近年、ビジネス界で注目を浴びている「リスキリング」という言葉。2022年10月、国会にて岸田文雄首相が言及したこともあり、関心を持ち始めた人も多いでしょう。
今回はそんなリスキリングについて徹底的に解説します。基本的な言葉の意味や、実施する方法、国内外の具体的な事例などもご紹介しますので、リスキリングの導入を検討している方はぜひお役立てください。
リスキリングとは、キャリアチェンジもしくは仕事内容の大幅な変化に適応するため、新しくスキルを身につけること。社会人の「学び直し」を指します。
経済産業省のWebサイト「METI」に掲載されている、「リクルートワークス研究所」発行のレポートでは以下のように定義されています。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化にてきおうするために、必要なスキルを獲得する/させること」
(引用元:石原直子「リスキリングとはーDX時代の人材戦略と世界の潮流ー」リクルートワークス研究所)
事業・部署に必要な人材を確保する際は、採用を行うのが一般的です。しかし、求めている人材を着実に採用できる保証はありません。専門知識、高いスキルを持つ人材の求人とあらば、なお難しいでしょう。
そこで対策として挙げられるのが「リスキリング」です。外部からではなく、既存社員の学び直しによって必要な人材を確保する方法で、主に企業が変革する際に行われます。
海外では、既にリスキリングを進めている企業が多く、注目度が非常に高いです。日本ではまだ少ないものの徐々に増えてきており、今後さらに実施する企業が増えると予想されています。
人材育成に関する用語として「リカレント教育」「生涯学習」などもよく耳にします。リスキリングとはどのような意味の違いがあるのでしょうか。
それぞれの言葉の意味を確認しておきましょう。
リカレント教育とは、社会人が一度仕事を辞め、教育を受けてから再び就職すること。「働く→学ぶ→働く」というサイクルで、スキルや技術を高めていく教育制度を指します。
辞書では以下のように記載されています。
社会人が必要に応じて学校へ戻って再教育を受ける、循環・反復型の教育体制。
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
社会人が「学び直し」を行うことを意味する、という点ではリスキリングと共通しています。しかし、リスキリングでは休職・退職しません。基本的に、就業しながら教育を受けます。
また、リカレント教育は個人の関心に応じて学ぶことであり、起点は個人です。一方リスキリングは、会社側から従業員に働きかけて行われるもの。責任も主導権も会社が握っているという点で、リカレント教育とは異なります。
生涯学習は、生涯におけるあらゆる学びのこと。文部科学省では、以下のように定義されています。
「生涯学習」とは、一般には人々が生涯行うあらゆる学習、すなわち、学校教育、家庭教育、社会教育、文化活動、スポーツ活動、レクリエーション活動、ボランティア活動、企業内教育、趣味など様々な場や機会において行う学習の意味で用いられます。
(引用元:「第3章 生涯学習社会の実現」文部科学省)
以上の定義からもわかるように、生涯学習は幅広い意味で使われる言葉。リスキリングもリカレント教育も、生涯学習のうちに含まれます。
ただし、生涯学習はどちらかというと「日常生活で行われる、個人の学び」というニュアンス。主に、個人が自主的に私生活で学習することを指します。
対するリスキリングは、会社と社員が互いの利益のため、専門知識や業務で活きるスキルを身につけること。意味の捉え方が限定的で、かつビジネスとの結びつきが強いという点で違いがあります。
アンラーニングとは、不必要と判断された知識・スキルを一度捨て、代わりに新たな知識・スキルを習得すること。辞書では、以下のように記載されています。
既得の知識・習慣を捨てること。環境変化の激しい現代社会を生き抜くために、過去の経験にとらわれないよう、意識的に学習知識を捨て去ること。
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
知識やスキルは、経験によって磨かれるもの。しかし、経験が考え方を固執させ、かえってマイナスに働くケースもあります。そこで柔軟性を持たせるため、「要らないスキル・知識・習慣は一度捨てる」という考えで行われるのがアンラーニングです。
一方リスキリングは、アンラーニングほど捨てることを重視しません。それよりも「今までにない知識・スキルを習得すること」が重視されます。
どちらも環境の変化に適応することが目的ですが、重点を置くところに違いがあります。
On-the-Job Training、通称「OJT」は新人研修などでもお馴染みの人材育成手法。業務を通じて必要な知識・スキルを身につけることを言います。
学習する、知識やスキルを習得するという意味では、リスキリングもOJTも同じです。しかし、OJTはあくまで手段であり、目的や内容は限定されません。
またOJTは、ノウハウが企業や部署に既にある状態で行われるのが一般的。企業内、部署内の社員が教育者となり、業務を通して受講者に教えます。
対するリスキリングは、企業・組織に知識・スキルがない場合に行われるもの。したがって、企業内、組織内に教育者もいません。「その仕事をできる人がいないため、人を育てる」という目的で実施されるのがリスキリングです。
OJTに関しては、以下の記事でわかりやすく解説しています。
OJTとは?実施時の注意点や必要な準備についてわかりやすく解説!
