従業員の能力アップに欠かせない「社員研修」。人材育成の一環として、数多くの企業で行われているものです。
しかし「研修を行っても効果がない」「従業員の行動が変わらない」と悩んでいる教育担当者、人事部の方が少なくありません。急に社員研修の責任者を任されて、やり方がわからず戸惑っている人もいるでしょう。
そこで今回は、流通小売業における社員研修について解説します。
社員研修の意味や目的といった基本的なことから、教えるべき内容、オンライン研修の取り組み方など実用性の高い情報もお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。
「研修」を辞書で調べてみると、以下のように記載されています。
職務上必要とされる知識や技能を高めるために、ある期間特別に勉強や実習をすること。また、そのために行われる講習。
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
つまり社員研修とは、業務を行う上で必要な知識・スキルを習得させ、社員の能力を高めることを言います。
新入社員に向けた研修や、キャリアアップのための研修など、社員研修にはいくつか種類があります。また、大人数で行う集合型、1対1で行う「OJT」とスタイルもさまざまです。
「こうすれば必ず成功する」という決められたパターンはなく、目的やシチュエーションに合わせた内容、手法で行うことが大切です。そのためには、どのような研修が適切なのかを見極められるようにならなくてはなりません。
本記事にて研修の種類やそれぞれのメリット、デメリットをご紹介していきますので、見極めに迷った際はぜひ参考にしてください。
企業で当たり前のように行われている社員研修ですが、そもそもなぜ実施すべきなのでしょうか。社員研修の目的は主に以下の4つです。詳しく見ていきましょう。
企業を支える経営者も、いつかは引退してしまいます。引退後も変わらない業績を生み出すには、引き継ぐことのできる人材が必要です。
しかし現在日本には、経営者になりたいと思う人が少ないと言われています。
(引用元:「高校生の生活と意識に関する調査報告書ー日本・米国・中国・韓国の比較ー」独立行政法人 国立青少年教育振興機構)
国立青少年教育振興機構が2015年に行った調査によると、「高い社会的地位につきたい」と強く思う高校生の割合は、2014年時点でわずか12.3%。米国、中国、韓国と比べて最も低いことから、経営者などのリーダー的存在になりたいと考える若い世代は非常に少ないことがわかります。
よって、自社の従業員に「上昇志向」を芽生えさせるには、企業が働きかけなければなりません。研修は、そのための取り組みのひとつです。
また次期経営者候補は、経営者としての知識や能力を身につけておく必要があります。
前任の経営者が引退した際、知識・スキルが全くない状態では、企業を統率して引っ張っていくことができません。経験豊富な人材を外部から採用する方法もありますが、自社で長年働いてきた人ほどの会社への愛着や情熱、理解度は望めないでしょう。
このような背景から、経営者向けの研修を実施することが多々あります。社員研修は、現在抱えている問題を解決するだけでなく、会社の未来に向けた準備としての役割も担っているのです。
企業が生産性を高く保ち、成長し続けるには、モチベーションの高い従業員を増やすことが大切。しかし、社員全員が意欲的に働いてくれるとは限りません。
(引用元:「西川秀二(2009)『これからの企業内研修のあり方』三菱UFJリサーチ&コンサルティング」)
西川秀二氏(以下西川氏)の論説『これからの企業内研修のあり方』によると、仕事に対して「非常に意欲的」「普通に意欲的」な従業員の割合は、日本では59%とあります。「非常に意欲的」な従業員の割合はわずか2%で、他の国々と比べて非常に低い数値です。
その原因として、西川氏は以下の4点を挙げています。
研修は、これらの問題を解決する有効な手段のひとつ。
例えば、研修を積極的に行うことで、従業員同士のコミュニケーションを増やすことができます。なかでも教育担当者と社員が1対1で行うOJTは、人間関係の構築に役立ち、双方の意欲向上に貢献するでしょう。また、従業員の疲労軽減のための業務改善方法や、目標管理方法なども、研修を通して学ぶことができます。
社員の意欲低下は、離職増加を引き起こす恐れもあるので、企業は研修を行ってモチベーションを向上させる必要があるのです。
従業員のマネジメントを行ったり、教育を行ったりする管理職。組織のフラット化が進んでいる今、管理職の負担がより大きくなっていると言われています。
西川氏は、当論説にて以下のように述べています。
