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残業時間の正しい計算方法や36(サブロク)協定の上限規則についてくわしく解説!

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2023.09.27
『shouin+ブログ』マーケティング担当

長時間労働による過労が原因で、脳や心臓など身体的な病気が引き起こすケースや、ストレスによる精神的なダメージを受けてうつ病などのこころの病を発症してしまい、なかには自殺に追い込まれてしまう人がいることが現在もなお問題になっています。

一方で働き方改革が打ち出され、働き方に関わる法改正もあり、日本においても長時間労働の是正が進められています。残業時間の削減が進むことで、働く人々のストレスや疲労感の削減につながりますので、従業員の働きやすさを生み、労働意欲の向上が期待されます。

また残業時間の削減は、育児や介護のために残業ができない人への就業機会を拡大することにも効果的だといえます。

今回は残業時間について、上限とはなにか、残業時間の計算方法や36協定の上限規則について解説します。人事、教育部門、研修企画の担当者など管理部門に関わる立場の方の参考になればと思います。

 

残業時間とは

仕事を持っている人の多くは「納期が迫っている」「取引先との商談が急に決まり、今日中に資料を作成しなければならない」など、仕事の状況によっては就業時間を超えて業務を行うという経験があるのではないかと思います。一般的に、定時よりも遅い時間にわたって仕事をすることを「残業した」と表現しています。

ここでは「残業時間」とはどのようなものなのか、残業の定義について、また残業には法律上2種類あることについて解説します。

 

残業の定義

「残業」という言葉は、労働条件の最低基準を定めている労働基準法には表記されていません。法律の上では残業のことを「時間外労働」と呼んでいます。

この時間外労働(残業)は、会社の就業規則に定められる所定労働時間を超えて労働した時間を指します。

 

残業には法定内と法定外がある

時間外労働(残業)には、法律上では「法定内」と「法定外」の2つがあります。

両者は「就業時間を超えて働く」という点では同じ意味合いになるのですが、法律で定められた8時間に至るまでの時間の労働、あるいは1週間40時間に至るまでの労働時間(法定労働時間)を超えているか、超えていないかという点で性質が異なります。

「法定内」と「法定外」残業

佐藤広一著「最新版 図解でハッキリわかる労働時間、休日・休暇の実務を参考に弊社で作成

たとえば就業規則で一日の労働時間が9時から17時(休憩1時間)と定められている会社では、所定労働時間が7時間となり、法定労働時間の8時間とはリンクしていません。

この会社の従業員が18時まで仕事をした場合、1時間残業したということになりますので、1時間あたりの基礎賃金が支払われます。このケースでは法定労働時間内の残業になりますので「法定内時間外労働」に該当します。

一方で、同じ会社で20時まで残業した場合には、18時から20時までの2時間は法定労働時間を超えた時間となるため、2時間の「法定外時間外労働」が発生します。

この場合は通常の1時間当たりの基礎賃金が支払われるのではなく、法定外時間外労働の2時間に対しては割増賃金を支払うことが労働基準法で定められています。

企業が従業員の法定外時間外労働に対して支払う割増賃金とは、1時間当たりの基礎賃金の25%増しを払うことです。

 

労働時間の「所定」と「法定」の違いとは

残業時間の算定のベースとなるのは労働時間です。

特定社会保険労務士の佐藤広一氏の著書『最新版 図解でハッキリわかる労働時間、休日・休暇の実務(日本実業出版社)』によると、「労働時間」の定義は労働基準法には記載がないのだが、裁判例で一定の概念が確率しているといいます。

佐藤氏の書籍には、労働時間とは「労働者が労働契約に基づいて、使用者の指揮命令下に置かれている時間」と解されていると記載されています。

労働時間には「法定」と「所定」の2つがあります。

「法定労働時間」とは、法律によって「これ以上の時間働かせてはいけない」と制限されている労働時間を指しています。

労働基準法32条では、使用者は労働者に休憩時間を除き1週間について原則40時間を越えて、また1週間の各日において8時間を超えて労働させてはならないとあります。法律で定められている労働時間の上限を、一般的に法定労働時間といいます。

