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ダイバーシティ&インクルージョンとは?意味の違いや具体的な取り組み、企業事例を紹介

ノウハウ ナレッジ
2024.08.09
『shouin+ブログ』マーケティング担当

企業が社会的責任を果たすための取り組みとして急務とされているダイバーシティ&インクルージョン。その対応に今まさに追われているのだという人事の方も少なくないはずです。

本記事では、「ダイバーシティ」と「インクルージョン」に関する基礎的な知識やこれらの取り組みがなぜ必要とされているのかについて説明し、その上で「どのように取り組みを推進していけばよいか」「関連する法律や制度にはどういったものがあるか」など、貴社のダイバーシティ&インクルージョンを推進するために役立つノウハウをくわしく解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。

 

ダイバーシティ&インクルージョンとは

ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様性のある人材を受け入れ、またこれらの多様な個人が尊重され、それぞれの能力を存分に発揮できる状態を指します。

また経済産業省では、とくにダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義していますが、この考え方は「ダイバーシティ」単体ではなく、「インクルージョン」の意味も含んでいます。

このような説明では抽象度が高く分かりにくいかもしれませんが、具体的な取り組み方として「障がい者雇用の推進」や「女性管理職比率の向上」、「外国人労働者の受け入れ」やテレワークなどの「新しい働き方の導入」などが挙げられ、身近な事例から考えるとイメージしやすいかと思います。

なお、ダイバーシティの意味や歴史、取り組み方や企業に与えるメリットにつきましては下記の記事でもくわしく解説しておりますので、ぜひ参考にご覧ください。

■参考記事はこちら

ダイバーシティとは?意味やメリット、人事施策を事例を交えて解説

 

ダイバーシティとインクルージョンの違い

「ダイバーシティ(diversity)」とは英語で「多様性」という意味を持ちます。ここで言う多様性とは性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性はもちろんのこと、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます。

一方で「インクルージョン(inclusion)」とは英語で「包括」「一体性」という意味です。これだけでは少しわかりにくいですが、ダイバーシティで集められた多様な人材が、組織内で「一体感」を持ってそれぞれの能力を存分に発揮し、活躍できる状態がインクルージョンの状態です。

つまり、単に「多様性がある」状態がダイバーシティで、その多様性が「活かされている」状態がインクルージョンだといえます。

ただし、経済産業省の定義に代表されるように、日本では「ダイバーシティ」と言うだけで暗に「インクルージョン」の意味も含んでいるケースが多く見られますので、その点は注意が必要でしょう。

 

なぜいま、ダイバーシティ&インクルージョンが必要なのか

多様性に配慮することで企業が社会に貢献するという一面もありますが、ダイバーシティ&インクルージョンが必要とされる背景はそれだけではありません。ここからはダイバーシティ&インクルージョンが必要とされる背景について、くわしく解説をしていきます。

img_01ダイバーシティ&インクルージョンが必要とされる背景

理由1.労働人口の減少と多様な人材の確保

少子高齢化により、労働人口は減少傾向にあります。総務省によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少する見込みです。

■参考:内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書

このため企業は人材不足に悩まされており、従来では雇用していなかった層を雇用する必要に迫られました。たとえば出産や育児を機に仕事を離れた女性や、障がいを持つ人、定年を迎え退職したシニア層、外国人労働者などです。

このように企業は、ダイバーシティ&インクルージョンを推進することで雇用の間口を広げ、人材を確保しやすくしようとしているのです。

 

理由2.イノベーションの創出と競争力の強化

異なる背景を持つ人々が集まることで、従来にはなかった新しいアイデアが生まれる素地が作られます。ここからイノベーションの創出が期待され、企業は新しい競争力を得ることができるのです。

具体的に、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みがイノベーションの創出につながる過程をよりくわしく見てみると、下記のような段階を踏むことになります。

ダイバーシティ&インクルージョンがイノベーションを創出する過程

  1. 新しい視点が増える
  2. 想像力が高まる
  3. 問題解決能力が向上する

多様な人材を雇用することで、まず問題を解決するための視点が増えます。たとえば同じ問題でも、アメリカ人と日本人、若者とお年寄りでは考え方が異なります。この違いが新しい解決策を生むきっかけとなるのです。