労務管理やメンタルヘルス、コンプライアンスへの対応業務に加え、若年者の早期離職にともなう人材の枯渇(教えて一人前になったらすぐ辞める)等が、プレイングマネージャーである管理職の背中に重くのしかかっている。
(引用元:「西川秀二(2009)『これからの企業内研修のあり方』三菱UFJリサーチ&コンサルティング」)
管理職の負担を軽減するには、社員全体の能力を高める必要があります。そのようなときに活用されるのが社員研修です。対応できる業務の幅が広く、自ら問題を解決できる優秀な社員が増えることにより、管理職が抱える精神的・肉体的な負担を減らせるのです。
また、管理職に就く従業員のスキルアップも、負担軽減につながります。
バブル崩壊後に採用された今の30代~40代前半の社員は、部下後輩を持つ機会が乏しかったため、OJTを職場で同推進すればよいのかが分からず、若手社員の指導育成に困惑している。
(引用元:「西川秀二(2009)『これからの企業内研修のあり方』三菱UFJリサーチ&コンサルティング」)
内田氏が上記のように述べているように、教育方法やマネジメント方法に困惑している管理職は少なくありません。効率の良いやり方がわからないと失敗も多く、無駄な労力を消費してしまいます。
よって、管理者が知識とスキルを習得することのできる、社員研修が必要なのです。負担が軽減されれば、管理者は本来の能力を発揮でき、組織の生産性アップへとつながるでしょう。
少子化の影響もあって、現在日本の多くの企業が人材不足問題に悩まされています。採用を試みてもうまくいかず、雇ってもすぐに辞めてしまい常に人手不足......といったケースが少なくありません。
そのため企業は、定着率の向上に努める必要があります。社員研修はその対策のひとつです。
(引用元:「西川秀二(2009)『これからの企業内研修のあり方』三菱UFJリサーチ&コンサルティング」)
西川氏の論説にあるデータを見てみると、社員の定着率を高めるための施策として「教育研修制度の充実」が挙げられています。「かなり効果がある」「ある程度効果がある」と評価された割合が2番目に高いという結果です。
研修を行って知識や能力を身につけると、従業員は生産性の高い仕事ができるようになります。それが社員の自信になり、「ここで働けば自分は成長できる」という安心感をもたらすのです。
特に若年層は、仕事に対する充実感を求めていると言われています。
(引用元:「2021年 新入社員意識調査」リクルートマネジメント ソリューションズ)
リクルートマネジメント ソリューションズが行った調査によると、仕事をする上で重視することは「貢献」と「成長」が上位に挙げられています。
つまり従業員の成長を促し、会社への貢献度を高める社員研修は、従業員の意欲向上が期待できるということ。そして、定着率アップにつながると言えます。
現在、日本の企業で主に行われている社員研修の種類は、「OJT」「Off-JT」「自己啓発」の3つ。社員研修の傾向について確認する前に、それらの意味を把握しておきましょう。
厚生労働省発行の「令和2年度『能力開発基本調査』」にて、OJTとOff-JT、自己啓発にはそれぞれ以下のように定義されています。
OJT
日常の業務につきながら行われる教育訓練
(引用元:「令和2年度『能力開発基本調査』」厚生労働省」)
Off-JT
業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(研修)のこと
(引用元:「令和2年度『能力開発基本調査 用語の説明』」厚生労働省)
自己啓発
労働者が職業生活を継続するために行う、職業に関する能力を自発的に開発し、向上させるための活動
(引用元:「令和2年度『能力開発基本調査 用語の説明』」厚生労働省)
これを踏まえて、まずは社員研修への支出状況について見ていきましょう。
(引用元:「令和2年度『能力開発基本調査』の結果」厚生労働省)
2020年度の調査における社員研修への費用の支出状況を見てみると、「Off-JT」や「自己啓発支援」、もしくはその両方に支出している企業は、全体の50%となっています。
内訳を見てみると、Off-JTと自己啓発支援の両方に支出している企業は全体の20.4%で、Off-JTのみ支出している企業は25.2%です。自己啓発支援のみ支出している企業はわずか4.4%しかありません。
このことから、2社に1社は研修にコストをかけており、その中でもOff-JTに出費している企業が比較的多いことがわかります。
Off-JTは、複数の従業員をいっぺんに教育できる、効率の良い研修手法です。新卒の入社時など、多くの社員を教育したい場合に役立つため、力を入れている企業が多いと考えられます。
(引用元:「令和2年度『能力開発基本調査』の結果」厚生労働省)
