脱属人化する方法とは?業務の属人化を解消し、標準化するメリットについて解説
従業員の負担増加、生産性の低下、職場のチームワーク力低下と、さまざまなリスクがある「属人化」。そのような状況に危機感を覚え、近年「脱属人化」に取り組む企業が増えています。
本記事では、脱属人化を図る上でおさえておきたいポイントについて詳しく解説します。脱属人化のメリットや属人化によるリスク、脱属人化するための具体的な方法などもご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
属人化、脱属人化とは?
属人化とは「業務の手順やノウハウを共有しておらず、業務を遂行できるのが特定の従業員に限られている状態」のこと。担当者以外に業務を遂行できる人がいない、あるいは同等の質で業務をこなせる従業員が他にいないことを指します。
そして「脱属人化」とは、そのような状態から脱すること。「従業員の誰もがその業務を遂行でき、同等の成果を出せる」状態を目指し、組織が取り組むことを意味します。
なお、従業員の誰もが共通して仕事をこなせる状態を指す「標準化」は、属人化の対義語、脱属人化の類義語です。「標準化すること」は「脱属人化すること」に言い換えることができます。
脱属人化がなかなか進まない理由
属人化の解消に向けて取り組んではいるものの、なかなか実現できないと悩む企業も少なくありません。なぜ脱属人化が進まないのか、考えられる主な5つの理由について解説していきます。
理由1.時間・人材が不足している
脱属人化に必要な従業員教育やマニュアル作成には、時間がかかります。そのうえ、日常業務と並行して取り組むことになるため、人手不足などで多忙な職場は、なかなか脱属人化が進まないでしょう。
どうにか時間を確保できたとしても、少ない時間でトレーニングしたり、情報共有したりするには、伝える側のスキルが必要です。人に教えたことがない、マニュアルを作成したことがないという場合は特に苦戦するでしょう。その結果、属人化が一向に改善されないという事態に陥ってしまうのです。
理由2.脱属人化に消極的な職場風土
人の価値観、考え方を変えるのは難しいことです。昔ながらのやり方を続けてきたベテラン社員が多い職場ほど、脱属人化という新たな試みに対し、消極的になる可能性が高いです。
なかでも、従業員同士の競争意識が高い職場は、脱属人化に苦戦する傾向にあります。互いに競い合って業績を上げる文化が、情報共有や助け合いの文化が根付くことを妨げてしまうのです。
また、従業員が「人に教えるより、自分がやった方が早い」と思っているケースや、「自分の担当業務以外は、やりたくない」とマルチタスク化に消極的なケースも脱属人化に苦戦します。トップがどれほど取り組みに積極的でも、従業員の意識が変わらなければ組織変革は実現しないでしょう。
理由3.情報共有が仕組み化されていない
チームで協力して業務に取り組むには、情報共有が必須です。情報共有の仕組みに不備がある場合、属人化を脱することはできないでしょう。
マニュアルで業務の手順やノウハウが確認できたとしても、進行状況や問題点を把握していなければ、業務を遂行することができません。いま何をすべきなのか、どのように対処すれば良いかわからず、業務がストップしてしまうのです。
そのため、脱属人化には、マニュアルを設置するだけでは不十分だと考えられるでしょう。
理由4.組織の環境・体制が整っていない
業務の遂行には、知識だけでなく経験やスキルも必要です。未体験者が、経験者と同等の成果が出せるとは考えにくいものです。
よって、従業員にさまざまな業務の経験を積ませる制度や仕組みがなければ、属人化は免れないといえます。特に、人事異動が少ない業種・職種は脱属人化しにくいと推測できるでしょう。
理由5.脱属人化に対する従業員のモチベーションが低い
脱属人化では、業務内容、従業員の意識、習慣など、さまざまなものが変化します。中には、自分や周囲が変わることに抵抗を抱く人もいるでしょう。
そのうえ、脱属人化に向けて行う取り組みは、人事評価に反映しにくいという面もあります。最終的には従業員にもメリットがもたらされますが、実現するまでは「努力が評価されない」と感じてしまう可能性があります。
その結果、従業員のモチベーションが上がらず、組織に変化が起きないといった事態に陥るのです。
業務の脱属人化をするメリット
組織が一丸となって脱属人化するには、従業員のモチベーションを上げる必要があります。そのためには、なぜ取り組むべきなのか、自分や組織にどのような効果がもたらされるのかを理解してもらうことが重要です。
従業員が納得できるよう、以下の主な5つのメリットを確認しておきましょう。
メリット1.生産性の向上
脱属人化が実現すると、業務が効率化されます。誰が担当しても同じように業務を実行できるため、その場の状況に合わせて効率的に分業できます。手が空いている従業員に任せたり、複数人で協力して作業を進めたりすることも可能です。