他にも、多様な人々が集まると異なる意見やアイデアがぶつかり合い、思いもよらない発見や斬新なアイデアを生むことがあります。これは、たとえばアートの世界でもよくあることで、異なる文化が融合すると新しい芸術が生まれるのと同じです。

そして多様なチームでは、さまざまなアプローチで問題に取り組むことができます。一つの方法がうまくいかなくても、別の方法を試すことで、より効果的な解決策を見つけることができます。

このようにして企業は、ダイバーシティ&インクルージョンの推進によってイノベーションの創出につなげ、競争力を強化しようとするのです。

 

理由3.グローバル化への対応

近年は日本経済の低迷を背景の一例として、海外に目を向ける日本企業が増えていますが、当然ながら海外市場では日本の常識は通用しません。それぞれの国・民族・文化によって価値観や考え方は当然異なります。これは、単に求められる商品が国によって異なるという問題ではなく、各国で当然とされるマナーや忌避される振る舞いが異なるということを意味します。

海外市場で成功するためには、異文化への理解や多様性の受容が必要となります。そのためには、外国人労働者をはじめとする異文化に精通した人材や、多様な考え方のできる人材が求められるのです。

 

理由4.社会的責任と企業価値の向上

企業が果たすべき社会的責任にはさまざまなものがありますが、その一つとして「人権の尊重」が挙げられます。

ダイバーシティ&インクルージョンの推進により、企業は多様な人材を受け入れ、多様な働き方に対応することが求められます。その結果、従来であれば就労が困難であった障がい者を受け入れたり、育児や介護と仕事を両立する社員が働きやすい環境を整備したりといった取り組みが進み、これが人権の尊重につながるのです。

社会的責任をきちんと果たしている企業には、例えば「くるみん認定(※くわしくは後述します)」などの認定が与えられたり、関連する法制度を遵守しているということが公表されたりします。これが企業の価値を高めることにもつながるのです。

 

理由5.法律や規制の遵守

例えば、障がい者雇用促進法では、2024年現在、障がい者の法定雇用率が2.5%と定められています。これは常時雇用している労働者数が40人以上の企業では、障がい者の雇用が義務付けられているということです。

また、女性活躍推進法や高年齢者雇用安定法など、企業が多様な人材を雇用し、彼らに合理的な配慮を行い働きやすい環境を整備することを義務付ける法律も存在します(くわしくは後述します)。

これらの法律や規制を守るためにも、企業にはダイバーシティ&インクルージョンの取り組みが求められているのです。

 

ダイバーシティ&インクルージョンの具体的な取り組み

ここまで「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉の意味や、ダイバーシティ&インクルージョンを推進しなければならない背景について説明をしてきました。ここからは、ダイバーシティ&インクルージョンの具体的な取り組み方について見ていきます。

ダイバーシティ&インクルージョンの具体的な取り組み

取り組み1.多様な働き方制度の整備

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組み方の一つ目は、多様な働き方制度を整備することです。

テレワーク

コロナ禍でテレワークの制度が整備された企業も多いかと思いますが、これも多様な働き方制度の一つといえます。テレワーク制度が導入されると、従業員にとっては通勤時間の削減やワークライフバランスの改善、企業にとっては地域を問わず優秀な人材を採用できるというメリットがあるでしょう。また、テレワーク制度下ではオフィスに通勤する必要がないため、柔軟な働き方が実現できます。

フレックスタイム制度

フレックスタイム制度とは、全員が共通して働くコアタイムを設定し、その時間帯以外は自由に勤務時間を決められる制度です。これにより労働者は自身のライフスタイルに合わせて働くことができるようになります。

育児・介護の両立にむけた制度

さらには、育児や介護と仕事を両立する労働者のために、育児・介護休暇制度の拡充を図ったり、短時間勤務を認めるといった施策も有効でしょう。これらの制度を拡充することにより、企業は優秀な社員の離職を防ぐことができ、労働者も家庭と仕事の両立がしやすくなるというメリットがあります。

