仕組みや流れ、手順を示すのに便利な「フローチャート」。ビジネスはもちろん、さまざまなシーンで活用されているツールです。
今回は、そんなフローチャートの作り方について解説します。作成におすすめのフォーマットや、抑えておくべきポイントなどもご紹介しますので、作り方がわからずお困りの方はぜひお役立てください。早く作りたいという方は、以下のテンプレートをご活用ください。
そもそもフローチャートとは、どのようなものなのでしょうか。辞書で調べてみると、以下のように記載されています。
作業や処理の手順を図式化したもの。コンピューターのプログラムの設計では、所定の記号を用いて表す。作業工程経路図。流れ図。フローシート。
(引用元:「デジタル大辞泉」小学館)
フローチャートは、IT業界でも使われている言葉ですが、ビジネスシーンでは主に「図形や企業を用いて業務の手順や流れを記したもの」を指します。
企業では効率よく業務を行うため、分担して作業を進めています。多くの従業員、多くの部門・部署がそれぞれ役割を担っており、互いに連携をとりながら仕事をしているのです。
しかし、自分が担当していない業務については、なかなか把握できないもの。「誰がいつ何をしているのか」といった流れをすべて把握している人は、非常に少ないでしょう。
そこで活用されるのがフローチャートです。業務プロセスを可視化することで、企業・部門・部署が行っている業務の全体像を掴むことができます。誰が、いつ、何のために、どういった仕事をしているのかを知ることで、業務の効率化および生産性の向上に役立つでしょう。
また管理職社員などのような、実際に業務に携わっていない従業員も、業務についての把握が可能に。現場と共に、より効率の良い取り組み方を見つけたり、トラブルの原因を分析したりする際、同じ目線に立って話し合うことができるのです。
このようにフローチャートは、物事を分析したり、理解したりしやすくするためのツールとして活用されるもの。活用方法に決まりはなく、目的とシチュエーションによって変わります。
フローチャートにはいくつか種類があります。代表的な5つのタイプをご紹介しましょう。
ワークフローチャートは、業務の手順や流れを図式化したもの。フローチャートの中で最もオーソドックスなタイプです。
主な利用目的は、トラブル発生時の原因追及です。業務の現状を「なぜ」「誰が」「いつ」「何を」「どこで」「どのように」という観点で可視化することで、問題点や課題点の発見につながります。まだトラブルが発生していない場合でも、ミスが起きそうな仕組みや行為がないか分析することで、対策を練ることができるでしょう。
『業務工程(フロー)図作成の基礎知識と活用事例』という書籍の中で、著者の飯田修平氏(以下飯田氏)は以下のように述べています。
業務工程(フロー)を明確に記述し、標準化し、業務フロー図として見える化することにより、多職種が他部署で協働作業を行える。
引用元:「飯田修平(2016)『業務工程(フロー)図作成の基礎知識と活用事例[演習問題付き]第2版(シリーズ 医療安全確保の考え方と手法3)』一般財団法人 日本規格協会」
飯田氏が述べているように、ワークフローチャートは、業務の流れを共有するためのツールとしても活用できます。
例えば人事異動を行う際、前任者は、業務の取り組み方や業務の流れを引き継がなくてはなりません。そこでワークフローチャートを利用することで、正確に、かつ漏れなく情報を伝えることができます。
このように、ワークフローチャートは”業務の見える化”を目的として活用されるものです。
「意思決定フローチャート」は、企業の利益にかかわるような、重要な意思決定を可視化するフローチャート。
いくつかある選択肢の中で何が最良か考え、判断するために用いられるものです。また、行った意思決定が適切だったかどうか、精査するために導入される場合もあります。
同じ入社歴、同世代の従業員でも、人それぞれ価値観は違うもの。時期によって考え方が変わることもあります。そのような不安定な基準に、会社の重要事項の決断をゆだねるのはハイリスクです。
よって会社の意思決定を行う際は、根拠のある揺るがない判断材料と、論理的思考が必要です。そして、それを実現するのに効果的なのが、意思決定フローチャートです。
「なぜそのように判断すべきなのか」「その意思決定により、どのような影響があるのか」を可視化することで、リスク回避につながります。また、根拠をもとにした判断であるという証明になるため、関係者に説明する際、納得してもらいやすくなるでしょう。
プールのスイムレーンのように、細長い長方形が並んだ形をした「スイムレーン図」。業務の担当者と、実施するタイミングを記すフローチャートで、「誰が」「いつ」「何をするのか」が明確になります。
特に、複数の組織が協力して行うような業務の図式化に便利です。それぞれの業務の関連性、流れをつかむことで、コミュニケーションをスムーズにしたり、連携をとったりするのに役立つでしょう。