過去3年の推移を見てみると、Off-JTへの費用実績が増加していると答えている企業は19.2%、自己啓発支援への出費を増やしている企業は20.3%です。また、今後3年間でOff-JTへの出費を増やす予定の企業は18.7%、自己啓発支援への出費を増やす予定の企業は24.2%とあります。
しかし、「実績なし/実施しない」と答えている企業がおよそ半分を占めています。このことから、多くの企業は研修への出費を抑えたい、もしくは出費できない状況にあると推測できます。
では次に、教育訓練休暇制度・教育訓練短時間勤務制度によるサポート状況について見ていきます。教育訓練休暇制度と教育訓練短時間勤務制度は、「令和2年度『能力開発基本調査』」にて以下のように定義されています。
教育訓練休暇
職業人としての資質の向上その他職業に関する教育訓練を受ける労働者に対して与えられる休暇のこと
(引用元:「令和2年度『能力開発基本調査』」厚生労働省」)
教育訓練短時間勤務
職業人としての資質の向上その他職業に関する教育訓練を受ける労働者が活用することのできる短時間勤務
(引用元:「令和2年度『能力開発基本調査』」厚生労働省」)
(引用元:「令和2年度『能力開発基本調査』の結果」厚生労働省)
同調査によると、教育訓練休暇制度もしくは教育訓練短時間勤務制度を導入しておらず、今後導入する予定もない企業が8割以上を占める結果に。休暇制度や短時間勤務制度を導入している、もしくは導入を予定している企業は、いずれも2割ほどしかありません。
従業員が研修に参加するには、費用だけでなく時間も必要です。しかし、以上の調査から、費用や時間のサポートを行う環境が整っていない企業が多いことがわかります。
とはいえ、企業の存続には従業員の成長が必要であり、研修が不可欠です。よって企業は、費用や時間の無駄がなく、かつ効果的な研修を実施できるよう工夫しなくてはなりません。また、そのような効率の良い研修を実施するための環境整備も必要である、と考えられるでしょう。
先に解説した「OJT」「Off-JT」「自己啓発」の3つの研修手法ですが、それぞれどのようなことを行うものなのか、詳しく見ていきましょう。またメリット・デメリットもご紹介しますので、ぜひ社員研修の手法を選択する際、参考にしてください。
業務を行いながら知識・スキルを習得する「OJT」。流通小売業や飲食業などで行われることの多い研修です。では、実施内容を見ていきましょう。
労働政策研究・研修機構が行った調査によると、OJTの主な実施状況は以下の通りです。
「とにかく実施させ、経験させる」「仕事のやり方を実際に見せている」という回答が約6割を占めています。流通小売業においても、上記2点の内容を行っている企業が約6割と高く、業務の取り組み方を習得するための経験として導入している企業が多いようです。
(引用元:「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
また同調査によると、OJTが「うまくいっている」「ある程度うまくいっている」という回答が約7割を占めています。これほどOJTは高く評価されている研修手法なのです。
では、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
OJTは基本的に1対1で行うもの。そのため、従業員個人のペースに合わせた教育ができます。教育担当者と社員のコミュニケーションが増えるので、組織のチームワーク力アップや、離職防止につながるでしょう。
また、教育を担当する従業員の成長促進も、OJTのメリットのひとつ。経験を積むことで「育てる力」が身につき、質の高い教育が可能になります。従業員のさらなる成長が期待でき、組織全体の能力アップへとつながるでしょう。
しかし、どのくらいの期間で教えるのか、何をどのレベルまで教えるのかなどの計画を立てておかないと、十分な効果を発揮しません。指導計画をじっくりと立てる必要があり、その手間と時間がかかってしまいます。また、教育担当者は通常業務を行いながらOJTを行うため、担当者への負担が大きくなるのもデメリットです。
さらに、OJTは業務への理解度は高まる一方で、全体像が掴みにくいという欠点も。何のために行う仕事なのか、ほかのどの業務と関わって行うものなのかを明確にしておかなければ、対応可能な業務の幅が狭まる恐れがあります。
つまりOJTは、従業員個人と教育担当者の成長、組織の団結力アップが期待できる優秀な研修手法です。ただし、人員不足の場合は実施が難しく、かつ目的と計画が不明確だと失敗するリスクが高い教育手法であると言えます。