上記のように、多様な働き方を実現するためにできる取り組みは多岐にわたります。しかし、多様な社員がいれば、そのニーズもさまざま。上記の制度はあくまで一例であり、大切なのは自社の労働者にどのようなニーズがあるのか耳を傾け、困り事があれば解決につながるような制度を整備することでしょう。

 

取り組み2.女性の活躍推進

取り組みの二つ目は女性の活躍推進です。

国税庁による令和4年分 民間給与実態統計調査では、男性の平均年収が563万円であるのに対し、女性の平均年収は314万円と、女性の収入が男性の収入を大きく下回っている現状がわかります。また、世界経済フォーラム(WEF)による調査でも、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位であり、日本の男女格差が世界的に見ても深刻であることが示されています。

■参考:世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2024

 

世界118位の日本のジェンダーギャップ指数(2024年)

世界118位の日本のジェンダーギャップ指数(2024年)

引用:世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2024

そして、このような現状を打破し日本企業における女性の活躍推進を図るためには、下記のような取り組みが必要とされるでしょう。

 

女性活躍推進に向けた取り組み

  • 正社員における女性比率の向上
  • 産前産後休暇や育児休暇の拡充
  • 育児休暇から職場へ復帰する女性へのサポート体制の整備
  • 男性の育児休暇取得の促進
  • 女性管理職比率の向上

たとえば資生堂では、ダイバーシティ&インクルージョンの推進にあたって、社員が仕事と育児を両立できるよう、事業所内保育所の設置や保育料の補助を行い、有給が認められる子どもの看護休暇制度などを整備しています。

また、女性活躍の壁である長時間労働を是正する目的で、全社で社員のワークライフバランスの実現へ向けた働き方の見直しも進めています。

さらに、女性管理職の育成のため女性リーダー育成塾「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」を2017年から開催し、その結果として日本国内の資生堂グループの女性管理職比率は34.7%(2021年1月時点)となりました。

■参考:資生堂「ダイバーシティ&インクルージョン

 

取り組み3.障がい者雇用の促進

取り組みの三つ目は障がい者雇用の促進です。障がい者雇用の促進にあたっては、ただ障がい者を採用するだけでは取り組みとして不十分です。障がい者雇用促進法では「合理的配慮」が義務付けられており、そのために企業はさまざまな対応を取る必要があります。

たとえば以下のような対応が考えられます。

障がい者への配慮の一例

  • 周囲の物音に敏感な障がい特性を持つ社員には、イヤーマフの着用を許可する
  • 足の不自由な社員のために、段差にはスロープを設置する
  • 過集中のため疲労しやすい社員には、こまめな休息を取らせる
  • 会話が苦手で報連相が難しい社員には、定期的に報告や相談がないか上司から尋ねる
  • 注意が逸れやすい社員には、デスク周囲に間仕切りを設置するなど集中しやすい環境を整える

障がいの内容は一人ひとり異なり、障がいの強度もグラデーションのようにさまざまです。そのため、個々の障がい特性に配慮し働きやすい環境を整備することが重要でしょう。また、それが「特別対応」だと周囲の社員に不公平感を抱かせないよう、一般社員の理解を得ることも求められます。

間違った公平感で「障がいを持つ社員も一般の社員と同じように扱う」としてしまう企業もありますが、必要な配慮が得られない場合、障がい者の職場定着は難しくなります。

必要に応じてジョブコーチによる支援を受けるなど、障がい者が職場に定着しやすいよう工夫を続けていくことが大切です。

 

取り組み4.外国人労働者の雇用

取り組みの四つ目は外国人労働者の雇用です。グローバル化する市場の中で、外国人労働者が持つ価値観や考え方は、海外に進出する企業の大きな助けとなります。

とくに海外市場で成功するためには、日本人の価値観を押し付けるだけでは上手くいかず、現地の文化に寄り添うことが求められます。そこで、現地文化に詳しい外国人労働者を確保し意見を聴くことで、各国のニーズを理解し、その文化におけるタブーを避けることができるようになります。

とはいえ、企業がグローバルな競争力を手に入れるためには、ただ外国人材を採用するだけでは不十分です。採用した外国人材が社内で充分に能力を発揮し、他の社員と円滑にコミュニケーションを図れる環境整備が必要となります。