「所定労働時間」とは、法律で定められた法定労働時間の範囲内で、会社が独自に決めることができる労働時間をいいます。

 

残業時間の管理を強化する目的

残業時間を企業が管理強化する目的とはどのようなものがあるのでしょうか。

社員の命や健康を守る

長時間労働による過労が原因となり、心疾患や脳疾患、あるいはうつ病を引き起こすなど、従業員の健康が損なわれるケースが問題になっています。

残業時間の管理を強化し残業時間の削減を進めることで、従業員の心身の健康を保つことが期待できます。

従業員は家族や友人などとの充実した時間や自己啓発、地域活動への参加などへの自由な時間が取れ、豊かな生活を送ることができます。

 

正確な賃金支払いを行うため

企業が従業員の残業管理を強化することで、従業員の残業を正確に把握することができます。申請すべき残業時間について従業員への教育を徹底し、正しく申請させる、また労働時間のチェック機能を強化することで 正しい残業時間の把握ができます。これによって企業は法律に則り、本来払うべき残業代を従業員に支払うことができるようになります。

女性・高齢者などの労働力参入率の向上

残業時間の上限規制を強化する目的の3つめは、将来的に減少が見込まれている労働力の向上です。日本における労働時間は長く、このため一部の人々の働く機会を制限する大きな要因となっています。長時間労働時間が是正され残業時間が削減されれば、時間に制約のある方や体力に見合った働き方を望む方などが働きやすくなります。残業時間管理が強化されて残業時間の削減ができれば、多様な働き方を選択できる社会の実現が期待できます。

年次有給休暇、振替休暇の付与や取得状況などを正確に管理するため

働き方改革関連法には有給休暇について取得義務を設定しています。2019年4月からすべての企業において「年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対しては5日以上有給休暇を取得させる」ことが義務付けられました。有給休暇の取得は義務で強制なので、年次有給休暇を取得しなかった従業員がいた場合には、企業側に罰則が与えられます。

これはコンビニエンスストアなどの流通小売業やファミリーレストランなどの飲食業の従業員に対しても当てはまり、企業の有給休暇の管理が非常に重要になっています。

 

コンプライアンス(法令)を遵守するため

日本の労働市場においては少子高齢化に伴う生産人口の減少が予測されていることから、「労働者のニーズの多様化」などの課題が問題視されており、これに対応するため働き方改革の一環として長時間労働の改善が重要視されています。

働き方改革関連法は改正されて、労働基準法(労基法)や労働安全衛生法などが見直されました。特に労働基準法は改正が繰り返されており、厚生労働省によって各業種の超過労働時間の削減が進められています。このような法令に対応していくために、企業は従業員への適切な勤怠管理が不可欠となっています。

 

残業時間の正しい計算方法

残業代支払い対象となる残業時間とは法定時間外労働時間を指します。法定時間外労働を行った場合には、企業は法定時間内労働時の25%割増された賃金を労働者に支払います。

残業代の計算式は、

  • 1時間あたりの基礎賃金×割増率×時間外労働があった時間の総数

となります。残業代を算出するには3つの工程があります。

工程1:1時間当たりの基礎賃金の算出

時給で働くアルバイトやパートの方などは、既定の時給が1時間当たりの基礎賃金となりますが、月給制の場合は、1時間当たりの基礎賃金を算出する必要があります。

1時間当たりの基礎賃金は「月給 ÷ 月平均所定労働時間」で求めることができます。この計算の「月給」に使用する金額は通勤手当や住宅手当などの各種手当を除いた金額です。

また、月平均所定労働時間は

  • 「(365日 ー 年間休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12か月」

で算出できます。

 