eラーニングとは、スマートフォンやタブレット、コンピューターなどのデバイスを使って学ぶ手法のこと。プラットフォームにアップロードした動画を観て学ぶ、学習進捗をデータベースで管理するなど、デジタル技術を活用して人事育成を行う方法を指します。
OJTと同様、eラーニングもあくまで手段のひとつです。社員が新たな業務に必要な知識・スキルを習得するという「行動」「制度」「システム」を指すリスキリングとは、性質が違います。
ただしeラーニングは、リスキリングと相性が良い手法と言われています。というのは、リスキリングはリカレント教育と違って、現在の業務を行いつつ学習するスタイルだから。限られた時間内で必要な知識・スキルを身につけるには、時間や場所を限定しないeラーニングが効率的なのです。
そもそもリスキリングは、環境の変化に適応するために実施されるもの。全く違う分野の学習は時間がかかるとはいえ、学ぶスピードが遅すぎると変化に対応しきれません。よって、効率良く学習することのできるeラーニングが推奨されているのです。
eラーニングに関しては、以下の記事でわかりやすく解説しています。
eラーニングとは?メリット・デメリットから企業研修での効果的な活用方法までわかりやすく解説!
新型コロナウィルス感染症発生によって職を失った人たち2500万人に向けて、米国「マイクロソフト社」がリスキリングの無償支援を行うなど、今、世界で注目度が上がっているリスキリング。
なぜそれほどまでに重要視されているのでしょうか。リスキリングが必要とされる背景について解説します。
デジタルトランスフォーメーション、通称「DX」とは、デジタル技術を活用して商品やサービス、ビジネスモデル、企業文化などに変革を起こすこと。アプリとタブレットを使った新サービスの提供、顧客分析が可能なAIシステムの導入などが例です。
(引用元:「『日本企業の経営課題 2020』調査結果」一般社団法人日本能率協会)
近年、さまざまな企業がこのDXの実現に取り組んでいます。「一般社団法人 日本能率協会」が発表した調査結果によると、2020年時点でDXへの取り組みを既に始めている、検討を進めていると回答した日本の企業は、全体の50%を超えています。
スマートフォン、インターネットを利用する生活が人々にとって当たり前の今。企業が生き残っていくためには、そのような消費者の行動に合わせた商品開発、サービス提供が欠かせません。ゆえにビジネスのデジタル化、つまりDXを進めている企業が増えているのです。
また、新型コロナウィルス発生によるリモートワークの増加も、DXが進んだ理由のひとつ。場所や時間に縛られない、効率よく正確にデータ収集・管理ができるといったデジタル技術の利点に気づき、業務効率化のためDXに取り組む企業も多いです。
このように、現代のビジネス界に無くてはならないDXですが、実現するには準備が必要。デジタルツールの扱いに長けた人、管理者、技術者など、ITリテラシーの高い人材を揃えなくてはなりません。
そこで必要となるのが、リスキリングです。社員にデジタル技術のスキルを身につけてもらうことで、DX実現に必要な人材を確保することが可能になります。
岸田文雄首相は衆院本会議で所信表明演説し、個人のリスキリング(学び直し)の支援に5年で1兆円を投じると表明した。(中略)持続的な成長のため科学技術・イノベーションやスタートアップ、脱炭素、デジタル化に重点を置くと提示した。
(引用元:「日本経済新聞(2022年10月3日)」)
第210臨時国会にて、岸田文雄首相はリスキリングに対する支援として、5年で1兆円投じることを表明したと2022年10月3日の新聞で報じられました。DXの実現に向けたリスキリングは、国からも後押しされている取り組みなのです。そして、今後もさらに加速していくと考えられます。
リスキリングが注目されている2つ目の理由としては、ジョブ型採用の普及が挙げられます。
ジョブ型採用とは、職務・勤務地・労働時間などの条件を予め提示した上で募集をかけ、その条件を満たす人材と雇用契約を結ぶ制度のこと。企業が求める人材をピンポイントに採用するスタイルで、職務や役割に対して評価が与えられます。
一方、従来日本で行われてきた「メンバーシップ型採用」は、職務・勤務地・労働時間を限定せずに採用するもの。勤務歴に対して評価される雇用形態で、ジョブ型採用とは対照的です。
