飲食店でアルバイトしたことがある人誰もが一度は読んだことがあり、その大切さを理解している業務マニュアル。
皆様はそんなマニュアルに対して、どのような認識をお持ちでしょうか?今では、「マニュアルは不要だ」という人は減り、多くの企業や店舗が必要性を認識しています。
しかしマニュアルが整備されているかと問うと、「あるにはあるが、内容が実情にあっていない」とか、「実はない」と回答する企業が多くなります。
マニュアルと一口に言ってもいろいろありますが、中でも業務マニュアルは、業務の質を向上しながら、コストや時間を削減してくれる重要な存在。機会があれば作成したいと考えているところは多いものです。
この記事では業務マニュアルの果たす役割やメリット、作成の方法などを解説します。
業務マニュアルとは、作業手順書のことを指します。業務品質を一定に保ちながら効率化を図り、個人レベルを上げることで組織レベルの向上にもつなげます。
各種店舗などで接客をする人や電話応対を担当する人が使用するマニュアル。事務職が行うルーチンワークの作業手順を示したマニュアルなど多くの作業現場で使用されています。
他にも、介護従事者であれば介護の手順をまとめた介護マニュアル、システム開発であれば本番環境でリリースするまでをまとめたものなど、マニュアルはあらゆる事業で重要な役割を果たすのです。
ところが、勢いに任せてマニュアル作成に取り組むと、使い勝手が悪いものができてしまい、イメージしたようなメリットを得ることはできません。
例えば、事細かに作業の必要性や心構えまで説明しているかと思えば、次工程がないために作業を完了できないもの。心構えに終始し、肝心の作業が適当にしか書かれていないものなどがあります。
こうならないために、まずはマニュアルにはどのような種類があるかを知ることが大切です。
「仕事力がアップする!マニュアルのつくり方・生かし方」によると、マニュアルは大きく分けて4つに分類できます。
1つ目は今回のテーマである「業務(オペレーション)マニュアル」。これは業務手順書などと呼ばれるもので、業務を行う上で、何をどのようにすればよいかやその業務の意味を明確に示すものです。
2つ目は「取扱い・使用説明(ユーザーズ)マニュアル」。いわゆる取扱説明書で、マシンやアプリなどの導入方法や操作方法などが記載されるものです。 業務マニュアルとの違いは、業務を行う意味など広く説明しているか、操作方法に特化しているかです。
他に、企業の在り方や考え方、また行動指針を示す「規範(マインド)マニュアル」、従業員をどの方向に教育していくかを明確化した「教育訓練マニュアル」に分けられます。
この4つのマニュアルは、それぞれに目的が違うことがお分かりいただけると思います。
基本的に、業務マニュアルの中に取扱い・使用説明書の一部が記載されることはあっても、丸っきり合体させたものは適切ではありません。なぜなら、目的が違うからです。また、ボリュームもありすぎて、伝えるべき内容が正しく伝わりません。
これは非常に重要なポイントです。
マニュアルの4分類を理解した上で、今一度、業務マニュアルについて考えてみましょう。
業務マニュアルは手順書ですから、作業の役割を明確にした上で手順を明確にするものであるべきです。単純に作業内容を説明するだけなら取扱説明書にすぎないからです。
また、各作業は業務フローに沿ってもれなく示され、完了できるところまで示されていることが大切です。周りがフォローをすることがあっても、基本的に業務マニュアルの通りに行えば、業務が正しく行えるものであるべきです。
業務マニュアルを作成するメリットを詳しく見ていきましょう。
同著で小林氏は、業務マニュアルと業務の標準化の関係性について以下のように述べています。
標準化とは、当事者間の納得に基づき物事の合理的な基準を決め、その導入を図る組織ぐるみの活動です。業務マニュアルの作成、すなわち”業務のマニュアル化”とは、”業務の標準化”にほかなりません。
引用:小林隆一著 「仕事力がアップする!マニュアルのつくり方・生かし方」(PHPビジネス選書)
生産性の向上は人件費にも直結する大きなテーマです。マニュアルを作成し作業を標準化することで、無駄な作業を排除できます。
従業員はさまざまな作業をする中で、個人の裁量で判断し対応している部分が多くあります。これを作業の属人化などと呼びますが、この効率化を図った部分を見える化し、共有することができれば、皆が効率よく作業できるわけです。
同じ作業をしても、早くできる人と時間がかかる人がいます。ですが、標準化することで各作業にかかる時間も見当をつけやすくなり、「〇分でやる」と言うように指示も出しやすくなります。
またもうひとつ。作業の引継ぎや新人教育のときにも効率化が図れます。作業が属人化していると、どこまで伝えて良いのか、悪いのかが分かりません。そのため多くの場合、過不足が生じるのですが、業務マニュアルがあれば伝え忘れが防げます。
