社内研修費用、業務効率化ツールの導入……企業の運営と成長にはコストがかかります。その一部をサポートする制度として、国や地方公共団体が提供しているのが「補助金・助成金」です。補助金・助成金を上手く活用することで、支出を抑えつつ組織のミッションを実現することができます。
本記事では、人事に関する補助金・助成金を9つご紹介しています。人材育成や労働環境の改善、人材の確保に取り組む際、自社が受給できる支援金がないか確認してみましょう。
補助金・助成金とは、事業の取り組みを支援するため、国や地方公共団体が資金を支給する制度のこと。条件を満たし、申請手続きを行うことで資金援助が得られます。
経営改善や生産性向上を支援する制度など、補助金・助成金の種類は多岐に渡ります。人事に関するものは、人材育成や人材の定着、働きやすい職場づくりなどが主な目的です。これらの制度を活用することで、ITツールの導入、労働条件の改定、テレワークの導入など、人事の整備にかかる金銭的負担を減らすことができます。
条件を満たし、受給資格を得るための手続きや審査を受ける必要はありますが、認定されれば企業の持続的な運営および成長の手助けとなるでしょう。
助成金は「雇用環境や労働環境の整備」を目的とする制度。厚生労働省を管轄とし、雇用保険料から支援金が支払われます。条件さえ満たせば受給資格を得られる、というのが助成金の特徴です。
それに対し、補助金は「経済の活性化」を目的とする制度。経済産業省や地方自治体の管轄です。国家予算を財源とするため、支給対象の数に限りがあります。たとえ条件を満たしていたとしても、採択されなければ受給できない場合もある、という点において注意が必要です。
そのほか、支給額の規模や申請期間、適用範囲など、さまざまな違いがあります。
補助金・助成金は、一部を除き返済の必要がありません。組織の改善や成長にかかる費用を抑えることができます。
人材の定着やスキルアップ、人材育成の効率化など、組織の取り組みを遂行するには費用がかかるものです。支出がネックで施策に踏み切れない、ということもあるでしょう。補助金・助成金は、そのようなときの救済となり、活動を後押ししてくれます。
補助金においては、認定されること自体が企業価値の向上に繋がります。補助金の対象企業に採択されたということは、政府から「社会的な価値の高い組織だ」と認められたということだからです。人材育成や労働環境の改善に注力していることの証明となり、世間や顧客、従業員からの評価が高まる可能性があります。
補助金・助成金を受け取るには、自ら手続きを行い、申請する必要があります。さらに、申請する際は、計画書をはじめとする各種書類の準備も必要です。時間と手間がかかることを覚悟しておきましょう。
また、補助金・助成金は後払いです。支給されるまでは、企業が費用を負担する必要があります。
さらに、補助金の場合は、受給資格を得られない可能性もあります。補助金・助成金に頼りきりになるのはリスクが高いといえるでしょう。
補助金・助成金の種類は多岐に渡ります。自社に適した制度を見極めるため、どのような支援が受けられるのか、補助金・助成金を活用してどのようなことを実現したいのか、事前に検討しておくことが大切です。
今回は、人材育成や労働環境の整備に活用できる補助金・助成金を9つピックアップしたので、悩んだ際はぜひ参考にしてみてください。
人材育成は、企業の成長、持続的な経営に欠かせません。しかし、研修の実施や効率化に役立つツールの導入には、費用がかかります。
それらの負担軽減に活用できる支援制度として、以下の3つの補助金・助成金をご紹介します。
目的 |
労働生産性の向上 |
対象 |
業務効率化やDX化に向けてITツールの導入を実施する中小企業、小規模事業者など |
条件 |
・IT導入補助金事務局に登録されているツールを導入・利用すること ・「IT導入支援事業者」と連携すること など |
支給額 |
数万~数百万前後 |
「IT導入補助金」とは、その名のとおりITツールの導入を支援する補助金のこと。顧客対応、物流システム、財務などといった業務のデジタル化を後押しする制度です。
人材育成に役立つITツールの導入にも活用できます。動画研修を実施するツール、育成管理ツール、eラーニングツールなどにかかる費用の負担を減らせる可能性があります。デジタルツールを導入する際は、IT導入補助金を活用できないか検討してみましょう。
