従業員の企業に対する貢献意欲や業績の向上につながるため、従業員エンゲージメント向上は経営における重要課題の1つとして捉えられています。
エンゲージメントが低い企業では、離職率が高く優秀な人材が流出してしまう、従業員がやりがいを感じられておらず、これが生産性の低下を招くなど、さまざまな問題が生じる傾向がみられています。だからこそ企業はエンゲージメントを高める取り組み、施策を講じることが重要です。
この記事では、エンゲージメントスコアとはなにか、測り方やスコアを高める方法を知りたい人事・教育担当者に向けて、エンゲージメントの意味や従業員満足度との違い、エンゲージメントを高めることのメリット、高めるための方法などを解説します。
「エンゲージメント(engagement)」とは、英語で「約束、契約、婚約、雇用」を意味します。従業員の会社に対する愛着心や思い入れといった意味です。熱意や活力など個人の意欲が組織へ業務へとどれほど向かっているのかを測定したものです。「個人と組織が対等の関係で、互いの成長に貢献し合う関係」のことを指すとされています。
書籍「組織の未来はエンゲージメントで決まる」によると、エンゲージメントの定義とは、「従業員の一人ひとりが企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲」であると記述されています。
エンゲージメントは、この企業で働くことが自己の成長につながっているか、やりがいはあるか、承認を得られているか、方針に納得できているか、組織と業務に対する個人の感じ方を評価します。従業員が自ら目標を見出して設定して、努力しやり遂げることで得られる達成感や正当な評価といった動機付けが重要になります。
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従業員満足度とは、給与・福利厚生・業務内容・人間関係などの報酬や待遇、仕事環境に対する満足度を定量化したもので、「その会社の従業員であることにどのくらい満足しているか?」を表す指標です。
従業員満足度とエンゲージメントでは、それらが向上することが「企業の業績向上に直接つながるかどうか」という点で相違があります。
たとえば、福利厚生や労働環境改善といった施策を講じたことによって会社の待遇には満足はしているけれど、売上向上に自発的に貢献したいとは思っていない、やりがいをもって取り組んでいる状態ではないという場合は、従業員満足度が高いがエンゲージメントは低い状態といえます。
「エンゲージメント」が注目される背景として、エンゲージメントが人的資本における開示項目に該当することが考えられます。
日本においては、2022年8月31日に金融庁から「2022事務年度金融行政方針」が公表されて、2023年3月期からは、有価証券報告書においてサステナビリティ(持続可能性)情報の記載欄が設けられ、人材育成の方針や目標など人的資本情報開示を義務付ける(※)方針が示されました。
2022年8月に政府は「人的資本可視化指針」の中で、人的資本の開示項目を「人材育成」「エンゲージメント」「流動性」「ダイバーシティ」「健康・安全」「労働慣行」「コンプライアンス」の7分野にわたって示しています。
※開示の義務の対象となるのは、金融商品取引法第24条における「有価証券報告書」を発行する約4,000社の大手企業(上場企業)
引用:内閣府「人的資本可視化指針」
実際に、日本企業において開示された人的資本情報におけるKPIには以下のようなものがあります。
エンゲージメントスコアとは、企業と従業員の間にある相互理解度や愛着心を定量化したものです。従業員が企業のビジョンや目標に共感し、業務に取り組む意欲や生産性が高いことを示す指標です。
エンゲージメントスコアを測り、活用することで、会社と従業員の間の関係性の状態を定量的に把握することができます。測定結果から、エンゲージメントスコアを高めるために必要な対策を考えて実行することができるようになります。
経済的な低迷が長く続いていることや労働人口の減少にともなう生産性の低下など、社会情勢の変化により、日本で長らく続いていた終身雇用制度は崩れつつあります。
成果主義の報酬制度に移行する企業が増えるなか、従業員側の働き手の意識にも変化が起きて、より好待遇で迎えてくれる企業、より自分に合った企業へと転職するケースはいまは珍しいものではなくなりました。
