バーナード組織の3要素から学ぶ、組織存続における重要な取り組みについて解説
思いもよらぬ出来事が次々と起こる現代。今は名の知れた大手企業でさえ、いつ業績不振に陥るかわからない不安定な時代です。
少しでも長く企業を存続させるためには、強固な組織の基盤作りが何より重要です。その際に役立つのが、チェスター・バーナード氏による経営理論です。
本記事では、チェスター・バーナード氏が提唱した「組織の3要素」について詳しく解説しています。また、組織存続に欠かせない「内部均衡」や「外部均衡」、「組織の3要素」をベースとする取り組みの内容などもご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
バーナードによる組織の3要素の定義
チェスター・I・バーナード(Chester Irving Barnard、以下バーナード氏)は、米国の電話会社の経営者。研究者ではなく経営者として生涯を全うしたバーナード氏ですが、彼の論考は経済学に多大な影響を与えたと言われています。
「組織の3要素」は、そんなバーナード氏が提唱した組織論のひとつです。組織が成立するには「コミュニケーション」「貢献意欲」「共通目的」が必要であり、3つの要素を結合させ続けることが重要と説くものです。
この理論は、1938年に出版されたバーナード氏の著書『経営者の役割』にて発表されました。今とは社会が大きく異なる時代に提唱されたものですが、その影響力は強く、近年の企業経営にも活かせるのではないかと議論されています。
また「組織の3要素」は、あらゆる組織の構成を考える際に役立つ概念です。企業などの大規模な組織のみならず、部門や部署、チームなど、小規模の組織にも適用できるでしょう。
構成する3要素
組織の成立に欠かせないと言われる「コミュニケーション」「貢献意欲」「共通目的」。組織を構成する3つの要素とはどのようなものなのか、内容および関係性について詳しく見ていきましょう。
コミュニケーション
コミュニケーションとは、人と人との関わり、人が互いに思考や意思を伝達し合うこと。一般的には「会話」をイメージしますが、他にも「動作」「経験」「訓練」「行為」「継続的な関わり」など、さまざまな形があります。
コミュニケーションは、組織の活動に欠かせないものです。コミュニケーションがなければ、業務を遂行することさえできません。個人ではなく、複数人で1つのことを成し遂げようとする「組織」だからこそ必要不可欠な要素と言えます。
そして、後に解説する「貢献意欲」「共通目的」を成り立たせるためにもコミュニケーションが必須です。組織が組織であるための基礎となる要素であると言えるでしょう。
貢献意欲
貢献意欲とは、文字通りメンバーが組織に貢献しようとする意欲のこと。近年は「従業員エンゲージメント」とも呼ばれており、従業員が自発的に企業の戦略を実現しようとする意欲を指します。
ビジネスは、顧客に価値を提供し、対価を得ることで成り立ちます。それを行うのは組織のメンバーである従業員です。意欲がなければ、メンバーは行動しません。顧客へ価値を提供できない、つまり組織として成り立たないということになります。
ただし、貢献意欲はもともとメンバーに備わっているものではありません。「コミュニケーション」や「共通目的」を通じて高まるものです。例えば、会社のトップから業績回復を図るビジョンと戦略が伝えられたことをきっかけに、従業員の貢献意欲が高まった、というようなケースが考えられるでしょう。
そのまた逆もしかりです。貢献意欲がある組織では、メンバー同士のコミュニケーションが活性化されます。共通の目的を持ち、協力して取り組もうとするのも貢献意欲あってこそです。貢献意欲もコミュニケーションと同様、組織に必要な要素であり、かつ他の要素と密接な関係にあると言えます。
共通目的
組織に所属するメンバー個人の目的は、人それぞれ。人生の目的も働く目的も、1人1人異なります。
とはいえ、それでは組織が一丸となって取り組むことができません。そこで必要となるのが共通目的、いわゆる企業のビジョンや目標です。共に目指すゴールがあることで、散り散りだったメンバーの行動をまとめることができます。
バーナード理論では、組織とは「ある目的を果たすためのシステム」であると考えます。
組織目的は、協働する貢献者の個人動機を直接満足させることはめったにないが、それが組織にとって決められた目的であり達成できると信じ込まれている必要がある。したがって、組織の共通目的は貢献者個人の主観的解釈も必要とはするが、どこまでいってもそれは個人にとっては非人格的で客観的なものなのである。
