人的資本経営を重要視する動きが世界的にみられています。
日本においても、岸田内閣が進める「新しい資本主義」において、政策の一つに掲げているのがリスキリングに代表される「人への投資」です。
企業の人的資本の情報開示が始まることになり、人的資本が企業運営にとって欠かせない取り組みのひとつとなる兆しがみえています。
しかし、人的資本経営について重要性を認識してはいるものの、その内容を把握しきれていない企業の経営や人事部、または責任者は多いのかもしれません。
今回は、人的資本経営とは何を指すのか、人的資本経営が注目されている背景やメリット、また推進手段となる「3P・5F」や情報開示について解説します。さらに人的資本経営への企業の取り組み事例を紹介いたします。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉えその価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方を指しています。
一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム著「経営戦略としての人的資本開示」を参考に弊社で作成
人材は「資本」か「資源」か。これまでは人材は企業にとっての資源であり、消費するもの、コストのかかるものという捉え方が主流でした。昔から「ヒト、モノ、カネ」と言われるように会社の運営に必要な3つの経営資源のうちのひとつとして考えられていました。
人件費や教育研修費は損益計算書上で1年単位で消費される経費として処理されていて、業績が悪くなればカットされていく「コストコントロール」の対象ともなっています。
また、従来は人事業域の勘や経験、主観的な判断によって人材の配置などの意思決定がおこなわれていたり、人材が年功序列や終身雇用による人材の囲い込みが起きていました。
一方で人的資本という概念では、報酬や教育研修費は損益計算書やバランスシートにおいて「資本」として扱われます。資本は数年後にどのように価値創造につながっていくのかが重要とされます。
人的資本経営では組織と人材が互いに選び合う自律的な関係へと変革しています。さらに、人的資本経営では人的資本を正確に測定しなければなりません。従来のように勘や経験に頼って判断されていた人材の配置についても、今後は人材データを効率的に収集し、数値に裏付けられた客観的な判断によって意思決定がなされるようになるでしょう。
書籍によると、これからの人的資本経営の世界標準は「データとHRテクノロジーを活かす人的資本中心の経営である」と言及しています。
人的資本経営がいま注目されているのはなぜなのでしょうか。ここでは人的資本経営が注目される3つの背景について取り上げます。
人的資本経営が注目される背景のひとつめは、投資家の思考が無形資産、とりわけ人的資本を重視して企業価値を見極めて投資行動をするように変わってきていることが挙げられます。
人的資本を大切に育てて、これを価値向上につなげていることを情報開示する企業は、世界中のESG投資家の注目を集めるようになっています。
ESGとは、Environment (環境)、Social (社会)、Governance (ガバナンス) の頭文字をとったもので、企業の長期的・持続的な成長を可能にすると考えられています。
これまでは企業価値は経済的利益から示される経済価値とほぼ同義であったといえます。2006年に国連が責任投資原則を取りまとめてから、企業価値は環境や社会により良い効果を与えるインパクトを加味すべきという考えが生まれ、ESGへの取り組みを重要視して企業価値を判断するようになりました。
このように企業を取り巻くステークホルダーが企業を評価するにあたって重要視している要素であることから、近年ESGに取り組む企業が増えています。
人的資本はESGの「社会」と「ガバナンス」に含まれており、人材への投資状況が企業の成長性を評価する判断ポイントとなっています。
これまで金融やマーケティングの領域で発達してきたクラウドテクノロジーは、人事の領域にも流れ込み、多くの企業に利用されるようになりました。クラウドテクノロジーを人事領域で活用することによって、労働集約的な業務の多くをクラウドサービス側が処理するため、人事部門のスタッフは戦略的な人事、企業価値向上に結び付くような業務に集中することができます。
またクラウドサービスに集約したデータ、数値に基づいた客観的な判断が、人事・組織領域での意思決定に活用されるようになっています。
