1年に一度、半年に一度行われる人事評価。そして、人事評価を行う際は必ず目標設定を行うものですが、新入社員に限らず「何度やっても書き方がわからない」「目標が思いつかない」と悩む方が少なくありません。
そこで今回は、人事評価における目標の決め方、書き方について解説します。
抑えておくべきポイントや、職種別の例文などもご紹介しますので、目標が思いつかないとお悩みの方はぜひ最後までご覧ください。
なお、目標設定例のポイントは以下の小冊子でも詳しく解説しています。
人事評価とは、従業員の成長や能力、成果を評価する制度。賞与・昇格・昇給を決める際に用いられるもので、一般的には半年~1年ごとに行われます。従業員の成長促進や、モチベーションの向上、職場の活性化が主な目的です。
しかし、従業員の頑張りを表す指標がなければ、適切に評価することができません。評価者の主観的で曖昧な評価では、不公平が生まれてしまいます。そこで活用されるのが「目標」です。
期のはじめに目標を立て、終わりに振り返りを行うことで、「どれほど成長することができたのか」「何をどの程度まで成し遂げることができたのか」が明らかになります。事実をもとに、客観的な視点で成果・成長・能力を把握することができるのです。
また、ゴールを定めることで、今身につけるべき知識・スキルを知ることができます。そのほか「注力すべき業務の方向性が定まる」「自分の役割を認識できる」など、目標を設定するだけでも価値があるのです。
このように、目標設定は従業員および会社に大きな利益をもたらすもの。そのため、業種問わず多くの企業が目標管理制度に力を入れているのです。
■参考記事はこちら
人事評価制度とは?目標設定するための項目や基準の作り方を事例を交えてわかりやすく解説!
目標設定手法にはさまざまな種類があります。それぞれ特徴があり、状況や目的に合わせて適切な手法を選ぶことが大切です。
ここでは、代表的な3つの目標設定手法をご紹介します。自社に適した方法を見極められるよう、特徴を抑えておきましょう。
「KPI」は、Key Performance Indicatorの頭文字をとった言葉。日本語では「重要業績評価指標」と呼ばれるもので、業務が適切に行われているか確認するための指標です。
KPIは、「重要目標達成指標」通称「KGI」とセットで使われるのが一般的。
KGIには、企業が掲げる目標、経営目標を設定します。その目標に達することができたか、期末までにあとどれほどで達成できるのかを見定めるため、目安として設定されるのがKPIです。
人事評価における目標設定にてKGI・KPIを用いる場合、KGIは経営者や経営陣など、主に会社のトップが決めます。そして、その目標の指標として設定したKPIに、各部署の目標を当てはめます。各部署・チームが目標を達成することで、会社の目標も達成できるという仕組みです。
上層部から各部署・チームへ、そして従業員個人へと、階層が高い順に目標を決めていく「トップダウン形式」で行われます。会社の企業が取り組むべき課題を全社員が認識できるのが、KPIを人事評価の目標設定手法として採用するメリットです。
OKRは「Objectives&Key Results」の略。Objectivesは「目標」を、Key Resultsは「主な結果」を意味します。
企業に大きな変化を起こしたいとき、大きく成長したいときに使われる目標設定手法。Objectivesに、達成率70%前後になるような難易度の高い目標を設定し、会社の飛躍的な成長を促します。
Key Resultsは、Objectivesを達成した際に実現される結果のこと。進捗を把握する際の指標となるもので、先に紹介したKPIと似た性質を持ちます。
基本的には、会社のOKRをもとに部門・部署のOKRを決め、部門・部署のOKRをもとに個人のOKRを決める、というトップダウン形式で設定します。ですが、ボトムアップ形式で進めたり、トップダウンとボトムダウンを組み合わせて進めたりなど、組み立て方はさまざまです。
ハードルの高い目標を立てるOKRでは、期末に目標未達成となることが珍しくありません。むしろ、未達成となる目標こそが、適切な難易度であると認められます。
しかし、目標未達成の状態で社員を評価するとなると、合格ラインを決めることが難しく、評価結果が曖昧になりがちです。賞与や昇給を決める基準がブレやすいため、人事評価を決める手法としては、あまり向いていないと言われています。
