さまざまなビジネスの場で求められる「ロジカルシンキング」。その基礎となるのがMECEです。
当記事では「MECEとは何か」を初めて用語を聞く方でも分かるように丁寧に図解をまじえて解説しました。アプローチ方法やフレームワークも紹介していますので、用語の理解だけでなく、実際にどう仕事に活かしていけばいいのかもご理解いただける内容となっています。ぜひご覧ください。
MECE(読み方:ミッシーもしくはミーシー)とは、簡単に言うと「漏れがなく、ダブりがない状態」という集合に関する概念です。何か問題が起きたときに、「他に考えられる原因はないかな?」などと、普段から特に意識することなくやっている方も多いでしょう。それを意識してシステマチックに行うための技術が「MECE」というわけです。
MECEの概念は、世界的なコンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」で使用されていたフレームワークが始まりでした。そして今は、コンサルティングの現場だけでなく、マーケティングやビジネス戦略の場など多くのシーンで使われています。
ちなみに、MECEは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの略で、それぞれの頭文字をとっています。
物事を整理して筋道を立て、矛盾の生じないよう考える思考法である「ロジカルシンキング(論理的思考)」。ビジネスパーソンに求められる思考法として有名ですね。このロジカルシンキングで必要となる概念がMECEです。漏れやダブりがあると論理に穴が開いてしまいますから。
MECEは、限られた時間の中で問題を解決する際に、非常に汎用性が高く、業界や職種をとわずビジネスの場で応用がききます。ヒト、モノ、カネ、情報といった限られた経営資源の中で、効率的に成果を上げようと考えると欠かせない概念だと言えるでしょう。
多くのビジネスの場では、問題に直面し、その解決策を見つけ実行するというのを繰り返しています。その解決策を見つけるために、課題をシンプルで小さな要素に細分化しますね(一般に「構造化する」と言われる作業)。この切り分け方の指針となるのがMECEの概念です。この点を踏まえて、MECEがビジネスの場で重要視される理由を見ていきましょう。
私たちが直面する問題は、複数の要因が絡み合っていることが少なくありません。そこで、問題を解決するためには、まずは課題を論理的にシンプルに切り分ける必要があります。この切り分けに漏れがあると問題解決に落ち度がでたり、解決できなかったりしますし、ダブりがあると同じ検討を繰り返すことになり非効率です。
また解決策もひとつとは限らず、複数ある場合がほとんど。その解決策がダブっているのに闇雲に取り組むと、無駄が発生し解決までに余計な時間がかかってしまったり、解決できなかったりしてしまいます。
つまり課題をシンプルに切り分け、効率的に解決するためにはMECEの概念が重要なのです。
仕事では、問題解決の場面以外に、報告や説明、プレゼンなどをする機会が往々にあります。このときに大事になってくるのが相手の納得感。「そう言うけど、こういうケースもあるんじゃない?」「他にはないの?」「AとBって結局同じことじゃない?」などと相手が疑問に思ったり、突っ込みどころが多かったりすると、説得力がなくなってしまいますね。
そういう意味でもMECEの概念に従い、漏れやダブりがない形で報告や説明を行うことが大切です。
ここまでの説明で何となくMECEがどのような状態を表すのかや重要性をお分かりいただけたでしょうか。ここでは、よりイメージしやすいようにMECEとはどのような状態なのか図解しました。
言葉だけでは腹落ちしなかった方は特にここでより理解を深めてください。
漏れがなくダブりもない状態、つまりMECEの状態というのは、上記の図のように
を指します。
10歳から20歳の集団をMECEで表してみると、例えば以下のような分類ができますね。
MECEではない状態には、次の3パターンがあります。
それぞれについて図解しつつ見ていきます。
ダブりはないが漏れがある状態とは、AとBは被っていないが、AとB以外にも考えられる要素がある状態のことです。
10歳から20歳の集団を以下のように分類すると、ダブりはないものの漏れがあることが分かるでしょうか?