引用元:経営学史学会【監修】/藤井一弘【編著】(2013)『バーナード』株式会社文眞堂
多くの場合、組織の目的とメンバー個人の目的はイコールではありません。上記のとおり、組織で共通目的を持つこととは、見方を変えれば、メンバーに非人格的な行動を強いることであると言えます。メンバー1人1人の感情や要望すべてに応えていては、組織の目標を達成することはできないでしょう。
ですが、人は感情で動く生き物です。組織の目的を達成するためには、メンバーの感情、つまり貢献意欲が必要です。
そして、メンバーの心を動かすのはコミュニケーションです。このように「コミュニケーション」「貢献意欲」「共通目的」の3要素は相関関係にあると主張するのが、バーナード氏の理論です。
組織に3要素が必要な理由
組織の活動は、組織に所属するメンバーの行動によって行われます。企業の場合、従業員が業務を遂行することで利益が生じます。その行動を支えているのが、組織の3要素「コミュニケーション」「貢献意欲」「共通目的」です。
業務の遂行、組織の戦略やビジョンの浸透、メンバーの育成……これらはすべて、コミュニケーションを通じて行われます。貢献意欲がなければ、他者と協力したり、組織の目的を果たそうと積極的に行動したりすることはありません。それどころか、メンバーが組織から離れ、崩壊する恐れがあります。
そして共通目的は、メンバー個人の主観に左右されることなく、組織が1つとなって目的を達成するのに必須です。3つの要素は、すべて組織の活動および存続に欠かせません。
どれか1つでも欠けると、組織として成立するためのバランスが崩れます。共通目的がなければ、メンバーは何のための組織に貢献すれば良いのかわかりません。反対に、メンバーに貢献意欲がなければ、組織は団結できず、目標の達成から遠のくでしょう。
そして、メンバーの貢献意欲を高め、共通目的の達成へと導くのはコミュニケーションです。よって、組織が組織として活動するのには「組織の3要素」が欠かせないと言えます。
組織存続に必要な「内部均衡」「外部均衡」
バーナード氏は「組織の3要素」のほか、組織の存続に欠かせない条件として「内部均衡」「外部均衡」を挙げています。それぞれ詳しく見ていきましょう。
内部均衡
内部均衡とは、組織に所属するメンバーが「自分の組織への貢献度と同等、もしくは上回る対価を得られる」と考えていること。例えば、従業員が「会社から与えられる報酬が自分の貢献に見合っている」と感じていれば、内部均衡は保たれていると言えます。
内部均衡を保つことは、組織のメンバーの貢献意欲を高めることに繋がります。反対に、内部均衡が崩れるとメンバーは不満を抱き、貢献意欲が低下します。組織の一員として共に目的を達成しようとする意欲が薄れることから、組織の存続が難しくなるのです。
そのため、組織はメンバーの貢献に対し、適切な報酬を与えることが重要であると言えます。企業においては、従業員の職務や責務に応じて適切な給与や賞与、労働環境などを提供する必要があります。
外部均衡
内部均衡とは対照的に、外部均衡は組織の外部に提供する価値に着目します。社会や市場に価値を提供し、組織の存在意義を確立させることが、組織を存続させる上で重要という考えです。
企業に当てはめると、顧客へ提供する商品・サービスの価値が価格を上回っている状態を「外部均衡が保たれている」と言います。顧客が企業の商品・サービスに対し「代金を支払う価値がある」と判断すれば、需要が高まります。その利益を得ることで企業が存続する、という仕組みです。
反対に、提供する商品・サービスの価値が価格を下回った場合、需要が下がり、利益を得られず企業は衰退します。このように、組織を存続させるためには、内部と外部から「受け取る利益と提供する価値のバランスを保つこと」が重要であると言えます。
チーム内「コミュニケーション」を円滑にするためのポイント
組織の成立・存続に必要な要素と条件を理解したところで、具体的にどのように取り組むべきか見ていきましょう。組織の3要素のひとつ、コミュニケーションを円滑にするポイントは以下の4点です。順に解説していきます。
ポイント①コミュニケーションを円滑にする仕組みの構築
チームのメンバーに「積極的にコミュニケーションをとろう」と呼びかけるだけでは変わりません。組織の取り組みとして、メンバー同士が快適にやり取りできる「システム」を構築することが大切です。
具体的な施策例としては、デジタルツールの活用が挙げられます。オンラインでやり取りできる環境があれば、リモートワークなどでメンバー同士の距離が離れている場合でも、スムーズにコミュニケーションがとれます。相手の都合の良いタイミングで確認してもらえることから、「部下が上司に気を遣って質問できない」などといった課題も解消されるでしょう。