ジョブ型採用 |
メンバーシップ型採用 |
|
採用基準 |
スキル重視 |
ポテンシャル重視 |
評価基準 |
職務内容・職務成果 |
職能資格・能力発揮 |
給与 |
職務重視 |
職能重視 |
キャリア形成 |
スペシャリスト |
ジェネラリスト |
教育 |
能動的・自主的 |
受動的・会社から提供 |
職務 勤務地 労働時間 |
限定される |
限定されない |
ジョブ型採用には、専門性の高いスキルを確保しやすい、というメリットがあります。デジタルリテラシーの高い人材が必要となるDX推進において、有効な採用方法であると言えるでしょう。
しかし、ジョブ型採用が普及すると、求める人材を採用できない可能性が出てきます。
例えば、多くの企業がDXを実現するためジョブ型採用を行った場合、ITスキルを持つ人材の取り合いが起きます。すると、好条件で働ける企業が有利になり、そうでない企業は人材の確保が難しくなるのです。
年功序列的な職能給からジョブ型の職務給への移行、リスキリングへの支援を打ち出した。「企業間、産業間での労働移動の絵活化に向けた指針を来年6月までに取りまとめる」と表明した。
(引用元:「日本経済新聞(2022年10月3日)」)
日本経済新聞で報じられたように、国が推奨していることから、今後ジョブ型採用は増えていくでしょう。つまり企業は、求める人材を採用できない可能性を踏まえ、対策を練らなくてはなりません。
そこで必要となるのがリスキリングです。会社に必要なスキルを、人材採用ではなく既存社員のジョブチェンジで補うことで、採用人数を最低限に抑えることができます。ジョブ型採用普及による、人材不足問題の発生を回避できるのです。
(引用元:「増加傾向が続く転職者の状況」総務省)
同じ会社に長く勤めることが良しとされていた以前とは違い、今は転職が当たり前の時代。総務省が行った調査のグラフを見てもわかる通り、転職者数は年々増えています。
転職理由はさまざまですが、『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』という書籍の中で、著者の後藤宗明氏(以下後藤氏)は転職者が増えている要因について、以下のように言及しています。
“その3大要因は「①成長機会がない」「②会社の目的とのつながりを感じられない」「③職場に大切な人間関係がない」であるという結果が出ています。”
(引用元:「後藤宗明(2022)『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』日本能率協会マネジメントセンター」)
このように給与や福利厚生だけでなく、仕事に対する充実度、やりがい、人間関係なども転職の原因となり得るのです。企業は転職者の増加を防ぐため、社員のエンゲージメント向上に努める必要があります。
またDXが進めば、今まで培ってきたスキルが活かせなくなる従業員も出てきます。特にデジタル技術に関する知識・スキルが全く無い社員は、任される業務がなくなる場合もあり、さらに転職者・離職者が増加するでしょう。
このような状況で企業が優秀な人材の流出を防ぐには、社員に新しい技術を身につけさせ、新たな役割を与えることが重要です。それがリスキリングという取り組みであり、多くの企業が導入を検討していることにも頷けます。
リスキリングでは新しい分野を一から学ぶこととなるため、社員の中には抵抗を感じる人もいます。しかし、効率よく質の良い学びを得るには、本人の自主性が欠かせません。
よって企業は、リスキリングに取り組む必要性を社員に伝える必要があります。きちんと納得してもらえるよう、メリットについて知っておきましょう。
リスキリングでは、今までとは全く違う業務の知識・スキルを身につけますが、過去の経験が活きる場面は十分にあります。そのため、結果的に従業員が持つスキルの幅が広がり、対応できる仕事の幅も広がります。
社員の対応力が高まるということは、つまり企業の環境への適応力も高まるということ。DXをはじめとする世の中の変化にも負けない、柔軟性のある企業へと成長できるのです。
環境の変化に対応するスピードが速ければ速いほど、市場で勝つチャンスが増えます。よって、企業が生き残っていくためには、社員の対応力を高めるリスキリングが必要と言えるでしょう。
