人々の生活スタイルも、ビジネス界も目まぐるしく変化する現代。「以前の常識が通用しなくなった」「予想外の物が突然ヒットした」なんてことが次々と起こっています。
そんな現代を表す言葉として、いま注目を浴びている「VUCA」というワード。本記事では、VUCA、VUCA時代についてわかりやすく解説しています。
VUCAとは何なのか、企業はどのように行動すべきなのか、VUCA時代に必要な人材を育てるにはどうすれば良いのかなどを知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
VUCAとは、4つの単語の頭文字をとってつくられた言葉です。どのような意味があるのか、そしていつから使われるようになった言葉なのか、詳しく見ていきましょう。
VUCAとは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとった造語。予測不可能で不安定な現代を表す言葉です。
さまざまなモノ・コトが変わりつつある現代。以前は考えられなかったような商品やサービスが出回るようになり、あらゆる常識が覆されました。
そして、その変化のスピードは非常に早く、次に何が起こるか誰も予想できない。そんな状況を表す言葉として、「VUCA」「VUCA時代」というワードが使われています。
「VUCA」は元々、1990年代後半から軍事用語として使われていた言葉です。それが2010年代に入り、ビジネスシーンでも使われるようになりました。2016年に開催された世界フォーラムで使われたことがきっかけといわれています。
VUCA時代がいつから始まったのかは明確になっていません。しかし、スマートフォンの普及が爆発的に進んだ、2010年頃が節目と考えられます。
引用:「平成29年版情報通信白書」総務省
上記グラフを見るとわかるように、スマートフォンやタブレットの普及率は、2010年から大幅に上昇しています。このころから、インターネットは人々の生活に欠かせないものとなり、ライフスタイルが大きく変化していきました。
モノの売れ方、情報収集手段、学習方法など、人々の行動の変化に合わせて企業のビジネスモデルも変化。その後も次々と新しいデジタル製品、デジタルシステムなども開発されていったことから、VUCA時代にはテクノロジーが大きく関係していると考えられます。
VUCA時代に突入してから、数えきれないほどの変化が起きました。具体的にどのようなことが変わったのか、主な4つの変化に注目してみましょう。
近年は、大企業に勤めるメリットがあまりない、と考える人も多いです。実際、2009年時点で就職人気企業ランキング上位を占めていたメガバンクや大手家電メーカーは、2019年の調査では上位10位から姿を消しています。
VUCA時代では、大手有名企業に就職することよりも、リスクを避けるため柔軟かつ主体的にキャリアを築くことが重要といわれています。かつて「成功への道」といわれていたキャリアの理想像が崩れ、仕事観・人生観に変化が訪れているのです。
■参考:
『マイナビ・日経 2019年卒大学生就職企業人気ランキング』結果を発表
平成23年通信利用動向調査の結果(総務省)をもとに弊社で図を作成
令和4年通信利用動向調査の結果(総務省)をもとに弊社で図を作成
昨今のデジタル技術の発展は著しいものです。上記グラフを比較するとわかるとおり、人々の生活はスマートフォン中心となり、ビジネスにおいても、販売経路、業務、組織管理などあらゆるモノ・コトのデジタル化が進んでいます。
さらに、最近ではAIを活用した新たなビジネスモデルも数多く誕生しています。AIによるサポートサービスを搭載したオンラインショップや、AIによる顧客・売上げ分析などが例です。かつて人間が行っていた業務をAIに任せるといったシーンが増えています。
テクノロジーは、現在進行形で進化し続けており、今後も新しい活用方法が次々と生まれると予想されます。しかし、どのように使われていくのか、どのような商品・サービスが開発されるのかは予測できず、企業のさらなる適応力が試されていくことでしょう。
労働者の働き方も、VUCA時代に突入して大きく変化しています。特に、新型コロナウイルスが発生してからは、働き方の選択肢が一気に増えました。
引用:「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」内閣府