通常業務から離れて教育を行う座学的な研修である「Off-JT」。複数の従業員を集めて実施されることが多く、「集合研修」と呼ばれる場合もあります。
それでは、Off-JTの実施状況から見ていきましょう。
同調査を見てみると、Off-JTの主な内容は以下の通りです。
Off-JTは主に、仕事をする上で必要な心構えや、基礎知識の習得を目的として実施されています。新人研修が代表的な例です。
また、企業に所属する従業員は、新人・課長・部長などと階層ごとに分かれており、それぞれ適した知識・スキルの習得が必要です。Off-JTは、そういった各階層に見合う能力の向上を目的として実施されています。
そのほか、資格取得のための講座や、グループディスカッションやワークショップなどもOff-JTの内容に含まれます。
(引用元:「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
2019年度に行われた調査によると、「卸売業、小売業」のうち23.6%がOff-JTを実施し、71.2%が実施しなかったとのこと。一部の業界を除き、Off-JTを実施していない企業のほうが比較的多いようです。原因は、Off-JTのデメリットにあると考えられます。
では、メリット・デメリットについて見ていきましょう。
Off-JTは、業務についての事前知識を身につける際、活躍してくれる手法。あらかじめ知識をインプットしておくことで、スムーズに業務に取り掛かることができます。何も知らない状態で取り組み始めるよりも、早く業務に慣れることができ、成長スピードも上がるでしょう。
また、Off-JTを事前に行えば、OJTでの学習量を減らすことができます。従業員が、既にある程度の知識を持っている状態なので、OJT教育担当者の負担軽減につながるのです。
しかし、OJTとは対照的に、個人のペースに合わせにくいというデメリットがあります。さらに、会場代や講師代などの費用もかかるため、企業に金銭的な余裕がないと実現が難しいでしょう。多くの企業がOff-JTを行っていないのは、こういった金銭面での問題に理由があると考えられます。
(引用元:「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
また、人材育成・能力開発の方針が従業員に浸透していればいるほど、Off-JTの効果が高く、浸透していなければ研修効果が低くなるというデータもあります。逆に言えば、教育方針を定めて全社に周知させないと、費用や労力、時間が無駄になるリスクがあるということです。
OJTやOff-JTなど、会社主催の研修では学ぶことのできない知識・スキルを習得できる「自己啓発」。従業員が積極的に自己啓発を行うためには、会社からのサポートが必須です。
では、どのような支援が行われているのか、実施内容について見ていきましょう。
(引用元:「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査(企業調査)」独立行政法人 労働政策研究・研修機構)
「労働政策研究・研修機構」の調査によると、「卸売業、小売業」の16.6%が自己啓発の支援を実施したとのこと。実施していない企業は8割近くにも及び、多くが自己啓発のサポートに対し消極的です。
実施している企業では、主に以下のような支援が行われています。
最も多いのは「授業料などの金銭的援助」です。社外のセミナーなどに参加する際は受講料が発生するため、その費用を負担することで参加を促したい、と考える企業が多いと考えられます。
では、自己啓発を行うメリット・デメリットについて見ていきましょう。
自己啓発では、社内では得ることのできない知識・スキルを習得できるのが最大のメリット。社内研修や業務の経験のプラスαとして学びを得ることで、従業員のさらなる能力アップが期待できます。
また、自己啓発は社外で行うものであり、社員が教育を担当するものではありません。よって、教育担当者の負担軽減にもつながります。
ただし、外部セミナーの受講料や交通費など、社内研修にはないコストがかかります。金銭的負担が原因で、自己啓発のサポートに消極的になる可能性は十分にあります。
さらに、自己啓発は基本的に勤務時間外に行うものなので、従業員はプライベートの時間を削ることとなります。そのための対策が教育訓練休暇制度や、教育訓練短時間勤務制度なのですが、それらを実現するには代替要員の確保がマスト。よって、人員に余裕のない場合は実施が難しいでしょう。
入社して間もない新入社員と入社後数年経った中堅社員では、取り組む業務内容も、担う責任も違います。そのため、それぞれに合わせた研修が必要です。
では、具体的にどのような内容で行えば良いのでしょうか。階層別の研修内容をご紹介していきます。