また、教わってから各人が創意工夫をはじめると、時間がかかってしまいます。
創意工夫は重要なことですが、有益な方向性に使われなければ意味がありません。いつも皆が同じところでつまずき、自分で創意工夫をし、それで解決していくのでは企業としての成長はなく、非効率です。
それならば、業務マニュアルを見れば一定以上のレベルにできるという状態にできれば、新たなことに創意工夫をすることができ、ますます効率化が図れるようになります。
業務マニュアルができれば、さまざまな面でコストの削減が可能になります。
例えば、最近特に増えている、作業のIT化。作業にIT技術を取り入れることで、作業工数を大幅に減らせることがあります。導入時、標準的な作業が明確になっていれば、それを元にIT技術を導入し、マニュアルを新たに作成することで、素早く浸透させることが可能となります。
一方、標準化されていなければ、現場で作業を精査し、IT化の導入を決めなければなりません。こうなると時間もコストもかかります。
日々刻々と変化する現場で生み出される貴重な知恵の数々。それをすくい上げ、会社の施策に反映する。仕組みが整備されているかどうかで、会社の成否を左右します。
マニュアルは、現場の知恵を誰でもできるカタチに標準化して、会社の財産にしていく、最強のツールと言えるでしょう。
引用:工藤正彦著 「小さな会社の〈人と組織を育てる〉業務マニュアルのつくり方」(日本実業出版社)
業務マニュアルに沿って作業を行うことを社内の共通ルールにすることで、一定品質の業務やサービスを提供できることは会社全体を成長させることにつながります。
作業には創意工夫が加わることを前述しましたが、マニュアルによって基準が明確になっていなければ、顧客満足を犠牲にした作業の効率化が行われることもあります。また、ミスをいとわず作業を簡略化する人も出てきます。
業務マニュアルは、単に作業を平準化するだけでなく、従業員の意識統一や品質の均一化が図れます。またミスが起こりにくくなるのも大きなメリットです。
平たく言えば、スーパーなどで一人の従業員が肉の調理だけでなく、魚も野菜も調理できるようになれば、繁忙期なので人員の調整がつき、業務量の平準化や効率化につながります。一部の部署や特定の従業員に偏っていた業務をほかの従業員にも担当させることができます。これによって、人も組織も「総合力」を持つことになります。
引用:工藤正彦著 「小さな会社の〈人と組織を育てる〉業務マニュアルのつくり方」(日本実業出版社)
タイミングによる人材の偏りは多くの企業に解決すべき問題でしょう。これを平準化することで組織全体としての力をアップできることは、将来へのムダのない成長に欠かせない条件となります。
また、意外と気がついていない企業が多いのですが、業務マニュアルは時として、企業を守る役割を果たします。これはミスが減少するという直接的なメリットだけではありません。
上記の例で言えば、魚担当者に野菜の調理を担当させてミスが起こった場合、業務マニュアルに沿って手順を確認すれば、どの部分にミスが発生したのかをスピーディに探ることができます。
また問題が起こったとき、企業の責任がなくなるわけではありません。ですが、マニュアルがなければ「企業として取り組みが甘かった」と言う印象を与えてしまうのに対し、マニュアルがあれば「対策はとっていたが教育が不十分であった」となり、与える印象は随分と違ってきます。
業務マニュアルは本来の作業の効率化以外に、企業の姿勢を示すものでもあると認識すべきでしょう。
業務マニュアルを作成することで、以下のようにデメリットになる点もあります。詳しく見ていきましょう。
業務マニュアルは作業の標準を明確にするものです。そのため多くの人は、「この作業はこの手順に沿ってやればよい」と感じるため、それ以上の創意工夫がされないことがあります。これにより、改善スピードが落ちることがあります。
こうならないためには、マインドマニュアルや教育訓練に関するところで、マニュアルの活用法についてしっかりとフォローすべきでしょう。
業務マニュアルは常に最新の情報が書かれていることが重要です。内容が古ければ、従う人がいなくなったり、サービスレベルが低下してしまったりするからです。
また新しい作業を導入するときも、その時点でベストだと考える方法をマニュアル化して広めるという作業があります。
マニュアルを改定する、そして広く知らしめる作業は手間がかかります。これがデメリットといえるでしょう。
ではここから、業務マニュアルの作成手順を説明します。「仕事力がアップする!マニュアルのつくり方・生かし方」によれば、作成工程は、企画、調査・分析、設計、制作、導入・運用の5段階に分けられると示されています。
