コーチング研修とは、部下を持つリーダーや管理職に必要なスキルである「コーチング」を学ぶ研修のことです。
コーチングという言葉は耳にすることはあるけれど、コーチングはなにか、またはコーチング研修とは実際には何をするのか、内容を知らないという人事・研修担当者の方も多いのではないでしょうか。
コーチングは、社会を取り巻く環境が大きく変化し、見通しを立てにくい時代となった今、ビジネスの場において部下を持つ管理職に求められるスキルとして重要視されています。
今回は、コーチング研修は何を目的にするのか、どのような種類があるのか、研修の内容や実施方法はどのようなものか、また実践する際のポイントはなにかについて解説します。
書籍「コーチングの手法と実践がよ~くわかる本」によると、コーチングは「相手の潜在能力を引き出し、自発的な行動を促すためのコミュニケーションスキル 」であると定義できるとあります。
コーチングとは、部下・相手の自主性を尊重しつつ、課題解決への促す、導いていくというスタンスでのアプローチによって、相手の潜在能力を引き出して、最大限の効果を出してもらうことです。
行動を指示して強制して進めていくのでなく、部下・相手自身が自分で考えて答えを導き出し自分の力で動き出すことを促します。
近年、新型コロナウイルスの感染拡大によって、社会の構造が大きく変わりました。働き方が変わり対面ではなくオンラインでコミュニケーションを取ることが普通になってくるなど、人とのかかわり方も変わってきています。
いっそうチーム全体で知見を活かしあっていく必要が出ている中で、相手の話を傾聴し、質問し、考え方を知って尊重するコーチングの心がまえが重要視され、社内やチーム内での上司と部下の間のコミュニケーション手法の一つとしても効果的だとされています。
多種多様な人たちが集まっているチームで、力を合わせていくダイバーシティ時代に、コーチングスキルの必要性が年々増しています。
コーチングと混同しやすいとされるティーチングは「教える」スキルで、コーチングは「引き出す」スキルです。テーチングは業務技術やノウハウを教えて指導し、業務が一人前にできるようにすることを意味します。
上司が経験の浅い部下に対して業務の基本的な取り組み方を教えるなど、部下の教育はティーチングで実施されているのが一般的です。
コーチングとカウンセリングには、マンツーマンで個人的な相談に乗るという共通点があります。書籍によると、コーチングは目標達成やさらなる向上を求めて受けるサービスであり、カウンセリングは問題解決が求められるとあります。
カウンセリングは問題を取り除くことを目的にしていて、コーチングは自発的に未来に向けた行動を促すことを目的にしています。
コーチングでは、コーチは相手から答えを引き出していく役割を担っています。コンサルティングでは相手に対して答えを提供するのが役割です。
コンサルタントは、その業界についてクライアントよりも精通している必要がありますが、コーチは必ずしも相手よりも業界について詳しくなくてもかまいません。会話をとおして、相手の考えを整理して、違った角度から物事が見えるようにするのがコーチングです。
コンサルタントは顧客から課題や悩み、目標などをヒアリングしていきますが、聞くときや提案する際にコーチングを活用することで相手の納得度が高まります。
コーチング研修とは、コーチングの技術を身につける研修、コーチングができる人材を育成するために行います。
コーチング研修を実施する目的とは、どのようなものなのでしょうか。ここでは4つのコーチング研修の目的について説明します。
コーチング研修を行う目的のひとつは、コーチングを行うために必要となる、相手に共感・承認をし、関心を持つコーチングマインドの理解です。
書籍「コーチングの手法と実践がよ~くわかる本」によると、ともするとコーチングは傾聴や質問のテクニック部分に関心が集まることが多いようですが、何よりもコーチングにおいて大切なのは相手に関わる際の心がまえだといいます。
コーチングの心構えは以下の3点です。
書籍では、相手をありのままに受け入れて信じて相手の無限の可能性に目を向けることがコーチングに不可欠なマインドだとしています。
このようなコーチングマインドとコーチングの概要を理解することが、コーチング研修の目的です。
コーチング研修の目的には、コーチングスキルを演習を通じて身につけることが挙げられます。
コーチングのスキルには、対話に必要な傾聴・承認・質問など、コーチングを行うための基本的なスキルや、部下育成にとって必要なモチベーション管理や目標設定、行動計画の管理などがあり、これらの要素を伸ばすことがコーチング研修の目的です。
