外国人労働者を受け入れるための制度として、現在は技能実習制度が定められていますが、これに代わって育成就労制度が創設されることが2024年の国会で決定し、2027年から施行される予定です。
新制度の育成就労制度は、外国人材の労働力としての育成と確保を目的としています。
現在、技能実習生を受け入れている企業の採用担当者や管理者の方や、これから外国人労働者の採用を考えている企業の方は、今後制度がどのように変わっていくのかが気になっているのではないでしょうか。
今回は、現在決まっている制度について、制度移行のスケジュールやこれまでの制度の問題点、新制度のメリット、デメリット、デメリットの解決方法などについて解説します。
育成就労制度は、技能実習制度と同様に外国人雇用のための制度です。ここでは、育成就労制度について、施行の背景や現行の技能実習制度からの移行スケジュールについて説明します。
育成就労制度は、技能実習制度と同様に外国人雇用のための制度です。しかし、技能実習制度に対する制度目的と実態と大きくかい離していることや外国人の権利保護におけるさまざまな問題が発生し、指摘されていたことから、外国人労働者にとって魅力ある制度を構築することを目的とし、制度の中身が改正され、制度の名称も変更されることとなりました。
日本は将来的に少子高齢化、人口減少の影響を受けて労働人口の減少が予測されています。日本の企業において、外国人労働者は労働力確保の面からも非常に重要な要素となっています。この労働力不足が根底にある日本では、外国人材を短期的な労働力補充ではなく、長期的に育成し、日本の企業、社会に定着させる仕組みが求められています。
しかし、現行の技能実習制度には課題が指摘されていました。主な課題は以下の2つです。
技能実習制度は国際貢献を目指していましたが、実際には労働力不足を補う手段として活用される場面が多くなり、制度の目的と実態にズレが生じていました。
受け入れ企業や、技能実習生を支援する立場であるはずの監理団体による技能実習生の人権を侵害する行為、例えば外国人技能実習生が不当な労働環境で働かされるケースやまたそれが原因と思われる技能実習生の失踪など人権侵害の問題が報告され、制度の抜本的な見直しが必要とされていました。
そこで、技能実習制度を廃止し、人材育成と人材確保を目的とする育成就労制度を新たに創設することとなりました。問題の多い技能実習制度を見直し、目的に沿い、人権に配慮した適切な雇用制度を新たに創設する流れとなったのです。
施行のスケジュールは、以下のように予定されています。
2024年:国会審議可決。 2027年:施行。技能実習制度と育成就労制度の併用期間 2030年:完全移行(技能実習制度の完全廃止) |
育成就労制度を含む改正法案は、2024年の通常国会で審議可決され、2027年までに施行される予定です。施行後も、現行の技能実習制度からのスムーズな移行を目的として、約3年間の移行期間が設けられます。
この期間中は、現行の技能実習制度も引き続き利用できるため、外国人労働者と受け入れ企業が徐々に新制度に適応できるように配慮されています。
引用:「育成就労制度の概要」育成就労制度施工までのスケジュール | 厚生労働省
育成就労制度は現行の技能実習制度にさまざまな改善点があったために設定されました。それでは育成就労制度と技能実習制度にはどのような違いがあるのでしょうか。
まずは制度の目的の違いを見ましょう。技能実習制度の目的は、技術移転を通じた国際貢献です。しかし、実態は労働力不足の補填に外国人労働者が使われるケースが多く見られています。
育成就労制度の目的は、日本の人手不足分野における人材育成と人材確保をおこなうことです。外国からの人材を企業の一時的な労働力として捉えるのではなく、日本社会を存続させ発展させていくに欠かすことができないパートナーと評価するような流れが生まれています。そのため、外国の人材の能力向上を達成させながら長期的に社会に貢献していくことを目指しており、技能実習制度に比較するとより具体的な教育支援とスキル開発を重視しています。
技能実習制度における在留資格は、 最大5年までの短期的な滞在が認められていますが、5年経過した制度終了後には日本社会へ定着することが難しいといえます。
育成就労制度では、一定の条件を満たせば外国人労働者は以前よりも、長く日本に滞在し日本で働き続けることが可能となります。在留資格が柔軟になります。
技能実習制度での外国人労働者への支援体制は十分とはいえない場合が多く、技能実習生が孤立するケースが散見されました。
育成就労制度においてはこの点を改善し、 外国人労働者が職場や地域社会に適応できるよう、外国人労働者が日本国内で働く際に、スムーズに適応し、技術や知識を習得するための支援体制を用意していきます。
技能実習制度での管理体制は、監理団体によるもので、 基本的な監督は行われていましたが、労働環境の改善が徹底されていないケースがありました。
