今、「OKR」という目標管理手法が注目されています。その背景には2020年に働きかた改革関連法が実施されたこと、さらにコロナ感染症の感染拡大対策として「リモートワーク」が浸透したことで、従前の組織やマネジメント、あるいは働きかたへの意識が変わってきたことがあります。
労働環境の変化によって、企業全体のマネジメントもそのやり方を変化させる必要が迫られています。
本記事ではOKRとはなにか、OKRにおけるKey Results(成果指標)について、目的や注意点、手順やOKR自洗企業の成果指標設定の具体例について記述していきます。
OKRとは「Objectives(目標) and Key Results(成果指標)」のことで、自分の働く職場やチーム、または企業の組織のありようを新しい視点で一変させていく目標管理手法とその取り組みのことを指します。OKRはチームの成長やチャレンジを促す仕組みで、グーグルやメルカリが採用したとして注目されています。
Objectives(目標)と Key Results(成果指標)のそれぞれについて解説します。
(参照元:『図解入門ビジネス 最新目標管理フレームワークOKRの基本と実践がよ〜くわかる本』)
OKRについて書かれた書籍『Resily株式会社著「図解入門ビジネス 最新目標管理フレームワークOKRの基本と実践がよ~くわかる本」秀和システム』によると、OKRは「企業内のあらゆる組織やチームが、同じ友情課題に全力で取り組むための組織マネジメント手法」だといいます。
同書籍では変化のスピードが激しい現代において、いままでの達成目標の設定や古い目標に向かって意味のないアクションを取り続けていては、社会のニーズからとりのこされてしまうだろう、と言及しています。そこで取り入れられてきたOKRは「野心的なObjectiveと測定可能なkey Results」から構成されています。
Objective(目標)ですが、現状の業務の発展形など今をスタートにして設定するのではありません。同書籍によれば、Objective(目標)は「ビジョンの実現に貢献する野心的な目標」を設定することを表しています。
Objective(目標)の設定では「何を実現したいのか」を問い、考えます。同書籍ではObjectiveには「原則的に定性的な表現を置く」とあります。そして関わる人を鼓舞させるような目標であることが重要だといいます。
かみ砕いて言うと、Objective(目標)は、「have to」(やらなくてはいけない)ものではなく、「want to」(やりたい)といった関係する部署や社員が同じ価値観とつながりを持って行くことを意識して設定することが重要です。
前述した書籍によるとKey Results(成果指標)は、Objectiveが達成したこと、実現したことについてどのように気づくのかという問いかけに対する定量的な回答になるものだといいます。
1つのObjectiveに対してKey Results(成果指標)は3〜5つに絞っていきます。
Key Resultsの設定のポイントは、第三者からも判断できる、測定できる、観察できる指標にすることです。例えば数値や具体的な成果物、スケジュール遵守などがあります。
書籍では、Key ResultsはObjectiveが実現するための仮説になるものとあります。ObjectiveとKey Resultsの間には「Key Resultsがすべて達成されれば、Objectiveが実現する」「Objectiveが実現するにはKey Resultsが達成しなければいけない」という関係性が成り立つのかをチェックする必要があると言及しています。
Key ResultsはObjectiveの実現までのマイルストーン(達成までの中間目標地点)だといえます。
ここまでOKRについて説明をしてきました。ここでは、Objective(目標)に対してKey Results(成果指標)を設定する目的について見ていきましょう。
成果指標を設定する目的の1つ目は、目標を達成するためにするべきことは何かを明確にすることです。
Objectiveに向かって「何をどのような状態にすれば達成するのか」を設定するのがKey Resultです。
Key Resultを設定することで、達成すべき項目を明確にすることができ、さらにその結果は定量的に求められるので目標達成の状態を具体的に把握できるようになります。これによって社員たちは共通の意識を持って進めるようになり、1人ひとりのモチベーションアップに繋がります。
書籍『図解入門ビジネス 最新目標管理フレームワークOKRの基本と実践がよ〜くわかる本』によると、OKRにおけるKRは、組織としてのフォーカスポイントを明確にするもので定量的に達成度を見ていくものであるので、KPI(Key Performance Indicator:重要経営指標)に近しいと言えると指摘しています。目標管理として自己の業績成果を測る指標と重なるので、自分の成果が事業にどれだけ貢献できるかが明確になり、目指すものが明確になります。
