人材育成のために多くの企業が取り組んでいるのが社員研修です。新人研修をはじめ、企業では様々な立場・階層の社員に対し、様々な目的を持って研修が行われています。
しかし、それらの研修の効果が疑問視される場面は少なくありません。
そもそも研修効果というもの自体が目に見えにくいものであるため、社員自身が「研修は意味がなかった」と感じたり、マネジメント層の社員が「部下の研修は本当に価値があったのだろうか」と疑問に感じたりしやすいものなのです。
そこでこの記事では、研修の費用対効果や学習効果の測定方法、そして研修効果の高め方をくわしく解説します。
研修効果とは、人材育成や教育プログラムを通じて得られる「成果」や「影響」のことを指します。たとえば新入社員研修であれば、「ビジネスマナーを身につけた」という成果や「社会人としての自覚が芽生え、仕事に対する姿勢に変化があった」という影響を、総じて研修成果と言えるでしょう。
このように、研修効果における「成果」や「影響」というのは、単に受講者が研修の内容を知識として獲得するというだけではありません。受講者が職場において態度や行動を変容させ、研修の目的を達成することまでが研修効果に含まれます。
また、高い研修効果が得られると個人のスキルや業務効率が上がるのはもちろんのこと、それぞれの社員の行動変容が影響しあい、組織全体のパフォーマンス向上や文化変革などにも寄与するようになります。
新人研修をはじめとする各種研修について、「実施効果の測定ができていない」という声が上げられることが多くあります。
なぜ、研修効果の測定がそこまでネックになってしまうのでしょうか?
それにはいくつかの課題が考えられます。まずは研修の効果測定に関する各種課題についてくわしく見ていきましょう。
1つ目の課題は、そもそも研修の効果測定の方法が分からないということです。
研修効果の「見える化」は多くの企業で課題となっています。受講者に対する研修後アンケートを実施している企業もありますが、それだけでは正確な研修効果を測ることは難しいでしょう。
研修効果は研修を終えたのち、職場でどのように研修の内容が活かされているかがポイントとなります。しかし、それを具体的に数値化して測ることができていない企業がほとんどでしょう。
くわしい効果測定の方法については後述しますが、研修効果が職場でどのように活かされているかを計測することが大切です。
2つ目の課題は、研修で学んだことをアウトプットする場が少ないということです。
いわゆる「やりっぱなし」の研修となってしまっているのがこのパターンで、「毎年行っている研修だから」などという理由で続けられている研修に多く見られます。研修の目的がはっきりとしておらず、その研修によって社員にどのような行動変容を求めているのかが明確でないとこのような課題にぶつかることになります。
研修で学んだことをアウトプットできないということは、研修効果も低くなってしまうということです。この課題の改善方法も後述しますので、研修効果を高めるためにぜひ参考にご覧ください。
3つ目の課題は、研修の目標設定が出来ていないということです。
2つ目の課題と共通する部分もありますが、研修の目標が明確に定まっていないと、効果測定をするための指標も定めることができません。
とくに定期的に繰り返される研修は「なんとなく」で行われがちですので、一度研修の目標を見直してみることをおすすめします。
なお、適切な目標を設定する方法につきましては、下記の記事でもくわしく解説しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
人材育成の目標設定を4つのステップで解説!職種別の目標設定例も
ここまで「研修効果」という言葉を使って説明をしてきましたが、これまで述べてきた「研修効果」という言葉には、正確には「費用対効果」と「能力開発・モチベーション向上に関する効果」の異なる2つの視点が混在していました。
ここからは「研修効果」という言葉にもう一歩踏み込んで、「研修効果」という言葉の定義を明確にしていきましょう。
「研修効果」という言葉がどの意味で使われているかを明確にすることで、研修効果を高めるよう指示された場合でも、どのように対応すればよいのかが明確になります。
研修効果の1つ目の視点は「費用対効果」です。
費用対効果は、たとえば外部講師を招聘したり、教材を用意したりといった研修にかかるコストに対して、どれほどの利益が回収できているかという観点です。
研修のコストは講師や教材を内製化したとしてもゼロにできるものではありません。教材作成にかかる人件費や講師役の人件費、そして受講者の人件費が必ず発生します。
そのため、研修ではそういった「投資」に対する利益という観点が重要になります。
研修効果の2つ目の視点は「能力開発・モチベーション向上に関する効果」です。
