企業の成長にとってチームやプロジェクトをけん引するリーダーの存在が不可欠です。一般的にリーダーについては「魅力的で人を惹きつける、コミュニケーションが上手な人が適している」と思っている人が多く、「自分は内気な性格なのでチームをまとめるリーダーは向いていない」と考える人もいるでしょう。
しかし、さまざまなリーダーシップ研究の結果、どんな人でもリーダーとして成長できることが明らかになっています。優秀なリーダーとして力を発揮するためにはノウハウやスキルの習得、学びが大切で、生まれ持った能力・資質とリーダーシップを発揮する適性があるかどうかは関係無いという考え方が立証されています。
今回は、リーダーシップとはなにか、必要なスキルやを身につける方法などについて解説しています。
リーダーシップとは何でしょうか。ビジネス戦略研究所「リーダーシップの教科書」によると、リーダーシップの定義とは「他人を巻き込んで望ましい方向に動かす力」だとあります。
リーダーシップは、指導者を意味する「leader」と位置を意味する「ship」を合わせて生まれた言葉です。組織が成果を獲得するためには、チームの目指す方向性を決める、業務進行が停滞しないように行動を推進する、などが必要になります。このような場合に求められるスキルが、リーダーシップです。
リーダーシップのある人とは、たとえば次のような特徴が挙げられます。
リーダーシップはチームを統率するリーダーに欠かせない能力ですが、組織のメンバー全員に求められる能力でもあります。自ら目標を設定し主体的に考えて行動するためには、自らを望ましい方向に動かす力が必要です。
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今、次世代リーダー育成が注目されていますが、その背景にはどのようなものがあるのでしょうか。
多くの企業は、自社の企業価値を高めながら永続的な成長をし続けることを目的に、新たな戦略を立て、将来に向けた成果の獲得を目指しています。
プロジェクトに集められたメンバーが目的を共にし、協調性をもって行動していくためにはー、目的達成に向けてプロジェクトやチームを率いるリーダーが必要です。組織でチームワークを持って業務に取り組む上でリーダーシップスキルを身につけた人材は欠かせません。
しかし、企業の人材育成課題には、管理職や中堅者のリーダー育成に注力できていないという悩みも少なくないようです。
今、リーダー育成が求められている背景として、以下の3点を紹介します。
私たちを取り巻くビジネス環境は、技術の進化が早く、1年、2年という短いスパンでも将来の予測が見通しにくいと言えます。
このような環境の中でチームメンバーがそれぞれ違う目的を持って動いていては、チームの、あるいは会社の事業を順調に進めることはできません。あらゆるチームにおいてメンバーの意思をまとめて、適切にプロジェクトの方向性を見据えて推進できるリーダーの必要性が高まっているのです。
私たちの働き方が変わり、働く環境も変化しています。今はダイバーシティ、多様性の時代ともいわれますが、働くメンバーは就業形態や年齢、勤務時間、国籍など様々な違いを持っています。
チームリーダーはコミュニケーション能力を駆使し、メンバーそれぞれの個性を理解し、最大限に生かしていく必要があります。ひと昔前の男性中心の正社員で構成されたチームで、リーダーは、マネジメントと部下育成だけをしていればよかったのですが、今は過去の時代を踏襲したリーダー像ではチームメンバーの共感が得られにくいと言えます。
時代の変化が激しいなか、社会のニーズに対応していくために変化に敏感で対応能力に優れた若手のリーダーが求められています。このため企業はリーダーを早期選抜し、組織を若返らせることも重要課題として取り組む必要があります。
発想が柔軟で時代の変化に敏感でかつ抵抗のない若手層から早期に選び出し、要職を担わせる機会を与えて、次世代リーダーとして育成をスタートさせる必要があるでしょう。
リーダーシップを発揮するためには、具体的にどのようなスキルが必要なのでしょうか。
前項で説明したように、スタイルによって求められる能力が異なるケースもありますが、基本的には「主体性」「課題発見力・決断力」「目標設定力」が重要となります。
リーダーシップを発揮するベースともいえるのが、主体性です。主体性とは「自らの意思・判断で、自らが中心となり、責任を負って物事にあたる姿勢」を示します。
主体性を持つということは、たとえば物事を他人ごととするのではなく、「自らが当事者である」という認識を持って自ら課題を解決しようとする、より良い成果を上げるために自ら方法を考え行動するなどがあります。
