企業が成果を出し成長し続けるためには、メンバーをチームの目標達成に向かって力強く率いてくれるリーダーが必要です。しかし、変化の激しい現代のビジネス環境においては、リーダーが強いリーダーシップを発揮するだけではチームが成果を生み続けることが難しくなっています。
今、リーダーをさまざまな形で支えるフォロワーシップを持ったメンバーの存在が注目されています。
そこで今回は、フォロワーシップの概要、リーダーシップとの違いやフォロワーシップの5つのタイプ、実践するためのポイントについて詳しく解説します。
フォロワーシップは、アメリカにあるカーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授が著書「The Power of Followership」の中で提唱したものです。
フォロワーシップとは、部下やチームメンバーが、組織の目標達成のために上司やリーダー、他メンバーに働きかけ支援することです。具体的には、上司の意思決定や行動が間違っていれば意見を提言し議論を促す、リーダーの手が回っていないメンバーのサポートなどを自主的に行う、などの行為を指します。
フォロワーシップを発揮するには、チームや組織全体という広い視野で考えることが欠かせません。単にリーダーに従順に行動するだけではなく、組織の成長や発展のためにできることを自ら見つけ、積極的に支援していく意識が求められるのです。
ロバート・ケリー教授の調査によると、組織が出す結果に対してリーダーが及ぼす影響力は10〜20%程度だといいます。一方、フォロワーが及ぼす影響力は、80%〜90%にのぼるそうです。この内容から、チームの成果を最大化させるには、フォロワーシップが欠かせないと分かります。
現代のビジネス環境は急速に変化しており、組織のリーダーではないフォロワーも、能動的な判断や行動が求められるようになっています。
リーダーシップとは、組織やチームをまとめ、目標達成に導く力を指します。ビジョンや方向性を示し、共有することでチームを率いていきます。
一方、フォロワーシップとは組織やチームのリーダーの指示やビジョンに従順に従い、サポートする能力や態度を指します。
組織において、リーダーが方向性を決めて、業務プロセスの流れを示します。フォロワーはその目標を達成するための具体的な計画や手順、手法を考えて実行するという役割を持ちます。
プロセスがスタートしたら、リーダーは全体の進捗管理をし、滞りがないように指揮をします。フォロワーはリーダーが示したビジョンをフォロワーが具体的な行動計画に落とし込み、当事者として業務を遂行していきます。
このように、リーダーシップとフォロワーシップというのは、同じ目標や成果に対して上位と下位の立場に立って、お互いに助け合う関係にあります。組織を成功に導くには、どちらかだけでは効果が低く、相互に影響しあうことで、組織として成果をあげることができます。
いま、どうしてフォロワーシップが求められているのでしょうか。ここではフォロワーシップが注目されている理由を4つ解説します。
日本企業の多くが深刻な人材不足という課題を抱えています。これによりリーダーや管理職は、マネジメントだけでなく現場の実務も担うプレイングマネージャーが増加していて、リーダーの業務負担が増えており、問題となっています。
そのため、負担が増加している管理職をサポートするフォロワーシップが求められているといえます。強力なリーダーの存在よりも、リーダーの下でメンバー全員がフォロワーシップを発揮する組織が求められています。
前述のカーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授の調査によると、組織が出す結果はメンバーの及ぼす影響力にかかっているといいます。チームとして成果を最大化させるには、メンバーのフォロワーシップが欠かせないといえます。
現代はビジネスを取り巻く環境の変化が大きいため、従来のトップダウン型の組織では、その変化に対応するのが困難になりつつあります。このため、メンバーの自律的な行動が重視されていることも、フォロワーシップが必要とされる理由です。さまざまなメンバーが自発的に提言し、リーダーの指示に対する軌道修正を促すようなフォロワーシップが求められています。
労働環境の変化、働き方の変化も、フォロワーシップが注目される理由のひとつです。
働き方改革によって今はリモート勤務など柔軟な働き方が増えており、直接リーダーシップを発揮しづらい環境に変化しています。そのため、従来のようなリーダーが強いリーダーシップで一人でチームをけん引してていくような組織では、今まで通りの成果を挙げることができないケースがあります。
