ビジネスマナーとして適切な言葉遣いとは?おさえておきたい敬語や例文を紹介
相手や状況に合わせて正しい言葉遣いで話すことは、社会人が身につけておくべきマナーです。新人研修でも取り上げられるテーマですが、自分の言葉遣いが間違っていることに気づいていない人、正しい言葉遣いを知らない人は、意外と少なくありません。
本記事では、どうすれば正しい言葉遣いを習得できるのか、従業員に習得させられるのか。本記事では、そのような悩みを抱えている方に向けて、覚えておくべき敬語や習得のポイント、ビジネスシーンでよく使われるフレーズの例をご紹介しています。
ビジネスマナー研修や自己学習に活用できる「接遇&言葉遣いチェックリスト」もご用意しましたので、ぜひご利用ください。
ビジネスマナーとしての言葉遣い
業務を円滑に進めるため、利益を得るため、良い取引を行うためには、良好な人間関係を構築することが大切です。
その入り口となるのが「言葉遣い」です。言葉は気持ちを伝える手段であり、言葉遣いの適切かどうかで相手に与える印象が変わります。
乱雑な言葉遣い、間違った言葉遣いは、相手を不快な気持ちにさせます。「思いやりがない」「仕事が雑だ」というようなマイナスな印象を与え、自分や会社に対する信頼が失われます。
反対に、丁寧で正しい言葉遣いで話す人は、相手から信頼されやすくなります。「この人・会社から、商品(またはサービス)を買いたい」「これからも関係を築いていきたい」とポジティブな印象を抱かれ、それが最終的には会社の利益につながります。
言葉遣いは「企業と関係者を結ぶ重要な要素」なので、ビジネスマナーの基礎として従業員に身につけさせる必要があるのです。
ビジネスマナーの5原則
言葉遣いは、従業員が身につけるべきといわれている「ビジネスマナーの5原則」のひとつです。ビジネスマナーの5原則には、以下の5つの要素が含まれます。
ビジネスマナーの5原則は、お客さまや上司、取引先企業の人とコミュニケーションをとる際に守るべき基本です。接客業に限らず、社会人が習得する必要のある最低限のマナーといえるでしょう。
なお、ビジネスマナーはその他にも、話し方や聴き方、電話対応、クレーム対応、時間のマナー、報告・連絡・相談の徹底などがあります。
敬語の基本の3種類
敬語には、主に「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」の3種類があります。
丁寧語とは、相手と自分の立場がフラットな場合に使う、丁寧な言葉のこと。語尾に「〜です」「〜ます」をつける話し方や、名詞の前に「お」「ご」をつける言いまわしなどが例です。
尊敬語とは、相手の立場を高め、相手を敬う気持ちを表す言葉。主語が相手のときに使う表現で、「〜れる」「〜られる」「いらっしゃる」などがあります。
謙譲語は、自分の立場を下げることで相手の立場を高める敬語です。目上の人との会話で、自分や身内が主語の場合に使われます。「〜いたす」「〜させていただく」といった言い回しや、「言う」を「拝見する」と言い換える使い方などがあります。
ビジネスマナーとして、これらを正しく使い分けることが大切です。目上の人を主語とする文章で謙譲語を使うなど、間違った言葉遣いはかえって失礼にあたるので注意が必要です。
間違いやすい言葉遣いやおさえておきたい敬語
間違った言葉遣いに慣れてしまうと直すのが難しくなります。そのため、可能な限り早く正しい知識を身につけ、習慣化することが大切です。
よくある言葉遣いの間違いと、覚えておくと良い敬語をご紹介しますので、改めて確認しておきましょう。
①二重敬語
1つの語に2つ以上の敬語を使うのは「二重敬語」という間違った言葉遣いです。
例えば「頂戴させていただきます」は、「もらう」を意味する「頂戴する」と「いただく」の2つの謙譲語が重なっています。「頂戴します」もしくは「いただきます」が正しい表現です。
また「おっしゃられていました」では、「おっしゃる」と「〜られる」が重複しています。この場合は「おっしゃっていました」が正しいです。
例外もありますが、基本的には「1つの語には1つの敬語」がルールと覚えておきましょう。
②目下の人に対する言葉を目上の人に対して使う
お客さまや取引先、上司に向けて、目下の人に対する言葉を使うと失礼になります。
例えば「ご苦労さまです」は、目下の人に向けて言う挨拶です。目上の人に対しては「お疲れさまです」と言います。
また「お世話さまです」も、目下の人に対する言葉です。取引先の人に対しては「お世話になります」「お世話になっております」と言うのが正しいです。