育成就労制度においては、管理支援機関によって行われ、企業には適切な労働環境の提供や、外国人材の教育プログラム実施が求められ、違反時には厳しい罰則が設けられています。
育成就労制度において外国人労働者として日本が受け入れを認めている人材を送り出す側の国は、基本的に技能実習制度と同様の国々が想定されていますが、異なる部分もあります。
新制度は前提として、日本政府と二国間協定(MOC)を締結している国に限られることが見込まれています。これは実習生送り出しビジネスの透明化と不正排除を目的としているために取られる措置です。
具体的な国としては、ベトナム、インドネシア、ミャンマー、フィリピンは、現行制度と同様に新制度対象の人材として受け入れる外国として主な役割を果たすと見込まれております。さらに、カンボジア、バングラデシュ、ネパールなど、近年実習生の送り出しが増加している国々も、育成就労制度の下で人材供給を担う可能性があります。
一方で、中国のように正式な政府間協定を結んでいない国からの人材受け入れは、新制度においては原則できなくなります。このため現在、中国人材を活用している業界や企業には大きな影響が予想され、注意が必要です。
現行の技能実習制度での受入可能な職種は従来の90職種ですが、育成就労制度では対象の職種は特定技能と同じ分野に限定されるため、これまで対象であった一部の職種は受け入れが難しくなります。
「特定技能」とは、人手不足が深刻とされる16分野において外国人の就労を認めた在留資格です。
特定技能の特徴は、単純労働を含む幅広い業務が可能という点です。単純労働のみ行うことはできませんが、付随的な作業ならば可能なため、日本人と同じように業務に従事できます。例えば外食業分野であれば、調理もフロアーでの接客もどちらにも就業可能です。技能実習のように1つの作業区分しか対応してはいけない、といった制限はありません。
特定技能制度が創設される以前は、身分系在留資格を除くと単純労働を認める就労ビザはありませんでした。しかし人手不足が深刻な分野において、日本人の働き手だけでは単純労働を含む労働力が不足していることから、特定技能制度が創設されています。
育成就労制度では育成就労期間後にスムーズに特定技能の取得へ進めるように道が開けています。このため、対象になる職種が特定技能と同じ分野となっています。
特定技能で就労が可能な分野は「特定産業分野」といい、現在の対象は2024年3月に4分野増えて、現在は以下の16分野が対象です。
【 特定産業分野(16分野)※ 】 介護、ビルクリーニング、工業製品製造業(素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野)、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業 |
現在受け入れ可能な職種のうち、たとえば繊維業での従事は新制度の対象にありません。今後対象に追加されることが検討されていますが、企業側でも外国人労働者が受け入れられなくなった場合の対策を講じる必要があります。
■参考:「特定技能制度の概要について 令和6年9月4日」|出入国在留管理庁
新たに始まる育成就労制度ですが、外国人労働者を受け入れる企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは3つのメリットについて解説します。
育成就労制度では、日本語能力の条件が定められています。技能実習制度と異なり、受け入れ時点である程度の日本語能力を持った人材を得ることができるのがメリットのひとつです。例えば、今までの技能実習制度では日本語能力に関する明確な基準が定められていないため、なかには日本語を話せない外国人労働者も多く、業務内容の伝達などコミュニケーションの面で困ることが多く、トラブルも生じていました。
これに対して育成就労制度には、日本語能力N5以上という条件が設定されています。
日本語能力はレベル1から5まであり、5は一番易しく、日常生活で使われる基本的な日本語の読み書きができるレベルです。
新制度では、日本語を理解した状態から現場に受け入れるため、業務指示もしやすく、コミュニケーションが取りやすくなります。
育成就労制度では、特定技能への移行がしやすくなっており、3年間の在留期間が終了しても、引き続き日本で働くことができる可能性が高くなります。特定技能1号を取得すれば、最長5年間の滞在が可能となり、さらに特定技能2号まで取得すると、母国にいる家族も日本に呼び寄せることができます。日本での長期にわたる生活を実現することが可能となります。
企業の発展のためには人材の多様性が欠かすことができません。育成就労制度によって、企業は多様な人材を受け入れることができます。企業は、多様な職種において海外から優秀な人材を確保することが可能になります。 さまざまな経験や価値観を持つ外国人労働者の確保は、企業の活性化や新たな視点の獲得に繋がり、イノベーションの創出にも寄与する可能性があります。