なお、外国人労働者を受け入れるための環境整備の仕方としては、具体的に次のような方法があります。

外国人労働者受け入れのための取り組み例

  • 日本人社員に向けた、異文化を理解するためのセミナーや研修の実施
  • 日本人社員と外国人社員の積極的なコミュニケーションを促す環境の整備
  • 文化の違いによる摩擦を相談しやすい体制作り
  • 価値観や文化の違いに配慮した柔軟な評価制度の策定

外国人労働者を受け入れる際は、日本人社員にとっても外国人社員にとっても「働きやすい」と感じてもらえる環境整備が必要不可欠です。企業には、これらを実現するための努力と寄り添う姿勢が求められるでしょう。

 

取り組み5.LGBTQ+への理解と対応

取り組みの五つ目はLGBTQ+への理解と対応です。日本では2024年6月現在、同性婚は法的には認められておらず、自認する性を法的に認めてもらうにもさまざまな障壁があります。

一方で、そういった法的な現状とは別に、LGBTQ+への理解と対応を進めている企業は増えつつあります。LBGTQ+への理解と対応について、具体的に見てみましょう。

LGBTQ+への取り組み例

  • 通称名の使用を認める
  • 性自認に合わせた制服の着用を認める
  • トイレや更衣室の使用方法について話し合う
  • 同性婚を異性婚と同様に受理する
  • LGBTQ+に関するセミナーや研修を実施する

身体の性と自認する性が異なる場合、女性らしい(あるいは男性らしい)本名を苦痛に感じ、自認する性に沿った通称名を使用するLGBTQ+の方は少なくありません。そうした通称名を持つ場合、社内でも通称名の使用を認めることは理解ある対応の一つといえるでしょう。

また、男女で制服が異なる会社の場合、性自認に合わせた制服の着用を認めることも、LGBTQ+当事者の苦痛を和らげる一つの方法になります。とくにトイレや更衣室は、社内の設備上、配慮が難しい場合もあるかもしれませんが、代わりに多目的トイレを設置したり更衣室に間仕切りを設置したりするなど、柔軟に方法を検討するとよいでしょう。。

さらに、近年は社員の結婚時にお祝い金を用意したり、特別休暇を与えている企業も少なくありませんが、その対象を同性婚(同性パートナーの正式申請)まで広げる対応をとっている企業も増えてきています。

なお、上記のように、企業としてLGBTQ+への理解を示すことも確かに大切ですが、何より大切なのは周囲からの理解です。LGBTQ+に関する理解や受容度は現状、個々人によって大きく異なります。LGBTQ+当事者が社内で不利益を受けないよう、周囲の理解を促していくことは何よりも重要なポイントとなるでしょう。

 

ダイバーシティ&インクルージョンの問題点

実際にダイバーシティ&インクルージョンを推進していく中で、問題にぶつかってしまうことは少なくありません。ここからは、ダイバーシティ&インクルージョンを推進していく中で考えられる問題点について解説をしていきます。

ダイバーシティ&インクルージョンの問題点

問題点1.ミスコミュニケーション

日本人同士ですら、言葉のニュアンスや表現、方言等によって意図したコミュニケーションでなくなってしまう場面もあります。国籍の異なる人同士では、お互いの文化や価値観が異なるために、発言者が意図した意味とは違う意味で相手に受け取られてしまうこともあるでしょう。

とくに、多数の従業員を抱え、さまざまなバックヤードを持った人が集まると、こういったミスコミュニケーションがより発生しやすくなるのはごく自然なことといえます。

とはいえ、ミスコミュニケーションによって情報共有が上手くいかなくなると、業務効率が下がり生産性の低下につながってしまうのは事実。企業として、異文化への理解を深めるための研修や、日常的に社員同士のコミュニケーションを促進する工夫が必要となるでしょう。

 

問題点2.組織の混乱を招く恐れがある

ダイバーシティ&インクルージョンを推進していく中では、多様な社員を採用するために採用環境が変化したり、新たに雇用した多様な社員に対応するため労働環境が変化したりします。これにより、従来から雇用されていた社員の中に混乱が生じる恐れがあります。

