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小売業界の次世代マーケティング「OMO」とは?企業の取り組み事例からわかりやすく解説!

作成者: 『shouin+ブログ』マーケティング担当|Feb 17, 2023 1:00:00 AM

デジタルトランスフォーメーション、通称DXが高い注目を浴びているように、近年あらゆるビジネスのデジタル化が進んでいます。そのなかでも、特に小売業界で話題となっているのが「OMO」です。

しかし「聞いたことはあるが、どういうものなのかよくわからない」という方も多いはず。そこで今回は、「OMO」とは一体何なのか詳しく解説します。

基本的な知識に加え、実施するメリットや具体的な企業事例などもご紹介しますので、OMOの実施を検討中もしくは興味を持ち始めた人事の方、営業、マーケティング責任者の方はぜひご参考ください。

 

OMOとは「オンラインとオフラインの融合」

OMOは「Online Merges with Offline」の頭文字をとって略した言葉。「オンラインとオフラインが融合すること」という意味です。

具体的には、デジタルとリアルを分け隔てなく扱うこと、ネットとリアルを融合させたビジネスモデルを指します。Google Chineの元CEOであるリー・カイフ(李開復)氏によって提唱されました。

OMOの主な目的は「顧客体験の向上」です。オンラインとオフラインの境目を意識させないサービスによって、ストレスフリーな顧客体験を提供するのが狙いです。

また、顧客との接点を増やすことも目的のひとつ。「リアルのみ」「デジタルのみ」と限定せず、さまざまな場面で顧客にコンタクトできるようにすることで、より幅広い顧客データの収集が可能になります。そして、集めたデータはさらなる顧客体験の向上に役立てられます。

 

O2Oとの違い

OMOと共によく耳にするのが「O2O」。O2Oは「Online to Offline」の略語です。オンラインシステム・サービスを活用し、オフラインへ顧客を誘導することを意味します。

例えば、SNSやwebサイトで情報を発信し、リアル店舗への来客数・売上げ向上を図る施策などがあります。また、リアル店舗への集客増加のため、オンラインクーポンを配布するのもO2Oの代表的な施策例です。

オンラインとオフラインの両方をビジネスに組み込むという点では、OMOと共通しています。しかしO2Oは、顧客を誘導する流れが一方的。対するOMOは、顧客がオンラインとオフラインを行き来することを想定して設計されます。

また、O2Oは「リアルでの収益向上」が目的。オンラインを活用するものの、あくまでオフラインが主軸です。

一方OMOは、オンラインとオフラインを区別しないため、優先順位がありません。顧客体験の向上が最も重要な目的であり、オフラインを利用するか、オンラインを利用するかは顧客に委ねます。

 

オムニチャネルとの違い

「全体」「すべての」という意味の”オムニ”と、「流通経路」という意味の”チャネル”を組み合わせたオムニチャネルは、流通経路のすべてを統合することを指します。オンラインとオフライン、それぞれの流通経路を統合し、顧客との接点を増やすビジネスモデルです。

オンラインとオフラインを分け隔てなく扱うという点では、OMOと同じです。しかし、目的と視点に違いがあります。

オムニチャネルは、顧客との接点を増やし、購買を高めるのが目的。また顧客データを統合することで、顧客分析および経営戦略の改善に役立てます。

対するOMOは、顧客体験の向上が目的であり、購買へとつなげることだけが目的ではありません。認知度の向上やアフターフォローの向上など、購買以外の行動もビジョンとして含まれます。

そのため、OMOは顧客目線で設計することが重要。企業目線で利益向上を目指すオムニチャネルとは違い、「どうすれば顧客に喜ばれるのか」を重視する、顧客に寄り添った経営戦略なのです。

 

OMOが小売業界で注目されている背景

OMOが小売業界で注目されている背景には「アフターデジタル時代の到来」があります。

(引用元:「尾原和啓, 藤井保文(2020)『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』日経BP社」)

「アフターデジタル」とは、デジタル技術やオンラインサービスが人々の生活の中心にある現代社会のこと。オフラインサービスやリアル店舗の利用が基本で、時々オンラインを利用する、といった従来の社会を表す「ビフォアデジタル」の対になる言葉です。

『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』という書籍にて、著者の尾原和啓氏と藤井保文氏はアフターデジタル社会について、以下のように述べています。

デジタルやオンラインを「付加価値」として活用するのではなく、「オフラインとオンラインの主従関係が逆転した世界」という視点転換にあると考えます。

(引用元:「尾原和啓, 藤井保文(2020)『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』日経BP社」)