企業側にとって育成就労制度にはメリットがあります。一方で外国人労働者側にはメリットがあるのでしょうか。ここでは4つの人材側からのメリットについて見ていきます。
新制度の育成就労制度では、一定条件下での転籍(転職)が認められるため、実習生本人の希望や適正に応じて職場を選択することができるようになります。一定の条件とは、具体的には原則として同一企業で1年以上勤続している、また基礎的な技能・日本語力を有していることが証明できることで、他の受け入れ企業へ移ることができます。受け入れ先企業が倒産した、あるいは業務縮小で外国人労働者の受け入れをやめたなど、やむを得ない事情によって企業で働き続けられなくなっても、柔軟に受け入れ先を変更できるため、実習生の雇用継続や保護が実現できます。
また、転籍が認められることによって賃金未払いや長時間労働を強いるなどの悪質な企業から離れるための方策が新制度では適用され、この点は外国人労働者の人権侵害を防ぐことにもつながります。この制度によって、外国人労働者のモチベーション向上や労働環境に対する安心感につながることが期待されます。
育成就労制度では、これまでの反省をもとにして、厳格に外国人労働者の人権が保護される予定です。例えば新制度では、受け入れ対象の国は日本間で二国間協定を締結した国に限定し、手数料の上限や透明化などルール整備が行われる見込みです。これによって、現行制度で問題視されている悪質ブローカーによる高額な手数料徴収を是正することができます。
また、来日してからも問題が多発しています。受け入れ企業による長時間労働の強要、残業代の未払い、暴言や暴行、パワハラ、セクハラなどの問題は切実です。さらに、狭く劣悪な環境の宿舎に住まわされたり、パスポートを預かられて事実上拘束されたりするケースも起きています。
新制度では、現在の監理団体に代わる新たな支援機関が設置され、受け入れ企業や仲介者の不正行為に対する監督が強化されます。具体的には、より頻繁な実地検査や実習生への直接ヒアリングの実施が制度化され、また違反企業への厳罰化なども検討されています。
不正や人権侵害が起きにくい仕組みにすることで、「日本に来てよかった」と外国人材が思える制度設計が重要だと有識者は指摘しています。
育成就労制度によって、外国人労働者が安心して来日できる環境を整え、安心して働ける環境が整備されるでしょう。
育成就労制度の導入により、特定技能から高度人材へといった外国人のキャリアパスが見えやすくなります。
技能実習制度では、終了後は帰国するしかなく将来設計が立てづらい状況でしたが、新制度では育成就労期間のあとには特定技能という次へのステップが設定されています。外国人労働者からみて、3年で終わりなのではなく、その先5年、更には長期の活躍も可能だという展望が開いており、モチベーション向上につながるでしょう。
これまでは制度では、技能実習生が日本へ入国する際に管理機関やそれ以外の仲介業者への手数料や渡航費を自己負担していました。この金額が大きな負担となっており、払うことができないため多くの実習生が借金を抱えていました。これも現行の技能実習制度では問題視されていたひとつです。
育成就労制度では、受入企業がこれらの費用の多くを負担することになるため、外国人労働者にとっては日本で働くためのコストが下がり、生活基盤を早期に安定させやすくなります。
技能実習制度から育成就労制度へ移行することには、主に4つの問題点があると言われています。どのような問題点が想定されているのかポイントを見ていきましょう。
技能実習制度から育成就労制度に変わることにより、これまで外国人労働者が負担していた費用の一部を企業側が負担することになりました。このため今後1人あたり年間50〜100万円の費用が増加することが見込まれています。企業側が新たに負担する人件費の項目としては以下の項目があります。
なお、来日費用については企業側が5割以上負担するという指針が示されていることから、費用負担が大きくなりやすいので注意が必要です。
育成就労制度においては、一定の条件を満たすことで外国人労働者の転籍が認められています。これは外国人労働者が働くための選択肢が得られる素晴らしい制度の改善点ではありますが、企業側には育てた人材の外部流出のリスクが発生したという点が課題のひとつとされています。長期雇用を期待して育成をしていた就労生が技能検定に合格後、すぐ別の会社へ転籍してしまう、ということも起こり得るのです。
企業がかける採用・教育コストに対する効果を得られない恐れもあります。そのため、体力的にきつく、忙しい建設業では、人材流出の影響がでるのではないかと予想されています。
育成就労制度において、外国人労働者の日本語教育支援は企業の義務となっています。このため、企業にとっては新たに次のような施策の実施や体制作りなど負担が発生することが予想されています。
これらの支援を適切に実施するには、専任担当者の配置や外部機関への委託など、新たな体制づくりが必要です。中小企業にとっては、外国人労働者の教育に係る人的リソースの確保も問題視され、大きな課題となる恐れがあります。
