技術や知識を伝え、後継者を導き育てることを意味する「後進の育成」。専門家の功績に関するニュースなどでよく耳にしますが、実はビジネスシーンでも使われている言葉です。
本記事では、ビジネスにおける「後進の育成」「後進の指導」の意味や、言い換え表現について解説しています。また、企業が後進育成に取り組むメリットや、効果的に進めるためのポイントなどもご紹介していますので、役員候補、管理職者候補、部下、後輩の育成に悩んでいる方もぜひ参考にしてみてください。
後進の育成、後進の指導の「後進」とはどういう意味なのでしょうか。辞書には以下のように記載されています。
学問・技芸など、先人のたどった道をあとから進むこと。また、その人。後輩。
引用:「デジタル大辞泉」小学館
そして、育成とは「育て上げること。育ててりっぱにすること。」、指導とは「ある目的・方向に向かって教え導くこと。」です。
つまり「後進の育成」「後進の指導」とは、部下や後輩、弟子を教え導くこと、知識・技術・ノウハウなどを伝えて一人前に育てることです。学術や伝統技術を教え伝えることを意味する言葉ですが、ビジネスでは部下や後輩を育成・指導するという意味で使われます。
「後進」の類義語は「後学」です。後学とは「後進の学者」のことで、同じ学問の道に入った学者を指します。後進の育成・指導は、後学の育成・指導と言い換えることができるでしょう。
ビジネスシーンにおいては、後輩や部下の育成・指導と言い換えることができます。ベテラン社員が新人に知識やノウハウを伝えて指導すること、離職や異動を予定している社員が後任者を育てること、経営者や役員の候補者を育成することなどを指します。
ちなみに「後輩」も後進の類義語に該当します。ただし、後進は「同じ道を後から進むこと」を強調するのに対し、後輩にはそういったニュアンスはありません。後進育成と後輩育成は同じ意味で使われることが多いですが、厳密には違いがあるということを覚えておきましょう。
多くの企業が後進の育成に取り組むのは、なぜなのでしょうか。以下の6つのメリットについて見ていきましょう。
どれほど有能な経営者でも、永遠に働き続けることはできません。企業を存続させるためには、後継者が必要です。
つまり、後進の育成は、持続性のある経営の実現に繋がるといえます。企業のトップを担う人物を予め育てておくことで、経営者が退いた際、企業が業績不振に陥るのを防止できるのです。
経営者に限らず、役員や管理職も次期候補を育成することにより、安定的な経営を維持できます。人材の流動性が高まりつつある現代において、後進の育成は、企業が生き残り続けるのに欠かせない取り組みといえるでしょう。
持続可能な経営に取り組む企業は、社会から高く評価されます。コーポレートガバナンス・コードのガイドラインにも後継者計画に関する記述があるように、後進の育成は、企業価値を示す要素と認識されています。
自社の将来性をアピールする材料となるという点においても、後進の育成は企業にメリットをもたらす取り組みだといえるでしょう。
少子高齢化による人口減少、不安定な経済環境など、さまざまな課題を抱えている現代の日本。企業がこのまま国内で発展し続けるのには限界があります。今後は、グローバルなビジネス展開も視野に入れていく必要があるでしょう。
このように企業が変化を起こすためには、組織全体を動かす原動力が必要です。後進の育成は、その土台づくりといえます。次世代を担うリーダーを育てることで、企業改革を実現するためのパワーを身につけることができるのです。
環境に合わせて組織を変えていく力を持った企業は、市場競争において優位に立つことができます。想定外の事態が発生しても対応できる、変化に強い組織を構築できるでしょう。
企業が長く存続するには、中長期的な計画・戦略を立てることが重要です。そして、その戦略を実現するためには、長期にわたって組織をリードする人材が必要です。
しかし、リーダーを選出しても、病気やけがなどのやむを得ない事情で不在になる場合があります。後進の育成は、そのようなトラブルが発生した際の対策となります。組織を牽引する人物を予め育てておくことで、経営戦略が中断されるリスクを回避できるのです。
従業員の育成や意識改革、新規市場の開拓など、企業戦略の多くは実現までに多くの時間がかかります。メンバーが入れ替わっても継続して取り組めるよう、早いうちから後進の育成に注力することで、大がかりなミッションも実現しやすくなるでしょう。