もちろん採用される場合もありますが、その他の目標設定手法と並行して行われることが多いです。
引用元:「人事評価制度と目標管理の実態調査 調査結果」パーソル総合研究所)
MBOは「Management by Objectives」の頭文字をとった用語で、日本では「目標管理制度」と呼ばれています。パーソル総合研究所の調査結果にもあるように、目標管理に最も多く取り入れているポピュラーな手法です。
人事評価におけるMBOは、目標達成率100%を超えると「成功」、下回ると「失敗」と見なします。「できた」「できなかった」の基準が明確で、成果と能力を客観的に判断することができるため、人事評価と相性が良いでしょう。
またMBOでは、KPIと違って基本的に「ボトムアップ形式」で目標を設定します。自ら目標を立ててもらうことで、自主性を育てる狙いです。
ただし、ボトムアップ形式で決めると、個人の立てた目標が会社のビジョンとズレたものになる恐れがあります。企業の目標を十分に周知させる、個人的な目標と分けて設定するなどの対策が必要です。
目標を設定しても、いまいち従業員の成長を促せない、モチベーションアップの効果が表れないと悩む企業が少なくありません。パーソル総合研究所が行った調査によると、企業が抱える目標設定時の課題として、以下のような項目が挙げられています。
(引用元:「人事評価制度と目標管理の実態調査 調査結果」パーソル総合研究所)
数多くの課題が挙げられるなか、ここでは上位にランクインした5点をご紹介します。なぜ目標設定がうまくいかないのか、原因を探るためにもよくある課題について見ておきましょう。
営業やマーケティングなど、成果が企業の経営に直結する仕事は、比較的目標が立てやすいです。売上額や利益率の向上を目指し、そのままそれらを目標に設定することができます。
一方、事務職や管理業務など、業績を左右する部門・部署をサポートする仕事は、前者に比べて目標を立てにくいと言われるジャンル。「高みを目指す」というより「円滑に業務をまわす」「正確に行う」ことが重視されるため、目標がハッキリとしないのです。
よって、これらの部門・部署に所属する従業員は、目標がうまく立てられないと悩んでしまうのでしょう。
目標記入シートや人事評価シートは、階層問わず全社共通で同じ形式のものを使うのが一般的。しかし枠組みが同じでも、記入する社員はそれぞれ価値観も経験も違います。そのため、記載方法がばらつきがちです。
記載方法がバラバラだと、評価をつけにくくなります。言葉足らずで、本人の意図と異なる意味で捉えられる可能性があるのです。また、単純に内容が複雑すぎて読みにくい、といった問題もあります。
よって企業で目標設定を行う際は、ルールや制度だけでなく、書き方も事前に決めておくことが大切です。
定量化とは、数字で物事を表すこと。具体的な数字を使って目標を書くことで、基準が明確になり、進捗確認や評価の際に役立ちます。そのため目標を設定する際は、なるべく定量化するようにと指示されることが多いです。
しかし、業務内容によっては定量化が難しいことも。特に事務職、バックオフィス職などのような目標が立てにくい職種は、目標の数値化にも苦戦するでしょう。
とはいえ、漠然とした目標では成長が見込めません。「できた」「できなかった」の判断もできなくなってしまうため、数字を使う方法以外で、具体的に目標を記す必要があります。
目標設定は、現状の課題点や、前期の人事評価で発見された課題点を改善するために行うもの。課題を克服して業務改善へとつなげることは、企業を運営する上で重要なことです。
しかし、それだけでは足りないのが事実。マイナスをゼロにするだけ、ノルマをクリアするだけでは成長は止まってしまいます。日々変化し続ける経済環境に揉まれ、次第にライバル企業に出し抜かれていくことでしょう。
また、厳しい環境下で企業が生き残っていくためには、新しいことにチャレンジすることも大切。ところが、問題点を解決するのみの保守的な目標設定は、そのチャンスを奪ってしまうのです。
従業員が設定する目標に創造性がないと、企業全体のクリエイティブ性も失われるもの。よって、課題点を改善する目標に加え、チャレンジングな目標の設定も必要と考えられます。
目標設定を行う際は、つい今期のことばかりに注目してしまいがち。今見えている課題を克服しようとすればするほど、視野が狭くなってしまいます。