ありたい目標に対する成果指標を考えることが、新しいアイディアを生み出すことにつながります。
OKRの導入コンサルティングを行う奥田和広氏の著書『「本気でゴールを達成したい人とチームのためのOKR」ディスカバー・トゥエンティワン』によると、挑戦的な水準で「何を目指したいのか」を決めて設定することで「どのように行っていくのか」についてのアイディアが出てくるといいます。
書籍では「どのように」という手段から考えると、その行動の「積み上げ型」になってしまい、新しい発想が出てこなくなるといいます。例えば「新しいアプリを大ヒットさせる」という目標に対して「1日100万ダウンロード」と設定します。「キャンペーンを行う」などは「どのように」の行動目標になり、毎日行動することが目標にすり替わってしまうことが懸念されると指摘しています。
目的達成のための成果指標を明確にしていることで、常にチームの方向性を示し続けていることになるので、リーダーはリーダーシップをOKRの仕組みで発揮することができます。メンバーは方向を見失うことなく進めていくことができます。奥田氏の書籍では、OKRという仕組みによって、チーム内に目標や成果指標の共通認識があるため、フィードバックが定型化され、マネジメントを助けてくれると言及しています。
Key Results(成果指標)を設定する際の、重要なポイントや気を付けるべき点について紹介します。
Key Results(成果指標)は、Objective(目標)を達成するための重要な結果指標なので、関わる人がそれぞれ違う解釈や違う計算をしてしまうと意味合いが薄まり、望むような結果が得られません。
書籍『本気でゴールを達成したい人とチームのためのOKR』では、このような事態を防ぐために、指標の計算方法を明確にする必要があるといいます。
新規利用者数を指標に掲げた場合、無料利用者はカウントに入れるのか否か、別サービス利用者が入ってきた場合に新規利用者数に含めるのかどうか、など人によって解釈が分かれる状況があります。この場合には新規利用者数の定義を決めておき、計算方法を明らかにしておきましょう。
前述した書籍では成果指標には2つのタイプがあるとあります。
「行動指標」と「結果指標」です。結果から言えば、Key Results(成果指標)には「結果指標」を設定するべきだと書籍は指摘しています。
「行動指標」はどのような行動をとったのかというもので「毎日100人に電話でアプローチした」「メルマガを一日3本配信した」などです。
これに対して「結果指標」とは「サイトのPVが100万以上になった」「新規客数が前年120%になった」というように、行動によって起こった結果を指標にするものです。
行動指標を設定しても、その行動がどのように結果に反映したのかが測定できません。結果指標をKey Resultsにすることで、このOKRに関わる社員は決められた行動をするのではなく、社員それぞれが創意工夫した行動を取るようになります。
前述した書籍『図解入門ビジネス 最新目標管理フレームワークOKRの基本と実践がよ〜くわかる本』によると、Key Results(成果指標)をすでに測定できているものの中から設定することはあまり良い施策とはならないとあります。これは現在の指標をベースにすると、結果も現在の延長線上のものにしかならないからです。新しい発想で、「本当に目的に繋がる成果指標はなにか」をじっくり考えて検討して欲しいと書籍では指摘しています。
目的達成のために、自分の行動が目標達成に影響のある指標を選ぶことが大切だと、同書籍は言及しています。
例えば目標に「新規客数を増やす」とおいたときに、「TVコマーシャルを流すことで新規利用者数が増える」「インフルエンサーが取り上げてくれたときに新規利用者数が増える」などはKRに向きません。これらは結果に結びつく事象であったとしても、社員一人ひとりが戦略的に対策を打つことができないからです。
このように他力本願のような指標は、達成のために社員が与える影響が小さい、あるいはないものは指標として相応しくありません。 何をすれば良い結果に結びつけることができるのかをしっかり考えて設定しましょう。
結果指標は目標数値を決めることだけではありません。現状の数値を明確にして、目標数値を設定します。前述の書籍ではいつまでに目標を達成させたいのか、期限を設けることが重要だと指摘しています。さらに「できるだけ早く」ではなく「10月末までに」など締切の解釈が人によってズレることのないように明確にし、時間という資源を有効に使うべきだと書かれています。
ここまで目標に対して成果指標を設定する際の注意点について説明しました。ここでは成果指標を設定する手順を紹介します。
企業のミッション、ビジョンやバリューとOKRの意義を結びつけるように、OKRを導入する目的をしっかり策定します。自社の状況に合わせて設定が変わります。OKRの導入目的が策定できたら、設定した目標とともに全社、チーム内で共有します。書籍『図解入門ビジネス 最新目標管理フレームワークOKRの基本と実践がよ〜くわかる本』ではいくつかの導入目的の例が記載されています。