組織として成果を出すためには、リーダーとリーダーを支えるフォロワーが協調関係を作り上げることが必要です。
フォロワーシップのデメリットとはどのようなものなのでしょうか。
間違ったフォロワーシップは、チームや組織のパフォーマンスに悪影響を及ぼし、目標達成を困難にすることがあります。間違ったフォロワーシップには、以下のような特徴があります。
仕事に対する姿勢が受け身となっているフォロワーは、自ら積極的に行動を起こさず、指示されたことのみをこなします。一見、従順に見えますが、指示がない仕事に対しては、気づいていても決して自ら手を出すことはありません。しかもそれがチームの一員としても正しい姿であるという誤った認識をしています。
リーダーの方針やチームメンバーの意見に対して、間違いの指摘や批判を繰り返すフォロワーは、チーム全体のやる気を押し下げてしまいます。
本人は間違いを指摘したことで自分の任務を遂行した気になっており、そこから先の改善のための具体的な提案などは行いません。
これまでの慣習ややり方を良しとし、作業の仕事のやり方が変わることを嫌うフォロワーもいます。変化を嫌い、現状維持を良しとしているため、ときにはリーダーの指示より、これまでの方針や過去のリーダーの意見に従います。
変化を嫌がるメンバーがいることで、仕事のスピードや生産性において、時代に合わせた業務改善が滞る恐れがあります。
間違ったフォロワーシップが発揮されることのひとつに、コミュニケーションの問題があります。コミュニケーションがいつもリーダーからその人への一方通行にしかならず、話はしていても、意思の疎通は図れていない、コミュニケーション不足という状態に陥ります。
フォロワーシップが過剰に強調されることで、個人の主張や発言力が弱まったり、個人の役割だけに徹して全体を見なくなるなど、組織全体に悪影響を及ぼす可能性もあります。
フォロワーシップはリーダーシップと両軸で組織を推進していく力となるものですが、間違ったフォロワーシップが取られないよう気をつけなければなりません。
フォロワーシップのタイプはロバート・ケリー教授の理論によって5つのタイプに分類されます。
リーダーの決定や指示、役割を自分で深く考え、建設的な批判や提言を行うことができる「批判的思考」と、リーダーの決定や指示、役割を前向きに捉え、実現に向けて積極的に協力することができる「積極的関与」の2つの軸でとらえ、それぞれの度合いによって5つに分類したものです。
ここでは5つのタイプについて解説します。
模範的フォロワーとは、批判的思考と積極的関与の傾向がともに高いフォロワーで、いわゆる「右腕」といわれる部下、チームメンバーです。
批判に終わるのではなく、建設的な提言をリーダーに行いながら組織に貢献することができる、最も理想的なフォロワーです。
模範的フォロワーは、リーダーの意見や方針について主体的な考えを持っており、必要に応じて建設的な批判や提言を行います。
一方で、リーダーの意見が正しいと感じた場合には素直に受け入れ、積極的に取り組んでいくのも特徴です。
また、単に個人のプレイヤーとして動くだけでなく、必要に応じてメンバーをまとめ上げたり、自らコミュニケーションを図ったりすることもできます。
チーム全体をまとめる力もあり、リーダーが不在の場合にはリーダーに代わってチームを率いていくことができるほど理想的なフォロワーです。
孤立型フォロワーは、批判的思考の傾向が高く、積極的関与の傾向が低いタイプのフォロワーです。批判はするが組織への貢献意欲が低いため、自らは実行しない評論家的なフォロワーです。
孤立型フォロワーは、鋭い批判力や建設的な提言ができる理論型のタイプともいえます。チームの計画やプロセス、目標達成状況などについての観察や分析がしっかりとできています。また、改善すべき内容や具体的な解決策についても提案するスキルを持っています。
一方で、組織の動きや必要な業務に積極的に関与しようとする姿勢が不足しており、チームの輪を乱してしまうこともあります。
孤立型フォロワーには組織への貢献をきちんと意識させることで、実力のある理想的なフォロワーへと変貌を遂げる可能性があります。
順応型フォロワーは、リーダーの決定や指示に従順に従うフォロワーです。批判的思考の傾向は低く、積極的関与の傾向が高いフォロワーを指します。
リーダーの意向や方針には忠実に従い、批判をせずにそのまま実行していくのが特徴で、素直で真面目に業務に取り組みます。
順応型フォロワーは指示された通りに業務をこなしていくため、安定した成果をもたらしてくれる存在です。
