現在の日本では、多くの企業が慢性的に人材不足で悩まされています。今後も日本の労働人口は減少すると予測されていて、人材不足は解消されにくい環境にあります。
このような状況で企業がさらに業績を伸ばして成長していくためには、業務の効率化を図って少ない人材でも生産性を向上させる必要があります。この業務効率化・生産性向上に一役買うのがペーパーレス化の取り組みです。
今回はペーパーレス化はなぜ必要かについて、メリットやデメリット、ペーパーレス化の推進方法について解説し、成功事例を紹介します。ペーパーレス化への他の企業の動向を確認して、自社の取り組みに生かせるのかを知りたい人事、教育部門、管理部署の方の参考になればと思います。
ペーパーレス化とは、電子化などによって紙の使用をなくすことを指して使われる言葉です。
ビジネスにおいては、帳簿や記録など、これまで紙で保存していた情報をデータ化するなど単純に紙をなくすことにとどまらず、これまで紙で運用されていた文書・書類・資料などを電子化して活用し、業務効率化やコスト削減を図ることをペーパーレス化と呼びます。
企業が業務のペーパーレス化を進める、ビジネスシーンにおける取り組みとはどのようなものなのでしょうか。
コロナ禍を経て、日本の企業においてもテレワークが浸透してきました。テレワークは多様な働き方を実現する重要な手段のひとつですが、このテレワークを実現するためには企業はこれまでの業務のやり方、進め方を見直す必要性が出てきました。
資料が紙ベースのままでは社内にいる人にしか共有できないため、テレワークには向きません。テレワークでは、データをオンラインで確認するためデータのデジタル化が必要となります。テレワークなど新しい働き方の実現には、ペーパーレス化の推進が大きく役立つといえます。
また、ペーパーレス化の取り組みとして、社内で使用するさまざまな書類、文書を電子化して保管することが挙げられます。これによってオフィスの省スペース化や業務の効率化、コスト削減、セキュリティ強化などのメリットが期待できます。
これまで紙媒体の書面として共有していた情報を作成したデジタルデータのまま保管すれば、会議資料など印刷する必要ななくなります。企業が注目するDXの促進にも効果が期待できます。
横山公一氏の書籍「オフィスの生産性革命!電子認証 ペーパーレス入門 TCG出版」によると、すでに大手ゼネコンやメガバンクもペーパーレス化への取り組みを始めていて、大きな効果をもたらしているといいます。
ペーパーレス化へ取り組む企業が増えていますが、なぜいまペーパーレス化へ切り替えるのでしょうか。その背景には以下のような理由があります。
ペーパーレス化は企業それぞれの努力目標というものではなく、国家として政府が主導して推進されていて、官公庁や税務署などでもペーパーレス化への取り組みが行われています。2021年9月にデジタル庁が新設されたのも記憶に新しいところですが、行政のデジタル化はますます推進されていくと予想されます。
ペーパーレス推進のための法整備は段階を踏みながら進められています。1998年に国税関係の帳票や証憑類の電子保存を認める「電子帳簿保存法」が施行され、つづいて2004年には商法や税法で保存・保管が義務付けられている文書のデジタル保存を認める「e-文書法」が施行されました。
電子帳簿保存法については数回にわたって改正があり、書類電子化の要件が緩和されました。
これまでは紙に印刷して保存したものも認められましたが、令和6年からは電子取引でやり取りした取引情報は電子データのままで保存することが原則となります。電子取引における電子データ保存が義務化されて、企業はこれらの法律改正への対応によっていっそうペーパーレス化の動きが活発になっていくと予想されます。
引用:日本製紙連合会「世界の中の日本 国民一人当たりの紙・板紙の使用量」
CO2削減などの環境保全の観点からもペーパーレス化は推進されています。
日本製紙連合会の発表によると、日本の紙・板紙の一人当たりの消費量は世界で8位、世界平均の使用量の3倍も紙を使っています。
私たちが業務で使用する紙の生産には、原料の木材の伐採が必要となります。
