時に意図せず起こってしまう、ヒューマンエラー。「次は気をつけよう」と思っても繰り返し起きてしまうエラーに、「どうして改善できないのだろうか」「どうしたらエラーを防げるのだろうか」とお悩みではありませんか?
私たち人間は、ロボットよりも状況に応じて柔軟に動ける能力を持っていますが、一方でこの能力が時にヒューマンエラーを招いてしまう原因にもなるようです。しかし、見方を変えれば、人間の特性を理解し対策をすることで「ヒューマンエラーは防ぐことができる」ともいえます。
そこでこの記事では、ヒューマンエラーが起きる原因とその対策方法ついてくわしく解説していきます。なお、ヒューマンエラーが起きてしまう原因は以下の記事でも紹介しています。
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高木元也氏(独立行政法人労働安全衛生総合研究所)によれば、ヒューマンエラーの原因は次に挙げる「人間の12の特性」に分けられます。
それぞれの特性がどのようにヒューマンエラーの原因となるのか、一つずつ見ていきましょう。
無知・未経験・不慣れによるヒューマンエラーは、作業に対する知識や経験が不足していることで起こるエラーです。新人に多いミスで、どこに危険が潜んでいるのか分からなかったり、危険だと分かっていても不慣れから誤った行動をとってしまうことで起こります。
ただし、知識と経験が豊富なベテランであっても油断は出来ません。初めての作業などでは、新人と同じように不慣れからミスが起こる可能性があるため注意が必要です。
危険軽視・慣れによるヒューマンエラーは、危険がともなう作業に対して「このくらいなら問題ないだろう」「(いつも問題がないから)今日も大丈夫だろう」と危険を軽視することで起こるエラーです。
危険なことだと知っていても、作業に対する“慣れ”や“理解不足”が危険軽視を引き起こし、エラーにつながります。とくに、作業に慣れ始めた従業員や危険に対する危機感の薄い従業員は注意が必要でしょう。
また、東京の中央労働基準監督署が「労働災害が減らない要因」についてアンケート調査を実施したところ、現場所長の80%近くが「危険感受性の低下」を感じていることが明らかになりました。「この高さなら安全帯をしなくても大丈夫だろう」などといった危険軽視が横行しており、ヒューマンエラーの原因として早急に対策すべき課題といえます。
仕事や勉強に集中しているとき、周りの声や音が聞こえなくなったという経験がある人も多いのではないでしょうか。
このように不注意によるヒューマンエラーとは、一つの作業に対する集中によって周囲への注意が疎かになることで起こるエラーです。人間は一つの作業に集中をすると他のことに対して注意が払えなくなるため、集中をすればするほどこのエラーは起こりやすい状況になります。
連絡不足によるヒューマンエラーは、情報伝達が思うように出来なかった場合に起こるエラーです。人と人とのコミュニケーションでは、「伝えたつもりだったが、相手は認識していなかった」「伝え方が悪かった」「相手に聞く気がなかった」などと、あらゆる理由からコミュニケーションエラーが起こるものです。
集団欠陥が原因で起こるヒューマンエラーは、効率性などを優先した組織全体のムードに流された結果、安全性に欠ける行動をとってしまうことで起こるエラーです。とくに、業務の納期に追われている時や作業の省略行動(近道)が慢性化している現場で陥りやすいエラーといえます。
近道・省略行動本能が原因で起こるヒューマンエラーは、時間や労力を節約したいがために、正しい手順やプロセスを省略しようとすることで起こるエラーです。人は、面倒だと感じることに対して時にリスクを負ってでも省略してしまうことがあります。
場面行動本能によるヒューマンエラーは、注意が一点に集中することで、周りの状況に関係なく反射的に行動をしてしまうことで起こるエラーです。次に挙げる事例のように、高所や道路上など、状況として非常に危険が伴う場面であっても本能的に行動を起こしてしまうのが、この場面行動本能の特徴であり、危険な部分です。
パニックによるヒューマンエラーは、驚いたときや慌てたときなどの想定外な状況において、脳が誤った判断をしてしまうことで起こるエラーです。通常時には間違えないことでも、思いがけない事態に直面したとき、人の脳は正常な働きができなくなり、エラーを犯す可能性が高くなります。
錯覚によるヒューマンエラーは、指示の見間違いや聞き間違い、慣れた作業に対する思い込みなどによって起こるエラーです。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感から引き起こされるエラーに加え、ど忘れ、思い込みなどの五感から得た情報を脳で処理する際に起こるエラーに分けられます。
