人材の確保、独自価値の創造、経済環境の変化への適応と、現代の企業には多くのミッションが課せられています。それらを実現するためには、効率よく利益を生み出す仕組みづくりが欠かせません。
そこで重要となるのが「作業性」です。作業性を高めることで、企業の発展に必要な時間・人材・資金を効率よく確保できるようになります。
本記事では、言葉の意味や言い換え表現、作業性を高めるメリット、作業性を高める方法など、作業性について幅広く解説しています。具体的な企業事例などもご紹介していますので「職場の作業効率を上げたいが、どうすれば良いかわからない」とお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
作業性というワードを耳にしたことはあっても、「どのような意味なのかよくわからない」という方も多いのではないでしょうか。作業性を高める方法やメリットについて知る前に、まずは言葉の意味や言い換え表現、生産性との違いについて確認しておきましょう。
作業性は、業務で行われる作業の質や効率性を表す言葉です。作業の質の高さ、効率の良さを指して「作業性が高い/低い」「作業性が良い/悪い」と表現します。
例えば、作業にかかる時間に対して成果物が少ない状態、作業プロセスに無駄が多い状態を「作業性が悪い」「作業性が低い」と言います。反対に、無駄なく質の高い成果物を生み出せている状態を「作業性が良い」「作業性が高い」と言います。
また、作業プロセスを効率化すること、最適化することを「作業性を高める」「作業性を向上させる」と言います。
作業性の言い換え表現には「作業の効率性」が挙げられます。ただし、作業性にはスピードだけでなく、クオリティも判断基準に含まれるという点において注意が必要です。
生産性とは「投入物に対し、どれほどの成果物を生み出せたか」を表す割合のこと。業務の効率性を測る指標として活用されています。1労働者当たり、1時間当たり、どれほどの成果物を産出できたか、あるいはどれほどの付加価値を生み出せたかを表す「労働生産性」が代表的です。
労働生産性は、投入物(人や時間)を減らしたり、産出量や付加価値額を増やしたりすることで高めることができます。投入物を減らして効率性を上げるという点においては、作業性の向上と類似しています。
しかし、作業性の向上には「成果物を増やす」「付加価値額を増やす」といったニュアンスは含まれません。産出量・付加価値額、成果物のクオリティを下げずに、いかに短い時間、少ない人数で作業を遂行できるかを重視します。
よって、作業性と生産性には似た視点があるものの、完全なイコールではないと言えます。作業性は、作業の効率性に焦点を当てた「生産性向上の取り組みのひとつ」という立ち位置です。
どれほど「作業性を上げるべき」と訴えても、理由がわからなければ人は動かないものです。従業員チームメンバーや経営幹部に重要性を理解してもらうため、作業性が悪い環境が企業に与える影響について改めて確認しておきましょう。
作業に無駄が多いと、業務が完了するまでに時間がかかります。退勤時間までに業務を終わらせることができず、従業員の労働時間が長くなる恐れがあるでしょう。
長時間労働は、従業員に大きな負担を与えます。肉体的・精神的な疲労により、さらに作業性が悪くなる可能性も考えられます。作業性の低さは、従業員にとって働きにくい環境を作る原因となり得るのです。
従業員の労働時間が長くなると、そのぶん人件費がかさみます。このことから、作業性の低下は企業の利益減少を招くと言えます。
近年は、最低賃金の引き上げも進められており、ただでさえ人件費が高騰している状況です。作業性が悪いことが原因で、アルバイト・パート社員などの労働時間が延びれば、人件費に経営が圧迫されることになりかねません。
かといって、人員を削減すれば人手不足になります。作業性の向上に取り組むどころか、業務を遂行することさえ難しくなるでしょう。
長時間労働は、精神的・肉体的ストレスによる従業員の離職を招く恐れがあります。それだけでなく、人件費がかさんで経営が圧迫されると、従業員に還元したり、社員育成に投資したりといったこともできなくなります。
不適切な賃金や報酬は、従業員が不満を持つ原因です。「満足に生活できない」「仕事量に見合っていない」「成長を後押ししてくれない」と不満を抱き、離職者が増える恐れがあります。
離職者が増えて人手不足になると、作業性の向上をさらに強化しなければなりません。作業を行う人員に余裕がなくなるため、強制的に作業を効率化する必要があるのです。
実現できなければ、従業員1人1人が抱える負担がさらに大きくなります。それによって離職者が増え、従業員の負担がさらに増える……という悪循環に陥る恐れがあるため、作業性の低い環境は早いうちに対処すべきと言えます。
