次世代リーダーの育成は、企業が引き続き成長していくために取り組むべき優先事項です。少子高齢化と労働力不足が問題視されている日本において、企業が価値を生み出していくためには、変化にあわせて経営の舵取りができる人材が必要不可欠でしょう。
しかしながら、企業組織と事業展開をリードする中核的な人材には、誰もがなれるわけではありません。そこで本記事では、次世代リーダーがいなければならない理由と求められる資質、また育成手順やポイントまで幅広くご紹介します。
リーダー候補者向けに研修プログラムを検討している方向けに、ベンチマークとなる他社の成功事例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
次世代リーダーとは、企業の経営を維持し、将来的な成長を支えていく中心的な人材のことです。企業によって求める人材のスキルは変わりますが、リーダーシップを発揮し、経営戦略や事業推進などの実践と成功に尽くすことに変わりはありません。
また、リーダー候補者は通常、業務知識とノウハウのある優秀な社員である部長や課長などの上位管理職から選ばれます。ただし、リーダーにはリーダーとしての資質があるかということも重要であるため、企業によっては選抜範囲を全体に広げ、一般社員からも抜擢されることもあるでしょう。
なお、次世代リーダーの候補となる社員の資質の詳細については後ほどくわしくふれていきます。
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そもそも、なぜ企業は将来のリーダー層の育成に力を入れなければならないのでしょうか?企業が次世代リーダーの育成をしなければならない理由は、大きく3つあります。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、50 年後の人口は現在の7割減になるといわれています。とくに日本では消費を生み出す生産年齢層(15~64歳)の人口が減りつつあり、それにともなって消費市場も縮小傾向にあります。
■参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
このような社会で企業が成長し続けるには、国内消費市場での戦略を見直すだけでなく、海外市場に展開するなど、思い切った方針転換が必要です。その結果、次世代を担うリーダーによる舵取りがますます重要になっています。
また、2023年3月31日以降の有価証券報告書から義務化されている人的資本の開示ですが、人的資本経営への注目も、次世代リーダーの育成が必要な要因の1つです。
非財務情報可視化研究会発行の「人的資本可視化指針」によれば、人的資本開示の項目に、「リーダーシップ」が含まれ、企業が取り組むべき人材育成の要点として挙げられています。
管理職社員、一般社員の育成に注力し、「リーダーシップ」業員に投資しているいる企業は、社会から「将来性がある」と認められやすいと言えるでしょう。
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人的資本経営とは?注目される背景や国内外動向、情報開示の内容などについてわかりやすく解説!
企業の未来を決める中核人材として重要な次世代リーダーですが、候補となる人材にはどのような能力があるべきなのでしょうか?ここでは、次世代リーダーに求められる資質とスキルを3つ紹介します。
1つ目のスキルは、抽象的な情報や知識を理解して概念化して本質を見出すことを示す、コンセプチュアルスキルです。
米ハーバード大学の教授、Robert L. Katz(以降カッツ氏)氏が発表した『Skills of an Effective Administrator(有能な管理者スキル)』で提唱されたスキルであり「概念化能力」とも呼ばれます。
概念化能力とは、分類がしにくいものの本質を見出し、論理的に考える力のことです。企業経営の視点では、抽象的なビジョンを明確にし、戦略や取り組みの方向性を示すことができます。
たとえば「環境と共に歩む」をビジョンに掲げている企業が、環境汚染につながる材料の使用を中止したり、再利用素材を製品開発に取り入れたりして、事業を継続していく姿勢をアピールするといったことに役立つでしょう。
2つ目のスキルは、ヒューマンスキルです。これは職場の同僚や上司、部下とのコミュニケーションを円滑にし信頼関係を獲得する能力のことで、こちらもカッツ氏が提唱する管理者が持つべき能力に含まれています。
Human skill is the executive’s ability to work effectively as a group member and to build cooperative effort within the team he leads.
