業務マニュアルを作成する上で役立つ「フローチャート」。
フローチャートには、業務フローを可視化することで「業務の全体像を把握しやすくなる」などといった多くのメリットがあります。そのため、自社の業務マニュアルにフローチャートを取り入れたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし、フローチャートを作成するにも作成者の知識が伴っていなければ、効果的なマニュアルを完成させるのは非常に難しいことです。
そこでこの記事では、業務マニュアルの種類やフローチャートのメリットについて簡単に整理したのち、フローチャートの基本から作成ステップまでくわしく解説していきます。初心者の方にも理解いただけるよう基本的な部分をご紹介いたしますので、ぜひ参考にご覧ください。
業務マニュアルは、業務の内容やフローなどを示した作業手順書のことを指します。業務の品質を一定に保つことや、業務効率化を図る目的をもっています。
■参考記事はこちら
業務マニュアルとは?作成するメリット、目的や効果、おすすめツールなどをわかりやすくご紹介!(無料テンプレート付き)
マニュアルは、19世紀後半から広がっていきました。アメリカの生産会社で働いていたフレデリック・テイラーが、業務効率化を図るために手順書を作ったことがきっかけです。
テーラーはこの手順書をもとに部下に対して教育を行い、業務効率化を成功させたといいます。そしてテイラーの手順書は「テイラーシステム」と名づけられ、広がっていきました。
マニュアルは多くの方が紙ベースのものをイメージするかと思いますが、近年ではデータで閲覧するものや動画ベースのマニュアルも多くの企業で活用されています。
マニュアルは大きく次の4つの種類に分けられます。
それぞれ簡単にご紹介していきます。
業務マニュアルは、業務の内容やその目的、フローをくわしく示した手順書です。業務の効率化・品質の安定化・責任の明確化・安全性の確保などを目的としています。
取り扱い・使用説明書は、「商品の取り扱い方」や「サービスの導入方法・操作方法」などを示したマニュアルです。機器の操作ミス防止・危機回避などを目的としています。
規範マニュアルは、企業のあり方や考え方・行動指針を示したマニュアルです。経営理念の浸透・内部統制・コンプライアンス遵守などを目的としており、通常は1企業につき1つのマニュアルを作成します。
教育訓練マニュアルは、従業員の教育方針や教育方法について示したマニュアルです。マニュアルを作成することで、教育者の違いによるズレを解消したり、教育者の負担を軽減するなどの効果が期待できます。近年では動画で教育訓練マニュアルを作成する企業も増えてきました。
業務マニュアルをフローチャートを使って表現する意味や価値はどこにあるのでしょうか。ここでは、フローチャート化の目的やそのメリットについてくわしくご紹介します。
そもそも業務マニュアルを作成する一番の目的には「業務効率化を図り企業成長につなげる」点にあります。しかし、文字だらけの業務マニュアルは読みにくい・理解しにくいといった部分もあり、業務マニュアルを効果的に扱うのは容易ではありません。
実際に株式会社CTが実施した調査では、約9割のマニュアル作成・整備担当者が、自身の作成したマニュアルについて「十分に活用されていない」と感じた経験があると報告されています。
(参照:株式会社CT「【マニュアルが活用されていない実態...】業務・商品マニュアル作成者の約9割から「ユーザーから十分に活用されていない」と実感」)
さらには、マニュアル作成に関する課題を問う質問では「マニュアル作成に時間がかかる」や「文字や言葉では十分に伝えきれない」などといった回答が大部分を占めています。
つまり上記のことからも、業務マニュアル(テキストベース)の作成はその労力に対して十分な効果を得るのが難しいと言えるでしょう。
そこで、この課題を解決するための1つの方法が「フローチャートでのマニュアル作成」です。フローチャートは場面を選んで活用することで、テキストベースの業務マニュアルよりも時間をかけずに、分かりやすく作成することができます。くわしくは次の章でご紹介していきます。
(参照:株式会社CT「【マニュアルが活用されていない実態...】業務・商品マニュアル作成者の約9割から「ユーザーから十分に活用されていない」と実感」)
