業務改善および生産性向上を目指す際、よく耳にする「平準化」と「標準化」。どちらも業務効率化や安定した成果の実現に効果的な取り組みですが、2つは言葉の意味も目的も異なります。
それぞれどのような違いがあるのでしょうか。そして、どのようにして業務に役立てるのでしょうか。
本記事では、平準化と標準化の違いに触れつつ、業務改善への活用方法や注意点に着目します。
平準化と標準化の違いを理解するためには、それぞれの単語の意味を知る必要があります。まずは「平準化」について探っていきましょう。
平準化とは「物事の偏りやバラツキをなくして均一化する」こと。ビジネスでは、業務の偏りやバラツキをなくす取り組みのことを指します。業務平準化とも言います。
一般的には「業務量を均一にすること」を指しますが、他にも難易度や実施するタイミング、生産物の種類など、さまざまな物事が均一化する要素となります。それらの偏りをなくして無駄を減らすことで、業務の生産性向上を図ります。
業務を平準化することで得られる主なメリットは、次の3点です。
多くの場合、業務平準化のねらいは、従業員一人ひとりの負担を軽くし、残業時間を減らすことにあります。特定の従業員に業務が集中しないようにタスクを調整し、チーム全体で支え合う仕組みを構築することで、負担の偏りを防ぎます。また、手持無沙汰な「ムダな時間」が減ることで、業務に要する時間そのものも短縮されます。結果として、従業員の健康維持、組織全体の生産性向上、人件費の削減といった幅広い効果が期待できます。
さらに、過大な業務量や負担を抱える従業員が退職した場合、組織の生産性が一時的に大きく低下してしまうリスクがあります。平準化は、このような属人化リスクを抑えるうえでも有効です。業務が特定の人に依存しない状態をつくることで、引き継ぎのしやすさが高まり、結果的に教育コストの削減にもつながります。
このように、平準化は組織と従業員の双方に大きなメリットをもたらしますが、一方で留意すべき点もあります。
たとえば、手すき時間をなくす過程で、一部の従業員の業務量が相対的に増える場合があります。「自分の仕事が増えた」と感じる従業員から、不満や抵抗感の声が上がる可能性も否定できません。
また、「偏りをなくさなければならない」という考え方が強くなりすぎると、状況に応じた柔軟な判断や対応がしづらくなる恐れがあります。「皆が均等であるべき」という意識が先行するあまり、従業員一人ひとりの得意分野や個性を十分に活かせなくなるリスクも考えられます。
そのため、何をどこまで平準化するのか、その範囲を見極めることが重要です。同時に、平準化に向けた従業員教育や体制整備など、事前の準備を丁寧に進めることが、組織に無理のない形で施策を根付かせるうえで欠かせません。
平準化の例をいくつか挙げてみましょう。
それでは「標準化」とはどういう意味なのでしょうか。言葉の意味や標準化のメリット、具体例を見ていきましょう。
標準化とは、バラバラな物事に秩序を持たせるため、ルールを設定すること。ビジネスでは、業務プロセスや手順を統一する取り組みを指します。業務標準化とも言います。
業務の標準化は、製品やサービスの品質、安全性、性能などを一定に保つことを目的として行われます。ルールや基準を設けることで、経験や能力に左右されることなく「誰もが同じように」取り組めるようになるのです。
その結果として、業務および成果物のクオリティ向上、組織の生産性向上が期待できます。
業務を標準化することで得られる主なメリットは、次の3点です。
業務フローや手順を標準化しておくことで、経験の浅い従業員であっても、一定以上の品質で製品・サービスを提供しやすくなります。いつ、誰が担当しても同じ手順で業務を進められるため、成果物のクオリティが安定し、結果として顧客満足度の向上が期待できます。
また、標準化の過程で作成されるマニュアルは、人材育成における「教材」としても機能します。教育担当者が一からすべてを口頭で説明しなくても、マニュアルを通じて必要な知識や手順を伝えられるため、指導にかかる時間や負担を軽減できます。教え漏れや、伝え方の違いによる認識のズレといったコミュニケーション上のロスも抑えやすくなります。
一方で、標準化には留意すべき点もあります。
標準化を進める際、「決められたルールを守ること」ばかりが重視されてしまうと、状況に応じた柔軟な判断や工夫がしづらくなる恐れがあります。「マニュアルに書いていないから」「決められていないから」という理由で、本来必要な一歩が踏み出せなくなるケースも考えられます。
また、新しいルールややり方に対して抵抗感を抱く従業員も少なくありません。「これまでのやり方の方がやりやすい」「ルールを守っても意味がない」と感じ、マニュアルを軽視・無視してしまう人が出てくる可能性もあります。
そのため、平準化の場合と同様に、「どの業務を」「どこまで標準化するのか」を見極めることが重要です。あわせて、標準化に取り組む目的や背景、現場にもたらされるメリットを丁寧に伝え、従業員が納得感を持って取り組めるように工夫することが欠かせません。
標準化の具体例をいくつか見ていきましょう。