たとえば次世代のリーダー候補を客観的なデータに基づいて選抜したり、採用・配置・異動などに生かすことで個々の従業員の能力を最大限に引き出すなど、人的資本経営が企業を成長させる方法として注目を集めるようになっています。
日本は将来的に少子高齢化によって労働人口減少が予測されていて、生産人口の減少に歯止めが利かない状況です。すでにシニア世代や外国人労働者などの人材が登用されていますが、育児や介護で働くことに制限がある人など様々な人材の登用が重視されています。
2020年に始まった世界規模の新型コロナウイルス感染拡大によって、私たちの働き方にも変化が起きました。世界中でテレワークが普及して会議や業務をリモートで行うようになりました。時短勤務やリモートワークなど働き方そのものも多様化しており、従来の画一的な人材管理では限界を迎えつつあります。
このような労働市場の変化を受けて、週5日フルタイム勤務のみの画一的な条件だけではなく、働き手一人ひとりの事情や状況に合わせた勤務形態が選択できること、人材を活用してパフォーマンスを最大限に引き出すといった人的資本経営が、持続的な企業経営には必要だと考えられています。
企業が人的資本経営を実施するとどのようなメリットがあるのでしょうか。4つのメリットについてそれぞれ見ていきます。
企業が人的資本経営を実施するメリットのひとつに、人材への積極的な投資によって従業員のスキルアップが促されて、業務の生産性向上が期待できることが挙げられます。
従業員一人ひとりがこれまで以上の成果を出していくことができれば戦力度がアップし、企業全体の成長が実現できます。
人材育成に力を入れている企業の従業員は、自分の成長に期待し、投資してくれていることを認識しやすいといえます。
いま人生100年であることを前提に、自分のキャリア形成について真剣に考える働き手が増えているといいます。このような成長意欲が高い働き手に対して、スキルアップのしくみや、努力して成果を出した場合の評価制度の構築など、個人の成長を後押しするような投資に取り組んでいることを開示できれば、この企業で働きたいという気持ちが高まっていくでしょう。
従業員のモチベーションが高まり、また企業に対して価値貢献をしたいと思うようになったり、組織への帰属意識が高まって定着率がアップすることも期待できます。
人的資本経営を実施する企業は、すなわち人材育成に力を入れているといえます。このため人的資本経営に取り組むことは企業イメージの向上につながり、働き手を惹きつけるために極めて有効な打ち手となります。
採用応募者からみると、自分のスキルを活かして価値創造できるか貢献できるか、キャリアアップのための投資を積極的に行ってくれるか、成長できる機会やポジションを与えてもらえるかなどを重視して、働きたいと思う企業を選びます。
「この企業で働きたい」と思われることで、優秀な人材を採用しやすくなり、ひいては企業競争力の強化の実現につながります。
人的資本経営がもたらすメリットとして、投資家の注目を集めることが挙げられます。。ESGの考えが広がる中で、投資家にとって人的資本経営は企業価値を見極めるための重要な指標となっています。人的資本経営に取り組む企業は、社会的価値が高いとみなされることから、投資すべき企業と認められ、注目されやすくなります。
投資される額が増えることで、企業はさらに発展・成長する戦略を打つことができます。新製品やサービスの開発や将来につながる新規事業を打ち出すことも可能となります。こ
れらによって人材への投資をさらに進めて、従業員のスキルアップやモチベーション向上、企業ブランディングの強化につなげていくことができます。
引用:内閣官房「人的資本可視化方針」
人的資本経営については、日本以外の諸国ではどのような動きがあったのかをみていきます。
2018年12月に定められた国際標準化機構(ISO)の「ISO30414 」によって、これに基づいた企業の情報開示が始まりました。ISO30414 とは、人材マネジメントの領域に関わる58の測定基準を示した人的資本情報開示のガイドラインとされています。
人的資本に関する情報開示の動きは、日本よりもさきに欧米で始まり、広がりを見せています。
欧州連合EUでは、2014年10月に「特定大規模事業・グループの非財務情報開示に関する欧州議会・理事会指令」が公表されました。対象となった大手グローバル企業に対して、2017年会計年度以降に人的資本を含む非財務情報の開示義務が必須となりました。これをきっかけにEU諸国において人的資本の開示が進むことになりました。