フローチャートを用いた業務マニュアルは、テキストベースのマニュアルよりも次のようなメリットがあります。
くわしく見ていきましょう。
フローチャートでは簡易的な記号を用いて業務マニュアルを作成するため、テキストとは違い目視で業務の全体像や流れを把握しやすいメリットがあります。
またテキストでは表現しにくい業務の「分岐」や「工数」なども、フローチャートにすることでぐっと分かりやすくなり、マニュアルを使用するユーザー視点でもストレスが少なく活用しやすくなるでしょう。
フローチャートでは煩雑な業務の全体像や流れが把握しやすくなる分、ミスが起こりそうな箇所や注意が必要となる箇所を洗い出しやすくなります。
たとえば、業務の分岐点や工数の多い場面では、判断間違いや確認不足などからミスが起こりやすくなるものです。しかしこれらもフローチャートにより目視で危機感を持たせることができます。従業員一人ひとりが危機感を持つことで回避行動を促し、ミスの減少が期待できるでしょう。
フローチャートは業務の流れを把握しやすいからこそ次の業務に向けた準備がしやすく、業務の効率化が期待できます。業務中にトラブルが起きた際にも「どの段階で問題が起きたのか」「何が原因で問題が起きたのか」を追及しやすくなり、問題解決への時間短縮にもつながるでしょう。
またマニュアル作成者の視点から見ても、業務内容をテキストで表現するよりも、記号を用いたフローチャートで作成した方が簡易的で効率的だと言えます。
フローチャートは、図形や線・矢印などを用いて作成していきます。そこでフローチャート作成の第一歩として、まずはフローチャートの基本要素となる各種の記号から見ていきましょう。
今回は「日本工業規格(JIS)」にて定義されている記述方式から、使用頻度の高いものを優先してご紹介します。(参考:日本産業標準調査会『情報処理用流れ図・プログラム網図・システム資源図記号』)
業務フローの「開始」および「終了」は、こちらの図形で表します。真四角やひし形ではなく「楕円形」で表記することで、ほかの記号と区別するのがポイントです。
開始/終了の記号は、業務フローの先頭および末尾にかならず配置しましょう。マニュアルを使用する際の業務フローの開始点・終了点を把握するための目印になります。
「ポイントカードの読み取り」や「ポイントカード入会の案内をする」などといった「処理」に関するプロセスは、こちらの「長方形」の図形で表します。開始/終了の記号と区別するため、しっかりと角をつけて表記しましょう。
なお、複数の処理が連続するときでも、1つの処理につき1つの記号を用いてください。
判断によって業務プロセスの途中でフローが「分岐」するときには、こちらの「ひし形」の図形を用いて表記します。たとえば「ポイントカードを持っている場合」と「ポイントカードを持っていない場合」でフローが変化するような場合がこれに当てはまります。
また、図形のなかには「分岐条件を記入」しましょう。たとえば「ポイントカードを持っているかどうか確認する」といった文言を入れてください。当然ながら、この図形を分岐点として、この後のフローは2つ以上に分かれることになります。
なお、カラー表記ではほかの記号と色を区別することで視認性がアップし、フローの抜け漏れ対策に効果的でしょう。
この「六角形」の図形は、以降のフローにおいて「レジの締め作業に関するプロセスです」といった宣言や、「閉店10分前より実施してください」「2人以上で実施してください」などといった指示を表したいときに使用します。
その後のフローを滞りなく進めるための「準備・命令」といった役割をもち、この図形自体に動作を指示する役割はありません。
機械を用いず「人の手による動作」を示す場合には、「台形を逆さまにした図形」を使用します。たとえば、バーコードを機械で読み取れなかった際に「バーコード番号を手入力でレジへ打ち込む」動作などが当てはまるでしょう。
人の手作業による業務プロセスではヒューマンエラーのリスクが懸念されますが、この図形を用いることで危機回避を意識させ、エラー回避の効果が期待できます。
こちらの図形は「売上を帳票に記録する」や「帳票を印刷する」などといった「書類」に関するプロセスで使用します。長方形の一片(底辺)を波線で表現しましょう。
通常の「処理(四角形)」の図形とは少し形を変えることで、煩雑になりがちな業務フローでも視認性を確保できます。