新入社員に対して行われる研修は、「ビジネスマナー研修」「キャリアデザイン研修」「クレーム対応研修」が代表的です。詳しく見ていきましょう。
ビジネスマナー研修は、社会人としての基礎知識を身につけるためのもの。新卒社員に向けて行われることの多い研修です。
主に、以下のようなことを学んでもらいます。
上記の内容を習得するには、ロールプレイングなどを取り入れるのが効果的。実際に業務を行うときのイメージを事前に掴んでもらうことで、スムーズに実行へと移すことができます。また、正しく取り組めているかどうか確認し、フィードバックするのもポイントです。
ビジネスマナーはOJTで教えることもできます。しかし、OJTではほかに教えなければならない項目が多く、教育担当者の負担が大きくなってしまうため、入社時のOff-JTで教育する方が良いでしょう。
キャリアデザイン研修とは、職業経験を積むプロセス、いわゆるキャリアの描き方を学ぶ研修のこと。どのようなキャリアを描きたいのか、どうすればそのようなキャリア形成ができるのかを学ぶ場です。
具体的なプランの作成や、ビジョンの明確化、自己分析などを行います。また、会社からどのような役割を求められているのかなども伝えることで、キャリアデザインに役立ててもらえるでしょう。
キャリアデザイン研修を行うと、新入社員は会社でこれからどのように働いていくのかイメージでき、成長につながります。また、将来に対する不安が解消されることで、定着率の向上が期待できるでしょう。
入社して数か月経ったら、新人でもクレーム対応を行う場合があります。お客さまにとっては新人もベテランも変わらない「従業員」なので、”対応できない”では許されません。そのため、二次クレームに発生しないよう、正しい対応方法を知っておく必要があります。
クレーム対応研修では、基本的な対応方法はもちろん、さまざまなパターンを学んでもらうことが大切。クレームの内容は多岐にわたるので、できるだけ多く知ってもらうことが重要なのです。受講者同士でロールプレイングを行い、練習してもらうのも良い方法でしょう。
また、クレーム対応はうまくいけばファンの獲得につながります。新人スタッフは特に、クレームに恐怖を抱いている場合があるので、こういったポジティブなことも伝えることが大切です。
入社して数年の中堅社員は、新人のときとは異なる業務、責任を担います。企業によってバラつきがあるものの、後輩への指導や相談役を行う機会が増えてくるタイミングです。
それでは、中堅社員が主に行う「チームマネジメント研修」「フォロワーシップ研修」「OJT・メンター研修」について詳しく見ていきましょう。
プロジェクト進行のためのチームが結成される際、中堅社員がリーダーを任される場合があります。そのようなときにチームをうまくまとめられるよう、知識やスキルが学べる「チームマネジメント研修」の実施が必要です。
チームマネジメント研修では、主に以下のようなことを学んでもらいます。
これらは、実際に経験を積むことで確かなスキルとして身につくもの。とはいえ、全く知識がない状態で挑むと失敗するリスクが高いです。よって、研修を通して学んでもらう必要があります。特に「目標管理」や「仕事の割り振り・管理」のスキルは、チームの生産性に深く関わるものなので、社員研修を通してきちんと習得してもらうことが重要です。
中堅よりさらに歴の長い従業員、役職に就いている従業員がチームリーダー・管理職を務める場合、中堅社員はサポート役を担います。そのようなときに必要となるのが、フォロワーシップのスキルで、「フォロワーシップ研修」が必須です。
こちらの社員研修では、主に以下のようなことを学んでもらいます。
管理者のサポート役にも問題解決能力が求められるため、論理的な考え方の学びが必要。そして、管理者やチームメンバーにきちんと伝えられなければ、チームの問題解決にはつながらないため、コミュニケーション能力も身につける必要があります。
また、管理者が組織全体を常に把握しきれるわけではないので、サポート役にも「課題を見つける力」をつけてもらうことが大切です。”やらされている”のではなく、主体性を持って動けるよう育成することが、フォロワーシップ研修におけるポイントです。
中堅社員の中には、OJTでの教育担当者を任される人もいます。そのようなときに導入されるのが「OJT研修」です。
また、新人に専属で指導したり相談を受けたりする「メンター」も、中堅社員が担う役割のひとつ。メンターは、新入社員の成長とモチベーションの維持に不可欠なので、スキルを身につけておく必要があります。
OJT・メンター研修の主な内容は以下の通りです。
OJT教育担当者やメンターの仕事は、上司である管理者との連携をとることが大切。また、指導される側の従業員が安心して話せる、相談できることが大切なので、コミュニケーション能力が必須です。