翻訳:ヒューマンスキルとは、グループメンバーとして効果的に働くリーダー(経営幹部)の能力のことで、チームが協力して動けるようにします。
引用:Robert L. Katz「Skills of an Effective Administrator」
とくに企業では、リーダーが社員との信頼関係を築き風通しのよい雰囲気を作ることで、社内改革やプロジェクトが円滑に進むものです。ヒューマンスキルに優れたリーダーは、重要な経営判断をする際に社員から納得・支持され、協力してもらいやすくなるでしょう。
このように、リーダーにとってのヒューマンスキルは、新たな計画を実践に移していくための原動力として非常に重要なスキルなのです。
3つ目のスキルは、マインドセットです。マインドセットとは、その人が持つ行動パターンや考え方の特徴、固定観念などのことで、事物に対しての受けとめ方と対処法を決めるもととなるものです。
このマインドセットについては、心理学者のCarol S. Dweck(キャロル・S・ドゥエック氏)が著書『マインドセット:「やればできる!」の研究』のなかで、以下のように分類しています。
このとき、とくにリーダー候補が持つべきマインドセットとは、自分で自分の限界を決めてしまう「硬直マインドセット」ではなく、努力で能力が向上する「しなやかマインドセット」です。これはリーダー本人だけでなく、社員や組織全体を成長に導く可能性を秘めています。
このことから次世代リーダーを育成する際にも、マインドセットを成長型に変えていくことが大切です。
前章では、次世代リーダーが持つべき3つのスキル・資質について見てきましたが、求められることが多く、リーダー候補者の人選が難しく感じた方もいるかもしれません。
しかしながら、スキルが多少足りないと感じられた場合でも、育成プログラムを企画・実施することで、人材の成長を促すことが可能です。そこでここでは、次世代リーダーの育成手順を6ステップでご紹介します。
次世代リーダーを育成する最初のステップは、研修の目標を設定することです。これはリーダー候補に期待する人物像を設定し、そこまでの道のりを明確にする工程になります。
そして研修の目標設定ですべきことは、主に以下の2つです。
これは、リーダーとして目指すべきゴールを決めたら、そこに向けて達成すべきスキルをステップごとに設定し、ひとつずつのぼりつめていくイメージです。
また、研修の計画段階で経営層や管理職など一部に限らず、全社にも育成プログラムの目的やゴールを共有し、リーダー育成の意義を理解してもらうことが大切です。これにより、全社員が将来に向けて会社が変化していく流れを受け入れ、新しい組織風土が形成されることにもつながるでしょう。
次のステップは、自社に必要な次世代リーダー像を決め、その条件を設定することです。前述のとおり、次世代リーダーには備えるべき資質やスキルがあり、できるだけ条件に当てはまる人材を候補とすることが重要になります。
仮にこの部分を徹底しないでいると、条件に関係なく気に入った部下や社内で目立つ管理職を主観的に選んでしまうことにつながります。その結果、本人はリーダーに求められる責任を負えずにつまずき、会社側はリーダーの育成を断念することにもなりかねません。
このようなことにならないよう、リーダーの要件を明確にしてから人選をするようにしましょう。
次世代リーダーの条件設定ができたら、次はステップ3として人材育成に向けた研修受講者を選びましょう。方法としては、部署の責任者が条件にあう人材をリストアップしたり、適切と思われる人材を推薦したりする方法が一般的です。
また、受講者を選ぶ際に重要となるのは、対象者となった本人の意志です。次世代リーダーには、将来的にさまざまな状況下で迅速に判断し、組織をよい方向に率いていく能力が求められるため、それ相当の覚悟と責任感が求められるでしょう。
とくに、スキルや資質が十分な人材でも研修を進めるうちに意欲を失っては元も子もありません。途中で辞めることがないように受講者を選ぶ際には面談を行い、本人の意思をよく確認することが大切です。
リーダー候補を選んだら、続いて育成プログラムを設計します。主に以下のような流れでプログラムを設定するのが一般的です。
まずは、リーダーの育成にかかる期間を決めます。具体的には会社が必要とする人物像の方向性を押さえ、評価基準とともに研修を組み立てていきましょう。