作業プロセスに無駄が多いと、トラブルが増える可能性があります。作業が複雑になるほど、ヒューマンエラーが起こりやすくなるからです。無駄な作業工程があることで、本来起こるはずのなかったミスも発生することになります。
また、トラブルが発生した際は、その対処に追われてさらに作業性が悪くなります。従業員の負担が増え、より一層ヒューマンエラーが起きやすくなり、作業性の悪いサイクルから脱するのが困難になるでしょう。
作業性が悪い環境は、従業員および企業に多くの悪影響を及ぼすことがわかりました。では、反対に作業性の向上には、どのような良い効果が期待できるのでしょうか。
考えられる以下の4つのメリットについて見ていきましょう。
作業性が高まると、顧客へ提供する商品・サービスの質が上がります。それにより、顧客満足度が高まると考えられます。
例えば、作業を一部自動化し、手作業を減らすことで、従業員はより丁寧かつ正確に作業に取り組めるようになります。ミスが減り、高品質の製品をよりスピーディーに提供できるようになるのです。サービスクオリティの向上と従業員の負担軽減により、顧客満足度と従業員満足度を同時に上げることも可能と考えられます。
顧客満足度の向上は、企業価値の向上および業績向上に繋がります。利益を獲得し、作業性をさらに高めるための設備投資を行うといったことも可能になるでしょう。
作業性が上がり、ミスが減ると、エラー品に費やしていた原材料などのコストを削減できます。作業の無駄を省くことで、無駄な損失を減らすことができるのです。
また、作業時間および労働時間の短縮により、人件費も削減できます。従業員への報酬を削ることなくコストを減らせるため、従業員満足度も下がりにくいと考えられます。人件費削減によって浮いた資金を従業員に還元すれば、むしろ従業員エンゲージメントは上がるでしょう。
限りある資源を有効活用するため、削るべきものを削り、投資するべき所に投資するのが、現代における企業運営の基本です。作業性の向上が、その第一歩となるでしょう。
市場競争が激化する現代において、企業に求められているのは新たな価値の提供、独自価値の創造です。しかし、イノベーションを起こすには「時間」「資金」「人材」が必要不可欠です。
作業性の向上は、それらを確保するための施策として有効と言えます。無駄な作業に費やしていた時間、エラーの対処にかかるコスト、長時間労働に奪われていた従業員の体力・気力、そして労働力を、企業が発展するための「資源」として活用できるようになるのです。
また、従業員の心身に余裕が生まれることから、組織のクリエイティブ性も上がると考えられます。新たなビジネスモデル、新技術・新サービスの開発に繋がるアイデアを得る機会も増えるでしょう。
このように、作業性の向上は、イノベーションを実現するための準備として欠かせない取り組みと言えます。
ITツールの導入や組織体制の変更など、企業の新たな取り組みは、従業員の成長を促します。新システムに関する知識を習得したり、新たなポジションで経験を得たりと、作業性向上に向けた取り組みが、従業員のスキルアップに繋がるのです。
また、無駄な作業やミスの対処に費やしていた時間を、人材育成の時間に充てるといったことも可能になります。従業員の能力が上がれば、クリエイティブ性の向上およびイノベーションの実現、さらなるサービスクオリティの向上と、企業に多くのメリットをもたらすでしょう。
作業性の向上は、利益獲得、企業の発展、従業員の負担軽減と、さまざまなメリットをもたらすことがわかりました。では、具体的にどのように改善すれば良いのでしょうか。
企業の状況によって適切な方法は異なりますが、主な例として挙げられるのは以下の5つの方法です。詳しく見ていきましょう。
着実に作業性を高めるためには、原因を突き止めることが大切です。そして、何が無駄なのか、何を優先的に改善すべきか正しく見極めるための「可視化」が必要です。
業務の順序や担当者の配置、作業場の環境、什器・ツールの配置などを改めて可視化し、チェックします。作業にかかる時間など、可能な限り数値で表し、明確な指標を設定するのがポイントです。
客観的な視点を持つことで、冷静に原因を分析できるようになります。また、複数人で話し合う際も、可視化することでスムーズに意思疎通できるでしょう。
作業性の向上は、無駄な作業を無くすことから始まります。作業の取り組み方を見直すのも効果的ではありますが、不要な作業は思い切って廃止するのもひとつの手です。
長く業務に携わっていると、作業に無駄があることに気づけないものです。「ミスを防ぐため」「従業員から指摘があったから」と改善を繰り返すうちに、作業工程が必要以上に増えていた……なんてこともあります。
そのため、改めて客観的に見直す必要があるのです。可視化したデータと分析をもとに、利益に繋がらない作業、やらなくても支障が出ないと判断した作業は廃止しましょう。
効率よく作業を遂行できる人が1人いても、職場の作業性は高まりません。全体の効率を上げるには、コミュニケーションが必須です。
