店舗運営企業では、多様な雇用形態によって多くの従業員が働いています。勤務年数など経験値や習得スキルの違いによって従業員のパフォーマンスにはばらつきが生じていて、ベテラン従業員しかこなせないといった業務の属人化が起きてしまうなど、偏りやムラを課題と感じている店長、マネージャーは多いのではないでしょうか。
売上達成やさらなる売上拡大を目指すためには、従業員がだれでも同じようにパフォーマンスを発揮できるようにスキルの均一化を目指すことが重要です。
人材教育の標準化、また接客のレベル向上や業務の効率化を実現するには、業務の標準化を行うことが効果的です。
今回は、業務標準化とはなにか、目的やメリット・デメリット、業務標準化の進め方やポイントについて解説します。従業員の業務レベルの差が生じることで起きる課題を解決したい、標準化をどのように進めていけば良いか悩む管理職の方々のヒントになればと思います。
石川秀人氏の著書「オフィス業務の生産性改善手法がよ~く分かる本 秀和システム」によると、標準化とは「誰もが同じように成果を挙げられるように業務プロセスを組織的に最適化すること」を指しています。
業務の標準化を行うと業務ごとに進め方・やり方の手順が統一されていて、担当する従業員ごとに手順が変わってしまうことはありません。標準化の一例として工場でマニュアル・手順書を整えて、担当者は記載された作業内容・工程・品質基準などを遵守して業務を進めることが挙げられます。
標準化は業務の属人化の防止や解消に役立ち、その結果として組織は特定の個人に偏って依存することなくチーム全体で効率的に業務を進めていくことが可能になります。
内閣府の「令和4年版高齢社会白書(全体版)」によると、日本において少子化が進み、労働力人口(15~64歳の生産年齢人口)が2020年で7,509万人から2065年には4,529万人になる想定です。人手不足が見込まれる中で企業にとって働き手の確保とともに、喫緊の課題となるのが「業務の効率化」です。
引用:内閣府の「令和4年版高齢社会白書(全体版)」
2018年に公布された「働き方改革」には労働力不足を解消するために、働き手を増やす、出生率を増やすなどが求めれていますが、そのためには課題となっているのが「長時間労働の是正」と「多様で柔軟な働きかたの実現」だとあります。
業務が属人化すると、一人の従業員に負担がかかり、長時間労働を招くことにつながります。長時間労働が続くことで心身に不調をきたしてしまう恐れがありますし、属人化した業務を担っていたひとが休むことで、業務は停滞し、組織全体に損失を与えてしまうことになりかねません。
日本経済団体連合会による労働時間等実態調査によると、職場の長時間労働の要因に「業務の属人化」が挙げられています。
企業は属人化を脱却し、組織全体で業務の質と生産性の向上を図る必要が生じたことから、業務の標準化が求められるようになりました。
業務の標準化は「従業員が誰でも同じ成果を出せる」「品質を均一にする」ことを目的にしています。
「平準化」とは、辞書によると「水平にすること、物事の均一をはかり、でこぼこをなくすこと」とあります。
ビジネスシーンにおける「業務平準化」とは「従業員同士の作業量や業務負担の偏りを無くし、均等・均一化すること」のことを指しています。
厚生労働省の発表した働きかた改革の好事例として「社員に対して残業計画表の提出を義務づけ、残業が60時間を超える場合には追加人員を投入することで業務を計画的に平準化した」ケースが挙げられていますが、このように業務平準化とは従業員間の業務量の偏りをなくすことを指し、負担を均一化することを指しています。従業員間で業務量に偏りがなくなるため、残業時間や有給取得などへの不満を解消することにつながります。
「定型化」とは、辞書によると「もととなる、基準となる型」のことで、ビジネスシーンにおいて、業務における「定型」は、業務改善という意味合いを含んでいます。製品生産を行っている場合であれば、非定型な業務に対して基準となる型をつくり、業務を定型にすることで、効率化を図ることができ、生産効率を上げることができます。
定型的に業務を改善することが出来れば、商品の品質を上げることができます。また、生産性の向上から、コストを下げることができます。また、納期を短縮することもできるようになるのです。このことから、現状にある非定型業務を定型化することが重要なのです。
業務標準化を行うと、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは主なメリットを4つ紹介します。