内閣府の調査によると、2019年時点で10.3%だったテレワークの実施率は、2023年には約3倍にまで跳ね上がっています。「自宅から会社に移動して仕事をする」ということが、今は当たり前ではないのです。
さらに、ライフワークバランスを重視する労働者が増えたことにより、副業の許可や、フレックスタイム制度の導入を推進する企業も増えています。
また、結婚・出産後も働きたいと考える女性や、共働き夫婦の増加に合わせて、育児休暇の取得のサポートに力を入れる企業も少なくありません。
このように、VUCA時代に入ってから働く人の意識が変化し、それに伴い企業の雇用制度も複雑に変化しているのです。
インターネットが広く普及したことで、消費者の購買行動も大きく変わりました。オンラインで商品・サービスを購入するのは、もはや当たり前。来店前や購入前に、インターネットで検索して、情報収集するといった行動がメジャーです。
購買プロセスが変わったことで、売れ方も変化しました。以前は、有名な企業の商品・サービスが、テレビコマーシャルなどの広告で広まり、ヒットするという流れでした。しかし最近は、SNSなどで口コミが広がれば、ブランドの知名度が高くなくてもヒットするチャンスがあります。
このような環境下にあるVUCA時代は、商品・サービスの「価値」が重視される傾向にあります。そして、デジタル技術とデータをいかに活用できるかによって、業績が左右されます。これらを踏まえて、ビジネスモデルの変革を行う企業が増えています。
VUCA時代には、予想もしないことが次々に起こります。いくらデータを分析しても、未来を完璧に予測するのは不可能です。
そのため、変化に強い組織を構築する必要があります。組織構成、経営戦略、人材戦略などが今の状況に適しているかチェックし、アップデートし続けることが大切です。
ポイントは、過去の成功例にとらわれないこと。これまでうまくいっていたとしても、それはあくまで過去の環境で成功したのであって、現在の環境では通用しない可能性があるからです。
また、VUCA時代に起きることは、過去の延長線上にないことを理解しておく必要があります。『予測不能の時代ーデータが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』という書籍にて、著者の矢野和夫氏も以下のように述べています。
未来は、過去のデータを大量に集めても、原理的に予測はできない。未来が予測不可能で過去の延長線上にあるという、人の淡い期待は原理的に間違っている。
引用:「矢野和夫(2021)『予測不能の時代ーデータが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』株式会社草思社」
会社の次の一手を考える際は、過去のデータではなく今の状況を冷静に観察して分析すること、そして過去の成功例にしがみつかないことが大切です。
柔軟性のある組織をつくるうえで障害となり得る、4つの”罠”に注意が必要です。
これらは本来、組織を動かしていくのに必要なことです。しかしVUCA時代では、組織が硬直化する原因になります。
ルールがあると、違反を避けて柔軟に対応できなくなるもの。組織に変化が求められている状況でも、「ルール違反になるから」と変化を無視してしまう恐れがあるのです。計画も同様、「計画通りに動くべきだ」と融通がきかなくなります。
業務の標準化や内部統制も、ルールを伴うものです。商品・サービスの品質保持や、組織のチームワーク向上に必要ではありますが、変化に適応することを阻む原因となり得るので、頻繁にチェック・改善することが大切です。
VUCA時代は、環境に適応するだけでは不十分。変化に振り回され、戦略が後手に回り、他社に後れを取ることとなるからです。
よって、企業がVUCA時代を生き抜くには、新たな価値の創造が必要だといえます。新しい製品、新しいサービスを世に提案し、企業が能動的に新しい環境をつくるという流れが理想的です。
それには広い視野が必要です。今まで価値がないと思われていたものに目をつけ、新たな価値を付与することで、ビジネスチャンスが広がります。
VUCA時代の企業には、柔軟性だけでなくクリエイティブ性も求められているといえるでしょう。
VUCA時代において、テクノロジーの活用は必須。インターネット、デジタルデバイス、データ管理システム……これらをうまく活用することが、この激動の時代に打ち勝つポイントです。
例えば、デジタル技術を使うと、顧客の購買プロセスの分析が可能になります。顧客の行動が明確になるため、変化に気づきやすく、スピーディーに戦略を立てられます。