EUは、2021年3月に「報酬の透明性」に関する提案を発表しています。書籍「経営戦略としての人的資本開示」には、この提案にある「同一労働同一賃金」の原則は男女間の賃金格差を禁止するEU法の基礎として位置づけられているとあります。2020年時点でEUにおいて14.1%の男女間賃金格差が存在していたといいます。報酬の透明性に関する新指令によって、欧州諸国が男女平等の理想に向かって進みだしたといえます。
イギリスでの人的資本開示は他国にさきがけて、2010年に成立した平等法に始まっていて、EU諸国のなかでも人的資本開示には積極的であると言われています。
男女間賃金格差報告書制度では、男女間の賃金格差に関するレポートを報告する義務を250人以上の従業員のいる雇用主に課しています。違反した場合、政府の専門サイト内での公表や裁判所への出頭命令、罰金を課せられるといった措置が講じられています。
アイルランドにおける人的開示は、2021年に内閣が承認した「男女間賃金格差の情報開示法」で給与の透明性、男女間の報酬格差について報告する義務が課されていて、これはイギリスの制度と類似しています。一方でアイルランドは英国同制度よりも厳しい説明義務が課されていて、アイルランドでの男女間欧州格差是正を推進し、社会に浸透させていこうとする動きがみられています。
米国での人的事本経営を巡る動きをみていきます。
米国証券取引所では、2020年8月に30年ぶりにルール改定を行いました。改定ポイントのひとつに人的資本経営の開示対象領域のうち、開示内容は企業が任意に決定する、ふたつに投資家にとって重要性が高い指標を開示する必要がある、と言及した点です。
この後2021年8月には「人的資本」に関する具体的な開示指標を明示すると述べていて、上場企業に対して労働力に関するさらなる情報開示を求めていく姿勢をみせています。
2018年12月に発表されたISO30414によって、米国での人的資本開示に関する動きが速まってきました。2019年から2020年の米国連邦議会で「人への投資開示法」の法案が提出されました。これは従業員への投資に関して開示を義務化するものです。開示する情報には、従業員の属性(正社員、パートタイムなど)、離職率、ダイバーシティ、スキルや報酬・インセンティブ、採用力などがあります。
人的資本を巡る国内の動向としては、2021年6月に改訂された「コーポレートガバナンス・コード」において、人的資本に関する記載が盛り込まれました。日本企業における人的資本への取り組みは始まったばかりであるなかで、「人材版伊藤レポート2.0」が発表されました。
ここでは日本の人的資本経営における動きとして、「人材版伊藤レポート2.0」について、人的資本可視化指針、人的情報開示の義務化について解説します。
「人材版伊藤レポート2.0」とは、経済産業省が設置した「人的資本経営の実現に向けた検討会」で人的資本経営に向けた課題と解決策を取りまとめた報告書で、2022年5月に発表されました。
レポートでは、企業が人的資本経営を進めるために取り組むべき点について、実践におけるポイントや有効な工夫点など8つの項目で提示しています。
世界的な流れを受けて、日本企業においても「人的資本」の重要性が高まっていることを認識した上で、伊藤レポートには人的資本経営の実現のためにどのように実践に移していくかという点をポイントにした、人的資本経営の実施に利用できるアイディアが盛り込まれています。
この報告書から各企業が自社に合ったヒントを得ることで、自主的に人的資本経営へと向かう行動を起こしていくことが期待されています。
2022年8月30日に、内閣官房より上場企業向けの人的資本に関する開示のガイドラインとなる「人的資本可視化指針」が公表されました。
「人的資本可視化指針」は、国内の人材資本を最大限に活用し、持続可能な社会と経済の発展を推進するための重要な政策方針です。この方針の目的は、人々のスキル、知識、経験、健康など、人的資本を最適化し、日本全体の競争力を向上させることです。
持続的な企業価値向上の推進力として「無形資産」が注目されるようになっており、その中でも人的資本への投資は最重要視されています。
人的資本への投資は環境など社会へのサステナビリティと企業の成長の両立を図る上で重要な要素です。いま、多くの投資家が、投資先として人的資本投資を行っている企業を選択したいと考えるようになっていて、投資家は企業に対して人材への投資、人材活用に関する「経営者からの説明」を期待しています。
経営者、投資家、そして従業員をはじめとする企業を取り巻くステークホルダーが相互に理解を深めていくためにも「人的資本の可視化」が欠かせないものとなっています。
