従業員の能力や成長、課題を可視化するのに欠かせない「人事評価シート」。人事評価に役立つツールとして多くの企業・団体が導入していますが、「どのように書けば良いのかいまいちわからない。」と悩む社員、評価者が少なくありません。
そこで今回は、人事評価シートの書き方について解説します。
書き方のポイントはもちろん、具体的な例文も職種別にご紹介します。自己評価の書き方に困っている方、はじめて評価者を任されることになった方は、ぜひ参考にしてください。
なお、テンプレートを使ってですぐに人事評価を書きたいという方は以下をお役立ちください。
そもそも人事評価とは、どのようなものなのでしょうか。まず「人事」を辞書で調べてみると、以下のように記載されています。
社会・機構・組織などの中で、個人の身分・地位・能力の決定などに関する事柄。
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
一方「評価」について改めて辞書を引くと、以下のように記載されています。
ある事物や人物について、その意義・価値を認めること。
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
つまり、人事評価とは「従業員の能力や功績を認めること」を意味します。ある期間内で、どのような成果をあげたのか、何においてどれほど成長したのかを把握し、評価する制度です。
人事評価の主な目的は「従業員の管理と成長促進」です。
人事評価を行うことで、社員1人1人の能力・成長が明確になります。そして取得したデータは、人材配置や教育方針を決める際の判断材料として役立ちます。「誰にどのような仕事を任せるのか」「どのように指導すべきなのか」などの見極めの手助けとなるのです。
一方、被評価者は自身の能力や成長を認めてもらうことで、モチベーションがアップします。課題点については「どうすれば改善できるのか」を考える良い機会となり、さらなる成長が見込めるでしょう。
また人事評価を実施するのは、賞与や昇給、昇格などを決めるためでもあります。功績を残した社員、大きな成長を遂げた社員にインセンティブを与えることで、モチベーションを刺激するのが狙いです。その関係で、人事評価は一般的に年1~2回のスパンで行われます。
しかし、人事評価はあくまで従業員の成長と活性化が目的。賞与や昇給を決めることを第一の目的にしてしまうと、正しい評価を付けることができなくなってしまうため、注意が必要です。
■参考記事はこちら
人事評価制度とは?目標設定するための項目や基準の作り方を事例を交えてわかりやすく解説!
人事評価で書くこととして挙げられるのは、主に「成果評価」「能力評価」「情意評価」の3要素。これら3つの観点で評価する理由には「外的要因」が大きく関係しています。
外的要因とは、従業員の取り組み、頑張りに関係なく生じた何らかの出来事のこと。思わぬ事故やトラブル、好景気、不景気などのような、従業員個人の力ではどうしようもないことを指します。
(引用元:「高原暢恭(2008)『人事評価の教科書 悩みを抱えるすべての評価者のために』株式会社労務行政」を参考に弊社で作成)
上記の図を見るとわかる通り、成果は、社員本人の取り組みに外的要因が加わることで生まれるもの。つまり「成果」に対して評価することは、外的要因の影響を受けて出た結果を評価することと言えます。
一方「職務行動」に対する評価には、外的要因の影響が含まれません。どちらを対象に評価するのかによって、評価結果が変わるため、両方の視点で見ることが大切なのです。
このことを踏まえた上で、3つの構成要素について深掘りしていきましょう。
成果評価は、外的要因に関わらず、従業員が出した成果そのものを評価すること。過程がどうであれ、結果が良ければ高く評価し、不十分であれば低く評価します。
どんなに不利な状況だったとしても、成果を出すことができなかったのであれば、それは会社に貢献できなかったことに変わりありません。反対に、好景気にあやかり功績を残せた場合でも、利益をもたらしたことは事実です。
事実に対して相応の評価が与えられるのは、当然のこと。「企業が業績を上げれば利益が増えるように、従業員も成果を出してこそ評価が与えられる」という考えのもと行われるのが、成果評価です。
能力評価とは、被評価者がどれほど能力を発揮することができたか、どこまでの能力を習得することができたのかを評価すること。こちらは成果評価とは対照的に、外的要因の影響を除外して評価します。
本人の力ではどうしようもない不運なことが起きても、関係なしに結果だけを見るような評価では、従業員のモチベーションが下がってしまいます。「結果だけで判断される」と会社に対する不信感が募り、成長も止まってしまうでしょう。
一方、能力評価は結果ではなく、従業員が持つ本来の能力に焦点を当てて評価するもの。外的要因によって成果を出すことができなかった場合でも、本人が能力を発揮・習得できたのであれば「評価に値する」と認めます。