また、人事でもテクノロジーを活用することで、より計画的かつ効率的な人材育成が可能に。従業員のスキルの可視化や、継続的な学習のサポートなど、VUCA時代に必要な人材を育てるのに役立ちます。
さらに、AIは未来を予測する際にも有効です。書籍『予測不能の時代ーデータが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』では以下のように言及されています。
確実なことがわかってから行動するのでは遅い。そのためには、過去の延長線上にないことをデータやAIを使って常に見つけるべきだ。
引用:「矢野和夫(2021)『予測不能の時代ーデータが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』株式会社草思社」
変化に俊敏に対応するには、「”ありうる”未来」を予測することが大切。そのためには、膨大なデータを扱い、予測することが可能な人工知能の力が必要なのです。
人手不足問題の対策として注目されている「人材の多様化」は、VUCA時代の観点においても重要です。
新たな価値を創造するには、発想力が必要です。さまざまな考えを持つ従業員から、さまざまなアイディアを得ることで、新たな発想が生まれます。よって、多様な人材を雇用する必要があると考えられます。
そして、企業は多様な人材を受け入れるための環境づくりを行う必要があります。雇用制度や教育体制などを見直しましょう。
企業の安定が保証されないVUCA時代。キャリアを会社にゆだねるのではなく、自ら未来をデザインし、働く場所を選んでいくべきという考えが強まっています。
転職へのハードルも低く、むしろ幅広い職種を経験してスキルを身につけた方が良いともいわれています。以下の調査結果を見るとわかるように、転職をポジティブにとらえている若者は多いようです。
引用元:「20代社員の就業意識変化に着目した分析」株式会社パーソル総合研究所
このような状況にあることから、企業は離職防止対策を講じる必要があるといえます。
少子高齢化、人口減少により、VUCA時代の日本企業はただでさえ人手不足です。そのうえ転職者が増えれば、人員不足で経営を継続できないといった事態になりかねません。
変化に適する新たな戦略を考案しても、それを実行する従業員がいなければ成り立たないもの。よって企業は、従業員に「ここで働き続けたい」と思われるような環境をつくることが、より一層大切になるのです。
VUCA時代の企業には、多くの課題が課せられていることがわかりました。では、具体的にどのようなことを行えば良いのでしょうか。4つの取り組みの例をご紹介します。
さまざまな事柄が変化したVUCA時代では、これまでのやり方は通用しません。新たな取り組みを行うため、新たなビジョンが必要です。
VUCA時代における企業ビジョンの立て方について、書籍『2030 経営ビジョンのつくりかた』では以下のように解説されています。
VUCA時代を乗り切るには、本当の企業変革が必要だ。そのためには、「未来観」「未来像」が不可欠で、これは従来の理念(普遍)と中計(3〜5年)の枠内では語りきれない。両者の間に10〜30年程度の時間軸の目標、すなわち長期経営ビジョンを持つ必要がある。
引用:「時吉康範/坂本謙太郎(2019)『2030 経営ビジョンのつくりかた』日本経済新聞出版社」
いくら物事が変化するスピードが早いVUCA時代とはいえ、3~5年ほどでは大きな変化は起きません。しかし、10年後、20年後、30年後には社会が大きく変化している可能性が高いです。
短期的な未来だけを追っていると、変化に気づけず、対応が遅れてしまいます。よって、社会が大きく変化しているであろう「先の未来」を見据えて、ビジョンを明確にすることが大切なのです。
10~30年後、自社がどのようになっているかを具体的に考えることで、いま行うべき変革の内容がハッキリとするでしょう。
多くの企業で活用されている「PDCA」フレームワーク。業務改善や人材育成など、幅広い目的で用いられてきましたが、VUCA時代に有効といわれているのは「OODA(ウーダ)」です。
OODAは、現状を観察・分析し、やるべきことを見定め、行動するというサイクル。PDCAと違って目標設定の工程がないぶん、迅速にアクションを起こせるというメリットがあります。
また、観察からはじめることから、先入観にとらわれにくいのも利点です。PDCAのように計画を最初に立てるものではないため、柔軟な思考を持つことができ、VUCA時代に適しています。