紙の生産が森林破壊の原因となり、光合成を通じて二酸化炭素を酸素に変えてくれる森林が減ってしまうこと、また、紙の生産の過程で二酸化炭素を排出していることから地球温暖化への影響も心配されています。森林の減少が環境に及ぼす影響は他にも挙げられます。森林に住む野生動物や植物の絶滅を引き起こすなど生態系を変えてしまう恐れがあります。
ペーパーレス化を進める企業は、紙の廃棄を抑え、環境や資源に配慮している企業である、つまりSDGsに積極的に取り組む企業として認識されます。これは企業イメージの向上にもつながるもので、新しい顧客や、取引先、または投資対象として選定されるなどのメリットを享受できる可能性があります。世界中でサステナビリティへの取り組みが提唱される中で、ペーパーレス化に注目する企業が増えています。
将来的にペーパーレス化へ切り替えが望ましいとはわかっていても、なかなかペーパーレス化が進まない企業や事業所、職場も多いのも事実です。
企業や職場にとってペーパーレス化を進めていくメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。ここではペーパーレス化を推進するメリットを3つ取り上げます。
ペーパーレス化によって得られるメリットのひとつがコストの削減です。
資料の作成やさまざまな書類のプリントアウト、発送などの手間が省ければ、それらの作業に関わっている人件費の削減もできますし、印刷代や郵送費用も削減できます。
横山氏の書籍 にはペーパーレス化のメリットとして印紙税の削減があると書かれています。特に不動産関連や金融関連の企業では「印紙税の削減」が期待されます。
不動産業において土地の売買において多数の契約が扱われていて、それらの契約の取り決めには印紙税が必要になる場合が多くあります。取引の金額が大きく、また取引数が多ければそれだけ印紙税がかかってくることになり、大手の不動産会社では年間の印紙税が億単位となるといいます。
また金銭消費解釈契約にかかわる印紙代は大手銀行ではやはり数億のコストがかかるといいます。
銀行口座を持つと渡される紙の通帳は、印紙税法で「課税文書」と位置づけられており、1口座あたり毎年200円の税がかかります。三菱UFJ銀では約4000万の口座があり、単純計算で80億円近くの印紙税を国に払っていることになります。それに対して、デジタル通帳は印紙税がかかりません。
このようにペーパーレス化によって企業は大きなコスト削減ができる、と横山氏は書籍で言及しています。
ペーパーレス化によって削減できるコストには直接的なコストと間接的なコストがあります。
直接的なコスト
印紙税、印刷のための費用(用紙やインク、トナー代)、郵送にかかる切手代などの流通コスト、紙書類を補完するための外部倉庫などの保管コスト
間接的なコスト
各種書類作成や管理にかかる人件費、また書類を探すための倉庫までの移動や閲覧許可などの手間、時間など
ペーパーレス化によって得られるメリットは業務の効率化、生産性の向上です。
情報を紙の書類ではなくデジタルで保管していると、必要なときにその場で欲しい情報にアクセスすることが可能です。紙媒体の書類を読み直したい、確認したいという場合、該当する書類が保管されている倉庫まで行って、積まれた段ボールのなかから該当する箱を探し出して、引っ張り出し、書類の山の中から探すという「重労働」をしていたところ、情報がデジタル化されていれば年度や書類のタイトルなどで検索することで欲しかった情報を探し出すことができます。
また、新しい資料を作成したいときにも、いまあるデジタル化された情報をベースに加工や編集することが可能ですので、より早く簡単に作成することができます。このようにペーパーレス化によって日々の業務の生産性を向上させ、業務を効率よく進めることができます。
横山氏の書籍によると、紙の契約書は作成する手間、流通させる手間がかかり、それが多ければそれだけ手間と時間が取られているといいます。
たとえば人材派遣業においてペーパーレス化がすすめば、大きなメリットがあると述べられています。派遣会社では人材を派遣する先の顧客企業と人材雇用や請負に関わる契約書を交わしていて、人材を抱える派遣企業ほど、扱う契約書は多くなります。作成した契約書を印刷し、封書にいれ、郵送することになりますが、デジタル化された契約書の送付に切り替えることで、これらの手間と時間と郵送コストを削減できると述べています。