一方で、具体的な指示がなければ動けない「指示待ち」の傾向があります。また、自らの思いや考えを提案することはないため、リーダーの指示が間違っているとしても、軌道修正のきっかけをもたらすことはできません。
順応型フォロワーに対しては、会議の場で発言の機会を増やしてみるなど意見を引き出す働きかけによって、さらに良いフォロワーシップを発揮できるようになるでしょう。
消極的フォロワーとは、批判的思考、積極的関与がともに低い傾向にあるフォロワーであり、模範的フォロワーとは対照的な存在です。
自分の意見も持たず、組織への貢献のための行動もしないという特徴があります。仕事に対するモチベーションや責任感が欠けており、組織への貢献度が低いフォロワーといえます。
消極的フォロワーには、仕事の意義や目的、面白さを伝えて、「やりがい」を感じてもらう必要があります。業務への希望や目標を聞き出し、じっくりとモチベーションを向上させていく働きかけをしましょう。
また、職場の人間関係など業務以外への不満からやる気を失い、消極的フォロワーへと変化してしまうこともあります。たとえば定期的に1on1ミーティングを実施し、悩みや意見を聞く機会を設けるのもよいでしょう。
「実務型フォロワー」は、これまで見てきたフォロワーのタイプとは異なり、批判的思考または積極的関与へ傾向が偏らず、中立的な立場を貫きます。自分の業務や役割はしっかりとやるため、一定の成果を残します。
一方で、自分に業務範囲外については積極的に関わることがない傾向があります。チャレンジ精神がないという側面もあります。
実務型フォロワーは、高い能力を持っていることが多く、組織への貢献度はけっして低くはありません。リーダーからの指示があればフォロワーシップを発揮できる存在です。
実務型フォロワーに対しては、背伸びをした高い目標を与えて、チャレンジさせることで、力を発揮し模範的フォロワーに近づけることができます。
フォロワーシップのある人の行動とはどのようなものなのでしょうか。ここでは具体的な行動例を5つ取り上げます。
フォロワーがリーダーの業務を積極的に仕事を引き受けることで、リーダーはリーダーにしかできない重要な業務に時間を割くことができます。
フォロワーシップを発揮して、自分の立場において引き受けられる役割を判断し、多忙な上司を支援するために自発的に行動します。
メンバーが積極的に業務を引き受けることで、リーダーはマネジメントに専念できるようになり、適切なリーダーシップを発揮しやすくなります。このためチーム全体としての生産性の向上が期待できます。
日頃からリーダーへの提言を積極的に行うことも、優れたフォロワーシップを持つメンバーが取る行動です。フォロワーからの提言があることで、リーダーは気づきを得ることにつながる可能性があります。また、フォロワーの提言から健全な議論を展開することができ、良い緊張感を持って組織運営に務めることができます。
また、フォロワーは、リーダーとの議論を重ねるたびにマネジメント側の観点から物事を考える経験が増えて、良い成長機会にもなるのです。
フォロワーは自分やチームなど近い関係の利益だけを意識するのではなく、組織や会社全体の目標達成に貢献することを第一に考えて行動することが求められます。
フォロワーはリーダーの指示の意図を理解してメンバーに浸透させることで組織全体のパフォーマンス向上に繋げる役割を担っています。組織で動いているからこそ、フォロワーも組織全体について考えることが大切です。
フォロワーが、より多くの人々の利益になるように配慮すると、今まで以上に視野が広がり、その結果、自らのリーダーシップも養われます。
組織の最終決定権を持つのはリーダーであることを意識して、自分の意見を述べてはいるが、最後はリーダーの決定を支持して、フォロワーとしてこの決定を全力でサポートすることが大切です。
リーダーによる最終決定に至るまで、フォロワーとして有益な提案を行い、チーム内で活発な議論を行っておく必要があります。それによって、リーダーは自信をもって意思決定することができます。
常に未来志向で物事を考えることもフォロワーシップのある人の強みです。未来に焦点を合わせていれば、過去の失敗や反省が未来を考えるベースになり、活かされます。
人間は感情に左右されやすいものです。未来を見据えてポジティブ思考で発言したり行動したりすると、チーム内に明るい希望が生まれ、組織全体が生き生きとして行動するようになります。
社員のフォロワーシップを育成するためのポイントとはどのようなものなのでしょうか。ここでは、組織のメンバーに対してフォロワーシップを育成していくために意識すべきポイントを解説します。
