経営職や人事担当者の方は、業務改善で自社をもっと働きやすい環境にしたい、とは考えているかと思います。しかし、
「業務改善って具体的にどうしたらいいんだろう」
「難しそうだけど、自分たちでもできるのかな……」
などのお悩みを抱える方も少なくなりません。
そこでこの記事では、業務改善について、
をくわしくご紹介していきます。
このほかにも、
まで含んでいますので、ぜひ最後までご覧ください。
業務改善とは、業務上の課題を見つけ改善し、効率化を図る取り組みのことをいいます。
とくに日本は、日本生産性本部の調査によると、2019年の労働生産性(時間あたり)はOECD加盟37カ国中21位。1位のアイルランドの半分以下、アメリカの約60%に過ぎません。
「参照元(日本生産性本部):労働生産性の国際比較」
「働き方改革」により日本人の労働時間が短縮されつつありますが、生産性は落ちるばかりです。日本の現状、「働く時間」ばかりでなく「効率の良い働き方」を目指していく必要があるといえます。
では、業務改善によって具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。ポイントは次の4つです。
<業務改善による4つの効果>
①効率化 |
今までより時間や手間をかけずに、同じ成果を出すこと 具体例)不要な作業手順を減らし、作業を効率化した |
②生産性アップ |
1つの業務に対して、より大きな成果を出すこと 具体例)営業力の向上で、顧客獲得の成績が伸びた |
③ミスの低減 |
業務上のミスを減らす、予防する 具体例)ヒヤリハットから作業内容を見直し、ミスを予防した |
④労働環境の改善 |
労働時間の短縮、労働場所の改善など 具体例)業務改善により、残業時間が減少した |
業務改善が必要な理由は、最も「企業の存続のため」です。
コロナ発生当初から2021年にかけて帝国データバンクが行った調査によると、新型コロナウイルスの影響を受けて倒産に至った会社は、2年間で急激に増大。まさに企業の存続に必至といえる現状にで、企業が生き延びるためには「業務改善」は必須項目でしょう。
「参照元(帝国データバンク):『新型コロナウイルス関連倒産』動向調査 」
前述したように、業務改善によって得られる効果では、企業の業績に直結するもの、また社員の働きやすさに直結するものがあります。業績、社員はともに企業の存続には欠かせないもの。業務改善は企業の存続に大きく関わる重要な取り組みなのです。
では、実際に業務改善をやるとしたら、どのような手順で進めていけばよいのでしょうか。4つのステップにわけて解説していきます。
<4ステップで解説!業務改善の進め方>
くわしくみていきましょう。
まずは、現状で「業務をどのような手順でやっているのか」を洗い出していきましょう。1つ1つの手順を書き出し、フローチャートのように並べてみます。誰が、どれだけの時間をかけて行っているのかも合わせて洗い出します。
また、この段階ですでに「この手順は不要かも」「この手順の意味はなんだろう」「手順に不備があるかも」と感じることがあるかもしれません。これが、まさに業務改善のチャンスです。忘れないうちに問題点を書き出しておきましょう。
次に、ステップ1で見える化した業務から「なにを改善すべきか」をまとめていきます。たとえば、
など、問題を感じる作業および改善案を書き出してみましょう。このとき、作業手順1つ1つを客観的に見直してみると問題点が見えてきやすくなります。
また、改善目標は業務改善に関わるすべての従業員と共有しましょう。共通認識をもつことで業務改善が進めやすくなります。
改善目標がまとまったら、それぞれの改善案に対して優先順位をつけていきます。次の3つのポイントをもとに考えてみてください。
優先順位が高いのは、「重要度=高い」「難易度=低い」「効果の大きさ=大きい」業務です。それぞれを点数化して比べてみるのも1つの方法でしょう。
「明日から業務改善を進めよう!」としたところで「具体的にどのような手順で進めるのか」がわからなければ、周りの従業員はついてこれません。口だけで説明しても伝わりづらく、時間経過につれて計画自体がブレていく原因にもつながってしまいます。
そこで、従業員の共通認識となるよう「改善計画案」を作成していきます。新たな業務フロー、改善案に基づいた作業方法を「マニュアル化」することで、業務改善計画の成功率を上げようとするものです。
業務改善計画は、継続が重要かつ難しいポイント。改善目標と同様、関わるすべての従業員のなかで共通認識となるよう意識する必要があるでしょう。