また、標準化されることにより、職場全体の業務の質も上がります。業務効率アップ、サービスクオリティアップによる生産性の向上が期待できるでしょう。
メリット2.従業員の成長促進
脱属人化では、誰もが問題なく業務を遂行できるようトレーニングを行います。新たに知識・スキルを習得することにより、従業員の成長が期待できるでしょう。
また、新しい業務に挑戦すること自体も、従業員の成長の糧となります。幅広い経験を積むことで、キャリアの選択肢が広がるのです。上手くいけば、さまざまなスキルや経験が求められる管理職候補、役員候補の育成にも繋がります。
従業員にとっては、キャリアアップの機会に。企業にとっては、次期リーダーの発掘と育成のチャンスに。脱属人化は、従業員と企業の双方にメリットをもたらすでしょう。
メリット3.従業員のモチベーション向上
成長は、従業員のモチベーションを上げる要因のひとつです。脱属人化の取り組みを経て、新たな知識・スキルを習得することは、従業員の「やりがい」に繋がります。
また、担当者不在時でも誰かがカバーできる状態が作られれば、休みも確保しやすくなります。「自分がいないと業務が回らない」という状況から解放され、より働きやすい環境へと改善されるのです。その結果として、従業員の仕事に対するモチベーションアップが期待できるでしょう。
メリット4.ノウハウの蓄積
属人化が解消されると、業務の知識やノウハウが、個人ではなく組織に蓄積されるようになります。人事異動や離職があった場合も、組織が保有する知識・ノウハウを活用してトレーニングを行うことで、業務の質の低下を防止できます。
また、人材育成のクオリティも向上させることができます。経験豊富な社員から得たノウハウを未経験者に伝達し、よりハイレベルな人材を育てるといったことが可能になるのです。蓄積されたノウハウを活用して育成し、またノウハウが蓄積されていくというサイクルを生むことにより、組織の継続的な成長が期待できるでしょう。
メリット5.多様な働き方の実現
脱属人化が実現すれば、担当者が常に現場にいる必要はなくなります。これにより、従業員の働き方の選択肢が広がります。
在宅勤務や短時間勤務など、現場から離れる時間が長い場合でも、他の従業員に業務を任せることができます。テレワークやフレックスタイム制度などの導入も可能に。
働き方の多様化により、従業員エンゲージメント向上および離職率の低下、さらには企業イメージの向上と、多くのメリットがもたらされるでしょう。
脱属人化できないとどうなる?属人化によるリスク
従業員に脱属人化の重要性を理解してもらうには、リスクに関する説明も必要です。具体的にどのようなことが起こりうるのか、属人化によるリスクを確認しておきましょう。
ノウハウ・スキルの流出
脱属人化とは対照的に、属人化では、従業員の離職によるノウハウ・スキルの流出が発生します。長年培ってきたベテラン社員と共に、知識やノウハウが失われるのは企業にとっての痛手です。また一から従業員を育てなければなりません。
さらに、貴重なノウハウ・スキルが他社に奪われるとも考えられます。自社が一から社員を育てている間に、ライバル企業が優秀な人材の入社をきっかけに飛躍的な成長を遂げる……といったことにもなりかねないでしょう。
コストの増大
属人化は、業務効率の低下を招きます。特定の従業員の不在時に業務が滞るうえに、協力してスピーディーに業務を遂行することもできません。すべてが担当者次第になります。
その結果、従業員の負担が大きくなります。労働時間が長くなる可能性もあり、その分人件費が増えることとなるでしょう。
また、担当者の離職時は、後任者を一から育てるためのコストがかかります。市場全体が人手不足といわれる近年は、経験豊富な人材を探すのも困難です。もし採用できたとしても、前任者と同等のレベルになるまで育てるには、多くの時間を要します。
人件費、育成コスト、採用コスト、さらには生産性低下と、属人化にはコスト増大のリスクがあるのです。
離職率の上昇
属人化により従業員1人1人の負担が大きくなると、休暇が取りにくくなります。精神的にも肉体的にもストレスがかかり、離職者が増える恐れがあるでしょう。
離職率が上がると、採用コストや人材育成にかかるコストがさらに増えます。人手不足に陥った場合は、従業員に教育する時間を確保することさえ難しくなり、脱属人化から一層遠のくこととなります。そのため、属人化による大きなトラブルが発生していない場合でも、早めに対策しておくことが重要といえます。
トラブルの発生・増加
どれほど優秀でも、人は誰でもミスをするものです。チームで協力し、早めに対処すれば大きなトラブルへ発展するのを防ぐことができますが、属人化した状態ではそれができません。問題が発生しても、業務について他に知る人がいないため、誰もカバーすることができないのです。