「文書フローチャート」は、複数の事業部門・企業にまたがり文書を送る、その一連の流れを図式化したもの。2003年出版のAlan B.Sterneckert氏の著書『Critical Incident Management』に載っているフローチャートのひとつです。
ビジネスでは、情報を伝達する手段として、さまざまな書類やメールを送り、受け取っています。取引先への請求書、店舗から本部へ送る報告書とどれも企業にとって重要な文書で、ひとつとして無駄なものはありません。文書の送り漏れや送信ミスは、何としてでも避けなくてはならないことです。
そういったトラブルの発生を防ぐためには、効率よく、かつ着実に文書を送るシステムの構築が必要。その仕組みづくりに役立つのが、文書フローチャートです。
どこからどこへ、どの文書をどのように送るのかを可視化することで、問題発生時、何が原因なのか発見しやすくなります。また、文書を送るルートを把握できるため、作業の効率化にもつながるでしょう。
「BPMN」は「Business Process Modeling and Notation」の略称。日本語では「ビジネスプロセス・モデルと表記法」と呼ばれるもので、業務フローを図式化する方法のひとつです。
BPMNは、自社オリジナルの言語や記号を使わず、非営利団体OMG(Object Management Group)が定義する共通のルール・記号を用いるのが特徴。そのため、社外でフローチャートを利用する場合でも、ルールや記号について説明する必要がなく、スムーズです。
内容が、やや他の種類と比べて複雑になりやすいといったデメリットはあるものの、原因追及や業務への理解などに対する貢献度は大きいと言われています。
ただし、フローチャート作成時に使う一般的な記号とは異なるため、作成者と閲覧者の両者に、BPMNについての知識があることが前提となります。
フローチャートの種類については、下記記事でも解説しておりますので、詳しく知りたい方はぜひこちらもご覧ください。
■参考記事はこちら
【2021年12月更新】フローチャートとは?書き方のポイント5つや作成手順などについて、わかりやすく解説!(無料テンプレート付き)
フローチャートの作成方法に決まりはありません。有料・無料、1から自分で作る方法、ある程度完成されたものをアレンジする方法など、さまざまな作り方があります。
ここでは、なかでも代表的な3つの作成方法をご紹介します。予算や作成期間など、シチュエーションに合わせて適切な手段を選びましょう。
フローチャートは、専用のツールを利用して作ることができます。すでに作られたパターンを利用し、アレンジを加えるだけで作成できるため、時間短縮と労力削減につながるでしょう。
専用ツールには、無料のものと有料のものがあり、予算に合わせて決めます。余裕がある場合は有料ツールを使うのも良いですが、最近では多機能かつ無料で利用できるものも多いので、まずはそちらで試してみるのもおすすめです。
また、クラウドタイプの専用ツールは、共同編集ができて便利。複数人でフローチャートを作成する際、データを送受信する必要がなく、いつでもどこでも閲覧・編集できます。リモートワークを導入している場合は、特に重宝するでしょう。
そのほか、マーケティングの管理に役立つツール「MAツール」との連携が可能な作成ツールなどもあります。フローチャートをどのように活用したいのか、目的に合わせて適切なツールを選びましょう。
新しいツールを導入する際は、使い方を学ぶ必要があります。人によって差はありますが、ツールの導入後、使い慣れるまでに時間がかかることもあるでしょう。
その場合は、エクセルやパワーポイントなど、ビジネスでの使用頻度が高いソフトウェアを利用する方法がおすすめです。普段の業務で使い慣れているため、誰でもスムーズに作成・編集できます。後にフローチャートを編集する際、後任者にソフトウェアの使い方を教える必要もありません。
また、自分で1から作るものなので、フォームの自由度が高いのもメリットと言えます。記号や配置などを自由に決められますし、要望があった場合の変更も可能です。
ただし、フォームやデザインなどを、すべて自分で考えなくてはなりません。フローチャートを作成した経験のある人がチームにいれば問題ないですが、未経験者は知識がない分、作成に時間がかかってしまいます。セミナーを受ける、研修を行うなど事前に学んでおく必要があるでしょう。
作成専用ツールを使わずに、ある程度完成されたフォームを利用したい場合は、テンプレートを活用する方法もあります。
ダウンロードし、文字や配置などを変更するだけで作成できるので、エクセルやパワーポイントで作るよりも手軽です。デザインの自由度はやや下がるものの、時間短縮や労力削減になります。その分、構成を練ったり分析したりすることに力を注げると考えれば、大きなメリットです。
本記事では、無料で利用できるテンプレートを配布しています。特に、流通小売業のフローチャート作成に役立つので、ぜひ利用してみてください。
