顧客や店舗を深く知る行動分析とは?分析手法や事例をわかりやすく解説!
企業経営を行う上で、顧客の声に耳を傾けることは非常に重要。しかし、店舗に来店するお客様、自社商品・サービスを購入したお客さまの本音を聞ける機会はほとんどありません。顧客アンケートの回答率の低さに、日々悩まされている企業も多いでしょう。
そこで注目されているのが「行動分析」です。顧客の行動を分析することで、ニーズや好み、適切なアプローチ方法など、さまざまな情報を得ることができます。
今回は、行動分析や購買行動などの基本的な知識から、分析の活用例まで幅広く解説。具体的な分析手法、企業事例などもご紹介しますので、マーケティングにお悩みの経営者の方、従業員に購買行動分析を学ばせたい人材育成担当者の方は、ぜひお役立てください。
行動分析とは?
行動分析とは、文字通り「行動を分析する」こと。1930年代、米国の心理学者B・F・スキナー氏が始めた心理学の一種「行動分析学」に基づき、分析することを言います。
『行動分析入門ーヒトの行動の思いがけない理由』という書籍にて、著者の杉山尚子氏は、行動分析学について以下のように言及しています。
人間や人間以外の動物の行動には、それをさせる原因があるのであり、行動分析学はその原因を解明し、行動に関する法則を見いだそうとする化学なのである。
引用元:「杉山尚子(2014)『行動分析入門ーヒトの行動の思いがけない理由』株式会社集英社」
つまり行動分析とは、人が「なぜそのように行動するのか」「どのような条件で、どのような行動をするのか」を分析すること。原因追及と対策に役立つとして、スポーツや医療などさまざまな分野で活用されています。
行動の種類
行動分析学では、行動は大きく分けて2種類あるとされています。「レスポンデント行動」と「オペラント行動」です。2つの特徴について見ていきましょう。
レスポンデント行動
レスポンデント行動とは、特定の刺激によって誘発される行動のこと。外部の刺激と、その刺激によって起こる反応の関係性、法則を指します。
例えば、隣の部屋から物音がして「何だろう?」と疑問に思う、これはレスポンデント行動に該当します。”物音”という刺激に対し、”疑問に思う”という行動が誘発されたためです。レスポンデント行動は、意図的にコントロールするのはやや難しいと言われています。
オペラント行動
オペラント行動とは、自発的な行動のこと。前後の環境・状況によって行動が「発生しやすい」「発生しにくい」はありますが、刺激に誘発されて起こるものではありません。レスポンデント行動とは対照的です。
例えば自販機のボタンを押すとき、「ボタンを押そう」とは考えません。ボタンを押せば飲み物が出て来ると、過去の経験から知っているのでボタンを押します。これがオペラント行動です。
また、オペラント行動は、意図的にコントロールしやすい行動と言われています。
トートロジー(同義反復)との違い
行動分析でよく耳にする「トートロジー」とは、同義反復のこと。同じ意味の言葉を繰り返すこと、言い換えを意味します。
原因追及を行う際は、このトートロジーに陥らないよう注意です。
例えば、「運動を継続できない」という課題に対し、「意思が弱いから」「そういう性格だから」などを原因としてしまいがち。しかし、これらはただ言葉を変えているだけで、根本となる原因を突き止めていません。
一方、行動分析では「運動を継続できないのは、運動して良い結果が出たことがないから」と考えます。健康になった、ダイエットに成功した、体力がついたなどといった良い結果の証拠や実感がないために、運動が続かないと分析するのです。
このように、行動分析では原因と対処法を的確に導き出すことができます。反対に、トートロジーに陥ると根本的な解決ができなくなるため、注意が必要なのです。
接客業、BtoC企業が知っておくべき「購買行動」
行動分析にはさまざまな行動が対象になりますが、ビジネスでは主に「購買行動」の分析が重要視されています。特に、接客を必要とする業種、BtoC企業、小売業などでは重要です。
そこでここからは、購買行動について解説していきます。
「購買行動」とは
購買行動とは、顧客が商品やサービスを購入する際に取る行動のこと。注意、関心、欲求などいくつかの段階に分かれており、購入に至るまでの一連のプロセスをまとめて「購買行動」と呼びます。購買行動の分析は、主にマーケティング戦略に活用されています。
購買行動の変化
購買行動は、各段階の頭文字をとって並べた「AIDMA」が一般的です。しかし、最近ではインターネットで商品を購入する消費者も多く、新たな購買プロセスのモデルが誕生しています。