少子高齢化が進む中で、多くの企業は人手不足に悩まされていますが、自社の優秀な人材が離職してしてしまうのを防止するには、従業員との間にあるエンゲージメントを築いておくことが大切です。
私たちの置かれている経済環境の変化は大きく、企業はこの変化にに対応することができる強い組織をつくることが求められています。企業は、自社の状態を適切に把握するとともに、目指す組織をつくるために必要なアクションをスピーディーに実行することができるような体制を築いておかなければなりません。このため、日本においても、今エンゲージメントスコアの注目度が上がっています。
従業員エンゲージメントが高まることは、企業と従業員にさまざまなメリットをもたらし、最終的には企業の業績アップにもつながります。
エンゲージメントスコアの高い企業のメリットとして、離職率が低いことがあげられます。これは企業側からみた大きなメリットです。
アメリカの経営・人事コンサルティング会社CEB社はエンゲージメントの高さと離職率との関係について調査結果を発表しています。
調査結果ではエンゲージメントの高い企業の従業員が1年以内に離職する可能性は1.2%、エンゲージメントの低い企業の従業員では9.2%と大きな差が生じています。
従業員エンゲージメントが高い企業で働く従業員の多くは、企業の理念に共感し、与えられた業務へのやりがいも見出していて、「企業に貢献したい」「この企業で長く働きたい」と考えています。このため職場に対する不満やストレスも少なく、結果として離職につながる可能性も低くなるのです。
エンゲージメントが高い企業の従業員は、単に待遇に満足しているだけでなく、その企業で働くことに意味を見出しています。エンゲージメントを高めることによって、優秀な人材が離職するリスクを軽減できれば、職場はつねに高いパフォーマンスを維持できるでしょう。
米国CEB社の調査を元に弊社で作成
エンゲージメントスコアの高い企業のメリットには、生産性の向上があります。
従業員エンゲージメントが高い企業の従業員は、業務へのモチベーションが高く、自発的に行動する傾向が強いといえます。自社のビジョンや進もうとしている方向性が浸透しており、従業員はこれに共感して、組織の目標達成に向けて、自分にできることは何か、自分は何をすべきかを自発的に考え、行動しようと前向きで意欲的です。
このような積極的に取り組む姿勢は従業員の生産性の向上につながります。
さらには業務の成果物の質の向上にもつながって、顧客満足度が高まり、それが従業員のさらなる誇りにつながるというように、好循環を生み出せるのです。
米国ギャラップ社の調査を元に弊社で図を作成
エンゲージメントスコアの高い企業では、離職率が下がり、優秀な人材の定着率もアップします。
従業員一人ひとりのパフォーマンスが上がり生産性が向上することで、新たな人材の確保に動く必要がなくなり、採用コストの削減にもつながります。
日本の労働市場はいま人手不足が喫緊の問題となっていて、企業は常に人材確保に頭を悩まされています。
新卒でも中途でも、採用した従業員の戦力化までには一定の育成期間がかかるため、採用後には教育コストも発生します。
従業員エンゲージメントを高めていくことで、無駄な採用コストの削減につながることで企業の経費を抑えることができるでしょう。
エンゲージメントスコアの高い企業の従業員は、やりがいのある業務についていることに満足していて、仕事に対するモチベーションや集中力も高い状態にあります。
前向きな気持ちをもって仕事に取り組んでいるため、従業員エンゲージメントの低い職場と比べて、従業員のメンタルヘルスの不調が起こる可能性は低いといえるでしょう。
従業員エンゲージメントを高め、生き生きとした職場をつくることは、生産性の向上を実現するだけではなく、休職や離職の防止にも効果的です。
エンゲージメントスコアは、目には見えない企業と従業員との絆です。測定によって、完全に従業員の本心まで掴めないとしても、従業員の本心に近づくことが可能です。エンゲージメントスコアの測定方法として3つのサーベイをご紹介します。
エンゲージメントサーベイは、従業員のエンゲージメントを測定するために実施される調査です。
エンゲージメントサーベイの目的は、従業員が仕事に対してどの程度の興味を持っているか、どの程度の貢献意欲があるか、どの程度の忠誠心を持っているかなど、従業員のエンゲージメントに関する情報を収集することです。おもに従業員の働きがいを調査します。
