企業の生産性を高めるには、いかに業務のムダを減らせるかが重要。とはいえ「作業のどこが無駄なのかわからない」「業務を効率化したいが、どの作業をやめるべきかわからない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、職場にありがちなムダと、ムダな作業の見つけ方について解説していきます。具体的な例もご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
無駄な作業とは、かかる時間・労力に対し、得られる利益が「少ない/ない」作業のこと。また、本来行う必要がない作業のことをいいます
無駄な作業は、以下を基準として4種類に分けることができます。
「ムダ」の種類によって適切な対処法が変わるため、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
まず1つめは「いま発生しており、そのことに気づいているムダ」です。「無くした方が良い」「意味のない作業だ」と気づいているにもかかわらず、対処できていないケースです。
このような場合は、なぜ対策せず放置しているのか、原因を探る必要があります。すでにムダを認知しているため、原因と解決策さえ導き出すことができれば、比較的早く解決できるでしょう。
2つめは、ミスやトラブルによってムダが発生することに気づいているケース。ミス・トラブルが起きないよう「対策することで防げるムダ」です。
例えば、データの入力ミスがあったときは、修正作業が必要になります。しかし、予め「入力ミスによってムダが発生するだろう」と気づいている場合、対策を講じることができます。ミスが起きないよう業務を改善することで、ムダの発生を回避できるのです。
このタイプも先ほどと同様、すでに「ムダ」を認知できているため、原因追及と改善によって解決できます。
3つめは「現在、職場にムダが発生していることに気づいていない」ケース。職場のルールや指導などの影響で「無駄ではない」と思い込み、問題があることにさえ気づいていないため、これまでのタイプよりも厄介です。
このタイプのムダを解決するには、まず発見することから始めなければなりません。業務の棚卸を行い、無駄か無駄ではないか判別し、そこからようやく改善に取り掛かることができます。
改善が困難なタイプではありますが、4種類のなかで特に重点的に取り組むべきといわれています。理由は以下のとおりです。
このように、「発見されていないムダ」を改善することは、ほかの無駄を排除・防止することへとつながります。効率よく職場のムダをなくせるため、重点的に取り組むべきといえるのです。
『「ムダ時間を減らし」「ムダ時間を防ぐ」業務改善入門』という書籍の著者、矢代隆嗣氏も以下のように述べています。なお、当書ではこのタイプのムダを「対象C」と称しています。
業務改善においては、4つの対象の中で最も重視すべき対象はCだということです。対象Cを重点的に取り組むことが、最も効果的な業務改善を展開でき、(中略)組織氏名・目標の実現に向けた5つの取り組みへ投入するための時間を多く創出できるからです。
引用:矢代隆嗣(2021)『「ムダ時間を減らし」「ムダ時間を防ぐ」業務改善入門~事例でわかる 職場でできる 4つの対象別業務改善アプローチ~』株式会社パレード
このような理由から、現状に問題がないように見える職場も、改めて業務を見直し、ムダが潜んでいないか確認する必要があるといえます。
最後は、ミスやトラブルによって「今後発生する恐れがあり、かつそのことに気づいていない」ムダ。ムダが生じることを予測できていないケースです。
このタイプは、リスク管理の甘さが原因として考えられます。トラブルを予測していないため、対策できず、無駄な作業が発生してしまうのです。改善するには、ミス・トラブルをシミュレーションすること、つまり「今後起こりうるムダ」に気づく必要があります。
「予期せず発生するムダ」を「対策して防げるムダ」へと変えるには、やはり業務の棚卸しが必要だといえるでしょう。
ここまで解説したとおり、職場のムダをなくすには、まずムダに気づくことが大切です。とはいえ、闇雲に探しても効率が悪いため、ある程度どのようなムダがあるのか候補を知っておく必要があります。
そこでここからは、職場にありがちな業務のムダを7つご紹介します。具体的なシチュエーションの例も併せて参考にしてみてください。
従業員が作業していない時間、手待ち時間は人件費と労働力の無駄です。特に、飲食店や小売店などのような店舗型の企業に多く見られます。
以下のことが主な原因として考えられます。
業務の分担に問題があると、従業員の作業量が偏り、手待ち時間の無駄が増えます。また、従業員同士のチームワーク力が低い場合も、作業量に偏りが出やすいです。その根底には、従業員同士のコミュニケーション問題があると予想されます。
ミスが発生すると、修正したり対応したりする時間・労力を費やすことになります。製品の不具合を直す時間、クレームに対応する時間は、ミスが起きなければ発生しなかった時間です。本来取り組むべき業務の時間と労力が奪われ、生産性が下がってしまいます。
ミスによるムダが発生する原因には、例として以下が挙げられます。
ヒューマンエラーによるミスの場合は、上記のほか、就業環境が原因となっている可能性もあります。具体的には「長時間労働で疲労がたまっていて、ミスが多い」「職場の心理的安全性が確保されておらず、ストレスでミスをしてしまう」などといった状況が考えられるでしょう。