担当者の精神的な負担が大きくなり、さらにヒューマンエラーが増える可能性も考えられます。組織のチームワーク力を強化し、トラブル増加を防ぐためにも、属人化は早めに解消すべきといえるでしょう。
属人化しやすい業務の例
1人で作業する時間が長い業務、専門知識・スキルが求められる業務は、属人化する傾向にあります。また、個人のスキルレベルによって成果に差がある業務、従業員同士の競争意識が強くなりやすい業務も注意が必要です。
脱属人化に取り組む際は、これらの業務を優先的に見直すと良いでしょう。具体的な例をご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
①顧客対応
顧客に直接関わる機会の多い、顧客対応業務。「この人だから商品(サービス)を買いたい」と、従業員個人に対する信頼が業績に影響するという特徴により、属人化しやすいです。
特に、接客を行って商品やサービスを販売する業務形態は、顧客ごとに担当者が決まっていることも多く、属人化する傾向にあります。しかし、担当者によってサービスの質が変わるのは、クレームの原因となるため、脱属人化すべきと考えられるでしょう。
②営業業務
営業業務も、従業員と顧客の信頼関係が業績に影響する業務です。互いに競い合うことで従業員のモチベーションが上がる、そして業績が上がるという考えのもと、敢えて属人化させているケースもあるでしょう。
そのような職場では、従業員自身も「周りにノウハウを共有したくない」と考えることが多いです。業績アップに対する意欲が高い人、向上心が強い人ほど、そのような考えに至る傾向にあります。
ですが、優秀な社員が離職した際、部署の業績が下がる恐れがあります。また、担当者のミスをカバーできないという問題もあるため、属人化への対策が必要です。
③人材育成
人材育成は、実際に部下や後輩を教育し、経験を積むことでスキルが高まります。経験によって感覚が養われ、ケースバイケースのノウハウが蓄積されていく業務なので、属人化しやすいです。
しかし、人材育成が属人化すると、教育担当者の負担が大きくなります。また、担当者不在時に教育がストップし、従業員の成長が遅れる可能性があるため、こちらも属人化の解消に取り組むべきといえるでしょう。
④生産管理業務
生産管理業務は、製品の企画や在庫管理、材料調達など、さまざまな作業をこなすことを求められます。担当者1人が抱える業務量が膨大になることも多く、情報共有する時間を確保するのが難しいことから、属人化しやすいと言われています。
また、データを管理する作業が複雑で、「教えるよりも自分がやった方が早い」と考えてしまうこともあります。ですが、作業量が多い業務、複雑な業務こそ、エラーを防ぐため脱属人化が必要です。
⑤バックオフィス業務
バックオフィス業務は、フロント業務を支える重要な業務。一般的には、営業や販売など他部門と連携を取りながら進められますが、作業の細かい進捗までは共有していないことが多いです。
特に、バックオフィス業務をパート・アルバイト社員に任せている場合、勤務時間が合わないことから情報共有が不十分になる可能性が高いです。
担当者が現場から離れるたびに連絡を取り合い、離職するたびに新人を一から育てるのは非効率的です。そのため、雇用形態に関係なく、バックオフィス業務も脱属人化すべきと考えられるでしょう。
脱属人化をする方法
脱属人化のポイントとなるのは「情報共有」「基準の明確化」「作業の自動化」です。これらを徹底、実現することで、属人化の解消に繋がります。
具体的にどのような方法があるのか、以下の4つの例をご紹介します。
方法1.従業員への教育
脱属人化において、従業員教育は必要不可欠。複数人が、業務について把握している状態にするため、業務に関する知識・スキルを教える必要があります。リーダー・マネージャーに関しては、属人化させないためのマネジメントスキル向上も必要です。
また「人に任せるより自分でやった方が良い」「ノウハウを共有するのに抵抗がある」という従業員が多い場合は、マインドセットの教育も必要と考えられます。脱属人化すると従業員にどのような良いことがあるのか、周囲の協力を得ず自分でやろうとするとどうなるのか、メリットとリスクを理解してもらうことが大切です。
方法2.マニュアルの作成
マニュアルは、業務の内容や手順などを効率よく共有できるツールです。研修を行ってノウハウを伝えたり、実践でスキルを磨いたりすることも大切ですが、情報を可視化することで、スピーディーに業務に対する理解を深めることができます。
また、マニュアルがあれば、いつでも誰でも情報を確認することができます。わざわざ業務に詳しい人に質問せずとも、自分でチェックして問題を解決できます。
マニュアルを作成する際は、業務の棚卸しを行い、属人化している業務を見極めます。本当にその担当者しかできない仕事なのか、どうすれば他の従業員もできるようになるのか、改めて分析しましょう。
