従業員エンゲージメント向上に効果的な施策10選!具体的な企業事例も紹介
継続的な組織の成長、生産性の向上、経営戦略の実現……すべての成功のカギを握るのは「優秀な人材」です。しかし、いまは人手不足と言われる時代。人材の流動性が高く、多くの企業が従業員の離職や育成に日々悩まされています。
そこで注目を浴びているのが「従業員エンゲージメント」です。本記事では、従業員エンゲージメントを向上させる施策について解説しています。具体的な企業事例や、施策の成功率を上げるポイントなどもご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントとは、従業員が「自ら企業に貢献しようとする意欲」のこと。エンゲージメントが高いほど、従業員がいきいきと働けている、働きがいのある職場であると判断できます。
従業員エンゲージメントが高まると、従業員が持つ本来の能力が発揮され、組織の生産性が上がります。また、自ら考えて行動する従業員が増えることから、組織の成長・発展も期待できます。
定着率の向上にも繋がるため、労働力不足と言われる現代において重要な指標だと考えられています。
従業員満足度との違い
従業員満足度とは、従業員が「組織・企業や仕事に対し、どれほど満足しているか」を表す指標です。従業員エンゲージメントと混同されやすいですが、2つは異なるものです。
『エンゲージメント経営』という書籍にて、著者の柴田彰氏は以下のように解説しています。
社員満足度は、「社員が会社に満足しているか?」という社員から見た一方的なものなのに対して、社員エンゲージメントは会社と社員の双方的な関係を問うものである。
引用元:柴田彰(2019)『エンゲージメント経営』日本能率協会マネジメントセンター
従業員満足度は、企業に対する従業員の「評価」であるのに対し、従業員エンゲージメントは企業と従業員の「関係性」を示すものです。企業は従業員に、意欲的に働ける環境と充実した生活を提供し、従業員は企業の利益に貢献するというwin-winの関係が築かれてこそ、従業員エンゲージメントが高いと認められます。
また従業員満足度では、従業員が満足することをゴールとしますが、従業員エンゲージメントでは自発的・意欲的に働けるようにすることを目指します。「仕事や会社に不満はないが、やる気もない」という状態では、従業員エンゲージメントが高いとは言えません。
企業の継続的な成長には、従業員の自発性、積極性、クリエイティブ性が必要不可欠です。よって、予測不可能な時代と呼ばれる近年は、従業員満足度よりもエンゲージメントの向上を目指す傾向にあるのです。
従業員エンゲージメントを高める9つの要素
従業員エンゲージメントを高める方法は多岐に渡ります。自社の状況に合わせて適切な施策を選ぶには「基準」が必要です。
そこで指標となるのが、『組織の未来はエンゲージメントで決まる』という書籍にて紹介されている9つのキードライバーです。
職務
ひとつめのキードライバー「職務」は、従業員が自分の仕事に満足しているか、やりがいを感じているかを示すもの。興味のある仕事、自分のキャリアに役立つ知識・スキルが得られる仕事を与えられた従業員は、エンゲージメントが上がる傾向にあります。
反対に「仕事内容に興味が持てない」「キャリアに役立つとは思えない」と感じた場合は、従業員エンゲージメントが下がりやすいです。仕事内容に限らず、責任の大きさや仕事量が従業員の能力に見合っていない場合も、やる気が失われやすいでしょう。
自己成長
「自己成長」は、従業員が自身の成長を実感しているか、成長の機会を与えられているかを示す要素です。
この要素を満たす方法としては、社内研修の実施や、セミナー参加の提案などが挙げられます。また、キャリアアップのサポートや、新しい職務を与えることも有効な施策と考えらえます。
健康
従業員がやりがいを実感するには、肉体的・精神的に健康であることも重要です。
「健康」に関するエンゲージメント指数が低い場合は、業務効率化や労働時間の短縮といった対策が必要になります。また、何がストレスとなっているのか原因を探ることも大切です。
支援
「支援」は、組織から必要なサポートが受けられているか、組織が支援してくれているという実感があるかなどを示す要素。キャリア形成のサポートや、仕事での悩みや不安を解消するような取り組みを行うことで、支援に関する従業員エンゲージメントが高まると推測されます。
人間関係
人間関係さえ良ければエンゲージメントが上がるというわけではないですが、重要な要素であることに変わりありません。「従業員同士の問題だから」と放置すると、組織内のチームワークが崩れるほか、離職率が上がる可能性があります。
人間関係に関するエンゲージメントが低い場合は、従業員同士のコミュニケーションが増える仕組みづくりや、各リーダーのコミュニケーションスキルの向上といった施策が効果的です。
