フィードバックとは?言葉の意味や有効なフレームワークについてわかりやすく解説!
働き方改革が進み人材の多様化が進む現在。部下の育成はかつてないほど困難な環境にあります。その中で近年注目されてきている人材育成法が「フィードバック」です。
フィードバックは上司から部下へ日常的に行われていますが、部下にとって耳の痛いことを伝えなければいけないことも多く「この伝え方で大丈夫かな?」と不安になったり、言い過ぎたかもと思いフォローに走りすぎたり、試行錯誤が続いている現場もあるでしょう。
そこで当記事ではフィードバックの基本から、行う際のポイントまで分かりやすく解説します。
フィードバックとは?言葉の意味
フィードバックとは、良いことも悪いことも含めて、仕事の現状をしっかりと伝えて、時に軌道修正を促しつつ、将来の行動指針をつくることです。
企業・組織における人材育成・リーダーシップ開発の研究を行う東京大学 准教授 中原 淳氏によると、フィードバックは、「情報通知(≒ティーチング)」と「立て直し(≒コーチング」という2つの働きかけを通して、成果のあがらない部下や問題行動の多い部下を成長させていく方法だと言います。
(『はじめてのリーダーのための実践!フィードバック 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す「全技術」』より)
従業員教育におけるフィードバックとは
ここでは従業員教育におけるフィードバックに絞り解説します。
1990年以前は、終身雇用が当たり前で、年齢とともに給与や待遇があがるのが一般的な人事制度でした。また部下と上司で飲みに行くなど、長時間一緒に過ごす中でお互いをよく知れる環境があったわけです。
こうした背景もあり、人材育成という観点では、「OJT(On the Job Training)」が自然とうまく機能していました。失敗がある程度許され、上司がそばで見てくれていて、何か間違ったことをしていればすぐに指摘してもらえ改善できる環境が整っていたのです。
でもバブル崩壊後は、企業に余裕がなくなりリストラが行われ、若手の抜擢が起きるなど年功序列が崩れたのは周知の事実ですね。そして転職が当たり前になり、必要以上に会社の人と深い付き合いを好まない人が増えています。
つまり意識しなくても部下が育つ時代が終わり、意図的な従業員教育が必要になってきているのです。そこで注目されるようになったのが、ティーチングとコーチングの要素を併せ持つ「フィードバック」です。
中原氏によると、フィードバックは部下育成の理論から見ても、理にかなった部下育成法なのだそうです。人が育つには「経験軸」と「ピープル軸」の両面が必要と言います。
「経験軸」とは、部下を育てるためには、リアルな現場での業務経験が最も重要であるという考え方。少し背伸びをすればなんとかこなせる業務経験をさせることが大切なのだそうです。
一方、「ピープル軸」とは、人は職場の人たちからさまざまな関わり・支援を得られたときに成長するという考え方。具体的には「業務支援(専門知識やスキルを教えること)」「内省支援(客観的な意見を伝え、気付きを促すこと)」「精神支援(励ましたり、ほめたりすることで、自己効力感を高めること)」の3つの他者からの支援が必要と言います。
つまりフィードバックは、「経験軸」と「ピープル軸」の両面をサポートできる部下育成法というわけです。
フィードバックの2つの方向性
現状をフィードバックする際、内容はポジティブなものとネガティブなものがあります。それぞれについて簡単に解説します。
ポジティブフィードバック
部下の良い行動を指摘して褒めるのがポジティブフィードバックです。評価を受けることで自己効力感や達成感、満足度が高まり、仕事へのモチベーションが高まります。また上司が何を求めているのか、何を評価しているのかも伝わるでしょう。
部下は、上司が自分を見てくれていることが分かり、より上司と部下の信頼関係を深める効果も期待できます。
中原氏によるとポジティブフィードバックをするときのポイントは、事実を元に客観的かつ具体的に話すことだと言います。「どんな状況で(Situation)」「どんな振る舞いをしたことで(Behavior)」「どんな影響があった(Impact)」ということを伝えることで、次の行動につながるでしょう。
ネガティブフィードバック
部下の行動の問題点を伝えて立て直すのがネガティブフィードバックです。一般にフィードバックというと、このネガティブフィードバックのほうがクローズアップされる傾向にあります。
ネガティブフィードバックは、部下にとっては耳の痛い話になりますので、素直に受け入れにくかったり、やる気の低下につながったり、信頼関係が崩れたりと、伝え方により注意が必要です。部下の性格も見極めつつ行うことが大事でしょう。伝え方の具体的なポイントなどは後述します。
フィードバックと似た言葉との違い