では、ここからは具体的な業務改善の方法についてご紹介していきます。業務改善の方法は主に次の6つ。
<業務改善7つの方法>
くわしくみていきましょう。
7つの方法の中で最も手っ取り早いのが、この「やめる」方法です。普段の業務を改めて見直してみると、意外と「この作業は不要だった」と感じられることがあります。
具体的には、次のような作業は「やめる」方法をとってもよいでしょう。
とくに昔からの習慣になっている業務は、「何の目的で行われているかわからない」なんてこともよくある話です。1つ1つの作業に対して「何のためか」を考えてみると「不要な作業かどうか」がはっきり見えてくると思います。
やめずに”減らす”方法が「簡素化」です。
これらの作業は「対応人数を減らす」「実施頻度を減らす」などの対応ができるでしょう。
とくに書類チェックなどの作業は、「確認のためのハンコが必要なだけ」「確認する人が5人もいるから、自分1人くらい雑にやっても平気だろう」といったケースも少なくないと思います。
「本当に必要な作業かどうか」「目的に適した対応人数かどうか」を考え直してみると、簡素化できる部分が見えてくるかもしれません。
少し手間と費用がかかりますが、「システム化」は作業効率向上にかなり役立つ方法です。
システム化の例を出してみましょう。
近年では企業向けのオンラインサービスがかなり多様化してきており、オンライン上で経理業務を行える「クラウド会計サービス」やオンライン上でマニュアル作成ができる「人材育成クラウドサービス」などもあります。うまく活用してみてはいかがでしょうか。
「集中化」は、複数部署で行われている似たような作業を一箇所に集中させる方法です。例えば、以下が挙げられます。
些細なことですが、業務改善は小さな積み重ねが大切です。まずは小さく成功しやすい部分から始めてみてはいかがでしょうか。
「標準化」はマニュアルの整備や研修を実施することで、従業員のスキルを一定以上に保つ方法です。従業員のスキルが足りないとき、実は会社は次のような損失を受けています。
<スキル不足による損失>
機会の損失 |
・作業に時間がかかる ・納期に間に合わない(可能性がある) |
費用の損失 |
・時給に対するコストパフォーマンスが悪い |
クオリティの損失 |
・クオリティが保てない ・ミスをする、またはミスに気づかない |
標準化により従業員のスキルを一定以上に保つことができれば、これらの損失がなくなり業務改善につながるのです。標準化は業務の属人化を防ぐ効果も期待できるため、一石二鳥といえるでしょう。
なお、属人化に関しては以下の記事でくわしく解説していますので、ぜひご覧ください。
■参考記事はこちら
「移管」は、業務を外部委託する方法です。
費用はかかりますが、自社内で行うよりも正しく効率よく業務を行ってくれる可能性が高いため、業務改善効果は高く感じられることでしょう。
例として、外部委託しやすい作業および外部委託先をご紹介しておきます。
外部委託しやすい業務の例 |
外部委託先の例 |
・事務、経理、総務作業 ・架電作業 |
|
・人事業務 |
ここからは、業務改善に役立つフレームワーク(分析方法)をご紹介していきます。業務改善を進めるなかで行き詰まったと感じたときは、ぜひ活用してみてください。
<業務改善に役立つフレームワーク7つ>
くわしくみていきましょう。
社会人の基本のフレームワークとしてもよく取り上げられる「PDCAサイクル」。これは「①Plan(計画)②Do(実施)③Check(確認・評価)④Action(対策)」の4つの流れを基本とし、このサイクルの中で業務をより良い方向へ改善していくものです。
業務改善を目的としてPDCAサイクルを活用する際は、次の例を参考にしてください。
「ECRS」は、Eliminate(排除)Combine(結合)Rearrange(交換)Simplify(簡素化)の頭文字をとっています。
少しわかりづらいですが、簡単にいえば「業務改善のための4つの視点」と「効果の大きさ」を示しているフレームワークです。効果の大きさは①Eliminate(排除)>②Combine(結合)>③Rearrange(交換)>④Simplify(簡素化)となります。
<ECRS:4つの視点>
※くわしくは、見出し「業務改善の方法6つ」で解説しています。
改善案が見つからないときや改善案の実施順に困ったときは、ぜひ活用してみてください。
ロジックツリーは、マインドマップ式に課題を深堀りしていく方法です。問題の原因を追及していくことにより、課題をより具体化することができます。
