アルバイト・パートを採用したら、必ず必要になる研修。業務に必要な知識・スキルを身につけてもらうためのものですが、「どのように行えば良いかわからない」「うまく教育できず社員が育たない」と悩む企業も多いでしょう。
そこで今回は、アルバイト・パートの研修について詳しく解説します。
アルバイト研修とは何か、といった基本的なことから、実施すべき理由やメリット、成功させるためのポイントなどもご紹介しますので、アルバイト・パート教育に悩んでいる教育担当者、管理者の方はぜひお役立てください。
業務に必要な知識・スキルを身につけたり、従業員の能力を伸ばしたりするために行われる研修。その中でも、アルバイト社員に向けて行われるのが「アルバイト研修」です。
アルバイトの研修は、主に入社直後の「入社研修」として実施されます。業務を一人前にこなせるようになるまで、必要な知識・スキルを習得してもらう場です。
また、アルバイト研修は、一箇所に集めて複数人をいっぺんに教える集合研修ではなく、OJT(On-the-Job Training)やオンライン形式で行われるのが一般的。新卒社員と違って、アルバイト雇用の入社時期にはバラつきがあるためです。
新店舗の開店時など、集合研修形式で実施する場合もありますが、基本的には店長や上司、先輩社員、教育担当者が1人ついて教えます。
アルバイトもパートも、企業の運営を支える社員です。社員の能力が高ければ高いほど、企業の生産性は向上します。
よって、雇用形態に関係なく、知識・スキルを身につける研修を行う必要があるのです。特に、アルバイト・パートが多くを占める職場では、アルバイト・パート向けの研修はもはや必須とも言えます。
また、彼らの適性や能力を把握したり、評価したりするためにも、研修が必要。効率よく利益を生み出すには、正規・非正規問わず、一社員として扱うことが大切なのです。
引用:「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査の概要」厚生労働省
実際に、アルバイト・パート社員の研修を実施している企業は、数多くあります。厚生労働省の調査によると、「無期雇用パートタイム」「有期雇用パートタイム」「有期雇用フルタイム」の労働者に「日常的な業務を通じた、計画的な教育訓練」を実施している事業所の割合は、いずれも4割を超えています。
つい正社員の教育ばかりに力を注いでしまいがちですが、企業の発展、強いては存続のためには、アルバイト・パート社員の研修も重視すべきなのです。
アルバイトの研修期間は明確に定められておらず、企業ごとに決めることができます。1週間~3カ月、長い所で6カ月ほどで行うのが一般的です。仕事内容に合わせて、一人前に一通りの業務がこなせるまでの期間を設けます。
また研修期間中は、通常時よりも賃金を下げる企業が多いです。ただし、その場合は最低賃金を下回らないよう注意する必要があります。
最低賃金時間額は地域ごとに定められており、例えば、東京都の最低賃金は1,072円、大阪府は1,023円、愛知県は986円(すべて2022年10月1日時点)です。福岡県は900円(2022年10月8日時点)と定められています。厚生労働省の特設サイトでチェックしておきましょう。
研修期間中の賃金を下げる場合、最低賃金以上であっても、期間が長すぎると不満を募りやすいです。アルバイトのモチベーションがないと離職する恐れがあるため、効率よく教育することが大切です。
アルバイトの研修ではどのようなことを教えるのでしょうか。業界、企業によって異なりますが、主な内容をご紹介します。
アルバイト・パート社員の中には、社会人経験がない人も数多くいます。そのため、ビジネスの基本である、身だしなみやマナーの教育が必要です。
職場によって詳細は異なりますが、具体的には「相手を不快にさせない身だしなみ」「TPOに合わせた身だしなみ・マナー」などを教えます。本人が職場や顧客の前で恥をかかないよう、丁寧に教えましょう。
言葉遣いも、身だしなみ・マナーと同様、社会人経験のないアルバイト・パート社員に習得してもらうべき項目。特に、接客を伴う職種では必須項目です。
丁寧な言い回し、失礼のない言葉遣いに加え、間違えやすい言葉遣いを教えることも大切。間違いに気づかず、無意識に癖で使っていることもあるので、正しい知識を身につけてもらいます。
接客を要する職場では、接客方法の教育も必要です。マニュアルがある場合はそれに沿って、お客さまからの質問・要望への受け答え、応対を教えます。
