今回のテーマは「手順書の作り方」です。せっかく時間を掛けて作るのですから、より効果的でみんなに活用してもらえる手順書を作成したいもの。そのために最低限知っておきたいのが、「手順書」と「マニュアル」「チェックリスト」の違いです。
そこで当記事では、これら3つをしっかりと定義づけすることで、「手順書」の役割、記載すべきことを明確にした後に、具体的な手順書の作り方を解説します。
作業の手順を詳細に記したものが手順書です。書かれている通りに作業を行えば、誰がやっても同じ結果になるよう、細かく手順が書かれているのが特徴です。作業の都度に確認できるようにまとめられています。
仕事の手順を整理してまとめておくことで、いつでも、誰でも、短時間で効率よく仕事が進められるようになり、作業の効率化や生産性の向上につながります。
アウンコンサルティング株式会社 代表取締役の信太 明氏は、著書「テンプレート仕事術」の中で「仕事の75%はテンプレート化できる」と説いています。
毎回一から仕事を始めるのではなく、過去に作成した資料を活用したり、業務の手順やチェックリストを作成したりしておくことで、誰でも短期間で、ミスを防ぎ、仕事の効率化が図れるというのです。
このテンプレートの役割を担うのが「マニュアル」「手順書」「チェックリスト」。どれも明確な定義があるわけではないのですが、大枠としては次の表のように理解しておくといいでしょう。
マニュアル |
手順書 |
チェックリスト |
|
役割 |
業務全体の理解 | 作業手順の把握 | 作業漏れの防止 |
主な利用者 |
業務に初めて関わる人 | 作業者 | 作業者 管理者 |
使用するタイミング |
最初に業務に取り組むとき、研修時、日常の業務など | 日常の業務 | 日常の業務 |
主な内容 |
業務の背景 |
作業者がすべきことを順番に説明(単位作業ごとの手順) | 漏れてはいけない項目 |
(例)弁当作り | 献立を考える 買い出しに行く 料理を作る 弁当箱に詰める |
<ご飯を炊く> 1.計量カップで米を1合計る 2.お米を研ぐ。1回目の水は素早く捨て、合計3回、水を取り替えて洗米する |
ソース入れたか 箸を用意したか |
「ミスや事故は意識の徹底では解決しない」と述べるのは行動科学マネジメント研究所所長 石田 淳氏。著書「無くならないミスの無くし方 成果を上げる行動変容」の中で次のように解説しています。
ミスや事故を無くすには、「人間の行動」にフォーカスし、ミスや事故が起きない「仕組み」をつくるしかありません。これは「いつ・誰が・どこでやっても」同じ効果が出る、科学的メソッドです。
この「いつ・誰が・どこでやっても」同じ効果が出る、まさにここを目指して作成するのが「手順書」です。
マニュアルは、業務全体の理解を促すものです。一方で手順書は、作業の手順のみにフォーカスし詳細に記録。作業者がすべきことは全て手順書にまとめられています。逆に言うと、手順書にない作業は「してはいけない」、「する必要がない」ということです。
手順書は、ミスをなくし、業務の進め方と結果を平準化する目的で作成します。作業者のスキルや経験によらず、同じやり方、同じ時間で作業ができ、同じ質となることを目指します。
石田 淳氏の前述した著書によると、行動科学では人が物事をできない理由は、「やり方を知らない」「やり方を知っていても継続の仕方を知らない」からの2つだと言います。そこで役立つのが手順書であり、取るべき行動を具体的に伝える役割を担っているのです。
手順書の役割をより明確にするために、マニュアルの特徴と役割についても知っておきましょう。
マニュアルとは、業務の全体像を把握できるようにまとめられたものです。業務の背景やこれまでの経緯、全体の流れ、基準が明記されているのが特徴です。企業が持つノウハウが蓄積されています。
業務の全体像を把握できるようにまとめた「マニュアル」は、業務の効率化や定常業務の平準化、業務品質の向上と安定、責任の明確化、安全性の確保などの役割を担っています。マニュアルについては以下の記事で詳しく解説しています。
■参考記事はこちら
マニュアルと手順書の違いとは?伝わりやすい書き方を例をもとにわかりやすく解説!(接客業向けテンプレート付き)
チェックリストとは、作業漏れを防止することを目的に、行動を言語化したものです。手順書が1から順に全ての作業を言語化しているのに対して、チェックリストは仕事の区切りがよいタイミングで確認すべき項目を重要な点にのみ絞ってまとめています。
「あなたはなぜチェックリストを使わないのか?【ミスを最大限に減らしてベストの決断力を持つ!】」(アトゥール ガワンデ・著、吉田 竜・訳)によると、チェックリストは、「仕事の流れを妨げない」「チェックリストを通すのに時間がかかりすぎない」ことがポイントだと言います。チェックリストに入れる項目としては、以下が紹介されていました。
マニュアルや手順書を使用するのは、業務に初めて関わる人や作業者なのに対して、チェックリストは作業者に加え管理者が使用するケースも少なくないのが特徴です。
チェックリストはミスを予防するために作成します。手順書の補完的な役割を担い、手遅れになる前に問題に気付けるものでなければいけません。