承認
「承認」は、周囲から認められていると感じるかを示す要素です。指示やミッションが与えられるばかりで成果を認めてもらないといった状況では、モチベーションが下がるのも必然と言えます。
承認に関する従業員エンゲージメントが低い場合は、評価制度の見直しなど、従業員の能力や成長を適切に評価するシステムの整備が必要でしょう。
理念戦略
企業のビジョンや戦略を理解・共感しているかどうかも、従業員エンゲージメントを高めるうえで重要です。ビジョン・戦略に賛同できなければ、貢献したいという感情が沸かないからです。
従業員が「組織の一員として、共にゴールを目指したい」と思えるビジョン・戦略を提示すること、そして、内容を理解してもらうために工夫することが重要だと考えられます。
組織風土
組織風土が従業員に合っていることも、エンゲージメントを上げる条件のひとつです。
例えば、一部の従業員は新しいことにチャレンジする意欲が高く、大多数の従業員は変化を嫌うといった職場では、前者のエンゲージメントは下がります。そのような環境は、チームワーク力の低下および生産性の低下を招くため、ビジョンの見直しや明確化、組織改革などを行って対策する必要があるでしょう。
環境
給与や福利厚生、労働条件、勤務体制など、労働環境も重要な要素です。これらが不適切だと「仕事自体は好きだが、職場に不満がある」という状態になり、従業員エンゲージメントが下がる恐れがあります。
反対に、労働環境の改善によってエンゲージメントが高まるケースもあります。ほかの施策の効果を挙げるためにも、基本から見直すことが大切です。
従業員エンゲージメント向上の施策例
ご紹介した9つのキードライバーをベースに、自社に適した施策を考えます。主な例を挙げますので、施策のアイデアが浮かばず悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
施策①組織ビジョンの提示・浸透
従業員の「企業に貢献したい」という意欲を高めるためには、組織の意思を示す必要があります。企業が何を目指しているのか理解するだけでも、一部の従業員のエンゲージメントが上がる可能性があります。
よって、エンゲージメント向上施策のひとつとして、ビジョンの明確化およびビジョンの浸透が挙げられます。
現在の企業の状況を把握し、将来どのような姿になりたいのか改めて確認しましょう。また、従業員のビジョンに対する理解度の調査も必要です。理解度が低い場合は、ミーティングや研修など、説明の機会を設けましょう。
施策②目標管理制度の整備
目標管理は、「支援」や「自己成長」に関する従業員エンゲージメントを高めるのに効果的な手法です。目標設定、進捗確認、達成に向けてのサポートを行うことで、従業員は「組織が支援してくれている」と実感できます。そして、目標を達成した際は、自身の成長を感じることができるでしょう。
目標管理の効果を高めるため、目標の立て方や目標管理手法など、制度の内容や方針を改めて見直す必要があります。また、各従業員の個人目標を適切に管理できるよう、マネジメント層への教育も実施しましょう。
施策③評価制度と報酬の見直し
目標管理制度と併せて、評価制度の見直しも必要です。目標達成に対する評価が低かったり、報酬が不釣り合いだったりすると、「承認」における従業員エンゲージメントが下がる恐れがあります。
また、従業員が評価に納得できるよう工夫することも大切です。評価制度の基準を見直しつつ、どのような理由で評価したのか説明する機会を設けましょう。
施策④職務内容の見直し
従業員が働きがいを感じるには、職務と能力がマッチしていることが重要です。仕事が能力に合っていないと、精神的ストレスを感じたり、手ごたえがなくモチベーションが下がったりする恐れがあります。
従業員の能力や経験、仕事に対する考えなどを調査し、改めて職務内容が適切か見直しましょう。
職務を決める際は、興味がない分野だからといって安易に除外するのではなく、能力の適性と将来性を見て判断することがポイントです。はじめは居心地が悪くても、困難を乗り越え、成長を実感することで「やりがい」を感じられる可能性があるからです。
また、企業側が一方的に決めるのではなく、従業員と話し合いながら進めることが重要です。本人の意見と企業の考えを擦り合わせることで、職務に対する満足度が上がるでしょう。
施策⑤ワークライフバランスの向上
プライベートの充実度も、従業員エンゲージメントに関係する要素です。そのため、ワークライフバランスの見直しも必要だと考えられます。
例えば、「プライベートの時間を楽しむ余裕がない」「自己投資の時間を確保できない」といった意見が挙がった場合は、労働時間の短縮や業務負担の軽減などの施策を講じる必要があります。反対に「私生活が忙しく、働きたいのに働けない」というような意見がある場合は、雇用制度や勤務体制を改善すると良いでしょう。