アパレルショップや雑貨店など、接客の質が売上げに大きく影響する仕事は特に、接客の教育が重要です。「声のかけ方」「商品提案」「顧客心理を汲み取っての接客」など、売上げにつながる接客を教育しましょう。
レジ会計、倉庫整理、検品作業、品出しなどの裏方作業をアルバイト・パート社員に任せるのは珍しいことではありません。よって、それらの手順も教える必要があります。
マニュアルを渡して教えることが多いですが、新人がマニュアルを読むだけですべて理解できるのは稀です。そのため、実際に業務に取り組んでもらいながら指導する、OJT教育を行います。
どの業種、どの職場でも必ず行う清掃業務。「掃除なんて誰でもできるだろう」と丸投げせず、丁寧に教えることが大切です。
教える際は、「どこを」「どのように」「どこまで」と明確に示すのがポイント。手順を教えるだけでは、求めるクオリティに届かないことが多いからです。ゴールを明確にすることで、清掃業務の正しいやり方を着実に身につけてもらうことができます。
最近では、業務でデジタル機器や電子ツールを使うのが当たり前。レジ会計や棚卸し業務もタブレットなどの電子機器で行われることが多く、それらの使い方も教える必要があります。
破損や故障を防止するため、基本的な操作方法だけでなく、機械の扱い方についても指導が必要です。また、パスワード入力などが必要な場合は、情報の取り扱いについても指導しておきます。
イレギュラーが発生した際の対応、クレーム対応も教えるべき項目。最終的な判断や対応は正社員が行うにしても、発生時はアルバイト・パートが対応せざるを得ない、というシーンが多々あるからです。
具体的には、上司・先輩への引継ぎ方や、二次クレームを防ぐ対応方法などを教えます。
臨機応変な対応は、経験がないとできないものです。ですが、引継ぎの方法を知っているだけでも大きなトラブルの発生防止になります。どのように対応し、誰に連絡・報告すれば良いのか、明確に教えておきましょう。
社員の身の安全を守るため、安全管理の教育も大切です。例えば、下記のようなことを教えます。
危険の訪れを予想することはできません。たとえアルバイト・パート社員の勤務時間、在籍期間が短くとも、いつトラブルが起きても良いように対処法を教えておきましょう。
職場でのコミュニケーションは、雇用形態に関係なく重要なものです。そのため、アルバイト・パート社員にも報告・連絡・相談の徹底を教育します。
具体的な内容の例としては、欠勤時の連絡方法、相談先と手段、業務の連絡・報告手段などが挙げられます。「誰に聞けば良いかわからない」と戸惑ってしまわないよう、ルールを示しておくことが大切です。
アルバイトの研修は、企業と従業員の双方にメリットをもたらします。具体的にどのような利点があるのか見ていきましょう。
アルバイト・パートの研修を行うと、単純に職場の戦力が増えます。利益を生み出す人材が増え、生産性が上がるのです。
例えば、研修でアルバイト社員に接客力を習得してもらうことで、売上げアップが期待できます。バックヤードの作業を効率よく行えるパート社員がいれば、正社員の作業負担を減らせます。
参考:「令和元年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」をもとに弊社で図を作成
上の図にあるように、「宿泊業、飲食サービス業」「卸売業、小売業」「生活関連サービス業、娯楽業」はパート従業員を抱えている企業が多い業界。これらの業界の企業は特に、アルバイト・パート研修に力を入れることで、生産性の向上が期待できると考えられます。
優秀なアルバイト・パート社員がいると、正社員・管理者の負担が減ります。アルバイト・パートにバックヤード作業や接客を任せて、正社員や管理者は自分たちにしかできない仕事に集中する、といったことが可能になるのです。
肉体的、精神的なストレスが軽減されれば、モチベーションが上がりますし、仕事のクオリティも上がります。研修には時間も労力もかかりますが、結果的に、従業員および企業の利益となって返ってくるのです。
研修では、既存社員と新人とのコミュニケーションが増えます。そして会話が増えると、人間関係を構築しやすくなります。
特に、1対1で教えるOJTでは、教育担当者と新入社員の関係が深まりやすいです。研修で良好な関係を結べれば、本格的に業務を開始した際、高いチームワーク力の発揮が見込めます。
アルバイト・パート社員は、フルタイム雇用でない限り勤務時間が短いです。コミュニケーションをとる機会が比較的少ないので、入社時の研修は、その良いチャンスと言えるでしょう。
アルバイト・パート社員の研修は、先輩社員が成長する機会でもあります。人に教えることで、業務に対する知識が深まるのです。
