社会人基礎力は、あらゆる業界や業種において社会人として活躍するために必要となる能力の一つです。
最近では社会人基礎力を伸ばすことを目的にした研修を開催する、eラーニングを導入するという企業も増えてきています。
このように社会人基礎力は注目されるようになりましたが、実は社会人基礎力について耳にしたことはあっても具体的にどのような能力を指すのかまでは知らない、という人事・管理部門の方も多いのではないでしょうか。
社会人基礎力とは具体的にどのような力のことを表していて、なぜ社会人基礎力は必要とされているのでしょうか。今回は、社会人基礎力が提唱された背景から、社会人基礎力の必要性について、社会人基礎力を身につける方法などについて解説します。
社会人基礎力とは、主体性や計画力、発信力を始めとした、仕事を進める上で基本となる能力を指します。簡単に言えば、社会人として活躍していくための土台となるスキルの総称です。
社会人基礎力は経済産業省が2006年から提唱している考え方で、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力が定義されました。
この3つの能力はさらに12の能力要素に細分化されており、それらの能力要素はすべて業界や職種を問わず社会で働くすべての人に共通して求められる力であるといえます。今では社会人基礎力を向上させるための研修を実践する企業もあります。
最近では、組織の多様性を尊重する考え方が主流となりつつあり、社内外の幅広い人材と交流する機会も増えています。社会人基礎力が高い社員は、考え方の異なる人材ともうまく交流を深め、仕事を円滑に進めることができるといえます。
なぜ今、社会人基礎力が求められているのでしょうか。社会人基礎力が必要な背景として、ここでは3つの理由について解説します。
社会人基礎力が求められている背景の一つに、人生100年時代が現実化してきたことがあります。これからは人が100年生きることを前提とした人生設計が必要になると言われています。
人生100年時代には、いままでよりも定年年齢が延びる傾向にあります。また定年退職後にも働き続ける人も多く、働く期間が長期化することが予想されます。働く期間が長期化するということは、働いている間には労働環境や社会の変化も想定され、業務を遂行する中でさまざまな変化に直面する機会が多くなると考えられます。
また、人生100年時代では、働き方がこれまでとは変化しています。今までのように一つの会社で長く働き続けるのではなく、結婚や妊娠、出産、子育てや介護といったさまざまなライフイベントに応じて、柔軟に働き方を変える人もすでに多くなっています。
働き方が変化する現代では、どのような環境でも通用する社会人としての基礎スキルの重要性が高まっています。コミュニケーション能力や実行力、リーダーシップといったポータブルスキルを磨くことが求められているのです。
社会人基礎力が求められている背景として、VUCA時代の到来も挙げられます。
VUCA時代とは、社会やビジネスにおいて将来の予測が困難な状況になっている現代の社会の様子を表したものです。働く人にとって、仕事の進め方やビジネスモデルが、これまで通りのやり方では通用しない時代になると言われています。
VUCA時代とは、現代社会に見られる4つの特徴を表した4つの単語の頭文字を取った言葉です。
ITやテクノロジーの進化によって、職場の外部環境が激しく変化する現代では、今は有効な専門スキルであっても、その有効性がいつまでも続くとは限りません。
社会人基礎力とは、外部環境が変わっても変化に対応できる能力です。ビジネス環境が目まぐるしく変化する昨今では、どのような環境でも活躍できる社会人基礎力の重要性が求められています。
終身雇用制度が崩壊したことも社会人基礎力が求められる要因の一つです。以前の日本では、一つの企業で退職まで勤め続ける終身雇用が主流でした。
経団連のコメントにもあるように、企業側からみると、今後企業が終身雇用を維持していくことは難しいという側面があります。新卒で入社した企業で働き続け、年功序列で収入が上がっていくという働き方を続けることは難しいということです。
今では転職がそれほど珍しくなくなりました。最近ではキャリアアップなどを目的として転職を検討する社員も珍しくありません。また、専門的なスキルを武器に独立を検討するという人も増えてきています。