また、効率の良い教育を行えるよう、問題解決能力や目標管理能力も必要になります。研修では、OJT教育担当者・メンターの理想像と、理想に近づくための行動や課題を示すことで、成長促進が期待できるでしょう。
社員研修にはさまざまな手法がありますが、今注目を浴びているのは「オンライン研修」です。新型コロナウィルス発生によるリモートワーク増加の影響を受けて、研修のオンライン化も勢いを増しています。
(引用元:「コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査」パーソル総合研究所)
パーソル総合研究所が2021年に行った調査によると、1年間でオンライン集合研修を増やした企業の割合は、75%にも及びます。100名~300名の小規模な企業でも、約6割が研修のオンライン化を進めている状況です。
(引用元:「コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査」パーソル総合研究所)
内容を見てみると、最もオンライン化されている研修は「ロジカルシンキング研修」、次いで「技術・開発研修」がランクインしています。流通小売業に関わりが深い「リーダーシップ研修」「コミュニケーション研修」「営業・販売研修」は、約50%がオンライン化されています。
一方「新入社員研修」は、オンライン形式よりも対面集合形式で行われる方が多い模様。また「コンプライアンス研修」や「ダイバーシティ研修」は、eラーニング・録画コンテンツ視聴形式で行われることも多いようです。
オンライン、対面、eラーニングとそれぞれにメリット・デメリットがあるため、研修内容に合わせて適切な形式を選ぶことが大切。では、オンライン研修にはどのような特徴があるのでしょうか。
オンライン研修は、講師と受講者が対面で行うのではなく、オンラインを通して遠隔で行うもの。距離に関係なく、パソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスがあれば、どこでも実施可能です。
のちに詳しく解説しますが、オンライン研修にはいくつかの手法があります。ネット環境の活用により、研修手法の選択肢が広がるのも特徴のひとつ。
このように聞くと、オンライン研修は非常に便利で有効なもののように思えます。しかし、研修の内容によっては適さない場合ももちろんあるのです。
リアルで行う研修と比較しながら、メリット・デメリットについて見ていきましょう。
リアル(対面)での研修には、以下のようなメリットが挙げられます。
教育担当者と受講者が面と向かって会話を交わす研修では、情熱が伝わりやすいメリットがあります。特に大人数で行う集合研修は、熱量が会場全体に伝わりやすく、多くの受講者たちにポジティブな感情を与えるでしょう。
ロールプレイングを実施する際、リアルでの研修なら、その場ですぐにフィードバックできます。接客において重要な、表情・言葉遣い・立ち振る舞いなどの細かい部分も指導可能です。
また、複数人のチームに分かれて同時進行するグループワークも、対面式だからこそ実現可能なセッションです。
対するデメリットは以下のようなことが挙げられます。
リアルで行う研修は、受講者が会場に移動する際のコストがかかります。遠方で働く従業員に向けて行う場合、交通費に加えて宿泊費がかかる場合もあるでしょう。
現場が多忙だと、講師にとって都合の良い時間と、受講者にとって都合の良い時間が合わせられないことも。リアル研修には、スケジュール調整が難しいというデメリットがあるのです。またウィルス感染防止のため、そもそも実施できない可能性もあります。
一方、オンラインで行う研修には以下のようなメリットが挙げられます。
オンライン研修は、対面式とは違って時間と場所の拘束がありません。時間が決められている場合でも移動しない分、研修のために拘束される時間は少なく済みます。
また、デジタルシステムやeラーニングサービスをうまく活用すれば、学習の進捗の把握や、学んだことの振り返りも可能です。従業員のペースに合わせて効率よく、かつ着実に能力アップへとつながるでしょう。
しかし、以下のような欠点もあります。
オンラインでの研修は、グループワークや、ロールプレイングでの細かいフィードバックが難しいです。そのため、一部の研修では求める研修効果が得られないでしょう。例えば、新人研修やコミュニケーション研修は、リアルで行う方が向いている場合があります。
またオンラインを通すと、実際に人と人が面と向かって接するときほどの情熱が感じられません。研修への没入感が薄れてしまいがちなのです。ただし、「研修前にメリットを伝える」「映像での解説を挟む」などの工夫によって改善できます。