こちらの線および矢印は「業務フローの流れ」を示すものです。流れに沿って、線または矢印で図形同士をつなぎましょう。
こちらの破線は、2つ以上の図形間の「択一的な関係」を表します。フローチャートが複雑な構造を取る時に使用することで、実線で示すフローと区別できます。
こちらの省略による線は、フローの一部を省略していることを示す際に使用します。フローチャートのなかで記号の種類や個数を具体的に示す必要がない場合に、線記号に合わせて使用することで、フローチャートが煩雑になるのを防ぐことができます。
それでは最後に、フローチャートの作成ステップをご紹介しましょう。手順は主に次の6ステップです。
フローチャート作成の6ステップ
くわしく見ていきましょう。
フローチャートに限らず、業務マニュアルに関する資料を作成する場合は、この企画段階が重要になります。これから作るマニュアルの目的や対象者などをはっきりと設定することで、そのマニュアルの必要性が生まれるからです。
実際に、無印良品の赤字経営をマニュアル(MUJIGRAM)を活用して回復させた松井忠三氏(以下松井氏)は、自身の著書で次のように述べています。
たとえば、コピー取りやお茶汲みなどの仕事をおろそかにしてしまう新入社員もいます。そんなとき、その仕事が全体の仕事の中でどのような位置づけにあるのかを説明すれば、取り組む意識は変わるはずです。
(引用元:「松井忠三(2013)『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』角川書店」)
プレゼン資料をコピーするという作業も、何も知らずにやるのと、企画の内容や重要性を知ってやるのとでは姿勢が変わってきます。ただのコピーでも、自分のちょっとしたミスがビジネスの大きな失敗につながるかもしれないと意識すれば、注意して資料を揃えるようになります。目的を最初に伝えれば、仕事の全体像を俯瞰できるようになるのです。
MUJIGRAMでも各カテゴリーの冒頭に必ず、「なぜその作業が必要なのか」を記しています。肝心なのは、どのように行動するかではなく、何を実現するかです。
また、マニュアルの企画を行う際は「5W1H」をポイントとして設定するとよいでしょう。くわしくは次の表を参考にご覧ください。
Who(誰が) |
誰に向けたものか。 |
When(いつ) |
どんなときに使うものか。 |
Where(どこ) |
ゴールをどこにするか、何を目標にするか。 |
What(何を) |
どういった内容を記載するか。 |
Why(なぜ、理由) |
どういう理由で作成するか、何を目的に作成するか。 |
How(どのように) |
マニュアルをどのように作成するのか。 |
フローチャートを作成する際には、なるべく作成や保存、共有に便利なツールを活用したいですよね。ただ、フローチャートを作成できるサービスは意外と多く、「どれを選んだらいいか分からない…」と、使用するツール選びで悩んでしまうことも多くあります。
そこで、ここでは編集者がおすすめするフローチャート作成ツールを、3つに絞ってご紹介いたします。
おすすめフローチャート作成ツール3選
公式URL:https://www.draw.io/
draw.ioは、完全無料で使えるのが魅力のサービスです。無料なのに扱いやすいため、フローチャート作成時にストレスを感じることもほとんどありません。登録不要のため、URLを読み込めばその場ですぐに作業にとりかかれるのもうれしいですね。初心者の方や、簡単なフローチャートを作成したい方におすすめです。
公式URL:https://www.edrawsoft.com/jp/edraw-max/
EdrawMaxは、用意されているテンプレートの豊富さが魅力のサービスです。作図や製図に特化しているサービスのためフローチャート用の記号も多く、本格的な作図が可能となっています。また、PowerPoint(パワーポイント)やExcel(エクセル)、Word(ワード)の書式に変換することも可能なので、これらの書式で保管・保存したい方におすすめです。
公式URL:https://www.lucidchart.com/pages/ja
Lucidchartは、あらゆる業務用ツールと連携が取れるのが魅力のサービスです。連携が取れるサービスには、たとえば「Slack」や「G Suite」、「Microsoft Office」などがあり、日常的にこれらのツールを使っている方は、データを共有する際に大変便利でしょう。3つの文書まで無料で利用できます。