経営者候補や管理職者候補など、後進を育成することは生産性の低下を防ぐことにも繋がります。
例えば、あるプロジェクトのリーダーが異動や退職で不在となっても、予め後進を育てておけばスムーズに引き継ぐことができます。知識やスキルが備わった部下が引き継ぐことにより、業務の質が落ちるのを防げるのです。
反対に、後進の育成を怠ると、リーダー不在時に誰も代役を務められない状態に陥ります。急遽後任者を選出したとしても、前任者と同等のレベルに成長するまでは、生産性が落ちてしまうでしょう。
必要最低限の知識をマニュアルに記載しておくことは可能ですが、実際に前任者に教わるときほど、高いスキルや細かなノウハウを身につけることはできません。生産性の低下を防ぐためには、経験者が企業に在籍しているうちに部下・後輩を教育する必要があるのです。
後進の育成に注力する企業は、従業員からも高く評価されます。「成長の機会を与えてくれる企業」「従業員を大切にする企業」という良い印象を与え、従業員エンゲージメントが高まる可能性があります。
また、企業が後進育成に取り組むと、従業員は自身のキャリアビジョンを描きやすくなります。キャリアアップの見通しが立ち、将来に対する不安が軽減されれば、離職の可能性も低くなるものです。よって、後進の育成は定着率アップに繋がるといえるでしょう。
後進の育成では、上司と部下、先輩と後輩のコミュニケーションが必然的に増えます。その結果として、組織のチームワーク力向上が期待できます。
やり方によっては、企業全体の団結力向上も見込めます。例えば、ある部署の部長が部下を育成し、その後ほかの部署に異動した場合、部署の壁を越えた人間関係を構築できます。指導を経て築かれた2人の信頼関係により、部署同士に「つながり」ができるのです。
組織全体のチームワーク力が高まれば、組織改革、生産性の向上、新たな価値の創造など、企業のさまざまな取り組みが実現可能になります。企業戦略を成功させるためにも、後進の育成に取り組むべきといえるでしょう。
次期経営者、役員、管理職者の育成は、企業の存続に欠かせない取り組みです。しかし、実施するもののなかなか上手くいかず、後進の育成が進んでいないと悩んでいる企業も多いことでしょう。
少しでも成功率を上げるためには、どのようなことが問題となりうるのか、課題を把握することが大切です。以下の5つの課題を参考に、対策を練りましょう。
後進を育成するには、教育スキルが必要です。スキルが不足していると、「学習者が教育内容を理解できない」「技術を習得するスピードが遅い」などといったトラブルが発生する可能性があります。
たとえベテランの社員でも、教えるスキルに長けているとは限りません。業務に関する知識やノウハウが豊富でも、人材育成の経験がなければ上手く教えることはできないでしょう。そのため、後進の育成担当者には、人材育成のスキルを身につけてもらう必要があります。
「教育する時間がない」「計画に沿って育成できない」などのような問題は、教育体制が整っていないことが原因と考えられます。後進を育てる環境が整っていなければ、失敗する可能性が高くなるものです。
後進育成のための環境とは、例えば以下のような状況を指します。
このような環境がなければ、指導者が大きな負担を抱えることとなります。その結果、業務と指導の両立が難しくなり、後進の指導に失敗しやすくなるのです。
後進育成のビジョンが不透明だと、指導も曖昧なものになります。何をどのように教えれば良いかわからないまま漠然と指導しても、部下・後輩は育ちません。成功しているのか失敗しているのか判断できず、問題が発生しても正しく対処できないでしょう。
また、教えられる側の部下・後輩も、育成ビジョンが曖昧だと不安を抱えてしまいます。学習スピードが下がるほか、目的も目標もわからず指導されることにストレスを感じるリスクも考えられるでしょう。
そもそも組織全体に「後継者を育てよう」「部下・後輩を育成しよう」という文化がなければ、後進育成は実現しないものです。計画を立てても通常業務を優先してしまい、育成・指導が後回しになる……といったことになりかねないでしょう。