業務標準化を行うメリットのひとつ目は業務品質が向上することです。業務を標準化することで、誰が行っても同じ品質になるため、仕上がりにばらつきがなくなり安定します。これが全体的な品質向上につながります。
品質が一定になることで顧客からの信頼度や満足度が向上し、結果的に業績を安定させることが可能です。
また、標準化を行ったことで、チーム内でフローやタスクの情報共有ができます。このためだれでも最適な手順で業務を進めることができますし、ミスや漏れに対して気づきやすくなり、ミスを防ぐことができます。
職場で標準化した手順・フローを共有していれば、新入社員や他部署からの移動してきた従業員への指導にも役立ちます。
毎月のように新しい従業員を採用することが珍しくない小売点や飲食店などでは、業務標準化をおこなったことで、効率が良く生み出す成果物の品質も求めるレベルに達していて、安全性にも問題のない手順で教えることができます。
石川氏の書籍によると、業務の標準化とは、できる人の技能・能力(スキル)、知識・知見(ノウハウ)、暗黙知(カン・コツ)、経験値(キャリア)などを共有して組織力を高めて、個人での仕事からチームでの仕事に変えていくことだとあります。
業務の標準化によって、業務の手順を見直し、ムダやムリがあれば排除し、ムラがあれば均一化することで、業務が効率化します。効率化すると、より少ない労力やコストで成果を生み出すことができるので、生産性の向上につながります。
業務の標準化が行われると、従業員は一定のレベル以上の業務スキルを身につけることができるので、組織全体のスキルを底上げすることになります。作業にかかる時間を短縮できるようになると、同じ時間で多くの成果を出すことができたり、違う業務に時間を回すこともできます。業務標準化は、生産性の向上に寄与するといえます。
属人化とは「ある業務が特定の人しかできない状態」のことをいいます。
業務が属人化してしまうと、特定の従業員しかその業務の処理方法を知らないため、その人が病気やケガなどで長期休職となったり、移動や退職があった場合にほかに対応できる人がいない、という事態が起きてしまいます。これによって業務の引継ぎが滞り、会社の信用や利益を失ってしまうことにつながる可能性があります。
また、石川秀人氏の著書によると、属人化は組織全体の業務の質や生産性低下を招くといいます。
属人的な業務の進め方では人によって仕事のやり方や進め方が異なっているため、所要時間や工数にばらつきが生じています。
書籍によると組織には一般的に2:6:2の法則が成り立っていて、
と言われています。できるひとの業務の進め方を全員に共有することで8割のひとのスキルを向上させることで組織全体の力が高まります。
書籍では、できる人の持つスキルやノウハウ、コツ、キャリアを全体で共有して組織力を高めて、個人の業務をチーム全体の業務にすることが標準化のメリットだとしています。
標準化の4つ目のメリットは、部署内や部署間での連携を強化できることです。
石川氏の書籍には、業務の細分化や専門化が進んでいるなかで、人間関係が希薄になっていて、同じ部署内でさえ担当業務が違えば互いに何をやっているのか、その業務内容や進捗状況がまるで把握できていない状況の職場が増えているといいます。
人間関係が希薄な職場では、人同士や部署間で壁ができ、属人化を助長するといいます。また連帯感の欠如や風通しの悪さ、コミュニケーションの低下などが生じて、企業にとって弊害をもたらすことにつながると書籍では述べています。
業務の標準化を進めるなかで業務の可視化を行うことや部署内外において意思疎通を図ることができ、業務に対する認識の共有がしやすくなります。
業務標準化を行うことで生じるデメリットとはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは考えられるデメリット・注意点を3つ挙げました。
業務標準化のデメリット・注意点のひとつめは、標準化が不向きな業務もあることです。
業務の標準化は、業務の品質向上や生産性向上につながるものですが、すべての業務に標準化が適しているということではありません。標準化に適した業務を選択して進めていく必要があります。
たとえば専門性が問われるような業務や高い技術力が求められる業務、難易度が高い業務、センスや感性がとわれるような業務は、多くの従業員がだれでも同じ品質の成果を生み出すことを目指している業務の標準化には適していません。
また、業務内容において変化のスピードが速いものなども標準化には向かないといえます。
