教育を効率化するフィードバックの方法とは?心理学的な観点からも解説!
近年、リーダーやマネージャーの必須スキルとまで言われるようになったのが「フィードバック」です。管理職研修の中でフィードバック研修を取り入れる企業も増えています。
多くの企業でフィードバックは評価面談などの節目のタイミングや日常的な振り返りの機会に行われますが、正しいフィードバックの知識を持っていないと、単なる社員へのダメ出しで終わりがちです。
これだと部下のためにと思って助言したつもりが部下のパフォーマンスの向上につながらず、逆に成長を妨げてしまうことも……。そこで当記事では、従業員教育の観点から、フィードバックの心理学的な効果と方法をわかりやすく解説しました。
フィードバックとは?
フィードバック(feedback)とは、行動や成果物に対する現状(評価や感想など)を伝え、必要に応じて軌道修正を促しつつ、将来の行動指針を作ることを指します。
ビジネスの場だと従業員教育や目標達成を目的に、上司から部下に対してなど、主に社内で行われるフィードバックがよく知られています。多くのビジネスパーソンは、「今のまま進み続けていいのか、改善が必要なのか」日々考えながら職務に当たりますが、自分ひとりで考えるだけでは、現状を正しく認識することが難しく、他者からのフィードバックが欠かせないのです。
フィードバックという言葉をもう少し広い視点でみると、「お客様からのフィードバックを商品開発やサービス向上に活かす」といった使われ方もしますね。消費者が商品やサービスなどの感想を企業やメーカーに伝えたり、TwitterなどのSNSで発信したりした内容を精査して、より顧客に満足していただけるよう改善します。これもフィードバックのひとつです。
また、ビジネス以外でも教育現場で生徒や子どもたちの力を引き出すために行われるフィードバックもあります。
これらはあくまでも例で、他にも多くの場面でフィードバックは行われています。ここでひとつ共通しているのが、フィードバックはあくまでも成長や成果の達成を願って、将来に向けた立て直しまで踏み込んで行われるものであるという点です。
フィードバックは、「レビュー(評価や感想のこと)」を伝えるだけではダメで、コーチが対話を通して、相手が自ら考え行動する能力を引き出す「コーチング」の側面や、時には経験豊富な人から、経験が浅い人へ自分の知識やノウハウを伝える「ティーチング」の側面も含んでいます。
従業員教育におけるフィードバックは、1on1、評価面談、プロジェクトの振り返りの機会に実施されています。フィードバックは、上司から部下に対して行われるケースが多いものの、必ずしも上司と部下である必要はありません。部下から上司へ、同僚同士で行わるケースもあります。
《参考:フィードバックの語源》
現在では、ビジネスにおける人材育成の観点からも「フィードバック」という言葉が使われていますが、もともとはITや制御工学の世界で使われていました。
ソフトウエアや電子回路から出力された情報を入力側に返し、調整・改善することを意味します。例えば、水槽の温度を一定に保ちたい場合。水温を温度センサーで計測し、温度調整器にその情報を送り、必要に応じて水槽のヒーターのスイッチをON・OFFすることで水温を一定に保ちます。この働きがフィードバックに該当します。
つまり「フィードバックとは、改善のために情報を返す」ということを意味し、ビジネス用語としてのフィードバックに転用されるようになりました。
フィードバックを行う意味、目的
職場で行われるフィードバックは、次のような意味、目的があります。
フィードバックに関する研究によると、フィードバックの効果は、やり方、タイミング、受ける側の要因により変わり、どのような状況でも一貫してベストなフィードバックの方法は存在せず、その時々で適切な方法で行う必要があることがわかっています(参考:「人材マネジメント用語図鑑(伊藤洋駆・安藤健・著)」)。
人はそれぞれプライドもありますし、知らない人や快く思っていない人から指摘されたり、行動を押し付けられたりすると、素直に受け入れられず壁を作りたくなるものですね。つまりフィードバックが効果的に機能する関係は一朝一夕にできるものではないのです。
フィードバックは主に上司から部下へ一対一で行われることが多く、上司は普段から部下をしっかりと見て、向き合える関係を作ることが欠かせません。そういった信頼関係を構築するという観点からも組織にフィードバックを根付かせることは意味があるでしょう。
ここからは、フィードバックを何のために行うのか、上記に挙げた4つの目的について解説します。
より詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてお読みください。
■参考記事
フィードバックとは?言葉の意味や有効なフレームワークについてわかりやすく解説!