また、「人に教える」という体験は、人材育成スキルを向上させます。そのスキルは、教育担当の社員が将来、管理職に就いた際に役立つでしょう。
新人だけでなく、先輩社員の成長も促す研修。職場全体の成長が期待できるため、実施すべきと言えるのです。
企業と社員に多くのメリットをもたらすアルバイト研修ですが、適当に行っても効果がありません。丁寧に実施すべき理由を再確認するため、疎かにした場合のリスクについて見ておきましょう。
教育が不十分だと、社員はミスをしやすくなるもの。アルバイト・パートを採用し、人員を確保するつもりが、ミスが増えることでかえって負担が増えてしまいます。
ただでさえ教育には労力も時間もかかるのに、ミスやトラブルへの対応も重なると、従業員のストレスは増えるばかり。正社員、および職場全体の生産性低下を招く恐れがあるため、正しく丁寧に教えることが大切です。
ミスが続くときは、誰しも落ち込んでしまうもの。つまり研修を疎かにすると、ミスが増え、アルバイト・パート社員のモチベーションが下がる恐れがあります。
たまたま大きなミスをしなかったとしても、不十分な教育では成長を実感できません。やりがいを感じられず、モチベーションが下がるのは、アルバイトもパートも、正社員も同じです。
社員のモチベーション低下は、生産性の低下も招きます。それどころか、最悪の場合、離職者が増える可能性もあるため、研修は入念に行うべきと言えます。
適切な人材配置に必要なのは、社員の適性をきちんと見極めること。しかし、研修をおざなりにすると、それを実現することができません。
特に、アルバイト・パート社員は勤務時間が短いため、勤務中に見極めるのは困難。そのため研修中にしっかりと観察し、長所・短所を把握する必要があるのですが、研修を疎かにすると見極められないのです。
不適切なポジションに配置してしまった場合、業務効率が下がる恐れがあります。時間内に作業が終わらない、ノルマを達成できず利益が下がる……といった事態になる可能性があるため、適性の見極めも兼ねて徹底した教育を意識すべきなのです。
教育を疎かにすると、社員は「仕事をきちんと教えてくれない職場だ」という印象を抱きます。その不満が口コミで広まった場合、企業に対する世間からのイメージは悪くなります。
近年はSNSを使う人も多く、口コミによる影響力は侮れません。場合によっては、数多くの人から悪い印象を持たれることもあります。
誰しも「教育がおざなりな企業に就職したい」とは思わないもの。つまり、入社希望者が減り、採用が困難になる恐れがあるのです。
一度イメージダウンすると回復に時間がかかるため、長期間、人員不足に悩まされることになると推測できるでしょう。
転職へのハードルが低い現代。「嫌なら辞める」「より好条件の会社に移るべき」という考えが広まっているため、アルバイト・パート社員の離職防止は困難を極めています。
引用元:「令和2年雇用動向調査結果の概要」厚生労働省
厚生労働省が発表した「令和2年雇用動向調査結果」によると、2020年のパート社員の離職率は23.3%とあります。正社員の離職率10.7%と比較すると約2倍です。
少しでも離職を防ぐためには、原因を知る必要があります。アルバイト・パートの離職につながりやすい、上記の3つの要因について詳しく見ていきましょう。
2021年、「株式会社ビズヒッツ」は「アルバイトを辞めた経験がある人」を対象とした調査を実施。当調査で、辞めた理由として最も多く挙げられたのは人間関係が悪いことでした。正社員の離職理由としても挙げられることの多い要因ですが、アルバイトも同様のようです。
「卒業・進学・就職のため」や「学業に専念するため」といった理由は、本人の都合なので対策しにくいですが、人間関係については企業側も対策できます。そして、研修はその対策として有効です。
アルバイト・パートと上司、先輩の間で良好なコミュニケーションができれば、人間関係の構築に役立ちます。よって、研修で丁寧な指導を行うことは、離職防止につながると言えます。
引用:「パート・アルバイト一般従業員調査/離職者調査」パーソルグループ東京大学・中原淳研究室
2016年、「パーソルグループ」と「東京大学中原淳研究室」が共同で調査を行ったところ、アルバイト・パートの早期離職に影響する項目として、「仕事中にほったらかしにされることがよくあった」ことが挙げられました。仕事中の放置は、社員の離職を促す要因のひとつです。
新人は入社後、わからないことが多く、放置されると不安になります。何をすれば良いかもわからず、右往左往するうちに「大切にされていない」「無下にされている」と感じ、離職してしまうのです。