横山氏の書籍には、ペーパーレスを進め、デジタル化することによって内部統制の強化を図ることができる、とあります。
企業は組織的な運営をしていますが、内部統制の整備と運用が重要です。紙媒体を多用しているアナログな業務においては、業務に関するルールを決めて、そのルールに沿って運用されているかをチェックする人を置くというように運用されています。エラーが起きてはいけない部分にはダブルチェックを行うなどの措置を置いたり、厳しいルールを設定したりしますが、人の目や手で行う作業はエラーやミスを完全になくすことが難しいのです。
しかし、業務の流れをルール化してそのルールに沿って相互けん制するようなチェック機能を作っておくことで、イレギュラーが起きるとエラーが表示されて処理を止めるように設定しておけば、間違ったまま処理されてしまうことはありません。
また、ペーパーレス化によって情報漏洩や紛失、改ざんなどのリスクを減らすことができます。
紙媒体でも電子媒体でも、企業では情報に対してリスクアセスメントを行い、その情報が万が一漏れてしまった場合のリスクの度合いを決めて「極秘や社外秘、個人情報」などの区分を設定して非公開・公開の識別をします。
紙の書類であれば非公開情報は鍵付きの書架やキャビネットなどで保管することになります。
電子媒体の非公開情報は、アクセス権を設定することで利用者、特権保有者を特定して、閲覧や持ち出し、廃棄、情報漏洩などを制御することが可能です。部長以上が閲覧できる書類、また正社員はアクセスできるが、アルバイトはアクセスできない、など様々なアクセス権を儲けることができます。
石川秀人氏の著書「オフィス業務の生産性改善手法がよ~く分かる本 秀和システム」には、デジタルにおいてヒューマンエラーにある「見落とし」はないため、情報のセキュリティも紙媒体よりも強固なものになると述べられています。
ペーパーレス化によって得られるメリットが多いことが分かりました。ではデメリットはあるのでしょうか。ここではペーパーレス化によって引き起こされるデメリットについて見ていきましょう。
ペーパーレス化を導入するには、それを実現するためのしくみが必要です。
社内にサーバーをおいて、イントラネット(組織内のプライベートネットワーク)を組むことでペーパーレス化の環境を作ることができます。社内の稟議や各種申請書など社内文書のやりとりには十分な環境です。
ただしこの状態では各種法的要件を満たしていないので、他社との電子契約などはできません。
取引先など他社とのやり取りが必要となる契約書や請求書、領収書などまで網羅するには専用のシステムを導入することになります。
このように初期にかかるコストがペーパーレス化のデメリットとなるでしょう。
いまはクラウドサービスで複数のペーパーレスシステムが提供されています。多くは1IDあたり1カ月(半年、一年単位もある)あたりの課金制度となってるので、試しに数人で取り組むこともできますし、従業員全員を対象にしたときにも経費が明確になります。
クラウドサービスはセキュリティが心配という声もありますが、セキュリティの知識や技術は日々進化を続けていて、クラウドサービスの提供会社は、自社の社運をかけてセキュリティ対策に取り組んでいます。サーバーの管理運用はそれを専門とする企業に託したほうがはるかに確実で安全性が高い、と横山氏の書籍では言及しています。
ペーパーレス化によるデメリットには、「今までのやり方を変えなければいけない」ということが挙げられます。
人は多かれ少なかれ慣れてきたことに対して安心感を見出します。一方で慣れないこと、新しいことに対して抵抗感や違和感を覚えるものです。
横山氏の書籍には、人は新しいことを始めるにはエネルギーを使うとあります。また神経もつかい、不安や心配もあるため、わざわざ新しいものへ変えなくてもいいのではないかという気持ちが生まれます。
ペーパーレス化によるデメリットというよりは、このような人の意識、固定観念が新しいものへと変わることへの壁となっていると述べています。
電子機器もそれぞれが機械ですので、故障や不具合が発生する可能性はあります。個々に使っているパソコンやタブレットなどの端末も故障や破損、紛失などのトラブルが起こるリスクはあります。