具体的には、聴く・質問するといったコーチングのスキルを習得するための講義を受け、上司役と部下役に分かれて実践的なロールプレイングを通して習得します。
コーチングは、部下の能力・やる気を引き出し、自発的な行動を促すためのアドバイスや支援を行います。
コーチングによって部下が抱えている悩みや不安について聞き、その悩みについて部下がどうなるとよいと考えているか、またどのように今まで解決してきたのか質問することで、悩みや不安解消や問題解決につながる方法やアイディアを部下が自ら自発的に行動できる材料を一緒に探していきます。
過去の成功体験や部下の強みを踏まえた解決策が見いだせたら、次はいつまでに何をどのようにするのかという行動計画を立てるように促します。
コーチングにおいては、部下は管理者から指示を受けるのを待っているのではなく、自分で仕事の解決策やチャレンジにたどり着くことができ、モチベーションを高く持って自主的に業務に取り組めるようになります。
コーチングを取り入れる目的のひとつに、チームや社内の従業員間の円滑なコミュニケーションを促し、組織強化につなげることが挙げられます。
コーチングセッションでは、部下がコーチを信頼し、心を開いて話しができるような環境つくりが大切です。このため、コーチは相手の話を聞くために相手に意識を向けることが重要となります。
コーチングによって、部下に意識を向けて話を聞くことで部下との関係性を構築することができます。関係性が深まり、お互いを尊重して、個々が自分らしく自分を発揮できる風土作りができれば、自然とチーム全体でのコミュニケーションが深まり、意思の疎通がしやすくなり、職場の雰囲気が良くなっていきます。
組織や職場全体の雰囲気がよくなることで、離職者を減らしたり業績の向上にもつながっていきます。
コーチング研修をすることで、企業が得られるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。今回はコーチング研修による企業のメリットを3つ取り上げます。
コーチング研修によって、リーダーや管理職がコーチングのスキルを習得することで、部下の育成能力が上がることが期待できます。
部下の性格や価値観などをふまえて最適なコーチングを行う必要があるため、コーチングを活用して、部下の意見や考えを聞き、質問をすることで部下への理解が進み、管理能力が向上します。
さらにコーチングを通して部下に気づきを与えて目標に向かって行動を促すことができます。
また、コーチングスキルを学んだ管理職自身も、問題解決力と計画力、目標達成力、建設的な対話能力を養うことができます。
上司として自分自身を高めるためにはどうしたらいいのか、自問することで具体的な解決策を見出すことができれば、部下や後輩を導く役割を果たせるようになります。
さらに、部下が自ら意思決定し行動するレベルまで成長し、自立が進むことで、プレイングマネージャーであるリーダーや管理職は自らの職務に時間をつかうことができるようになります。
コーチング研修によって、リーダーや管理職がコーチングを活用して部下に接していくことで、部下が自発的に行動を起こすようになります。
書籍「コーチングの手法と実践がよ~くわかる本」には、部下はコーチングによって、部下の資質や成長・変化をキャッチして承認することで、部下は自信がついてくる、と言及しています。
さらにコーチングで質問されることによって部下は現状を正しく把握でき、課題の解決策を主体的に考えて行動するように変わっていきます。
書籍には、部下が継続的にコーチングを受けることで、主体的・自発的に物事に取り組む習慣が身につくようになり、何か問題が起こったときに、被害者として捉えるのではなく自分事として受け止めていくようになる、とあります。
また、自ら考えて行動を起こしていくことで、目標達成に必要な要素を発見したり、これまでとは違う発想やアイデアが生まれたりするメリットが期待できます。
コーチングによって相手の内面から様々な想いを引き出すことで情報の共有ができれば、部下は上司に心を開くようになり、上司と部下の間に信頼関係が構築されます。部下が自分らしく働きやすい環境が作れると、モチベーションが上がり、従業員個々のパフォーマンスの向上による業績アップが期待できます。チーム力が強くなり、多少の障害があっても粘り切れる強い組織となります。
また、従業員のやる気が上がることで離職率低下などにもつながります。
コーチング研修には、何を学ぶのか、テーマによっていくつかの種類があります。コーチング研修の主な内容として4つご紹介します。
コーチング研修の内容のひとつには、GROWモデルといわれるビジネスコーチングの手法を学ぶというものがあります。