従業員にアンケートを取り、どのような働き方を求めているのか探ることが大切です。
施策⑥業務効率化
ワークライフバランスを保つためには、業務効率化が欠かせません。業務効率が悪いと労働時間が長くなり、肉体的・精神的な負担を与えてしまうからです。業務プロセスや作業環境などをチェックし、無駄を改善しましょう。
なお業務効率化は、従業員を巻き込みやすい取り組みのひとつでもあります。どうすれば生産性が上がるのか、従業員と共に考えることで自発性の向上も促せるでしょう。
施策⑦サービスクオリティの向上
仕事にやりがいを感じるということは、自分の仕事に誇りを持つことです。顧客や社会に価値を提供できているという実感が意欲を高めます。
このことから、サービスクオリティの向上も、エンゲージメント向上に効果的な施策だと言えます。そして、そのための時間と労力を確保するためにも、業務効率化が必須です。ムダを無くして、商品やサービスの価値を高めること、企業の価値を高めることに資源を投資しましょう。
施策⑧キャリア形成を支援する仕組みづくり
いまはキャリアを会社に委ねるのではなく、自分で職業や勤務先を選ぶ時代です。従業員が「ここではキャリアアップできない」と感じたら、モチベーションが下がるだけでなく、離職する恐れもあります。
自社で成長していきたいと思ってもらうには、自社でのキャリアプランの提示と、それを実現するサポートシステムの構築が必要です。キャリアに関する教育やミーティングなどを実施し、ここで働き続ける未来が見えるような支援を行いましょう。
施策⑨1on1ミーティングの実施
人間関係や支援に関する従業員エンゲージメントの向上には、1on1ミーティングの実施が効果的です。上司と部下が1対1で定期的に話し合う場を設けることで、お互いを深く知ることができ、信頼関係が強化されます。
1on1ミーティングは、キャリア形成について共に考える時間として活用することもできます。また、目標管理や人事評価のサポート、説明、ビジョンの浸透などにも活用可能です。1on1ミーティングを上手く活用することで、ほかの施策の成功率も高まるでしょう。
施策⑩チーム内外のコミュニケーション活性化
リモートワークの導入などにより、従業員同士のコミュニケーションが希薄になりつつあるという企業も少なくありません。会話が減ると人間関係が悪くなりやすいうえに、業務効率も低下します。
よって、社内のコミュニケーション活性化も、エンゲージメントを高める取り組みとして必要だと考えられます。従来の情報共有システムが現在の環境に適していないのであれば、改善する必要があるでしょう。チーム内だけでなく、部署や部門の壁を越えた交流の機会も設けることで、組織全体のコミュニケーションが活性化されるでしょう。
エンゲージメント向上に取り組む際のポイント
従業員エンゲージメントを高める方法はさまざまですが、どの施策を実施するにしても「エンゲージメント調査」と「目標・目的の明確化」は欠かせません。また、マネジメント層への教育も、施策の効果を高めるポイントとなります。詳しく見ていきましょう。
ポイント①エンゲージメント指数の調査・可視化
闇雲に施策を打っても上手くいかないことがほとんどです。自社に必要な取り組みを見極めるには、現状を正しく把握する必要があります。
自社の従業員の貢献意欲はどれほどか、何に不満を抱いているのか、何にやりがいを感じているのかなど、調査を通じて「感情」を可視化することで、課題と強みが見えてきます。そして、データを分析して原因を突き止めることにより、自社が実施すべき施策の方向性が定まるでしょう。
調査方法は多岐に渡りますが、近年はデジタルツールを使った社内サーベイが一般的です。エンゲージメントの数値化が可能な方法で、施策の実施前と後で比較しやすいのがメリットです。
従業員に直接インタビューする方法もあります。こちらは、従業員の考えを深く調査できるのがメリットです。また、対面でコミュニケーションをとることによる人間関係の構築、企業に対する信頼度の向上も期待できるでしょう。
ただし、インタビュー方式はデータ化が難しいため、ツールを使った調査と組み合わせて行うのが良いでしょう。
ポイント②目的と目標の明確化
従業員エンゲージメントの向上には、組織全体の協力が必要です。しかし、理由がわからなければ人は動きません。
そのため、施策を講じる際は目的を明確にすることが大切です。組織の成長を目指しているのか、人材の流出を防ぎたいのか。何のためにエンゲージメント向上に取り組むのかを明らかにし、従業員に示しましょう。
また、施策の効果を正確に把握するため、目標の設定も必要です。調査したエンゲージ指数をもとに、誰もが正しく理解できるゴールを設定しましょう。