工程2:割増賃金の対象区分を整理

割増賃貸の支払い区分

引用:東京労働局「しっかりマスター労働基準法 割増賃金編

上記の図のように、割増賃金の支払い区分は3つあります。実際の労働時間が時間外労働と深夜労働、休日労働のどれに何時間該当するのかを整理します。

 

工程3:区分に設定された割引率を乗じて残業代を算出

残業した時間が、工程2で割増賃金の対象となる各区分に整理できたら、それぞれの区分に設けられた割増率を乗じていきます。

時給1,500円の人が午前9時から深夜24時まで労働した場合、残業代の算出は以下のようになります。

  • 18:00~22:00  法定時間外労働・・・1,500円×1.25×4時間  7,500円
  • 22:00~24:00  法定時間外労働+深夜・・・1,500円×(1.25+0.25)×2時間 4,500円

    計12,000円の割増賃金の支払いが発生します。

実際には、上記の残業をした従業員が12,000円を基本給とは別に支給されるのではなく、ここから社会保険料や税金が控除された金額を受け取ることになります。



36協定(サブロク協定)とは

36協定とは、労働基準法36条に基づいた「時間外労働・休日労働に関する協定」のことです。

企業が従業員に法定労働時間を超えた時間外労働や休日労働をさせる場合、あらかじめ書面にて労使協定を結ばなければいけません。企業が従業員に対して時間外労働を⾏わせるためには、36協定の締結・届出が必要です。

36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合や、36協定で定めた時間を超えて時間外労働をさせた場合には、労働基準法第32条違反となり、罰則が設けられています(6箇⽉以下の懲役⼜は30万円以下の罰⾦)。

 

2023年の改正について

働き方改革関連法スケジュール 愛知労働局

引用:厚生労働省 愛知労働局「働き方改革関連法」の概要

2023年4月から、中小企業における月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられました。

月60時間を超える時間外労働については、2010年4月の改正によって割増賃金率の引き上げが実施されていました。

これまでは1か月の時間外労働60時間超(1日8時間・1週40時間を超える労働時間)の割増賃金率が、大企業では50%とし、中小企業では25%とされていましたが、2023年4月から中小企業においても、50%と引き上げられました。

この改正によって、中小企業においては深夜労働への割増賃金についても変更されることになりますので注意が必要です。月60時間を超える時間外労働を深夜(22:00~5:00)の時間帯に行わせる場合、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。

 

1ヶ月に60時間を超える時間外労働に対して割増賃金率を50%に引き上げた目的は、長時間労働を抑制することを目的としています。

しかし経営体力が必ずしも強くない中小企業においては、時間外労働抑制のための業務処理体制の見直し、新規雇入れ、省力化投資等の速やかな対応が困難であり、やむを得ず時間外労働を行わせた場合の経済的負担も大きいものです。

このため中小事業主の事業については、当面、法定割増賃金率の引上げの適用を猶予するとされていました。

働き方改革関連法が制定され、この中小企業への猶予期間が2023年3月末までと設定され、4月から中小企業においても大企業とおなじ割増賃金率が適用されています。



定められている残業時間の上限

2019年4月施行の労働基準法改正によって、これまでは限度基準告示であった時間外労働は法律になり、違反した場合には罰則が課されることになりました。

これによって時間外労働の上限は通常の予見可能とされる時間外労働については、原則として月45時間、1ヶ月で360時間とされ、これを越えて従業員を労働させることはできません。

  • 時間外労働と休⽇労働の合計時間が⽉100時間以上となった場合
  • 時間外労働と休⽇労働の合計時間について、2〜6か⽉の平均のいずれかが80時間を超えた場合

36協定で定めた時間数にかかわらず、上記の場合には労働基準法第36条第6項違反となり6ヶ月以下の懲役⼜は30万円以下の罰⾦となります。

ただし「臨時的な特別の事情」があればこれを超えることができる、とされる場合があります。これらが実行されるには、労使において「特別条項付き36協定」を締結している必要があります。