■参考:「IT導入補助金2024」
目的 |
継続的な職業能力の向上、またはそのような仕組みの構築 |
対象 |
中小・大企業 |
条件 |
コースごとに異なる 例:職業訓練を行う労働者が雇用保険被保険者であること、能力開発の計画を作成し、それを労働者に周知させていること など |
支給額 |
コースごとに異なる 例:人材育成支援コースの場合 ①10時間以上のOFF-JTを行った場合、1人1時間当たり760円 ②厚生労働大臣認定の「OFF-JT・OJTを組み合わせた教育訓練」を行った場合、OFF-JT1人1時間当たり760円、OJT1人1コース当たり20万円 ③有期契約者を正規雇用に転換させるための「OFF-JT・OJTを組み合わせた教育訓練」を行った場合、OFF-JT1人1時間当たり760円、OJT1人1コース当たり10万円 |
「人材開発支援助成金」は、従業員の能力開発、職業訓練を支援する制度です。知識習得やスキルアップを目的とする教育訓練の経費や賃金を一部助成する「人材育成支援コース」、有給教育訓練休暇制度を活用した訓練をサポートする「教育訓練休暇等付与コース」など、さまざまなコースが設けられています。
eラーニングを活用した職業訓練も、人材開発支援助成金の対象です。ただし、「経費のみの助成」「標準学習時間を基準に支給額の限度が決められている」など、ほかのコースとは異なるルールが設定されています。
■参考:「人材開発支援助成金」厚生労働省
目的 |
現在所属する組織にないスキルを習得させ、従業員の成長を促す |
対象 |
出向した従業員の賃金を、出向前より5%以上上昇させた事業主 |
条件 |
・労働者のスキルアップを目的とする出向を行う ・出向後、出向した従業員は元の事業所に戻って働くこと など |
支給額 |
出向元の事業所が負担した出向期間中の賃金の一部 |
「産業雇用安定助成金」は、雇用の維持を目的とする助成金のことです。そのうちの「スキルアップ支援コース」は、在籍型出向をサポートする制度です。「在籍型出向」とは、現在の雇用契約を維持したまま、一定期間、外部の企業で勤務することを指します。
こちらの助成金は、自社にない知識・スキルの習得、および従業員の能力開発に役立ちます。外部に出向させることで、自社でできない経験を積ませることができるのです。企業改革に向けた従業員育成や、社員のキャリアアップを図る際は、ぜひ検討してみましょう。
■参考:「産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)」厚生労働省
労働環境は、組織の生産性や人材の定着に影響する重要な要素です。社会的な企業価値を高めるためにも、働きやすい職場づくりが欠かせません。
助成金には、労働条件や作業環境の改善に役立つものも数多くあります。施策を実施する際は、自社が受けられる支援がないかチェックすると良いでしょう。
では、代表的な3つの補助金・助成金をご紹介します。
目的 |
従業員にとって働きやすい職場づくり、雇用の安定 |
対象 |
中小企業が中心 |
条件 |
コースごとに異なる 例:出生時両立支援コース<第一種> 男性が育児休暇を取りやすい環境・体制整備に取り組み、男性社員が育児休暇(5日間連続)の取得を出生後8週間以内に開始すること |
支給額 |
コースごとに異なる 例:出生時両立支援コース<第一種> 条件達成1人目20万円、2~3人目10万円 |
「両立支援等助成金」は、従業員の仕事と家庭の両立を支援する制度。育児や介護のための休業、短時間勤務、および休業後の復帰の実現に活用できます。
両立支援等助成金は、受給の実績を獲得すること自体、企業のメリットになるといえます。受給履歴を外部に公表することで、「柔軟な働き方の提供している企業である」ということを証明できるからです。
企業価値の向上に繋がるため、労働環境整備を図る際は当制度を利用できないか確認してみましょう。
■参考:「2024年度の両立支援等助成金の概要」厚生労働省
目的 |
中小企業の労働環境改善 |
対象 |
労働時間短縮に取り組む中小企業 |
条件 |
コースごとに異なる 例:労働時間短縮・年休促進支援コース ・労働者災害補償保険の適用事業主であること ・支給対象となる取り組みを1つ以上実施すること ・3つある既定の成果目標の中からの1つ以上選択し、成果目標を達成すること など |