このような時代背景から、業種や業界を問わず通用する社会人基礎力が重要視されるようになりました。どのような会社でも、また独立して事業をはじめる場合にも通用するスキルとして、社会人基礎力は欠かすことができません。
特に、社会人基礎力に含まれる「主体性」を活かして前に踏み出すことや、チームの中で「柔軟性」「状況把握力」を活かすことで、自身の能力を発揮できる場を自ら開拓していく姿勢が求められるでしょう。
職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な社会は、3つの能力及び付随する12の要素から構成されています。ここでは、それぞれの能力と能力要素について紹介します。
引用元:経済産業省『社会人基礎力「前に踏み出す力」』
ひとつめの能力は「前に踏み出す力」です。
前に踏み出す力とは、「一歩前に踏み出し、失敗しても諦めないで粘り強く取り組む力」のことです。 仕事を進めていく中で直面するのは、正解がわかっている場合や成功に終わることばかりではありません。どんな環境でも行動していく能力が求められています。指示を待つばかりではなく、自ら行動していく、挑戦していくことが大切です。
まずは失敗を恐れず動いてみることが大切です。そしてチャレンジした結果、たとえうまくいかなかったとしても「どうしたら成果を上げられるか」を考え、他者と協力しながら粘り強く解決に向けてやり切ることが重要です。
前に踏み出す力には、以下の3つの要素が含まれています。
主体性とは、自ら進んで物事に取り組む力です。指示を待つのではなく、やるべきことに自ら行動することです。主体性がある人は、自らやるべきことは何かを考えて冷静に見極め、積極的に取り組むことができます。
働きかけ力は、周囲に働きかけて巻き込んで推進していく力です。仕事の多くは、一人では完結することはありません。周囲の誰かに共有し協働する必要があります。
働きかけ力がある人は、自ら周囲に呼びかけ、目的に向かって周囲の人々を巻き込んで動かしていくことができます。積極的に協力を呼びかけ、意見やアドバイスを求めながら、メンバーの行動を促します。
実行力は、目標を設定して確実に行動する力です。
実行力における「行動する」とは、具体的な目標や成果を掲げ、その達成に向けて、失敗を恐れず粘り強く取り組むことです。言われたことだけに取り組んだり、目標もないままにやみくもに動いたりすることではありません。自ら立てた目標を達成させようと、失敗を恐れず経験や知識を活かして行動に移し、粘り強く取り組む力を指します。
引用元:経済産業省『社会人基礎力「考え抜く力」』
考え抜く力とは、疑問を持ち考え抜く力のことです。自ら課題提起し、解決のためのシナリオを描く、自律的で実践的な力が求められています。
課題の解決や物事の改善には、常に問題意識を持つ姿勢が必要です。
課題を見つけたら周囲に問題提起し、十分に納得するまで考え抜いて解決のプロセスを導き出します。この繰り返しが、自律的な思考力を高めることにつながります。
考え抜く力には、「課題発見力」「計画力」「創造力」の3つの能力要素があります。
課題発見力とは、現状を分析し目的や課題を明らかにする力を指します。目標に向かって、自分から問題を見つけ、解明し、提案していく力のことです。
課題発見力がある人は、決めた目標と現状との間にあるギャップや課題を正しく把握するために情報収集や分析をおこなったり、他者からも積極的に意見を求めたりすることができる人です。
さらに、課題発見力がある人は課題を見つけるだけでなく、課題解決の必要性について周囲に提案することができる力も持っているといえます。
計画力とは、課題解決に向けたプロセスを明らかにして準備する力のことです。解決に向けた手順を想定しながら実行していく計画を立てます。
計画力がある人は、見つけた課題を解決するために「そのなかで最善のプランや取り組みは何か」を検討し、準備を進めることができます。
まずは、実現性が高く効果的な計画を立てるために、課題となる作業のプロセスを明らかにします。つぎに、大きな目標は小さな目標にブレイクダウンし、それぞれの目標に対して実践する優先順位をつけて準備を進めていきます。