厚生労働省が例外的に上限基準時間を越えて労働させることを認める「臨時的な特別の事情」には以下のようなケースが挙げられます。

  • 予算、決算業務
  • ボーナス商戦に伴う業務の繁忙
  • 納期のひっぱく
  • 大規模なクレームへの対応
  • 機械のトラブルへの対応

 「臨時的な特別の事情」があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下を守らなければなりません。

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
  • 時間外労働と休⽇労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」が全て1⽉当たり80時間以内
  • 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6ヶ月が限度

上記に違反した場合には、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰⾦)を受けるおそれがあります。

 

36協定が適用除外になる業種・業務

事業内容や業務内容によっては時間外労働の上限規制の適用を猶予されている、あるいは除外されるものがあります。

厚生労働省の「時間外労働の上限規制分かりやすい解説」によると、「新たな技術、商品または薬務の研究開発にかかる業務」は時間外労働の上限規制の適用が除外されます。これは専門的、科学的な利子企や技術を有する者が従事する新技術、新商品等の研究開発の業務を指していて、すでにある商品やサービスにとどまるものや商品の製造をもっぱら行う業務などは含まれないとあります。

なお、今回の法改正によって労働安全衛⽣法が改正され、新技術・新商品等の研究開発業務については、 1週間当たり40時間を超えて労働した時間が⽉100時間を超えた労働者に対しては、医師の⾯接指導が罰則付きで義務付けられました。

事業者は、⾯接・指導を⾏った医師の意⾒を勘案し、必要があるときには就業場所の変更や職務内容の変更、有給休暇の付与などの措置を講じなければなりません。

また以下の業種においては、2024年3月31日を期限として時間外労働の上限規制の猶予期間が認められています。

【建設業】

建設業においては長時間労働が常態化しているという背景があり、これは建設業界が抱える問題のひとつです。2024年4月以降は災害の復旧・復興の事業を除いて、労働時間の上限規制が適用されます。

【自動車運転の業務】

適⽤が猶予されるのは「⾃動⾞運転の業務」であり、「⾃動⾞運送事業」が猶予されるわけではありません。「⾃動⾞運転の業務」の範囲は、四輪以上の⾃動⾞の運転の業務に主として従事する者のみが対象となります。トラック運転者などが該当し、事務員などは対象外となります。

※「⾃動⾞運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告⽰第7号)」(改善基準告⽰)の対象となる⾃動⾞運転者の業務と同義。

※「主として」:運転及び運転に付随する業務が当該労働者の業務の⼤半を占める労働者をいう。

【医師】

医師においては2024年4月から3つの区分に分けられて、上限規制の内容が変わります。


医師の2024年4月1日以降の時間外労働の上限時間   

 

対象

時間外労働の上限

A水準

すべての医師

(診療従事勤務医)

年960時間以下/月100時間未満

(休日労働含む)

B水準

地域医療暫定特定水準

(緊急医療など緊急背の高い医療を提供する医療機関)

年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む)

 

C水準

集中的機能向上水準

(初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医や高度技能獲得を目指すなど、短期間で集中的に症例経験を積む必要がある医師)

年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む)

 

引用:佐藤広一「図解でハッキリわかる労働時間休日休暇の実務




残業時間の管理の注意点

従業員の残業時間を管理する上で気をつけなければいけない点とはどのようなものでしょうか。労働時間に該当する業務の例を取り上げます。

清掃、更衣、朝礼の時間は労働時間に含まれるのか

始業時間前に出勤して、制服や作業服に着替える、デスク回りを掃除する、朝礼を実施することが慣例的に行われる職場は多いのではないでしょうか。佐藤氏の書籍によると、このような時間が労働時間に含まれるのかどうか判断するには、3つの基準で考える必要があります。