能力開発・モチベーション向上に関する効果は、研修を行うことによって個人のスキルアップを図ったり、社員のやる気につなげたりできているかという観点です。
『日本の人事部 人事白書2021』によると、「中間管理職(課長クラス)を対象とした教育を行う理由」として、「マネジャーとしての意識を醸成したい」「マネジメントスキルを身に付けさせたい」といった内容が多く挙げられており、研修効果においてこの能力開発・モチベーション向上を期待している企業が多いことがうかがえます。
また、これらの効果は研修後に「研修に対する満足度」「知識・スキルの習熟度や能力開発」「モチベーション・意欲の向上」などをアンケートによって計測することが可能です。一時的な計測だけでなく、長期的に見てモチベーションを維持できているのか、追跡調査を行うとより詳細なデータが得られるでしょう。
まずは研修の費用対効果に視点を移して、研修効果の測定方法を見ていきましょう。
代表的な測定方法としては、フィリップスのROIモデル(ジャック・フィリップスの5段階モデル)があります。この測定方法では研修受講者に起こる反応を5段階で分析することで、研修の有効性を計測します。(ROIとは「費用対効果」という意味です。)
フィリップスのROIモデルにおける5段階の測定項目は下表の通りです。
レベル |
定義 |
測定項目 |
1 |
Reaction(満足) |
受講者はその研修に満足したか |
2 |
Learning(学習) |
研修を終えて受講者の態度や知識が変化しているか |
3 |
Behavior(行動) |
受講者が研修で学んだことを実践しているか |
4 |
Results(業績) |
その研修がどれほど自社の利益に貢献しているか |
5 |
ROI(費用対効果) |
研修に投下した費用に対して、どれほどの効果が得られたのか |
研修におけるROIの計算式は下記のようになります。
ROI(%)=(研修の結果生じた利益-研修コスト)÷(研修コスト)×100 |
ROIは高ければ高いほど費用対効果がよいと言えます。目標とする数値は企業によって異なるでしょうが、まずは現状の費用対効果を計算してみるとよいでしょう。
そこでここからは、研修の費用対効果の高め方についてくわしく解説をしていきます。
費用対効果の高め方の1つ目は、研修の目的・目標の明確化です。研修の中には適切な目標設定がなされないまま「なんとなく」で行われているものもあるでしょう。
そのような研修は、研修の目的・目標を明確化することで研修効果を測ることができるようになるほか、ROIの数値を設定することでその研修からどれほどの利益を出せばよいのかが明確になります。
研修の目的・目標を明確化するには、下記のようなステップを踏んで設定するとよいでしょう。
なお、人材育成における目標設定の方法につきましては、下記の記事でもくわしく解説しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
人材育成の目標設定を4つのステップで解説!職種別の目標設定例も
費用対効果の高め方の2つ目は、研修ツールの活用です。
外部の研修ツールを使用すると研修コストがかさんでしまうのではないかという不安もあるかもしれませんが、適切な研修ツールを活用することによって、コスト以上の利益を生み出すことが可能になります。
たとえば人材育成クラウドサービスの『shouin+』ではeラーニングの教材を個人のスマートフォンで繰り返し見ることができるため、研修内容の定着率が向上します。また、各自の学習の進捗状況も把握しやすくなるため、人材育成部門の省力化も期待できるでしょう。
費用対効果の高め方の3つ目は、研修後のフォローアップです。
研修の課題のひとつとして「アウトプットの場が少ない」ということが挙げられましたが、いわゆる「やりっぱなし」の研修ではとくにこの課題が顕著で、せっかく研修を行っても実践につながらず無駄になりやすいという問題があります。
そこで、研修後にフォローアップを行い知識やスキルの定着を図ることで、研修効果の向上に努めていきましょう。
まずフォローアップの方法としては、研修内容を復習するためのフォローアップ研修を行うことが一般的です。加えて座学だけではなく実践の場も用意することで、より高い研修効果が得られるようになるでしょう。
実践の場としては、たとえば研修内容と実際の業務をリンクさせ、研修内容が実践できていれば評価につなげるという方法が考えられます。
なお、研修後のフォローアップとして適切なフィードバックも求められます。教育におけるフィードバックにつきましては、下記の事でもくわしく解説しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
教育を効率化するフィードバックの方法とは?心理学的な観点からも解説!