組織全体に関する目的なら
目標管理に関する目的なら
などが挙げられています。
手順1で共有している目標に対して、チームが実現するべき成果指標を設定します。
前述した書籍によると、このチーム編成には部署を横断したプロジェクト型と部署をチームとする組織図型があり、どれかを選択します。また注意点の項でも触れましたが、このとき「結果指標」を中心に設定することで、メンバーが行動を考えて動くようになります。
チームで実現していく成果指標が設定されたら、メンバー1人ひとりの成果指標を設定します。
前述した同書籍では、個人OKRの設定は単なるToDoリストになってしまう懸念があるため推奨していません。
給与や賞与に関わる人事考課とOKRを紐づけるのかを決めます。書籍ではチャレンジする野心的な目標設定を阻む要因になる恐れがあるため、OKRを人事考課に紐づけることを推奨していません。プラス加点などで紐づける場合はあるとしています。
運用をスタートさせる前にOKR運用スケジュールを立てます。具体的には四半期ベースのサイクルイメージを作成し準備します。同書籍によれば、OKRの四半期スケジュールと月次、週次のスケジュールを決めて今後の展開を提示して、キックオフを実施するとあります。
実際のOKR運用では、どのような成果指標を設定するのかについて、導入企業の具体例を挙げてご紹介いたします。
OKRの考え方は、米国インテル社で生まれました。1979年、インテルは主軸のマイクロプロセッサ市場でモトローラ社の勢いに飲まれて、会社存亡の危機でした。ここでインテルはOKRを推進した結果、数年後に市場を制することができました。
前述した書籍『図解入門ビジネス 最新目標管理フレームワークOKRの基本と実践がよ〜くわかる本』にはインテルの奇跡的な復興にはOKRのよる4つの威力が表れていると書かれています。
1つ目の威力とは「戦略を絞る=フォーカス」です。インテルは顧客との関わり方を買えるという1点に絞ってモトローラに対抗する手段を決めました。インテルは新しい製品を作ったのではなく、いかに顧客に自社製品の性能の優位性があるかを伝えることに徹底しました。その結果1986年にはマイクロプロセッサ市場の85%を占めることに成功しました。
2つ目の優位性は「アラインメント」です。アラインメントとは全員が共通の目標を持ち、同じ方向を見て連携できる状態を指します。営業部署が行うセミナーにエンジニアが協力するなどの連携が生まれたといいます。
3つ目は目標を「ストレッチ」させることです。高い目標を掲げることを目標をストレッチさせるといいますが、このときにアラインメントの効果がより発揮できるといいます。
4つめの威力とは結果を定量的に測定する「トラッキング」です。インテルはモトローラ社を倒すために主要な成果指標をトラッキング(計測)することにしました。このことで何が決め手となって成功あるいは失敗したのかがわかるようになりました。成果は計測可能であることが重要だとしています。
NTTコミュニケーションズでは、デザイン経営を推進するプロジェクトチームにOKRを導入しました。
OKRを導入する前からプロジェクトチームはデザインによる顧客視点での変革を行おうとしていましたが、チームメンバーはプロジェクト全体が俯瞰できない、自分がなにに貢献できているのかわからないという声が出ていました。
同書籍によると、OKRを導入したことで徐々にコミュニケーションが取れるようになったといいます。OKRベースで話をするので共通言語と共通の目標に向かって意見交換するのでマネジメントもしやすくなったといいます。
またOKRに取り組むことで、今行動していることとプロジェクト全体との関連が明確になったというメンバーの感想も出てきたといいます。運用面での改善点はまだまだありますが、OKRの効果として自律性や創意工夫への意識が高まっている、とあります。
illustratorやPhotoshopのソフトを発売しているアドビシステムズ社は「チェックイン」を開始しました。チェックインとはチームの優先事項を確認し、結束力を深める活動で、OKR進捗にインパクトを与える取り組みや小さなゴールを宣言することです。
2012年にアドビは製品販売をパッケージ販売からサブスクリプション型(定額払い)に切り替えようとしていました。これによって製品開発や改良が頻繁に行われるようになり、これに対する評価のタームが追いつかなくなりました。
前述した書籍によると、アドビはチェックインを導入して3ヶ月に一度マネージャーとメンバーが1対1で面談を行い業務の見直しや能力開発について話し合う場を持ち、コミュニケーションを取っていると書かれています。継続的なフィードバックを行うことでリーダーとメンバーの間にある共通の目標がズレることなく業務を進めていくことができます。
Googleが働きかたについてまとめたサイト「Google re:work」のなかで、Googleでは目標に「ストレッチゴール」を設定することがよくあると書かれています。