フィードバックのより具体的な解説に入る前に、フィードバックと似た言葉がありますので、まずは整理しておきましょう。
レビュー
レビュー(review)とは、批評、評論のこと(広辞苑より)。ブックレビュー(書評)という言葉もあるように、感想や評価を中心にまとめる場合に使われることが多いです。対してフィードバックの場合は、さらに踏み込んで将来に向けた立て直しまで含みます。
コーチング
コーチング(coaching)とは、本人が自ら考え行動する能力を、コーチが対話を通して引き出す指導術のこと(広辞苑より)。対してフィードバックは、上司が現状を客観的に伝え、今後の行動計画まで立てます。
マネジメント
マネジメント(management)とは、広辞苑によると管理、処理、経営を意味しますが、企業におけるマネジメントは経営資源(ヒト・モノ・カネ)を効率的に活用し、目標を達成する方法全般を指します。フィードバックはマネジメントの手法のひとつです。
フィードフォワード
フィードフォワード(feed forward)とは、フィードバックとは違い部下の過去、問題点は指摘せず、未来への取り組み、目標を達成するための方法にフォーカスした人材育成の手法です。
フィードバックを行う目的
ここからはフィードバックについて、より深く説明していきます。まずはフィードバックを行う目的からです。
目的1:人材育成
フィードバックを行う目的として、最も多いのが人材育成です。上司が部下の行動を客観的に伝え、目標に向けてアドバイスすることで個人の成長を促します。
フィードバックを受けることで、部下は自分自身を客観的に知る機会をもて、自分の強みや弱みなども把握できるようになり、成長するに従い状況に応じた行動がとれるようになるでしょう。
目的2:チームとしての目標達成
フィードバックは個人に対して行われるものではありますが、チームとしての目標を達成するためのものでもあります。
部下にフィードバックを行うことで、目標に向けての軌道修正を行い、チームとしてぶれることなく効率的に目標達成が行えるでしょう。
フィードバックがもたらす効果とは
次にフィードバックを行うことで、どのような効果があるのか解説します。
効果1:部下のスキルアップ
研修をはじめ、さまざまなスキルアップの方法がありますが、中でもフィードバックは個人に対して行われるため、自分の課題に気付け、直接アドバイスをもらえるため、スキルアップにつながります。
効果2:モチベーションの向上
前述した通りポジティブフィードバックは、モチベーションの向上につながります。またネガティブフィードバックであっても、部下は上司が自分を見てくれている安心感や応援してくれている心強さを感じ、「よし、頑張ろう」とやる気につながるでしょう。
効果3:目標に向けての軌道修正ができる
組織の目標達成には、一人ひとりの目標に向けての取り組みが大事です。例えば経験が浅いと目の前の目標しか見えなくなり間違った方向に努力してしまうことがあります。そんなときに「今の仕事は、お客様にどのように役立っていると思いますか?」といったふうに問いかけると、視野を広げるきっかけにつながり、目標に向けての起動修正ができます。
また仕事の大変さに気持ちが折れそうになった際、上司からの声掛けで気持ちの軌道修正ができることもあるでしょう。
効果4:上司との信頼関係が深まる
部下にとっては耳の痛い話もしなければいけないフィードバックは、誰に言われるかも非常に大事です。まずは部下に耳を傾けてもらえるよう、上司は部下をよく知ることから始めなければいけません。そうすると観察するのはもちろんのこと、コミュニケーションの量も自然と増えますので、それによってお互いの信頼関係も深まるでしょう。
効果5:働きやすい職場になる
厚生労働省発表の「令和元年版 労働経済の分析 ―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について―」の中で、効果的だと感じるフィードバックが行われることで、正社員の働きやすさが向上する可能性が示唆されています。上司からのフィードバックが全く実施されないと働きにくいと感じている者の割合の方が多くなるという結果も出ています。
(参照元:令和元年版 労働経済の分析)
従業員教育という面に加えて、働きやすさという観点からも欠かせないのがフィードバックと言えるでしょう。
フィードバックを行うシチュエーション
意外と難しいのがフィードバックを行うタイミング。今、忙しいから後で……と思っていると伝える機会を失ってしまうこともありますね。
中原氏はフィードバックをするタイミングの鉄則として「即時」と「移行期」の2つを挙げています。ここでは、「即時」と「移行期」に加えて、フィードバックを行いやすい「1on1(ワン・オン・ワン)」の3つについて説明します。
状況1:即時