従業員に優れたフォロワーシップを発揮してもらうためには、5つのフォロワーシップタイプのうち、自分のフォロワータイプかどれかを知ってもらいます。
自分のフォロワータイプを把握できれば、自ずと取るべき行動も分かってきます。そのうえで、どうすれば模範的フォロワーシップになれるのか各自で考えてもらうとよいでしょう。
また、メンバーのタイプが分かれば、リーダーや組織としてもどうような対応をすれば模範的フォロワーに近づくことができるのか、把握でき、フォローアップがしやすくなります。
研修を行い、従業員にフォロワーシップがどのようなものであるのかを知ってもらうことも、フォロワーシップを育てるポイントのひとつです。
フォロワーシップの概要や期待できる効果についての座学研修やeラーニングを実施します。
上司を支援することが目的であるフォロワーシップは、フォロワーである部下が上司の求めることを理解しておくことも大切です。
リーダーとしての視点を持ってもらうためには、フォロワーがリーダーの仕事をシミュレーションできる研修を実施するのが効果的です。ロールプレイングを通して、リーダーの仕事を経験することで、「フォロワーとしてどのように振る舞えば貢献できるか」が明確に見えてくるようになります。
「フォロワーシップ」とは、リーダーの言うことに黙って従う、ということではありません。時には「その意見は正しいのか」と組織やリーダーの意見を批判的に考える力、つまり「クリティカルシンキング」の力も重要になります。
敢えて「批判的な視点」から考察することで、より良い解決策や発想が生まれることがあるからです。
しかし、メンバーからの意見や批判が単なる悪口や文句で終わり、生産的な意見が出ないことも多く見られます。
クリティカルシンキングは単なる否定や批判ではありません。成果を出すためには、単純に批判すれば良いというわけではなく、客観的な視点でリーダーの意見を考察し、批判できるかがカギとなります。
いかに優秀なリーダーであっても、その能力には限界があります。現代はテクノロジーの進化が劇的に進んでおり、ビジネスを取り巻く環境が急速に変化しています。この環境下ではリーダーの強いリーダーシップだけであるべき姿に導くことは極めて難しい状況にあります。
組織を率いるリーダーへの負担はますます大きくなっています。リーダーにも限界があることに対して、フォロワーが理解を示しながら、チーム全体の生産性を上げるために最適なサポート体制を整えていくことが求められます。
フォロワーシップを育成するポイントには、コミュニケーションをこれまで以上に取るように心がけることが挙げられます。
業務に関係ないことでも話し合い、従業員同士の距離を縮めておくことも大切です。リーダーとフォロワーの間に良い人間関係ができていると、意見や問題点を伝えやすくなり、信頼が生まれ、協力関係が築かれることが期待できます。
リーダーが意識的に個々のフォロワーを尊重し、彼らの意見やアイデアを重視することで、パートナーシップが強化されます。
メンバーとして一人ひとりの力はとても大切です。しかし、組織としてチームとして業務やプロジェクトに取り組んでいるという意識を忘れないようにすることが重要です。自分が、組織全体に対してどのように貢献できるかを考えましょう。
これは、与えられた業務を淡々とこなしていけば良いということではありません。さらに良いチームとなるための意見を持って提案したり、積極的に行動に移したりすることも、フォロワーシップを身につける行動として大切です。
今回はフォロワーシップについて解説しました。
企業を取り巻く環境の変化の激しい今、自社が成果を出し続け存続していくためには、経営層や各部署のリーダーだけの能力やリーダーシップだけではなく、その配下にあるメンバーの働きこそが重要になります。
リーダーシップと比べて目立たない資質と思われるかもしれませんが、フォロワーシップが組織に与える影響は大きいことから、今はその重要性が高まっています。
メンバーはフォロワーシップを発揮して、自分の置かれた立場で役割を果たしながら自発的にリーダーを支援、補佐していく動きが不可欠となります。また良いフォロワーシップを身につけることは、将来的にリーダーを目指す人にとってリーダーに必要なスキルを磨くための良い方法です。
組織やチームでフォロワーシップを持ったメンバーが育てば、リーダーが力を発揮しやすい環境が整い、施策を推し進めていくことができます。リーダーシップとフォロワーシップが両輪となって進むことで相乗効果を生み、成果を生み出しやすくなることが期待できます。