従業員は自分の本来の実力と努力、成長を認めてもらえることになるため、意欲向上が期待できます。
情意評価とは、従業員の態度に関する評価をすること。積極性や協調性、責任感を持って取り組む姿勢が期待通りだったか、それとも不十分だったかを評価します。
能力評価と同様、こちらも外的要因を除外して評価する項目。外的要因によって目標未達成となった場合でも、仕事に対する姿勢が良ければ評価されるため、被評価者のやる気を保つことができます。
また情意評価は、昇格や人材配置の判断材料としても役立ちます。
例えば「まだ実力はないが、意欲的に業務に取り組んでおり、将来の成長が期待できる」というような従業員がいた場合、結果だけを見ると高く評価することはできません。しかし、仕事に取り組む姿勢に焦点を当てると、このような人材は将来性があると考えられます。管理者候補に加えるなど、人材配置の参考として情意評価が役立つでしょう。
とはいえ、どんなに意欲的で責任感のある従業員でも、結果が出せていなければ全体の評価を高くつけることはできません。よって、成果評価・能力評価・情意評価とさまざまな角度から評価するバランスが大切なのです。
現在多くの企業では、人事評価シートを使って人事評価を行っています。
人事評価シートを使うメリットは「可視化」です。そして可視化することで得られるメリットには、主に以下の3点が挙げられます。
被評価者は、人事評価シートに自己評価を書くことで、自分の良い所・改善すべき所を振り返ることができます。自己分析、および成長に役立てることができるでしょう。
人事評価シートは、自分を会社にアピールするのにも有効です。上司が見逃してしまうような細かい努力も、わかりやすく見える形にして渡すことで、隅まで正確に伝えられるのです。アピールが伝わり評価されれば、従業員のやる気アップにつながります。
また、理由も根拠もなく評価された被評価者は、モヤモヤとした気持ちになるもの。特に低く評価された場合は「なぜこのような評価を与えられたのか」がわからず、不信感や反発心を抱いてしまいます。
そこで、評価者が人事評価シートに理由をコメントすることで、結果に納得してもらいやすくなります。評価に納得できれば、被評価者は課題点もきちんと受け止めてくれるでしょう。
もちろん、これらは態度や口頭で伝えることもできますが、可視化した方がより着実です。伝え漏れや聞き間違い、価値観の違いによる意思疎通のミスを避けつつ、会社と従業員がコミュニケーションをとるには「人事評価シート」が必須なのです。
人事評価シートのメリットを活かすためには、書き方のコツが必要です。では、どのようなことを意識して記入すればよいのでしょうか。
まずは、被評価者が書くときのポイントから見ていきましょう。
被評価者が自己評価を書く際は、良い評価を得ようとつい評価を高く設定してしまいがち。反対に、評価者に与える印象を気にして、低い評価を付けてしまうこともあります。
しかし、事実と異なることを書いてしまうと、人事評価の効果を発揮できません。「課題点を見落として成長できない」「評価が低く自信喪失になる」など、本人にとっても会社にとってもマイナスになってしまいます。
よって人事評価シートには、嘘をつかずありのままに書くことが大切です。できたこと・できなかったことを事実として認め、「印象」ではなく「実力」を可視化するよう意識しましょう。
人事評価シートの項目が、すべて高い評価で埋められることは滅多にありません。課題点、反省点も必ず存在します。
その際、どのように改善するのか、対策を考えて記載するのがポイントです。
人事評価シートに書いた対策方法は、そのまま次期の目標に設定することができます。例えば、目標売上未達成を解決するため、客単価を上げることを対策として挙げるのであれば、次期の目標に「客単価アップ」を掲げることができます。
また、課題を克服して成長につなげようとする、向上心のアピールにもなります。場合によっては情意評価の向上も期待できるため、反省点には必ず対策方法も添えて書くようにしましょう。
事実をもとに自己評価したと証明するには、根拠が必要です。そして、根拠を示すには「数値化」が欠かせません。
例として、以下の2つの文を見てみましょう。
比較してみると、後者の方が具体的で説得力があります。たとえ、評価者が被評価者の取り組みを実際に見ていない場合でも、状況を把握した上で判断を下すことができます。
また、被評価者本人も数値化によって、より的確に自己分析できます。根拠が明確なので、自分がつけた評価にも自信が持てるでしょう。
しかし、なかには定量的に表すことができない内容もあります。その場合は、可能な限り具体的に書くことが大切です。達成、未達成の判断基準や条件などを記載すると、具体的に表現しやすくなります。
人事評価シートは、評価者に見られることを前提に書くものです。一次評価、二次評価といくつか段階に分けて行われる場合は、多くの人が目を通すことになります。