またシステム障害や回線障害が出れば、仕事がストップすることは避けられません。これらの障害に対してペーパーレス化が進んでいるほど、影響は大きく受けることになります。
e-文書法が施行されて、これまでは紙の文書による保存が義務付けられていたさまざまな文書が、電磁的記録によって保存可能になりました。
企業内の主な領域においてペーパーレス化が可能です。ここでは、ペーパーレスの対象となる書類をはじめ、ペーパーレス化が推奨される書類はどのようなものがあるかを見ていきます。
横山公一著「オフィスの生産性革命!電子認証 ペーパーレス入門 TCG出版」を基に弊社で作成
見積書や納品書、検収書、請求書、領収書などの外部とのやり取りで使用する経理書類は電子帳簿保存法にてデータ保存が認められています。2016年の改正によってスマートフォンで撮影したレシートもデジタル書類として認められていて、外での清算の多い営業などの部署にとっては利便性が高まりました。今後ますますペーパーレス化が進みやすくなることが期待されます。
社内での企画書や稟議の回覧に紙の書類を回して押印している企業も多いと思います。これらの社内決裁に関わる書類をオンラインで完結させるワークフローシステムなどを利用することで用紙を出力することがなくなります。またシステム上でどこまで回覧されているのかも確認できるため、どこで滞留しているのかも明らかになります。
社内の新人研修などで活用している業務マニュアルも、ペーパーレス化が推奨される書類のひとつだといえます。紙でのマニュアルは、誰かが利用していると他の人が見れない場合があります。
また、マニュアルに記載された内容が変更になった場合、紙に印刷されたマニュアルは変更に対応できません。
マニュアルをデジタル化して従業員が共有するシステムにアップロードしておけば、各自が見たい時にマニュアルを各自の端末を通して確認することができます。
文字によるマニュアルだけではなく、詳しく手順を紹介する動画によるマニュアルも共有することができます。何度も見返すことができますので、デジタル化したマニュアルは習得に効果的だといえるでしょう。
取引先など外部との合意の証となる契約書もペーパーレス化が進めやすいとされています。
これまでの紙媒体の契約書は、作成から文書の取り交わし、さらには保管に至るまで多くの手間と時間とコストがかけられています。紙の契約書は郵送費がかかるうえ、印紙税もかかってくる場合があります。
電子契約関連の機能を持つシステムを導入し、対外的な書類をペーパーレス化することで、業務効率化の大きな効果を得ることが期待できます。
すべての書類や帳票がペーパーレス化に向くとはいいがたい部分もあります。たとえば免許証などの許可証類や安全の手引きなど、電子化が規制されている書類もあります。
また創造性の高いもの、クリエイティブなものなどもデジタル化が難しいといえます。
ペーパーレス化を進める方法には、どのようなものがあるのでしょうか。
ペーパーレス化の方法として、いまある紙書類を電子データに変換するということがあります。紙で保存した情報を、スキャナーを使ってPDFなどの電子化文書として変換し、保存する方法です。
保存・保管が取り決められている帳票や書類を、法令に準拠した状態で電子データに変換して保存・保管することで、紙の書類は廃棄できます。これもペーパーレス化の方法のひとつです。
これまで紙の書面で保存していた情報をデータ化することで、デジタル活用ができます。
たとえば検索ワードを入れることで、該当箇所を自動で探すことができます。紙媒体では検索機能がありませんので、必要な情報を探すのが大変でした。資料のデジタル化で、データの活用が可能になり、業務効率が高まります。
また、ExcelやWordなどのデジタルデータ(電子文書)として作成した書類を、PCで作成したデジタルデータをそのままPCやタブレットで閲覧して活用する方法をルール化していくことで、会議資料などを人数分、紙に印刷して準備する手間や、紙コストが不要になります。
ペーパーレス化を進める方法には、ペーパーレスツールやシステムを導入することも選択肢のひとつになるでしょう。ペーパーレス化のためのソリューション、電子ワークフローや電子契約サービスなどは複数の企業が提供しています。