そして、作業の基準を記すことも大切です。何を基準に「できている/できていない」と判断するのかを明確にすることにより、業務の質が標準化されます。チェックシートなどを作成し、業務の合格ラインを明確化および共有しましょう。
方法3.組織体制と役割分担の見直し
業務の内容によっては、従業員全員のマルチタスク化が難しいこともあります。業務に集中するため、役割分担した方が良い場合もあるでしょう。
そのような時でも、特定の従業員1人に任せきりにするのはリスキーです。1つの業務を複数人で担当するよう体制を整えることで、属人化によるトラブルの発生を防ぐことができます。従業員を複数の部署に配属し、それぞれに複数の業務を掛け持ちさせる、という方法もあります。1人1人が担当する業務の範囲を広げ、分散させることで、特定の従業員に責任・権限が集中するのを防ぐのです。
どのような体制をとるにしろ、「業務を進められるのが1人のみ」という環境を作らないことが大切です。改めて組織の体制や役割分担を見直してみましょう。
また、従業員を複数の部署に配属し、それぞれが複数の業務を掛け持ちするという方法もあります。業務を分散させるのがポイントです。
方法4.情報共有の仕組み化
漠然と「情報共有を徹底しよう」と呼びかけるだけでは、なかなか組織は変わらないものです。従業員全員が日常的に情報共有するよう促すには、ルールの設定と仕組みづくりが欠かせません。
例えば、「出勤時と退勤時に報告メールを送る」というようなルールの設定は、情報共有の習慣化を促します。デジタルツールを活用し、常に互いの状況を把握できるシステムを構築する方法も効果的でしょう。
また、いつでも誰でも自由に書き込めるボードやペーパーを用意する方法も、例として挙げられます。企画のアイデアや意見など、連絡事項以外の情報を共有するのに役立ちます。組織の状況や業務内容に合わせて、適切な手段を選びましょう。
属人化を解消し、脱属人化した企業事例
脱属人化に成功した企業は、実際にどのようなことを行ったのでしょうか。ここで3つの事例をご紹介するので、施策に悩んだ際は、ぜひ参考にしてみてください。
株式会社サカタ製作所
金属屋根部品や太陽光取付金具などの製造・販売を行っている「株式会社サカタ製作所」。当社は、働き方改革の一環で脱属人化に取り組みました。
以下は、具体的な取り組み内容の例です。
- 属人化している業務の洗い出し
- 業務内容と所要時間の可視化および分析
- マニュアル作成
- 従業員へのトレーニング
- 計画的な従業員のマルチスキル化 など
当社は上記のような取り組みを行い、脱属人化を実施。その結果、従業員の急な欠勤にも対応できるようになり、仕事と育児の両立が可能な働きやすい環境が実現したとのことです。脱属人化が労働環境改善に繋がることがわかる事例といえます。
■参考:
「大胆な業務改革と属人化の解消で誰でも働く着やすく(株式会社サカタ製作所)」女性の活躍・両立支援総合サイト(厚生労働省)
株式会社唐沢農機サービス
インターネットで農機具の販売を行っている「株式会社唐沢農機サービス」。当社はコールセンター部署の負担を軽減するため、マニュアルの作成、情報共有の徹底を行い、脱属人化を果たしました。
コールセンター業務は自動化が難しいという点で課題がありましたが、マニュアル化および脱属人化したことで顧客対応の効率が上がり、月の平均残業時間が20時間から8時間に減少。未経験者の採用も可能になり、フレキシブルな人材採用を実現しました。
サービスクオリティの向上、人手不足解消、労働環境改善と、脱属人化によってさまざまなメリットが得られた事例です。
■参考:「わたしの会社の働き方改革取り組み事例集」厚生労働省
JTBグループ
旅行業を中心にさまざまな事業を営む「JTBグループ」。当社は、1つの案件に2人ずつ担当者を配置する「複数担当制」を採用し、属人化を防止しています。
営業経験がないと難しい業務に関しては、まとめて専任者が担当。その他の業務をチーム内で分業するという独自のシステムを構築し、1人1人が抱える業務量をコントロールしています。
さらに、1日の業務内容とスケジュール、業務の進捗などをメールで報告するルールを設けるなど、情報共有も徹底。業務の分散と集約、情報の仕組み化が、脱属人化へと導いた事例です。
■参考:小室淑恵(2016)『労働時間革命 残業削減で業績向上!その仕組みが分かる』
まとめ
脱属人化を実現するためには、従業員の意識を変え、職場風土を変えることが大切です。とはいえ、人の価値観や働き方を変えるのには時間がかかるため、組織を動かすトリガーとして、まずはマニュアル作成や情報共有の仕組み化に取り組むのが得策と考えられます。
脱属人化のための時間を確保するのが難しい場合は、オンラインで人材育成・情報共有できるデジタルツールを活用するのも1つの手です。限られた時間で着実に進められるよう、工夫してみましょう。