手順書を作成する主な目的は、前述した通り「作業の進め方と結果の平準化」「作業の効率化」「生産性の向上・競争力のアップ」の3つです。それぞれについて解説します。
手順書を用意することで、経験の浅い新入社員も含めて、同じ質の作業を誰もが行えるようになります。結果を出している社員のスキルを横展開でき、会社全体のスキル向上にもつながります。
また当然、全ての作業を手順書にすることは困難ですが、作業を分析・整理することで、ある程度の範囲は手順化できます。その結果、優秀な社員が行っていた仕事が非属人化した作業にかわり、手が空いた優秀な社員はさらに自分にしかできない業務に時間を避けるようになるのです。
仕事の大半は、過去にやったことのある業務で、意外と繰り返し作業が多いものです。
例えばイベントを開催する場合。開催準備のための手順書があれば、やるべき作業が明確であり、すぐに仕事に取り掛かれますね。でも手順書がなければ、過去の記憶を頼りにタスクの洗い出しから始めなければいけません。当然、作業の抜け漏れが発生する恐れもあります。このように手順書は作業の効率化に役立つのです。
「テンプレート仕事術」によると「仕事の75%は、その人が付加価値を埋めないルーチンワークであり、残りの25%が、ルーチンワークではできない、その人が付加価値を生む業務」なのだそうです。
つまり、マニュアルや手順書といったテンプレートを活用することで75%の仕事を効率化し短時間で終わらせ、残り25%の付加価値業務に時間を掛けられるようになるというわけです。そしてこれこそが企業の価値、競争力を高めます。
よい手順書を作成するためには、作業工程の整理が非常に重要になってきます。具体的な手順書の作り方は後述しますが、ここでは手順書作成の大きな流れをご理解ください。
闇雲に手順書を作り始めると、数だけが増えすぎて整理できなくなってしまいます。最初に、どの業務のマニュアル、手順書、チェックリストを作るのか大枠を決めましょう。
『「マニュアル」をナメるな!職場のミスの本当の原因』(中田 亨氏・著)によると、マニュアルを作成すべきなのは、「マニュアルがなければ実行不可能な作業のうち、最も簡単なもの」だと言います。手順書も同様で、複雑で理解できないものでは意味がないのです。
作業の効果が高く、手順がシンプルなものから手をつけていくといいでしょう。
(参照元:『「マニュアル」をナメるな!職場のミスの本当の原因』より)
具体的にどのように進めていくといいのかは、小林隆一氏・著『仕事力がアップする!マニュアルのつくり方・生かし方』が参考になります。
5W1Hを明確にし、「誰のために、どんな目的で作成するのか」決め、作成体制、経費、開発日程の検討を行い、一冊にどこまで盛り込むか考え内容の構成を決めましょう。
(参照元:仕事力がアップする!マニュアルのつくり方・生かし方)
手順書の作成に必要な単位作業を洗い出します。単位作業とは、一人で完結できる最小単位の作業のことを指します。
会社における業務は、社内各部門、取引先、顧客など、多くの人が関わっていることが少なくありません。必要に応じて、ヒアリングしつつ進めていくといいでしょう。
手順書は、それ通りに作業したときに、誰がやっても同じ結果にならなくてはいけません。そこで必要になるのが、誰でも作業できる形に手順を整理するという工程です。下記の図のように一本道になっているのが理想です。
(参照元:「マニュアル」をナメるな!職場のミスの本当の原因)
しかし、作業工程の中に「Aのケースはこうする、Bのケースはこうする」といったふうに分岐がある場合もあります。こうした分岐などがあると作業の忘れや停滞を引き起こすリスクが高まりますので、一本道の手順にできないか検討しましょう。
ミスが起こらないための考え方は、書籍『「マニュアル」をナメるな!職場のミスの本当の原因』が参考になります。
手順の整理が終わったら、手順書の構成を作成し、記載順を決め、文章を作成します。
手順書はまとめて終わりではなく、必ず確認作業が必要です。作業の経験があるスタッフに確認してもらうだけでなく、初めての方にも手順書だけで作業を完遂できるか試してもらいましょう。その後、必要に応じて修正し、まずは少人数から徐々に広げる形で手順書を社内に展開していきます。
手順書に記載するべき項目は、「作業工程の名称」「作業の意味・目的」「作業に必要な道具や材料」「作業の手順」「基準」の6つです。
職場で「○○の作業をお願い」といった会話は日常茶飯事ですね。暗黙の中で作業には名称が付いているものですが、初めて職場に来た方には分かりません。手順書にも作業工程の名称を入れておくと、誤解が生まれることもなく、作業がスムーズになるでしょう。
書籍『「マニュアル」をナメるな!職場のミスの本当の原因』によると、「人間は能動的に計画し行動するようにしない限り、作業に失敗しがち」なのだそうです。そもそも意味を感じられない作業は苦痛ですよね。
また、ただやらされているだけだと、作業の善し悪しの区別がつきません。そこで大事になってくるのが、作業を行う意味や目的です。手順書にしっかりと明記しておきましょう。