質疑応答を行うのが難しいデメリットもありますが、チャット機能を使うなど、こちらも工夫次第で解決可能です。オンライン研修には幅広い取り組み方があるので、欠点を埋めるような方法も見つかりやすいでしょう。
オンライン研修は、大きく分けて2つの手法があります。web会議ツールを用いた集合研修と、eラーニングツールを用いたマニュアルの電子化です。
目的とシチュエーションに合わせた方法を選べるよう、それぞれどのようなものなのか確認しておきましょう。
テレビ電話のように、映像を通して会話する「web会議ツール」。社内会議などでよく使われているデジタルツールです。
web会議ツールは、大人数に向けて行う集合研修のオンライン化に活躍します。パソコンやスマートフォンがあればどこでも実施可能で、多くの従業員をいっぺんに教育できるため、効率が良いです。
また、どのような研修において終了後のフォローアップが大切ですが、リアルで何度も多くの従業員を集めるのが難しい場合もあります。そのようなときにweb会議ツールを活用すれば、手軽に報告会、フィードバック、相談ができるでしょう。
オンライン研修には、質疑応答が難しいという懸念点がありますが、チャット機能が備わっていれば実現可能です。また、受講者は講師の様子をリアルタイムで確認できるため、話し方や表情に配慮することで、熱量を伝えることもできます。
ただし、学習の進捗が把握しにくいという欠点があります。またかなりの大人数であれば、受講者全員の様子を確認できないため、内容を本当に理解できたのかわかりにくいものです。
その問題に対しては、次にご紹介するeラーニングツールの活用が有効です。詳しく見ていきましょう。
『オンデマンド・ラーニング』という書籍の中で、著者のティム・スレイド氏はeラーニングを以下のように定義しています。
eラーニング=コンピューター、タブレット、スマートフォン、その他のデジタルデバイスで行われるあらゆる学習体験
(引用元:「ティム・スレイド(2021)『オンデマンド・ラーニング』日本能率協会マネジメントセンター」)
このeラーニングを用いることで、マニュアルの電子化が実現されます。受講者はパソコンやスマートフォンを使って、いつでもどこでも業務の手順を学ぶことができるのです。
動画を使って解説するため、実際に業務に取り組むときのイメージが掴みやすいのがメリット。文章では伝わりにくい部分も、映像を利用することでわかりやすく解説することができます。
また、eラーニングのシステムによっては学習進捗を確認することも可能です。テストを設けて、理解度を測ることもできるでしょう。そのため、オンライン研修や対面研修のフォローアップとして活用するのもおすすめです。
オンライン研修は、実施すれば必ず効果が得られるものではありません。有意義なものとするため、抑えておくべきポイントがいくつかあります。
そこでここからは、オンライン研修を行う際の注意点を3つご紹介していきます。
どの研修においても言えることですが、目的を明確にすることが非常に大切。目的が定まっていないと求めていた研修効果が得られず、費用や労力、時間が無駄になってしまうからです。
特にオンライン研修は、講師やほかの受講者からの視線がない分、受講者が意欲的になりにくいもの。ただ映像を眺めているだけ、話を聞いているだけで何も学ばなかった......ということになりかねません。
そのため、受講者にとって必要な知識・スキルを習得できること、そしてなぜ習得すべきなのかを事前に伝えておく必要があります。何のために行う研修なのかを理解してもらうことで、内容の吸収率がアップするでしょう。
オンライン研修では、リアルで行う研修のように受講者の反応を見ることができません。映像を通しておおまかに確認することは可能ですが、受講者が研修内容を理解しているかどうか把握しにくいのです。
そのためオンライン研修は、受講者目線でのわかりやすさが大切。特にeラーニングを行っている最中は情報を追加したり、軌道修正したりすることができないので、あらかじめ理解しやすい内容で制作する必要があります。
例えば「専門用語を使わない」「図と映像、音声での開設を交える」などの対策が挙げられます。受講者の目線に立つことが、理解しやすいコンテンツ作成のポイントです。
オンライン研修は、学んだことを活かして行動に移すことができてこそ、実施する価値があるというもの。内容を理解するだけでは意味がないのです。
よって、研修終了後にきちんと行動に移せるよう、フォローアップを徹底する必要があります。数ヵ月後に現場を訪問する、現場の上司と連携をとって観察する、などの対策を行いましょう。