例として、「新人教育がうまくいかない」という問題を深堀りしてみましょう。
新人教育がうまくいかないという漠然とした問題から、「研修の質に関する課題」「コスト面の課題」「スキル標準化の課題」が見えてきました。
このように、取り組んでいる問題が漠然としていて具体的な解決策が見いだせないとき、このロジックツリーをぜひ活用してみてください。
(引用元:BPMN 超入門)
BPMN(Business Process Model and Notation)は、簡単にいえば「複雑な業務フローを可視化するためのフレームワーク」です。主に部署をまたぐような大きな業務に対して利用し、複雑な業務の流れや部門間の関係性を可視化するために用います。
複雑な業務フローを整理したいときや、複数の部署をまたぐ課題に対応しているときに活用するとよいでしょう。
マンダラチャートは「アイデアの整理や深堀りをし、思考を深めるためのフレームワーク」です。
多数のマス目で構成されるマンダラチャートは、3×3マスを1区切りとし、中心マスの課題に対して外側の残り8マスに課題達成のためのキーワードを入れていきます。
例として、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手が、高校1年生のときに作成したマンダラチャートをご紹介しておきましょう。「ドラフト1位で8球団から指名される」ことを目標として作成されたものです。マンダラチャートは、1つの改善目標に対して多数の意見を整理するときに活用するとよいでしょう。
「参照元(スポニチ Sponichi Annex):大谷 花巻東流“夢実現シート”高1冬は『ドラ1 8球団』」
「KPT」は、Keep(維持すること)Problem(改善すべき問題点)Try(試すこと)の頭文字をとっていて、以下の3要素にわけ、課題を整理していくフレームワークです。
チーム内の意見のすり合わせや、共通認識を持つ目的で活用するとよいでしょう。社内会議などでは、ホワイトボードなどに付箋をはりつけながら意見出しを行うと便利です。
バリューチェーン分析は、簡単に説明すると「自社のサービスが価値創造にどのように関わっているか」を知るためのフレームワークです。
バリューチェーン分析では、事業活動の連鎖で生まれる価値を1つの流れとして可視化します。すると、「自社がどのように価値提供に貢献しているのか」「自社の強み・弱み」などを知ることができ、戦略に活用できるのです。
競合との差別化に悩んだときや、事業の方針について迷ったときに活用するとよいでしょう。
業務改善は、決して1人の力では成し遂げられません。そこで、業務改善を進める上で重要となるポイントと注意点について解説していきます。
<業務改善を進める上で重要なポイントと注意点>
くわしくみていきましょう。
業務改善には、社員同士の密なコミュニケーションが欠かせません。みなさんも次のような経験があるのではないでしょうか。
これらはすべて「コミュニケーション不足が生んだ業務ロス」といえます。
「わからないことを気軽に質問し合える関係が普段から築けていたら……」「情報交換ができる関係性があったら……」「小さなミスをカバーできるチーム力があったら……」考えてもきりがありませんね。社員同士の密なコミュニケーションは、業務改善を円滑に進めてくれるはずです。
改善計画は、常に社内で共有できるようにしておきましょう。情報共有不足で業務改善自体にロスがでてしまえば元も子もありません。
実際に、経営戦略や研究開発などの革新パートナーとして70年以上の歴史をもつ株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)の著書の中では、次のように書かれています。
業務改善は、組織的に対応してお互いにチェックし合い、励まし合い、支援し合いながら推進していくことが最後までやり切るためのコツです。そこで、改善の実施計画を策定し、組織的に見えるようにしておきます。
「引用:株式会社日本能率協会コンサルティング著(2010)はじめの1冊!オフィスの業務改善がすぐできる本」
業務改善を進める中では、少なからず抵抗勢力がでてきます。本当にできると思っていないので乗り気にならない人、面倒だからやりたくない人、変化を嫌がる人など理由はさまざまです。
実際に、2015年に働き方変革プロジェクトを立ち上げ、リモートワークなどの働き方を導入しているリクルートグループの林宏昌氏も、インタビュー記事の中で次のように語っています。
御社には変革が進めやすい文化があると思いますが、抵抗勢力が大きいこともあるのでしょうか?