また、後進育成の風土が根付いていなければ、従業員同士が協力して部下・後輩を育てることも難しくなります。その結果、教育担当者の負担が大きくなり、指導時間が確保できない、なかなか育成が進まないといった問題へと発展してしまうのです。
「成長したい」「キャリアアップしたい」という意欲のある従業員は、スムーズに成長します。しかし、後進育成の対象者が必ずしもそうとは限りません。後継者候補、幹部候補にと企業側から声をかけ、後進の育成が始まるパターンもあります。
そのような場合、対象者の自発性を促すのが難しくなります。自ら望んで学習しているわけではないため、「やらされている感」を感じてしまうのです。指導にプレッシャーを感じ、仕事に対するモチベーションが下がったり、ストレスを抱えたりする恐れがあるでしょう。
後進育成の取り組み方に正解はありません。しかし、どのように取り組めば良いか悩むことも多いでしょう。
そこでここからは、後進育成の大まかな流れをご紹介します。何から始めれば良いか迷った際は、ぜひ参考にしてみてください。
新しく入社した社員、新しい部署に異動してきた社員、役員候補に選ばれた社員……後進育成の対象者の状況はそれぞれです。教えるべき内容、適切な指導方法も異なります。
そのため、まずは現状を分析して把握する必要があります。持っている知識やスキル、担当業務の状況、対象者の意思、人間関係などを最初に分析しておくことで、計画的な後進育成の実現が可能になります。
ゴールという指標がないと、育成の進捗を確認することができません。成長を実感できず、モチベーションが下がる可能性もあるため、明確な目標を設定することが重要です。
部長やチームリーダーなど、役職につくために育成する場合は、その役目をまっとうするのに必要な知識・スキルを洗い出す必要があります。これといって明確な目的がない場合は、理想とする人物像を描くことで、方向性が定まります。目的に合わせて「何を」「どのレベルまで」習得すべきかを考えるのが、適切な目標を設定するコツです。
次に、目標を達成するための手段を決めます。後進育成の施策には、例として以下のような手法が挙げられます。
ゴール達成に必要な知識・スキル・経験を洗い出し、それらを効率よく学習できる方法を選びます。動画研修やeラーニングなど、デジタル技術を活用した学習を取り入れると、業務と育成を両立しやすくなります。
指導担当者と育成対象者の状況を見て、適切な施策を選びましょう。
施策が決まったら、次に具体的な計画を立てます。いつからいつまでに、誰が、どのような道筋で育てるのかを明確に決めることで、効率よくかつ着実に育成できます。
後進育成の最終ゴールは「企業戦略の実現に必要な人材を確保すること」です。そのため、企業戦略および人材戦略に沿って、育成計画を立てる必要があります。経営幹部と人事部の連携を強化し、話し合いながら計画を練りましょう。
また、経営者候補など、育成に時間がかかる場合は複数の段階に分けてスケジュールを設定するのがポイントです。ゴールまでに段階を踏ませることで、指導者と育成対象者、双方のモチベーションをキープしたまま育成を遂行できます。
準備が整ったら、いよいよ実行です。計画に沿って施策を行います。
しかし、後進の育成はスムーズにいかないことがほとんど。問題が発生した際、迅速に軌道修正できるよう進捗確認を行うことが大切です。指導担当者と育成対象者、管理者とで情報共有を徹底し、その時とるべきアクションを決めましょう。
なお、進捗確認には1on1ミーティングの実施がおすすめです。育成対象者の声に耳を傾け、自身の成長について考える時間を設けることで、主体性のある人材を育てることができます。
また、業務から離れて話し合うことにより、客観的な視点で状況を把握・分析できます。予め1on1ミーティングを行う日程をスケジュールに組み込んでおきましょう。
施策実施期間の終了後は、振り返りを行います。目標を達成できたか、なぜ達成できなかったのか、次の目標に向けて新たに施策を打つ必要があるのかなど、育成対象者と話し合いましょう。
次の目標が定まったら、再び「施策の策定」「計画」「実行」を繰り返します。このサイクルを回し続けることが、最終ゴールにたどり着くカギです。
後進の育成は人間を相手にする以上、なかなか上手くいかないものです。しかし、企業の衰退を避けるためには、なんとしても実現しなくてはなりません。
少しでも成功率を上げるには、どうすれば良いのでしょうか。以下の6つのポイントについて見ていきましょう。