コーチングの目的の一つは、メンバーが自発的に考えて行動する力を育むことによって、自律性が高く、成果を生み出す人材を育成することです。
GROWモデルは、質問を通して部下などの相手を目標達成に導くもので、目標達成に必要な4つの項目「G:Goal(ゴール)R:Reality/Resource(リアリティ/リソース)O:Options(オプションズ)W:Will(ウィル)」の頭文字を表しています。
GROWモデルでは、目指す成果を明確にし、達成までのステップを洗い出すことで移すべき行動を促します。質問を通して相手に新たな気づきを与える方法や、行動の選択肢を増やせるように導くスキルを学ぶことができます。
コーアクティブ・コーチングは、コーチと相手が対等なパートナーとして協力し(Co-Activeに)、相手が望むような生き方、在り方と行動に焦点を当てるコーチング・アプローチ。
コーチングのスキルの中でも、とくに相手の内発的動機に着目して働きかける手法です。コーチと相手が双方に対等だと感じられる関係性であることで本音を言えるようになり、このことで、悩みや問題点を突破できるような、新たな視点や発想が生まれる可能性が広がります。
重要なのは、双方の関係性において「心理的な安全性」が育まれていることです。
書籍によると、心理的安全性の高い関係性や組織において、人は自由にのびのびとふるまうことができ、自発的により高いパフォーマンスを発揮するためにアイディアを出し合うといった、主体的に考え、行動すると言及しています。
研修ではロールプレイングやグループワークを通じて、実践的なスキルが身につくプログラムが提供されています。
コーチング研修のひとつには、1on1形式で面談やフィードバックの知識やスキルを習得するものがあります。
コーチングにおける1on1では、面談のなかで部下自身が解決策に気付くことが大切です。質問と傾聴を通して面談をリードするコーチには、傾聴力やコーチングスキルが必要不可欠となります。
1on1形式のコーチングは、部下一人ひとりとしっかり向き合うことで、コーチと相手の関係性が深まっていくメリットがありますが、管理職の面談スキルにバラツキがある、属人的になりがちであるデメリットもあります。
研修を実施することで、コーチの面談の質を高めて標準化していく効果が期待できます。
コーチング研修の内容のひとつに、コーチングの実戦力や応用力を身につけたいと考えているコーチに向けたケーススタディ研修があります。
ケーススタディ研修では、実際の現場で起こっている問題をテーマに取り上げて、コーチとしてどのように導いていくか、戦略を考えます。
研修を通してさまざまなアプローチ方法を学び、導き方の選択肢が増えることで、コーチとしての力がつきます。
たとえば、
など、具体的な題材を用いて解決方法を探っていきます。
コーチング研修の実施方法とは、具体的にどのように進めていけば良いのでしょうか。
コーチング研修の実施方法のひとつめは、コーチング研修の目的を明確にすることです。
なぜ自社にコーチング研修が必要なのか、抱えている問題点や課題はどんなものなのか、コーチングを習得することは課題解決に効果的なのかなどを突き詰めて検討します。
コーチング研修の必要性があるならば、どのような場面でコーチングを活用していくのかまで具体的に検討して、コーチング研修の目的を設定しておきましょう。
研修内容も見えてきやすくなりますし、受講者にも事前に受講目的を明らかにして伝えられれば、研修成果も上がりやすくなるでしょう。
コーチング研修の目的が明確になり導入することが決まったら、つぎにコーチング研修の受講対象者を選びます。
一般的におもな対象者は部下の育成を担っている管理職の人となりますが、他にもプロジェクトのチームリーダーを任されている人が受講することも効果的です。
コーチングを生かしていく目的に応じて、管理職、リーダー層、OJTの教育担当者など、対象者を決めましょう。
実施する研修の内容と、だれが受講するのかを検討したら、研修をどこで行うのかを決めます。
大きくは2種類に分かれ、社内で研修内容を策定し実施する方法と外部講師を招く方法があります。
一般的に、社内で内製すれば手間はかかりますが、その企業に即した内容に組み立てていくことができます。
外部に依頼すれば、プロの講師からの話を聞くことができますし、他社の受講者と意見交換ができるなどのメリットもあります。外部の研修サービスには、自社に講師を招いて実施する、開催している講座に参加する、オンラインでの受講やオンデマンドでの受講など、受講方法にいくつか選択肢がありますので、受講対象者が参加しやすい方法を選定しましょう。