その後、コミュニケーション研修やリーダーシップ研修などで、リーダーの心構えを習得したり、メンター制度などで研修の進捗を管理、継続できるようにサポートしたりするのがおすすめです。
なお、育成プログラムの種類や作り方については、以下の記事でくわしく解説しています。ぜひ参考にしてください。
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社員教育プログラムの作り方とは?企業を成長させるための8ステップ
育成プログラムを設計したら、ステップ5ではいよいよ研修を実践していきます。リーダー育成研修では候補者が習得すべき項目が多いため、効率的な学習を心がけていきましょう。
また、論理的思考が必要なコンセプチュアルスキルや、対人関係を円滑にするヒューマンスキルは本人の資質に左右されやすく、一度の研修だけでは習得しにくいという側面を持っています。そのため、復習しやすい仕組みを整えて反復的に学習に取り組める環境を整えるとよいでしょう。
たとえば、過去に受講した研修内容については、ツールで整理してまとめておけると復習しやすく便利です。研修の成果もツールで可視化できると受講者の達成感につながり、教育担当者が研修の進捗を確認する際にも役立ちます。
外部ツールとしては人材育成クラウドサービスの「shouin+」などがありますが、これらは教育内容をツールに貯めておけるため、それまでの学習履歴と達成度をひと目で確認できます。成長の過程をわかりやすく見える化することで、社員の意欲を刺激することも期待できるでしょう。
研修の実施後は、次のステップとしてフォローアップを実施します。さまざまな内容を学ぶ次世代リーダーの場合、研修の振り返りとモチベーション維持が重要となり、そのためにもフォローアップが必須です。
フォローアップの方法としては、1on1でサポートするメンター制度があります。定期的に育成過程での悩みやつまずきがないかをヒアリングし、迅速なサポートを心がけていきましょう。
ほかにも社長や経営陣と話す機会を設けたり、候補者同士で座談会を開催したりして、研修やリーダーに必要な情報を共有することも、受講者の悩みや不安を取り除くのに役立ちます。
また、研修の結果をふまえて、受講者に不足している点や出来ている点をフィードバックすることも大切です。そうすることにより、さらなる成長を促すことができるでしょう。
なお、フィードバックのしかたについては、くわしく紹介したこちらの記事もあわせてご一読ください。
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フィードバックとは?言葉の意味や有効なフレームワークについてわかりやすく解説!
前章では次世代リーダー育成の手順について見てきましたが「やることが多く、実際に取り組むにはハードルが高そう……」と感じた方もいるのではないでしょうか。しかしご安心ください。リーダー育成においては、次に紹介する3つのポイントだけ押さえていただければ問題ありません。
まずは、候補者に次世代リーダーとして自覚を持ってもらうことが何よりも大切です。スキルの高い人材でも、将来的にリーダーとして活躍したいかどうかといった気持ちは本人次第です。そのため、意志のある人材には次世代リーダーとしての自覚を高めてもらうことが大切でしょう。
また、このとき人材の意志を確認する方法としては、本人が描くキャリアプランを含めてヒアリングをおこなう方法があります。このときは次世代リーダーの要件と将来性についてくわしく伝えながら、本人の意志を引き出してみましょう。
そして、ヒアリングの結果リーダー職を担う意志がある人材に対しては自覚と責任感を持って取り組んでもらえるように導いていきます。
リーダーになる意志がある受講者と経営者間の交流を図ることも、次世代リーダー育成におけるポイントです。会社の未来について現役のリーダー層と話す機会を設けることで、気づきを得ることができるでしょう。
とくに会社の経営者との交流により、自社の事業計画や長期目標などを意識できるだけでなく、会社のビジョンと価値観について理解を深めることが可能です。その結果、受講者が将来、リーダーとなって活躍する姿を思い描けるでしょう。