また、コミュニケーションに問題が発生する原因として、情報の共有不足も考えられます。質問するにしても、意見を言うにしても、手元に少しの情報もなければ何もできません。知らないから聞けない、意見を言えないのです。
そのような場合は、朝と晩に担当業務に関する報告メールを送るなど、情報共有の機会を増やす工夫が必要です。チーム内のコミュニケーションが上手くいかない原因を突き止め、仕組みとルールを見直してみましょう。
ポイント②コミュニケーションがとれる時間を確保する
コミュニケーション不足の原因となることが多い「時間」。業務に追われて話し合う時間がない、質問できない、質問に答えられないなど、よくあるトラブルです。
そのような問題を解決するには、チームメンバーが話し合える時間を事前に設定しておく必要があります。例えば、スケジュールを共有し、互いに会話できるタイミングを把握しておく方法が挙げられます。1対1で面談する1on1ミーティングを導入し、業務から離れる時間を作るのも対策として有効です。
多忙な職場ほど、連携を強化するためのコミュニケーションが必要です。円滑に連絡が取れるシステムを構築した上で、時間にも注目してみましょう。
ポイント③チームのビジョン・目標を共有する
チームメンバーに認識のズレがあると、コミュニケーションはスムーズにいかないものです。そのため、チームのビジョン・目標の共有は必須と言えます。
バーナード氏の「組織の3要素」にもあるように、共通目的とコミュニケーションは相関関係にあります。目的の共有にはコミュニケーションが必要不可欠ですが、共通の目的がないと意思疎通が困難になるのです。
同じビジョン・目標を持つことで、チーム内の行動や考え方が統一され、コミュニケーションが円滑化されると考えられるでしょう。
ポイント④メンバー・リーダーのコミュニケーションスキル向上
日々の業務は、小さなコミュニケーションの積み重ねから成り立っています。頻繁なやり取りを円滑化するには、メンバー1人1人のスキルアップも必要です。
相手にわかりやすく伝える方法や、話し相手の意図・情報を整理して理解する能力を高めることで、コミュニケーションの質が高まります。チームリーダーは、相手の話を聞き出すスキルや、相手が安心して本音を言える話し方・聞き方なども習得する必要があるでしょう。
コミュニケーションスキルには個人差があります。チーム全体のコミュニケーションを改善するためには、知識とスキルの習得、ロールプレイなどによる訓練が必要です。
社員の「貢献意欲」を高めるポイント
社員の貢献意欲向上には、生産性アップ、離職防止など、さまざまなメリットが期待できます。どうすれば社員の意欲を高められるのか、意識すべき4つのポイントについて見ていきましょう。
ポイント①社員の貢献に対する適切な評価
自分の努力が評価されなければ、誰でもモチベーションが下がるものです。そのため、社員の成果や責任、成長に対して適切に評価することが、貢献意欲を高める上で重要と言えます。
そして、評価する際は基準を明確化し、内容を社員に提示することが大切です。なぜこのように評価したのか、理由がわからないと「会社は自分を適切に評価してくれない」と不満を持つ恐れがあるからです。
バーナード氏が挙げた組織の存続に欠かせない条件「内部均衡」を保つため、社員の貢献に対して適切に評価すること、そして評価理由を明確に示すことを意識しましょう。
ポイント②企業ビジョン・目標の浸透
バーナード氏の理論によると、貢献意欲の向上には「共通目的」が必要です。企業のビジョン・目標を明確にすることで、社員は自分のやるべきこと、目指すべきゴールが定まり、貢献意欲が高まると考えられます。
もちろんビジョン・目標の内容も重要です。社員が内容に納得できなければ、その会社に「貢献したい」と思えないでしょう。
また、共通目的をただ提示するだけでは、社員は理解できません。会社と社員の未来を具体的にイメージできるよう、説明する機会を設けることも必要です。
社員の意欲を刺激するビジョンを掲げること、そして、ビジョンを真の意味で理解できるよう働きかけることが、貢献意欲を高めるポイントです。
ポイント③顧客への提供価値の向上
自分の仕事に誇りを持つことは、社員の貢献意欲を高めます。コーン・フェリー社が行った調査にて、社員エンゲージメントには「顧客への提供価値」が強く影響していることが明らかになりました。