たとえば文書管理システムを導入すると、これまでの紙ベースの書類では対応できなかった文書検索機能やアクセス権限管理ができるようになったり、申請や承認といったワークフロー機能などをデジタル上で完結することが可能となります。
ペーパーレス化を進めるには、ポイントや注意点があるのでしょうか。ペーパーレス化をスムーズに推進するためのポイント・注意点を5つ挙げました。
いままでのやり方を変える、習慣を変えるということはむずかしいものです。新しい提案があったとき、人は無意識に変化を嫌う心理が働きます。企業の業務フローについても同じことが言えます。今までのやり方が一番適しているやり方であるはずだからです。わざわざ変更することに対して「いま、別段困っていないのに変える必要はない」と変化に抵抗する心理が生じるものです。
こうした心理がペーパーレス化の壁となって遅らせてしまう原因となります。
ペーパーレス化に移行するには、どれほどのメリットがあるのかを従業員にしっかりと繰り返し伝えること、啓もうを続けることで理解を得ることが大切です。
個々の従業員の作業の手間が削減される、無駄な業務と経費が削減される、このことで従業員は本来のやるべき業務に時間を回すことができるなど、自分の業務にとってどれほどメリットが生じるのかを分かるように導いていくと、ペーパーレス化への抵抗が減り、モチベーションが高まっていくでしょう。
事前に社内説明会を行うなどで従業員へ理解を深める場を設けることや、必要に応じて相談窓口を設置するなどで、ペーパーレス化への不安や疑問を解消できるようにするのも良いでしょう。
書籍のなかで横山氏は「どのような変革と同様に、ペーパーレス化というのは従来の業務フローのみならず業務への意識の変革も伴うものなので、経営トップが変革に対して旗を振ってリードしていく、推進していくことが大切だ」と述べています。
経営陣が動かないと、どのようなシステムを導入したとしても継続せずにすぐに元のやり方に戻ってしまいます。定着するためには会社組織が率先してペーパーレス化に取り組む姿勢が必要です。
横山氏の書籍によると、ペーパーレス化がなかなか進まない要因のひとつに、日本の「証文」への信頼の高さがあるといいます。
日本には昔からある「紙文化」と「印鑑文化」があります。約束事や契約では口約束ではなく、実態のある「文書」や「証文」の信頼が相当高いという傾向があります。デジタルデータよりも紙の証文と捺印のほうが安心だという意識が根強く、この意識を変えるということはそう簡単なことではありません。
デジタルというと簡単にコピーされてしまう、捏造されてしまうというイメージがありますが、そんなことはありません。電子契約の効力は法的に認められていて、電子署名とタイムスタンプを付与した電子文書は、紙の文書以上の真正性を持つことができます。
横山氏の書籍によると、ペーパーレス化はできるかできないかということではなく、やるか、やらないのかという話だといいます。
ただし一気にペーパーレス化に変えていくのは不安や抵抗があるという場合には、スモールスタートで始めていくと良いとあります。「部署を限定する」「業務を限定する」などでスタートして、ペーパーレス化を段階的に広げていくというやり方もペーパーレス化導入のひとつのポイントです。
たとえば経理で扱う帳票からペーパーレス化を始めた企業例があります。領収書と請求書の処理に時間と手間がかかっていたので、ペーパーレス化にし作業時間の短縮が実現しました。
社内で使用する帳票にはたくさんの種類があります。日々の業務報告書や申請書、会議の議事録、稟議書など社内で使われる文書や、見積書や契約書、請求書など社外の取引先とのやり取りに使われる文書など実に多くの書類があります。部分的に始めたペーパーレス化に慣れてくると、順次広げていきやすくなります。
公認会計士や税理士は各種法律や実務処理について知見を持っていますので、なかにはペーパーレス化のアドバイスをする公認会計士や税理士もいます。
またペーパーレス化のシステムやツールを販売する企業に自社のペーパーレス化について課題や問題点、目指す姿を相談し、最適な導入のフローを提案してもらうことも有益です。
ペーパーレス化に成功した企業の取り組み事例を3つご紹介します。
上場企業であるA株式会社は製造業を営んでいます。紙ベースの書類をデジタル化、ペーパーレス化を実現しました。
【課題・問題点】