(引用元:「ICT インフラの進展が国民のライフスタイルや社会環境等に及ぼした影響と相互関係に関する調査研究」総務省 情報通信国際戦略局 情報通信経済室)
総務省発行の資料を見てみると、購買プロセス「AISAS」「AISCEAS」には、検索・比較・検討などの行動が加わっていることがわかります。また、インターネットを利用した「共有」という新たな行動にも注目です。
企業は、このような購買行動の変化に合わせて適切にアプローチする必要があります。よって、購買行動を分析することが大切なのです。
購買行動分析を行う4つのメリット
購買行動の分析には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。主な4つのメリットをご紹介します。
業務改善による顧客満足度の向上
時代に適したマーケティング戦略や、世間で有効と謳われるメソッドも、自社に合うとは限りません。着実に利益を上げるためには、自社の顧客に適した戦略を練ることが何より重要です。
そこで役に立つのが、購買行動分析です。自社の利用客の行動を分析することで、原因と改善点を的確に見定めることができます。
原因と改善点を発見することができれば、業務改善が可能になります。人材育成が必要な場合でも、習得すべきスキル・知識が明確なので、効率よく成長させることができます。
顧客の心理に寄り添った業務は、顧客満足度の向上につながります。分析データをもとに行うため、闇雲に業務改善を試みるよりも成果が出やすいでしょう。
購買率・業績向上
業務改善により顧客満足度が上がると、リピート客が増えます。その結果、業績向上へとつながります。
また、購買行動を分析することで、今まで逃してしまっていた販売チャンスの原因も明らかに。
顧客が「関心」は持ってくれているが、「欲求」につながらないのは何故か。「比較」「検討」はしても「行動」しないのは何故か。このような原因が明確になり、適切な対策を練ることができるのです。
すべての顧客の購買行動を追跡するのは、ほぼ不可能。しかし、行動分析を用いることで、ある程度の予測が立てられるようになります。顧客が離れる理由を考察し、「売り逃し」を防止できるのです。
このように、購買行動の分析にはリピート客だけでなく、新規顧客にアプローチできるというメリットもあります。
マーケティング戦略の最適化
購買行動分析は、実際の業務だけでなく、企業全体で取り組むマーケティング戦略を立てる際にも役立ちます。
顧客が「行動」しないのであれば、商品やサービスを購入・利用しやすくするシステムを。そもそも顧客の「注意」「関心」を引くことができていないのであれば、広告の見直しを。購買行動を分析することで、最適なマーケティング戦略を導き出すことができます。
また、現代はインターネットを使って検索・比較・検討を行う消費者が多いことから、デジタル技術を活用した戦略も必要です。従来の戦略が、インターネットを除外したものなのであれば、見直しが必要となるでしょう。
オムニチャネル化への活用
購買行動「AISCEAS」にもあるように、最近は商品・サービスを購入する際、インターネットを使うのが当たり前。そんな顧客の行動に合わせて、オムニチャネル化する企業が増えています。
例えば以下のような施策があります。
- インターネットで注文し、リアル店舗で比較検討・購入できるサービス
- リアル店舗にいながら、スマートフォンやサイネージで商品を検索、購入できるサービス
このような、オンラインとオフラインを融合させたビジネスモデルを、オム二チャネルと言います。
オムニチャネル化するには、顧客が「いつ、どのようなシーンでオンライン・オフラインを使い分けているのか」を知る必要があります。ニーズを理解していなければ、施策を行っても失敗する可能性が高いからです。
よって、オムニチャネル化する際は、予め行動を分析しておくことが大切。購買行動が複雑化している今こそ、行動分析の重要性はさらに高まっていると言えます。
購買行動分析に便利な手法・フレームワーク
行動分析を行う際は、膨大な顧客データを整理し、分析しなくてはなりません。数字と向き合い、考察するうちに目的を見失うこともあるでしょう。
そこで用いられるのがフレームワークです。行動分析に活用できるフレームは数多くありますが、今回は一般的な3つの手法をご紹介します。
デシル分析
「デシル分析」は、購入金額の高い順に顧客を10段階に分け、各段階の購入金額や売上高構成比を分析する手法。リピーターの増加、リピート客の購入金額向上を目的として実施されます。