たとえば、ダイバーシティ&インクルージョン推進のために外国人労働者を積極的に採用するようになった結果、様々な国籍や文化的背景を持つ社員が増えることになったケースを考えてみましょう。長年にわたり日本人労働者だけの環境で働いてきた日本人社員にとっては、これが急激な環境の変化に感じられ、戸惑いや不安が生まれてしまう人も中にはいるでしょう。

そうした場合、組織運営に対して不安や疑念が生じたり、不公平感を抱いたりする可能性は否定できません。会社に対するロイヤリティが低下し、生産性の低下や離職率の増加へとつながる可能性も考えられるでしょう。現場社員の声に耳を傾けながら、必要に応じて理解を促す研修を行うなど、混乱を最小限に留める工夫が必要です。

 

問題点3.無意識の偏見が起きる可能性がある

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは、社会的に評価されるものです。しかし、そのこと自体は多くの日本人が理解をしているものの、実際に自分とは異なる背景を持つ人々を目の前にした時、自分と対等な一人の人間として相手を尊重することは簡単なことではありません。

たとえば、年齢の違いによる偏見が例として考えられます。若手社員が新しいアイデアを出した際に、ベテラン社員がそれまでの経験に基づいてそれを簡単に否定してしまうという場面は少なくないのではないでしょうか。若い社員だからと軽んじてしまうことも偏見のひとつです。「若いからこそ斬新なアイデアが出せるのではないか」という視点を持つことがベテラン社員には求められます。

多様な人材を採用する前にどれほど社内でセミナーや研修を行ったとしても、完璧に理解をし、100%受け入れることは不可能です。個人レベルで、無意識に偏見や差別を拭い去れない人もいるでしょう。

とはいえ、無意識の偏見が拭いきれない状態が続いてしまっては、ダイバーシティ&インクルージョンの効果はあまり期待できるものではなくなってしまいます。人と人とが理解しあうには、多くの対話が必要です。組織が上手く回っていないと感じる時には、社員同士のコミュニケーションを促すような仕組み作りを行っていくとよいでしょう。

 

ダイバーシティ&インクルージョンに関する制度や法律

ダイバーシティ&インクルージョンの推進にあたっては、関連する制度を活用したり、法律に沿って進めていくことが多くあります。そこでここからは、関連する6つの制度と法律についてご紹介します。

①くるみん

「くるみん」は、子育てサポート企業として、厚生労働大臣の認定を受けた企業が取得できるマークです。

従業員の仕事と子育ての両立を支援する取り組みを行っている企業が対象となり、たとえば男性の育児休業取得率の向上や残業時間の削減などの取り組みなど、一定の基準を満たした企業がこの認定を取得できます。

またこの認定を受けることで、企業イメージの向上をはじめ、イメージアップによる優秀な人材の確保にもつながることが期待できます。また認定マークを商品、広告、求人広告などにつけることで、子育てサポート企業であることをPRすることもできます。 なお、くわしい審査基準については下記リンクをご覧ください。

■参考:くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて |厚生労働省

 

②女性活躍推進法

女性活躍推進法は、正式には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」といい、女性の職業生活における活躍を推進するための法律です。働きたくても思うように働けず困っている女性の存在や、諸外国と比較して女性管理職の割合が少ない日本の現状を改善するために、このような法律が定められました。

なお、この法律では従業員101人以上の企業に対し、女性の活躍に関する行動計画の策定と情報公開を義務付けています。具体的には、管理職に占める女性の割合や、男女の平均勤続年数の差異などの現状分析を行い、それに基づいた目標設定と取り組みの計画を立てることが必要です。

■参考:女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)|厚生労働省

 

➂障害者雇用促進法

障害者雇用促進法は、障害者の雇用機会の確保と職業の安定を図ることを目的とした法律です。2024年6月現在においては、2.5%以上の障害者雇用率が義務付けられています。

これはつまり、従業員を40人以上抱えている民間企業は、障害者を1人以上雇用しなければならないということです。また、2026年7月には雇用率2.7%(※37.5人以上の企業が対象となる)まで引き上げられることが決まっているため、対応を迫られている企業も少なくありません。

