ウィズコロナ時代を迎え、テレワークが広がるなど働き方が変わり、人事評価制度を見直す動きが広がっています。一方で誰もが納得感のある人事評価制度を作り、遂行するのは困難であるのも事実。人事評価を行うのが苦痛だという管理者もいるでしょう。
そこで当記事では、人事評価項目のサンプルを多数紹介しながら、人事評価項目の作り方、決め方のポイントを分かりやすく解説しました。人事担当者はもちろんのこと、評価を行う管理者の参考になれば幸いです。
なお、人事評価の項目サンプルをより詳しく知りたい方は、以下のテンプレートもお役立ていただけます。
人事評価とは、従業員一人ひとりのパフォーマンス(従業員の能力や会社への貢献度)に対する評価のことで、給与や異動、仕事のアサインなど処遇の根拠になるものです。人事評価は人材マネジメント手法のひとつであり、人事評価をうまく活用することで、人材の育成を促し、企業の業績向上につながります。
一般的には1年・半年・四半期など期間を定めて、その期間内で目標を設定し評価を行い、フィードバックを行います。
人事評価と似た言葉に人事考課があります。両者は同じような意味で用いられることが多いですが、厳密には人事考課は従業員の業績を判断し、給与や賞与に結びつけることを指し、人事評価はもう少し広い意味で用いられます。
ちなみに民間企業だけでなく公務員にも人事評価があり、「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎とするために、職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価」(国家公務員法第18条の2第1項)と定義されています。
人事評価手法には、さまざまなものがありますが、「MBO(目標管理制度)」「OKR(目標と成果指標)」「360度評価」「コンピテンシー評価」「バリュー評価」などがよく知られています。
■参考記事はこちら
人事評価制度とは?目標設定するための項目や基準の作り方を事例を交えてわかりやすく解説!
人事評価は企業にとって欠かせないものですが、それと同時に不満がつきものです。実際、2016年12月にリクルートマネジメントソリューションズが実施した「人事評価制度に対する意識調査」によると、約半数が人事評価に不満を持っているという結果が出ています。評価基準のあいまいさや努力が報われないことなどが理由だそうです。
それでも人事評価制度を導入するのには、目的があります。具体的には、「公平感ある処遇の分配」「社員の活用と育成」「企業文化の醸成」の3つです。
(「図解 人材マネジメント 入門(坪谷邦生・著)」を参考に弊社で図を作成)
「仕事をやってもやらなくても給与や昇進といった処遇が同じ」だと従業員の士気が上がりにくいですね。また全員平等な処遇というのも不可能。そこで必要なのが処遇の根拠となる人事評価です。
以前は年功序列が当たり前だったので、勤続年数や年齢などが処遇に大きく影響していました。しかし、近年は成果主義を導入する企業が増え、適切な評価が欠かせなくなっています。
公平感のある人事評価とするためには、評価項目や評価基準、評価者、評価結果などの評価の内容が公開されていること、評価プロセスに透明性があることが大事になります。
具体的な評価基準を設けることで、従業員が優先的に身に付ける能力は何なのか、どうすれば活躍できるのか、進むべき方向性はどこなのかが明確になります。その結果、従業員は自主的に行動できるようになり、モチベーションの向上にもつながります。
そして上司や先輩などから丁寧なフィードバックが行われる体制を構築することで、人材育成へとつながるでしょう。
何を評価するかは、企業が重視する価値観、方向性そのものです。人事評価の項目を見れば、会社が社員に何を求めているのか分かるといっても過言ではありません。
つまり人事評価の項目や基準を明確化することは、従業員に会社の方向性を示し、足並みを揃えることにもつながります。そして人事評価におけるフィードバックの積み重ねが企業文化を作っていくのです。
書籍「人事評価の教科書(高原暢恭・著)」によると、人事評価の主な対象は、「業績(成果)」「能力」「情意(態度)」の3つです。
(「人事評価の教科書」を参考に弊社で図を作成)