また、研修中に具体的なアクションプランを立ててもらうのも有効です。学んだことをどのように活用し、どのような成果につなげるのか計画を立ててもらうことで、より実現しやすくなります。
それでは最後に、オンライン研修を踏まえた社員研修の進め方をご紹介していきます。どのように研修をデザインすれば良いのか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
受講者が身につけるべき知識・技術は何かを見極めるため、まずは分析を行います。受講者の職場を訪れて観察したり、彼らの上司にヒアリングをしたりすることで、課題や強みを見つけられるでしょう。また、会社で記録している売上げデータ、顧客情報なども分析に役立ちます。
どれくらいの難易度ならば理解できるのかを把握するため、参加者の分析も必要です。専門用語への理解度や、内容の適切なレベルを探りましょう。
さらに、参加者が研修で学んだことを実行する際、上司から「NO」と言われるようであれば、行動に移すことができません。それでは研修が無駄になってしまうため、周囲への協力を促す必要があるのかどうかも確認しておきましょう。
次に、目的の設定を行います。何のための研修なのか、参加するメリットは何なのかを明確にしましょう。
研修への参加意欲を高めるため、目的設定後は参加者に伝えることが大切です。「自分にとってメリットがある」と思ってもらえれば、研修へのモチベーションを向上させることができます。
特にオンライン研修は、実施中の参加者の様子を監視することができません。「自分には関係ないと思い、真剣に聞いていなかった」という事態を避けるため、事前に目的やメリットを伝えましょう。
また目的を設定する際は、具体性を持たせるのがポイント。どの業務において、なぜその知識・スキルを身につけるべきなのかを理解してもらうことで、当事者意識が生まれます。
リアルで行う研修と同様、オンライン研修にもオープニングとクロージングが存在します。どのように研修をはじめ、どのように締めくくるのかを決めておきましょう。
オープニングでは課題点の提示を行います。何が問題となっているのか、はじめに状況を把握してもらうことで、知識の吸収率が高まります。
クロージングには、アクションプランの作成時間を設けます。研修後「学んだことをどのように活用するのか」「どのような手順で実行するのか」を明確にしておかないと、行動に移すことなく自然消滅する恐れがあるので、プランの作成が必須です。
ただし、課題を指摘するばかりでは受講者のモチベーションが下がってしまいます。研修への参加意欲を高めるため、オープニングでもクロージングでも、ポジティブなことを伝えましょう。
これらは、当日になってアドリブでできるものではありません。そのため、どのように進めるのかを事前にデザインしておくことが大切です。
いよいよコンテンツを作成していきます。ニーズや目的をもとに、内容を決めていきましょう。
オンライン研修時に使う資料を作成する際は、見やすく、わかりやすい形式を選ぶのがポイントです。メールで資料を送るのか、スライドを見せながら解説するのか、はたまたeラーニングを導入するのかなど、スタイルを検討しましょう。
また、無駄に長い研修はかえってわかりにくくなるため、内容を厳選することも重要です。必要な情報をすべて盛り込むのではなく、「今伝えるべきことは何か」を見極めましょう。
研修後、学んだことを活用し実行してもらうためには、アクションプランの作成だけでなくフォローアップも必要です。どのようにサポートするのかを事前に決めておきましょう。
具体的には以下のような方法があります。
社員研修を理解できているかどうか把握するには、確認テストが有効です。テストの実施が受講者にとっての復習にもなり、さらに理解が深まるでしょう。
学んだことを実行できているかどうか確認する際は、現場訪問が理想的。しかし、受講者の人数が多かったり、遠方で働いていたりする場合は実現しにくいでしょう。
そのようなときは、オンライン報告会を実施することで、遠隔でも状況確認およびサポートができるようになります。また、受講者の上司に協力を仰ぎ、代わりに様子を観察してもらうのもひとつの手です。
フォローアップをスムーズかつ計画的に行えるよう、事前にサポート方法を決めておきましょう。
社員研修にはさまざまな手法、形式があるので迷ってしまいますが、まずは挑戦してみることが大切です。トライ・アンド・エラーを繰り返すことで、「何が自社に合うのか」「どのような課題があるのか」といったデータを収集でき、徐々に改善へと導かれるでしょう
研修の取り組み方を大幅にチェンジする際は、大きなリスクが伴います。まずは小規模な変更からはじめて、効果がある方法を少しずつ見つけていきましょう。