言わずと知れたMicrosoft社製のパワポとエクセル。こちらでも同様にフローチャートを作成することができます。フローチャート作成専用のツールと比較すると少し機能的には物足りないですが、無料かつ使い慣れたツールで作りたいという方におすすめです。
イチからフローチャートの図形等を作るのは大変...という方は、弊社がご用意しているパワポ&エクセル用のフローチャートテンプレートもぜひご活用ください。以下のバナーから無料でダウンロードいただけます。
企画およびツールが決まったら、次は構成段階に入ります。まずは作業の洗い出しから行い、フローチャートに載せるための業務のリストアップを進めましょう。
とはいえ、業務の洗い出しは手間のかかることです。「まだ何もない段階だけど、とりあえずフローチャートを書きはじめてみよう」とする方がいるかもしれませんが、ほとんどの場合はどこかで行き詰まり、すべて白紙に戻さざるを得ない状況になってしまいます。構成は手間がかかりますが、その分この後の作業が楽になるものだと思って、丁寧に進めてください。
また、作業のリストアップには現場調査が有効かつ効率的です。ぜひ現場の方と一緒に作業を行うか、またはインタビューなどをしながら進めてみてください。「実際に行われている業務は◯◯だけど、実は△△にした方が良い」といった声が聞けるチャンスでもありますので、この機会に業務フローの見直しを同時に行ってみてもいいですね。
作業のリストアップが完了したら、次にフローチャートの全体像と大まかな並びをイメージしてみましょう。メモ書きでも構いません。
とくに、分岐や条件が多くなるフローチャートや複数の部署をまたぐようなフローチャートでは、書き方次第で読みやすさが大きく変わります。煩雑なフローチャートになってしまわないよう、構成段階でしっかりとイメージを持っておきましょう。
構成がしっかり組めたら、実際にフローチャートの組み立てを行います。ステップ2で選択したツールをもとに作業を進めましょう。なお、組み立てを行う際は、使用する記号等を間違えないよう十分注意をしてください。
また、フローチャートのユーザー視点を意識することも大切です。まずはフローチャートの仕組みをはじめから理解している人は多くありません。最低でもフローチャート内で使用されている記号等の解説は入れておくとよいでしょう。また、ライティング時には新入社員でも分かる言い回しを心がけると、より良いマニュアルになります。
マニュアル(フローチャート)に完成はありません。仕事は時代や人の変化によって「その時のベスト」は変わっていくものですので、ユーザーの声を反映させながら少しずつ改善し、より良いマニュアルへとグレードアップさせていきましょう。
たとえば年に1回の頻度でアンケート調査を取るなど、定期的にマニュアルを見直す機会を持つことで、後回しになるリスクを防ぐことができます。
なお、無印良品のマニュアル「MUJIGRAM」に関しては、先ほどご紹介した書籍の中で次のように述べられています。
無印良品では…
マニュアルを統括している部門があるので、社員やスタッフの改善提案には随時、対応!MUJIGRAMは常にアップデートされ、最新版といえる内容になっています。
常に改善を考えていれば、世の中の流れにも連動できます。
服のデザインなどにしても、ニーズは常に変化している中で、「情報源」にもなるお客様の声に合わせてマニュアルを変え続けていれば、マーケットの変化の半歩先を行くぐらいの商品やサービスを提供できます。それが「市場で勝ち続ける鉄則」です。
(引用元:「松井忠三(2013)『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』角川書店」)
業務マニュアルを作成する上で役立つ「フローチャート」。今回は、業務マニュアルの種類やフローチャートのメリットをはじめ、フローチャートの基本から作成ステップまでくわしく解説いたしました。
フローチャートの作成は決して簡単なものではありませんが、いいマニュアルができれば確実に業務効率化・生産性向上につながります。ただし、それでもやはり「フローチャートの作成は腰が重い…」と感じる方は、まず下記からダウンロードいただける無料テンプレートからぜひお試しください。