そのため、誰が見ても理解できるよう、簡潔にわかりやすく書くことが大切です。具体的には、以下を意識すると良いでしょう。
わかりにくいコメントは、読み手の気力を奪ってしまいます。「評価者は多くの人事評価シートに目を通している」ということを頭に入れ、伝わりやすい文章を心掛けましょう。
では次に、評価者の書き方について見ていきましょう。被評価者の書き方と共通する部分もありますが、主なポイントは以下の4つです。
人事評価のつけ方には、絶対評価と相対評価の2種類があります。2つを比較した下の表をご覧ください。
絶対評価 |
相対評価 |
|
概要 |
評価基準をもとに個人を評価する |
他社と比較して優劣をつけて評価する |
メリット |
・評価の理由が明確 ・課題点がわかりやすい |
・評価者の主観が入りにくい ・評価の格差をつけやすい |
デメリット |
・評価基準、評価者の判断によって不公平が生まれやすい ・格差をつけにくい場合がある |
・環境、組織の状況によって評価が変わる ・他の被評価者の評価に影響されやすい |
<失敗ケースの例> ・評価者の基準が甘く、実際よりも高い評価になった ・目標が高すぎて、全員評価が軒並み低くなった |
<失敗ケースの例> ・チーム全体のレベルが高く、大きく成長したのに評価が低いままだった ・他メンバーの多くが目標未達成だったため、少ない成果でも高評価がつけられた |
絶対評価とは、評価基準をもとに個人を評価すること。「評価の理由が明確になる」「課題点がわかりやすい」などのメリットがあります。一方で、「基準や、評価者の主観によって不公平が生じやすい」「評価の格差がつきにくい」というデメリットもあります。
対する相対評価とは、他の被評価者と比較して優劣を決めるもの。被評価者を成績順に並べ、上位に該当した者には高評価を、下位に該当した者には低評価をつける方法です。
「評価者の主観が入りにくい」「評価の格差をつけやすい」というメリットがある反面、こちらには「組織の状況や環境、他の被評価者の成績が評価に影響してしまう」というデメリットがあります。
このように、絶対評価と相対評価にはそれぞれメリット・デメリットがあります。評価者はどのように評価すべきなのか、状況に合わせて見極めることが大切です。
『人事評価の教科書 悩みを抱えるすべての評価者のために』という書籍の中で、著者の高原暢恭氏(以下高原氏)は以下のように述べています。
絶対評価があまりにも寛大化傾向を生み出すことから、評価者を指導するよりも、技術的対応によって人事評価制度の組み立て方に補正を加えようという発想になり、一次評価を絶対評価で行い、二次評価以降を相対評価により補正するやり方が出てきています。
(引用元:「高原暢恭(2008)『人事評価の教科書 悩みを抱えるすべての評価者のために』株式会社労務行政」)
高原氏が述べているように、一次評価と二次評価でやり方を変える方法もあります。評価方法によって結果が変わってしまうため、事前にスタイルを決めておきましょう。
評価者が主観的に評価するのは、絶対にご法度。評価者の匙加減で評価を決めてしまうと、不公平が生じるからです。従業員のモチベーションが下がるのはもちろん、不満の声が上がる、離職者が出るなどのトラブルに発展する恐れもあります。
普段から関わりのある社員には特に、つい感情移入してしまいたくなりますが、客観的な視点で評価することが大切です。自己評価と同様、定量的に書くことを意識すると、主観が入りにくくなります。
なかでも情意評価は、「従業員の姿勢」という曖昧な内容を対象とするため、評価者の価値観が反映されてしまいがち。評価基準と照らし合わせながら、客観的な視点を保つよう意識しましょう。
また、基準や評価ルールを明確に定める、評価スキルを高めるなどの行為も、主観的な評価の防止対策として挙げられます。
評価の理由と根拠が不明確だと、被評価者は納得できません。モチベーションが下がったり、会社への信頼度が下がったりと、会社にとっても不利になります。
反対に、理由・根拠を明確にすることで「自分はその評価に値する」と納得してもらうことができれば、社員の成長につながります。評価が高い場合でも低い場合でも、モチベーションの刺激となるでしょう。
また、理由と根拠を明確に書くことは、主観で決めた評価ではないという証明にもなります。評価の信憑性を高めることにつながるため、ぜひ意識しましょう。
被評価者が書く自己評価と同様、評価者からのコメントも、明確にわかりやすく書くことが重要。どんなに有益な内容であっても、相手に伝わらなければ意味がないからです。
被評価者はもちろん、二次評価者、三次評価者とさらに上の階級から見られます。被評価者の現場から遠い人、普段の取り組みを実際に見ていない人でも理解できるよう、使う用語に配慮して書きましょう。