マニュアルを何のために作成するのかという明確な方針を決め、「誰に向けて、どのような体制で、どのようなマニュアルをつくるか」を決めるのが最初に取り組むべきこととなります。
要件を定義するには、5W1Hを使うのがポイントとなります。
Who(誰が) |
誰に向けたものか。 |
When(いつ) |
どんなときに使うものか。 |
Where(どこ) |
ゴールをどこにするか、何を目標にするか。 |
What(何を) |
どういった内容を記載するか。 |
Why(なぜ、理由) |
どういう理由で作成するか、何を目的に作成するか。 |
How(どのように) |
マニュアルをどのように作成するのか。 |
この段階で、マニュアルの発行方法など様式も決めます。印刷物として配布するのか、データで発行するのか。そもそもテキストにするのか、動画にするのかなども、最初の段階で決めておきます。
マニュアルに盛り込む要素と内容を洗い出します。
タスクは大まかなジャンルから書き出し、細かく分けていくと抜けやもれがなくなります。また、各作業の関連性も確認する必要があります。
机上の空論にしないためには、現場での調査は欠かせません。作成メンバーに現場の人を入れたり、インタビューを行ったりして、生の声を聞くことが大切です。
マニュアルに盛り込むべき内容を洗い出したら、理解しやすいように順序立てを行います。ここで決めた内容が、そのままマニュアルの目次部分になると考えるとイメージしやすいかもしれません。
最初に「章」を決め、「節」「項」と細かくなっていきます。内容が多くなるときは、担当作業ごとにマニュアル自体を分けるのがよいでしょう。
また、マニュアルの冒頭部分には誰を対象としたもので、どのような目的を持っているのかなどを明確に記すようにします。
集めてきた内容を元にライティングをはじめます。
内容によってはテキストだけでなく、写真やイラストなどのビジュアルを使って解説する方が伝わりやすいこともあります。
複数の人がライティングにあたる場合、文末を「である・だ」にするのか、「です・ます」調にするのかなどのルールを決めておきます。
マニュアルで最も重要なのは、広く知らしめ、活用されるという点です。企業ぐるみで取り込むと、作成に労力がかかり、発行することが目的化してしまいます。
しかしマニュアル化の本来の目的は作業の効率化や生産性の向上、またはサービスレベルの向上であるはず。作っただけではこの目標は達成できません。この目標を見落とさないようにしてください。
前述しましたが、マニュアルが本来の目的を達成するためには、よく参照され、それに基づいた行動を実践してもらわなければ意味がありません。
そこで、わかりやすいマニュアルを作成する必要が出てきます。ここではそのポイントをご紹介していきます。
マニュアルを読む対象者により、理解度が違いますし、年代によっても理解しやすい方法が変わります。そのため何をどのように表現するかには十分な配慮が必要となります。
例えば、接客マニュアルでお辞儀の角度を伝える場合、「30度のお辞儀をする」と書いても、実践できる人は少数です。イラストを使って説明することが必要かもしれませんし、動画で伝えた方が効率的かもしれません。
これは、「伝える側がどのように伝えたいか」ではなく、「受け取り側がどのように説明されると理解できるか」と考えるのがポイントとなります。
業務マニュアルは、必要なときにいつでもアクセスできることが重要です。もちろんマニュアルに書かれている内容は企業独自のノウハウであり、セキュリティには十分注意を払う必要があります。ですが、セキュリティだけを考えた結果、誰にも活用されないのでは業務マニュアルを作成した意味がありません。
最近では、業務マニュアルを作成、活用するためのクラウド型のオンライン研修サービスも登場し、マニュアルをより効率的かつ効果的に社員やアルバイトに届ける仕組みを作りやすくなりました。
個人所有のスマホからでも、店舗内のみ、などの特定の条件下でPDFや動画形式のマニュアルにアクセスできるようにしている企業もあります。
仕事の精度を上げるには、その作業だけでなく、全体の流れを知る方がよく、その役割を果たすのが業務マニュアルです。その仕事にはどのような役割を持ち、どのような目的が達成されるとよいのかをしっかりと伝えます。自身が担当する業務は全体の中のどの部分なのか、なんのために自身の作業が存在するのかなど、全体像だけでなく、業務の意義まで伝えられるとなお良いでしょう。
この部分をOJTで伝えようとすると、教える人によって内容に差が出てしまうことがあるので、業務マニュアルという統一された形に落とし込むことが有効です。
ここでは業務マニュアルの作成に役立つツールを3つご紹介します。昨今はさまざまなサービスが登場し、業務マニュアルを作成専門のツール等が増えてきています。これらを使う方法もありますが、まずは手軽に始めたいという企業には、オフィス系ソフトやGoogle系のツールを使うことをおすすめします。このようなツールで作業の標準化ができれば、専門ツールに移行する場合にもスムーズなのでおすすめです。