コーチング研修を自社内で行うのか、外部サービスを利用するか、外部に依頼するならばどこにするのかを検討し決定したら、自社に取り込む最適な研修内容を選びます。
外部の業者に依頼するならば、業者に自社の課題について相談し、意見・提案を受けながら最適な研修内容の内容を固めていきます。
また、研修のプログラムとともに、単発の研修にするのか、数回にわたる研修なのかなど、研修に必要な時間や回数、また期間を決めていきましょう。
コーチング研修を実施したあとは、必ず効果を測定していきます。
また、コーチング研修は定期でも不定期でも継続して行う形を取ることをおすすめします。
回数を重ねるごとの、研修を受講した人の感想や習得度合い、社内での業務への反映の度合いや成果を
比較しながら分析できるとよいでしょう。なかなか成果を数値化することはむずかしいものですが、外部での研修であれば効果測定のサービスがあるところも多いようです。
継続して研修を受けて結果を分析していけば、研修の効果が見えるようになりますので、受講者の研修受講へのモチベーションを向上させる効果も期待できます。
コーチングスキルは、一度受講すれば習得できる、というものではありません。定期的に研修参加機会を与えることによって、コーチング実践経験を積み重ねていけるので、自己流のコミュニケーション方法から離れて、思考の癖を変えていくことを助けてくれることでしょう。
コーチング研修を自社に導入する際に、気をつけたいポイントはあるのでしょうか。以下に4つのポイントを掲げました。
コーチング研修を導入する際のポイントには、「目的を明確にする」ことが挙げられます。
何を目的として自社にコーチングを取り入れるのかを明確にして、その目的について全従業員が共有することが大切です。
まずは自社の課題を把握すること、次に達成したい目標を設定し、この目標に対して「コーチングによって変えていきたい職場の現状」や「最適なコーチングの方法」を検討していきます。これによってコーチングを導入する明確な目的意識を持って取り組むことが、コーチングを導入した際にコーチングの効果を高めていきます。
コーチング研修を導入する際には、コーチと相手、上司と部下の間にある価値観の違いを認識することが重要です。
価値観は多様化していて、たとえばキャリアのビジョンについても求めるものが一様ではありません。これまでは昇格や出世を目指して仕事に取り組んできたという人が多かったのかもしれません。しかし新入社員の世代では、競争を望まず、無理をして出世するよりも自分らしく働くことに充実感を感じており、ここで世代間での価値観にギャップが生じています。
自分の価値観でコーチングを進めると、相手には伝わらないということになります。
コーチング研修で学んだことを自社で取り込み、最大限に活かしていくには、ひとそれぞれ価値観は違うということを認識していくことが重要です。
引用:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2023」
コーチング研修の導入の際のポイントには、忍耐強く取り組むことも大切です。
コーチングは、上司が部下のもつ資質やリソースを信じて、部下が自ら解決策を見出して行動に移せるように導いていく指導方法です。
部下の解決策を探る工程が遅く感じてしまい、待てないというタイプの管理職はコーチングの意義や目的を腹落ちさせておくことが肝心です。部下をコントロールしようとせずに、相手の自主性を引き出すことに焦点を当てて取り組みましょう。
すぐに成果を求めないということも、コーチング研修を導入する際には重要なポイントになります。
人材の育成において、その成長を短期間で図ろうとすると、成果がみえにくいために継続が難しくなるケースもあります。
コーチング研修の成果をすぐに出そうとすると、コーチングではなく、上司の考える正解や行動指針を押し付けてしまうことにもなりかねません。
コーチングとはたとえば「売上を向上させる」ことではなく「売上を向上させるための力を育てる」ものです。長期的な目線を持って相手とのコーチングに取り組むことが大切です。
会社を発展・拡大させていく、あるいは継続していくためには、会社の経営資源である「人材」の育成を欠かすことはできません。
コーチングを活用することで、社内に従事するすべての従業員が自発的に自分で考えて行動し、自分らしく個々の力を発揮していく、またチームや社内のコミュニケーションが活発になり、組織全体のパフォーマンスが高まっていくことが期待できます。
コーチングを企業や個々の従業員が変化の大きな時代を生き抜いていく手法として、またはチームや従業員の課題解決のきっかけとなる手法のひとつとして捉え、自社へのコーチング研修の導入を検討してみるとよいでしょう。