操作マニュアルは、現場の混乱やミスを防ぎ、教育や引き継ぎの効率を大きく向上させるために重要な業務ツールです。しかし、単に手順を並べるだけでは“使われるマニュアル”にはなりません。
本記事では、操作マニュアルの基本から、構成テンプレート、形式別の使い分け、そして使われ続けるマニュアルを作るコツまで、具体例を交えながらくわしく解説いたします。
操作マニュアルとは、特定の業務やシステム操作の手順を、誰が見てもわかるように整理した文書のことです。主に社内システムの導入時、新人教育、業務引き継ぎの際に活用されます。これがあることで、担当者ごとのやり方のバラつきがなくなり、一定の品質で業務を遂行できるようになります。
一方で、マニュアルが「ただ存在しているだけ」で、実際に読まれていなかったり、使いづらい内容で形骸化しているケースも少なくありません。わかりやすさに欠けるマニュアルは、かえってミスや混乱を招き、業務効率の低下につながります。
つまり、操作マニュアルは「あるだけ」では意味がなく、「読まれて使われる」ことが大前提。そのためには、読む側の視点に立った“わかりやすい構成と表現”が求められるのです。
現場では、担当者ごとに操作手順が違い業務が属人化したり、新人や異動者のたびに何度も同じ説明を繰り返す必要があったり、担当者が不在だと業務が止まってしまうといった問題が発生しがちです。これらの課題を放っておくと、業務効率の低下やミス・トラブルの増加につながります。
たとえばNTTデータ グローバルソリューションズが紹介する製造業A社のように、多品種少量生産への迅速な対応や社内連携・業務プロセス最適化が重要となる場面では、紙から3DCAD・システム連携へのデジタルシフトによって生産性が改善された事例も見られます。
複雑な現場業務を支えるには、明確で再現性の高いマニュアルの整備が不可欠です。操作マニュアルは単なる手順書ではなく、実際に現場課題の解決を支える“仕組み”としての機能が求められています。
多品種少量生産に関する各企業の取組み | NTTデータ グローバルソリューションズ
操作マニュアルが果たす役割は、単に操作を記録することではありません。主に次の3つの柱を意識して設計することで、より価値あるものとなるでしょう。
操作マニュアルがあれば、業務のやり方を人に依存せず、一定の品質で誰でも再現できるようになります。たとえば、ある業務でベテラン社員が退職した場合でも、残されたメンバーが同じクオリティで業務を遂行できるのは、詳細な手順が共有されているからです。
操作が属人化すると、本人以外が対応できなくなり、業務が停滞する恐れがあります。再現性が担保されたマニュアルは、このようなリスクを回避し、業務品質を安定させる上で欠かせないものなのです。
操作マニュアルが整備されていれば、新人教育や異動者への引き継ぎも効率化できます。手取り足取り教えずとも、マニュアルを読んで実践できる環境が整えば、教える側の負担も大きく減るでしょう。
たとえば、システムの使い方を1つ1つ教える場合、1人あたり数時間かかることもあります。
しかし、マニュアルがあれば短時間で自学自習が可能となり、人件費や時間の削減につながります。
「あの人に聞かないとわからない」「前任者しか知らない」という属人化した状況は、業務リスクの温床です。その点、操作マニュアルがあれば業務知識を個人ではなくチームで共有できるため、属人化を防げるでしょう。
また、よくある質問や注意点をあらかじめ記載しておくことで、何度も同じ問い合わせに対応する手間も減らすことができます。なお、属人化がもたらすリスクについては、以下の記事でもくわしく解説していますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
属人化とは?何が悪いのか、もたらすデメリット、原因、対策方法をわかりやすく解説!