政府が企業のDXを後押ししていることから、今後ITリテラシーの高い人材の需要はさらに高まっていくと予想されます。DXを進めようとしても、必要な人材を採用できないという問題が発生するでしょう。
採用に苦戦すると、その分、採用にかかるコストが増えます。新しい事業の開始やサービスの導入、社内システムの変更にはただでさえ費用がかかるため、採用コストの増加は企業にとっての大きな負担です。
リスキリングには、そのようなコストを削減するメリットもあります。社員を教育する費用はかかるものの、採用できるかどうかわからないという不確定要素への出費を抑えることができます。
募集掲載にかかる費用はもちろん、面接や応募者とのやり取りにかかる時間、人件費の削減にもつながります。採用を行った場合でも教育は必要になることを考えれば、リスキリングは結果的にコストパフォーマンスが良いと言えるでしょう。
生産性の向上、従業員の成長促進、離職防止。これらのカギを握るのは、社員のモチベーションです。
しかし長年働いていると、人は仕事にマンネリ化を感じてしまうもの。昇格や異動による環境の変化があればまだ良いですが、それらの対象者は限られています。あぶれた社員は「やりがい」をなくしてしまうでしょう。
リスキリングは、そのようなモチベーションの維持にも役立ちます。今までとは違う分野の知識・スキルに触れることが、やる気を引き出すきっかけになるのです。新しい業務は慣れないことも多く苦労しますが、その苦労がかえって刺激になるでしょう。
DX推進に伴い、「AIに仕事を取られて職を失うのでは?」と不安に思う人が少なくありません。しかし実際は、DXが進むにつれ新たな仕事も生まれると言われています。
世界経済フォーラム発行のレポート『The Future of Jobs Report 2020』によると、2025年までに約8500万件の雇用がなくなる一方で、約9700万件の新たな雇用が生まれると予想されています。
つまりスキルを身につければ、それだけ雇用のチャンスが増えるということ。社員が自らの雇用を維持するには、リスキリングによる新たな知識・スキルの習得が有効なのです。
また、リスキリングによってスキルが増えれば、個人の能力が高まります。過去に身につけた能力と新しい能力、両方を持つ人材は、会社から重宝されるものです。ジョブチェンジ後は、一時的にキャリアダウンする場合もありますが、最終的にはキャリアアップする可能性が高いため、リスキリングは社員にとっても有益と言えるでしょう。
では実際に、リスキリングはどのように進めれば良いのでしょうか。成功につながる6つのステップをご紹介していきます。
リスキリングは、得た知識とスキルを業務に活かしてこそ、意味を成すもの。闇雲に学習しても、やりたいことが実現できず無駄になる恐れがあるため、はじめにゴールを決めることが大切です。
「何のために」「何を」学び、「どのようになること」を目指すのか、習得するスキルや理想の人物像をあらかじめ明確に決めておきましょう。
習得スキルを見極める際は、現状分析も必要です。現在、社員が持っているスキルと目標を比較することで、これから学ぶべき内容が浮かび上がります。
次に、新たにスキルを習得すべき組織・従業員は「誰なのか」を決定します。
リスキリングは、会社の変革に合わせて実施されることが多いとはいえ、社員の全員が職種を変えるわけではありません。社内に大幅な変化があっても、仕事内容が変わらない部署も存在します。また、多数の部署が同時にリスキリングを行うのは、管理者の負担が大きくほぼ実施不可能です。
よって、誰を対象として実施するのか決める必要があります。明確に定めておくことで、リスキングの先にある目的に必要な人材を、無駄なく揃えることができます。
学習内容と対象者が決まったら、どのような手段で実施するのかを決めます。オンラインで行うのか、国や自治体の制度を利用するのか、外部セミナーを利用するのかなど、具体的に定めましょう。
リスキリングに取り入れられる手法はさまざまですが、決定する際は以下を意識するのがポイント。
これらの条件を満たしている手法として、eラーニングが候補として挙げられます。eラーニングにもさまざまなスタイルがありますが、スマートフォンやタブレットを使って学べるものであれば、場所や時間に縛られません。いつでもどこでも、受講者のペースで学習できます。
