企業戦略を成功へと導くのは、定量的なデータと分析です。なかでも「労働生産性」は、利益を効率よく生み出す仕組みを作るうえで欠かせない重要な指標といえます。
本記事では、労働生産性の計算方法について、具体例を挙げながら詳しく解説しています。「物的生産性」「付加価値生産性」などといった用語や、労働生産性を高める施策の例などもご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
ビジネスシーンで頻繁に登場する「生産性」ですが、そもそもどういうものなのでしょうか。まずは基本的な意味から見ていきましょう。
生産性とは「投入物(インプット)に対する成果物(アウトプット)の割合」のこと。投入した資源に対し、どれほどの成果を出したかを示す指標です。
公益財団法人 日本生産性本部によると、生産性の定義は以下のとおりです。
生産性の代表的な定義は「生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである」(ヨーロッパ生産性本部)というものです。
また、生産性について以下のように解説しています。
生産性とは、あるモノをつくるにあたり、生産諸要素がどれだけ効果的に使われたかということであって、それを割合で示したものが生産性ということになります。
投入物または生産性諸要素とは、労働時間や従業員、資本、原材料など、商品・サービスを提供するのに必要な要素のことです。成果物は、主に製品や売上げなどを指します。
より少ない投入物で、より多くの成果物を出すほど「生産性が高い」と言えます。そして、生産性が高い組織は、効率よく利益を生み出せていると判断できます。
物的生産性や付加価値生産性など、生産性にはいくつか種類があります。それら全てのベースとなる、生産性の基本的な計算式は以下のとおりです。
このように、生産性は「成果物÷投入物」という計算式で求めることができます。
例えば、従業員8人で1000個の製品を生産した場合の投入量は「8人」、生産量は「1000個」です。そして、「1000個÷8人」という計算式により、1人当たりの生産性は125個であると計算することができます。
組織が利益を出すまでのプロセスは複雑です。効率よく利益を生み出せているか、そして何を改善すべきかを把握するためには、さまざまな角度から生産性について考える必要があります。
労働の視点で捉える「労働生産性」、資本の視点で捉える「資本生産性」、そして全ての要素に対する成果物の割合を考える「全要素生産性」。主な3つの生産性について詳しく見ていきましょう。
企業の生産性を示す指標としてポピュラーなのが、労働の視点で捉える「労働生産性」です。投入した労働力に対し、どれほどの成果を出したかを表します。
この場合の労働力とは、従業員や労働時間のことです。従業員1人当たり、労働時間1時間当たりの生産性を求めることで、労働力を効率よく活用できているかを確認することができます。
そして、労働生産性には「物的生産性」と「付加価値生産性」の2種類があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
まずひとつは、成果物の大きさ・重さ・個数で生産性を測る「物的生産性」です。労働投入量に対し、どれほどの大きさ・重さ・個数の成果物を生み足したかを示します。
成果物を価格ではなく物量で測る理由は、価格は経済環境によって変動しやすいためです。
例えば、1つ500円のネジが、物価の上昇により5年後1,000円に値上がりしたとします。そのとき、価格を基準に生産性を測ろうとすると、「従業員数は変わらないのに生産性の数値が上がる」という現象が起きる可能性があります。これでは組織の生産性が上がったとは認められません。
一方、物量は環境の変化に左右されません。いつでも同じ基準で生産性を測ることができます。
このように、物価の変動や技術の進歩などによって生産物の価値が変わる可能性があるため、物量で測るというわけです。成果物を物量で測る製造業や、数年単位の生産性の推移を見たい場合は、特に「物的生産性」の活用が有効と言えるでしょう。
もうひとつは、成果物の付加価値で生産性を測る「付加価値生産性」です。労働投入量に対し、どれほどの付加価値を生み出すことができたかを示す指標です。
付加価値は「他にない独自の価値」という意味で使われることが多いですが、生産性においては「企業が生産過程で新たに生み出した価値」を指します。
例えば、300円で外部から物を購入し、それをそのまま販売した場合、付加価値は0円です。しかし、物を売るためには、商品を販売する「人」と商品を販売する「場所」が必要です。製造業の場合は、「加工」も生産プロセスに含まれます。
このような「生産過程で自社が新たに生み出した価値」のことを、付加価値と言います。例えば、原材料300円の物を500円で販売した場合、付加価値は200円であるといえます。
どれほど効率よく成果物を生産できるかを考える「物的生産性」とは異なり、どれほど高い付加価値を付けられるかが「付加価値生産性」における考え方です。また、物量ではなく金額ベースで成果物を測るという点においても違いがあります。
成果物を物量で測れない業種でも活用しやすい指標と言えるでしょう。
資本の生産性を測る「資本生産性」というものもあります。投入した資本に対し、どれほどの成果物を生み出したか、企業の資本をどれほど効率よく活用できているかを示す指標です。