(引用元:「デシル分析とは何か?」Marketics)
上記のような表を作成し、分析を行います。
10段階のうち、最も売上構成比の高いランクの顧客は、自社への貢献度が高い「優良顧客」とされます。上記の例で言えば、デシル1~3の顧客層が該当するでしょう。その優良顧客に向けた施策を行うことで、効率よく売上げを伸ばすことができます。
また、ランクごとに顧客をグルーピングすることにより、それぞれの客層に適した戦略を練ることも可能に。既存顧客へのアプローチは、新規顧客の獲得よりもコストが低いため、結果的にコスト削減へとつながります。
デシル分析は、比較的簡単に実行できるのがメリット。ただし、購入金額と売上高構成比以外の情報を拾うことができないため、他の手法と組み合わせて行うのが一般的です。
RFM分析
「RFM分析」は「Recency(最終購買日)」「Frequency(購入頻度)」「Monetary(類型購入金額)」を指標とする分析手法。3つの単語の頭文字を取って作られた言葉です。
RFM分析の目的は、自社への貢献度が高い「優良顧客」を絞り込むこと。デシル分析と同じですが、購入金額以外の角度からも分析できるため、内容が複雑化する分、より深い分析が可能になります。
またRFM分析は、将来、優良顧客になる可能性がある顧客を発掘することもできます。
例えば、累計購入金額が低い顧客は、デシル分析では「優良顧客ではない」と判断します。
ですがRFM分析では、購入頻度が高く、かつ最終購買日も近い顧客は「今後優良顧客になる可能性がある」と判断することができます。そのような顧客にアプローチすることで、優良顧客数の増加が期待できるでしょう。
このように、具体的かつ長期的な戦略を立てるのにRFM分析は役立ちます。
CTB分析
CTB分析は、商品を「カテゴリー別」「テイスト別」「ブランド・メーカー別」に分けて分析する手法。「Category」「Taste」「Brand」の頭文字から成る言葉です。
デシル分析やRFM分析は、顧客の購入履歴からデータを取得し、分析する方法でした。それに対しCTB分析は、購入する前の段階に着目する手法。顧客の「好み」と、分析対象が定性的なのも特徴です。
購入に至るまでの行動を探り、パターンを知ることで、購買行動の予測が可能になります。「購入金額」「最終購買日」といった明確な数字を扱うわけではないので、やや難易度が高いと言われていますが、成功するとブランディングや戦略を立てるのに役立ちます。
購買行動分析に使われるフレームワークは、この他にも多数存在します。企業、扱う商品、次期、環境に合わせて適切な手法を選択することが大切です。
購買行動分析の活用例3選
行動分析は、得た結果を活かし、実行してこそ価値があります。とはいえ「どのように活用すればわからない」と戸惑う方も多いでしょう。
そこで、ここからは具体的な活用例を3つご紹介します。
マーケティング・フレームワークを用いた販促施策の考案
分析して得た情報を、そのまま戦略に応用するのは難しいもの。そんなとき、マーケティングのフレームワークが役に立ちます。
マーケティング関連のフレームワークとしては「新PASONAの法則」が有名です。
新PASONAの法則は、人々の行動を促すための法則のこと。経営コンサルタントやマーケターとして知られる、神田昌典氏が提唱した「PASONAの法則」の改良版です。
「新PASONAの法則」を活用して戦略を練る際、顧客が「どのような問題を抱えているのか」「どのような心理が行動を促すのか」などといった情報が必要になります。そこで購買行動分析が役立つのです。
マーケティング戦略を成功させるためには、顧客のことを知ることが大切。そのため、どのフレームワークを活用するにしろ、購買行動の分析が活躍するでしょう。
顧客行動をデザインする戦略の考案
施策を実行するには、少なからずコストがかかります。失敗すると時間も費用も無駄になるため、できる限り成功させたいものです。
そこで有効なのが、行動をデザインした戦略の考案です。顧客が「どのような流れで比較・検討するのか」「何をきっかけに行動するのか」を推測し、緻密に戦略を練ることで、失敗するリスクを減らすことができます。
購買行動の分析結果をもとに戦略を練れば、推測の精度が上がります。もし予想から外れたとしても、軌道修正しやすいでしょう。
顧客行動をデザインする戦略には、書籍『人を動かすマーケティングの新戦略「行動デザイン」の教科書』で紹介されている方法が役立ちます。