ポイント③マネジメント層への教育
日常業務で従業員と関わる機会が多いのは、マネジメント層です。マネジメント層のリーダーシップが、従業員エンゲージメントを左右すると言っても過言ではありません。
よって、エンゲージメントの向上に取り組む際は、マネジメント層への教育も必要です。例として、以下のような教育内容が挙げられます。
- 従業員エンゲージメントに関する知識
- リーダーシップスキル
- マネジメントスキル
- コミュニケーションスキル
- 心理的安全性に関する知識 など
従業員エンゲージメントについて深く理解し、企業の意思に賛同するリーダーが増えることで、施策の成功率が上がると考えられるでしょう。
エンゲージメント施策の企業事例
エンゲージメントの向上に成功した企業は、具体的にどのようなことを行ったのでしょうか。施策の具体案が思いつかず悩んでいる方は、下記の4つの事例を参考にしてみましょう。
事例①株式会社ギフトモール
ギフトECサイトの運営する「株式会社ギフトモール」。当社は、従業員の日々の業務をサポートし、不安を解消する施策として「クレーム対応の予算」の付与を行っています。
破損品の再送や代替品の発送など、クレーム対応に費用がかかるときは、上司や管理部門などに指示を仰ぐのが一般的です。しかし、当社はカスタマーサポートメンバーが、割り当てられた予算を使って自分で判断・対応できる仕組みです。
上司や本部からの返信を待つ必要がなく、顧客と担当者、双方のストレスが軽減されるのがメリットです。また、自分で判断し、行動できる環境をつくることで、従業員の自主性も育めます。
従業員に権限を与えることは「トラブルに繋がるのでは」と不安に思うものです。しかし、この事例を見ると、従業員の不安解消、サービスクオリティの向上、責任を担うことによる「やりがい」と、権限の付与はさまざまなメリットをもたらす取り組みだと言えるでしょう。
■参考:「新居佳英、松林博文(2018)『組織の未来はエンゲージメントで決まる EPUB版』英治出版株式会社」
事例②株式会社ホワイトプラス
ネット宅配クリーニングサービスの事業を営む「株式会社ホワイトプラス」。当社は、従業員エンゲージメント向上のため「感謝箱」制度を導入しています。
当制度は、仲間の行動に対する感謝のメッセージを1カ月ごとに投稿、集計し、レターにまとめて個人に渡されるというもの。会社から個人へではなく、チーム内の仲間同士で感謝を送り合うシステムにすることで、人間関係の改善に役立てています。
また、従業員に投稿を促すため、月末に感謝メッセージを書く時間を設けています。参加率が高まるほか、時間外労働によるモチベーションの低下も防げる工夫です。
こちらの事例のように、一見シンプルな手法にも組織風土を変えるほどのパワーがあります。大胆な取り組みばかりにこだわらず、柔軟に考えることが大切です。
■参考:「新居佳英、松林博文(2018)『組織の未来はエンゲージメントで決まる EPUB版』英治出版株式会社」
事例③コネクシオ株式会社
携帯電話の卸売りや販売を行っている「コネクシオ株式会社」。当社は組織活性化を図り、外部企業によるコンサルティングを導入しました。
経営層を巻き込み、従業員エンゲージメントの向上を人事戦略に取り入れた当社。共に進めたことで、トップと人材開発部の連携が強化され、エンゲージメントに対する経営者の考えも変化したそうです。
また、経営層および管理職者へのワークショップを実施したことも、エンゲージメントに対する理解度向上に繋がったのだそう。重要性に「気づかせる」ことが、組織の行動を促した事例です。
■参考:「変化・チャレンジするために、経営層を巻き込んだ組織風土改革~エンゲージメントを高め、双方に貢献し成長し合う組織をつくる~」 株式会社NEWONE
事例④株式会社ハンナ
「株式会社ハンナ」は、一般貨物の運送事業を営む企業。当社は3代目の社長就任時、従業員と経営陣の価値観にズレが生じたことをきっかけに、ワークライフバランスを重視する経営へとシフトしました。
人事の抜本的な見直しを行い、採用では「会社のビジョンや価値観に共感できるかどうか」をチェック。入社後は、社長や取締役が中心となって定期面談を行い、経営陣と従業員が直接話せる機会を設けました。
その結果、やりがいを感じて働く従業員が増加。口コミなどで評判が広がり、入社希望者も増えたのだそうです。
■参考:「株式会社ハンナ - 働き方・休み方改善ポータルサイト」厚生労働省
まとめ
従業員エンゲージメントは、常に変動するものです。会社の状況や個人の状況によって上下します。
そのため、定期的に調査を行い、その都度適切な施策を打つことが大切です。本記事にてご紹介した例を参考に、従業員と企業の双方に利益をもたらす改善策を見つけましょう。