平準化と標準化は、言葉の響きも似ています。しかし、2つは意味も目的も異なります。
業務を平準化することと標準化することはどう違うのか、どう使い分ければ良いか、活用方法と併せて違いを見ていきましょう。
平準化は「業務量や負荷を均一にする」という意味を持ちます。それに対し、標準化は「手順や方法を統一する」という意味です。不揃いなものを整えるという意味では共通していますが、その手段と内容は異なります。
また、平準化は「時間と労力のムリ・ムダをなくすこと」を目的として行われます。一方、標準化の目的は「サービスクオリティのムラをなくすこと」です。
効率化して生産性を高める、という最終ゴールは同じです。しかし、そこへたどり着くまでのプロセスは違います。どちらに取り組むべきか、状況に合わせて判断することが大切です。
平準化と標準化では、取り組みの内容が異なります。では、実際の業務の中で、いつ・どのように使い分ければよいのでしょうか。それぞれに適したシーンを整理してみましょう。
まず、平準化は次のような状況に適しています。
一方、標準化が有効なのは、例えば次のようなケースです。
従業員のスキルや経験に差がある場合は、まず業務を標準化することで、その差を小さくしていくことができます。逆に、誰が担当しても成果物の量や質がほとんど変わらない状態になっていれば、業務量や負荷を平準化しやすくなります。つまり、標準化は平準化を進めるための「前提づくり」として機能する側面もあると言えるでしょう。
飲食店を例に考えてみましょう。店舗ごと・担当者ごとに調理方法にバラツキがある場合、レシピや手順をマニュアル化することで標準化が可能になります。誰もが同じ手順で、同じ品質の料理を提供できるようになれば、担当者が変わっても料理の質は安定します。そのうえで、手の空いた従業員が調理業務を担えるようになれば、人員配置の自由度が高まり、結果としてチーム全体の生産性向上につながります。
このように、現場の状況に応じて平準化と標準化を組み合わせて活用することで、より高いレベルでの生産性向上が期待できます。
では、業務を平準化・標準化するには、どうすれば良いのでしょうか。取り組みの流れと、それぞれの工程における注意点について解説していきます。
平準化・標準化の取り組みが無駄にならないよう、まずは目的を明確にします。何のために行うのか、効率化することでどのようなメリットがあるのかを明確にすることで、取り組みの方向性が定まります。
目的と共に目標も設定します。残業時間を〇〇時間にする、エラーの発生件数を〇〇件以下にするなど、具体的に決めるのがポイントです。
また、スムーズに進めるため、取り組みの流れも整理しておきます。いつまでに目標を達成したいのか、準備と運用それぞれにどれほどの期間を設けるのかなど、スケジュールを設定しましょう。関係者全員が「誰が」「いつ」「何をするのか」を把握している状態を作ることが大切です。
次に、現状を把握するための「見える化」を行います。業務の内容や手順、業務量などを可視化し、分析することで、組織の課題が絞られていきます。
現在の状況を正確に把握できるよう、細かく具体的に調査するのがポイント。例えば、以下のような調査項目が挙げられます。
これらを可視化し、問題点を分析します。平準化・標準化によって問題が解消されるか、それとも別の対策が必要かを考えながら進めるのがポイントです。
調査する際は、現場へのヒアリングも欠かせません。従業員に問題意識を持たせるためにも、調査の段階から現場を巻き込みましょう。
問題点が絞られたら、次に「取り組みの方向性」を定めます。平準化と標準化、どちらの方法で改善すべきか検討しましょう。
見極めのポイントとして以下が挙げられます。
「作業時間や業務内容に差がある」「一部の従業員の残業が多い」といった業務は、平準化によって問題が解消されると考えられます。「業務の質や成果物の質にバラツキがある」「引き継ぎに時間がかかっている」業務は、標準化するのが適切でしょう。
また、問題のある業務が複数浮上した場合は、優先順位をつけます。はじめに決めた「組織の目的・目標」に直結する業務から優先的に取りかかりましょう。
方針が定まったら、次に具体的な施策・戦略を検討します。平準化と標準化では打ち手が異なるため、それぞれの目的に沿って施策を整理していきましょう。
「業務量をどう分配するか」に意識が向きがちですが、業務そのものの廃止や自動化も平準化に直結します。ムダな作業や時間が削減できれば、「業務負担を減らす」という本来の目的は達成されるからです。他の従業員へ作業を割り振る前に、その業務は本当に必要か、自動化できないかを必ず検討しましょう。
業務の自動化は標準化にも有効です。コンピューターに任せることで、作業手順のバラツキや品質のブレを抑えられます。
マニュアルを作成する際は、作業担当者の中で「最もクオリティが高く、かつ効率的に業務を遂行している人」をモデルにするのがポイントです。理想とするやり方を基準化することで、組織全体の業務クオリティと生産性の底上げが期待できます。
施策を決定したあとは、具体的な実行方法、担当者、スケジュールを明確にしておきましょう。あわせて、進捗を確認する方法やサポート体制、コミュニケーション手段なども整理しておくと、その後の運用がスムーズになります。