また、わかりやすいコメントを心掛けておくと、のちにフィードバックする際に役立ちます。評価からフィードバック面談までの日が空いてしまった場合、内容を忘れてしまう可能性があるので、自分のためにもわかりやすく書くことが大切です。
書き方のポイントを解説してきましたが、いまいち具体的なイメージが掴めていないという方もいるはず。そこでここからは、職種ごとの例文をご紹介していきます。
被評価者と評価者それぞれの例を挙げたので、書き方に迷っている方はぜひお役立てください。
自社の商品やサービスを顧客へ提案したり、売れる仕組みを考えたりする営業・マーケティング職。売上高や利益率、顧客数など数字と濃く関わる仕事なので、評価を書く際は比較的定量化しやすいでしょう。
では、それぞれの例文をご紹介します。
顧客心理の理解とセールストークの向上に取り組んだところ、個人営業の売上げ目標達成率110%、前年比150%を実現できた。
事務作業に関しては、処理スピードに問題があると考えており、来期は業務効率化、PCスキルの向上に努める。
目標達成率80%となったものの、市場分析・環境分析の徹底、および新商品A発売に至るまでの企画提案に注力し、売上げ回復へと大きく貢献してくれた。また、データにとらわれず、消費者の目線に立って商品を見定めようとする姿勢は評価に値する。
次期は、チームメンバーとのコミュニケーションの活発化、チームワークの向上に期待する。
事務職は、効率よくかつ正確に業務を行うことが求められる仕事。評価の数値化がやや難しい分野ですが、作業時間やミスの発生件数などで定量的に表すよう意識しましょう。
それでは例文をご紹介します。
部門内の業務の見直し、効率化に力を注いだ結果、月末業務にかかる時間を1週間から3日間へと短縮することができた。
一方、経費削減に関する目標は未達成となったため、次期は書類の電子化、備品の見直しをはじめとする新たな取り組みにチャレンジして改善を目指したい。
コミュニケーション能力が非常に高く、他部署とのつなぎ役として積極的に連携をとっていた。その結果、多くの部署からの協力を得て、経費を20%抑えることに成功した。目標には満たないものの、利益向上に大きく貢献したとして高く評価したい。
通常業務におけるミスは少ないが、イレギュラー発生時の対応スピードがやや劣るため、問題解決能力の向上が必要と判断する。
製品の設計や開発など、ものづくりに関わる仕事をする技術職。事務職と同様、成果を数値化するのが難しいですが、作業時間やコストなどを定量的に表すのがポイントです。
では、技術職における被評価者・評価者の例文をご紹介します。
業務フローと機材の見直しを行い、目標としていた生産量の前年比120%を達成することができた。
新機材での製造ではトラブルも発生したが、追加テストの実行とマニュアル改善を徹底した結果、商品に関するクレーム発生件数は半年間で10件以下に抑えられている。
ただし、生産量増加に伴いコストも増加したため、来期は人件費削減と原材料の見直しを中心に取り組みたい。
業務マニュアルの改善に向けて、率先して週1回以上のチームミーティングを行い、生産量の前年比120%達成へと導いてくれた。
製品の品質に関してはまだ課題が残るが、高いコミュニケーション能力と、周囲と協力しながら迅速に原因追及する姿勢を評価しつつ、今後に期待を込めて今期は評価Bとしたい。
教員、医師、保育士、市役所で働く職員など、公務員に含まれる職種は多岐にわたります。ゆえに、人事評価シートの書き方もさまざまですが、可能な限り定量的・具体的に書くことは変わりません。
評価の理由をわかりやすく記入することを意識しましょう。それでは例文をご紹介します。
〇〇制度導入に向けてプロジェクトチームを発足し、調査、環境整備を徹底して行ったところ、目標としていた〇月末よりも前に実施することができた。
また、試験導入を2回実施し、都度改善に向けてミーティングを行った結果、トラブル発生件数を月5件以下に抑えられている。ミーティングの指揮を執った者ではないが、問題点の調査分析や、〇月に提案した改善策Bなどでチームに貢献したと考える。
入社1年で公務員としての自覚を持ち、担当業務〇〇と〇〇を1人でこなすことができるまでに成長したことは、高い評価に値する。
また、窓口対応時の丁寧なヒアリング、不安に寄り添う姿には市民からの支持も厚く、感謝の言葉をもらった実績もある。さらに、地域貢献への企画を半年間で3件提案していることから、責任感が強く積極性が高い職員であると評価したい。
人事評価シートは「賞与や給与を決めるために書くもの」というイメージが強いですが、本来は従業員が自分を客観視するため、管理者が従業員のことを知るためのもの。目的を見失ってしまうと、適切に評価できなくなるどころか、かえって成長の妨げになる恐れがあるので注意が必要です。
書き方のルールやポイントは多数ありますが、社員のモチベーションを高め、会社の利益へとつなげることが第一。日々の頑張りを共に認め合い、さらなる成長を遂げるための良い機会として、人事評価シートをうまく活用しましょう。