中高年の機能低下によるヒューマンエラーは、年齢によって衰える身体能力やバランス感覚などが原因となって起こるエラーです。実際には機能が衰えているにも関わらず自覚が不足していたり、自覚はしていても「まだまだいける」と少々無理をすることでエラーが発生します。とくに高齢者は一つのエラーで重大な労働災害につながる恐れがあるため注意が必要です。
疲労等によるヒューマンエラーは、長時間労働や重労働、炎天下での作業などで疲労が蓄積することで起こるエラーです。人は疲労が蓄積されると、身体や頭が思うように動かなくなりミスを起こしやすくなります。
人は反復的な単調作業を続けていると、次第に意識が低下し間違いを起こすことがあります。これが単調作業等による意識低下がもたらすヒューマンエラーです。
ヒューマンエラーの12分類について整理したところで、ここからは原因別の対策方法を考えていきましょう。
作業に対する知識や経験不足していることで起こるヒューマンエラーには、知識・技能の教育による対策が効果的です。具体的には、ヒヤリハット(※)の蓄積と共有、また過去のヒューマンエラーを風化させることなく語り継いでいく作業が必要となります。
一般的に「1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、その背景には300件の異常(ヒヤリハット)が存在する」と言われています。まずは、現場のヒヤリハットを表面化し、一つずつ言語化するところから努めていきましょう。
(※ヒヤリハットとは、業務中に「ヒヤッとした」「ハッとした」など、危険を感じたが幸いにも災害に至らなかった事象のことをいいます)
なお、現場のヒヤリハットを表面化するためには「ヒヤリハット報告書」の活用が最も簡単な方法です。下記記事から報告書のテンプレートが無料でダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください。
■参考記事はこちら
【テンプレート付】ヒヤリハット報告書の書き方と業種別の報告例をくわしく解説!
作業に慣れてくると、人はどうしても危険軽視の感覚が出てきてしまいます。しかしこの感覚は自然なものであるため、抑えるのは困難だと考えられます。そこで、危険軽視の対策としては、危険軽視の感覚を抑えるのではなく、危険行動を回避するような対策が必要となるでしょう。
具体的な対策方法としては、「安全教育」があります。安全教育では、労働災害を防ぐための知識や技術を労働者に伝え、実際に危険行動を回避するための方法を教育していきます。プログラムの例としては下記の内容を参考にしてください。
テーマ |
目的・内容 |
労働災害の現状 |
目的:労働災害の現状を知る 内容:実際のデータ(事故件数・原因分析など)を用いて共有する |
事例学習 |
目的:労働災害のリスクを知る 内容:実際に起きた労働災害を、写真を用いながら共有する |
安全装置の使用方法 |
目的:安全装置を正しく使う 内容:現場で使用する安全装置の正しい使い方を教える |
危険予知トレーニング |
目的:作業時の危険回避 内容:実際の現場における危険予知および問題点を発見する |
リスクアセスメント |
目的:労働災害が生じない職場づくり 内容:作業における危険の芽を特定しリスクを見積り、各リスクに対する優先度に応じて対策を行っていく |
緊急事態発生時の訓練 |
目的:緊急事態発生時の適切な対応 内容:緊急事態発生時を想定した行動訓練を実施する |
なお、これらの安全教育は定期的に実施することでより高い効果が期待できますが、費用や対応時間を考えると悩ましい部分もあることでしょう。そこで、ぜひ活用してほしいのが人材育成に特化したクラウドサービスです。動画を用いた安全教育をはじめ、安全教育の効果を評価するテストなどが作成でき、持続的で自由度の高い教育方法を確立できます。
不注意が原因で起こるヒューマンエラーの対策としては、あらゆる事柄に対する徹底管理が効果的でしょう。徹底管理というと抽象的ですが、具体的には次のような対応策があります。
現場での事故を防ぐには、まずは整理整頓と清掃を徹底しましょう。物につまずいたり、水で滑ることで起こる転倒事故は、誰にでもできる整理整頓と清掃でその多くを防止できます。
また、不注意を防止するために「一人で作業をしない」というのもポイントです。複数人で作業を行うことで自分以外の人が危険に気づいたり、声をかけ合うことで安全管理に意識を配ることもできるでしょう。
連絡不足が原因で起こるヒューマンエラーの対策としては、報連相の徹底が重要なポイントとなります。そもそも、連絡不足をまねく要因としては、安全指示を出していない・(作業者に)伝わっていない・(作業者が)理解していない、ことが考えられますが、これらは情報の伝え方を見直すことで改善を図ることができるでしょう。
また情報の伝え方には、大きく次の5つのポイントがあります。より具体的な実践方法が知りたい方は、下記の記事を参考にご覧ください。
引用:畑村洋太郎氏の著書「みる わかる 伝える」