主体性を持った人材は、だれかから指示を受けて行動に移すという受動的な姿勢ではなく、自立的に仕事に取り組みます。また、組織全体を見てやるべき業務を探し、見つけて、周囲の人を巻き込んで進めていくという特徴もあります。
このような主体性をもった姿勢は多くのリーダーに共通して見られていて、主体性が発揮されることがリーダーシップの発揮へと繋がると言えます。
リーダーシップを発揮するためのスキルには、組織やチームのメンバーが取り組むべきことを的確に判断する、課題発見力が挙げられます。
課題発見力は「現状を分析し目的や課題を明らかにする力」と定義されます。具体的には、会社のビジョンや目標、事業計画、組織の位置づけや置かれている状況などから問題になっている点、課題を見つけ、それを解決するための方法や施策を考えて、メンバーへの指示を具体的に検討します。
日常の業務が滞りない状態であるとしても、今よりももっと良くするためにさらに改善できることはないかというように、新しい改善点を見つけ出す力が課題発見力であるといえます。 例えば、「予算は計画通りに達成しているが、さらに1.5倍に拡大するためにはどうすればよいか」とひとつ上の状況を実現しようと考えることも課題発見力です。
判断力や決断力は、リーダーシップを発揮するスキルに不可欠です。
チームの方針や目標設定にはじまり実際に業務を遂行していくにあたって、リーダーはその都度、状況に応じて適切に判断して方針や方向性を決断しなければなりません。状況によってはスピード感を持って決断が求められることもあるでしょう。このような時にリーダーが迷って決断できなければ、判断が遅れ、競合に後れをとってしまうことになりかねません。
決断力を養う方法として、新たなことに挑戦する、すぐに実行する習慣をつける、小さな決断を積み重ねる、他社の事例を客観的に分析するなどがあります。状況に応じて最善の一手を打つために決断力を高めておくことが大切です。
リーダーは、組織全体の目標を明確に示し、メンバーそれぞれに合った目標設定をする必要があります。目標を明確にして、進むべきゴールが示されていなければ、そこに到達するまでの計画を作れないばかりか、なにも得られない可能性が高くなります。目指す目標設定がなければ当然、現状把握や結果の振り返りもベースがなければ評価することが困難になってしまいます。
また目標設定が高すぎればメンバーのモチベーションが低下することにもつながります。実現可能なギリギリの位置に目標を定める能力もリーダーには求められます。書籍には、目標の難易度によって部下やメンバーのやる気が変わると記載されています。全力で努力してやっと達成できるという難易度が一番やる気が出るといいます。部下のやる気を引き出し成長させるには目標設定力が必要であると言えます。
メンバーそれぞれにとって一段上のストレッチ目標を掲げることができれば、メンバーの仕事へのモチベーションがあがり、生産性の向上につながるといったメリットにもつながります。企業の目標やミッションを理解したうえで、自分のチームに適切な目標を設定し、その意味あいや意義をメンバーにしっかりと伝え、理解を得た上で業務を進めることも重要です。
リーダーには業務を遂行する中で、トラブルが発生するという経験をしたことがあるのではないかと思います。リーダーには問題が発生したときに解決する能力も求められます。
予期せぬ問題や解決の難しいトラブルが起こるケースも考えられます。書籍では、このようなときに、直ちに状況を確認して迅速に正確に把握する必要があると述べています。
状況を確認できたら、最善の対応策を考えて、トラブル解決に集中します。慌てずに冷静に対応することが大切です。行動するため、上記のように判断力を磨くとともに、本質的な問題を見抜き、計画的に解決する力を養うことが大切です。
プロジェクトのスケジュールの遅延などは、リーダーが問題解決能力を発揮する必要がある代表的な場面です。
リーダーは進行遅延の主な原因を探し出し、チームメンバーに解決策を提示しなければなりません。メンバーのスケジュールの再調整やメンバーの役割の設定見直しなど、プロジェクトをスケジュール通りに完遂させる力が求められます。
コミュニケーション能力はどのような仕事にも不可欠ですが、リーダーシップを発揮する上でも非常に大切なスキルだといえます。
リーダーは積極的にチームメンバーとのコミュニケーションの量を増やすことで、話しかけやすい関係性を構築しましょう。コミュニケーションが活発になることで、部下の性格や価値観を理解することができます。また、リーダーの性格や価値観を分かってもらえます。またコミュニケーションが増えることでチームの雰囲気が良くなり、業務の進捗確認がしやすくなり、またメンバーからの報告も行いやすくなります。たとえばチームメンバーに正しく情報を伝えて理解を得る場合や、メンバーの意見を吸い上げてチーム内で効果的に生かす場合、また必要に応じて業務を軌道修正する場合などにも、チームメンバーの立場を考慮した話し方や伝え方が大切になります。