創造力とは、課題の解決や目標達成のために、新しい価値を生み出す力です。固定概念やこれまでの考え方にとらわれない、新たな解決方法やアイデアを生み出すことができます。
新たな発想をもってこれまでの知識を再構成することや、常識にとらわれないアイデアをどんどん出していくことによって、付加価値を生み出す可能性が高まります。
引用元:経済産業省『社会人基礎力「チームで働く力」』
チームで働く力とは、チームワークのことです。社会人基礎力として人やグループ内の協調性だけにとどまらず、多様な人々とのつながりや協働力を生み出す力が求められています。
このところ、職場や地域社会では仕事の専門化や細分化が進んでおり、大きな価値を生み出すには多様な人と協働しなければなりません。
多様な人たちと協働し大きな成果を生み出すためには、自分の意見をわかりやすく相手に伝えることや、相手の意見や立場を尊重して目標に向けて協力し合える力が求められます。
チームワークに必要となる要素は、下記の6つです。
発信力とは、自分の意見を分かりやすく伝える力のことです。自分の意見を分かりやすく整理した上で、相手に理解してもらえるように伝える力のことです。
発信力がある人は、自分の意見を相手に正しく理解してもらうために意見をわかりやすく整理したうえで、相手に理解してもらうように的確に伝えることができます。
社会人基礎力における「発信力」は、相手がどのような情報を求めているのか理解したうえで、適切な事例や客観的データなどを用いてわかりやすく説明することが重要となります。
傾聴力とは、相手の意見や話を丁寧に聴く力を指します。相手の話を聴くためには、相手が話しやすい環境を作り、適切なタイミングで質問するなど相手の意見を引き出せるように心がけが必要です。
素直に相手の話を受け止める傾聴の姿勢から、内容の確認や質問などを適時に行い、相手の考えを引き出して、正確に理解していくまでを傾聴力の力としています。
柔軟性とは、意見の違いや立場の違いを理解する力のことをいいます。自分のやり方や考えを押し通すのではなく、相手の意見ややり方を尊重して柔軟に理解することです。
自分とは立場の違う相手がなぜそのように考えるか、相手の立場を想像し、背景や心情を理解しようと努めることができます。
状況把握力とは、自分と周囲の人々や物事との関係性を理解し把握する力のことをいいます。チームで仕事をするとき、自分がどのような役割を果たすことができるか理解した上で行動することを指します。
一人で完結する仕事は少ないものです。状況把握力は複数の人とかかわって仕事に取り組む際に必要となる能力です。
規律性とは、社会のルールや人との約束を守る力のことです。社会ルールにのっとって、自らの発言や行動を適切に律することを指します。
社会で行動するには、周囲の人に迷惑をかけることなく、最低限守るべきルールや規則、マナーを理解して遵守し、適切な行動をとることも求められます。
ストレスコントロール力とは、ストレスの発生源に対応する力のことを指します。
ストレスコントロール力があれば、仕事でストレスを感じることがあっても、成長の機会だと思って楽観的に捉え、力を抜いて対応することができます。
また、ストレスの原因を見極めて自力で取り除くことができる、信頼できる人に相談する、趣味など仕事以外のことに取り組むなどによって、自らストレスを和らげようと試みることが求められます。
人生100年が現実化するなかで、社会において長期化する人生を通じて自分にしかできないことを考える必要性が高まっています。
このため、「人生100年時代の社会人基礎力」が社会人基礎力を発揮するために必要な視点として以下の3点が追加されました。
前述の12の能力要素を発揮するために、自己を認識してリフレクション(振り返り)をしながら、3つの視点のバランスを考えることが提唱されています。
「どう活躍するか」とは自己実現や社会貢献に向けて自分がどのように働きかけるか、具体的な行動に関する視点です。
どう活躍するかをイメージし、目的を設定した上で「何を学ぶか」「どのように学ぶか」を決めて行動を起こす必要があります。
自分が何を目的にし、どのように社会貢献につながるのかが明確になっていれば、自分でどんなキャリアを形成していくのか選べるようになります。
この視点では、自己実現や社会貢献に向けて行動することが必要とされています。価値のある創出に向けた行動を起こすきっかけを生み出すためには、「前に踏み出す力」がより重要となってきます。