また、この法律では障害者の雇用に加えて、障害者の特性に応じた職場環境の整備や、職業能力の開発・向上に関する措置を講じることが求められます。

■参考:障害者雇用促進法の概要 |厚生労働省

 

④高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法は、高年齢者の雇用の安定と就業の促進を図ることを目的とした法律です。65歳までの雇用確保措置(義務)と70歳までの就業機会の確保(努力義務)が定められています。

具体的な措置としては、70歳までの定年引き上げをはじめ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入、70歳まで継続的に業務委託契約や社会貢献事業へ従事させる制度の導入などが挙げられます。

■参考:高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~|厚生労働省

 

⑤外国人の雇用

近年は、日本における労働人口の減少やグローバル化が進んでいることを背景に、外国人の雇用を行う企業が増えてきました。

外国人の雇用に関しては、出入国管理及び難民認定法(入管法)に基づき、在留資格の範囲内での就労が認められています。また、外国人雇用状況の届出や雇用管理の改善等に関する指針の遵守が求められます。

参考外国人の雇用 |厚生労働省

 

⑥パートナーシップ制度

パートナーシップ制度は、同性カップルなどを婚姻に相当する関係と認める制度で、多くの自治体や民間企業で導入されている制度です。法的な効力はありませんが、行政サービスの利用や民間サービスの適用などで便宜が図られることがあります。

また、こうした制度を民間企業で取り入れることにより、多様な人材を受け入れる企業風土を醸成するだけでなく、企業イメージの向上も期待できます。

 

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む上でのポイント

ダイバーシティ&インクルージョンを推進するには、組織全体で取り組むことが重要です。ここでは、効果的に推進するためのポイントを3つご紹介します。

ポイント①経営陣のコミットメントとリーダーシップ

ダイバーシティ&インクルージョンの推進には、経営陣の強いコミットメントとリーダーシップが必要不可欠です。経営陣がこれらの重要性を理解し、積極的に取り組む姿勢を従業員に示すことが、ダイバーシティ&インクルージョン推進を成功させるためのカギといっても過言ではありません。

また、経営陣の姿勢を示す方法としては、たとえば経営計画にダイバーシティ&インクルージョンの推進を明記したり、経営陣自らが社内外で積極的に発信したりする方法があります。こうすることで、組織全体の意識改革も確実に進んでいくでしょう。

 

ポイント②従業員教育とトレーニングの実施

ダイバーシティ&インクルージョンを浸透させるには、全従業員の理解と協力も必須です。経営陣だけで意識を高く持っていても、従業員が置き去りになっていては浸透していくはずがありません。

そして従業員の理解や協力を得るためには、定期的な従業員教育とトレーニングを実施する方法があります。たとえば、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する研修や、多様性を尊重するコミュニケーションスキルの向上を図るワークショップなどが効果的でしょう。

また他にも、eラーニングなどを活用しながら、継続的な学習機会を提供することも有効です。

 

ポイント③職場環境の整備

多様な人材が活躍できる職場環境を整備することも、ダイバーシティ&インクルージョン推進の重要なポイントです。ハード面とソフト面の両方から、誰もが働きやすい環境づくりを進めていけるといいですね。

たとえば、ハード面では、バリアフリー化や多目的トイレの設置などが挙げられます。ソフト面では、フレックスタイム制やテレワークの導入、メンター制度の充実などが効果的です。また、多様性を尊重する組織文化の醸成を築いていくことも大切です。

なお、職場環境の整備にあたっては、ITツールを活用するのも一つの有効な手段です。マニュアル管理ツールを活用して外国人労働者向けの動画マニュアルを整備したり、ダイバーシティ&インクルージョンに関する学習コンテンツを用意したり、工夫次第で多角的に活用できるでしょう。

 

ダイバーシティ&インクルージョンに関する企業事例

それでは最後に、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に積極的に取り組んでいる企業の事例をご紹介します。これらの事例を参考に、ぜひ貴社の取り組みをイメージしてみてください。

野村グループ

野村ホールディングスは、「ダイバーシティ&インクルージョン推進委員会」を設置し、多様な人材が活躍できる環境づくりと企業価値の向上を目指し、全社的な取り組みを進めています。