コミュニケーション能力を伸ばすには、相手の気持ちや意見を理解しようとする姿勢を心掛け、相手の話に興味を示しながら聞き、うなづきやあいづちなどのしぐさにも留意することが大切です。
周囲から信頼されるリーダーになるためには誠実で前向きな姿勢は必須の条件です。書籍によると、誠実さは信頼を得るために最も重要な要素だとあります。
信頼は、自分の役割に対してまじめに取り組む。メンバーを社会人として尊重する。メンバーを公正、公平に扱う。約束は小さなことも必ず守る。などの一つ一つの行動の積み重ねによって得られるものです。
また、前向きな姿勢も大事です。いつも順風満帆に進むチームはありません。チームが危機的状況の時にもポジティブな姿勢を見せることで、メンバーは頼もしいリーダーと感じるでしょう。
リーダーシップを発揮するスキルには、感情の浮き沈みがなく、感情的にならないことも大切です。不機嫌に任せて怒鳴るような人と仕事をしたい人はいないでしょう。リーダーには自分の意見に対して反論や批判の声が上がっても、しっかりと受け入れる器の大きさが求められます。つねに冷静で、自分の機嫌や気分に左右されない精神的に安定していることは、チームメンバーを安心させます。
書籍には、チームメンバーに改善点がある場合も相手を成長させる叱り方があると書かれています。メンバーへ課題点について伝えるときには、感情的にならないようにする、相手の言い分をしっかり聞くことを念頭に置いて話すようにします。
リーダーシップを身につける方法にはどのようなものがあるのでしょうか。ドラッカーも提言したように、リーダーシップは生まれ持った能力や資質ではありません。後天的な努力で身につけることができ、誰でもリーダーシップをとることができます。リーダーシップを身につけるためには、以下の5つのポイントがあります。
リーダーシップを身につける方法のひとつには、コミュニケーション力を高めるということがあります。
チーム内でコミュニケーションが活発になることで、リーダーやメンバー同士で相談しやすい雰囲気を作り出せます。その中で抱えている懸念点や問題点に気付きやすくなります。
コミュニケーション力を高める方法には以下のような方法があります。
リーダーシップを身につけるためには、リーダーはメンバーに対してやるべき仕事と責務を明確にすることが大切です。
リーダーシップ論研究の第一人者のジョン・アデアは、リーダーに求められる8つの行動をあげましたが、 その中で、チーム全体はもちろんメンバー個人に対して、仕事の目標や内容を明確に、具体的に示す必要があるとしています。
チームが全員で成果を生み出すためには、チーム全員が目的や意義を共有し一枚岩となって取り組む必要がありますが、その中でリーダー自身も含めメンバーそれぞれの請け負う業務と責務を事と責務を明確にしておく必要があります。
書籍には、リーダーはすべてのメンバーに達成すべき目標を理解させ、メンバーに業務と責務を割り当て、当事者意識を持たせることが大切だとあります
仕事に対して常に問題意識を持つことも、リーダーシップを身につけるために必要な行動です。仕事に対して主体的に取り組む姿勢が重要となります。
問題意識を持つとは、目標達成に向けたメンバーの業務に滞る箇所や課題はないか、常に意識しているということです。問題になりそうな懸念が見つかれば、表面化する前にトラブルを回避するような指示を出すなどし、チームを目標達成に導きます。
仕事に対する問題意識を常に持つことで、不測の事態が発生したときにも的確な状況判断が可能になります。リーダーはこのような姿勢でチーム全体に意識を巡らせながらチームをけん引していくことが大切です。
リーダーシップを身につけるための行動として、チームメンバーの能力を信頼することもひとつです。
チームにリーダーシップを持った優秀なリーダーがいるだけでは成果を獲得することは難しいものです。リーダー一人が頑張るのではなく、メンバー1人ひとりの力を引き出して業務に取り組む必要があります。
ピグマリオン効果は心理学者のロバート・ローゼンタールが提唱しましたが、人は期待をかけられると成績が向上するというものです。リーダーが部下の能力を信頼し、期待していれば、部下がやる気になってチームのパフォーマンスが上がります。チームメンバーに期待を持って接することでメンバーは期待に応えようとやる気になってくれます。
これを実現するためには日頃のコミュニケーションや定期的なミーティングによって、メンバーとの信頼関係を構築していくことが不可欠であり、リーダシップを高めるために効果的です。