「どのように学ぶか」とは、単に新たな知識のインプットだけで終わらせるのではなく、目的の実現に向けてこれまで培ってきた多様な体験や経験、能力、キャリアを組み合わせて学びを統合させることです。
さらに、個人の経験や能力を統合させることにとどまらず、複数人の自分の経験や体験、能力、キャリアを掛け合わせることにまで視野を広げると、多くの人の得意なものを統合しやすくなり、より大きな成果を生み出すことにつながります。
おのおのが経験と能力を持ち寄って価値観を創出するために、「考え抜く力」や「チームで働く力」がとても大切になります。
「何を学ぶか」とは何を学ぶべきか自分で考え、学び続ける姿勢を持つことに関する視点です。
これまでのキャリア形成は「学ぶ、働く、引退する」という直線的なものが主流でしたが、これからは「働きながら学ぶ」という平行した複線的なキャリアが主流になると予想されます。
これからの時代に対応していくために、自分は何を学んでいくべきなのかを考え、学び続ける姿勢が大切です。学びによって、自分の強みを強化し、弱みを補完し、能力を発揮していくためには、「考え抜く力」が重要だといえます。
人生100年時代とも呼ばれる現代で、キャリア開発のために大人の学びのあり方を追求していくことが必要であるという考えです。
社会人基礎力を身につける方法には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは3つの方法について解説します。
社会人基礎力を伸ばすためには、自分の能力を客観的に認識することが大切です。
まず、自分が何ができていて、何ができていないのかを洗い出してみましょう。「できる点」「できない点」の2つに分けて、まずは自分自身でリストアップさせることがおすすめです。
その後、同僚や上司、後輩社員などにフィードバックを求めてみましょう。主観だけで判断すると、正確な判断ができないことも多々あるでしょう。
他人からの評価を受けると、「自分ではできていると思っていたが、不十分だった点」「出来ていないと思っていたが、客観的に評価されている点」などが見えて気づきが得られるでしょう。主観と客観の両側面から自分の能力を把握していきましょう。
社会人基礎力を伸ばす方法の二つめは、自分の得意分野を伸ばし、不得意分野を改善するよう努めることです。
まずは、自分の得意分野と不得意分野を洗い出します。その後、「得意分野を伸ばす」「苦手分野を克服する」という2つに分けた上で、できることを細分化しアプローチを行うことが大切です。
なお、苦手分野が多い場合でも悲観する必要はありません。まずはできるようになるべきことに意欲的に取り組んで、徐々にステップアップしていきましょう。社内にお手本となる存在がいれば、行動を真似てみるなど、積極的に参考とするのも良いでしょう。
社会人基礎力については、会社が定期的にチェックし、自らを振り返る機会を与えるという支援をすることも効果的です。苦手の克服には研修を活用して、そのスキルを発揮する上でのコツやポイントを学びます。
新入社員が社会人基礎力を高めるための方法として、日頃から社会人基礎力を意識して生活してみることが挙げられます。
普段携わっている業務や生活の中で、「3つの能力」「12の能力要素」「3つの視点」を意識することが大切です。どのように行動するべきか、どのように解決するかと考える際に、社会人基礎力の中で自分が実践できていること、苦手なことなどを把握するきっかけになります。
こまめに振り返りをおこない、自らの成長や立ち位置を確認しておくとよいでしょう。
今回は社会人基礎力について、今求められる背景について、また社会人基礎力とはなにか、新入社員や若手社員が高めていく方法について解説しました。社会において活躍できる人材になるためには、早い段階で社会人基礎力の重要性について理解を深めて、いま担っている業務において意識して発揮していくことが大切です。
このため、企業は社員が継続的に社会人基礎力を高めていけるように必要な研修を行い、社員をサポートする必要があります。
社会人基礎力に含まれるコミュニケーションスキルやロジカルシンキング、レジリエンスなど、さまざまなスキルやマインドを学ぶ研修を実施して、社員に成長の機会を適時に与えることが大切です。