また「shouin+」にある動画で学べる機能は、モチベーションの維持に、チェックリスト・テスト機能は学習進捗の把握に役立ちます。受講者にとっても管理者にとっても利便性が高く、学習を続けやすいシステムを選ぶことが、リスキリングを成功させるコツです。
準備が整ったら、いよいよ学習開始です。カリキュラムを開始する前に、予め目的・手段・スケジュールを対象者に説明することを忘れないようにしましょう。
また学習期間中、手段が合わないと感じることが多々あります。「内容が適していない」「学習コンテンツが適していない」「ペースが間に合わない」といった問題の発生も珍しくありません。
そのようなとき、すぐに軌道修正ができるよう管理とサポートが必要です。実施中は、監視やヒアリングを続けましょう。
「頭で理解できていても、実際に手を動かしてみるとわからない」ということはよくあります。その状態でいきなり業務を担当するのはリスキーなので、必ず実践する機会を設けましょう。
実践により、足りないスキルが見つかる場合もあります。その際は、また新たにカリキュラムを組んで補いましょう。「学習→実践→チェック→学習」のサイクルを回すことで、職務変更に備えることができます。
リスキリングを含め、人材育成にはトラブルがつきもの。学習カリキュラムやスケジュールが適切だったか、学習のムリ・ムダがなかったかなど、発生した問題点や不満点について話し合うことが、次回行うリスキリングの改善につながります。
改善策を考える際は、受講者の意見を積極的に取り入れましょう。実際にリスキリングを受けた人しかわからないことも多いため、丁寧なヒアリングを行うことが重要です。
はじめから完璧なリスキリングを実施するのは難しいと言えども、可能な限り成功させたいのが本音です。では、どのようなことを意識すれば良いのでしょうか。
ここからは、リスキリングを進める上で抑えておくべきポイント・注意点について解説していきます。
効果的かつ効率よくリスキリングを進めるため、学習内容の見極めは重要です。そして的確に見極めるには、現状の分析と把握を徹底する必要があります。
しかし、スキルの把握は簡単ではありません。誰が何を、どのレベルまで習得しているのかが曖昧になりがちです。
そこで役立つのが「スキルの可視化」です。データとして見える形にすることで、誰でも客観的にスキルレベルを把握できるようになります。
可視化する方法は多岐に渡りますが、例として、AI機能を搭載したプラットフォームの活用が挙げられます。市場のデータや、リスキリング対象者の職務経歴書などから自動で分析し、データ化してくれるといったようなツールが便利です。
社員1人1人の情報を収集し、見える化する工程を手作業で行うのは、管理者の大きな負担となります。よって、ここでもデジタル技術が役立つでしょう。
学ぶことに対する意欲が失われると、学習の吸収率も下がってしまいます。しかし、リスキリングは会社から従業員へ、指示する形で行われるもの。どうしても「やらされ感」が出てしまいます。
そのため、モチベーションを向上させるための工夫が必要です。なかでも「1on1ミーティング」の実施は必須と言えるでしょう。
リスキリングでは、身につけてほしい知識とスキルを会社が指定しますが、受講者に自主性を持たせるには、本人の意思を尊重することも大切。そこで1on1ミーティングを行い、受講者が学びたいこと、就きたい仕事と、会社が望む姿の擦り合わせを行います。
後藤氏も、著書の『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』にて以下のように述べています。
会社が求めるリスキリングの方向性と個人の希望する新たなスキル習得をマッチングさせるためには、丁寧な1on1のプロセスが欠かせないのです。働く個人の情熱が何かを最大限配慮したリスキリングを推し進めることが大切です。
(引用元:「後藤宗明(2022)『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』日本能率協会マネジメントセンター」)
会社と対象者の考え方のズレをなくすこと、リスキリングの方向性に納得してもらうことが、モチベーションアップにつながります。その機会として、1on1ミーティングを活用しましょう。