しかし、従業員のキャリアも企業の運営も、その後続いていくものです。現状を把握して改善することも大切ですが、計画的かつ効率よく成長し続けるためには、長期的なミッションも頭に入れておく必要があります。
目標設定は、そんな企業と従業員にとっての道しるべです。「長期的なビジョン・目標を達成するための今期の目標」と、位置づけを理解することが重要と言えます。
では、目標を設定する際はどのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。主な5つのポイントについて解説していきます。
企業・組織の目標と、個人の目標を独立させる場合もありますが、基本的には連動させるもの。個人が目標を達成することで、部署そして企業の目標も達成でき、結果会社の利益になるというシステムが理想です。
そのような目標設定を実現するには、以下のようなステップを踏む必要があります。
会社や部門など、上の階層が掲げるビジョンをまず知り、そこから自分の役割、目標を考えるという流れです。これは「ボトムアップ形式」で行うMBO手法でも同じで、会社や部門のビジョン・ミッションを知ってから、個人の目標を立てます。
また、短期的な目標ばかりに偏らないよう、中長期的な計画を理解した上で今期の目標を考えましょう。
このような流れで目標を立てるためには、会社の上層部、部門・部署の責任者から社員に向けて、きちんと説明しておくことが大切です。特に新入社員は、職場や自分の役割を考えることさえも苦戦してしまうので、上司からサポートしたり、職場で話し合ったりするようにしましょう。
「課題を解決するだけ」の保守的な目標設定を避けるには、目標の難易度を適切に調整することも重要です。少し頑張れば達成できるような、”ちょっと背伸びした目標”を立てるのがポイント。
『目標管理の教科書』という書籍の中で、著者の五十嵐英憲氏は、難易度の目安について以下のように述べています。
目標設定時点で、達成手段が60%〜70%程度見えている状態を創り出すことが大切だ。
(引用元:「五十嵐英憲(2012)『目標管理の教科書』ダイヤモンド社」)
達成手段の候補を複数挙げることができるならば、それは適切な難易度の目標と言えます。
反対に、どうすれば達成できるのか全くわからないような目標は、ハードルが高すぎると考えられます。
難しすぎず簡単すぎず、達成できそうな”予感”がする目標設定を意識しましょう。
目標は、達成・未達成を判断しやすくするため、定量的に書くことが前提です。売上げ額や利益率、客単価、作業時間など可能な限り数字を使って目標を設定しましょう。
また、人事評価における目標は第三者も閲覧するため、誰が見てもわかるように書くことも大切。「〇〇までに△△を××する」というように、期限も含めて記入するとより具体的になります。
目標を立てても、達成に向けて行動できなければ意味がありません。そのため、日常業務の中で意識できるような目標を設定することが大切です。
例えば、生産工場の作業員が「生産量前年比120%超え」という目標を立てても、なかなかピンとこないもの。生産量がどのくらい増えたのか、達成までどれほど足りていないのか、進捗も確認しにくいでしょう。
反対に「月間の生産数〇〇点以上」「〇〇の作業時間を△△分短縮」というような目標は、日常業務に結びつけやすく有効と言えます。定量化する際は、本当にその数字が目標管理に役立つのか確認しましょう。
多くの人が抱えている、目標を定量化できないという問題。こちらは「目指したい姿・状態」で書き表すことができます。
「どのような状態になっていれば達成とするのか」と条件を提示することで、評価がつけやすくなります。その状態になったので高評価、条件に満たなかったので低評価と理由がハッキリするため、評価者も被評価者も結果に納得できるでしょう。
また、代わりに定量化できる項目を見つけだすのもコツ。売上げや利益と直接関係ない目標を設定する際は、作業時間、ミスの回数などがよく基準の数値として活用されます。
新しい取り組みにチャレンジするときは、過去のデータがないため、定量化しても曖昧になりがち。
推測で数値を当てはめても意味がないため、その場合は納期を目標基準とするのがおすすめです。そうすることで「期限内に実現できた・実現できていない」と、公平に判断することができます。
それではいよいよ、目標設定の具体例を職種別にご紹介します。定量化に役立つ項目の例も挙げていますので「目標が思いつかない」とお悩みの方は、ぜひお役立てください。