それでは、フローチャートの主な作り方をご紹介します。作成方法がわからず戸惑っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
フローチャートを作成する前に、まず構造と記号について学んでおく必要があります。理解できていないと、どのように記載すれば良いかわからないですし、周囲に説明することもできないからです。
まず構造についてですが、基本的には「開始」から始まり、分岐や動作などのアクション、そして「終了」で終わります。いつ、どのような状況で行う業務なのかを表すため、必ず開始時点と終了時点が記載されます。
開始から終了までの構造には、いくつかパターンがあります。上から下へ、もしくは左から右へ、一方向に向かって流れを記す「順次構造」が最も一般的です。そのほか、間の行動がいくつかに分岐する「分岐構造」、ある条件下で特定の行動を繰り返す「反復構造」などがあります。
そして「開始」「終了」「アクション」の図式化には、「記号」が用いられます。それらの記号と記号を「線」で結ぶことで、業務プロセスの可視化が完了します。
記号は自社独自で設定することもできますが、よく用いられるのは「JIS規格」のものです。
JIS規格の記号には数多くの種類があり、開始・終了を表す楕円形の「端子」、作業や動作を表す長方形の「処理」、状況に合わせた決断を促すひし形の「判断」などが代表的です。そのほかにも数多くの記号があるので、頻繁に使うものだけでも覚えておくと良いでしょう。
フローチャートで使われる記号については、下記記事で詳細に解説しておりますので、詳しく知りたい方はぜひこちらもご覧ください。
■参考記事はこちら
フローチャートでよく使用される記号とは?意味や使い方を徹底解説!
次に、どの業務をフローチャート化するのかを決めます。
選別する際は目的を意識することが大切です。どの業務における、どのような問題を改善したいのか。どのようなトラブル・ミスの発生を防ぎたいのか。このような目的を明確にしておくことで、フローチャート化すべき業務が定まります。
また、フローチャートを作成する範囲の決定も必要です。
1つの業務を可視化するだけでは、根本となる原因が見つからない場合があります。関連するほか業務もフローチャート化してはじめて、本当に改善すべき問題点が明らかになるケースです。
とはいえ、すべての業務をフローチャート化するのは至難の業。膨大な労力・時間がかかり、通常業務に支障をきたすでしょう。よって、どこからどこまでの業務をフローチャートにするのか、範囲の目途をつけておく必要があるのです。
選択した業務が、どのタイプのフローチャートに該当するのかを判断します。
先ほどご紹介した「ワークフローチャート」「意思決定フローチャート」「スイムレーン図」「文書フローチャート」「BPMN」に合うものがあれば、それらを選択するのも良いでしょう。複数のフローチャートを作成する場合は、それぞれの業務に適した種類を選びます。
例えばワークフローチャートは、業務の効率化に便利。業務全体の流れを可視化することで、より効率の良い取り組み方の発見に役立ちます。
またスイムレーン図は、部門・部署・担当者ごとの業務の可視化に活用できます。「誰が」「いつ」「何をしているのか」がわかるため、連携力アップ、コミュニケーションの効率化に役立つでしょう。
フローチャートを、どのフォーマットで作成するのかを決めます。
専用ツールを利用する場合は、どの企業が提供するものを使うのか検討する必要があります。完成したフローチャートの見やすさはもちろん、作成時の使いやすさ、編集のしやすさも判断基準になります。ツールが、「フローチャート作成に使用するデバイスに対応しているか」といったチェックも必要です。また、有料か無料か、他機能との連携が必要かなども相談した上で決めましょう。
テンプレートを利用する場合も同様です。理想とするフローチャートに近ければ近いものほど、手を加える部分が少なくなり、よりスピーディーに作成することができます。
エクセルやパワーポイントを使って作成する場合は、配布されているテンプレートを参考にするのも良いでしょう。特に、フローチャート作成の経験がない人は、右も左もわからない状態なので、参考になるものを用意しておくのがおすすめです。
また、ツールやテンプレートを使わず自作する際は、フォントなどの細かいルールを決めておきましょう。作成・編集する人が変わるたびに見た目が変わってしまうと、統一感のないわかりにくいフローチャートに仕上がる可能性があるため、事前に定めておくことが大切です。
選択した業務や種類、フォーマットを照らし合わせ、いよいよフローチャート化していきます。
フローチャート化する際は、まず業務の洗い出しと整理を行います。書き出した作業のメモを、関連するもの同士でまとめることで、業務プロセスごとに整理できます。「誰が」「いつ」「どこで」「何を」を意識しながら分類わけしましょう。