業績(成果)評価とは、景気の良し悪しなどの外部要因を考慮せず、従業員本人が生み出した成果そのものの評価です。企業経営という観点から欠かせないのが業績ですから、この点が個人の評価につながるのは理解できるでしょう。
一方で、外的要因を全く考慮しないとなると、納得性が薄れるのも事実。そこでポイントになってくるのが、「能力評価」と「情意(態度)評価」です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
仕事の結果を評価するのが「業績評価」です。売上や利益といった営業数値そのものや、目標に対しての達成度などを評価します。目標は、期首やプロジェクト開始時など区切りのタイミングで、従業員の等級に応じて設定するケースが多いです。
営業職の場合は、こうした数値目標を追うイメージがつきやすいと思いますが、近年は成果主義を導入する企業が増え、営業職以外でも業績評価が適用されるようになってきました。
例えば、経理や人事、法務など目標の数値化が難しいとされてきた間接部門では、業務改善やミス削減、通常業務の出来栄えなどが評価項目となります。管理職の場合は、人事育成での成果なども評価項目になるでしょう。
能力評価とは、どこまで能力を発揮したか、どこまで能力が獲得できたかを評価します。成果主義を導入している企業では、持っている知識そのものよりも、持っている知識を活用してどこまで能力を発揮したかを評価する傾向にあります。ここでは成果には着目されません。職種によっては、資格の有無が影響することもあります。
仕事に対する姿勢や意欲を評価するのに用いられるのが「情意評価」です。ただ、意欲などは目に見えないため測りにくいもの。そこで注目されるのが「行動」です。仕事への積極性や協調性、勤務態度、マナー・モラルなど観察できる行動をもとに「情意評価」を行います。
行動を評価する方法としてよく知られているのが「コンピテンシー」です。コンピテンシー評価とは、高業績者の行動特性をまとめ、それをもとに行う評価手法のことです。
次に、「業績評価」「能力評価」「情意評価」それぞれの評価項目には、どのようなものがあるのか、書籍「人事評価の教科書」を参考にご紹介します。
業績評価項目の具体例としては、次のようなものがあり、「期限(いつまでに)」「行動目標(何を)」「成果」の3点をセットに決めます。
能力評価項目の具体例としては、次のようなものがあります。
情意評価項目の具体例としては、次のようなものがあります。
近年は、上記に加えて会社の職務遂行にかかわるコアバリュー(社訓など)をいくつかの要素に分けて評価するスタイルも増えています。
人事評価の項目を決める際に注意する点やポイントを「図解でわかる!戦略的人事制度のつくりかた」を参考に解説します。
前述した通り人事評価制度は、等級制度、報酬などと密接な関係があり、社員の行動と戦略とをつなげる役割があります。例えば、新しい戦略を実現させたいと考えたら、社員は行動や態度、考え方の変容が求められ、その変容を促すための一つの「仕掛け」になるのが人事評価制度です。
人事評価項目を設定する際は、経営戦略と同じ方向を向いているか確認しましょう。
また誰にとっても理解できる分かりやすいものになっていないと、従業員に伝わりません。分かりやすさにも注力したいですね。
従業員の立場によって求められる成果やスキルは変わってきます。このため、すべての等級についてしっかりと等級定義がされていない場合は、等級定義を定めてから人事評価項目の設計に入ることが大事です。
そして等級定義と照らし合わせて、各等級ごとに「評価される項目は何か」「標準とみなされる行動は何か」を決めていきます。
評価内容に公平性が保たれているかも複数人で確認したほうがいいでしょう。
評価項目は、現在の状態だけで決めるのではなく、5年後、10年後といった将来を見越し、目標とする人材像を育てられるような内容にすることも重要です。少し先の目標を明確化することで、従業員は実現に向けて何をすべきかが見え、目標に向かえるでしょう。
評価項目を増やしすぎると、評価する管理者も従業員一人ひとりも、負担が増えてしまいます。また数が増えることで、一つひとつの濃度が薄まり、大事なポイントが分かりにくくなってしまいます。評価項目の数は厳選することが大事です。
企業は、事業の拡大縮小、従業員の増減など、日々姿を変えています。人事評価項目と企業の方針は合っているのが望ましいため、人事評価項目は一度作ったら終わりではなく、定期的に見直しを行いましょう。