ストレッチゴールは、達成可能だと思う状態よりも高いレベルにおいた目標のことです。人は目標を高く掲げることで格段の進歩を遂げることができるといいます。
数年後に月面着陸するという大きな目標を掲げてそれが実現するように、達成不可能な目標を設定することで人はワクワクし優秀な人材が集まり、職場は活気が満ちていきます。
OKRを効果的に運用するにはいくつかポイントがあります。ここでは3つの効果的な運用のポイントを紹介します。
一般的なOKRの達成率は60%〜70%で評価することが適切と言われています。
そもそもOKRのobjective(目標)は「ビジョンの実現に貢献する野心的な目標」であり、現状の積上げや延長線上に見えるものを目標にしていません。達成困難な目標を掲げているので、100%の達成率を目指せといわれると、現状との乖離や業務の困難さを前にしてやる気を失ってしまうことにもなりかねません。
奥田氏の書籍によると、100%の達成率を目指す目標管理制度では、挑戦が評価されない仕組みであると指摘しています。「容易に達成できない高い目標を何とか達成しようと挑戦すること」を評価しない仕組みではだれも背伸びした目標を立てなくなり、保守的な目標を掲げることになるでしょう。
OKRはこうありたい、こうであったらワクワクする、という野心的な目標を掲げています。目指す達成率の設定を間違えないようにすることが大切です。
OKRで成果を出すためには、その運用が形骸化してしまわないようにすることが大切です。
OKRの設定が決まれば運用がスタートし、進捗を共有していく段階になります。このときに大事なのが、メンバーを巻き込みながら「振り返り」をし成長に向かって進み続けていくことです。
奥田氏の書籍では、成長し成果を生み出すために不可欠なのが「フィードバック」だと指摘しています。フィードバックは進捗を見て、次に取る行動を立て直すことが期待されます。
書籍では、フィードバックはなるべく早い時期に行うこと、フィードバックをスケジュールに組み込み、仕組み化することが望ましいとあります。
チーム全体のフィードバックの他に、メンバー一人ひとりへのフィードバックも行います。個人からの業務の進捗と次週の行動予定の報告を受けて、リーダーが「目的」と「成果指標」を確認し、出来ていない点については認識させて改善案を提示し、できている点は承認し賞賛することがポイントだとあります。
もともと目標が高いところに設定しているので、出来ていないところを指摘ばかりしていては、気持ちが委縮してしまい、良い成果を残すことが難しくなります。チームメンバーの成長がチームを成長させていきます。
フィードバックによってメンバーを承認し、方向性を正して、メンバーは自分で行動を決めていくことでメンバーの成長を促してモチベーションがアップします。
どのような業務でもありえることですが、進めていくと見えてくる状況があります。想定よりもうまく運ばないことが出てきたら、「立て直し」「指標の見直し」を図ります。
奥田氏の書籍では、建て直し、見直しをかけるときに気をつけたいのは、できていないことや進捗が思わしくないことの責任を問い詰めるのではなく、どのようにしたら解決するのかに集中して考えることだといいます。
誰か一人の失敗によるものというより、仕組みがうまく稼働しなかった、あるいは関連部署などとの連携がうまくいかなかったなどが原因で、想定どおりに進まないことがあります。チーム全体で仕組みを考え直し、立て直しましょう。
そして同書籍では、具体的な解決策が見つかったら、翌週からの行動に取り込み、反映させることを提案しています。
仕事に限りませんが、人はいろいろな考えや意見を持っているので、コミュニケーションを取ることで相互の思っていることが分かります。
会社にはざまざまな社員が集まっているため、「伝えなくても分かってくれる」「これくらい分かるだろう」ということは通用しません。多様なメンバーが相互に協力し同じ目的に向かって進むためにはコミュニケーションが必要です。
奥田氏は同書籍の中で、コミュニケーションを取ることにOKRが役立つと言及しています。
組織のコミュニケーションには共通言語が必要で、OKRを共通言語として活用することで、チームのコミュニケーションが活発化されるといいます。
例えば「OKRの達成状況はどう?」「今回提案した成果指標の達成率を上げるには〇〇もあるのではないでしょうか?」などOKRで設定した項目を中心に意見交換されていくと、チーム内の目指すべき方向が集約され、より強いチームがコミュニケーションの積み重ねによって生まれます。
今回は、いま注目されているOKRとはなにか、そのメリットや注意点、運用手順、ポイントについて説明してきました。
大きな社会変革期のなかで、企業マネジメントのやり方をどう変えていけば良いかという悩みに、OKRはなにかヒントをもたらすのではないかと思います。
企業が社員一丸となって、同じ目標に向かって変革していくときにOKRを取り入れることで、コミュニケーションが深まり、解決に向かう力が強まるでしょう。
ぜひ参考にしてください。