引用元:柴田彰(2019)『エンゲージメント経営』日本能率協会マネジメントセンター
このことから、顧客への提供価値を高めることは、社員の貢献意欲を向上させる取り組みとして有効と考えられます。「自分の会社は、顧客へ価値のあるサービスを提供できている」という自信が、貢献意欲を高めるのです。
ハイクオリティな製品、顧客の心を動かすサービス、それらをスムーズに提供するための効率的な業務プロセス……改めて見直しを行い、サービスクオリティの向上に取り組みましょう。
ポイント④意欲的に働ける労働環境の提供
社員の貢献意欲を高めるには「環境」も重要です。ビジョンや事業内容がどれほど魅力的でも、労働による負担が大きい環境は社員を疲弊させます。
意欲的に働くには、少なくとも適切な労働時間、十分な休息、職務・責務に見合った報酬、快適な作業環境が必要です。最近では、ライフスタイルに適した働き方も、社員が求める労働環境の条件に入ります。
社員の貢献意欲を高めるための土台作りとして、改めて労働環境も見直しましょう。
チームで「共通目的」を持つためのポイント
1人1人価値観の異なるチームメンバーをまとめて、共に1つのゴールを目指すことは簡単ではありません。どうすればチーム全体で共通目的を持つことができるのか、以下の4つのポイントについて見ていきましょう。
ポイント①チームの個性に合うビジョンを設定する
チームに共通目的を持たせるには、明確なビジョンの設定が必要不可欠です。しかし、その内容をメンバーが理解できなければ意味がありません。
そのため、ビジョンを設定する際は、チームの「らしさ」を意識することが大切です。チームの担当業務に紐づく内容にすることは当然として、親しみやすいワード、オリジナリティのあるワードを取り入れたスローガンを掲げる方法も例として挙げられます。
また、チームメンバーを巻き込んでビジョンを考えるのも有効な手段のひとつです。「自分たちが考えた」という体験が、ビジョンの理解と浸透を促します。
チームビジョンについてメンバーが戸惑うことなく語れること、メンバーの行動基準がビジョンとなることを目指して設定しましょう。
ポイント②適切なレベルの目標を設定する
個人の目的ではなく、チームの目的を優先するようメンバーを誘導するには「動機」が必要です。そのポイントとなるのが目標のレベルです。
実現不可能な目標を設定した場合、メンバーのモチベーションが下がる恐れがあります。反対に、目標が低すぎてもやりがいを感じられません。もともと意欲的なメンバーが揃っているケースは、極めて稀です。目標レベルによってモチベーションに差が出るケースがほとんどでしょう。
全員で同じ目的を持つには「実現可能かつ協力しないと達成できない目標」を設定することが重要です。チームの現状を把握し、適切な目標レベルを見極めましょう。
ポイント③個人の目標とチームの目標を連動させる
明確なチーム目標を設定しても、日々業務に追われていると、つい忘れてしまうものです。「自分には関係ない」と、チーム目標を他人事と捉えてしまう人もいます。
そのような状態では、共通目的を持つことができません。そこで対策として挙げられるのが、個人目標との連動です。
「チームの目標は自分にも関係がある」「自分もチームの一員である」と思ってもらうことが狙いです。また、個人目標を設定するときや振り返りを行うときなど、チーム目標にも触れる機会を増やす狙いもあります。
個人目標を目指すことが、自然とチーム目標を目指すことに繋がるという仕組みが、共通目的への意識を高めるでしょう。
ポイント④計画・実行・振り返りのサイクルを回す
共通目的を持つことの重要性を説明しても、なかなか理解してもらえないケースがほとんどです。やはり、成果が見えないと共通目的への意識は高まらないでしょう。
そのため、チーム目標の設定・実行・振り返りのサイクルを回すことが重要と考えられます。どのような成果を上げたのか、なぜ上手くいかなかったのか、チームの取り組みを見つめ直す機会を増やすことで目的意識が高まります。
また、このようなサイクルを回すことにより、チームで話し合う機会も増えます。コミュニケーションの強化による貢献意欲の向上も同時に期待できるでしょう。
まとめ
時代が変化しても、組織の本質は同じです。数十年前に注目された「組織の3要素」のひとつ、「貢献意欲」が、言葉を変えて「従業員エンゲージメント」として今も変わらず重視されていることから、組織に必要なものの根本は変わらないのだと考えます。
経済、消費者の行動、働き方……さまざまな物事が目まぐるしく変化する今こそ、原点に戻り、改めて組織の在り方を見つめ直す必要があるでしょう。