常日頃行っている作業に、不必要な工程が潜んでいるケースも少なくありません。無駄な作業工程があると、時間・労力が無駄になるだけでなく、ミスが起きるリスクも高まります。二重三重とムダが増えるため、廃止もしくは簡略化するなどの改善が必要でしょう。
作業工程にムダが生じるのには、以下が原因として挙げられます。
作業がルーティン化、マニュアル化されていると、ムダに気づきにくいです。特に、新人教育で教えられた業務の取り組み方は「正解だ」と思い込みやすく、マインドセットと客観的な分析が必要になります。
移動にかかる時間は、積み重なると大きなロスになります。例えば、研修会場に移動する時間は、オンライン研修では発生しない時間です。つまり、オフライン研修で生じる移動時間は「ムダ」といえます。
また「動作のムダ」は、単純に時間の浪費になるだけでなく、思わぬミスを引き起こします。ミスの対処に追われる無駄な時間が発生するほか、事故につながる恐れもあるため改善すべきでしょう。
移動・動作のムダが発生するのには、例として以下の原因が考えられます。
こちらもルーティン化、マニュアル化されていると、ムダに気づかない傾向にあります。当たり前になっていて、遠回りしたり往復したりしていることに気づけないのです。また、ヒヤリハット運用ができていないなど、ムダに気づく機会が少ない可能性も考えられます。
小売業や飲食・サービス業では、無駄な在庫を抱えてしまうことがあります。仕入れにかかった費用が無駄になるうえ、在庫管理にかかるコストも無駄に。さらに、在庫の紛失や盗難、事故につながるリスクもあるため、早急に改善すべきでしょう。
主な原因としては、以下の要素が挙げられます。
在庫に無駄が生じた際は、発注数や製造数のルール・マニュアルが適切か疑う必要があります。そもそも無駄な在庫があることに気づいていない場合もあるため、在庫管理システムも改めて見直すと良いでしょう。
物流業や小売業によくある、運搬のムダ。商品や荷物を運搬するのに時間がかかるだけでなく、トラブルが起きるリスクも高まります。無駄な運搬作業によって従業員への負担が増え、動作・移動ミスが増える可能性があるのです。
運搬のムダは、主に以下のようなことが原因で発生します。
運搬のムダが解消されると、商品や荷物がエンドユーザーに届くまでのスピードが上がります。生産性が上がるとともに、顧客満足度の向上も期待できるでしょう。
製造業によくある過剰生産は、製造にかかる経費、使われる原材料、作業時間、人件費など、さまざまなコストが無駄になります。在庫管理にかかる費用もムダとなり、企業のロスが増えます。
必要以上の接客・サービスも、企業の損失につながります。「顧客のため」と思って行うものでも、顧客満足度に影響しないのであれば、そのサービスはムダといえます。利益につながらないどころか、かえってトラブルを招くこともあるため、本当に必要か見極めるべきでしょう。
過剰生産・過剰サービスのムダは、主に以下のことが原因で発生します。
過剰生産・過剰サービスは、良かれと思って行っていることも多いです。その原因として、組織のルールや基準が曖昧なことが挙げられます。従業員の主観で、過剰か必要かを判断してしまうのです。
無駄をなくすためには、客観的かつ論理的に基準を見直し、「必要/不必要」のラインを明確にする必要があるでしょう。
業務の無駄の例を見てもわかるように、職場には気付かぬうちに発生しているムダが数多くあります。それらを発見するにはどうすれば良いのでしょうか。
以下の主な3つの方法について解説していきます。
業務の棚卸しは、無駄を見つける基本的な方法です。作業工程、作業環境、作業にかかる時間、分担の状況など作業をひとつひとつ見直し、「本当に必要か」「簡略化できるか」を判断します。
業務の棚卸しは、「気づいているのに放置されているムダ」の原因を調べるのにも役立ちます。普段何気なく行っている業務を細分化し、分析することで、なぜ改善されていないのかがわかります。
棚卸しを行う際は、可視化が必須です。情報が整理され、客観的な視点で分析できます。
また、業務の現状を第三者と共有したり、記録したりすることも可能になります。表や図を活用し、誰でも状況を理解できるようにしておきましょう。
業務のムダを探る際、何から手をつければ良いかわからなくなることがよくあります。
そのようなときは、業務の「時間」に注目します。どの作業にどれほどの時間がかかっているのかをチェックすることで、ムダを疑うべきポイントを絞れます。
調査対象の業務が定まったら、作業時間が適切かどうか考えます。見極める際は、以下を意識すると良いでしょう。
目的や成果物に対し、必要以上に時間がかかっている場合、業務にムダがあると判断されます。また、その作業がなくても成果が変わらない、もしくは問題なく目的を達成できるのであれば、いっそのこと作業を廃止してしまうのもひとつの手です。
このように、業務の「時間」を指標とし、目的・成果物と比較することで、効率よくムダを改善できます。
従業員が、すでに職場のムダに気づいていることは多々あります。そういったモレを把握するには、従業員に直接ヒアリングするのが有効です。なかには改善策まで思いついているケースもあり、効率良く業務を改善できます。