最後に、業務プロセスごとの内容を、それぞれ図式化します。あらかじめ決めておいた種類、フォーマットと照らし合わせながら、記号と線を用いて記入しましょう。
フローチャートは、自分1人が使うメモとは違って、多くの人が閲覧するもの。誰が見てもわかりやすく、そして活用しやすいよう「見やすさ」「わかりやすさ」「実用性」を意識することが大切です。
では、主な5つのポイントについて見ていきましょう。
フローチャートを作成する上で、業務への理解度と現状の把握は非常に重要。「どのような流れで、誰が何をどうするのか」「どのような問題が起きているのか」などの情報がないと、フローチャートの内容や目的が的外れになる可能性があるからです。
とはいえ、すべてを正確に把握している人のみが、フローチャート作成に携わるとは限りません。本部社員や管理職社員など、現場以外の従業員で作成チームを構成する場合もあります。
そのようなときは、関係者へのヒアリングが欠かせません。「いつ」「誰が」「何を」「どのように」を意識し、漏れのないよう丁寧に聞き出しましょう。
詳細なヒアリングを行うことで、正確で実用性の高いフローチャートを作成することができます。反対に聞き逃しがあると、現実とは異なる、無意味なフローチャートになる恐れがあるため注意しましょう。
フローチャートを作成していると、あれこれ情報を詰め込みたくなるもの。しかし、複雑なフローチャートは読みづらく、活用しにくくなってしまうため、無駄を省く必要があります。
とはいえ、業務の目的やイレギュラー発生時の対応などのような、省略できない情報もあります。その場合は、備考欄や別紙の活用がおすすめです。フローチャートとは別の場所に記載することで、見やすさを保つことができます。
また、「プリンターが印刷する」「ソフトウェアがデータを算出する」などのような、機械が行う動作は省略可能です。人間が行う行為のみに絞りましょう。
自分だけ、作成チームのメンバーだけでなく、他の人も閲覧することを意識して作成することが大切です。
フローチャートは、業務を図式化することで分かりやすくするもの。しかし、その図自体が整っていなければ意味がありません。
例えば、記号と記号をつなぐ線が曲がっていたり、他の線と交わっていたりすると、業務の流れを読み取りにくくなってしまいます。斜め線も推奨されません。縦横の直線、もしくは直角に曲げた線を使用し、見た目を整えましょう。
また記号は、縦もしくは横の直線状に並べると図面が整います。記号の配置がバラバラだと、記号をつなぐ線も複雑になり、散らかった印象になるからです。
細かいことではありますが、「見やすさ」「わかりやすさ」に大きな違いが出るため、ぜひ意識しましょう。
情報量が多く、複雑なフローチャートは見にくいですが、大雑把すぎてもわかりにくくなります。そのため内容は、簡潔さを意識しつつ、理解しやすい言葉で表現することが重要です。
なかでも注意すべきなのが「確認する」「チェックする」という言い回し。具体的に何をするのか、何を目的として行うものなのかがわかりにくい、曖昧な表現です。
この場合は、情報を捕捉して具体性を持たせます。例えば「納品を確認する」という作業を記載する場合は、以下のような説明を加えると良いでしょう。
このように「何を」「どのように」「どうする」と補足することで、作業を明確に解説することができます。フローチャート内での情報量が多くなる場合は、備考欄に記載するなど工夫しましょう。
フローチャートは、多くの人が閲覧することを前提に作るもの。そのため、専門用語は基本的に避けるようにします。
もしも専門用語を使用する場合は、どのような意味を持つ言葉なのか定義しておく必要があります。そうすることで、他部門・他部署の従業員が閲覧しても、スムーズに内容を理解できるでしょう。
反対に、専門用語をむやみに使ってしまうと、問題の原因追及が正しくできなかったり、フローチャートを用いた話し合いで認識のズレが生じたりと、トラブルが起きる可能性があります。「きっとわかるだろう」ではなく知らないことを前提に、言葉遣いに配慮することが大切です。
フローチャートの作成は簡単ではありません。作業に手間がかかるのはもちろん、内容に悩んだり、フォーマットを選んだりと、デザインを整えたりと時間も労力も必要です。「忙しいから......」とつい後回しにしてしまう人も少なくないでしょう。
しかし、業務の流れや仕組みを書き出し、整理するという工程を踏むだけでも、問題点や原因が見えてくることがあります。「フローチャートを作る」という作業自体が、業務を見つめ直すきっかけになるのです。
そして、完成したフローチャートをもとに従業員と話し合えば、業務の効率アップと共に、チームワーク力の向上も期待できるでしょう。小規模なものからでも良いので、ぜひ作成してみてはいかがでしょうか。作り方に迷ったときは、本記事や「shouin+」のテンプレートもご活用ください。