標準化によるデメリットの二つ目は従業員のモチベーションが下がってしまう懸念があることです。業務フローやタスクを決められると成果物の均一化が図れますが、一方で創造性に乏しいといえ、業務に創意工夫が反映されないとして面白さが感じられないという人もいます。標準化した業務をあたらせるには、従業員の適性を見定めることも重要です。
また、マニュアル化された業務に慣れていくと、ミスが減るという効果がある一方で、イレギュラーな状況が発生したときに、柔軟に対応できないという従業員も出てくる恐れがあります。
チームで業務における情報を共有して、新たな気づきやアイディア、意見を取り入れながらマニュアルを更新、改善させていく体制をとることで、創意工夫が認められるようにすることや、臨機応変に動けるように、過去のイレギュラー対応事例もマニュアルに加えておくことも重要です。
業務標準化は具体的にどのように進めていけば良いのか、その手順について説明します。
はじめに何を標準化するか、テーマを定常業務(ルーティンワーク)を洗い出します。まずは属人化している「標準化すべき業務」を洗い出して、いつ、どこで、誰が、どのように業務を遂行しているのかを業務棚卸で明らかにします。
業務棚卸は業務を大項目→中項目→小項目に分けてだれがどれほどの工数・時間をかけて作業するのかを一覧表にして、そこから標準化すべき定常業務を絞り込みます。
業務棚卸を行ったのち、つぎは標準化すべき業務を選定します。まずは属人化されている、複数の人にまたがって品質のバラつきが大きな定常業務を優先的に選びます。
石川氏の著書では、標準化を優先して進める例として以下のような定常業務を挙げています。
また、著書ではパレードの法則から、標準化を優先させる業務を選定するやり方もあることを紹介しています。
パレートの法則とは、20%の労力をかけたものが80%の成果を生む、というものです。労力と成果のバランスをもって、成果が出やすいところからスタートすることで標準化による成功を実感しやすくなります。また、標準化を進めるモチベーションの維持にもつながります。
ひとつの業務を完結させるまでには、たくさんの作業工程があります。個人で完結する作業もあれば、他部署をまたいで業務の加工や確認・承認などを加えるものまで多様な種類があります。
まずは優先して標準化を進める業務について、作業の流れを明らかにします。
部署を超えて行う業務であれば各個人が書き出した作業内容をお互いに持ち寄り、合体させます。
複数人で同じ業務を行っている場合は、それぞれの人の書き出した業務内容を統合することで、各人によるばらつきをなくすことができます。
業務内容を整理したら、フローに落とし込みます。フローチャートは縦に時間軸をとり、業務におけるリードタイムや工数がわかるようにします。
フローチャートができたら、最適な手順になっているか、二度手間になっている部分や無駄な工程などがないかを確認します。
など、見直します。
必要に応じてITツールなども導入して、効率的な方法を探ることが大切です。
ムラやムダを排除してフローを整理し、誰が行っても正しく・早く・楽に・安全にできる一番良いやり方、つまり業務の最適化ができたら、次は手順書・マニュアルに落とし込みます。
マニュアルは1業務1件で作成していくので、業務数が多ければそれだけに負荷がかかります。マニュアル作成をむずかしいものにすると、結局完成することはなく、業務標準化が頓挫してしまうこともあります。
石川氏の書籍では、マニュアルとして、簡単なプロセスマップを作成することを勧めています。プロセスマップ型のマニュアルは、基本となる項目を枠組みにして1枚でまとめるフォームをつくり、手順を順番に書き入れていくものです。手順を書き入れたら、先輩のもつ知恵やコツ、注意点なども加えていきます。
また、タブレットやPCでマニュアルを確認するので、画像や動画などを活用して視覚的にわかるマニュアルにすること、いつでも誰でも閲覧できるような状態で保存しておくことも大切だと言及しています。
石川氏の書籍ではSDCAをまわして業務標準化を継続していくことが大切だとあります。
SDCAとは、
というものです。
マニュアル作成が完成すると業務標準化が完了したように感じますが、実際にマニュアルを用いて業務に取り組んだときにはじめて問題点や改善点に気づく場合があります。
マニュアルが完成したのでその通りに業務を進めればよい、ということではありません。マニュアル作成時には想定できていなかったトラブルや思わぬアクシデントが発生することもあります。業務を標準化したあとも、現場の従業員の意見を拾いながら、作成したマニュアルの内容を適時ブラッシュアップしていくことが大切です。