ただし、従業員の意見に主観が入っている場合もあるため、注意が必要です。一部もしくは1人の意見を鵜呑みにするのではなく、受け入れながらも論理的に判断することが大切です。
また、無駄に気づいていたにもかかわらず、なぜ発言できなかったのか、原因を探ることも重要です。「自分の印象が悪くなると思って言えなかった」「上司に怒られるかもしれないと思った」など、従業員が発言しにくい職場では、ヒアリングを行っても本音を言わない可能性があるからです。
社員の率直な意見を聞くには、安心して発言できる環境づくりが大切。ヒアリング方法を工夫するとともに、職場風土も見直しましょう。
職場の変化に抵抗感を抱く人は少なくありません。従業員に行動してもらうには、業務改善のメリットを説明し、納得してもらう必要があります。
無駄な作業を減らすべき理由について確認しておきましょう。
近年、多くの企業が人手不足に悩まされています。少子高齢化の影響を受け、募集しても人材が集まりにくい状況です。
そのような職場では、社員1人1人が大きな負担を抱えることとなります。そこで、業務の無駄を省き、効率化する必要があるのです。
社員の負担が軽減されると、作業の質が上がります。従業員満足度の向上から、定着率アップも期待できます。最終的には、人手不足の改善へとつながるでしょう。
人々の価値観が変化するとともに、働き方も年々変化しています。「働き方改革」の後押しもあり、多くの企業が長時間労働の抑制に取り組んでいます。
そのうえ「フレックス制度」「リモートワーク」が導入されるなど、勤務体制にも変化が訪れています。以前と比べ、従業員同士がフェーストゥフェースで仕事をする時間が短くなっているのです。
短い時間で、今までどおりもしくは今まで以上の利益を得るには、業務効率化が欠かせません。業務のムダを改善し、短い時間で多くの利益を生むシステムを構築する必要があるのです。
変化の時代といわれる現代。企業が大きく変わることを求められるシーンは多々あります。
企業改革を成功させるには、計画と入念な準備が必要です。乗り越えなくてはならない障害も数多く存在します。
その時間を確保するため、ほかの業務を効率化する必要があるのです。現状のムダを排除し、重要度の高いミッションに集中できる環境をつくることが、企業の継続的な成長の手助けになるでしょう。
職場のムダをなくし、業務改善に成功した企業も多数存在します。例として、厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」をもとに3社の事例をご紹介しますので、改善手段に悩んだ際はぜひお役立てください。
セラテックジャパン株式会社は、長野県にある加工会社。当社は労働時間の短縮を目標に掲げ、業務のムダの改善に取り組みました。
例えば、従来1時間かけて行っていた定例会議を、30分に短縮しました。ルーティン化されていた挨拶や発表を廃止し、会議資料をオンラインで事前に確認するよう仕組みを変えたことで、効率化できました。
当社の事例のように、オンラインの活用は、職場のムダの改善に有効な手段です。使い方次第で、業務の質を落とすことなく効率化できます。情報共有など、オンラインでも実施可能な業務はデジタルツールを使い、無駄を省きましょう。
コーヒー豆の販売やカフェプロデュースなど、コーヒーに関連する事業を幅広く展開する、田代珈琲株式会社。
当社では、朝礼を廃止してシフト制へと移行したところ、従業員の手待ち時間が削減されました。朝礼廃止によるコミュニケーション不足への対策としては、SNSとミーティングを活用しています。
また、人材育成の無駄をなくすため、クラウド型のマニュアルを導入。指導業務に標準時間を設定し、チェックしながら教育するよう体制を整えたことで、効率の良いOn-the-Job Trainingを実現しました。
当社の事例から、ITツールの活用は人材育成の無駄の改善にも役立つことがわかります。より重要な内容の指導時間を確保するためにも、ツールをうまく活用し、効率化していきましょう。
京都府にある旅館を営む株式会社綿善。旅行業における人手不足問題を解消する取り組みとして、2015年頃、当社は業務改善を行いました。
社内の各部門から1~2名ずつ選出し、経営陣とともにミーティングを実施。すべての業務の棚卸し、全スタッフへのヒアリングを行い、本当に必要な業務か精査しました。そして、会議にて参加者全員が「不要」と判断した業務は廃止しました。
また、情報共有をスムーズにするため、スタッフにタブレット端末を1人1台ずつ配布。防犯カメラも導入し、スタッフやフロアの状況をいつでも把握・共有できるようにしたところ、移動のムダと手待ち時間のムダを削減することに成功しました。
企業のムダをなくすには、社員全員の協力が必要です。「株式会社綿善」のように、可能な限り多くの社員を巻き込み、当事者意識を持ってもらうよう工夫しましょう。
職場のムダを完璧にゼロにするのは、ほぼ不可能です。しかし、少しでも業務が効率化されれば、社員の負担は減り、企業の生産性が向上します。「見直し」「分析」「改善」のサイクルを回し続け、無駄のない業務へと近づけていくことが大切です。
ムダを改善する具体的な方法については、以下の記事にて解説しています。改善策のアイデア出しに行き詰まった際は、ぜひお役立てください。
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