この指針において、人的資本の可視化について企業や経営者に期待されていることの概略が以下のように示されています。
経営層・中核人材に関する方針、人材育成方針、人的資本に関する社内環境整備方針などについて、自社が直面する重要なリスクと機会、長期的な業績や競争力と関連付けながら、目指すべき姿(目標)やモニタリングすべき指標を検討し、取締役・経営層レベルで密な議論を行った上で、自ら明瞭かつロジカルに説明すること。
指針によると、人的資本についての内容は「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つの大項目に沿って開示することが効果的だとあります。
さらに、開示にあたっては、「独自性」と「比較可能性」のバランスを確保しながら、「価値向上」の観点から開示するのか、「リスク」マネジメントの観点から開示するのか、観点を明確にして説明することがポイントであると述べられています。
2022年8月31日には金融庁から「2022事務年度金融行政方針」が公表され、2023年3月期からは、有価証券報告書においてサステナビリティ(持続可能性)情報の記載欄が設けられ、人材育成の方針や目標など人的資本情報開示を義務付ける方針が示されました。
対象となるのは金融商品取引法第24条における「有価証券報告書」を発行する約4,000社の大手企業で、内閣総理大臣に提出します。
2022年8月に政府が「人的資本可視化指針」の中で、人的資本の開示項目を示しています。「人材育成」「エンゲージメント」「流動性」「ダイバーシティ」「健康・安全」「労働慣行」「コンプライアンス」の7分野、19項目あります。
図のように、価値向上の観点から挙げられた項目とリスクマネジメントの観点から挙げられた項目があります。
引用:内閣官房「人的資本可視化指針」(2022年8月)
人材版伊藤レポートでは、人的資本経営を実践するフレームワークとして「3P・5Fモデル」を提唱しています。上記の「人材版伊藤レポートの概要」にて、8つの項目を記載しましたが、この8つの項目は3つのPと5つのFを合わせたものです。
3Pと5Fとはなにを指しているのか、概要を解説します。
企業価値の向上につながる人材戦略となりうるかを検討する際に、どのような視点でみていくとよいか、チェックすると良いかを表しているのが「3つの視点(Perspectives)」=3Pです。
1つ目は、経営戦略と人材戦略の連動ができているかどうかという視点です。経営戦略と人材戦略は連動していなければ企業価値の向上、成長にはつながりません。
企業を取り巻く環境がスピードをもって変わっていく中で、経営戦略と人材戦略、双方が連動しながら策定・実行することが重要です。
2つ目は、「As is=現在の姿」と「To be=理想の姿」のギャップをできるだけ数値化して、定量的に把握するという視点です。
戦略が連動しているかをチェックし、そこで特定した課題毎にKPIを明らかにします。
3つ目は、ギャップを埋めるようにとった戦略がうまくいったのかどうか、企業文化への定着度をできるだけ数値で測り、将来を見据えた人材戦略を再検討するという視点です。
企業文化は、従業員の日々の活動・取り組みを通じて醸成されるものです。企業理念、企業の存在意義(パーパス)や目指すべき企業文化を定義し、企業文化への定着に向けて日常から取り組む必要があります。
企業価値の向上につながる人材戦略のために、どんな企業でも共通して組み込むべき要素を示したものが「5つの要素( Factors)」=5Fです。
「動的人材ポートフォリオ」とは、企業が目指すべきビジネスモデルおよび経営戦略の実現に向け、多様な人材が活躍できる基盤が整っているかどうかという要素です。社内のどこに、どのようなスキルや経験を持った人材が、どれだけいるのかを表す動的な人材ポートフォリオを作成しているかということをチェックします。適材適所に人材が配置されることで企業の価値を高めることができます。
「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」は、従業員が持つ、経験や感性、価値観、専門性といった知と経験の多様性を認め、企業の中にうまく取り込んで、イノベーションが起きているかを問う要素です。従業員ごとに異なる強みを掛け合わせるため、ダイバーシティとインクルージョンが必要だとしていています。
「リスキリング・学びなおし」とは、ニーズやトレンドの変化に対応できる企業として成長するのに欠かせないスキルアップを支援しているかをチェックする要素です。
従業員のリスキリング(学びなおし)を支援する、また自発的に学べる環境があるかどうかが求められています。