相手に不快な思いをさせる可能性があるため、間違って使わないよう注意しましょう。
③尊敬語と謙譲語の混同
目上の人と会話する際、主語が相手のときに謙譲語を使うのは間違いです。また、主語が自分のときに尊敬語を使うのも間違った言葉遣いです。
例えば「言う」という言葉の謙譲語は「申す」、尊敬語は「おっしゃる」です。そのため「お客さまが申していた」ではなく、「お客さまがおっしゃっていた」と言います。
「見る」という言葉の謙譲語は「拝見する」、尊敬語は「ご覧になる」です。自分が主語の場合は「(私が)ご覧になる」ではなく、「(私が)拝見する」と言うのが正しいです。
尊敬語と謙譲語の使い方を間違えると、自分の立場を高め、相手の立場を下げることになるため、注意しましょう。
④バイト敬語
日常的によく見聞きするため正しいように思えるが、実は間違っている言葉遣いとして「バイト敬語」が挙げられます。アルバイトスタッフにありがちな間違いとして広まったことから、このような名称がついたといわれています。
例えば「コーヒーの方、お持ちしました」というのは間違いです。コーヒーを持って来たことを伝えるフレーズに、方向を示す「方」をつける必要はありません。正しくは「コーヒーをお持ちしました」と言います。
そのほか「よろしかったですか」や「〇〇円になります」なども、間違った言葉遣いです。「よろしいですか」「〇〇円です」と言うのが正しいです。
聞き慣れていることから正しいと思い込んでいるケースが多いため、改めてチェックし、まずはミスに気づくことが大切です。
⑤クッション言葉
目上の人に対し、要望を伝えるとき、提案を断るとき、質問するときは、より一層配慮が必要です。相手の迷惑になることを伝える際は「クッション言葉」を使うことで、謙虚な姿勢を示すことができます。
- よろしければ
- 恐れ入りますが
- お手数をおかけいたしますが
- 申し訳ございませんが
- せっかくではございますが など
上記は、よく使われるクッション言葉の例です。特に、メールや手紙では表情が見えず冷酷な印象を与えやすいため、クッション言葉を意識して使うと良いでしょう。
⑥目上の人に対する要望の伝え方
目上の人に何かをお願いしたいとき、「〜ください」「〜お願いします」と言うのも間違いではありません。
ですが、さらに丁寧に伝える表現として、「〜していただけますか」と相手に判断をゆだねる言い回しがあります。語尾を疑問に変え、強制ではないことを表すことで、謙虚な姿勢を示せます。会社都合のルールをお客さまに守って欲しいとき、取引先へ自社の要望を伝えたいときなどに活用すると良いでしょう。
⑦否定の言い換え
「〜できません」「わかりません」などの否定的な表現は、相手に威圧感を与える恐れがあります。そこで「〜いたしかねます」「わかりかねます」と、肯定的な表現へと変えることで、冷たい印象を払拭できます。
ちなみに、できないことや、わからないことに対する対処を付け加えると、より好印象になります。「〜はできかねます。~でしたら可能なのですが、いかがでしょうか。」などのように、相手の要望に応えようとする意思を伝えると良いでしょう。
【シーン別の例文】ビジネスマナーとして適切な言葉遣い
ここからは、シーン別に具体的な例文をご紹介します。取引先や上司、お客さまとの会話で良く使われるフレーズなので、ぜひ参考にしてみてください。
【対取引先】名刺交換
人と初めて会うときは第一印象が大事です。基本が身についているか、自分・会社がどういう人・会社か、今後も関係を保ちたいと思ってもらえるかが決まる重要な場面のため、正しい言葉遣いを意識しましょう。
具体的なシーン |
よく使われるフレーズの例 |
名刺を渡すとき |
・はじめまして。〇〇会社の〇〇と申します。 |
自己紹介 |
・〇〇関係の仕事をしている〇〇という会社で、主に〇〇を担当しております。 |
名刺を受け取るとき |
・頂戴いたします。 ・恐れ入りますが、お名前の漢字の読み方をお教えいただけますか。 |
【対取引先】アポイントをとるとき
アポイントを取る際は、相手にこちらの要望を受け入れて欲しいという気持ちを伝えるため、より丁寧で謙虚な言い回しを意識します。相手が快く承諾できるよう「〜いただけますか」「よろしいでしょうか」と疑問形で伝えるのがポイントです。
具体的なシーン |
よく使われるフレーズの例 |
アポイントをとるとき |
・ぜひ直接ご説明させていただきたいのですが、〇〇時間ほどお時間をいただけますでしょうか。 ・〇〇についてご説明する機会をいただきたく、ご連絡いたしました。 |
日程を決めるとき |
