですが、社会人にも自身の働き方を振り返り「社会人基礎力」を点検するシートとしても活用できます。
シートの構成は12の要素ごとに設問が1問ずつの合計12問あり、それぞれの項目に対して1〜5の5段階で回答します。比較的、短時間で簡単に診断することができます。
自己点検欄では3つの能力・12の能力要素について事実ベースの根拠を明らかにしつつ、5段階評価を行います。根拠となる事実について深く省みることで、自分自身を客観的に見つめる機会にもなります。
社会人であれば、自己点検したシートをチームや組織などの中で共有することで、自己理解が深まる可能性があります。たとえば自分としては「不十分だと思ったが案外できている」、あるいは「得意だと思っていたが足りていない」など、他者との相対的な比較から気づきが得られ、より本質的な自己理解が進むことにつながります。
厚生労働省では「エンプロイアビリティチェックシート」を配布しています。シートの使い方について説明します
「エンプロイアビリティチェックシート」は、従業員の就職基礎能力(雇用され得る能力)と社会人基礎力という2要素を確認できるチェックシートです。このシートを活用することで、自分の得意な分野や苦手な分野を確認する、現状の能力を把握したりする、あるいは訴求力のある自己PR材料を洗い出すことに役立ちます。
客観的に従業員の能力を測れるため、人材評価においても活用したいチェックシートです。
シートは6ページあり、1ページと2ページは、エンプロイアビリティのチェック内容で、3ページ以降6ページまでが、社会人基礎力の内容です。質問内容には専門用語が入っていますが、注釈説明が付いておりますので、回答には差支えないと思います。
■PDFで全ページご覧いただけます
仕事をする上で、誰にとっても社会人基礎力が必要です。自分を成長させ、仕事で成果を出すために大切な社会人基礎力は、すぐに身に付けられるものではありません。いったいどのようにすれば社会人基礎力を高めることができるのでしょうか。社会人基礎力の鍛える方法について7つご紹介します。
社会人基礎力を向上させるには、まず「どの力を鍛えるか」を明確にしてから取り組むようにすることが重要です。
何を強化したいのかを明確にしないままやみくもに研修などに参加していくと「社会人基礎力がどうして大切なのかわからない」「なぜこの研修に参加しているのか、意義が感じられない」という状態に陥ってしまい、せっかくの研修での学びの効率が落ち、社会人基礎力の向上は期待できないでしょう。
一体自分はどのような目的のために、何の力を鍛えたいと思っているのかを明確にしておく必要があります。具体的な目標を設定し、その道筋をシミュレーションしてみることが大切です。
また、従業員自身が個人的にやりたいことを目標として掲げるのではなく、組織として周囲が従業員それぞれに対して何を期待しているのかも取り入れながら目標を設定します。自分の成長が会社の成長にもつながるということを意識してもらいましょう。
社会人基礎力は、自分を客観的な視点から評価することが大切です。
自己評価と他者評価(他己評価)は異なります。自分ができていると感じていても、他者からみれば能力が不足していると思われることもあります。逆に、自分が劣っていると思っている部分を高く評価されていることもあります。
中立的な視点から自分の社会人基礎力を評価するには、自分で俯瞰する、また他人から客観視してもらうという方法があります。社会人基礎力の評価にはチェックシートを利用したり、上司や同僚からの意見を聞いたりすることで、自分の強みと弱みを把握すると良いでしょう。
これらの方法によって的確に自己分析できれば、自分の強みがなにかを捉えることができますし、また不足する能力や鍛えるべき能力が明らかになります。
社会人基礎力を向上させるには、自分の社会人基礎力の課題を捉えて改善計画を立てることが大切です。そして、改善計画を実施し検証を続けていくことで、客観的にみても社会人基礎力が高まっていきます。
どのような力でも身につけたいならば、つねにそこに意識を置いておく必要があります。たとえその力が備わっていたとしても、意識して発揮しようと思わなければ行動として習慣化されず、いつまでたっても改善や向上が実現できません。
社会人基礎力は日頃から意識することで、自然と身についていきます。そして、業務に生かそうとすることで、応用力も上がってきます。例えば、自分には主体性が足りないと感じている社員の場合には、自分から積極的に行動しようと心がけることで活動の範囲が広がる可能性があります。
また、社会人基礎力が当たり前のように発揮されるようになるには、自分の現状を手帳に書きとめておくなども効果的です。目標を文字にして見える化し達成を目指すなど目に見えるかたちにすると、社会人基礎力について意識していくことにつながります。
社会人基礎力を高めるには、自分の現状を分析して得意と不得意を把握した上で、得意な能力を更に向上させる方法と苦手な分野の能力を平均レベルまで引き上げる方法があります。