「従業員エンゲージメント」は、従業員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組むことができる環境を創りあげるという要素です。
「時間や場所にとらわれない働き方」は、時間や場所にとらわれず、安全で安心して働くことができる環境を平時から整えるという要素を表しています。
フレックスタイムや時短勤務、テレワーク・リゾートワーク・サテライトオフィス勤務など、この数年のなかでも働き方の多様化に対応する企業が増えてきました。
人材不足の事業の継続のため、また優秀な人材の獲得に向けて、業種・職種を問わず働き方の多様化はいっそう加速させていく必要があるとしています。
人的資本経営を実践する企業事例を紹介します。
ソニーでは、各社のCHRO(人事部門の責任者)がグループ会社執行役専務、人事総務担当と頻繁に擦り合わせをしながら人事施策を推進しています。ソニーでは事業間の特性の違いが大きいため、事業特性や課題に応じて、迅速に人事運営を行えるように人事責任を各社CHROに委任した体制に変えています。
多様な個(個人・事業)の成長がグループ全体の成長であると認識し、個を求む・伸ばす・活かすの3つの軸で人事戦略を体系化しています。
花王では、目標管理制度・評価制度を改正しました。
もともとは、100%達成を目指すことを前提として設定したKPIに基づいた目標管理・評価制度としていましたが、2021年よりOKR(Objectives&KeyResults)を導入しました。成果の重視から挑戦の重視へと目を向けています。
このOKRを「ありたい姿や理想に近づくための高く挑戦的な目標」として定義し、従業員が自ら掲げる大きな目標への挑戦を通じて、一人ひとりが成長し、結果的に会社の成長や社会に貢献することを目指しています。
OKRでは、まず従業員一人ひとりが目指す中長期的な理想の姿を設定します。次にその理想の姿を実現するための道筋を 未来からさかのぼって描いていきます。置かれた状況を踏まえて現在地から積み上げて未来を描くというものとは異なり、現状にとらわれない発想が生まれることが期待されます。
また、従業員の掲げたOKRをグループ全体で共有して、同じ夢を持つ従業員同士が部署を超えて連携できる環境を築いています。従業員同士で対話を重ね、ブラッシュアップをさせていき、自分の目標がどのように組織全体につながっていくのかなどを確認しながら、活動していくことを奨励しています。
KDDIでは、事業部門経験者を人事トップに登用したり、人材データの分析を活用して生産性の高い働き方を実現することで、事業と経営の連携を高めることに貢献しています。
本社の営業部門で約20年の業務経験を持つ人材を人事部門トップに登用。現場を知っている人事部門が経営層・事業部門と定期的にミーティングを実施することで、経営戦略を踏まえた人事施策の実施や、経営層・事業部門への人事戦略の浸透が可能となっています。
HRデータの活用・実践に向け、ピープルアナリティクス部門を設置。働き方に関する各種データ(勤務データ等)を一つのダッシュボードにまとめ、全社員に提示。データを活用した生産性の高い働き方の実現に取り組んでいます。
今後の事業戦略の観点から目指す姿と現状の間の人財ギャップを把握し、不足分を採用・育成・配置によって埋めることとしています。例えば成長領域の拡大のために、2023年度までにグループ全体でDX人財を4,000名規模に拡大し、中核を担うDXコア人財をKDDI DXUniversityで500名育成することを目標としている、などです。
全社員に対して、研修メニューの全体像を見える化した上で、全部門共通のポータブルスキルや専門スキルを、各社員が望むタイミングで学習できる環境を構築しています。
人材を資本として捉え、中長期的な企業価値向上を図る人的資本経営について解説しました。企業の根幹となるビジネスモデルを考えていくのは、人の力です。人材をうまく活用できれば、変化の大きな時代のなかで生き残っていくに必要な強靭な体力が備えられるでしょう。
今後の企業に求められるのは、自社の人材の価値を引き出し、力を発揮できるようにしていくことだといえます。企業は人的資本経営にしっかりと向き合い、将来を見据えた経営を進めていくことが望まれています。
投資家が企業の持続可能性を判断する指標として重要視していることや国内外で人的資本情報を開示する動きに合わせてしかたなく受け身の体制で追随するのではなく、自社の将来のあるべき姿を描くきっかけとして捉えることで、いっそう強みが発揮できる会社へと成長が期待できると思います。