エンゲージメントサーベイは、一般的に定期的に実施され、従業員のエンゲージメントの変化を把握することができます。エンゲージメントサーベイによって得られた従業員の回答を収集し分析することで、その中に改善点を見つけることができます。
企業はエンゲージメントサーベイの結果から、従業員が必要としている支援や成長機会、報酬などの要素を把握し、従業員のエンゲージメント、モチベーションや忠誠心、愛着心を高めるための改善策につなげることができます。
一般的にエンゲージメントサーベイはアンケート形式で行われます。アンケート調査は自社で設問を用意する方法と、外部の専門業者へ調査を委託する方法があります。
アンケートの設問例には、「企業理念に対してどのような印象を抱いているか」「待遇面での不満を感じていないか」などがあります。回答は「Yes/No」で答えるものや5段階評価で行うものが基本になります。設問によってはフリー記述式のほうがよりよく従業員の考えや思いを捉えることができる場合もあります。
パルスサーベイは、従業員が日々の業務に対して感じている満足度や、現場で起こっている問題を把握するための調査です。エンゲージメントスコアの減少につながる問題や従業員が感じている不満を早期に察知する必要があるため、週1回から月1回程度の頻度で行うのが効果的とされています。
従業員が仕事に対してどの程度の興味を持っているか、どの程度の貢献意欲があるか、どの程度の忠誠心を持っているかなど、従業員のエンゲージメントに関する情報を収集する調査を、 脈拍(Pulse)のように、短期間で調査を繰り返すことで、絶え間なく変化していく社員や現場の状況をいち早く知ることができます。
従業員が仕事に対してどの程度の興味を持っているか、どの程度の貢献意欲があるか、どの程度の忠誠心を持っているかなど、従業員のエンゲージメントに関する情報を収集することができます。
パルスサーベイは、エンゲージメントサーベイと比較して短期間で実施されることから、従業員のエンゲージメントの変化を把握することが難しいため、エンゲージメントサーベイと併用することが望ましいとされます。
パルスサーベイの調査方法は、5問から10問程度のアンケートを使用するのが一般的です。設問の例として「現場で業務を停滞させるトラブルは起きていないか」「自身に割り当てられた役割に不満を感じていないか」などがあります。
従業員サーベイは、従業員が職場環境や労働条件などについてどの程度満足しているかを測定するために企業が実施する調査です。
従業員サーベイは、エンゲージメントサーベイやパルスサーベイとは異なり、職場環境や福利厚生、コミュニケーションなど、従業員が職場でどのような状況にあるかを調査するものです。
従業員の意見やアイディアなどを収集してコンディションなどをチェックし、職場環境の改善点を見つけ、具体的な施策を検討するために実施されます。
従業員個人が持つ、社内の人間関係や職場環境に対する不満、あるいは問題を把握するための調査です。企業の問題を客観的視点から発見し、解決するために行われます。そのため従業員満足度だけでなく、組織改善や生産性の向上にもつながる調査です。
従業員サーベイでは、設問に対して自由に記述してもらうアンケートを実施します。設問の例としては「上司や部下との関係で悩みはないか」「労働環境に不満を感じていないか」などが考えられ、回答を通して個人的な問題点や課題を見つけることに活用します。アンケートは、無記名にすることで、従業員が自分の感情や考えを表しやすくなります。
エンゲージメントスコアを高めるにはどのような方法があるのでしょうか。ここでは、これから企業が取り組むことができる具体的な方法を4つ紹介します。
エンゲージメントスコアを高める方法のひとつには、従業員の成長をサポートする育成制度を整備することが挙げられます。
働くだれもが仕事を通して自己成長を図りたいと考えています。自分の成長が感じられない、このままでは目指すキャリアが見込めないと感じると、会社に対して愛着の気持ちを持つことが難しくなります。
従業員それぞれが成長を感じ、将来のキャリアへの展望が描けるようにスキルアップを実現できるように育成体系を整えることが大切です。
社内公募制度を創設することで希望の部門での仕事にチャレンジできる機会をつくることもひとつです。