支給額 |
成果目標の達成状況に応じて定められた支給額、もしくは支給対象となる取り組みの実施にかかった経費 |
「働き方改革推進支援助成金」は、中小企業における働きやすい職場づくりを支援する制度。時間外労働の削減、有給休暇の取得、過重労働の防止に取り組む企業をサポートするコースが設けられています。
こちらの制度は、一部を除き、成果目標の達成状況に応じて支給額が決まるのが特徴です。目標達成を従業員のモチベーション向上に活用し、労働環境改善を目指すのも良いでしょう。
■参考:「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」厚生労働省
「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」厚生労働省
目的 |
非正規雇用労働者のキャリアアップ促進、生産性の向上 |
対象 |
中小・大企業 |
条件 |
・キャリアアップ管理者の設定 ・非正規雇用労働者のキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長から受給資格の認定を受ける など |
支給額 |
コースごと、企業規模ごとに異なる 例:正社員化コース<中小企業の場合> 有期雇用労働者1人当たり80万円、無期雇用労働者1人当たり40万円 |
「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用の従業員のキャリアアップを支援する制度です。非正規雇用労働者には、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者が含まれます。
非正規雇用社員のキャリアアップに取り組むことで、優秀な人材の流出を防止できます。また、従業員のモチベーションアップによる、生産性の向上も期待できるでしょう。
■参考:「キャリアアップ助成金」厚生労働省
労働者数の減少が進む現代、人手不足、人材不足は多くの企業にとっての課題です。人材育成や労働環境の改善に取り組んでも、そもそも人がいなければ意味がありません。
補助金・助成金の中には、人材の確保や雇用の維持に役立つものもあります。例として以下の3つの制度をご紹介しますので、自社の目的にマッチするものがないか検討してみましょう。
目的 |
人材の確保・定着 |
対象 |
一部中小企業のみ |
条件 |
コースごとに異なる 例:雇用管理制度助成コース ・雇用管理制度整備計画の認定を受ける ・雇用管理制度の導入および実施 ・離職率の低下目標の達成 |
支給額 |
コースごとに異なる 例:人事評価改善等助成コース 80万円 |
「人材確保等支援助成金」は、人材確保や人材定着を目指し、魅力ある職場づくりに取り組む事業主を支援する制度です。雇用管理制度の導入、人事評価制度の改善、若年社員や女性社員の定着促進など、幅広い取り組みをサポートする助成金コースが設けられています。
例えば「雇用管理制度助成コース」は、研修制度や健康づくり制度などを導入し、離職率の低下を図る事業主を支援するコースです。そのほか、テレワーク導入による離職率低下に取り組む事業主をサポートする「テレワークコース」などもあります。
助成金の内容を参考に、人材の確保・定着の施策を考案するのもひとつの手です。
■参考:「人材確保等支援助成金のご案内」厚生労働省
目的 |
転職者・再就職者の就業、人材移動の促進、生涯現役社会の実現 |
対象 |
限定なし |
条件 |
コースごとに異なる 例:中途採用拡大コース ・中途採用率を20ポイント以上上昇させること ・計画期間中に対象の労働者を2人以上採用すること など |
支給額 |
コースごと、実施した取り組みごとに異なる 例:中途採用拡大コース 中途採用率の拡大:50万円、45歳以上の中途採用率の拡大:100万円 |
「中途採用等支援助成金」は、中途採用や移住者の受け入れ、企業による雇用機会の創出を図る事業主を支援する制度です。
中途採用者を助成する「中途採用拡大コース」、地方への移住者の採用を後押しする「UIJターンコース」、離職者の早期再就職に取り組む事業主を支援する「雇入れ支援コース」などがあります。
人手不足の解消や企業成長に向けて中途採用に取り組む際は、こちらの制度を利用できないか確認してみると良いでしょう。
