飲食店経営において、店舗の生産性を上げるために、従業員の行動指針となるマニュアル作成を考えているオーナー、マネージャーの方もいらっしゃるのではないでしょうか。マニュアルは顧客満足を生み出す設計図であり、お店の印象を左右する大切な資料です。
作り方によってはクレームにつながる可能性があるだけに、ポイントを押さえたマニュアルにしなければなりません。
そこで本記事では、顧客満足と生産性アップにつながるマニュアルの作り方を10の項目に分けて解説します。
■参考記事はこちら
顧客満足度(CS)とは?調査方法や向上させるポイントをわかりやすく解説!
飲食店では、ひとつの接客ミスが失客につながることがあります。また、接客ミスが口コミサイトやブログに記載されて悪評が広がってしまえば、新規顧客獲得にも悪影響を及ぼします。しかしミスの多くは、事前に行動指針を決めておくことで回避可能です。
従業員がどんなときに何をするのかを明記したマニュアルは、こうしたミスを回避するためのガイドラインといえます。また、お客様に心地よさを提供するためにも重要な存在となります。
では早速、飲食店の接客マニュアルの作り方を解説します。
マニュアルは、お客様のストレスになる要素を先回りして回収し、入店から退店までの時間を心地よい体験としてもらうためにあります。マニュアル作成において大切なことは「お客様にどのような気持ちになってもらいたいのか」について想像し、逆算してオペレーション、マニュアルを作成してゆくことです。
身だしなみはもっとも基本的ながら、人の印象を決定づける要素です。人は第一印象から相手を判断することが多く、店員ひとりの第一印象がお店の評価を左右してしまうこともあります。マニュアルには、具体的な業務フローを記す前に、不快感を与えない身だしなみについて記載しておきましょう。
髪の長さや色合いなど、髪型によっても人の印象は大きく左右されます。フケなどは論外ですが、店舗の理想とする雰囲気にそぐわない髪型やNGについても記載しましょう。カラーやパーマは、店舗により禁止する必要がない場合もありますが、常にお客様の目線で良し悪しを判断することが大切です。
また清潔感を保つには、出勤時のオペレーションに鏡でのチェックや他者の目による髪型チェックを導入すると有用です。髪の毛を束ねたり帽子を活用するなどして、飲食物への髪の毛の混入を防ぐ試みも重要です。
衣服の汚れやシワも悪印象の原因になります。ぱっと見ただけでは清潔に見えても、襟や袖、裾などが汚れていると近づいたときに目立ちますので、細かいところも気をつけましょう。
また、エプロンは実用的かつ清潔感の演出にも役立つので、指定の衣服への導入もおすすめです。
爪が長いと不潔な印象を与えてしまう可能性があります。適度な長さに揃えておくことを、忘れずにマニュアルへ加えておきましょう。また、派手な色のマニキュアは多くの場合不快感につながります。
店舗の雰囲気にもよりますが、ピアス、時計、ネックレスなどはマイナスにはたらくことも多いので注意しましょう。
言葉遣いや接客態度は、店の印象を決める重要な要素です。
従業員全員が正しい敬語、丁寧な言葉遣いで話すことは、店舗運営の大前提であり、もっとも基本的な接客スキルでもあります。新人スタッフがすぐに実践できる項目でもあるので、マニュアルの前半で店舗としての正しい敬語を明記しておきましょう。
大きな声でハキハキと話すことは店舗に活気をもたらし、心地よい印象にもつながります。声のトーンや抑揚も大切です。録音してセルフチェックをおこなうなど、従業員が自身の声を確認できる仕組みがあると改善につながりやすく、接客クオリティも上がります。
こちらも基本的な要素ですが、従業員自身が明るく仕事に取り組んでいる雰囲気はお客様にも伝わります。明るく笑顔で仕事に臨める人材を大切にし、マニュアルにもその心構えを記載することで店全体の雰囲気がさらによくなるでしょう。
お辞儀は立ち止まり、深い角度でゆっくりとおこないます。事務的な印象を与えないよう、正しいお辞儀の仕方をマニュアルに明記し、スタッフ同士でもチェックし合える仕組みをつくると効果的です。
以下のような態度はお客様からの印象を著しく損ない、ともすれば失客やクレームの原因となる例です。そのようなことにならないよう、徹底した行動管理をおこないましょう。
・腰に手を当てる
・返事をしない
・腕を組む
・髪の毛を触る
・スマートフォンをいじる
・従業員同士で談笑する
・待たせる
・不手際を謝らない
電話応対は姿が見えない分、対面の接客以上に細やかな気配りやテクニックが求められます。
店舗に連絡をいただけたこと、予約をいただけたことなど、お客様のアクションに対する感謝を表現することで、電話予約の時点から心地よいユーザー体験を提供できます。
「お電話ありがとうございます」「ご注文ありがとうございます」「このたびはご予約いただき誠にありがとうございました」など、感謝を表現する言葉の具体例を盛り込みましょう。
電話では予約日時や人数、コース利用の有無、電話番号など確認すべきことが多くあります。スピーディーにさばこうとせず、お客様のペースに合わせつつも、ゆっくり丁寧に確認してゆくことが重要です。
来店から注文までのあいだにも、ストレスを感じるポイントが多くあります。