使用者の指示命令であるか

就業規則に定められることや経営者や上司の指示によるものであれば「使用者の指示命令下に置かれたもの」として労働時間に当たることになります。所定の服装への着替えなど就業を命じられた業務の準備行為や業務終了後の清掃等を事業場内で行った時間は労働時間と扱われます。

法令で義務付けられているか

業務内容によっては、労働安全衛生法によって労働者に服装や用具の着用が義務付けられるケースがあります。このような場合には服装や用具を着用するために必要な時間は労働時間に含めることが一般的です。

黙示的な命令があるかどうか

従業員が自主的に行っている業務は原則として労働時間に含みませんが、掃除など慣習になっていて、使用者も事実を知りながら容認している場合には、労働時間に含まれるケースもあります。昼休みの電話を受ける、来客の対応なども休憩時間であっても労働時間として認められることになります。

研修に参加した時間は労働時間に含まれるのか

会社が従業員に対して研修や教育訓練を実施し、これに参加した場合にこれらに要した時間は労働時間に当たるのかが問題になる場合があります。

一般的には業務命令によって研修や教育訓練に参加することが強要されている場合は、これに費やした時間は労働時間に該当することになります。

参加が強制となっている社内研修や学習時間を終業時間後に設けている場合は、時間外労働に当たり割増賃金の支払い義務が発生する可能性があるため、注意が必要です。

反対に参加の自由が認められて、従業員の意思で参加が決められる場合は、「使用者の指揮命令下に置かれたもの」とは考えられないため、労働時間には含まれません。

 

裁量労働制の固定残業手当を超える残業時間は注意

裁量労働制は、実際に労働した時間ではなく、事前に決められた時間だけ労働したとみなす制度です。業務の遂行手段や時間配分などは労働者の裁量に任せているので、出勤や退社も労働者が自由に決められます。

裁量労働制を採用している場合、働いているとみなしている時間が法定労働時間を超える場合は、36協定の締結が不可欠であり、残業代の支払いが必要になります。

また、実際に労働した時間がみなしの残業時間を超えた場合は、その分の残業代の支払いが別途必要になります。

休憩、休日、深夜労働などについては、裁量労働制であっても原則通りに適用されます。

 

サービス残業が発生していないか

2019年4月に施行された改正労働安全衛生法では事業者に対して「労働時間の状況の把握」が義務化されました。

残業時間を過少申告する、仕事を個人的に持ち帰って家で業務を行うなど「サービス残業」が行われていないかについても、事業者は管理、把握しなければいけません。

企業はタイムカードによる出退勤時刻と、実際の入退室の記録、使用するPCの使用時間の記録や社内システムへのアクセス記録などとの間に剥離がないかを逐一確認できる体制を整える必要があります。

 

自主的な残業は時間外労働とならない

上司が残業を命じていないにもかかわらず、就業時間を過ぎても就労している人がいる場合、これは時間外労働手当の支払いに該当するのか、判断が難しいものです。

書籍には、終業時刻後や所定休日に労働した場合、労働時間に当たるのかどうかの判断基準は「使用者によって指揮命令下に置かれたものか」が基準になる、とあります。

たとえば上司が「終業時刻後は仕事をしないように」と指示していたにもかかわらず、従業員が自発的に時間外労働をした場合には、労働時間と取り扱われないのが原則です。

しかし支払期日や納期が迫っている場合などは、上司が時間外労働を指示しなかったとしても「黙示的な指示命令」があったと解され、労働時間と取り扱われることになります。

法定外の時間外労働が発生していれば会社は割増賃金の支払いが必要となります。


従業員の残業時間を軽減するために、企業ができる取り組み

従業員の残業時間を削減していくために、企業ができる取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。

業務の効率化を図る

長時間労働を改善するためには、作業工程・手順を見直して無駄な作業や二重になっている作業をカットし効率の良いフローを策定する、マニュアルを作成し誰もが同じ品質の作業を行うことができるようにしておく、など業務効率化の取り組みが必要となります。