どれほど後進育成に力を注いでも、育成対象者が離職してしまえばすべてが無駄になります。また一から教え直すこととなり、育成が間に合わない、企業戦略を実現できないといったことになりかねません。
教育担当者が離職した場合も、後進育成が中断されます。そうなった場合、新たに教育担当者を選出しなくてはなりません。部下・後輩に伝達される間もなく、知識やスキルが流出することになります。
よって、後進育成に取り組む際は、育成対象者・指導者の離職に注意する必要があります。労働環境の整備を行い、離職の原因となる要素を排除しましょう。
育成対象者のなかには、自身の成長をきっかけに転職を考える人もいます。スキルアップしたことで、より待遇の良い企業に移ろうと考えるのです。そのため、労働環境の整備に加え、成長に応じた適切な人事評価も必要といえるでしょう。
また、指導者側への人事評価も大切です。教えることにメリットを感じられるよう、改めて評価制度を見直しましょう。
後進の育成は、知識やノウハウを伝達することがゴールではありません。学んだことを活用し、自社で活躍する人材を育てるのが目的です。
そのためには、育成対象者に主体性を持たせることが大切です。目標設定は、主体性を育むスタート地点となるでしょう。自ら目標を設定することで「やらされ感」を軽減できます。
もちろん指導者や管理者のサポートも必要ですが、自分で考え、自分で決める習慣をつけさせることが重要です。
後進の育成を成功させるには、指導者の高い教育スキルが必要です。特に、OJTやメンター制度など、育成対象者と指導者が深く関わる教育手法では、指導スキルの高さが成功率に強く影響します。
よって、後進育成の成功率を上げるためには、教育スキルの向上が必要です。例として、以下のようなスキル・知識を学習させると良いでしょう。
また、通常業務との両立を実現するため、マネジメントスキルや時間管理能力、問題解決能力の習得も必要です。後進育成を成功させる備えとして、指導者の教育も視野に入れましょう。
後進育成で求められるのは、企業理念に沿って活躍する人材を育てること。よって、後進を育成する際は、企業ビジョンの共有を徹底することが大切です。
企業ビジョンを浸透させる手段はいくつかありますが、目標管理制度の活用は効果的な方法のひとつです。ビジョンをもとに育成目標を設定することで、自ずと企業が求める人材へと成長させることができるでしょう。また、企業ビジョンを絡めた教育カリキュラムを用意するのも効果的です。
後進育成とビジョンをうまく関連付けることが、企業に必要な人材を育てるポイントです。
後進を育成する際は、指導者の負担が大きくなるものです。そのため、組織全体でサポートできる体制を整えることが大切です。
例えば、OJTを実施する場合は、職場全体で協力し合えるよう業務体制の見直しが必要です。育成対象者が複数人いる場合は、トラブルに対処できるよう、後進育成の専門プロジェクトチームを発足するのも良いでしょう。
また、教える負担を減らすため、外部研修やセミナーに参加できる制度を導入するといった方法もあります。教育体制の整備は、指導される側の従業員の安心感にも繋がるため、改めて見直してみましょう。
後進育成が進まない原因として、指導時間を確保できない問題が挙げられます。デジタルツールの活用は、そのような問題の解決方法として有効です。
例えばeラーニングは、場所や時間に縛られることなく、育成対象者の都合の良いタイミングで学習を進められます。学習コンテンツを利用していつでも復習でき、教育担当者の負担も減らせます。
後進育成の対象者が多い場合は、動画研修が有効です。業務から離れられない従業員も、オンラインで公平に学習できます。
そのほか、育成対象者と指導者のサポートに役立つコミュニケーションツール、進捗を管理できる学習管理ツールなども、人材育成の効率化に役立ちます。目的と教育内容、対象者、業務の状況に合わせて適切なツールを選びましょう。
後進の育成は、指導する側の従業員を成長させることにも繋がります。人を育てる経験を積むことで教育スキルが上がり、組織全体の人材育成の質も上がるでしょう。
従業員が継続的に成長する仕組みがつくられれば、時代の変化に動じない強い組織を構築できます。会社の未来のため、計画的かつ効果的な後進育成を実現しましょう。