買い物、情報収集、コミュニケーション……何をするにしてもオンラインが欠かせない現代社会。そのような環境で暮らす消費者の期待に応え、企業が生き残っていくためには、デジタルを中心とするビジネス形態へとシフトしていく必要があります。

その施策のひとつとして挙げられているのがOMOです。オフラインとオフラインを区別しない消費者の生活に合わせてビジネスを展開することで、顧客が離れていくのを防止するのです。

むしろ、オンラインとオフラインを区別したまま、もしくはリアルのみに囚われたビジネス展開は、消費者の価値観や行動とズレたものに。今後、倒産の危機に瀕する可能性も否定できません。よって、多くの企業がOMOに注目し、実現に向けて取り組んでいるのです。

 

OMOから得られるメリットとは?

アフターデジタル時代において必要不可欠なOMOですが、実現するとどのようなメリットがあるのでしょうか。主な3つの利点をご紹介します。

 

メリット1:リピート率・リピート客の向上

デジタル技術は、オフラインでの不便を解決します。オンラインショッピングを利用すればその場で欲しい物を手に入れることができ、スタッフと対面しないためウィルス感染の心配もありません。

しかし、オンラインにもデメリットはあります。例えば、オンラインショッピングでは配送料がかかり、荷物を受け取るまでの待ち時間が発生します。荷物の到着時間に合わせて予定を組まなくてはならないなど、「すべてが便利」ではないのです。

OMOでは、そういったオンライン・オフラインそれぞれの欠点を補うように設計します。オフラインの不便をオンラインで解決し、オンラインの不便をオフラインで解決することで、ストレスフリーなサービスを提供できます。

顧客体験が向上すれば、顧客満足度が上がり、リピート客の増加が期待できます。生活を豊かに、快適にしてくれるサービスだと認められれば、リピート率の向上も見込めるでしょう。

 

メリット2:口コミによる新規顧客の獲得

オンラインサービスは便利ですが、五感を刺激する体験や、予想外の出会いはありません。

  • 販売員から専門的なアドバイスが受けられる
  • 店員からの提案により思いがけず良い商品に出会える
  • 実際に商品を手に取り、見て触れる

これらは、オフラインだからこそ実現できることです。

OMOが実現すると、このような顧客体験をオンラインでも提供することが可能になります。商品の購入やサービスの利用を快適にするだけでなく、それ以上の利益、喜びを顧客へと提供できるのです。

期待以上のサービスを受けると、人は周囲に紹介したくなるもの。よってOMOの実現には、口コミによる新規顧客の獲得が期待できると言えます。

 

メリット3:よりリアルな顧客データの取得

オフラインとオンラインを区別しないOMOでは、それぞれの経路から取得する顧客データが統合されます。オフラインのみを利用する顧客のデータ、オンラインのみを利用する顧客のデータに限らず、オンオフ両方を利用する顧客のデータも取得可能になるのです。

(引用元:「全国の20歳〜79歳の男女1000人に聞いた『リアル店舗とオンラインショップ、どう選ぶ?』」株式会社ネオマーケティング)

株式会社ネオマーケティング」が行った調査の結果を見てみると、購入品のジャンルによって差はあるものの、実店舗とオンラインショップを半々で利用する消費者は一定数いることがわかります。

ところが、オンラインとオフラインの顧客データを分けた場合、両方を利用する顧客のデータを取り逃がすこととなります。”いつ、どのようなシーンでオンラインとオフラインを使い分けているのか”などは、予測するしかなくなるのです。

反対に、OMOによって顧客データが統一されれば、その情報を得ることができます。

例えば上記調査結果にある「本・CD・DVD」ジャンルの場合、17.2%の顧客から得られるデータの取得が可能に。よりリアルで詳細な情報を手に入れることができ、顧客分析の精密さが向上します。

また、オンラインとオフラインを行き来する消費者のデータを掴むことができれば、既存チャネルの経営戦略にも活用できます。「いつ、なぜオフライン・オンラインを利用するのか」がわかることで、それぞれのチャネルにおける改善点が見つかるのです。

もし施策が失敗に終わったとしても、顧客のリアルな情報を得られるだけでも、十分にメリットがあると言えます。

 

OMO実現のために企業が取り組むべきこと

実施する施策によってやや違いはありますが、OMO実現に向けて最低限取り組むべきこととは、主に以下の4項目。詳しく見ていきましょう。

 