林:抵抗勢力というか、考え方の違いはありますね。例えばリモートワーク制度の導入の前に「フィジビリティ」として実験するかたちで進めようとしました。それでも、賛否両論ありましたね。絶対いいと賛同する人もいれば、「チームワークが壊れる」「若手を本当に育成できるのか」と懐疑的になる人も。あれがリスク、これが気になる、どう乗り越えるんだ、という意見はたくさん出ました。
「引用(みらいワークス):後編:重要なのは、反対する人をあえて巻き込むこと。反対意見から本当の課題を洗い出し、実験を繰り返す。」
では、抵抗勢力にはどのように対応すればよいのか。ポイントは「巻き込むこと」です。林氏は、まずは小さな実験から反対する人たちを巻き込み、「だめだったらやめる」という形を取りながら業務改善を進めていったようです。
林:結局は実験で得たデータや体感をベースにしないと、変革できないと思っています。反対意見に対して議論を続けて説得したり、こちらが正しいのだと考えをふりかざしたりすると、おかしな感じになってしまう。「オフィスに誰も来なくなったらどうする!」という意見もありました。全員がリモートワークするという誤解がありましたね。だから、あくまでリモートワークは選択肢のひとつだということを強調しました。リモートワークが正解だとは思っていなくて「実験して成果を見て、選択肢として取り入れるかどうか考えましょう」というスタンスにしました。こういうやり方をしないと、難しいと思います。
反対する人の意見を変えるには、実際のデータや体験を積み重ねて「行動と結果で示す」ことが大切なのですね。
それでは最後に、業務改善の成功事例を3つご紹介しておきます。イメージづくりにぜひご覧ください。
まずは、前述した「リクルートホールディングス」の業務改善事例から。
リクルートは、イノベーション創出を加速させることを目的として働き方改革を実行しました。労働時間を減らし、社員の自由時間を増やそうとしたのです。
そして、リクルートが具体的に実施した方法としては主に次の2つ。
これらを実施した結果、会議時間は3割減り、コミュニケーションのスピードも7割の社員が「早くなった」と回答したそうです。
また、働く場所も「リモートワーク」や「サテライトオフィス」を選択できるようにしました。通勤時間や移動時間が減り、結果として社員の自由時間の増加に成功したそうです。
まだまだ長労働時間を評価しようとする意識の強い日本では、少し難しいことかもしれません。しかし、社員がサボるかサボらないかは「労働時間を管理されているかどうか」で決まるのではなく、「仕事が自分のやりたいこととマッチしているか」などといったアサインメントにあると林氏はいいます。
業務プロセスだけでなく、社員の意識から業務改善をしていくこともポイントといえそうです。
「参考(みらいワークス):前編:在宅勤務を促進すればいいとは限らない。方法論をトライアンドエラーで探す、それは『働き方開発』。」
キヤノンマーケティングジャパンでは、「事務処理が多すぎる」という課題を抱えていました。営業部門では「事務処理に追われてお客さま対応ができない」という声が挙がっており、業務改善を実施することに。
キヤノンは次の手順で業務改善を進めました。
<改善施策の内訳>
「参照元(キヤノン):業務プロセスを改善するために重要なこと ~業務量調査による業務の「見える化」~|」
たとえば「体制強化、専任化、役割変更」では、商品納入の際の顧客情報収集や登録作業に対して「導入支援センターや支援組織の新設」により、月間6,000時間の作業時間削減に成功したそうです。
またキヤノンはその後も、請求書の電子化をはじめとする、各分野での「デジタル化」の取り組みを行っています。
総合ディスカウントストア「MrMax」を全国展開するミスターマックス・ホールディングスは、「教育訓練費の効率化」といった課題を抱えていました。研修費の約3~4割が交通費になっており、研修時間や内容に制限がかかってしまっていたのです。
そこでミスターマックスでは、「人材育成クラウドサービス」を導入し、業務改善を成功させました。オンライン上で完結する人材育成によって次のような効果を得られたそうです。
<人材育成クラウドサービスによって得られた効果>
人事部の村垣氏は、人事部のあるべき姿とは「キャリアアップを手助けすることであり、多拠点で多くの商品を取り扱う小売業では、研修コストの効率化だけでなく情報発信という面でもクラウドサービスを積極的に活用すべきだ」と語っています。
「引用元(shouin+):導入事例 株式会社ミスターマックス・ホールディングス」
2019年の労働生産性(時間あたり)がOECD加盟37カ国中21位と、業務の効率化に課題を抱える日本。リモートワークが急速に進む現代において、業務改善は企業にとっての必須項目といえます。
今回は、業務改善について
などをくわしくご紹介しましたが、まずは小さく成功しやすい施策から実施してみるとよいでしょう。進めていくなかで「課題が見つからない」「課題に対して解決策が見つからない」といったときは、今回ご紹介したフレームワークを活用してみてください。