具体的には、まず現在行っている業務工程を洗い出します。特に残業が発生する原因になる作業については手順に無駄や不足がないか見直して最適化します。作業内容についてマニュアルを作成し、特定の人しかできない仕事を誰もが同じ品質の成果物を作成できるようにするなども業務効率化につながります。

業務の見直しによって省ける手順があれば、それに費やしていた分だけ労働時間を削減することができ、残業時間の削減に直結します。

また、削減できた労働時間を使って、やりたかったけれど時間がなくて手をかけられなかった本来取り組むべき業務に時間を割くことができます。

 

早く帰る雰囲気を作る

遅くまで残って仕事をすることを頑張っていると評価するような「長時間働くことが美徳」という考えを改めて、時間内に業務を終わらせるために効率化を進めて、早く帰宅するような慣行や雰囲気を職場で作り、これを定着させていくことが大切です。

職場全体に浸透させるためには、部署のトップが率先して部下へ早い帰宅を進めるように声がけをする、自ら残業をしないなど行動で示していく必要があります。

ほかには、以下のようなポイントがあります。

  • 経営トップから自社が進める働き方改革に関するメッセージを全従業員に向けて発信する
  • 朝型勤務やノー残業デー、ノー残業ウィークの導入
  • 時間外労働時間の見える化
  • 部下の長時間労働抑制について管理職教育の実施や人事考課項目として追加する
  • 一定の時間になった際のPCの強制シャットダウン

 

年次有給休暇の取得を推進する

年次有給休暇の取得を推進する、取りやすくすることも残業時間の削減に効果的です。たとえば以下のような取り組みを始めている企業があります。

  • 休暇取得計画の設定やその計画が実施されるようなフォロー(月1日以上の休暇、土日祝日に休暇を組み合わせた連続休暇など)
  • 年次有給休暇の計画的付与制度の導入や時間単位の年次有給休暇の活用
  • 部下の休暇取得状況を管理職の人事評価項目に盛り込む

職場内で年次有給休暇を取得しやすい雰囲気を作り、定着させていく働きかけが必要です。

多様な働き方を実現するための対応

多様な働き方を実現するための会社側の対応を進めることは、働き方改革のひとつです。労働生産人口の減少が予測される日本では、多様な働き方を認める制度を設けることで不足する労働力をカバーしていくことが可能となります。

労働力が保持できれば一人の従業員にかかる仕事量が軽減でき、長時間労働、残業時間の解消につながります。多様な働き方の実現への対応には以下のようなものがあります。

  • 短時間正社員制度の導入
  • 在宅勤務などのテレワークの導入
  • 「ボランティア休暇」「病気休暇」など、年次有給休暇以外の特別休暇制度の導入

子育てや介護中、病気療養中など、さまざまな状況にある人が活躍できる環境の整備を進めることが重要です。

 

まとめ

残業時間の削減は、従業員の心身の健康を保つために必要な措置であること、また従業員の離職率が改善される、従業員の労働の質が高まり生産性が向上するなど、企業にとっても良い傾向が期待されています。

日本においては働き方改革はまったなしで進めていかなければ、企業の戦力を維持、拡大することは難しい状況です。

長時間労働を是正し、残業時間を削減するための改革への取り組みは、経営トップが率先して危機意識を持ち、推進しないかぎり成功することはありません。

企業の成長のために、業務の効率化を図り、従業員のライフワークバランスのとれた働き方の実現にむけた取り組みを続けることで、従業員のやる気や活力を存分に生かしていくことにつながり、企業の業績向上が可能となります。しっかりと残業時間の削減に向けて取り組んでいきましょう。

著者
『shouin+ブログ』マーケティング担当
人材育成クラウドサービス「shouin+」のマーケティング担当です。人材育成のお役立ち情報やトレンドをはじめ、企業の人事・研修担当の方向けに社内教育や研修のノウハウを発信しています。

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