■参考:「早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)」厚生労働省
「早期再就職支援等助成金(UIJコース)」厚生労働省
「早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)」厚生労働省
目的 |
休業、教育訓練、出向による雇用の維持 |
対象 |
事業活動が縮小している中小・大企業 |
条件 |
・雇用保険適用事業主であること ・労使間の協定に基づき、休業・教育訓練・出向などの雇用調整を実施し、取り組みそれぞれに設けられた条件を満たすこと など 例:休業を行う場合 所定労働日の全1日休業、または所定労働時間内の1時間以上の短時間休業を行うこと など |
支給額 |
実施する取り組みごとに異なる 【休業】休業手当負担額×助成率 【教育訓練】賃金負担額×助成率+1人1当たり1,200円 【出向】出向労働者の賃金に対する負担額×助成率 (助成率は中小企業・大企業で異なる) |
「雇用調整助成金」は、経済上の理由で事業活動の縮小を強いられた事業所が、従業員の雇用を維持できるよう支援する制度。休業や教育訓練、出向など、雇用調整の取り組みで生じた負担を軽減します。
雇用の維持は、従業員と企業の信頼関係を強めます。また、雇用調整を行うことで、事業活動縮小時も人材を失わずに済みます。教育訓練や出向に取り組めば、従業員の能力が上がり、より早く事業を立て直せるでしょう。
現代は、いつ事業活動の縮小を強いられるかわからない予測不可能な時代です。雇用調整助成金は、いざというときの支えとなるため、予めチェックしておくと良いでしょう。
■参考:「雇用調整助成金」厚生労働省
補助金・助成金は、どの種類を受給したいかによって必要な申請手続きが異なります。ここでは基本的な流れをご紹介するので、大まかなイメージを掴みたい方はぜひ参考にしてみてください。
補助金・助成金の種類は多岐に渡ります。まずは、自社が受給可能な補助金・助成金があるかどうか、情報収集が必要です。
情報収集を行う際は、自社が実現したいことを明確にすることが大切です。目的に沿って計画を練り、その目標を達成するとどのような補助金・助成金が受け取れるのかイメージすることで、目指すべき方向性が定まります。
補助金・助成金の条件や支給額は、コースや実施する施策の内容により、さらに細かく分かれます。そのため、自社がどのようなことに取り組みたいのか、プランを具体的に決めておく必要があります。
また、コースごと、施策ごとに設けられた条件のチェックも必須です。提出漏れや申告漏れがあると、受給できない恐れがあります。また、条件を満たしていない状態で受給すると、不正受給とみなされ処罰を受けることになるため、事前に入念にチェックすることが大切です。
補助金・助成金を受給するには、国や特定の組織から「支援するに値する事業所、取り組みである」と認められる必要があります。その下準備として、事業計画書の作成と提出が必要です。
事業計画書には、組織の基本情報に加え、現在の事業の状況や実施期間のスケジュールなども記載します。必要事項の記載漏れがないよう注意が必要です。また、計画書以外にも提出が義務付けられている書類がないか確認しましょう。
計画書作成後の流れは、補助金と助成金で異なります。助成金の場合は、基本的に「計画書の作成」「施策の実行」「支給申請」という流れで行います。
一方、補助金の場合は申請後に「採択」があります。その後「施策の実行」「支給申請」という過程を経て、ようやく受給手続きへと進むことができます。
さらに細かな流れは補助金・助成金の種類ごと、コースごとに異なるので、スケジュールを立てる際に確認しておきましょう。
支給申請後、要件を満たしていると認められると給付が受けられます。どの補助金・助成金を受ける場合でも、実際にお金を受け取るまでには時間がかかるということを覚えておきましょう。
一時的に自社で費用を賄う必要があるとはいえ、補助金・助成金は、企業に多くのメリットをもたらします。資金援助はもちろん、明確な目標に向かって取り組むこと自体が、より着実な組織改善に繋がるからです。
本来受けられるはずの支援を逃すのは勿体ないことなので、この機会に補助金・助成金の受給を検討してみましょう。