目的1:組織・チーム・個人の目標達成
フィードバックは一対一で行われることが多いですが、個人の目標達成にとどまらず、チームや組織の目標を達成するためのものでもあります。
個人の行動が成果につながっているのか、現状のままで目標を達成できそうなのか、難しい場合はどういった軌道修正が必要なのか、振り返り検討することで目標達成への精度を高めていきます。
目的2:パフォーマンスの向上
フィードバックは相手の成長を願って行うものであり、当然パフォーマンスの向上も目的のひとつです。一対一で向き合うことで、個別具体的に良い点、課題を伝えられ、一緒に改善に向けて歩みを進められます。
また、フィードバックは定期的に行われますので、どんな取り組みが効果があったのか、逆になかったのかなど客観的な視点で振り返ることができ、より高い精度でPDCAをまわしながらパフォーマンスの向上が期待できるでしょう。
目的3:人材育成
目標達成を最優先にフィードバックを行う企業もあれば、人材育成を優先する企業もあります。
集合型の研修やティーチングとは違い、フィードバックは目標に対する現状を客観的に伝えることがスタートですから、部下は自ら振り返り、改善方法を考える習慣が身に付きます。上司と話をする中で、自分の強みや弱みなども把握できるようになるでしょう。
目的4:モチベーションの向上
フィードバックはモチベーションの向上にもつながります。誉められれば嬉しいですし、ネガティブな内容であっても、上司が自分を見てくれている安心感や応援してくれている心強さ、励ましの気持ちなどが、今後へのやる気につながるでしょう。
困難な状況にあるときも、上司のアドバイスや一緒に解決策を考えてくれる姿勢は、「頑張ろう」「一人ではない。自分も結果を出せる」と前向きな気持になりますね。
心理学的なフィードバックの効果
組織で積極的にフィードバックを行うことで、部下の成長や成果の達成などだけでなく、次のような心理学的な効果も期待できます。
ここでは、この5つの心理学的なフィードバックの効果についてわかりやすく解説します。
効果1:冷静に自身の行動や能力を振り返れる
良好な関係を築けている相手からのフィードバックは、自分自身が第三者からどう見えているか分かる良い機会となります。フィードバックを素直に受け入れられると、冷静に自身の現状や行動、能力を振り返れ、自分自身の外面・内面への気付きが得られます。
自分ひとりでの振り返りに比べて、他者が介入することで、俯瞰的な視点で物事を捉えられるようになり、検討の視野を広げられるでしょう。
効果2:どう改善し、次へつなげるか自身で考えられるようになる
フィードバックは、単なるアドバイスやティーチングではなく、目標やあるべき姿を共有したうえで、現状について話をすることから始めます。そのうえで、目標まで何が足りないのか、何を行えばいいのかを一緒に考えるプロセスを踏むため、部下はどう改善し、次へつなげるといいか、自身で考える習慣が身に付きます。
効果3:仕事への自信につながる
フィードバックでは良いことも、悪いことも伝えるのが基本です。このうち、部下の良い行動を伝えて褒めるポジティブフィードバックには、自己効力感や達成感を高め、仕事への自信につなげる効果があります。
また効果2で説明したように、次へつなげるためにどう改善したらいいか自身で考えられるようになるため、業務に対する自信がつき、仕事への意欲や自発性も向上します。
効果4:上司との信頼関係が深まる
フィードバックは総じて効果的ですが、相手との関係や伝え方によってはマイナスの影響につながることもあります。例えば、関係性が悪い相手からのフィードバックは、聞き流されたり、仕事へのモチベーションが下がったりするケースがあります。
このため上司はフィードバックが効果的に機能するよう、普段から部下をよく観察し、積極的にコミュニケーションをとるようになります。その結果、上司と部下の信頼関係が深まるでしょう。
また部下が課題を抱えている場合は、上司は真剣に向き合い手厚いサポートを行いますので、部下はその姿勢に感謝し応えたい気持ちが生まれ、より上司との信頼関係が深まります。
効果5:働きやすい環境になる
フィードバックがポジティブに機能する組織は、信頼関係が築かれているため、人間関係という面からみて働きやすい環境になりやすいです。
また自己成長も感じられやすく、成果も出やすいため職場の雰囲気も良くなり、こうした観点からもフィードバックが行われる組織は働きやすい環境につながると言えるでしょう。