能力開発・モチベーション向上効果の測り方については主に受講者に対するアンケート調査が方法として挙げられますが、eラーニングシステム等を導入している企業の場合はログイン率やコンテンツの視聴時間等を計測することも可能です。
これらの研修効果の測り方について、よりくわしく見ていきましょう。
1つ目の研修効果の測り方は、研修後アンケートです。これはすでに導入されている企業も少なくないでしょう。
研修後アンケートの項目は、下記のようなものが考えられます。
このようなアンケートを用いることで、研修直後のモチベーションや研修の理解度を計測することが可能です。
研修効果の計測方法として最も導入しやすいものであるため、研修後アンケートはぜひ取り入れてみましょう。
なお、研修後アンケートの項目につきましては下記のテンプレートもお役立ていただけます。
■参考記事はこちら
【テンプレート付】研修アンケートの主な項目や作り方のコツをわかりやすくご紹介!
2つ目の研修効果の測り方は、研修内容の理解度テストを行うことです。研修で学んだ内容を○×方式や穴埋め方式などでペーパーテスト化し、どれくらい理解できているかをチェックします。
研修直後は覚えていた内容でも、時間が経ってしまうと忘れてしまうということは少なくありません。そこで理解度テストを行うことで、研修内容がどれだけ定着しているのかを定量的に計測することができます。
そして理解度テストの成績が悪ければ、研修で学んだ内容を実務で活かす場面が少なく、知識が定着しにくい環境にあるのだということも推測できます。
そのような場合は、研修内容を実務で活かせるよう見直したり、あるいは業務のやり方のほうを見直す必要があるかもしれません。
なお、テストは研修終了時に行ってもよいですが、時間が経ってからフォローアップ研修の一環として取り入れるとさらに効果的でしょう。
3つ目の研修効果の測り方は、業務成果チェックです。研修後にどのような行動変容があったか、業務に活かされているのかをチェックします。研修の目的・目標をあらかじめ明確化させておくことで、業務成果チェックも定量的に把握することができるでしょう。
チェックの方法としては、あらかじめ設定した目標に対してどの程度実践できているのかを五段階評価などで計測する形が一般的です。
そのうえで、見出し「研修の目的・目標の明確化」で前述した目標数値や計画表と照らし合わせて、数値をどれだけ満たしているか、計画のどの段階まで実行できているのかをチェックすると、今後の課題も把握しやすくなるでしょう。
4つ目の研修効果の測り方は、eラーニングを活用した測定です。
測り方②の理解度テストに通じる部分もありますが、eラーニングでも研修の理解度テストを実施することが可能です。eラーニングであれば個人のペースで学習を進められるため、テストの結果が悪かった部分だけを集中して復習するといった使い方もできます。
また、eラーニングサービスによってはそれぞれの社員の学習状況を人事部が確認することも可能なため、学びに対するモチベーションも測定しやすいでしょう。
なお、eラーニングにつきましては下記の記事でもくわしく解説しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
eラーニングとは?メリット・デメリットから企業研修での効果的な活用方法までわかりやすく解説!