上場企業であり、グローバルにビジネス展開をしているA社ですが、工場・営業所の支払いに関する稟議はすべて紙書類で回していたそうです。この稟議の過程で部署ごとに承認を行った証拠として承認した書類のコピーをすべて保管していたといいます。
これには現場の手間がかかり、また稟議のスピードも遅くなるという課題がありました。
【導入の決め手】
システム導入に際して「導入のためのコンサルティング・支援サービスの有無」を重要視していて、スムーズにシステム導入し、定着させるまでの支援が得られるサービスを選択しました。また、法令変更にリアルタイムで対応するシステムであることも決め手となりました。
【導入後の効果】
紙での稟議申請業務では経理や庶務が行っていた会計システムへの手入力と書類の保管・管理は手間とコストがかかっていましたが、電子化したことで紙への出力の必要がなくなり、書類の郵送業務もなくなりました。画面上でいつでも確認できるため、紙での保管が不要となりました。サービス導入後は電子化したデータを会計システムに取り込むことができ、申請から経理によるデータ入力までの一連の業務にかかる時間が大幅に短縮できるようになりました。
上場企業のB社は、オンラインゲームサービスを自社開発している会社です。ペーパーレス化のシステムを導入し、内部統制の強化を図りました。
【課題・問題点】
B社は優れた開発力で急成長しました。しかし組織マネジメント面では手薄なままで、特に内部統制の強化が必須でした。このためペーパーレス化のシステムを導入して活用することで内部統制の強化を目指しました。
【導入の決め手】
稟議申請などのワークフローをシステム化したいなかで、電子署名とタイムスタンプの機能があるシステムを法令対応ができると考えて、選択したといいます。
【導入の効果】
システム導入後、全従業員が社内稟議や作業日報承認などの業務で活用しています。電子署名で「だれが」、タイムスタンプで「いつ」、どの申請に対して承認したのかが証拠として残りますので、内部統制を適切に行っていることを示すことができているといいます。書類の不適切な改ざんやねつ造などの不正を防ぐことに成功しました。
愛知県を中心に美容脱毛・エステサロンを約50店舗展開しているセピアプロミクスでは、従業員の教育マニュアルにツールを活用したことで、学習しやすい環境をつくりました。
【課題・問題点】
これまではマニュアルをグループウエア(メールのようなもの)にて配信し、店舗はこれを印刷して保管していました。しかし内容の更新分まで管理できているかは店舗ごとにばらつきがあったり、保管先や保管されている内容が一元化されていなかったため、分かりにくかったといいます。
【導入の決め手】
共有したい情報を動画でも書類でもアップロードできる機能があること、見やすい、わかりやすい画面であったことも決め手となりました。
【ツール導入後の効果】
ツールを導入したことで、学習コンテンツを軸にした研修のペーパーレス化、デジタル化が進み、キャンペーンなど最新情報を正確に共有できるようになりました。
効果1:ツールを導入したことで、人材教育に必要な作業手順やマニュアルの動画やPDF資料をアップロードすることができ、従業員それぞれが端末にログインすれば、知りたいことや学びたいことを自由に何度でも確認することが可能になりました。
ツールの機能は、マニュアルの閲覧だけではなく、検定やクイズなどの学習機能があり、従業員の習熟度を本部で確認することもできます。
効果2:キャンペーン情報や決済方法、ルール改変などについても、これまでは本部への問い合わせが多く、対応に時間を取られていましたが、ツールに情報をアップロードすることで、それぞれの店舗で内容詳細を確認することができ、問い合わせ対応の負荷が減少しています。
紙媒体の資料を卒業してデータのデジタル化を進めることで、必要な情報を早く取得でき、既存の資料を新しい資料に活用できます。企業全体での情報共有化、情報の見える化への整備が必要となってきており、ペーパーレス化、データのデジタル化が注目されてきています。
法律の制定・改正に従って、企業はデータ保存・保管の方法を切り替えていく時期にあります。いまこそペーパーレス化をスタートさせて業務効率化と生産性の向上を目指していくときなのかもしれません。