評価基準、評価項目などが記載された「人事評価シート」。このシートに従業員一人ひとりに設定された目標に対しての実績を記載します。
人事評価シートを作成する際に、非常に参考になるのが厚生労働省が公開している「職業能力評価基準」です。仕事を行うために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」が業種別、職種・職務別に整理されています。
職業能力評価基準では、仕事内容を「職種」→「職務」→「能力ユニット」→「能力細目」と細分化し、成果につながる行動例を「職務遂行のための基準」、職務の遂行に求められる知識を「必要な知識」として整理・体系化されています。
初めて人事評価シートを作成する場合は、「職業能力評価基準」をダウンロードして、自社の実情に合うようにカスタマイズする形で準備するのがおすすめです。
職種別にどのような人事評価項目にするといいのか、具体例を紹介します。目標を決める際の参考にしていただければ幸いです。
営業職(販売職も含む)は、業績が数値化しやすいので、比較的、人事評価項目を決めやすい職種です。
営業職をはじめとした他の職種と比べて、目標を数値化しにくく、ルーティンワークが多いのが事務職です。それでも、できる限り以下の例のように目標を明確化して数値化することを心掛けるといいでしょう。
技術職は、プロジェクト単位で進めることが多いのが特徴です。このためプロジェクトの成果と個人成果、マネジメント力や協調性、専門知識、顧客対応力などが評価の対象となってきます。
看護師や介護士などの人事評価項目は、病院などの業績とは連動しないケースも多いです。患者さんやご家族への配慮など、事務職と同様に数値化しにくい項目もありますが、できる限り数値化できる形で設定するのがいいでしょう。
管理職に求められるのは、企業成長への貢献です。結果を出せているか、仕事の管理は適切か、人材育成に貢献できているか、部下との信頼関係を築けているかなどの視点で人事評価項目を考えます。
人事評価制度は、適切に運用することで、人材の育成を促し、企業の業績向上へとつながります。そのために重要になってくるのが評価フィードバックです。この評価フィードバックについて「図解でわかる!戦略的人事制度のつくりかた」を参考に解説します。
評価フィードバックの機能は主に次の4つです。
この中で人事評価の各項目を高めるために特にポイントになってくるのが2と3です。成功と失敗の要因を評価者と従業員が一緒に解明し、今後のチャレンジ方向を確認します。そして次の目標設定の方向性について共通認識をつくっていくのです。
良い形で評価フィードバックを行うためには、評価者の事前準備が欠かせません。最低でも話し合いをするための題材と今後の指導方針の準備をしておいたほうがいいでしょう。
スキル面やマインド面での強化が必要な場合は、eラーニングを上手に活用するのがおすすめです。新人研修のときに学んでもらったコンテンツを再度見直してもらうなども有効でしょう。実務を経験した後に確認することでより深く理解できるものです。
また評価者自身が人事評価の理論を学び、自社の人事評価制度がどうなっているのか、人事評価制度を実際にどう適用するのかなど、制度そのものへの理解も必要です。
人事評価者訓練(人事評価者研修)は、「目標を設定する訓練」「評価事実の把握訓練」「評価要素の選択訓練」「評価尺度の選択訓練」「育成課題の設定およびフィードバックの訓練」などがあります。しっかりとした研修が必要で、時間的な負担も大きいので、理論やケーススタディなどはeラーニングを上手に組み合わせて実施するのがおすすめです。
企業の事業運営を円滑に行うための人材マネジメントのひとつが人事評価制度。この人事評価制度は、経営戦略と同じ方向を向いている必要があるため、自社独自の内容となります。一方で、全て一から作るのも難しいため、厚生労働省が推奨している「職業能力評価基準」などをベースにして作り始めるのがいいでしょう。
その上で、運用しながら改善を繰り返していくことで、より自社に合う人事評価制度を作成できます。
人事評価の手順や書き方を小冊子で詳しく解説しています。業種別の人事評価シート例もございますので、ぜひ参考にしてください。