特に忙しい職場では、研修時、つい忙しさから新人を放置してしまいがち。しかし、それが原因で辞めてしまった場合、増々人員は不足します。よって、研修に力を入れるべきであり、放置してしまわないよう体制を整える必要があります。
引用:「パート・アルバイト一般従業員調査/離職者調査」パーソルグループ・東京大学中原淳研究室
同調査では、「新人の時に教育担当者から指導を受けた」という回答者のうち、仕事が1カ月以上続いたスタッフは、1カ月未満で辞めたスタッフに比べて1.25倍多く上回るといった結果が出ています。裏を返せば、教育担当者を決めずに行う研修は、新人の早期離職を招く可能性があると言えます。
「アルバイト・パートは辞めやすい」というイメージから、担当者を付けず、その時その時で先輩社員が教える、という職場もあるでしょう。しかし、それでは離職を加速させることとなります。
その結果、人員不足となり、教育に割く時間が余計になくなる……という悪循環に陥る可能性があるため、きちんと担当者をつけて教えるべきでしょう。
では、アルバイト・パート社員にいち早く正確に、一通りの仕事を身につけてもらうには、どう教育すれば良いのでしょうか。効率よく一人前にするためのポイントを5つご紹介します。
無計画な人材育成は、教え漏れやダブりが発生する原因。さらに、ダラダラと教えて研修期間が無駄に伸びたり、期間終了時に必要なことを教え切れていなかったり、といった事態になりかねません。
そのため「何を」「いつまでに」「どこまで」教えるのかを明確に決めておくことが大切です。
加えて、計画を本人に共有することも重要。本人にもゴールと道筋を把握してもらうことにより、教育がスムーズに進みやすくなります。「きちんと教えてくれる」という、教育担当者と企業に対する信頼にもつながるでしょう。
淡々とやり方を教えるよりも、意味・目的を伝えて教える方が、業務への理解が深まります。なぜこのようにするのか、なぜ必要なのかを理解してもらうことにより、作業の重要性も伝わります。
反対に、意味を伝えずに教えると、「必要性がわからないから」とやらなくなる可能性も。無駄な作業であると判断し、省略してしまう恐れがあるのです。
また、業務の目的がわかっていると、臨機応変な対応も可能になります。イレギュラーが発生した際も、自分で考えて行動できるようになれれば、そのアルバイト・パート社員は「一人前になった」と言えるでしょう。
研修を行う際、教えっぱなしはNG。担当者はきちんと教えたつもりでも、当人は理解できていない、間違って覚えているということが多々あります。しかし、確認せず教えっぱなしにしてしまうと、それに気付くことができません。
よって、「教える→実践→チェック→改善」とPDCAサイクルを回し続けることが大切です。実践後の確認を徹底し、着実に知識・スキルを身につけてもらいましょう。
効率よく教育を進めるには、進捗管理の徹底が重要です。「誰が」「何を」「どこまで」学んだのかを明確にすることで、教え漏れを防止できます。
特に、複数人で教育を分担する際は、進捗管理と共有が欠かせません。漏れとダブりを防止するだけでなく、協力しながら教育を行うことができるからです。1人が不在でも、ほかの担当者が教えられるので、新人が放置されたり教育がストップしたりするのを防げます。
アルバイト・パートの研修は丁寧に行うべきとはいえ、教える時間をなかなか確保できず、苦戦する企業が少なくありません。その状況を改善するには、ツールを活用するのがおすすめです。
例えば、shouin+の機能にあるような動画研修ツールは、いつでもどこでも観て学べるのがメリット。教育担当者の手が回らないときも、新人に動画を視聴してもらい、教育を進めることができます。何度も見返して学ぶことも可能なので、1回の指導でわからなかったことも、理解するまで観て学べます。
さらに、学習進捗の管理・共有ができるツールなら、研修の効率もアップ。限られた時間で、着実かつスムーズに学んでもらうため、ツールの活用も検討してみましょう。
アルバイト・パート社員に限らずですが、働くモチベーションは人によってさまざま。意欲的に学び、働こうとする人もいれば、そうでない人もいます。
そのため、研修を毎回成功させるのは難しいでしょう。しかし、1人でも多く優秀な社員を生み出すことができれば、生産性の向上、従業員の負担軽減と多くの利益を得られます。
ぜひ教育に役立つツールも活用しつつ、着実にスキルが身につく、効率の良い研修を目指していきましょう。