専門学校生や短大生、社会人、浪人生などの要素が漏れています。
漏れはないがダブりがある状態とは、上記の図のように全体(=A+B+C)は漏れなく分類されているものの、BとD、CとDの両方に分類される要素がある状態のことです。
10歳から20歳の学生の集団を以下のように分類すると、漏れはないものの、「受験生」と「小学生」「中学生」「高校生」がダブっています。
漏れもダブりもある状態とは、上記の図のようにAとB以外にも考えられる要素があり、AとBの両方に分類される要素がある状態のことです。
10歳から20歳の集団を以下のように小・中・高校生の年齢を意識して、「10歳~12歳」「12歳~15歳」「15歳~18歳」と分類すると、「19歳~20歳」の区分が漏れています。また「12歳」「15歳」がダブっていますね。
次にMECEの具体例を3つご紹介します。
売上を改善したいといった場合を考えてみましょう。売上高の推移だけ見て、「どうやって売上を改善したらいいのか」「なぜ売上が目標値に達しないのか」などは分かりません。そこで、売上を分解します。ここでは、携帯電話の通信料における売上を考えてみましょう。
売上は、顧客単価と顧客数の2つに分解できます。
つまり売上を伸ばすためには、
の2つの対策があることが分かります。
そして、それぞれ以下のように分解可能です。
このように分解すると、売上改善のために「どこが課題になっているのか」仮説を立てられるようになり、例えば「新規顧客が伸び悩んでいる」となれば、新規顧客を獲得するための流れを確認し、そのどこに課題があるのか掘り下げていきます。そして課題が分かったら、改善策を検討していきます。改善策も複数あることが多いため、ここでもMECEに分類していくのです。
担当者が感覚で「ここが課題かも」と出し合っても、「他に課題はないのか?」という疑念が残りますが、MECEを使うと全体像が整理できて説得力が増し、議論も進みます。
社内・社外問わずアンケートを実施する際、回答の選択肢を検討する際にMECEの概念が必要になってきます。
例えば、社内向けのアンケートで雇用形態を聞く場合。選択肢は、「経営者・役員」「正社員」「契約社員」「派遣社員」「パート・アルバイト」となります。雇用形態は基本的に一つ回答するものですので、ダブりがあったり、漏れがあったりすると回答者が困ってしまいますね。
MECEを活用した物事の考え方には、「トップダウンアプローチ」と、「ボトムアップアプローチ」の2種類があります。全体像を把握できている場合は「トップダウンアプローチ」が向いていて、全体像を把握できていない場合は「ボトムアップアプローチ」が有効です。
そして内容によっては、両者のアプローチを組み合わせて考える必要があるケースも出てくるでしょう。ここでは、それぞれの特徴を理解しましょう。
トップダウンアプローチとは、全体の大枠を決めてから、詳細化や細分化をしていく手法です。演繹的なアプローチであり、全体像やゴールがわかる場合、知見のある分野でどう分類するといいかはっきりわかっている場合などに有効です。
物事を俯瞰的に捉えることができるのが良さでしょう。一方で、全体像が見えていない場合は、漏れが発生する可能性が高く向きません。
ボトムアップアプローチは、トップダウンアプローチとは逆で、必要な要素を洗い出し、それをグルーピングする形で進める手法です。帰納的なアプローチであり、全体像がはっきりしない場合にも有効なので、未知の分野や新しい領域でMECEを活用したい場合に向いています。詳しくない分野であっても物事を考えるきっかけを作れるのが良さです。
ただし要素の洗い出しが不十分だったり、知見がないためにグルーピングの仕方を間違ったり、精度が粗くなったりしてしまう可能性があります。このため、各要素をしっかりとブレーンストーミングで洗い出すなど抜け、漏れが発生しないよう進め方に注意しましょう。
MECEを考える際、課題や目的に合わせて「どのような切り口にするか」が重要です。ここでは4つのポイント「要素分解」「因数分解」「時系列・ステップ分け」「対称概念」を見ていきましょう。
「足し算型」「積み上げ型」とも呼ばれる「要素分解」。全体像を把握したうえで、要素へと分解し、その要素の総和が全体となるように切り分ける手法です。例えば血液型は「A型」「B型」「O型」「AB型」に分解でき、一人が二つの血液型を持つことはないため、A型の人、B型の人、O型の人、AB型の人を足すと、全体になりますね。
分析対象を計算式で表し、それぞれ要素に分解する手法が「因数分解」です。MECEの具体例として前述した売上は、「売上=顧客単価×顧客数」と計算式で表せますね。このように掛け算で表せることから、因数分解は「掛け算型」と呼ばれることもあります。
分析対象を時系列や段階で分解する手法が「時系列・ステップ分け」です。「準備→実行→評価→改善」「仕入れ→加工→製品化→出荷」といった作業などの流れをステップごとに分類します。
分析対象について相反するもの、対称的な概念をあげていく方法が「対称概念」です。たとえば、「メリットとデメリット」「法人と個人」「主観と客観」などがあげられます。
ここまでお読みいただくと「MECEとは何か」は理解できたと思いますが、実践するとなると自分にできるのか不安もまだ残っているでしょう。MECEに慣れると漏れやダブりに気付けるようになりますが、慣れないうちは難しいのも事実。そんな方は、枠に当てはめながら考えられるフレームワークを使ってみるといいでしょう。フレームワークを使うことで相手への説得力を高めやすくなります。
ここではよく知られている洗練されたフレームワーク10選をご紹介します。