なかでも女性の活躍推進にはとくに力を入れており、野村證券では、4つの方針(1. 女性社員一人ひとりのやりがい・働きがいの向上、2. 女性社員自らのリーダーシップの発揮、3. 管理職のダイバーシティ・マネジメントの強化、4. 柔軟な働き方を可能とする環境整備の促進)のもと、育成と環境整備を図っています。具体的には下記のような取り組みが行われています。

野村グループにおける女性活躍推進の取り組み

  • 女性の活躍推進に向けた行動計画
  • 女性活躍推進に関する認証等の取得
  • メンターとして、女性管理職を支援する立場にある管理職向けにメンタリング研修の実施
  • 女性上級管理職向けコーチング・プログラムの実施
  • 女性リーダー育成のためのメンタリング・プログラムの実施
  • 女性社員のキャリアを支援する研修
  • 育児と仕事の両立に関わるセミナーの開催

■参考:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI) | NOMURA

 

トヨタ自動車

トヨタ自動車は、ダイバーシティ推進を重要な経営戦略のひとつとして位置づけ、多様な人材が働きがいを持って活躍するための取り組みを推進しています。

とくにLGBTQ+などの性的マイノリティに関するダイバーシティ・マネジメントの促進と定着を支援する任意団体「work with Pride」が策定する「PRIDE指標2022」においては、「ゴールド」、「ベストプラクティス」を受賞するなど、外部からも高い評価を得ています。

そんなトヨタ自動車が取り組むダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは、次のとおりです。

トヨタ自動車における取り組み

社会への取り組み

リサイクル素材の活用推進、紙カタログの廃止、トヨタ博物館の開催など

両立者への取り組み

時短勤務、事業所内託児所、育児休職・産後パートナー育休、不妊治療休暇・休職、在宅勤務、キャリア・カムバック制度、妻の出産休暇、​産前産後休暇

障がいのある方への取り組み

相談窓口の設置、社内理解促進、定着・活躍支援施策

LGBTQ+への取り組み

相談窓口の設置、社内理解促進、職場環境整備

■参考:ダイバーシティ&インクルージョン|トヨタの環境|新卒採用情報|トヨタ自動車株式会社

 

日本航空(JAL)

日本航空(JAL)では、すべての社員が多様性を尊重し、それぞれの個性を活かして、いきいきと活躍できる企業を目指しダイバーシティ&インクルージョンを推進しています。

とくにダイバーシティ&インクルージョンに取り組む企業を認定・表彰する日本初の表彰制度である「D&I Award」においては、2021年度に最高評価の「ベストワークプレイス」を獲得。他にも多数のアワードにおいて高い評価を得ています。

そんな日本航空が実施するダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは、具体的に次のとおりです。

日本航空(JAL)における取り組み

  • 女性リーダーの育成と輩出
  • グローバル人財の育成
  • LGBTQへの理解促進
  • 障がいのある社員の活躍推進
  • シニア社員の再雇用

なかでも、「D&I Award賞」受賞時においては、空港や機内でのジェンダーニュートラルな英語アナウンスの導入をはじめ、障がいのある社員が働くネイルルームの社内開設や社員の意識改革勉強会の実施が評価ポイントとなりました。

■参考:DEI|サステナビリティ|JAL企業サイト

 

まとめ

企業が社会的責任を果たすための取り組みとして急務とされているダイバーシティ&インクルージョン。これはもはや、企業の持続的な成長と競争力強化に不可欠な要素といえるでしょう。

しかし、その実現には様々な課題があることも事実です。コミュニケーションの齟齬や組織の混乱、無意識の偏見など、克服すべき課題は少なくありません。これらの課題をクリアにするには、経営陣のリーダーシップのもと、全社的な理解と協力が欠かせないでしょう。

本文では、具体的な課題をあげて対策方法をくわしくご紹介しましたので、ぜひダイバーシティ&インクルージョンに取り組む際の参考にしていただけますと幸いです。

著者
『shouin+ブログ』マーケティング担当
人材育成クラウドサービス「shouin+」のマーケティング担当です。人材育成のお役立ち情報やトレンドをはじめ、企業の人事・研修担当の方向けに社内教育や研修のノウハウを発信しています。

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