操作マニュアルの活用には「わかりやすさ」が不可欠です。読みにくかったり、構成が整理されていない、専門用語が多すぎるマニュアルは、結局使われなくなり、現場では価値を発揮しません。
一方で、読み手の理解度を考慮した説明や、図や画像による視覚的な補助、全体像がすぐに把握できるシンプルな構造を取り入れることで、ストレスなく参照できる「実用的なマニュアル」となり、現場で継続的に活用され続けます。
誰にでも分かりやすい言葉でまとめられていること、一目で流れや全体像が把握できること、図解やビジュアルによる理解促進などが、「使われるマニュアル」の共通ポイントです。
操作マニュアルは、構造がしっかりしていればしているほど、読み手にとって理解しやすく、実務でも使いやすいものになります。ここでは、多くのマニュアルに共通する「8つの基本要素」と、それぞれの役割・記載時のポイントをご紹介いたします。
このマニュアルがなぜ存在するのか、どういう場面で活用されることを想定しているのかを、簡潔に示します。目的が明確であることで、読み手は「このマニュアルをなぜ読むべきか」を理解でき、納得感を持ったうえで読み進めることができるでしょう。
このマニュアルは、Googleドキュメントを使って社内資料を共有し、コメント機能でフィードバックを行う手順を説明することを目的としています。 |
誰がこのマニュアルを読むべきかを明記しましょう。これにより、読み手が「自分に関係のある内容かどうか」をすぐに判断できるようになります。
操作に取りかかる前に整えておくべき環境や条件を記載しましょう。事前準備(前提条件)が整っていないと、手順通りに進められなくなり、使いにくいマニュアルになってしまいます。
操作の流れをステップバイステップで説明します。1つのアクションごとに区切り、必要に応じて番号や図解、スクリーンショットを用いるとより親切なマニュアルになるでしょう。
操作上の注意点や、よくあるミス、理解を助ける補足情報などをこの項目にまとめておきましょう。そうすることで、使いやすいマニュアルになるだけでなく、万が一のトラブル防止にも役立ちます。
新しく操作に関わる人がつまずきやすいポイントや、過去に多かった質問とその回答をまとめておきましょう。そうすることで、暗黙知を形式知にすることができマニュアルの価値が高まるだけでなく、新人へのサポートの手間を減らすことができます。
Q:コメントが表示されません
A:コメントを「解決済み」にしていませんか?ドキュメント右上の吹き出しアイコン「すべてのコメントを表示」をクリックすることで、解決済みのコメントも含めてすべてのコメントを表示できます。 ほかにも、上部のタブ「表示」>「コメント」>「すべてのコメントを表示」をクリックする方法でも同様にすべてのコメントを表示できます。 |
困ったときに誰に聞けばよいか、サポート担当者や部署、チャット窓口などを明示しておきましょう。そうすることで、安心してマニュアルを使うことができるだけでなく、マニュアルの修正や改善もしやすくなります。
不明点がある場合は、システム管理チーム(内線1234/support@〜)までご連絡ください。
マニュアルは一度作ったら終わりではありません。バージョン管理や最終更新日を明記しながら、常に最新の状態を保ってこそ、マニュアルの価値が続いていくものです。
2025年6月作成(初版)/2025年8月 改訂:画面デザイン変更に対応
ここでは、前項の「8要素」に基づいた操作マニュアルの記入例をまとめてご紹介します。使用ツールはGoogleドキュメントを想定しており、初心者が社内共有・コメント機能を利用できるようになることを目的としたサンプルです。
操作マニュアル
①マニュアルの目的(Why)
②対象者(Who) ・資料のやりとりを行う社内チームメンバー
③必要な前提・準備(Before) ・Chromeなどのブラウザがインストールされていること
④操作手順(How) 1.Googleドキュメントにアクセス(https://docs.google.com/document/) 2.新規ドキュメントを作成する 3.共有ボタンを押す 4.チームメンバーのメールアドレスを入力して共有
⑤補足説明・注意点(Tips) ・注意点:共有リンクの設定で「閲覧者」ではなく「閲覧者(コメント可)」または「編集者」を選ばないとコメントが書けません。
⑥よくある質問(FAQ) A:コメントを「解決済み」にしていませんか?ドキュメント右上の吹き出しアイコン「すべてのコメントを表示」をクリックすることで、解決済みのコメントも含めてすべてのコメントを表示できます。 ほかにも、上部のタブ「表示」>「コメント」>「すべてのコメントを表示」をクリックする方法でも同様にすべてのコメントを表示できます