フィードバックの理想的なタイミングは、問題が起きたら「即」です。問題が起きてから時間が経ってしまうと、部下はどの行動が悪かったのか思い出せなくなりますね。また何かトラブルが起きている場合は、こじれる前に早く手を打ちたいところです。
状況2:移行期
昇進や異動をして間もない時期「移行期」もフィードバックの効果が出やすいと中原氏は言います。年数を重ねるほど、人はプライドも高くなりがちで、自分の行動を変えるのが難しくなるもの。このため仕事における役割が変わった直後、フレッシュなうちが、外からの声を受け入れやすくフィードバックのタイミングに良いのだそうです。
状況3:1on1ミーティング
エグゼクティブコーチであり、株式会社Link of Generation代表取締役の國武大紀氏が著書『その「ひと言」でチームが変わる最高のフィードバック』の中でフィードバックのタイミングとしてすすめているのが「1on1ミーティング」の活用です。また中原氏はSBI情報を集める場として1on1ミーティングを推奨しています。
1on1ミーティングは、上司と部下が1対1で行うものですが、人事評価面談とは異なり、部下の成長を促すことを目的に実施されます。
1on1ミーティングを活用してフィードバックを行うのがよい理由は、第三者に干渉されにくく「心理的安全性」を確保しやすいためです。部下が心を開いてコミュニケーションしやすい環境を作りやすいでしょう。
加えて通常1on1ミーティングは、週に1回から月1回の頻度で継続的に実施されますので、単純接触効果の高まりもあり、上司と部下との間に親近感が生まれやすくなります。
適切なフィードバックを行うためフレームワークとは
フィードバックは、受け手の感情に大きく影響を受けますので、やり方を間違うと良い効果がでません。ここでは適切なフィードバックを行うための具体的な方法、フレームワークについて説明します。
1:KPT
振り返りのフレームワークのひとつとしてよく知られているのがKPT型です。もともとはシステム開発の分野でよく使われていました。
KPTとは以下を意味します。
- Keep(成果が出ていて続けるべきこと)
- Problem(解決すべき課題)
- Try(次に取り組むこと)
上司と部下で意見を出し合いながら進めていくので、コミュニケーションの中で部下自身から新たな気付きが生まれやすく、自発的な改善につながりやすいのが良さです。
(例)
上司:今月の営業成績が先月の2倍と絶好調だね。何がうまくいっているのだと思う?
部下:提案後に沈黙の時間ができると、つい「いかがでしょうか?」と口を挟んでしまっていたのですが、顧客の反応を待つようにしました
上司:顧客の様子を見る余裕が出てきたんだね。逆に何か課題に感じていることはある?
部下:同じような質問が続いたので、商談用の資料を改善したほうがいいと思うのですが、なかなか時間が作れなくて……
上司:まとまった時間って作りにくいから、気付いたその場で修正する習慣をつけるといいよ。後は、毎月この日は「資料の見直し日」と決めてしまって、アポを入れないようにするのもひとつだよ
部下:分かりました。やってみます!
2:SBI
中原氏が効果的なフィードバックを行うために、すすめているのがSBI型で、具体的には次の5つのステップを踏むことを推奨しています。
【実践】フィードバックをする
- 信頼感の確保~雑談等で、相手から信頼感を得る
- 事実通知~カガミのように情報を通知する
- 問題行動の腹落とし~対話を通して、現状と目標のギャップを明確にする
- 振り返り支援~真の原因を突き止め、未来の行動計画をつくる
- 期待通知~自己効力感を高める
SBI情報とは、以下を意味します。
- Situation(どのような状況で、どんな状況のときに問題であったか
- Behavior(どんな行動が問題であったか)
- Impact(問題行動がどんな影響をもたらしたのか、何がダメだったのか、何が良かったのか)
できるだけ多くのSBI情報を集め、観察するときには上司の主観や解釈、評価ができるだけ入らないように客観的にみることが大事です。
この3つの情報をしっかりと事前収集することで、具体的に物事の原因と結果を伝えられますので、相手に理解してもらいやすいでしょう。ネガティブフィードバックにもポジティブフィードバックにも使える方法です。
(例)
Situation:ここ3カ月の営業成績のことだけど
Behavior:アポイントの電話件数が以前は1日20件だったのに、今は15件だね
Impact:営業成績が前年と比べて6割に落ちているよ
3:FEED
部下の行動をもとに次回の改善案までを一つの流れとして使えるのがFEED型です。改善が前提にあるため、ネガティブフィードバックの側面が強いでしょう。
FEEDとは、以下を意味します。
- Fact(部下の行動)
- Example(その行動を指摘する理由)