また、経営者と直接対話をできることで直接上層部に自身のアイデアを共有し、フィードバックをもらえるため、気づきを得て成長することも期待できます。
最後に、受講者の不安や悩みに寄り添うことも次世代リーダー育成における大事なポイントです。リーダーとして求められるものが増えるほど研修の内容も高度になり、意欲のある候補者でも研修過程で悩む機会が多くなるでしょう。
また、どんなに質のよい研修を実施しても、候補者の成長スピードには個人差があるものです。Aさんにあった研修が必ずしもBさんにもあうとは限りません。そのためリーダー育成においては、受講者個人の不安に寄り添うことが重要になるのです。
適切なアプローチとしては次のような方法を参考にしてください。
このような手法で受講者へのフォローを行うことで、スキルアップと共に、受講者がリーダーシップを養うことができるでしょう。
リーダーの育成は、特定の部署だけで進められる工程ではなく、経営陣から一社員まで、全社で取り組むべき一大プロジェクトと言っても過言ではありません。
そんな、決して簡単ではないリーダー育成だからこそ、実際の成功事例からイメージを持っておきたいものです。最後に、次世代リーダー育成の成功事例を2つご紹介しますのでぜひ参考にしてください。
サントリーホールディングス株式会社では、国内外で活躍する人事戦略や社員の才能を発掘し育成する全社員に向けたタレントマネジメントを行ってきました。
とくに次世代リーダーの育成については、人材育成の場として開設した「サントリー大学」が担い、創業精神である「利益三分主義」「やってみなはれ」を引き継いできた同社が、グローバル化をしながら成長し続けるための育成プログラムを展開しています。
また各種プログラムではリーダーシップ開発に役立つ実践的なスキルを学ぶことが可能で、部長クラス以上になると「ビヨンドボーダーズ」という1年間のプログラムもあり、同社の海外拠点で実施されています。
なお同プログラムでは、海外拠点で実際のチームに入り、実際の事業ケースの課題解決に取り組むことが可能です。現地にて多様な文化と価値観に触れながら横のつながりを築くことができ、社員のバックグラウンドや各事業間の垣根を超えたシナジーを引き起こしています。
このようにサントリーグループでは、チームを率いながらグローバルに活躍できるリーダースキルの育成に成功しています。
2006年、次世代を担う人材育成のために「東急アカデミー」を設立した東急株式会社では、これまでに800人もの修了生を輩出しています。
同社の研修は、以下のように役員や部長、課長、マネジャー候補など階層別に分かれているのが特徴です。それぞれに必要な経験・スキルを補充し、人材同士のセッションを通して学びの機会を提供してきました。
対象者 |
育成コースの種類 |
取締役・執行役員 |
ビジョナリープログラム |
部長職(役員候補) |
変革型リーダープログラム(ILDP) |
課長職(部長候補) |
創造型リーダープログラム(CLDP) |
課長補佐(プロジェクトマネジャー候補) |
能動型リーダープログラム(ALDP) |
たとえば2022年、部長職向けの創造型リーダープログラムでは、社員自身の内面の変化から周囲を率いる「インサイドアウトのリーダーシップ」を養う研修が行われました。
育成期間を5か月間に設定し、研修を10回実施しました。研修においてはリーダーシップノウハウのインプットを徹底し、その後のワークショップでは実際に戦略立案に取り組み、実践的なアウトプットを充実させています。
とくに企業の成長に必要なのは、抱える課題を抽出して解決策を決める決断力と、組織を変えていくリーダーシップです。このことに着目し、研修を通してリーダーマインドの醸成を目指しています。
次世代リーダーの存在は、国内消費市場の変化に対応して経営の課題を解決し、将来的な発展のために奮闘する人材として必要不可欠です。そしてその候補者が研修でマネジメントノウハウを習得し、リーダーとしての自覚と責任を持つことが、会社の未来を決めるといってもよいでしょう。
また、企業が次世代リーダーの育成に力を入れるほど、候補者が自らのキャリアプランを明確にしやすくなるため、結果としてモチベーションの向上も期待できます。本文では、次世代リーダー育成の手順や成功事例をくわしくご紹介しましたので、ぜひ貴社の将来を担うリーダー候補者の育成にお役立てください。