リーダーシップを身につける方法のひとつとして、リーダー育成研修の実施があります。しかし、自社内でこの研修を行うためには「社内にリーダー育成の知識やノウハウは十分にあるのか、社内からの発信で正しくリーダー育成を行えるか」などが課題となり、なかなか実施に至らないというケースも発生しています。
そのようなときには外部のリーダー育成研修を活用することもひとつです。リーダーシップ研修では、リーダーシップ理論やチームマネジメント、チームビルディング、コミュニケーションスキル、倫理的意思決定などを学ぶことができます。
研修は、従来の集合型やワークショップのほか、オンライン受講など様々な方法で提供されています。集合型のリーダーシップ研修では、参加者はロールプレイングを通じてアウトプットすることで、リーダーとして必要な実践的なスキルを身につけることができます。
リーダーシップスキルを養うために意識して取るべき行動にはどのようなものがあるのでしょうか。
リーダーシップスキルを向上させるためにとるべき行動にはどのようなものがあるのでしょうか。リーダーシップを育むため、たとえ今リーダーの立場ではない人でも行動できることがあります。以下に6つ取り上げました。
リーダーシップスキルは、役職や職務レベルにかかわらず実行することが可能です。たとえば会議を設定しメンバーを招集したり、会議を予定通りに進行し、時間内に終わらせることもチームをリードする行動です。
また、チーム内で後輩のサポートや指導をするのもリーダーシップのひとつです。リーダーシップスキルを身に付けて向上させるために、普段の業務のなかにリーダーシップを発揮できる機会を探してみると良いでしょう。
リーダーシップ研修に参加するのも、リーダーシップスキルを身に付けるためにおすすめの方法です。
個人ワークやグループワークを通して、チームメンバーとのコミュニケーションの取り方や分かりやすい指示の出し方などを学べるでしょう。特に対面で行う研修コースの多くは研修内容に練習やロールプレイが含まれていますので、リーダーシップ研修を受けることでリーダーとして活躍するための知識を学べるだけではなく、実践的なスキルを習得できます。
リーダーシップについて書かれた書籍や動画などで学ぶことによって、リーダーシップとは何か、またどのようにリーダーシップスキルを習得すればよいかについて理解を深めることができます。
ただしリーダーシップスキルを向上させるためには、知識をインプットするだけではなく、アウトプットしていくことが大切です。書籍から得た知識は、組織やチーム内で実行していくようにしましょう。
リーダーシップスキルを向上させるシーンは職場以外にも探すことができます。社外活動や地域の活動、趣味や習い事においても、そうした環境を求められるでしょう。
例えば、同僚や友人とのキャンプなどの遊びや旅行を企画してみることも、リーダーシップスキルを向上させることにつながります。趣味の仲間と行うイベントなどにおいて、意見を吸い上げて総意をまとめるなどすることで、コミュニケーション能力や行動力、信頼性などを身につけることができます。
リーダーシップスキルは技術であるため、リーダーシップを発揮している人の行動を真似ることは、自己のリーダーシップスキルを高めるのに役立つでしょう。自分が求めるリーダーシップスキルを持っている人がいるならば、その人をモデルとし観察します。
メンターを見つけてその人にリーダーシップスキルを身につける方法を教えてもらうことも効果的です。尊敬する人に付いて勉強することで、その人の優秀さの要因となっている資質を見つけることができ、意識することで身に付けやすくなります。
尊敬するリーダーがいれば週1回または月1回のペースでメンターとして指導してもらえるように依頼してみると良いでしょう。リーダーシップを向上させるための手法や考え方などを学び、質問や疑問、改善点など気づきを得ることが期待できます。
時代の変化が激しい今、企業が永続的な成長をし続けるためには、時代に合わせて適時適切な施策を講じる必要があります。そのためには組織の力をまとめてけん引するリーダーシップが不可欠となります。
従業員がリーダーシップを身につけて、チームを引っ張っていく力を発揮できれば、企業は企業価値を高められ成長していくことが期待できます。これからの企業はいっそう従業員に対するリーダー育成が求められます。そして企業はリーダーがリーダーシップが十分に発揮できる企業風土を構築し、整える必要があります。
リーダーシップを育むには、リーダーや従業員が意識して努力して身につけられることもありますが、自社内外でのリーダーシップ研修プログラムを活用することも有効です。