お客様にとって、飲食店への来店はささやかな非日常を味わうひとときです。第一声の挨拶は笑顔で、お客様の目を見て、ハキハキとおこないます。
「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。何名様でご利用でしょうか?」のように、来店への感謝と確認事項のヒアリングをひとつにした挨拶は、お客様を緩やかに非日常へと誘います。
また、人は覚えてもらうと好印象を抱くもの。リピーターに対しては「いつもありがとうございます」と伝えることができれば、印象は大きく上がります。たくさんのお客様を記憶することは簡単ではありませんが、マニュアルに取り入れて意識づけすることで覚えられる可能性は増すはずです。
満席時の待ち時間は、お客様にとってもっとも退屈でストレスを感じてしまうシーンです。
現在の待ち時間をできるだけ正確に伝え、受付表の記入方法を丁寧に説明することが求められます。
「こちらの受付表にお名前とご連絡先をご記入になり、あちらの待合スペースにてお待ちください」など、今何をすべきかはっきりと口に出して伝えると、余計なストレスを回避できます。
待ち時間が長引いたことでお客様に不快感を抱かせてしまったとしても、その後の対応で挽回可能です。待たせた場合は「大変お待たせして申し訳ございません。お席にご案内いたします」としっかり謝罪します。
着席後は、メニューの見方、頼み方、料理の説明、おすすめメニューなどを簡潔かつ丁寧に伝えます。また、メニューは開いた状態でお渡しすることがマナーです。
そして子ども連れのお客様に対しては、子ども用の椅子を先回りして用意するなどの配慮を欠かさず、子どもの退屈を紛らわすような工夫があるとよいでしょう。ファミリー層のお客様が抱く不安材料を軽減でき、店舗への好印象にもつながります。
オーダー確認も顧客満足に関わる重要な要素です。
オーダーを聞きに行くベストなタイミングは店舗のジャンルによっても異なりますが、店舗ごとにタイミングを定めておきましょう。呼び出しボタンを押す場合でも、押してからのスピードで印象は左右されるため、できる限り迅速に確認できるよう、注意を配っておきます。
注文を聞く際は、お客様にまとめ役がいたら、その人物に任せしてしまいましょう。大人数の場合は順番に注文してくれるよう頼みます。そして注文は必ず復唱し、受付ミスを回避することが大切です。
料理を提供するときはお客様の左から出します。「お待たせいたしました。〇〇のお客様」のように料理名を伝えながら提供しましょう。
また、「メニューは以上でお揃いでしょうか?」という確認を怠らず、最後に「ごゆっくりお楽しみください」と付け加えると好印象です。
接客は料理を提供したら終わりではありません。食事中にもできることを考えて行動に移すべきです。
水は「半分以下になっていたら注ぐ」など、基準を決めておくと従業員も動きやすくなります。席に大きなボトルを置いている場合やセルフサービス形式をとっている場合は、どれくらいの間隔で空になるのかを把握しておきます。時間や客数などで空になるまでの時間を計り、お客様から「水がありません」という指摘がない状態が理想的です。
トラブルは印象アップのチャンスと捉えます。何かが起きてしまったら、まずは誠意を込めて謝ることが最優先です。お客様に原因があっても、自己嫌悪を感じさせてはなりません。とくに子どもがこぼした場合などは、笑顔で快く対応するとリピートにつながります。
食器を下げるタイミングが悪ければ、不快の原因になりかねません。タイミングと「お下げしてよろしいでしょうか?」のひとことを添えるように、マニュアルに明記しておきましょう。
お会計は、基本的にお客様の支払い方法に合わせます。グループなら割り勘だろう、などと決めつけないことが大切です。
「お会計は全部で◯◯円でございます」
「お会計はご一緒でよろしいでしょうか?」
上記のような基本的なやりとりこそ、真心と感謝を込めて伝えましょう。また、支払い方法についてレジに表示をしている場合でも、「お支払いは現金、カード、〇〇ペイがご利用いただけます」と支払いの選択肢を伝えると親切です。お客様から「カードは使えますか?」と聞かれる前に、疑問点が解決される状況をつくります。
「ありがとうございました」
「またのご来店をお待ちしております」
最後まで心地よい気持ちでいてもらえるよう、来店への感謝を伝えます。
また、雨ならば「お足元にお気をつけください」、暑ければ「暑いのでお気をつけください」とひとこと添えることで、お店を出たときに感じる印象も変わるはずです。
クレームには真摯に対応します。お客様の言い分を認め、非をお詫びしたうえで、今後の対策、今回どのような対応をとるのかを伝えます。こちらに非がなく理不尽だと感じても、まずは「嫌なご気分にさせてしまい申し訳ございません」と伝えることで怒りが収まるケースもあります。
飲食店のマニュアルは従業員の行動指針であり、顧客満足をつくるための設計図です。お客様にどんな気持ちを抱いて欲しいかを想像し、ゴールから逆算した道筋をマニュアル化することが求められます。
マニュアルの作り方にはポイントがあります。身だしなみ、言葉遣い、接客態度などの基本的な要素だけでなく、電話応対、来店時の案内から帰り際まで、それぞれのフェーズで心地よさが生まれるマニュアルが理想的です。
この機会にお店のマニュアルをアップデートしてみてはいかがでしょうか。