・ご都合の良い日をお知らせいただけますでしょうか。 ・下記日程にて、ご都合の良い日時をご連絡いただけますでしょうか。 |
アポイントを取得したとき |
・ご多忙にもかかわらず、説明の機会をいただけるとのこと、感謝申し上げます。 ・お忙しいところお時間を頂戴できるとのこと、お礼申し上げます。 ・当日は何卒よろしくお願い申し上げます。 |
【対取引先】電話対応
取引先とは、電話でやりとりする機会も多いです。お互いの表情が見えないため、より一層丁寧な言い回しを心掛けましょう。
電話を受けるときや取り次ぐときのフレーズを覚えておくと、便利です。電話対応で慌てないよう、下記の例を参考に練習しておきましょう。
具体的なシーン |
よく使われるフレーズの例 |
電話を受けるとき |
・お電話ありがとうございます。〇〇会社でございます。 ・〇〇様でいらっしゃいますね。いつもお世話になっております。 |
取り次ぎ |
・少々お待ちくださいませ。 ・少々時間がかかりそうですので、こちらからご連絡差し上げてもよろしいでしょうか。 |
電話をかけるとき |
・いつもお世話になっております。〇〇社の〇〇と申します。 ・〇〇の件についてですが、いまお時間よろしいでしょうか。 |
【対上司】あいさつ
上司との会話の基本は、正しい挨拶から始まります。日常会話を頻繁にかわす親しい間柄であっても、丁寧に敬語で挨拶するのがビジネスマナーです。目下の人に向けて使う言葉を使わないよう注意しましょう。
具体的なシーン |
よく使われるフレーズの例 |
入室するとき |
・失礼します。 |
会ったとき、電話するとき |
・お疲れさまです。 |
上司より先に退勤するとき |
・お先に失礼します。 |
感謝を伝えるとき |
・ありがとうございます。 ・心より感謝申し上げます。 |
謝罪するとき |
・申し訳ございません。 ・お詫びいたします。 |
指示を受けたとき、頼まれたとき |
・承知いたしました。 ・かしこまりました。 |
【対上司】質問するとき
仕事でわからないことがあるとき、教わった内容を忘れてしまったとき、自分では判断できないことが起きたときなど、業務では上司に質問する場面が多々あります。
質問するタイミングも重要ですが、上司が快く答えられるようにするには、適切な言葉遣いで聞くことが大切です。クッション言葉を活用しつつ、丁寧な言い回しを心掛けましょう。
具体的なシーン |
よく使われるフレーズの例 |
わからないことがあるとき |
・恐れ入りますが、〇〇について教えていただいてもよろしいでしょうか。 ・〇〇について質問させていただきたいのですが、ただいまお時間よろしいでしょうか。 |
プレゼンやミーティングなどでの質疑応答 |
・〇〇についてご質問させてください。 ・〇〇について、お尋ねしたいことがございます。 |
メール・チャットでの質問 |
・〇〇についてご教示いただけますでしょうか。 ・〇〇についてご教示いただきたく存じます。 |
もう一度教えて欲しいとき |
・申し訳ございませんが、〇〇についてもう一度教えていただいてもよろしいでしょうか。 |
確認をとるとき |
・〇〇のように進めたいと考えておりますが、よろしいでしょうか。 |
【対お客さま】接客応対
正しい言葉遣いは、重要な接客マナーのひとつです。クレームを防ぐため、そしてブランドや企業に対するお客さまの信頼を得るため、正しい知識を身につけましょう。
具体的なシーン |
よく使われるフレーズの例 |
提案するとき |
・よろしければ、ご試着なさいますか? ・ご不明な点がございましたら、お気軽にお申しつけくださいませ。 |
要望を断るとき |
・申し訳ございませんが、こちらの商品の値引きはいたしかねます。 ・申し訳ございません。ご希望の時間帯は、あいにくご予約で埋まっております。〇〇日でしたらお席をご用意できますが、いかがなさいますか? |
お願いするとき |
・申し訳ございません。ただいま満席のため、お待ちいただけますでしょうか。 ・恐れ入りますが、あちらに喫煙ルームがございますので、ご移動いただいてもよろしいでしょうか。 |
【対お客さま】レジ会計
レジ会計は、一般的に接客業務の最後に行うものです。どれほど良い接客を行っても、終わりの印象が悪いと、お客さまは嫌な気持ちになります。再来店、再利用を促すためにも、丁寧な言葉遣いを心掛けましょう。
具体的なシーン |
よく使われるフレーズの例 |
現金を受け取るとき |
・(お釣りを渡す必要があるとき)〇〇円お預かりします。 ・(お釣りを渡す必要がないとき)〇〇円ちょうど頂戴します。 |