ここまで研修効果の高め方や測定方法について解説をしてきました。しかし、これらの取り組みを行っても受講者の能力開発・モチベーション向上効果について、効果が出ないとお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでここからは、研修効果が出ない場合の原因と対策について解説をしていきたいと思います。研修前・研修中・研修後のそれぞれの段階別に解説していきますので、ぜひ参考にご覧ください。
まずは研修前に起こる原因と、その対策についてみていきます。
研修前に起こる原因の一つに、研修に対する受講者の理解不足があります。「研修を行っても意味がない」と受講者が思い込んでいると、研修に身が入らず、学習効果も低くなってしまいます。
この場合の対策としては、なぜその研修が必要なのか、業務にどのように活かすことができるのかを人事部が受講者に対して丁寧に説明することが大切です。
研修前に、研修の必要性や意義についてきちんと全員が理解できている状況が最も望ましいでしょう。
原因の2つ目として挙げられるのは、研修内容と実務の不一致です。
現場で求められているニーズと研修内容が合致していないと、「人事部は現場のことをわかってくれていない」と受講者のモチベーション低下につながってしまいます。また、研修に対する費用対効果も低下してしまうでしょう。
対策としては、研修を行う前に現場のニーズをきちんと調査することが大切です。現場の実態とかけ離れた研修にならないよう、そして実務で活かせる研修になるように研修内容をブラッシュアップしていきましょう。
次に研修中に起こる原因と、その対策についてみていきましょう。
研修中に起こる原因の一つに、アウトプット不足が考えられます。
研修が座学中心で行われるものであったり、講師から一方的に教わる形のインプット型の研修では、その場では理解したような気になりますが、実際には思ったよりも身についていないことも少なくありません。また、一方的なインプットは研修に対する“飽き”をもたらしやすく、受講者のモチベーションを維持するのが難しい側面もあります。
この対策としては、研修の中にロールプレイングやシミュレーションなど実践の場を取り入れることです。
教わったことをその場で実践することで知識やスキルが身につきやすくなるだけでなく、研修自体を楽しんでもらうことにもつながり、モチベーションの向上に寄与することでしょう。
原因の2つ目として挙げられるのは、学習環境の整備不足です。
研修の効果をより高めるには、予習復習をしやすい環境整備が必要となります。予習をしてから研修に臨めば事前に疑問点を明らかにすることができ、研修中に質問をするなど理解を深める工夫をしやすくなるでしょう。また、研修後に復習を行うことで、知識の定着がより高まります。
そしてこの対策のひとつには、eラーニングの導入による環境整備が考えられます。
たとえば人材育成クラウドサービスの『shouin+』では、教材を個人のスマートフォンで繰り返し見られるため、一人ひとりのペースに合わせて予習復習を行うことが可能です。こうした環境整備を行うことで、より高い研修効果が得られるようになるでしょう。
最後に研修後に起こる原因と、その対策についてみていきましょう。
研修後に起こる原因の一つに、受講者に対する上司からの評価不足が考えられます。
学んだことを実践しても評価につながらない環境では、一度は身につけた研修内容を実践し続けるモチベーションが低下してしまいます。結果として、研修内容が現場で実践されなくなり、研修効果の低下につながってしまいます。
この対策としては、研修内容に合わせた評価制度の再構築・評価の実践が挙げられます。
研修内容を実践できていれば評価につながるという環境を作ることで、受講者の研修やその後のアウトプットに対するモチベーションを高めることができるだけでなく、研修に対する心理的安全性も高めることが可能です。
なお、評価制度の設計方法につきましては下記の記事でくわしく解説しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
■参考記事はこちら
人事評価の基本的な手順とは?評価制度設計から評価シートの例文までわかりやすく解説!
原因の2つ目として挙げられるのは、現場での受講者に対するフォローアップの不足です。
多忙などにより学んだことを実践する時間がないなど、研修後にアウトプットする機会が得られないと、研修で学んだはずの知識やスキルが時間の経過とともに忘れられてしまいます。
この対策としては、きちんと上司が部下をフォローアップできる環境を整備することです。研修内容に対して上司がきちんと理解をし、実践の時間や場を作ることなどが挙げられます。
研修効果を高めるには、受講者本人の努力だけでなく、周囲のフォローも必要になるということを忘れてはいけないでしょう。
多くの企業で課題となりがちな、研修効果。この記事では研修効果に関して、研修効果の2つの視点や効果測定の方法、研修効果の高め方や研修効果が出ない場合の原因と対策についてくわしく解説いたしました。
新入社員研修をはじめ、企業では多くの研修が行われています。しかし、高い研修効果を得ることは簡単なことではありません。まずは、研修効果が十分に得られない原因とその対策方法を学び、実践することから始めていきましょう。
ぜひ本記事を参考に、高い研修効果を得られる研修環境の整備にお役立てください。