なお、近年ではコミュニケーションツールも増えており、これらを活用することでも連絡不足の改善に役立てられる可能性があります。サービスの一部にはチャット機能に加えて個人のスケジュールなどを共有できる機能もあるため、より確実な情報共有が実現できるでしょう。
■参考記事はこちら
情報伝達のミスを減らすためにできることとは?ミスが起きる原因や減らすための工夫を解説
集団欠陥が原因で起こるヒューマンエラーの対策としては、職場の人間関係の改善が有効です。
そもそも、集団欠陥は納期に追われている状況や作業の省略行動が慢性化している職場で起こりやすいものです。そのため、この状況を緩和させるアプローチが必要となります。
そして、とくに良好な人間関係がある職場ではチームワークもよく、作業効率が上がることで時間的余裕が生まれやすいことは言うまでもありません。また、メンバーのために安全行動を心がけたり、不安全行動をさせない空気間も生まれやすいでしょう。なお、職場の人間関係の向上を図るには、次のポイントを参考にしてください。
近道・省略行動本能ゆえに起こるヒューマンエラーには、KMK活動が効果的です。
KMK活動とは、「ルールを決める(K)」「ルールを守る/守らせる(M)」「ルール通りに行っているか確認・改善する(K)」の3つをまとめた言葉であり、当たり前のことを当たり前にさせるための基本となる考え方になります。
近道・省略行動本能は、「面倒だ」「楽をしたい」という考え自体を抑え込むことは難しいものです。そのため、ルールづくりによって、近道・省略行動をさせない職場づくりを目指すことが重要となるでしょう。
場面行動本能で起こるヒューマンエラーの対策としては、安全設備の強化が有効です。
場面行動は、人がとある刺激に対して反射的にとってしまう行動であり、この行動(本能)を防止することは非常に難しいものです。そのため、この場合の対策方法としては「ヒューマンエラーが起きたとき、どのように事故を防ぐことができるか」という視点で考える必要があります。
すると、エラーが起きたときに作業員の命を守ってくれるのは、やはり「安全設備」です。高所から落下しそうになったときは安全ベルトが命を守ってくれ、機械に巻き込まれそうになったときは緊急停止装置が命を守ってくれます。
人は、いつ・いかなる場面でも場面行動本能によって命を落とすリスクがあります。まずは日頃の業務のなかで、「今エラーを起こしたら、命は守れるか」と考え、安全設備の強化が必要となるポイントを探してみましょう。
パニックで起こるヒューマンエラーには、エラー対策や訓練の実施が効果的です。
エラー対策とは、エラー発生時にとるべき行動をあらかじめ設定しておくことで、緊急事態でも冷静に適切な対応がとれるようにするためのものです。また、あわせて緊急事態発生時の訓練も実施することで、より実践に近い感覚を養うことができるでしょう。
なお、弊社独自制作の「ヒューマンエラー防止対策ブック」では、エラー対策で活用できるテンプレートを掲載しております。下記リンクから無料でダウンロードいただけますので、ぜひご活用ください。
錯覚が原因で起こるヒューマンエラーの対策としては、安全の見える化が有効です。現場に潜む危険やリスクを目に見える形にすることで、分かりやすく効果的な注意喚起につながります。
ここで、具体例を見てみましょう。厚生労働省が実施する「『見える』安全活動コンクール」において、優良な活動事例として認められた事例の一部をご紹介します。
激突・転倒事故防止の注意喚起POP |
扉の開閉範囲の見える化 |
工具の掛ける位置を一目瞭然に |
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引用:厚生労働省|結果発表 - あんぜんプロジェクト
なお、安全の見える化を実施する際は、次のポイントを意識するとよいでしょう。詳細が知りたい方は下記の参照元をご覧ください。
引用:大分労働局労働基準部健康安全課|「安全の見える化」事例集
中高年の機能低下が原因となるヒューマンエラーには、環境整備が有効です。
たとえば、手すりの設置や小さな段差の解消、整理整頓(つまずく物を置かない)が挙げられます。また、時には人材配置を見直すことも有効な手段として働くでしょう。
そして次に挙げるのは、厚生労働省が発表している「高年齢労働者に配慮した作業負担管理状況チェックリスト」です。職場環境の現状把握をはじめ、適切な改善対策にも役立ちますので活用してみるとよいでしょう。
引用:厚生労働省|高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル~チェックリストと職場改善事項~
疲労等が原因で起こるヒューマンエラーには、労働環境の改善で対策を図りましょう。具体策としては、作業量の見直しや作業時間の管理・改善が挙げられます。
作業量の見直しとしては、まずは労働基準法や時間外労働協定(36協定)に違反をしていないかという部分から確認をしていきましょう。