- Effect(その行動による影響)
- Different(次回への代替案・改善案)
部下に行動を変えてもらいたいときに特に有効な方法です。
(例)
Fact:会議資料の印刷をしてくれたよね
Example:横書きの資料なのにホチキス止めが右上だったから、一瞬あれ?と思ってね
Effect:左上から読んでいくと読み終わりが右下で右端をつかんでページをめくるから、ホチキスは左上を止めてあるほうがめくりやすいんだよ。
Different:次回から横書きの資料の場合は、ホチキス止めは左上、縦書きの資料の場合は右上でお願いね
部下に信頼されるフィードバックを行う6つのポイント
厚生労働省発表の「令和元年版 労働経済の分析 ―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について―」で上司からのフィードバックが効果的であった理由と効果的でなかった理由が紹介されています。
(参照元:令和元年版 労働経済の分析)
60%以上の人が効果的だったと回答したのが「今後の行動に関するアドバイスがあった」でした。また良い話も悪い話も、具体的な行動に対して行うと効果的であることが分かります。
これらの点についても触れつつ、中原氏や國武氏の書籍も参考に部下にフィードバックを行う際に気をつけたいポイントを7つご紹介します。
ポイント1:具体的に伝える
厚生労働省の資料からも明らかなように、部下に納得してもらうためには、「情報通知」「立て直し」ともに具体的な行動にかみ砕いて伝えることが重要です。
具体的に「情報通知」を行うためには、普段から部下の行動の観察が欠かせません。このときに参考になるのが前述したSBI情報です。この3つを意識して把握するようにすると、より具体的になり、フィードバックに説得力が生まれるでしょう。
「立て直し」は、例えば「もう少し分かりやすく説明してね」だと部下はどうしたらいいのか改善イメージがもてません。それを「この部分は専門的すぎるから、表を資料に追加してポイントを箇条書きで入れておくのはどう?」などと提案すると、部下はすぐに行動に移せますね。
ポイント2:人ではなく行動に対して客観的に伝える
部下に伝える際は、上司の主観や解釈、評価を入れないようにし、行動に対して客観的な事実を伝えます。
間違っても「大雑把な性格はミスのもとだから直してね」といったように人間性を否定するようなことを言ってはいけません。あくでも「この部分の作業がマニュアルと違うよね。この前はできていたのにどうして?」などと行動に対して話をすることが大事です。
ポイント3:普段から信頼関係を築いておく
フィードバックは「何を言うか」も大事ですが、「誰に言われるか」が非常に重要です。信頼している上司からの指摘であれば、素直に受け入れられるものですが、信頼関係のできていない上司だと身構えてしまいます。
毎朝、部下に「進み具合はどう?」「何か困ったことはない?」などと一声かけるだけでも違ってきます。そうした声かけがあるだけで、部下は相談しやすくなりますね。普段からコミュニケーションをとり信頼関係を築いておきましょう。
ポイント4:伝える場を選ぶ
他の人がいる前で、耳の痛いことを言われるのは嫌なものです。またそういう場では部下の本音は出てきません。このためフィードバックは個室で1対1で行うのが基本です。安心して落ち着いて話せる場を選びましょう。
ポイント5:事後フォローも含めて行う
フィードバックは伝えて終わりではありません。事後フォローも重要です。フィードバックを行ったら、上司でも部下でも構わないので内容をメモしておきましょう。
そして定期的に行動に改善が見られるか確認する機会をもちましょう。改善しようとしたけど、途中でつまづきそのままになっている、難しそうな改善で後回しになっているなど、意外と1回のフィードバックでは終わらないものだと考えておくといいかもしれません。
ポイント6:フィードバックする人数は5~7人まで
上司にとって耳の痛い話をしないといけないフィードバックは負担が大きいものです。中原氏によると1人の上司が抱えられる部下の人数は5〜7人だと言われているとのこと。それ以上の人数になる場合は、一部のフィードバックを任せられる人材の配置を考えたほうがいいでしょう。また管理職同士で集まり情報交換をするのも有効です。
まとめ
部下を育てる手法のひとつであるフィードバックは、フレームワークも複数存在するなど奥が深いことがお分かりいただけたかと思います。
参考書籍として取り上げた中原 淳氏と國武大紀氏の著書もフィードバックについて書かれている点は同じですが、中原氏の著書は比較的シンプルにまとめられているのに対して、國武氏の著書はコーチング色が強いものになっています。
組織、チームによって、どの手法が合うのか違ってきますので、部下の反応をみながら、自社に合う形を見つけていただけると嬉しく思います。