中小企業庁発行の「第1部 平成27年度(2015年度)の中小企業の動向」に以下のような記述があります。
「資本生産性」とは、保有している機械や設備、土地等の資本がどれだけ効率的に成果を生み出したかを定量的に数値化したものであり、設備の利用頻度や稼働率向上、効率改善に向けた努力等によって向上すると考えられる。
引用元:「第1部 平成27年度(2015年度)の中小企業の動向」中小企業庁
機械や備品、土地、店舗などの資本を増やすことは、企業の成長に繋がります。新しい土地を買い、新しい店舗を立てれば、それだけ多くの成果物を生み出すことができるのです。
しかし、資本の投入には費用がかかります。投入した資本に対し、十分な成果を出すことができなければ、かえって赤字になります。機械の場合は、劣化による産出量の低下も考慮しなければなりません。
そのため、資本生産性を測り、自社の資本を効率よく活用できているか調べる必要があるのです。
「Total Factor Productivity」略して「TFP」とは、全要素生産性のこと。労働や資本、原材料など全ての要素を投入物とした場合の産出物の割合を示します。
経済学において、全要素生産性は技術革新、ブランド戦略、革新的な経営戦略などによって引き起こされる「広義の技術進歩」を示す指標とみなされています。参議院の試論に以下のような記述があります。
TFPとは生産量(又は付加価値)の増加に質するもののうち資本投入量と労働投入量を除いたものであり、具体的には技術進歩やイノベーションなど様々なものが含まれる。
引用元:「TFP(全要素生産性)に関する一試論」参議院
組織の総生産量が増える要因は、労働と資本だけではありません。技術進歩やイノベーションなどによって生産性が上がることもあります。その労働・資本以外の「その他の要素」にスポットを当てたのが、全要素生産性です。
労働生産性と同じく、全要素生産性も「成果物を大きさ・重さ・個数で測る方法」と「成果物を付加価値で測る方法」の2種類があります。さまざまな活用方法がありますが、国の経済や財政について考える際の指標として用いられることが多いようです。
企業の生産性を求める際は、労働生産性を用いるのが一般的です。では、労働生産性はどのように計算すれば良いのでしょうか。
物的生産性と付加価値生産性、それぞれの計算式と具体例をご紹介します。
物的生産性は「生産量÷労働投入量」という計算式で求めることができます。1人当たりの物的生産性を計算したい場合は、分母の労働投入量を「労働者数」とします。1人1時間当たりの物的生産性を求めたい場合は、「労働者数」と「労働時間」を掛けた数値を分母に当てはめて計算します。
★具体例①
従業員10人が4時間の労働時間で200個の部品を製造した場合、計算式は以下のようになります。
★具体例②
従業員20人が2時間の労働時間で500個の部品を製造した場合、計算式は以下のようになります。
具体例①と具体例②を比較してみると、従業員数の多い②の方が、一見生産性が低いように思えます。しかし、物的生産性を比べると②の方が生産性が高いことがわかります。作業にかかった労働時間が短くなり、成果物の量が増えたからです。
このように、産出量の増加と労働時間の短縮が見込まれるのであれば、人員増加も生産性向上に繋がる策となることがわかります。とはいえ、近年は労働人口が減少しているので、少ない人数で多くの成果物を出すことに注力する方が現実的と言えるでしょう。
付加価値生産性は「付加価値額÷労働投入量」という計算式で求めることができます。1人当たりの付加価値生産性は「労働者数」を分母に、1人1時間当たりの付加価値生産性は「労働者数×労働時間」を分母に当てはめることで計算できます。
★具体例①
従業員5人が8時間の労働時間で15万円の付加価値を生み出した場合、計算式は以下のようになります。
★具体例②
従業員3人が8時間の労働時間で15万円の付加価値を生み出した場合、計算式は以下のようになります。
具体例①と②を比較するとわかるように、同じ付加価値額、同じ労働時間でも、労働者数が減れば付加価値生産性は上がります。この2人分の労働時間を他の業務へと回すことで、組織全体の労働生産性を高めることができます。
また、新しいサービスを開発したり、新たなビジネスプロセスを展開したりして付加価値額が上がった場合も、労働生産性が高まります。同じ従業員数・労働時間で、付加価値を上げることに注力するのもひとつの手です。
付加価値生産性の計算式で必要となる「付加価値額」という値。付加価値額の求め方は2通りあります。
ひとつは「加算法」です。「積上法」と呼ばれることもあり、日銀が推奨している計算方法です。
加算法は「人件費」「金融費用」「減価償却費」「賃借料」「租税公課」「当期純利益」を足して付加価値を求めます。付加価値を生むためにかかったコストを加算していく方法です。
付加価値を求める一般的な計算方法として浸透しています。
もうひとつの「控除法」は、中小企業庁に推奨されている計算方法。「売上高ー外部購入価額」という計算式で付加価値を求めます。外部から購入したものにかかった費用を売上高から差し引くことで、自社が手を加えて価値を生み出すのにかかった費用を求める方法です。