いよいよ施策を実行に移すフェーズに入ります。施策実施期間中は、モニタリングすることが重要です。
施策が計画通りに実行されているか、監督者やプロジェクトチームが定期的にチェックし、管理しましょう。KPIを設定し、それらを基準に進捗を確認するのがコツです。定例会議など現場と情報を共有する場を設け、問題が発生した際はすぐに原因追及、軌道修正しましょう。
施策実施期間が終了したら、必ず振り返りを行います。平準化・標準化により何がどのように変化したのか、目標を達成できたか、どのようなトラブルが発生したかなど、現場の従業員と共に話し合いましょう。
一度の取り組みで、業務が完璧に改善されるケースは稀です。原因を分析し、改善策を打ち、成果を確認する……このサイクルを繰り返すことが大切です。
平準化・標準化に向けた取り組みは、なかなかスムーズにいかないものです。施策の効果を実感できなかったり、むしろ逆の効果が現れたりと、さまざまなトラブルが発生します。
完璧は不可能でも、可能な限り失敗は減らしたいところです。どのような問題が起こりうるのか、以下の5つの失敗例を見ていきましょう。
組織の変化に不安・不安を抱く人は少なからず存在します。従業員が取り組みに対して消極的、指示どおりに動いてくれない……なんて経験がある人も多いのではないでしょうか。
現場の従業員、つまり「実行者」と「企画者」の認識がズレていると上手くいかないものです。業務改善どころか、かえって効率が下がることさえあります。
そのため、平準化・標準化を導入する際は、目的の明確化および共有が重要だと言えます。企画する段階で従業員を巻き込み、認識を擦り合わせておきましょう。
また、従業員の意見に耳を傾けることも重要です。共に考えよう、寄り添おうとする姿勢が、組織の団結力を高めます。取り組みを成功へと導く”土台作り”として、積極的なコミュニケーションを心掛けましょう。
平準化・標準化すれば業務効率は上がるもの、と思い込みがちですが、必ずしもそうとは限りません。ルールを設けることで、むしろ業務がスムーズに進まなくなることもありますし、従業員の主体性が下がるリスクもあります。自ら「どうすれば効率よくできるか」考え、行動する機会を奪ってしまうのです。
ゆえに、平準化・標準化すべきか見極めること、そして優先順位をつけることが重要です。特にクリエイティブ性が求められる業務には、臨機応変な対応を許可する「余白」を持たせるようにしましょう。平準化・標準化することが正義である、と決めつけないことが大切です。
平準化・標準化に向けて取り組む際は、最終ゴールにたどり着くまでの「小さな目標」を設定します。マニュアルの完成や、業務の可視化および仕組みづくりなどが例です。
しかし、それが思わぬ落とし穴となることがあります。目的のすり替えが起きる可能性があるのです。
どれほど”質の高い”マニュアルを作成しても、生産性が上がらなければ意味がありません。組織は最終的にどうなりたいのか、何をどう変えたいのか、本来の目的を見失わないことが大切です。KPI設定時や進捗を共有するときなど目安に、目的・目標を確認する機会を定期的に設けましょう。
典型的な失敗例のひとつ「やりっぱなし」。マニュアルを作成・共有するだけ、従業員に指示するだけで終わらせる”やりっぱなし”は、組織の成長を妨げます。従業員も、自身の努力が無駄になったと感じ、モチベーションを失ってしまうでしょう。
そもそも、観察や振り返りをしなければ、施策が失敗したのか成功したのかさえわかりません。施策実施中のモニタリング、終了後の振り返りと原因分析、その後の定期的なチェックを徹底しましょう。
IT化は、業務効率の向上に効果的な手段です。しかし、ツールの導入には時間がかかります。準備期間があまりに長いと、取り組みにスピード感がなくなり、従業員のモチベーションを維持できなくなる恐れがあります。
IT化に取り組む際は「本当にツールを導入する必要があるか」を考えることが大切です。
例えば、クラウド型のツールを使えば、業務の進捗をいつでもどこでも共有できて便利です。しかし、「朝礼でホワイトボードに進行状況を書き出し、共有する」「共有した情報をもとに作業を振り直す」といった方法でも平準化することは可能です。
アナログの方法であれば、比較的早く運用を開始できます。そこで成功体験を積むことにより、業務改善に対する従業員のモチベーションが上がることもあります。
IT化に囚われないこと、いま何ができるか、何をすべきか柔軟に考えることが重要です。
平準化も標準化も、目指すゴールは同じです。しかし、どちらの方法で生産性向上を目指せば良いのかは、その時の状況によって異なります。
業務負担のムラを減らすべきか、取り組み方のムラをなくすべきか、現場の従業員と協力しながら適切な判断を下すことが重要です。もちろん、どちらかに絞る必要はありません。両方実施した方が良い場合もありますし、両方不要な場合もあります。
組織を成長させるには、どうすれば良いのか。現状を客観的に見つめる力、柔軟に考える力が成功へと導くでしょう。