⑦問い合わせ窓口(Support) 不明点がある場合は、システム管理チーム(内線1234/support@〜)までご連絡ください
⑧更新履歴・版数管理(History) |
操作マニュアルには、用途や利用シーンに応じてさまざまな形式があります。ここでは代表的な4つの形式と、それぞれの特徴や効果的な使い方をご紹介します。
テキスト型はもっとも汎用的な形式で、初心者から上級者まで幅広く使われています。
とくにGoogleドキュメントは、複数人で同時編集できる利便性があり、リアルタイムのコメント機能も非常に便利です。テンプレートを整備すれば、新しいマニュアルを作成する際の手間も省けるでしょう。一方、Wordはレイアウトや装飾の自由度が高いため、印刷やPDF配布を前提としたマニュアルに適しています。
どちらのツールも一長一短ありますが、使用目的や共有環境に応じて使い分けるとよいでしょう。
こちらは、操作項目・手順・注意点などを表で整理したいときに有効な形式です。視認性が高く、一覧性に優れるため、複雑な操作手順の整理や作業チェックリストに活用するとよいでしょう。
操作内容 |
手順 |
注意点 |
データ入力 |
A列に数値を入力 |
B列の数式が自動反映される |
データ出力 |
「保存」ボタンを押す |
上書き保存に注意 |
図解型は、「見るだけでわかる」マニュアルとして、視覚的なアプローチが得意な形式です。操作画面のスクリーンショットを貼り、手順番号や矢印などで装飾をすることで、理解しやすいマニュアルになるでしょう。
なかでも、ITツールの初期操作説明や、システムのインターフェースが複雑な場合などにとくに有効です。操作対象の画面と対応した指示をセットで見せるのがポイントです。
こちらは、日常の業務コミュニケーションで活用されるチャットツール向けに、質問対応テンプレートや一問一答形式のマニュアルを準備しておく方法です。
▼○○システムの初期ログイン方法
※ログイン後はすぐにパスワード変更してください
また、これらのテンプレートは、チャンネルへのピン留めや定型文のスニペット登録などと組み合わせることで、即時性と再利用性が高まるでしょう。
操作マニュアルは「作って終わり」ではなく、常に更新され、現場で活用され続けることが何よりも大切です。またそのためには、作成後の運用や見直し方にも工夫が必要です。そこでここからは、継続的に使われるマニュアルにするための3つのコツをご紹介します。
マニュアルの内容を、読み手のスキルや目的に応じて分類すると、混乱を防ぎ、より理解しやすいマニュアル作成につながります。
たとえば「初めてシステムを使う人向け」「管理者向け」「サポート対応者向け」といった具合に章立てすると、それぞれの立場で必要な情報だけを的確に得ることができるでしょう。
また、読者が「自分には関係がある」と思える導入にもつながり、マニュアルが活用されやすくなるメリットもあります。
操作マニュアルは、一度作成しても、システムの改修や業務フローの変更によって内容がすぐに古くなってしまうことがあります。そのため、定期的にマニュアルの内容をレビュー・更新する体制を整えることが不可欠です。
具体的には、チーム内で「半年に1回の見直し日」を設けたり、「更新履歴に変更日と内容を明記する」ことで、古い情報のまま放置されるリスクを防ぐことができるでしょう。
どれだけ丁寧に作ったマニュアルでも、存在が知られていなければ活用されることはありません。そのため、作成後は「社内説明会」「イントラでの告知」「Slackなどでの周知」などを通じて、しっかりと認知をうながすことが大切です。
また、「マニュアルを読むと◯分時短できる」「トラブル時の対応が早くなる」といった具体的なメリットを併せて伝えられると、活用へのモチベーションを高められるでしょう。
本記事では、操作マニュアルの基本から、構成テンプレート、形式別の使い分け、そして使われ続けるマニュアルを作るコツまで、具体例を交えながらくわしく解説いたしました。
操作マニュアルは、単に「作る」だけでは意味がありません。「誰でも迷わず使える構成」「現場で活用されるわかりやすさ」「更新性と共有しやすさ」こそが、使われるマニュアルの条件です。
本記事で紹介した8つの基本構成やテンプレートを参考にしながら、ぜひご自身の現場でも、実際に使われ続けるマニュアルづくりに取り組んでみてください。