パワーポイントはプレゼンテーションソフトですが、作業性が高く、画像やイラスト、表などを貼り付けやすい特徴があります。PDF化することも容易で、印刷して手元に置きたい場合でも、作成したページ割りのままフォーマットが崩れることなく印刷できるのでマニュアル作りに最適です。
また同じソフトを持っている人が多く、クラウド上にファイルを置き、共同管理するのにも便利です。
エクセルやGoogleスプレッドシートは表計算用のソフトですが、マニュアル作成にも適しています。各作業をシートに分け、一連の流れを1つのファイルにまとめたり、実際に使う帳票類と入力方法を記載したシートを一緒に格納することができます。
また、パワーポイントと違い、縦に長いマニュアルを作成することが可能で、説明項目が多岐に渡る場合は、エクセルが適しています。
ただし印刷することにはあまり向いていませんので(設定が必要)、その点は注意してください。
動画マニュアルは最近になって急激に増えているマニュアルの形式です。撮影が容易になったことや、公開や視聴方法が増えたことが背景にあります。
内容によってはイラストや写真で説明するより、動画の方が伝えやすいことも多くあります。特に飲食店の商品製造や、接客などは、動画に優る伝達方法はありません。
オンライン研修なども増えていて、その中で動画マニュアルを見せれば、より理解が深まります。ぜひ有効に活用していただきたい方法です。
マニュアルは活用されなければ意味がないことは前述しました。では、どうすれば活用されるマニュアルになるのでしょうか。工藤正彦著 「小さな会社の〈人と組織を育てる〉業務マニュアルのつくり方」(日本実業出版社)によれば、活用には以下の手順が必要だと記載されています。
<活用の基本ステップ>
「マニュアルを活用しましょう」と言われても、今ひとつピンとこないという方が多くいます。その理由は、「今までマニュアルがなくてもできてきた」という自尊心があるのかもしれません。
そこで、早い段階でマニュアルに触れ、実際に活用することで、自分にもメリットがあることを体感してもらう必要があります。
また、新人に対しては、最初の研修時にマニュアルを実際に見せるのが有効です。そのとき、内容について簡単なテストを行えば、緊張感を持って読んでもらえます。
どんなにマニュアルが大切だと説いても、その内容が現状に沿っていないのでは参考にされません。たとえ作業内容は同じでも、必ず改善点は出てくるもの。そうしなければ効率化は図れません。
では、改善点を加えることで、より精度を上げてゆくにはどうすればよいのでしょうか?小林氏は前述した自著の中で以下のように述べています。
日常の執務場面でマニュアルを使っていくには、マニュアルの記載内容と現場処理の間の差をチェックして、その是正を続けないといけません。
加えて、第一線担当者の参画意欲を喚起する、あるいは現場の創意工夫を促すといった観点から、マニュアルの改善提案制度の導入は有効です。
引用:小林隆一著 「仕事力がアップする!マニュアルのつくり方・生かし方」(PHPビジネス選書)
マニュアルは、「誰かの成果物であり、その人のやり方が書かれたものにすぎない」という認識を持たれる限り、活用はされません。
この意識から抜け出すためには、マニュアルに当事者意識を持ってもらうことが重要となります。マニュアルの作成自体に関わらなくても、ノウハウの提供ができれば自分事として考えられるようになります。
また、ベテランほど慣習を好み、新たなやり方を嫌う傾向があります。しかし、新たな知見や状況の変化に対応することは非常に重要なこと。マニュアルの改善提案制度を導入することで、新しい人からの提案も受け入れやすくなります。
改善提案が出たら、内容を精査し、変更点はマニュアルにしっかりと反映できるようにしてください。
また、マニュアルの改訂は、「必要になったときにやる」という意識ではなく、定期的に取り組む方がよいでしょう。その時期になって、改訂することがなければそれでよいのです。
業務内容によりますが、どんなに長くても一年に一回は改定作業をするようにしてください。
マニュアルは非常に重要だという認識を持たれながらも、適切に作成できている企業が多くないというのが現状です。マニュアルは作ることが目的ではなく、活用されることで本来の目的、例えばサービスの向上や作業の効率化が図られて意味をなすもの。作成にかかる労力はかかりますが、その効果は絶大です。
大変なのは最初だけで、一度完成すれば、以降は改定を繰り返すだけとなります。動画やデジタル形式での作成・展開であれば、再配布の際も簡単に更新できます。業務マニュアルの作成だけでなく、配布の方法についても見直してみてはいかがでしょうか。