(引用元:「博報堂行動デザイン研究所 國田圭作(2016)『人を動かすマーケティングの新戦略「行動デザイン」の教科書』株式会社すばる舎」をもとに弊社で作成)
行動分析は、上記にある「STEP3」「STEP4」で特に役立つでしょう。また「STEP6」のチェック段階でも、分析を活用することで現状を把握することができます。
購買行動に最適なアプローチができる人材の育成
購買行動分析を活用した業務・戦略の実行には、従業員の知識・スキルが欠かせません。従業員が行動分析を理解できていなければ、業務に活かせないどころか、分析さえ実施できないでしょう。
そのため、自社で購買行動分析を行う際は、人材育成も視野に入れておくことが大切です。
例えば接客業の場合、行動分析の研修を販売員に受けてもらうことで、購買行動を理解した接客が可能になります。小売店舗の責任者に受講してもらえば、顧客心理に合わせた施策や商品陳列などが実施可能になり、売上げ向上が期待できるでしょう。
また、分析に使うツールによっては、デジタルスキルを持つ人材も必要です。高度な分析ができる人材を確保すれば、さらに分析の精度が上がるでしょう。
行動分析を活用した企業の事例3選
「行動分析の活用を具体的にイメージしたい」という方のために、ここからは活用事例を3つご紹介します。成功させるコツも併せて解説していますので、ぜひお役立てください。
株式会社伍魚福
高級珍味の製造販売を行っている「株式会社伍魚福」。同社は2013年から、リピート客に対する施策考案を主な目的として、RFM分析を行っています。
分析の結果、以下のような発見がありました。
- 客層の変化
- リピート客の売上げ増大
- リピートの回転率増加
また、メールマーケティングの効果は配信回数に左右されること、送料無料に惹かれる顧客層など、今まで曖昧だった顧客の反応・ニーズも明確に。これらは施策の戦略を立てるのに役立てられているそうです。
インターネット通販を行っている企業は、顧客と直接話す機会がほとんどありません。そのため、行動分析が大いに役立ちます。顧客の行動をさまざまな角度から分析できる手法を選ぶのがポイントです。
株式会社パル
衣料品や雑貨の販売を行っている「株式会社パル」では、「LINEミニアプリ」を活用した行動分析を行っています。
「LINEミニアプリ」には、QRコードを読み取るとデジタル会員証が発行される機能、アプリを起動すると自動的に同社のLINE公式アカウントに友達追加される機能を実装。顧客はQRコードを読み取りと簡単な操作だけで、会員証を発行できます。新たにアプリをダウンロードする必要もありません。
(引用元:「LINEミニアプリで店舗顧客を囲い込み!新規会員数とEC売上をアップさせたパルのLINE活用」LINE for Business)
行動分析を行うには、顧客データの収集が欠かせません。そして、分析の精度を高めるためには、より多くのデータを集める必要があります。
よって、顧客データを収集しやすいシステムを作ることが大切です。「株式会社パル」のように、顧客が利用しやすいツールを選択することも、行動分析を成功させる上で重要と言えます。
株式会社JTB
大手旅行会社である「株式会社JTB」は、旅行会社特有の課題を解決し、独自の行動分析を実現した企業です。
「顧客の購買理由が多種多様」「リピート率が高くなく、購買頻度が低い」といった問題を抱える旅行業界。そこで同社は、旅行先の対象となる地域の地方公共団体やDMOと連携を取り、より深く、よりスピーディな顧客への理解を実現しました。
その独自システムを支えるのは、「地域共創基盤™」と呼ばれるクラウドアプリケーション。顧客情報を取得するためのもので、地方公共団体の観光課やDMOが、各自自由に運用できるのが特徴です。旅行会社の手が届きにくい、現地での顧客の声を聞き、分析に役立てることができます。
(引用元:「地域共創基盤」JTB法人サービスサイト)
旅行業界に限らず、顧客1人1人の詳細な情報を得るのは難しいことです。しかし、関連企業・組織と連携を取るなど、工夫すれば決して不可能ではありません。「株式会社JTB」の取り組みは、そのことがよくわかる事例です。
まとめ
近年は社会の変化が目まぐるしく、企業はスピーディに戦略を立てることが求められています。故に、先進的な施策やシステムを導入することばかりに注力してしまいがちです。
しかし、戦略を成功させるためには、自社の顧客、ターゲットとする顧客を良く知ることが大切。行動分析には多かれ少なかれ時間がかかるものの、失敗を繰り返すよりも近道です。
まずは小規模な分析や、従業員との知識共有から始めてみてはいかがでしょうか。