フィードバックの方向性
フィードバックは、相手の成長や結果につながる内容にすることが前提です。たとえ評価面談の場でフィードバックが行われる場合でも、昇給や昇進のための評価にとどまってはいけません。次の行動につながるように客観的かつ具体的な内容が求められます。
そしてフィードバックの方向性としては、「ポジティブフィードバック」と「ネガティブフィードバック」の2つに分けられます。
書籍「人材マネジメント用語図鑑」によると、ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックは、どちらが良い、悪いではなく、文化や風土により受け入れられやすさが変わると言います。それぞれについて、わかりやすく解説します。
ポジティブフィードバック
ポジティブフィードバックは、部下の行動のうち肯定的で前向きな内容、つまり褒めるような内容を指します。ポジティブフィードバックを行う狙いは、仕事に対する自信をつけてもらい、仕事へのモチベーションを高めることです。
ただし単に褒めればいいわけではなく、「成長目標と異なるスキルを褒めてもモチベーションは上がらず、成長目標に挙げたスキルを褒めた場合はモチベーションが向上した」という調査結果もあります(参考:「人材マネジメント用語図鑑」より)。つまりポジティブフィードバックであっても、相手の価値観をよく知り行う必要があると言えるでしょう。
『はじめてのリーダーのための実践!フィードバック 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す「全技術」』の著者・中原淳氏によると、ポジティブフィードバックをするときのポイントは、事実を元に客観的かつ具体的に話すことだと言います。
部下の価値観を把握したうえで、「どんな状況で(Situation)」「どんな振る舞いをしたことで(Behavior)」「どんな影響があった(Impact)」ということを伝えることで、次の行動につながるでしょう。
ネガティブフィードバック
ポジティブフィードバックが部下の行動のうち肯定的な内容を指しているのに対して、ネガティブフィードバックは否定的な内容を指します。部下の行動の問題点を伝え、立て直すことを目的に行われ、一般にフィードバックというと、このネガティブフィードバックのほうがクローズアップされる傾向があります。
中原淳氏によると、ネガティブフィードバックの効果を高める要因の一つは受け手側にあり、成長志向が高い人は、自分が成長するためのフィードバックを主体的に求めると言います。一方で、自己高揚動機(自分のことを高く評価したいという動機)や自己確証動機(自分が信じる自分の姿を確かめたいという動機)を持っている人にはネガティブフィードバックは刺さらない可能性があるとのことです。
つまりネガティブフィードバックを行う際は、受け手がどのような動機でフィードバックを受けようとしているのかを見極めることが大事だと言えるでしょう。
フィードバックの種類
フィードバックを行う対象は、主に「業務の成果」「業務プロセス」「その人自身」の3つです。それぞれについて見ていきます。
業務の成果に対するフィードバック
業務の成果に対するフィードバックでは、成果そのものを共有するとともに、なぜその結果になったのかを部下と考えることが重要です。どんな取り組みが成果につながったのか、逆に何が良くなかったのか、上司は客観的な目線で話します。そして前向きに今後につなげるための話し合いをしましょう。
業務プロセスに対するフィードバック
業務の成果だけでなく、成果を出すための業務プロセスもフィードバックの対象です。業務の進捗を確認する都度、業務プロセスのフィードバックを行うことで目標達成への精度を向上でき、効率的に目標へ向かえます。業務効率化にもつながるでしょう。
また日常的にフィードバックを行うことで、評価結果への納得感が生まれやすくなったり、急激な環境変化があった場合も目標も含めて業務プロセスの調整が行いやすくなったりメリットも多いです。
その人自身へのフィードバック
会社が成長していくためには、社員一人ひとりが仕事にやりがいを感じ自分らしさを発揮できる環境が欠かせません。つまり社員一人ひとりが自己実現できるよう、その人自身へのフィードバックも大事なのです。