営業職は、売上げや利益率など定量化しやすい項目の多い職種。何をして達成するのか、行動目標も設定するとより具体性が増します。ただし、達成手段を制限せず、柔軟な行動を求める場合は、あえて行動目標を書かないのも良いでしょう。
マーケティング職も営業職と同様、目標を定量化しやすい職種。行動目標も数値で表し、具体的に記載しましょう。
事務職は、目標の定量化が難しいと言われる分野。売上げの向上ではなく、正確さと効率化が求められる職種です。そのため、目標設定には作業時間やミスの回数、経費などを基準として用いると良いでしょう。
「バックオフィス系」は、営業部やマーケティング部、企画部などのような「フロントオフィス系」の部署をサポートする役割。
先ほどの事務職と同様、作業時間やミスの発生件数、経費などを数値化して目標に設定することができます。また、棚卸差異率、離職率や定着率などの数値も、バックオフィス系職の目標立てに役立つでしょう。
技術職は、商品を生産するメーカー系とIT系の2種類に分けられますが、いずれも効率性と正確性が求められる仕事。
作業時間、ミス・バグの発生件数、生産量などを用いて定量化することができます。また顧客満足度に関する調査や、製品分析などで得られるデータなども、目標の目安として役立つでしょう。
接客や在庫管理、宣伝、店舗の環境整備など、仕事内容の幅が広いサービス系職。営業職やマーケティング職のようなフロントオフィス系、管理職のようなバックオフィス系と、さまざまな役割を担っているため、目標設定の内容に合わせて書き方も変える必要があります。
例えば、接客による成果を出すことを目標とするならば、売上額や客数、客単価などが定量化に役立つでしょう。商品管理や事務作業の効率化を目指す場合は、作業時間やミス発生件数などを目安にします。
また、顧客アンケートや店舗チェックリストなどのツールを活用し、評価を数値化することも可能です。これらは目標設定時だけでなく、普段のスタッフ育成や業務改善の分析にも役立つため、導入を検討してみるのも良いでしょう。
医療・介護職が掲げる目標は、所属する部署や勤続年数によって大きく異なります。それに伴い目標の立て方も変わるものですが、定量的・具体的に書くことが重要なのは共通です。
目標管理制度は、そもそも社員の成長を促すために行われるもの。しかし、「面倒」「やっても意味がない」とネガティブな印象を持たれては、実施しても効果が発揮されません。
従業員を成長させる目標管理を行うためには、”やらされ感”をなくすことが大切です。「目標管理は自分を成長させてくれる」「自分の頑張りを認めてくれる」とポジティブなイメージを持ってもらうことができれば、自主性を育てることにもつながるでしょう。
(引用元:「人事評価制度と目標管理の実態調査 調査結果」パーソル総合研究所)
目標管理制度に対するポジティブな印象を与えるには、「上司のマネジメント」と「職場風土」の2要素が欠かせません。
パーソル総合研究所の調査結果を見てみると、上司が聞く姿勢を保つこと、会社や部署のビジョンを共有することは、ポジティブな評価観にプラス効果を与えることがわかります。目標設定時、進捗を確認するとき、評価に関するフィードバックを行うときなど、上司と部下が話し合う際は、これらを意識しましょう。
また、職場風土も評価観を左右する重要なカギです。新しいアイディアを受け入れてくれる雰囲気。失敗しても、次回成果を出せればきちんと評価してくれる職場。共に助け合いながら業務を行うチーム。このような環境をつくることで、目標管理を有効活用してくれる社員が増えると考えられます。
とはいえ、上司のマネジメントも職場風土も、すぐに改善できるものではありません。普段から「評価者研修を実施する」「チームワークを大切にした職場づくり」など、効果的な目標管理のため準備をしておくことが大切です。
目標の設定、管理、評価、フィードバックと、目標管理には時間も労力もかかります。それらを無駄にしないためには、最初が肝心。つまり、基準が明確でわかりやすく、かつ適切な難易度の目標を立てることが大切なのです。
書き方に迷ってしまったときは、上司や同僚に相談してみるのも良いでしょう。会話する中で、自分では思いつかなかった表現の仕方や、定量化できる要素が見つかる可能性があります。それでも悩んでしまった際は、今回ご紹介した例文もぜひ参考にしてみてください。
人事評価の手順や書き方を小冊子で詳しく解説しています。業種別の人事評価シート例もございますので、ぜひ参考にしてください。