マニュアルを作成するなど、情報共有を行うことで、誰もが効率よく行動できるようになります。作業のムラもなくなり、スピードだけでなくクオリティも上がるでしょう。
また、情報が共有されれば、従業員同士で協力して作業に取り組むことも可能に。イレギュラー発生による作業の遅延にも対応できるようになります。チーム全体の作業性が上がるよう、情報共有の円滑化を図りましょう。
仕組みやルールを改善したにもかかわらず、大きな変化が見られないということもあります。そこで必要となるのが、従業員のスキルアップとマインドセットです。
作業に関する知識・スキル、効率よく正確に行う方法を習得させれば、従業員1人1人の作業性が上がると考えられます。知識が身につくことで、より良い取り組み方を自ら見つけ出す可能性もあります。
また、やり方を変えることへの抵抗感、従来の取り組み方の方が良いという思い込みを払拭することで改善するケースもあります。作業性を高める活動に従業員が納得できなければ、行動の変化は期待できません。管理職者など、リーダーを中心にマインドセットも行いましょう。
「作業を廃止できない」「作業の取り組み方を変えても作業性が大きく変わらない」という場合は、ツールを活用する方法もあります。デジタルツールを導入し、作業が自動化されれば、従業員の負担が減ります。ミスも少なくなるため、作業の質も上げられるでしょう。
ツールの導入には費用がかかりますが、上手く活用すれば、大幅な改善も期待できます。ただし、適切なツールを選ばないと無駄になる恐れがあるため、注意が必要です。
作業性の向上に成功した企業は、具体的にどのような取り組みを行ったのでしょうか。ここで3つの企業事例を挙げますので、改善策の考案に行き詰まった際はぜひ参考にしてみてください。
金属加工品の調達や流通、製造、加工製品のデータベースの開発など、事業を幅広く展開する「株式会社ISSリアライズ」。当社は、業績向上と作業性向上の両立を果たした企業です。
具体的な取り組みとして挙げられるのは、営業職における情報共有、および属人化の解消です。成績優秀者のみが所持していた営業ノウハウをチーム全体に共有したことで、提案スピード・受注率をキープしたまま作業効率を上げることに成功しました。
そのほかにも、二重業務の軽減および撤廃、試算表の統一化、オフィスの整理など、作業性向上のための細やかな取り組みを実施。その際は、チームから挙げられたアイデアを積極的に採用するなど、従業員のモチベーション向上を図り、ボトムアップ形式で進められました。
その結果、残業時間を約40%削減することに成功。同時に、粗利益対前年比146.2%を達成しました。
■参考:小室淑恵(2016)『労働時間革命 残業削減で業績向上!その仕組みが分かる 電子書籍版』株式会社毎日新聞出版
派遣事業を営む「株式会社パワーネット」は、従業員にとって働きやすい環境を作るため、作業性の向上に取り組みました。
当社は2015年に、すべての作業のマニュアル化を実現。担当者不在時でも、他の従業員が代わりに業務を進められるよう体制を整えています。マニュアルの実用性を高めるため、気づいた従業員が毎日更新している点にも注目です。
また、作業の引継ぎをスムーズにするため、何がどこにあるのかわかるよう書類やツールの置き場所はすべて共通化。タイムスケジュールを細かく設定し、時間内に終わらない場合はチームリーダーに相談することを社内で徹底するなど、効率性に対する意識の向上にも取り組んでいます。
チームワークを強化する仕組みづくりによって作業性の向上に成功した事例です。
■参考:株式会社パワーネット|「働き方改革特設サイト」厚生労働省
ホームセンター「DCM」を全国に展開する「DCM株式会社」。当社は、クラウド型eラーニングサービス「shouin+」を活用し、人事に関する作業性の向上に取り組んでいます。
以前は新人の受け入れを各店舗に任せていましたが、採用時に必要な書類、説明の動画などを「shouin+」にアップロードするようにしてからは、オペレーションが統一化されたとのこと。入社時に身につけておくべき知識を動画で学べるスタイルにしたことで、店舗従業員の負担も軽減されたそうです。
また、店舗マニュアルや商品知識などの共有にもツールを活用し、コミュニケーションおよび人材育成の効率化を実現。自動化が難しい人事領域の作業性の向上に成功した事例です。
■shouin+導入事例
DCM株式会社|5社統合で従業員数が約2万人に。LMSを活用して、オペレーションの標準化と学習状況を可視化
日々、企業で行われている作業のプロセスは、想像以上に複雑です。作業性の向上に取り組む際、はじめから劇的に変化するケースは稀でしょう。
ですが、もし実現することができれば、組織繁栄に必要なパワーを備えた強い企業へと成長できます。まずは現状を可視化することから始めて、少しずつでも改善を繰り返すことが大切です。