外部環境分析を行う際に有効なのが3C分析です。企業活動を3つのプレイヤーから分析します。3Cとは、「市場顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」を指します。顧客や市場の変化を分析し(Customer)、競合会社の戦略や商品を分析(Competitor)。最後にこの2つの視点から自社の成功要因を探し、強みを認識し、今後の戦略に活かす(Company)といった使い方をします。
SWOT分析とは、各要素を自社を取り巻く環境(内部環境と外部環境)と自社の現状(プラス要因とマイナス要因)に分けて分析を行い、ビジネス機会を発見するために用いられるフレームワークです。
SWOTとは、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」を指します。内部環境とは自社が保有する商品やブランド力、リソースなどで、外部環境とは市場の成長性や政治情勢など自社で影響をコントロールできない要素のことです。
何をどう売るかという企業側の視点でのマーケティング戦略を考えるときに有効なのが4P分析です。4Pとは「製品・サービス(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「販売促進(Promotion)」のことです。
この4つのPは独立したものではなく、密接に関わり合っているので、「Product」→「Price」→「Place」→「Promotion」の順に分類を進めると整理しやすいでしょう。
企業における組織戦略を分析するのに用いられるのが7S分析です。7Sは、「ハードの3S」と「ソフトの4S」に分けられます。ハードの3Sは組織の仕組みに関する要素で、ソフトの4Sは会社に所属する人に関する要素です。
【ハードの3S】
【ソフトの4S】
7つの経営資源を通して組織の現状を分析し、相互に補強し合いながら戦略の実現を目指します。
PDCAとは、品質管理などを継続的に改善する手法で、要素を時系列もしくはステップに分解します。PDCAは「計画(Plan)」「実行(Do)」「評価(Check)」「改善(Act)」の頭文字で、このプロセスを何度もまわすことで改善していきます。
5フォース分析とは、5つの競争要因から生まれる競争圧力を分析することで、その業界の収益性を判断するためのフレームワークです。ファイブフォース分析、五力分析、5つの力分析、5つの競争要因分析など、さまざまな呼び方があります。
5つの競争要因には、「業界内の競合(既存の競合他社)の脅威」「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」「売り手(供給業者の交渉力)の脅威」「買い手の交渉力の脅威」があります。
5フォース分析を行う際は、特定の業界や製品に絞る必要があるので、その点だけご注意ください。
PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境を4つの視点から分析するためのフレームワークです。PESTは「政治・法律的要因(Politics)」「経済的要因(Economy)」「社会・文化要因(Sosiety)」「技術的要因(Technology)」を指します。
外部環境の変化を把握し、組織や商品、サービスを時代に即した形に変えていくことで事業拡大のチャンスにつなげるためにPEST分析を活用したり、新事業を展開する際に活用したりします。
AIDMAは顧客理解を目的とするフレームワークです。消費者が商品やサービスを認知してから実際に購入するまでの行動モデルを5つのフェーズに分類します。AIDMAは、「注意・認知(Attention)」「関心(Interest)」「欲求(Desire)」「記憶(Memory)」「行動(Action)」を指します。
AIDMAを活用すると、より具体的にペルソナを設定できたり、顧客フェーズごとのアプローチ方法を設定できるため適切なタイミングで適切な情報提供が可能になったりします。
ロジックツリーは、問題の原因を深掘りしたり、解決策を具体化するときに役立つフレームワークです。MECE的な切り口で分解した要素をツリーのように並べます。各内容の因果関係が明確になるのが良さです。
バリューチェーンは、顧客に価値を提供するための一連の流れを表したフレームワークです。自社が他社と比較して、どこに強みがあり、弱みがあるのか、付加価値を提供できているのかなどを分析して、事業戦略に活かします。
たとえば、事業活動は、「仕入」「製造」「物流」「販売」「サポート」などと分解できます。そしてその事業活動を支えるための活動や仕組みとして、「調達」や「人事や労務管理」「技術開発」などがあります。
MECEは優れた概念ですが、万能というわけではありません。MECEにこだわりすぎると上手くいかないケースなどもあります。ここではMECEの注意点を2つ紹介します。
MECEはあくまでも物事を分かりやすく整理して、考えやすくするための方法です。しかしMECEに分類することに夢中になると、本来の目的を忘れてしまうことも……。分類すること自体に完璧を求めすぎないようにしましょう。
完璧を求めすぎて、あまり影響がない要素まで細かく分類してしまうと、逆に分かりにくくなることもあります。どこまで掘り下げて分類すれば、目的を果たせるのか、優先順位を意識して進めるといいですね。一緒に仕事をする相手が納得できるレベル感がひとつの基準です。
MECEで特に意識したいのは、重要事項の「漏れ」。要素そのものが抜け落ちていると、改善効果が下がります。一方で、多少であればダブりは許容範囲だと考えていいでしょう。
「漏れがなく、ダブりがない状態」という集合に関する概念であるMECE。限られた時間の中で課題をシンプルに切り分け、効率的に解決したり、相手に納得感を与えられたりと、ビジネスパーソンが身に付けておいて損はないスキルです。
ご紹介した10のフレームなども参考にして実際に試してみてください。