DXの実現に向けたリスキリングでは、デジタル技術について学ぶこととなります。その際、専門用語がわからず学習が進まないといった問題が起きるでしょう。
その解決策として、デジタルリテラシーの基本知識を予め学べる機会を設けるのがおすすめです。頻出する単語だけでも軽く触れておいてもらうことで、学習をスムーズに進めやすくなります。
また、リスキリングを実施する理由や、目標について説明する際も、受講者にデジタル技術の知識が全く無ければ理解してもらえません。目的がわからずモチベーションダウンになる恐れがあるので、事前学習を実施しましょう。
「リスキリングの具体的なイメージがまだ掴めない」という方のために、ここでいくつか国内外の事例をご紹介します。学習方法の具体的な例も載せていますので、ぜひ参考にしてください。
「みずほ銀行」「みずほ証券」などの親会社である「みずほフィナンシャルグループ」では、DXのリスキリングに向けて、主に以下のような学習システムを導入しています。
当社では、上記のような独自のデジタルツールを活用し、リスキリングを含めた人材育成に力を入れています。
また、外部サービスを利用したリスキリングも進めているとのこと。パソコンスクール「AVIVA」を経営する「株式会社リンクアカデミー」提供のサービスも、利用しているツールのひとつです。
“様々な取り組みのひとつとして、従業員が自身の業務の生産性を向上させるため、また、リスキルの実現のために、2021年より当社サービスを活用いただいています。”
(引用元:「パソコンスクールのAVIVAを経営する(株)リンクアカデミーが企業の生産性向上、リスキリングを支援」PR TIMES)
リスキリングでは、自社にない知識・スキルを身につけることとなるため、外部企業のサービスを利用するのもひとつの手です。「ITを学ぶならITに強い企業から学ぶ」というように、専門知識を持つ企業の力を借りることで、より高いスキルが身につくでしょう。
大手通販サイト「Amazon」を運営する「Amazon.com,Inc」。当社は、2025年までに米国の従業員10万人に対しリスキリングを実施すると、プレスリリースにて発表しました。
具体的な施策としては、ソフトウェアエンジニアのスキルが身につく「Amazon Technical Academy」の提供や、実践でのトレーニングコースを有給で受けられる制度「Amazon Apprenticeship(アマゾン見習い制度)」など。ITに詳しくない従業員が、新しいキャリアへとステップアップできるようなサポートとして、リスキリングを行っています。
Amazonは2025年までに、7億ドル以上をリスキリングに投資するとのこと。大企業だからこそ可能なことではありますが、それだけ今、リスキリングが重要視されていることがわかります。
「Walmart」は、米国の大手スーパーマーケットを経営している会社。2018年、当社は自社ブログにて、「Google」と協力してリスキリングに注力する意向だと発表しました。そのために、500万ドルの助成金投資をすると宣言しています。
「Walmart」が実施しているリスキリングの取り組みとして、なかでも注目を浴びているのがVRを活用したトレーニング。業務を疑似体験することにより、実践で役立つスキルが身につくという画期的な学習スタイルです。
非対面式で商品を受け取れる装置「ピックアップタワー」に関する人材育成にも、VRが活用されているのだそう。2018年9月に公開されたブログでは、その後もVRを社内で行うニューテクノロジーの習得に役立てていくと発表しています。
現在、小売業界でもDXが進んできています。実店舗を持つ企業ではリスキリングが難しく思えますが、デジタルテクノロジーやオンラインでの学習を導入することで実現可能です。「Walmart」の事例から、店舗ビジネス型の小売業でもリスキリングが可能だということがわかります。
海外と比べると、日本はまだまだリスキリングを進めている企業は少ないです。しかし、政府からの後押しもあって徐々に注目度は高まっており、今後増えていくことでしょう。
時代の流れに乗るため、DXを進めようとしても、学習が完了していない......という事態になりかねないので、早めに準備を進めておくことが大切です。戦力となる社員へと着実に育て上げるためにも、今のうちからリスキリングの導入を検討してみましょう。