一般的に、得意分野は取り組みやすく、苦手分野は取り組みに対して消極的になりがちです。しかし、苦手の克服が社会人基礎力を大きく高めることもあります。
たとえば、観察力や創造力、実行力を兼ね備えた人材でも、協調性に欠けチームプレイが苦手だという人もいます。周囲の協力がないため優れた能力を発揮できない場合、苦手とする「チームで働く力」を身につけることに取り組むことが重要です。
周囲とのコミュニケーションを取る努力をし、他人の意見に耳を傾けることによって、はじめて自分の意見を聞いてもらえるようになります。協調性が鍛えられていくと、次第にチームや組織からの協力を得られるようになり、もともと備えていた力が発揮されるようになります。
社会人基礎力を鍛えるために取り組みをはじめたら、折を見て振り返りの時間を持つようにしましょう。取り組みの内容や方向性は目的や目標からずれてないか、どの程度、力が身についたか、またはより良い推進方法や改善策はないかなどについてチェックしましょう。
定年後にも働く人が増えている現代では、社会で活躍する期間がこれまで以上に長期化する可能性が高いといえます。社会人基礎力を身につける取り組みを始める際に、一度自分の現状を把握したことで終わりにするのではなく、取組みについて振り返りをする、再度自己診断をするなど、自己把握をつねに行っていくことが重要です。
また、定期的に自分の現状を測るために診断することによって、今何を学ぶべきかを理解できるだけでなく、過去からの変化感も含め把握することができ、何が上手くいって何が上手くいっていないのか、自己成長のためのPDCAサイクルを回すための指標として活用することができます。
まとめて一括での振り返りではなく、小さくでもこまめに振り返りをし、自分の成長を含めて自分の現状認識を更新していくことは、社会人基礎力を効果的に鍛える方法の一つです。
社会人基礎力の向上には、フィードバックによる客観的な評価も効果的です。社会人基礎力というのは数字で評価することができません。そのため、周りの評価が基準になるのです。
従業員が自分で振り返り、それを改善に活かすという方法も有益ですが、自分の意見や考えにはどうしても主観が入ります。自分の行動や経験を振り返る際にどれだけ客観視することを心がけても、自分での振り返りにはバイアスが入り現状とずれてしまっていることもあるため、客観的な評価を受けることが非常に重要です。
上司や同僚、仕事で関わりのある人などからのフィードバックを取り入れていけば、自分では意識していない部分に気づきをもらえる可能性があります。また、自分は知らなかった取り組み方や、改善策を提案してもらえることも期待できます。
研修会社や大学などで実施している人材育成研修などに参加して、自分の社会人基礎力についてのフィードバックを得ることもおすすめです。第3者の目によって徹底的に自己分析してもらえます。
多くの企業が抱える課題の1つに人材育成があります。従業員にさまざまな育成プログラムを提供して、人材教育を推進している企業も多数あります。社会人基礎力向上をメインとした研修でなかったとしても、能力育成の研修制度などを受けることによって結果的に社会人基礎力の向上につながっていることもあるでしょう。
企業が能力の育成を支援する方法としては、OJTや研修、学習費用の支援、配置転換、インターンシップなどが挙げられます。従業員に効率的に社会人基礎力を身につけてもらうためには、社会人基礎力を身につけるための研修などを外部に依頼することも一つの方法です。
企業の人事部は、評価制度や研修などを通して社員同士が客観的に評価し合える環境を整備しましょう。360度評価を取り入れたり、社会人基礎力について学ぶ研修を実施して同僚からのフィードバックの時間を設けるなどによって、従業員の気づきを促すような仕組みやきっかけ作りが必要です。
現代のビジネスでは、短期間のうちに技術の進歩やトレンドの大きな変化が起こり続けています。その急激な環境変化や人材の流動化が進むなかで組織が柔軟に対応していくためにも、社会人基礎力が企業の維持や発展と従業員のキャリア開発・形成にとって社会人基礎力の向上は大きなメリットがあり、必要性が高まっているのです。
有料・無料のチェックシートを活用して、従業員の社会人基礎力を確認してみるのもお勧めです。診断によって見えてきた強みをより伸ばしていくことで、さらに効率的に成果を出しやすくなり、自信を高めることができるでしょう。
一方、弱みを鍛えることで能力のバランスが整い、これによって懸念されたリスクやこれまで起こったミスを減らすことが期待できます。強みと弱みの両方を鍛える方法もあり、従業員にとってのトータルでの成長と柔軟性の向上につながります。
社会人基礎力は今後の飛躍的に変化していくビジネスの環境の中で必須の能力と言えます。企業と従業員がともに重要性を認識し、協力して社会人基礎力を高めていくよう取り組んでいきましょう。