サイバーエージェントでは、社内転職制度を設けており、各事業・部門の仕事内容を社内に発信することで、社員の希望による異動を促しており、やりたい仕事に就けることでエンゲージメントが高まる策を講じています。社員が士気高く能力が最大限発揮されやすい状況を作り出しています。
エンゲージメントスコアを高める方法には、企業理念を全社で共有することがあります。
書籍によると、JTBモチベーションが2012年に行った調査(※)では、自社の企業理念を説明できると回答した一般社員は33%であったとあります。これは従業員が何のためにその企業で仕事をしているのかを理解できていないということが表れており、日本企業のエンゲージメントのが低いことを象徴している、と言及しています。
会社の掲げる理念、ビジョンやミッションを従業員と共有することで、経営と同じ目標に向かっているという一体感を持って仕事に取り組めるようになるため、従業員のエンゲージメントは向上します。
企業理念や社長、経営の考え方が浸透していないと、従業員は自社に対して不信感を持ちやすくなり、会社との信頼関係を示すエンゲージメントは低下する恐れがあります。
会社がどのように成長していきたいのか、目指す方向性、経営理念について従業員に伝え続けて全従業員に浸透させて、全社で共有する必要があります。
■参考:JTBモチベーション2012年『「企業理念の浸透と社員のパフォーマンス」に関する調査』
部署内のコミュニケーションを円滑にし、良好な状態にしておくことは従業員エンゲージメントを高める方法として効果的です。
書籍によると、グーグルが2012年から4年の歳月をかけて行った労働改革プロジェクトから見出したのはチームが成功するための5つの鍵だとあります。その中で最も重要な鍵となるのは「心理的安全性」だと結論づけられています。不安や恥ずかしさを感じることなく、リスクある行動をとることができる職場の関係性こそが最も重要なこととしたグーグルの研究結果は大きな話題となりました。
自分の意見を言い出しにくい、質問がしにくい、または悩みを相談できる人がいないなど、職場に心理的安全性が確立していない場合は、業務へのモチベーションがなかなか上がらず、職場や会社に対して役に立ちたい、貢献したいという気持ちは生まれにくいでしょう。
円滑にコミュニケーションが取れていない会社では、休暇を申請しにくく取りづらい、コミュニケーション不足によって作業に無駄が生じて残業時間が増えるなど労働環境が改善されにくい傾向があります。これがエンゲージメントの低下にもつながります。
オープンなコミュニケーションができる職場環境を実現させるには、職場で上長が従業員へ積極的に声をかける、1on1ミーティングを行うなどして、対話を重ねることが大切です。
従業員による積極的な意見の創出や労働環境の改善が期待でき、これによって従業員が自発的に業務に取り組むことを促して、従業員のエンゲージメントを高めることが可能になります。
人事評価制度を改善することで、従業員のモチベーションを高めていくことができます。
今日のビジネス環境では、従業員のモチベーションを維持し、生産性を向上させることが重要です。そのためには人事評価の基準を明確にして、なにが評価対象となるのか、透明性の高い人事評価制度の構築が欠かせません。
また公正かつ客観的な評価を行うことで、社員は自身のパフォーマンスについて正確に理解することができます。
人事評価制度を改善して運用にあたっては、評価結果について上長からの各従業員へのフィードバックを実施します。上長は部下の自己成長に繋がるようなアドバイスを提供することができます。
人事評価のタイミング以外でも、定期的にフィードバックの場を持つことで、従業員は自分の成長を追跡し、必要に応じて修正をしながら自己を高めていくために努力することができます。「正当に評価されている」と従業員が感じ、自信をもって積極的に仕事に取り組める環境を整えることは、従業員エンゲージメントを高めるために必要な要素です。
従業員エンゲージメントを高めることで、従業員の離職防止や業績向上など大きなメリットを享受することが可能となります。
エンゲージメントを向上させるには、全従業員に会社のビジョンを伝え、目指すべき姿を全社で共有する、社内コミュニケーションを活性化させるなどの方法があります。
自社の従業員エンゲージメントを調査、結果分析することで、組織が抱えている課題を把握することができます。見えてきた課題を克服するために具体的な人事施策を講じていくことで、従業員がやりがいをもって働ける職場環境を実現しましょう。