また、労働者の疲労蓄積を判定する場合は、厚生労働省が公表している「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」が活用できます。チェックリストの結果によっては、医師による面接指導などを実施するとよいでしょう。
■参考:厚生労働省|労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト
単調作業による意識低下が原因となるヒューマンエラーには、労働衛生管理が効果的です。
そもそも労働衛生は、労働者の健康維持を目的とした考え方を示すものです。「労働衛生の3管理」として、「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」の3つの柱から成り立っています。
下表では、労働衛生の3管理をもとに具体的な対策方法を整理しました。ぜひご活用ください。
作業環境管理 |
・整理整頓 ・現場の明るさ(照度)の見直し ・温度/湿度を適切な範囲で保つ |
作業管理 |
・安全管理の徹底(安全ベルトの着用等) ・安全教育の実施 ・安全マニュアルの整備 |
健康管理 |
・健康診断の実施 ・労災保険への加入 |
それでは最後に、実際に起きたヒューマンエラーの事例をご紹介いたします。実例をもとに、貴社のヒューマンエラー対策にお役立てください。
2005年、ダイハツは燃費テストデータの不正操作が明るみに出ました。従業員が適切な手順を無視し、テストデータを改ざんして軽自動車の燃費性能を水増ししていたことが発覚したのです。
この不正行為は、業績向上や競争力維持のプレッシャーから発生した集団欠陥が原因とされ、ヒューマンエラーの結果として批判を浴びました。企業の利益を優先し、倫理や規制を無視した行動が行われたことで、ダイハツの信頼性と透明性が大きく損なわれました。
2021年、福岡県中間市の保育園で、5才の園児1人が送迎バス内に取り残され熱中症で死亡する事件が起きました。園児の両親が園を運営する社会福祉法人「新星会」などを相手取り、計約1億円の損害賠償を求め訴訟する事態に。
母親側の訴状によると、園長は園児全員の安全を管理する注意義務があったにも関わらず、確認が不十分なままドアを施錠した過失があると指摘されています。これらの内容から推測するに、このエラーは送迎バスの施錠に対する危険軽視や慣れが原因となったヒューマンエラーではないかと考えられます。
2022年8月、名古屋高速で大型バスがクッションドラムに衝突し炎上する事故が起きました。バスはインターチェンジの出口に向かって走行中に分岐点でクッションドラムに衝突し炎上、9人の死傷者を出す大事故となりました。
55歳の運転手はこの事故で死亡したため事故原因の特定は難航しましたが、名古屋北労働基準監督署は運行会社に対し、違法な時間外労働を行わせたとして2人の関係者を労働基準法違反容疑で書類送検しています。この事件では、違法な時間外労働が真実だとすれば、疲労が原因で発生したヒューマンエラーであると考えられます。
2022年、山口県で特別給付金4,630万円が誤って振り込まれる事件が発生しました。1世帯10万円の臨時特別給付金を町内の463世帯にそれぞれ振り込んだ際、その中の1世帯に別途、4,630万円を誤って振り込んでしまったというものです。
結果、誤送金を受けた住民は「すでに入金されたお金は動かしている。もう元には戻せない。罪は償います」などと話し、大きな事件へと発展する事態に。この誤振込は、自治体職員が手続きやデータ入力の過程でミスを犯した結果起きたものとされており、正確な情報の入力や適切な確認手順を怠るなど、不注意や近道・省略行動本能が原因で発生したヒューマンエラーであると考えられます。
ヒューマンエラー、ミスを減らすためにお役立ていただける対策ブックと業務改善テンプレートを無料で配布しております。貴社の業務改善にぜひご活用ください。
時に意図せず起こってしまう、ヒューマンエラー。「運が悪かった」「今回はたまたまだ」などと、一つのミスを小さく受け止めてしまう人も少なくありませんが、果たしてそれでよいのでしょうか?ヒューマンエラーは、時にその小さなミスが人の命を奪う恐れのある、重く受け止めるべき事項です。
一方で、ヒューマンエラーを完全に無くすことは不可能です。そのため、目指すべきところは、「エラーの数を減らすこと」と「エラーが起きたときに損害を最小限に抑える」ことといえます。
本文では、ヒューマンエラーの12分類(12の原因)をはじめ、各々の対策方法を具体的に解説いたしましたので、ぜひ貴社の課題と照らし合わせ、ヒューマンエラー防止にお役立てください。
なお、今回は弊社が独自作成した無料の「ヒューマンエラー防止対策ブック」もご用意しております。エラー対策で活用できるテンプレートを掲載しておりますので、ぜひ下記リンクからダウンロードしご活用ください。