お釣りやレシートを渡すとき |
・〇〇円お返しです。 ・〇〇円のお返しと、レシートでございます。 |
ショッピングバッグが必要か確認するとき |
・ショッピングバッグ(レジ袋)は有料ですが、ご利用になりますか? ・マイバッグはお持ちですか? |
【対お客さま】クレーム対応
クレーム対応での間違った言葉遣いは、二次クレームの発生につながります。正しい言葉遣いを習得するとともに、クッション言葉の活用、疑問形での提案などを意識しましょう。
具体的なシーン |
よく使われるフレーズの例 |
謝罪するとき |
・不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。 |
提案するとき |
・〇〇や〇〇の対応をさせていただければと思っております。ご検討いただけませんでしょうか。 ・つきましては、〇〇の対応をさせていただければと思いますが、いかがでしょうか。 |
お礼を伝えるとき |
・二度とこのようなことがないよう注意して参ります。ご指摘いただき、誠にありがとうございました。 ・今後とも、何かお気づきのことがございましたら、どうぞお知らせください。 |
正しい言葉遣いを身につけるポイント
「言葉遣いについて学んだはずなのに何度も指摘される」「部下に指摘したが、なかなか直らない」ということがよくあります。
正しい言葉遣いを着実に身につけるには、どうすれば良いのでしょうか。以下の3つのポイントについて解説していきます。
ポイント1.eラーニングを活用して復習する
ビジネスでは、シーンに応じてさまざまな敬語が使われます。正しい言葉遣いを身につけるには、多くの知識を習得しなければなりません。
1回で完璧に覚えるのは不可能なので、繰り返し学習する必要があります。とはいえ、何度も研修を実施すると費用がかさみます。
そこで役に立つのがeラーニングです。eラーニングを活用すれば、いつでもどこでも、何度でも復習できます。講師や教育担当者が、繰り返し教え直す必要もありません。
チェックテスト機能やクイズ機能が備わったLMSであれば、従業員も自身の間違いに気づくことができます。苦手なポイントを把握することで、より早く正しい言葉遣いを習得できるでしょう。
ポイント2.ロールプレイで反復練習する
自然と正しい言葉遣いで話せることが、言葉遣いを正す際のゴールです。「頭では理解しているのに、いざというときに間違えてしまう」という状態では、言葉遣いが身についたとは言えないでしょう。
そのため、ロールプレイを行って繰り返し練習することが大切です。集合研修を実施できるのであれば、受講者同士で練習してもらうと良いでしょう。難しい場合は、業務の合間にスタッフ同士で練習してもらう方法もあります。
また、日常業務のなかで従業員同士が会話する際、敬語を使うよう指示するのも、ひとつの手です。何度も声に出して正しい言葉遣いに慣れることが、早く習得するコツです。
ポイント3.よく使うフレーズをメモ・マニュアル化する
例で紹介したように、日常業務では似たようなフレーズをよく使います。特に、電話に出るときや電話をかけるとき、レジ会計業務を行う際は、ほぼ同じ言葉で対応することが多いです。
ある程度フレーズが決まっている場合は、メモしておくと、いざその場面に遭遇した際に慌てずに済みます。電話対応中はメモを見ながら対応でき、慣れないうちでも正しい言葉遣いで受け答えできます。
また、よく使うフレーズをマニュアルに記して共有すれば、スタッフ応対の標準化も実現可能です。従業員の誰もが等しく正しい言葉遣いで対応でき、企業・職場全体の応対の質が向上します。
役職や雇用形態に関係なく、全社員が正しい言葉遣いをマスターするため、一部マニュアル化する方法もぜひ検討してみましょう。
今日から使える!接遇&言葉遣いチェックリスト
正しい言葉遣いをひとつひとつ、全社員に教えるのには、多くの時間と労力が必要です。教材を作成したくとも、内容を考える時間を確保するのが難しいという場合もあるでしょう。
そこで、従業員教育に役立つチェックリストをご用意しました。自分の言葉遣いの間違いに気づかせたり、正しい知識を身につけさせたりするのに効果的なので、ぜひご活用ください。
まとめ
自分の言葉遣いの間違いに気づくのは、意外と難しいものです。ミスに周りが気づいても、誰も指摘せず放置……なんてことも珍しくないでしょう。
知らずに相手を不快な気持ちにさせたり、失礼な態度をとったりする失敗は避けたいところです。今回ご紹介したフレーズの例やチェックリストを参考に、改めて自分や従業員の言葉遣いを見直してみましょう。