石川秀人著「オフィス業務の生産性改善手法がよ~く分かる本 秀和システム」を参考に弊社で作成
業務標準化を推進していくための具体的な方法を3つ紹介します。自社にとって適した方法はなにかを考える参考になればと思います。
組業務の標準化を推進していくためのひとつ目の方法は、小さく始めることです。
石川秀人氏の書籍には、いきなり全社一斉に広げたり、難しい挑戦目標を掲げてもたいていうまくいかないとあります。まずはモデル職場を決めて取り組みやすいテーマから始めて、それがうまくいけば横展開していきます。誰がリーダーか、何をするのかといった体制と役割を明確にして、改善の基盤を構築しながら少しずつステップアップしていくことがうまくいく方法だとしています。
ひとつ成功事例をつくることで、社内の業務標準化へのモチベーションも上がります。
標準化を推進する方法として、業務改善コンサルティングを導入することもひとつです。
業務標準化を行うには業務を特定し、業務の洗い出し、業務分析と整理、標準となるフローの策定、マニュアルへの落とし込みなどを行い、これを実践してうまく回るかをテスト運用、修正が必要な個所は改善と実践を繰り返します。
標準化のためには、やるべき多数の項目が挙げられますが、通常業務優先だ、と忙しさを理由に取り掛かれないでいると標準化を進めることはできません。
また、自分たちが担っている業務とはいえ、自ら課題をうまく捉えることは難しいものです。外から客観視することで見えてくることもあります。業務標準化を進めるためにコンサルタントの力を借りることも1つの方法です。
状況に応じてツールの導入を検討することもひとつです。
いまは業務のDX化が活況となっています。ツールの導入によって手間を減らし、業務効率化を進めることができます。
マニュアルのデジタル化が実現すれば、内容を更新してもいつでも最新の内容を確認することができますし、紙マニュアルのように印刷したものがどこにあるか見つからないということもなくなります。
期間限定で開催するキャンペーンなどの連絡も伝え忘れることもなくなり、従業員全員が共有できます。
流通小売業や飲食業など多くの従業員を抱える職場においては、業務標準化を実現し従業員スキルの均一化や各従業員のパフォーマンス向上が求められます。業務標準化を実現するためにはどのような運用ポイントがあるのでしょうか。
業務標準化の運用には、従業員の習熟レベルを一元化することがポイントになります。
業務標準化を実現するためには従業員のスキルを平準化して、だれでも求めるレベルのパフォーマンスを発揮できるようになることが必須となります。そのためには従業員が学びやすい環境を整える必要があります。
従業員はいつでも空いている時間を利用して学ぶことができて、その理解度を計るチェックテストやクイズを通して従業員は理解を深めることができます。また、管理側は従業員の理解度・習熟度の管理を一元化することができます。
マニュアルやコンテンツの更新を効率的に実施することも業務標準化の実現には大切なポイントです。
デジタル化が進む中、環境の変化のスピードに対応した体制を整えておく必要があります。
たとえばマニュアルやノウハウなどのさまざまなコンテンツを、簡単に更新できるような体制にしておくことで、店頭での決済方法や販促内容の変更などに対応するには、スピードをもってマニュアル更新が実施できます。
従業員と管理側のコミュニケーションを円滑にすることが、業務標準化を推進するための運用ポイントです。
管理者と従業員が離れた場所にいると、コミュニケーションを取ることも難しい場合があります。
店舗にいる従業員と本部にいる管理者間で日々の業務について報告や質問ができるとコミュニケーションは活発になります。このため、従業員の日報の提出とそのチェック・コメント回答がスムーズに行われる体制をつくることが大切です。
業務の標準化は、誰もが無理なくムラのない均一のパフォーマンスを可能にする有効な手段です。
業務標準化を効率的に進めていくには、状況に応じてツールの導入を検討することも1つの方法です。
AI技術の導入が進み、職場でのオペレーションが日々変化しています。時代の変化に対応したマニュアルや教育コンテンツの更新や従業員と管理側の結びつきを強くする教育ツールの導入は、更新された情報の共有や従業員の習熟度の可視化、従業員と管理側のコミュニケーションの円滑化につながり、業務効率化に役立つといえます。
業務標準化の推進のために専用ツールの導入も検討してみると良いでしょう。