OMOを実現する4つの条件

提唱者であるリー・カイフ氏は、OMOを実現するための条件として以下の4点を挙げています。

これらの条件が揃うことでOMOは実現します。

1つの企業がすべての条件を満たすことは難しいでしょう。例えば「モバイル決済の普及」や「AIロボットの普及」は、IT技術の進歩と社会の変化が必要です。

しかし、環境と企業の取り組みが整っていれば、どの業界でもOMOは実現可能と言えます。リアル店舗のみで展開する飲食店や小売店など、一見デジタル化が難しいように思える業種でもOMOは実現できるのです。

 

顧客動向の調査と分析

OMOの実現に必要不可欠なデジタルシステムですが、的外れなものを選ぶとすべてが無駄になってしまいます。そのため、顧客動向の事前調査と分析が必要です。

既存の顧客動向の調査はもちろん、市場の動向調査も重要。ターゲットとなる消費者の購入傾向、ニーズを掴むことで、自社が取り組むべきOMO施策と導入すべきシステムを絞り込めます。

 

ITシステムの導入・整備

顧客動向の分析を行った上で、自社に合ったITシステムを導入します。

オフラインのみでビジネスを展開している企業は、新たにデジタルシステムを導入する必要があります。既にオンラインシステムを導入している企業も、OMOに向けたシステムの整備が必要です。

また、新システムを導入する際は、運用のための環境整備も必要。施策の規模にもよりますが、人材配置や流通経路など、影響されるマネジメント全体を見直さなければならない場合もあるでしょう。

 

顧客データを管理するデータベースの構築

OMOでは、増加した顧客との接点から多くのデータが集まります。そのため、新たにデータベースの構築が必要なケースも出てくるでしょう。

さらに、オンライン・オフライン各経路のデータを連携させたり、データ分析がしやすい仕様へ改善したりといった整備も必要です。せっかく集めたデータも活用できなければ意味がないため、活用シーンをシミュレーションしつつ準備することが大切です。

 

従業員のデジタル知識・スキル向上

サービスのデジタル化が進んでも、それを管理・運営する従業員にIT知識とスキルがなければ機能しません。よって、研修などを実施して教育する必要があります。

特に小売業界は、従来リアル店舗での運営が中心なこともあり、ITにあまり強くない従業員が多いでしょう。

しかし、リアル店舗で培った知識とスキルも無駄ではありません。むしろ、現場にいたからこそ得られた経験は、OMOを実施する上で「強み」になります。対面接客で得た顧客の声は、オンラインでは得られないからです。

よって、既存の従業員に新たな知識を身につけさせる「リスキリング」なども、OMOの実現に有効と考えられます。オンライン・オフラインの両方に強い人材へと育てることが、OMOを成功させる鍵となるでしょう。

 

OMOを推進する国内外企業の事例6選

「OMOに取り組みたいが、具体的に何をすれば良いかわからない。」という方のために、ここで企業事例をご紹介します。OMOが進んでいる中国と米国の企業事例も含めて解説しますので、施策にお悩みの方はぜひお役立てください。

 

Luckin Coffee(瑞幸珈琲)

2017年に創業した、中国のコーヒーチェーン店「Luckin Coffee(瑞幸珈琲)」。当社は、メニューの注文から決済までできるモバイルアプリの導入や、リアル店舗内でのIoT活用など、OMOを積極的に推進する企業です。

なかでも注目を浴びているのが、店舗で味わえるコーヒーと同じものを提供する無人コーヒーマシン「瑞即购」の設置。こちらの機械を使って、24時間いつでも手軽に本格コーヒーが楽しめるシステムを実現しました。

さらに「瑞即购」は、同社のデータ管理システムとつながっており、顧客データの収集も可能。”飲食”というリアルを避けられないジャンルが、デジタル技術をうまく取り入れ、顧客体験の向上に役立てた事例です。

 

Amazon,Inc

中国同様、OMOの推進が著しいと言われる米国。なかでも「Amazon,Inc」が運営する「Amazon Go」は、OMOの代表例として広く知られています。

「Amazon Go」は、レジに並ぶこともレジ会計もいらない「タッチ&ゴー」型の小売店。顧客は入店時、アプリのQRコードをゲートにかざし、商品のバーコードをアプリで読み取ります。すると、事前にクレジットカードを登録したアプリで決済され、会計が完了するという仕組みです。

レジに並び、会計するというリアル店舗での「不便」を解消し、商品を実際に手に取れるというリアル店舗での「強み」を活かした、まさにOMOの理想とも言える事例。さらに、店舗内に設置されたカメラやマイク、商品棚の重量センサーなどを活用し、顧客分析と顧客体験の向上に役立てているとのことです。

 