部下の仕事に対する価値観を理解し、部下が理想に近づくための軌道修正を行います。またフィードバックの中で部下の自己実現が顧客の役に立つこと、より良い社会の発展につながっていることを伝えていくことも重要です。
フィードバックのフレームワーク
フィードバックには心理バイアスが働くため、実行する上司にも相応のスキルが必要です。部下の能力や行動パターンに合わせて、内容を組み立て、どういう形で伝えるのがベストか考えましょう。ここではフィードバックを効果的に行える代表的なフレームワークを3つご紹介します。
KPT
KPT型は、「Keep」「Problem」「Try」の3つからなり、振り返りのフレームワークとしてよく知られています。
- Keep(成果が出ていて続けるべきこと)
- Problem(解決すべき課題)
- Try(次に取り組むこと)
上司と部下で対話をしながら、「Keep」「Problem」「Try」に該当する内容を洗い出し、部下の自発的な改善につなげます。一対一だけでなく、チーム単位で行うのも有効です。
SBI
SBI型は、「Situation」「Behavior」「Impact」の3つからなり、この順番でフィードバックを行います。
- Situation(どのような状況で、どんな状況のときに問題であったか)
- Behavior(どんな行動が問題であったか
- Impact(問題行動がどんな影響をもたらしたのか、何がダメだったのか、何が良かったのか)
ポジティブフィードバックにもネガティブフィードバックにも使えるフレームワークです。できるだけ多くのSBI情報を集めることで、具体的に物事の原因と結果を伝えられ、相手に理解してもらいやすいでしょう。
FEED
FEED型は、改善を前提としたフレームワークで、「Fact」「Example」「Effect」「Different」の4つからなります。
- Fact(部下の行動)
- Example(その行動を指摘する理由)
- Effect(その行動による影響)
- Different(次回への代替案・改善案)
部下の行動をもとに次回の改善案まで一つの流れとして伝えるため、ネガティブフィードバックを行うときに向いています。
効果的なフィードバックに欠かせない要素
効果的なフィードバックを行うためには、フレームワークだけ覚えれば万全ではなく、欠かせない3要素もあわせておさえておく必要があります。ここでは、この3要素「フィードアップ」「フィードバック」「フィードフォワード」をわかりやすく解説します。
要素1:目標・目的の確認(フィードアップ)
フィードバックを行う際の前提になるのが目標・目的の確認「フィードアップ」です。上司と部下で目標・目的の目線を合わせたうえでフィードバックを行わないと、単なる良い悪いの話で終わってしまう可能性が高まります。そうすると部下にとっては納得感のないフィードバックで終わってしまいますね。
でも目標・目的の共通認識ができていれば、行動の方向性が明確になり、自分の現状の立ち位置との差も把握しやすくなり、成果にスムーズにつながるフィードバックができるでしょう。
要素2:振り返り・評価(フィードバック)
目標・目的を上司と部下で共有したうえで、経過の振り返りを行います。上司は目標に対して、「現在はどこまでできているのか」「どんな行動が良かったのか」「何ができていなかったのか」などを客観的に伝えます。
ここでのポイントは、部下の行動に対して具体的に話すのがポイントです。
要素3:今後の行動指針(フィードフォワード)
振り返りと評価をもとに、今後の行動指針を上司と部下が一緒になり検討します。目標達成のために、何をすればいいのか考え、現実的かつ行動可能なアクションプランを決めましょう。やるべきタスクを明確化し、いつまでにやるのかまで落とし込んでおくと、実行の可能性が高まります。
まとめ
従業員の教育の観点からフィードバックを行う際に欠かせない要素は「フィードアップ」「フィードバック」「フィードフォワード」の3つです。これらの3つをおさえたうえで、フィードバックのフレームワークなども知識として覚えておくと、従業員教育に有効でしょう。
フィードバックが効果的に機能すると、部下が自身の行動や能力を振り返れるようになったり、仕事への自信につながったり、上司との信頼関係が深まったり、といった心理学的にも良い効果が期待できます。
部下の反応をみながら、組織やチームに合うフィードバック方法を見つけてください。