もちろん、PDCAの活用が適切なシーンも多々あります。フレームワークの使い分けが重要です。
常に変化し続ける環境に適応するには、情報収集と分析の継続が欠かせません。そして、曖昧で複雑な現状を的確に把握するためには、テクノロジーの活用が必須です。
企業には、そのような情報収集・分析を可能にする環境づくりが求められます。具体的には、データシステムの構築や、分析方法の確立、セキュリティー管理などを行う必要があります。
店舗型ビジネスにおいては、接客時に得られる顧客の意見や、従業員の肌感覚など、データシステム以外で得られる情報も貴重です。変化に早く気づく手助けとなるため、それらの情報をデータ化し、分析できる環境を整えましょう。
企業が変革を行うときは、業務も変化することが多いです。その業務を担う従業員が変化を恐れると、変革を実現できない可能性があります。
そのため、変化に強い社員を育てることも大切だといえます。柔軟なマインドはもちろん、幅広いスキルを持つ従業員がいれば、変革時に人材の確保に悩まずに済むでしょう。
とはいえ、すべてのスキルを網羅するのは不可能です。どこからどこまで習得してもらうべきか、範囲を決めるためにも、やはり10~30年後までの長期的なビジョンが必要になります。
VUCA時代に必要な「変化に強い人材」は、どのように育成すれば良いのでしょうか。主な4つのポイントについて解説していきます。
目まぐるしく変化する環境を受け入れ、適応するには、実践と学習の繰り返しが重要。予測不能な状況では、頭で考えるだけでなく、実際に行動して情報を得る必要があるからです。
そのため、社員には幅広い経験を積ませ、行動力を身につけてもらうことが大切です。環境が変わることに耐性がつけば、VUCA時代の変化にも対応しやすくなります。
具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。
新しい環境で成功を収めることができれば、自信がつき、チャレンジに前向きになる効果が期待できます。とはいえ結果に関係なく、環境が変化することに慣れてもらうこと、土壇場を乗り越える力をつけてもらうことが大切です。
VUCA時代は、人事領域でもテクノロジーを活用していきます。勘に頼るのではなく、データをもとに人材戦略を練ることで、計画的な人材育成・管理を実現できます。また、能力や成長を可視化しておけば、うまくいかないときの原因追及が容易になり、軌道修正しやすくなります。
例として、上記のような項目をデータ化し、管理します。オンラインでの人材育成を導入している企業は、学習システムとデータ管理システムを紐づけしておくと、育成・管理のさらなる効率化が期待できるでしょう。
自分と異なる考え方に対し否定的で、相手を理解しようとしないリーダーは、多様な人材を率いることはできません。人材の多様化を推進する際は、多様性を受け入れられるリーダーの育成が必要です。
以上が主な教育内容として挙げられます。また、現在就任している管理職者が偏った考え方を持っていたり、過去のやり方にこだわっていたりするようであれば、マインドセットが必要でしょう。
リカレント教育とは「学び直し」のこと。継続的な成長のため、社会人が学習と就労を繰り返すことを指します。
知識とスキルを常にブラッシュアップし続けることが求められるVUCA時代において、リカレント教育は、労働者にとっても雇用者にとっても重要です。以下のように、政府もリカレント教育に取り組むよう推奨しています。
変化の時代においては、労働者の「自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直し」が重要であり、学び・学び直しにおける「労使の協働」が必要となります。
引用:「リカレント教育」厚生労働省
企業には、リカレント教育の推進および実施に必要な環境の整備が求められます。例えば、学習費用の負担や、職場の体制整備などです。
近年は、自分のキャリアのため、学習に積極的な人も増えてきています。このことから、リカレント教育が整っている企業は、従業員から好意的な印象を持たれやすく、結果的に離職防止にもつながるでしょう。
VUCA時代では、予想が外れることが頻繁に起こります。技術の進歩だけでなく、世界情勢や自然災害などによって、企業が大きく変わることを余儀なくされる可能性もあります。
未来の予測は不可能でも、変化に対応できる力を身につけることは可能です。テクノロジーをうまく活用し、柔軟かつ軸のブレない組織づくりを目指しましょう。