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社

関東を中心に数多くのスーパーマーケットを展開する「ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社」。同社では「Scan&Go ignica」と呼ばれるアプリを活用したOMOを実施しています。

顧客はアプリで店舗にチェックインし、買いたい商品のバーコードをスマートフォンでスキャン。「チェックアウトポイント」と呼ばれる場所でQRコードをかざすと、決済が完了します。「Amazon Go」と同様、レジに並んで会計するという動作を省略したシステムです。

さらに同社は2022年12月より、「Scan&Go」アプリでの現金払いにも対応中とのこと。モバイル決済に慣れない顧客のニーズに応える施策です。

“現金離れ”が進む現代ですが、まだまだ現金派の消費者もいるのが事実。同社は、そのような顧客の気持ちに寄り添ったOMOを展開しています。

OMOは、デジタル化が重要なのではなく、あくまで「顧客体験の向上」を目指すもの。この事例からは、目的を見失わないことの重要性が学べます。

 

三越伊勢丹

日本の大手百貨店「三越伊勢丹」は、「マッチパレット」を活用したOMO施策を実施しています。

「マッチパレット」とは、3Dボディスキャナーによる体型の計測と、スタイリストによるアドバイスが受けられるスタイリングサービスのこと。オンラインショッピングやリアル店舗での洋服選びに役立つデータを、顧客へ無料で提供しています。

さらに、チャットサービスも無料で提供。接客を受けられないネットショッピングでの不便を考慮し、気軽に相談できるシステムを導入しています。

ファッションは、専門家からのアドバイスを必要とする分野。そのため、こういったデジタル技術を用いたアドバイスのサービスは、顧客が買い物をする際の手助けとなります。

また企業にとっても、オンラインを通じて顧客との接点を保つことができるのは、大きなメリット。実際に「マッチパレット」経由の客単価は通常と比べて40%〜50%高く、決定率6割キープと数値にも現れていることから、このOMOが顧客体験の向上と企業利益の向上に貢献しているとわかります。

 

株式会社パルコ

商業施設「PARCO」を全国に構える「株式会社パルコ」は、自社独自のスマートフォンアプリ「POCKET PARCO」を用いたOMOを実施している企業。リアル店舗でのチェックインでコインが貯められる機能や、パーソナライズ化された情報の発信など、商品購入以外での顧客との接点保持にデジタル技術を活用しています。

また同社の店舗「渋谷PARCO」には、デジタルサイネージを設置。ECサイトと連携した機能や仮想試着機能などが搭載されており、オンライン・オフライン問わず顧客の買い物に役立つサービスを提供しています。

実際に見て回りたいときはリアル店舗で、目的のものをすぐに手に入れたいときはオンラインショッピングでと、時と場合によって消費者の購入手段は変わるもの。「PARCO」の事例は、そんな「オンラインとオフラインを使い分ける顧客」が多いファッション分野ならではのOMO施策と言えます。

 

株式会社カインズ

大手ホームセンター「CAINZ」を経営する「株式会社カインズ」は、「カインズピックアップ」と呼ばれるサービスでOMOを実現。アプリやオンラインショップで申し込んだ商品が、店舗の「PickUp ロッカー」に取り置きされ、商品を実際に目で確認してから購入できるというシステムです。

「店に来てみたら目的の商品がなかった」というリアル店舗で発生する問題と、「実際の商品が想像と違った」というオンラインショッピングで発生する問題。「カインズピックアップ」サービスは、これら両方の欠点をカバーしているのが特徴です。

そのほか、店舗には売り場案内ロボットを設置。顧客が商品を探す手間をなくすと共に、店員が商品案内以外の接客に力を注げるよう工夫しています。

“店舗に立った経験者が多いのは当社の強み。お客様の暮らしに寄り添い続けるカインドネスな精神は、カインズのすべての戦略の根底にあるものです。”

(引用元:「日本経済新聞出版『日経MOOK 実践!店舗DX』日経BP」)

日本経済新聞のインタビューに対し、このように答える「カインズ」のデジタル戦略本部、本部長の池照直樹氏。同氏の言葉と事例から、リアル店舗中心の企業もOMOが実現可能なこと、そしてオフライン経営で培った経験がOMOに役立つことがわかります。

 

まとめ

デジタル技術が発展するにつれ、ビジネスのあるべき姿も変わってきています。OMOも、時代の変化があったからこそ生まれた概念です。

海外と比べてモバイル決済の普及がやや遅れ気味と言われる日本ですが、それでもビジネスモデルの改革を行っている企業は少なくありません。デジタル化がさらに進んだこの先、時代遅れの企業とならないためにも、早めに手を打つことが大切です。