現在の技能実習制度で対象にされているのは90職種165作業です。広く細かく設定されています。育成就労制度では、技能実習制度では対象だった職種が一部なくなる可能性があります。
有識者会議の最終案では、育成就労制度での受入れ可能職種は特定技能と同じ16分野となる見込みです。これは育成就労制度が特定技能1号に向けての人材育成が目的とされていることから出た措置ですが、これは現行の技能実習制度との非常に大きな変更点になります。
育成就労制度では、外国人労働者の採用や日本語教育、技能研修にかかる費用が企業負担となり、外国人労働者1人あたり年間50~100万円のコスト増加が想定されています。
企業側の対策としては、日本語や技能研修において、オンライン学習システムやツールを導入し、教育コストを削減することを検討する、あるいは共同研修や地域の支援制度を活用して、企業のコスト負担を分散することを検討するなどがあります。オンライン学習システムの活用は教育担当者の負担も減らすことができ、導入の検討が急がれます。
育成就労制度では、外国人労働者の採用や日本語教育、技能研修にかかる費用が企業負担となり、外国人労働者1人あたり年間50~100万円のコスト増加が想定されています。
企業側の対策としては、日本語や技能研修において、オンライン学習システムやツールを導入し、教育コストを削減することを検討する、あるいは共同研修や地域の支援制度を活用して、企業のコスト負担を分散することを検討するなどがあります。オンライン学習システムの活用は教育担当者の負担も減らすことができ、導入の検討が急がれます。
新制度では一定の条件を満たすことで、外国人労働者には転籍が認められるようになります。これによって、せっかく育成した優秀な外国人労働者が、より良い条件の企業へ流出するリスクが高まります。
これに対して企業側は、給与や福利厚生の見直し、キャリア形成支援など、定着促進のために工夫・改善することで人材の定着が期待できます。
また職場内のコミュニケーションを活発にする、労働環境の整備を強化する、または定期的な人材評価と面談を実施し、外国人労働者の悩みや不満、労働にかかわる問題点を早期に解決できるような仕組みを構築するなどの対策が求められます。
育成就労制度では、外国人労働者の日本語能力向上が必須となるため、企業側は新たに教育支援体制の構築が求められることになります。これが企業にとって負担増となることが懸念されています。
企業側の対策としては、「効率的なオンライン日本語教育ツールの導入」のほかに「公的支援制度や地域の日本語学校との連携を活用」「専門の教育支援サービスを提供するパートナー企業の利用を検討」など、自社だけで教育コストを負担するのではなく、制度や他の企業と相互協力することも考えていくと良いでしょう。
新制度では、外国人労働者の受け入れ対象となる産業分野が現行制度と異なることが予想されています。その場合、現行制度のもとで外国人労働者を雇用できているのに、新制度では対象外となり、外国人雇用による人材確保に困る企業が出てしまう恐れがあります。
企業側では、自社の事業内容に合わせた人材育成計画を再構築する、また、制度対象外の職種については、業務の自動化や国内人材の活用を検討するなどの解決策を講じる必要があります。たとえば、単純労働における業務の自動化や国内人材の活用を検討するなどがあります。
政府においても、新制度に対象となる職種を追加するなど対応策を検討し追加を決めた業種もありますが、さらに新旧制度間における受け入れ継続不可となる業種が出ないようさらなる配慮や改善が求められています。
さまざまな問題点を抱えていた技能実習制度は廃止が決定しており、2027年に育成就労制度への移行期間が設定されています。
育成就労制度への移行は、企業にとって外国人労働者の在留期間の延長を可能にする、日本語コミュニケーションを取りやすくなるといったメリットがありますが、人件費の企業負担増や人材流出のリスクがある点がデメリットとして想定されています。
新制度の創設には、技能実習制度で課題とされた掲げた目標と実態との乖離が改善されて、外国人労働者が日本で働きながら知識を得てスキルアップできる環境を整備する狙いがあります。
企業にとって、人材不足の解消のためにも外国人の人材を取り込み活用していくことが事業継続に向けたひとつの打開策となるのは言うまでもないことです。育成就労制度において、外国人労働者が日本で働きやすい環境を提供するため、企業は労働環境の整備や教育支援の充実を図る努力が求められています。
育成就労制度が労使双方にとって良い制度として発展していくためには、企業や関係機関がしっかりと新制度の趣旨を理解した上で実践していくことが必須です。そして、政府や支援機関は、法的整備や監督体制の充実を通じて、制度の運用を支える必要があります。
新制度への移行が順調にスタートするのか、新制度の目的に沿ったものとして進展していくのかに、注目していきましょう。