手順を追いながら、必要な道具や材料を取りに行くよりも、準備の段階で揃えておくほうがスムーズです。また作業の中には、短時間で次の工程に移らないいけないものなどもあり、そうした際に手元に道具が揃っていないと、作業の失敗につながります。
そういう意味からも、手順書には、作業に必要な道具や材料についてもまとめて記載していきましょう。
手順書のメイン部分になるのが「作業の手順」。誰がやっても同じ結果になるよう曖昧な部分を残さず、より具体的に記載するのがポイントです。
初めて作業に取り組む方は特に、目の前の状況が正しいのか、間違っているのか判断がつきません。また作業にかけた時間が適正なのかも分からないもの。だからこそ、その時々で作業者が確認できるような基準をできるだけ数値を用いて記載しておくといいでしょう。
ここからは、より具体的に手順書の作り方を解説します。
手順書に記載する作業が決まったら、対象となる作業を洗い出し整理します。各作業にかかる時間や、何かの判断が必要な場合はその基準も書き出します。
また、作業に必要な道具や材料も一緒に書きとめておくといいでしょう。
洗い出した作業を整理するのがステップ2です。担当者がやっている作業工程が、必ずしも効率的とは限りません。経験があるからできる手順というのもありますし、ミスを誘発しやすい手順というのもあります。
それを初心者でもミスなく作業できるよう、どこまでをひとつの単位作業とするかも考えながら整えていきます。難しい作業は、失敗したら最初からやり直しではなく、途中に戻れるような形で手順としてまとめられると理想です。
手順を整理できたら、習得の順序も決めましょう。
作業の中には、コツであったり、ミスを起こしやすいポイントなどもありますね。それらを書き出していきます。過去の失敗例もあれば挙げておきましょう。
テキストや画像だけでは分かりにくい場合は、動画の活用も有効です。
ステップ3までで、しっかりと洗い出しができれば、ステップ4はまとめていくだけです。最初にフォントやデザインを決めておくと、複数の人が手順書の作成に関わっても、誰にとっても必要な情報が伝わりやすくなります。
手順を書く際は、曖昧な言葉を使わず、数値など誰が見ても誤解がない表現を使うように心掛けましょう。専門用語を使う場合は、必ず解説を入れます。
必要に応じてイラストや図解、動画を用意するといいでしょう。
最初から一人で手順書を完璧に仕上げるのは難しいため、その作業の経験者はもちろんのこと、初めて作業をする方に実際に手順書に従ってやってもらいフィードバックをもらい改善します。
手順書は作って終わりではなく、アップデートし続けることが重要です。定期的に見直し、改善できる体制作りも考えておくといいでしょう。
手順書をわかりやすいものにするためには、ちょっとしたポイントがあります。ここでは知っていればできるポイントを書籍『「マニュアル」をナメるな!職場のミスの本当の原因』から紹介します。
どんな作業も「準備」と「本体」の2つに分けられます。準備は料理でいうところの「下ごしらえ」に該当するもの。最初に済ませておく必要があり、作業スピードが結果に影響しないのが特徴です。
手際のよい人は、準備期間と本体期間の境界を明確にし、準備期間をできるだけ広げる工夫をしている。準備として片付けられる作業を、だらだらと先延ばしして、本体の期間になってから実行してはダメである。本体はスピード勝負であり、忙しい。そこに準備でできるはずの作業を追加しては、手が足りなくなる。準備作業としての要件をクリアする作業は、全て準備期間に片付けるようにする。
作業をしながら準備をするのは、作業効率が落ちるだけでなく、失敗やミスのもとになります。このため手順書を作成する際は、準備と本体を区切りましょう。
手順書を作成する際、注意してタイミングを計りたいのが検査。見過ごしてしまうと修正が利かないことも少なくないからです。検査を担当する人は、作業者とは別の人がベスト。理想的な検査のタイミングは次の通りです。
安全な作業管理は、資料21のように、複数の作業を横断するように小休止の節目を入れる体制で実現できる。一斉のタイミングで、どの作業も手を止め、検査だけに集中するのである。全ての作業が止まれば、職場に静寂が訪れるので、気が散らずに検査に打ち込める。
(参照元:「マニュアル」をナメるな!職場のミスの本当の原因)
手順書で忘れがちなのが、初期状態への復帰。使用した道具の片付けを忘れ、そのまま放置してしまうと大事故につながることがあります。手術のときの体内へのガーゼの置き忘れは時折ニュースにもなりますね。
だから手順書には必ず作業開始前の状態に復帰するところまで指示することが大事です。途中で作業を失敗したり、中断したりしたときも、安全に中断して初期状態へ戻れるように記載しておきましょう。
マニュアルで業務全体の理解を促し、手順書で具体的な作業手順を指示、そしてチェックリストで検査を行う、といったマニュアル、手順書、チェックリストの役割が明確になると、より現場で活用されやすいものになります。
手順書は、最初から完璧を目指しすぎず、実際に利用しながらアップデートしていくのがおすすめです。ぜひ本記事を参考に、手順書を作成してみてください。