外部購入価額には原材料や部品費、外注加工費、運賃などが含まれます。加算法よりも計算式は単純ですが、外部購入費の内訳がわかりにくいというデメリットがあります。
あらゆるモノの可視化、定量化が勧められる現代。生産性もそのひとつではありますが、そもそもなぜ計算する必要があるのでしょうか。改めて目的を確認してみましょう。
限られた資源を有効活用するため、企業は生産性を高める必要があります。しかし、今の状況を把握できていなければ、どれほど生産性を上げるべきなのかわかりません。何の生産性が不十分なのかわからなければ、対策を練ることさえできません。
よって、計算して現状を明確にする必要があるのです。そして、具体的な数値をもとに企業の課題を把握することが、イノベーションを起こす「原動力」となります。
従業員に「組織の生産性を上げましょう」と呼びかけるだけでは、状況は変わらないものです。目標がなければ、従業員のモチベーションは上がりません。何をどのように改善すべきかわからず、戸惑ってしまうことでしょう。
そのため、計算して具体的な数値を示す必要があるのです。データをもとに、どの生産性を・いつまでに・どれほど上げれば良いのか目標を設定することで、組織が目指すべき方向が定まります。
組織の生産性を高めるには、従業員全員の協力が必要です。そのためには、誰もが情報を正しく理解するための「共通の指標」が必要になります。
それが生産性を数値化する意味です。定量的な指標があることで、主観に左右されることなく、全員が同じように課題と目標を認識できます。
また、具体的な数値は、意見を述べる際の根拠となります。施策を提案する際や、チームメンバーを説得する際、データを根拠に伝えることで納得してもらいやすくなるでしょう。
現状と課題の把握、具体的な目標設定、正確な情報共有。これらは全て、生産性向上の施策を成功させることに繋がります。
現状を明確に把握することで、適切な手段を見極められます。目標があれば、計画的に施策を実行できるでしょう。また、情報を正確に伝えることで、問題が発生したときも協力して対処できます。
反対に、明確な数値がなければ、施策も的外れなものとなる可能性があります。情報共有時にトラブルが起きることも考えられます。つまり、着実に生産性を高めるため、そして効率よく施策を実行するため、計算して数値化する必要があるのです。
少子高齢化により、労働人口が減少し続ける現代。少ない労力で多くの利益を生み出すには、効率化してインプットを減らす、もしくは付加価値を上げる工夫が必要です。
施策の具体例を3つ挙げますので、労働生産性の向上に取り組む際はぜひ参考にしてみてください。
少ない人数で多くの業務を遂行するには、業務効率化が必須です。その手段として、デジタル技術の活用が有効と考えられます。
例えば、データ入力をデジタルツールに任せることで、従業員の労働時間を短縮できます。顧客情報をツールに管理させれば、少人数でもスムーズな顧客対応が可能に。
また、デジタルツールは人材育成の効率化にも役立ちます。投入労働力のムダの削減、従業員の能力アップによる付加価値の向上を同時に実現することができます。労働生産性の向上に大きく貢献することでしょう。
自社の労働生産性を計算し、何を効率化すべきか見極めることが、デジタル技術を有効活用するポイントです。
業務の中には自動化できないものもあります。そのような業務も見直しを行い、ムダ・ムリ・ムラをなくす必要があります。過剰な作業人数、作業時間の無駄をなくすことで、労働生産性を上げられます。
業務改善を行う際は、マニュアルの作成がおすすめです。効率の良い取り組み方をマニュアル化することで、職場全体の生産性を高めることができます。属人化も改善され、少ない人数でも滞りなく業務を遂行できるようになります。
臨機応変な対応が求められる業務も、一部マニュアル化することで迷ったり悩んだりする時間を短縮できるでしょう。
またマニュアル作成には、業務効率化だけでなく、サービスクオリティの向上も期待できます。ワンランク上のサービスが企業の付加価値となり、より着実な労働生産性向上の実現へと繋がるでしょう。
人材育成も、労働生産性を高めるうえで欠かせない取り組みです。例えば、以下のような効果が期待できます。
管理者の育成を行うと、職場全体の業務を効率化できます。無駄なく作業を割り振ったり、スムーズに情報を伝達したりできるよう、マネジメントスキルやコミュニケーションスキルの向上に力を入れると良いでしょう。
知識・スキルを高めることは、作業スピードの向上に繋がります。また、新しい知識やスキルを身につけることで、企業改革の実現も可能になります。
さらに、成長を実感することによるモチベーションアップも期待できます。発想力・主体性が身につけば、イノベーションを起こすアイデアも浮かびやすくなるでしょう。
ちなみに、労働生産性の数値は目標管理に活用することもできます。従業員の生産性に対する意識を高め、組織全体で取り組むことを目指しましょう。
労働生産性に限らず、最近では企業のデータを計算・管理するのは機械です。デジタルツールに任せた方が、ミスなく、スピーディーに情報を把握することができます。
とはいえ、手作業で計算しなければならないシーンに遭遇する可能性もあります。従業員同士、スムーズにコミュニケーションをとるためにも、基本を知っておいて損はありません。組織全体で知識を習得し、労働生産性に対する意識を高めることが、生産性向上を実現する第一歩となるでしょう。